説明

水槽を備えた縦型回転式栽培棚とキノコの栽培方法

【課題】菌床やほだ木でキノコを栽培する際に必要な、菌床やほだ木の保湿管理を、これまでは直接菌床やほだ木に散水したり噴霧したりしてきたが、この方法では生育中のキノコに直接水や水滴が着き、キノコの品質を低下させていた。
また、菌床やほだ木でキノコを栽培する場合、多段の栽培棚を利用することが多く、菌床やほだ木を均等に保湿させたりキノコを収穫するため、人手で菌床の配置を入れ替えたり、出し入れしたりしていたが、大変な労力を費やしていた。
【解決手段】キノコを栽培する菌床やほだ木を配置した棚が、回転して任意の位置まで動いてくる多段の栽培棚を利用して栽培することで、これまでの人手によった管理作業を大幅に軽減し、かつ、下部に水槽を設けて菌床やほだ木の底面から灌水することで、棚に配置した菌床に均等に保湿させることができる。
これによって、キノコに直接水や水滴が着くことが無くなり、品質の良いキノコが多く収穫することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、灌水用の水槽を備えた縦型回転栽培棚と、当該装置を用いたキノコの栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キノコの栽培装置は、特許文献1などの栽培棚が利用されてきた。
多段の栽培棚を利用して行うキノコの栽培において、菌床やほだ木の湿度保持を管理する際に、これまで噴霧機や散水によって加湿することが多く行われてきた。
前述の管理方法では成育中のキノコに直に水や水滴が着き、キノコの品質を低下させていた。
【特許文献1】特許公開2007−68416
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
キノコの栽培においてこれまでの多くは、菌床やほだ木に菌糸が蔓延する培養期を経て菌糸塊を形成し始める熟成期に、容器や袋の一部を解放し、湿度保持のため菌床やほだ木に直に散水して管理をするが、多段の棚に菌床やほだ木を並べて管理するため菌床やほだ木の保湿のむらができたり、前述の保湿むらを解消するため、人力で菌床やほだ木を入れ替える作業を行うなど、多くの手間を要していた。
【0004】
また、原基形成期、キノコの発生・生育期においては、菌床やほだ木の個々の状態を確認しながらの管理が必要で、人力で菌床やほだ木を入れ替えながら湿度保持のため直に散水したり噴霧機を使用したりしてきた。
前述の結果、キノコに直に水や水滴が着きキノコの品質を低下させていた。
【0005】
収穫後は原基形成状態の菌床やほだ木を保湿状態で休養させるため、散水などで菌床やほだ木の湿度を保持し、人力で菌床やほだ木を入れ替える手間を要してきた。
【0006】
そこで本発明は、キノコを栽培する際の菌床やほだ木の湿度保持を、キノコに直接水や水滴が着かないように栽培するための栽培装置を提供し、高品質のキノコを効率良く生産することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述の課題を解決するために、請求項1に記載の栽培棚は、棚板に網状や穴が開いた形状の板を使用し、菌床やほだ木を載せた棚が手動あるいは自動で水平な状態を保ったまま、下部に設けた水槽の水などの液体に浸けることができる構造を特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の方法は、菌床を使ってキノコを栽培する場合、熟成期間に培養期間中は密閉していた容器や袋の、キノコを発生させる上面と菌床に水分を吸引させる底面のみ開放し、請求項1に記載した水槽の液体に菌床が浸かった際に、菌床が自ら水分を吸い上げ、保湿することができることを特徴とする。
【0009】
前項に記載したキノコの栽培方法において、水分を給水させる際、菌床底面に複数個の穴を開けておくと吸水効率を高めることができ、収穫後は上面と底面を反転して棚に載せるなど、発生面と吸水面を順次入れ替えて行くとキノコの収穫量を増やすことができることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の栽培棚により、キノコ栽培における保湿管理の際に、菌床やほだ木の底面から灌水させることができるので、棚に配置した菌床を均等に保湿させることができ、発生及び育成中のキノコに直接水や水滴を着けることが無く、品質の良いキノコを栽培することができる。
野菜の栽培においても、灌水は成育中の野菜に直接散水するよりも、根の部分に水分を補給する灌水の方が品質の良い野菜を育成するのに効果がある。
【0011】
本発明の菌床やほだ木の底面から灌水させる栽培方法により、キノコの発生が菌床やほだ木の上面に多く誘導されるため、キノコの栽培管理が容易で、質の良いキノコを効率良く栽培することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の栽培棚は、立方型に成形したフレームの両側面に復数個の歯車が取付けられていて、この歯車に突起の付いたチェーンをかける、このチェーンの突起に、両側にフックが付き、かつ棚の底が網状や穴が開いた棚板を懸架し、棚が常に水平な状態を保ったまま任意の高さに現われる構造を持っている。
【0013】
前述の栽培棚に、棚板の動きを妨げず、かつ両側面のフレームの内側に収納できる水槽を設け、当該水槽に水などの液体を溜め、最下部へ移動した棚板が液体に水没するようにする。
【0014】
本発明の栽培棚の棚板にキノコの菌床やほだ木を載せ、棚を回転させると、棚が水槽の液体に水没す際に菌床やほだ木の底面が液体に浸かることになる。
【0015】
本発明の栽培棚を使用して菌床によるキノコ栽培をする場合、菌床が培養期間を経て熟成期に移行し、キノコを発生させる際に、培養期間中は密閉していた容器や袋の上面と底面のみを解放する。
【0016】
前項の状態の菌床を[0012]の栽培棚の棚に配置し、棚を[0014]の状態にすると、菌床は解放された底面から水槽に入れられた水などの液体を吸引する。
この時、菌床の底面に錐などで穴を開けておくと、より効率良く液体を吸引させることができる。
【0017】
底面と同時に解放された菌床の上面以外の側面は、容器や袋が残っているためキノコが発生しづらくなり、菌床の上面からの発生が多く誘導される。
上面から発生するキノコは、茎が直立するので見た目も美しく、高品質のキノコになる。
【0018】
キノコの育成期間中は、菌床の保湿状態を確認し、必要に応じて菌床が配置された棚を水槽に入れた水などの液体に浸け、灌水する。
【0019】
キノコの収穫後は、菌床の上面と底面を入れ替えて配置し直し、再度収穫する。
菌床が立方体の場合、6面を順次発生面として入れ替えていくことで、質の良いキノコを長期間収穫し続けることができる。
【実施例】
【0020】
図1は本発明の栽培棚の右側面図で、4のモーターが駆動すると6の歯車が回転し、3のチェーンに懸架された2の棚が回転する。
2の棚が下側の6の歯車にそって回転すると、最下部で8の水槽の中を通って10の軸の反対側へ棚が移動する。
この時、水槽に水などの液体を溜めておくと、棚が液体の中を潜って移動することになる。
【0021】
図6は模式図で、前述の棚に発生・生育期の菌床を配置した場合、11の菌床は12の液体に下部だけを浸ける状態になる。
この時、11の菌床は底面から12の液体を吸引し、菌床上部の発生面に直接液体を着けることなく、かつ、棚に配置した菌床に均等に灌水することができる。
【0022】
本発明の栽培棚を使用して菌床でキノコを栽培する際は、培養期間中は図7で示すように菌床をビニルなどの被覆材で密閉して管理する。
菌床が熟成し、発生・生育期に入った場合、図8に示すように菌床を密閉していた被覆材の底面と上面の2面のみを開放し、側面の被覆材を残して管理する。
【0023】
発生・生育中の菌床を、前項[0022]の状態で本発明の栽培棚に配置して栽培すると、側面には被覆材が残っているのでキノコが発生しづらく、開放された上面から多くキノコが発生する。
開放された底面は、水槽の液体に浸かった時に液体を吸引し、菌床を保湿させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の栽培棚の右側面図
【図2】本発明の栽培棚の正面図
【図3】本発明の栽培棚の左側面図
【図4】本発明の栽培棚の背面図
【図5】本発明の栽培棚の平面図
【図6】本発明の栽培棚下部の模式図
【図7】本発明の栽培棚を使って菌床によるキノコ栽培をする際の、培養期間中の菌床の斜視図
【図8】本発明の栽培棚を使って菌床によるキノコ栽培をする際の、熟成した菌床の被覆材の開放方法を示す斜視図
【符号の説明】
【0025】
1 フレーム
2 棚
3 チェーン
4 モーター
5 駆動用チェーン
6 歯車
7 棚を懸架するピン
8 水槽
9 スイッチ
10 軸
11 菌床
12 液体
13 植菌口
14 被覆材
15 菌床上面
16 菌床底面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方型に成形したフレームの両側面に復数個の歯車を取付け、突起の付いたチェーンをかける、このチェーンの突起に両側にフックが付き、かつ棚の底が網状や穴が開いた棚板を懸架し、棚が常に水平な状態を保ったまま任意の高さに現われる構造を持つ栽培棚に、棚板の動きを妨げず、かつ両側面のフレームの内側に収納できる水槽を設け、当該水槽に水などの液体を溜め、最下部へ移動した棚板が液体に水没するようにした構造の栽培棚。
【請求項2】
キノコの栽培において、請求項1の栽培設備を用いて、菌床やほだ木の底面から吸水させ、成育中のキノコに直に水や水滴を着けること無く優れた品質のキノコを栽培する栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−254792(P2011−254792A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144242(P2010−144242)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(505092186)株式会社造形美術 (5)
【Fターム(参考)】