説明

水浄化装置および水浄化方法

【課題】この発明は、使用し続けても光触媒を設けた表面に藻などの付着を生じることなく、長期間に渡って光触媒の分解作用を維持できる水浄化装置および水浄化方法を提供することを目的とする。
【解決手段】上述の課題を解決するため、この発明の水浄化装置1は、表面に光触媒を設けたパネル4を立てた状態で水面上に配置した水浄化手段3と、水汲み上げ手段5と、前記水汲み上げ手段5で汲み上げた水を前記パネル4に散水する散水手段8とを有し、散水手段8が散水量を調整可能なものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水浄化装置および水浄化方法に関するもので、特に、貯水池やダム、或いは貯水槽等の水の浄化又は汚染の防止に関するものである
【背景技術】
【0002】
従来貯水池やダムの水を浄化する技術としては、上水道として飲料水を供給する前に浄水場で浄化を行っている。従って、水源である貯水池やダム等ほとんどの水源においては、特に浄化の措置は行われていない。かかる浄化方法によれば、上水道により供給される水は一定の水準を保つことができるであろうが、貯水池やその下流の河川において汚染された水による生態系等への悪影響を防止することはできない。また、富栄養化が進んでアオコが発生したりするとカビ臭や毒素を発生させる場合もあり、このようアオコを発生させる藻類は水源地から除去することが望ましい。さらに、水が貯水池やダムにあるうちに浄化しておけば、その後の浄水場での処理も容易になり、トリハロメタン等を発生させる要因になる塩素の使用も減らすことができる
【0003】
城の周辺の堀や公園の池等は、都市部に多く存在しており、生活廃水等が流入することで汚濁が進みやすいが、このような場所では汚染による臭いの除去が強く求められる。しかし、城や多くの公園は文化財としての価値が高く、その価値や景観を損なわないようにしなければならないという制約があるので、そこに大規模な浄化設備を建設することは困難である。
【0004】
広大な水面において適用して水を浄化する方法として、特許文献1にて光触媒を表面に担持した筏を水に浮かべ太陽光による光照射時の光触媒反応に基づく酸化力を利用して、水に浮遊している微生物を死滅させることが提案されている。同様に、特許文献2、特許文献3にも光触媒を浮きによって水面に浮かせて、水を浄化する技術が記載されている。これらの水浄化技術は、光触媒により太陽光のエネルギーを利用して、水中の有機物を分解することにより水を浄化しようとするものである。
【特許文献1】特開平11−104629号公報
【特許文献2】特開2001−79545号公報
【特許文献3】国際公開第03/020646号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1ないし3に記載された水浄化技術は、いずれも光触媒により太陽光のエネルギーを利用して、水中の有機物を分解するものであり、光触媒が有効に働く限り有効に水の浄化を行えるものである。これらの水分解手段は、設置した直後は有効に作用するであろうし、その水域の汚れが小さくかつ十分な太陽光が作用している間は効果は持続するであろう。しかし、浄化装置を設置後、時間が経過するにつれて表面に藻などが付着し始める。富栄養化した水域では藻などの付着速度が光触媒による分解速度を上回り、次第に光触媒に光が届かなくなり、ついには完全に藻などに覆われて光触媒の分解作用が停止する。こうなると、水浄化手段を一旦回収し、表面を洗浄して付着物を除去しない限り、光触媒による水の浄化を再開することができない。しかし、このような水浄化手段の回収・洗浄・再設置は大きな労力を要するものである。
【0006】
この発明は、使用し続けても光触媒を設けた表面に藻などの付着や堆積を生じることなく、長期間に渡って光触媒の分解作用を維持できる水浄化装置および水浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、この発明の水浄化装置は、表面に光触媒を設けたパネルを立てた状態で水面上に配置した水浄化手段と、水汲み上げ手段と、前記水汲み上げ手段で汲み上げた水を前記パネルに散水する散水手段とを有し、散水手段が散水量を調整可能なものである。水浄化手段は光触媒を設けた多孔質セラミック板を放射状に配置したものとすることができる。また、散水手段はスプリンクラーであってもよく、パネルの上辺にそって多数のノズルを並べたものであってもよい。
【0008】
また、この発明の水浄化方法は、水汲み上げ手段により浄化対象の水を汲み上げ、この汲み上げた水を散水手段にて水面上に立てた状態で配置した表面に光触媒を設けたパネルに散水し、水の浄化を行う方法であって、散水量を変更しながら浄化を行うものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明の水浄化装置および水浄化方法は、散水量を調整可能な散水手段によって、水汲み上げ手段で汲み上げた水を水上に立てた状態で設けられた表面に光触媒を設けたパネルに散水することにより、光触媒による分解作用に適した量の水を適した条件で供給するので、水浄化手段の表面を覆うまでに藻の付着が進行することを防止し、光触媒による有機物の分解作用を長期間に渡って維持できるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、この発明を実施するための最良の形態について説明する。この発明の水浄化装置は、浄化を行おうとする貯水池やダム、大型の貯水槽、或いは公園の池等に設置して使用するものである。浮きによって装置全体を水面上に浮かせるように設置してもよく、底や岸に固定するように設置してもよい。
【0011】
水浄化装置は、表面に光触媒を設けたパネルを立てた状態で水面上に配置した水浄化手段を有する。このパネルはプラスチック、ステンレス、或いは鋼板等であってもよく、多孔質のセラミック板であってもよい。
【0012】
この水浄化手段の表面には光触媒が設けられている。光触媒としてセレン化カドミウム(CdSe)、硫化カドミウム(CdS)、酸化スズ(SnO2)、酸化ニオブ(Nb2O5)、そして酸化チタン(TiO2)等が可能である。これらの光触媒は特定の波長の光を受けることによりその酸化分解力で水中の汚染物質や微生物を分解する。光触媒は触媒の一種としてこの分解反応を作用させるものであり、反応により消耗されない。したがって、水浄化手段の表面からはがれるようなことがない限り、水の浄化を継続することができる。上述の光触媒のうち、水中で使用しても溶解することがないという性質から、酸化チタンが適している。酸化チタンの3種類の異性体であるアナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型のうち、アナターゼ型とブルッカイト型がより高い光触媒活性を持つ。このうち、特にアナターゼ型が工業用に利用されており入手性もよく、より適している。パネルの基材がアルミニウムやステンレスであるときは酸化チタン溶液を付着させたあと高温焼結により表面に膜を形成させればよく、パネルの基材がプラスチックであるときは塗布により中間層とその外部の酸化チタン含有層の2層コーティングを形成する。また、チタンの金属板を陽極酸化させて、表面に坂チタンの層を形成してもよい。この実施の形態においては、空隙が多く網目状の組織を有する多孔質セラミック板をパネルに用いており、この多孔質セラミック板の網目状の組織の表面に酸化チタンが設けられており、ステンレス等の平板な表面のパネルに比べ酸化チタン膜の面積は著しく大きくなっている。また、網目状の組織の内部まで水は浸透し、水中に拡散した有機物が光触媒に接触しやいので、浄化能力は高い。
【0013】
水浄化手段は、水汲み上げ手段と、この水汲み上げ手段で汲み上げた水をパネルに散水する散水手段とを有する。水汲み上げ手段としては、通常のポンプによって汲み上げるものでもよく、また、ブロワーで送水管に空気を送って二相流を発生させることによって水を汲み上げるものでもよい。散水手段としては、例えば、スプリンクラーを使用してもよく、パネルの上辺にそって多数のノズルを並べたものを使用するしてもよい。これらの散水手段によってパネルへ散布された水は、パネル表面に設けられた光触媒に接触する。このとき、水に含まれる有機物は光触媒の酸化作用によって分解される。パネルは水上に設けられているので、太陽光が直接届き、紫外線を主とする触媒作用に必要な光成分が十分にパネルに届くので、光触媒の作用が十分に発揮される。
【0014】
汲み上げ手段と散水手段は、制御手段によって制御される。散水されている間は、水がパネル上を流れ落ちるときに光触媒に接触し、水中に含まれる藻などの有機物は分解される。汲み上げ手段と散水手段を停止させているときは、パネル上に新たな水が送られないので、その間は藻などの付着が進行しない。
【0015】
ついで、上述の水浄化装置を用いて水を浄化する方法について説明する。浄化を行おうとする場所に水浄化装置1を設置する。設置する水浄化装置1の間隔は光触媒が設けられた表面の面積や水の汚れの具合、その場所の日射量等を考慮して適宜決める。光触媒を設けたパネル4は水面上に現れるように設置する。
【0016】
水汲み上げ手段を作動させて揚水し、その水を散水手段によって光触媒を設けたパネルに向けて散布する。配置されたパネルになるべく均一に、しかも散布された水の大部分がパネルに注がれるようにすることが好ましい。こうして散布された水はパネルに設けられた光触媒に接しながら流れ落ちていき、水中に含まれる有機物は光触媒の酸化作用によって分解される。
【0017】
本発明の水浄化方法では、散水量を変更しながら水の浄化を行う。水汲み上げ手段および散水手段は制御手段によって、揚水量および散水量を変更できるようになっている。したがって、光触媒へ藻などの付着が進行し始めたときには、散水量を減らすか散水を停止して、光触媒への藻などの付着の進行を停止させる。また、夜間等、日射の少ないときには散水を停止し、日中等日射量が多いときには散水を行って水の浄化を促進することもできる。
【0018】
このようにして、制御手段により散水量を適宜調整することにより、パネル上に藻などの付着が進行して光触媒を覆い尽くすことを防止し、長期間に渡って光触媒による水の浄化作用を維持させることができる。
【実施例1】
【0019】
ついで、この発明の第一の実施例について説明する。図1は水浄化手段の第一の実施例を示す正面断面図であり、図2は同平面図である。この実施例においては、あらかじめ決められた一定の間隔で水浄化装置1を浮き2にて水面上に浮上させて設置する。水浄化手段3は光触媒を設けた多数の多孔質セラミックのパネルを水面に対して立てた状態で放射状に配置したものである。本実施例においては後述するように、スプリンクラーにて散水を行うので、水がパネルに均一に散布されるようにパネルの上辺を斜めにし、放射状配置の中心部では低く、外側では高くなるようなパネルの形状にしている。
【0020】
水浄化装置1は水汲み上げ手段5を有する。本実施例においては、送水管6が設けられており、接続されているポンプ7によって底層部の水を汲み上げて、散水手段8へ供給する。このように、底層部の水を汲み上げる作用によって、底層部には酸素濃度の高い上層部の水が流入し、嫌気的な環境で起こる底層からのリン・マンガン・鉄等の水への溶出が抑制される。さらに、酸素が底層部へ流入することによって、好気性微生物も活性化する。
【0021】
本実施例においては、散水手段8はスプリンクラーとなっており、放射状に配置されたパネル4の中心の上部に回転ノズル9が設けられている。ポンプ7によって送水管6から汲み上げられた水は回転ノズル9へ供給され、回転ノズルは回転しながら水を周囲のパネルに散布する。このようにして、散布された水はパネル4を伝わって流れ落ちながら、光触媒によって浄化され、水面に落ちていく。水浄化装置1全体および送水管6はそれぞれアンカー10,11によって固定され、流されることなく設置された位置にとどまるようになっている。
【0022】
ポンプ9は制御手段12によって制御される。あらかじめ定められたスケジュールに従って散水量を変更しながら散水を行う。この散水量の変更には、散水の実施・停止の切り替えも含まれる。
【0023】
制御手段による散水手段の制御にはさまざまな形態が可能である。一定の時間間隔で散水の実施・停止を切り替えて、光触媒が分解できる能力の範囲で水を供給することによって、藻などの付着速度が光触媒による分解速度を上回ることを防止し、光触媒による分解作用を長期間に渡って維持することができる。また、日射がない夜間には散水を停止して光触媒への藻などの付着を防止するとともに、ポンプの作動に要する電力を節約し、日中に散水を行って効率的に水を浄化することができる。
【0024】
さらに、光量センサーを設けて光量を測定し、光量が所定のしきい値以上のときには散水手段を作動させて水の浄化を行い、光量がしきい値を下回る場合には散水手段を停止させる。これによって、太陽光の光量が多く光触媒による分解速度が藻の付着速度を上回ることが期待できるときには光触媒に水を注いで浄化し、藻の付着速度の方が大きいときは散水を止めて藻の付着を防止する。また、光量が所定のしきい値以上のときでも光量に応じて散水量を調整し、光量が多いときにはより多くの水を浄化し、光量が少ないときには少量の水を浄化するようにすることもできる。
【0025】
このようにして、水浄化手段3の浄化能力や設置した場所の環境等に適合した適切な条件で散水することによって、藻などの付着によって光触媒が覆われて浄化作用が停止することを防止し、長期間に渡って高い浄化能力を維持しながら、水を浄化することができる。
【実施例2】
【0026】
ついで、この発明の第二の実施例について説明する。図3は水浄化手段の第二の実施例を示す正面断面図であり、図4は同平面図である。第一の実施例と共通する事項については説明を省略する。
【0027】
この発明の実施例においては、散水手段8は、パネル4の上辺にそって散水管を設け、この散水管13で下側を向いた面に多数のノズル14を並べたものである。散水管13はパネル4の放射状の配置の中心で分岐して、パネル4の上辺にそって外側へ水を送るようになっている。この散水管13の中心部は送水管6に接続しており、ポンプ7によって底層部の水が汲み上げられ、送水管6を通して散水管13に供給されるようになっている。さらに、分岐した各散水管13a、13b、13c、…にはそれぞれ電磁弁15a、15b、15c、…が設けられており、各散水管ごとに独立して、水の供給・停止が切り替えられるようになっている。また、ポンプ7と電磁弁15は制御手段12によって制御される
【0028】
ポンプ7を作動させ、電磁弁15a、15b、15c、…を全て開くと、底層部より汲み上げられた水は各散水管13a、13b、13c、…に供給される。水は散水管13を通って外側に送られていくが、散水管13の下側の面に設けられたノズル14よりパネル4へ散布される。ノズル14は所定の間隔でパネル4の上辺に沿って多数設けられているので、パネル4の前面にほぼ均一量の水が注がれる。パネル4に注がれた水は、パネル4をつたって流れ落ちならが光触媒に接触して浄化され、水面に落ちていく。
【0029】
ポンプ7を停止すると、全ての散水管13への送水が停止する。また、ある電磁弁15aを閉じると、その電磁弁15aが設けられている散水管13aへの送水が停止する。散水管13への送水が停止することによって、パネル4への散水が停止する。こうして、処理対象の水の供給が止まると、パネル上にはわずかな水のみが残り、パネル4に付着している藻などの有機物に対して光触媒の酸化分解能力が集中し、藻類の増殖が抑えられる。
【0030】
ポンプ7と電磁弁15の制御による散水の制御は、第一の実施例と同様に行うことができる。すなわち、散水・停止を一定間隔で間欠的に行ってもよいし、日中に散水し、夜間に停止してもよい。光量センサーを設けて、光量によって散水・停止を切り替えてもよい。また、この実施例においては、電磁弁15a、15b、15c、…を独立して開閉制御できるので、たとえば、日射量が多く多量の有機物を分解できる南側のパネルにはより多くの時間散水し、北側のパネルにはそれより短い時間だけ散水してもよい。さらに、太陽の動きにあわせて、朝方は東側のパネルに多くの水を散布し、正午には南側のパネルに、夕方には西側のパネルに多くの水を散布するように制御してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、貯水池やダム、或いは貯水槽等など水の浄化を要する様々な場所において大量の水を簡易かつ効果的に浄化できる。光触媒による汚染物質の分解には太陽光を利用するものであるため省エネルギーであり環境保護に合致しており、またランニングコストも低い。散水手段を制御して散水量を変更しながら光触媒に散水するすることによって、水浄化手段の表面に藻などが付着して光触媒の作用を低下させることを防止するので、長期間に渡って効果的な水の浄化を行うことができる水浄化装置および水浄化方法として利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】水浄化手段の第一の実施例を示す正面断面図である。
【図2】同平面図である。
【図3】水浄化手段の第二の実施例を示す正面断面図である。
【図4】同平面図である。
【符号の説明】
【0033】
1.水浄化装置
2.浮き
3.水浄化手段
4.パネル
5.水汲み上げ手段
6.送水管
7.ポンプ
8.送気管
12.制御手段
13.散水管
14.ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に光触媒を設けたパネルを立てた状態で水面上に配置した水浄化手段と、水汲み上げ手段と、前記水汲み上げ手段で汲み上げた水を前記パネルに散水する散水手段とを有し、散水手段が散水量を調整可能なものである水浄化装置。
【請求項2】
水浄化手段が光触媒を設けた多孔質セラミック板を放射状に配置したものである請求項に記載の水浄化装置。
【請求項3】
前記散水手段がスプリンクラーである請求項1または請求項2に記載の水浄化装置。
【請求項4】
前記散水手段が前記パネルの上辺にそって多数のノズルを並べたものである請求項1または請求項2に記載の水浄化装置。
【請求項5】
水汲み上げ手段により浄化対象の水を汲み上げ、この汲み上げた水を散水手段にて水面上に立てた状態で配置した表面に光触媒を設けたパネルに散水し、水の浄化を行う方法であって、散水量を変更しながら浄化を行う水浄化方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−122746(P2006−122746A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−310979(P2004−310979)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(301041210)大興金属株式会社 (3)
【出願人】(502413348)
【出願人】(502413359)
【Fターム(参考)】