説明

水溶性テトラゾリウム化合物

【課題】水溶性で長波長の光吸収を呈するホルマザンを生成するとともに、水溶液中で長期間安定であり脱水素酵素または酵素基質の定量に好適な水溶性テトラゾリウム化合物を提供する。
【解決手段】下記の一般式(1)で表される水溶性テトラゾリウム化合物。式中、R〜R19は、それぞれ独立に、水素原子、ニトロ基、スルホン酸基、または炭素数1から4のアルキル基、アルコキシ基、スルホアルキル基もしくはスルホアルキルオキシ基であり、但し、R〜R19のうち少なくとも2つは、それぞれ独立に、スルホン酸基または炭素数1〜4のスルホアルキル基もしくはスルホアルキルオキシ基であり、Mはアルカリ金属またはアンモニウムである。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラゾリウム化合物に関し、特に脱水素酵素または酵素基質を定量分析するのに好適な新規の水溶性テトラゾリウム化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸脱水素酵素(以下LDHと略称する)、アルコール脱水素酵素、グルタミン酸脱水素酵素などの各種脱水素酵素の定量分析には、従来よりテトラゾリウム化合物(テトラゾリウム塩)が用いられてきた。これは、テトラゾリウム化合物は、これら各種の脱水素酵素の作用により遊離した水素を中間電子運搬体を介して受容してホルマザンとなるので、そのホルマザンの吸光度を測定することにより脱水素酵素またはそれらの酵素基質を定量することができるからである。
【0003】
特に、これらの脱水素酵素の内、LDHは全ての体細胞に分布し、特に心筋、肝臓、骨格筋、肝臓に多く、心筋梗塞、悪性腫瘍、肝疾患、進行性筋萎縮、血管内溶血、巨赤芽球性貧血などの疾患の場合には、血清LDH活性が著しく上昇することが知られている。従って血中のLDH活性を測定することにより、臨床上、診断に対する極めて有意義な知見を得ることができる。血中の尿酸や胆汁酸の測定においても、より生体成分の妨害を受けにくい脱水素酵素を用いる方法が望まれている。
【0004】
また、近年、培養細胞内および細胞から漏出した脱水素酵素活性を指標とすることで、細胞増殖能および細胞毒性度合いを測定することが可能となり、化学物質の毒性や新規治療薬の効果等を簡便に知る目的に汎用されている。
【0005】
このような目的の水素受容体としては、従来より、3,3’−[3,3’−ジメトキシ−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジイル]−ビス[2−(4−ニトロフェニル)−5−2Hテトラゾリウム塩化物](以下ニトロTBと略称する)、[3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロマイド](以下MTTと略称する)などが一般的に用いられている。
【0006】
しかしながら、ニトロTBおよびMTTが水素を受容して生じるホルマザンは水に溶解せず、使用上不便であった。特に自動分析およびマイクロプレート分析においては、生成したホルマザンがセル、チューブおよびマイクロプレートなどの計測系に付着する難点があり、これらの欠点を除去するために、水溶性のホルマザンを生成するテトラゾリウム塩を使用することが必要となっていた。特に生体試料を測定する場合、試料中に含有される生体成分の色による干渉を回避するため、長波長の吸収を持つ紫から青色のホルマザンが所望されている。
【0007】
本出願人の研究グループは、先に、これらの要求を満たす幾つかのテトラゾリウム化合物を案出している〔特許第2592436号公報(特許文献1)、特許第2819258号公報(特許文献2)、および特許第2995880号公報(特許文献3)〕。これらの特許に開示されているテトラゾリウム化合物は、脱水素酵素やその酵素基質を自動分析またはマイクロプレート分析により分析にするに際して実用に供することのできる試薬を構成するものであるが、更なる品質向上も求められている。特に、これまで提案された長波長のホルマザンを生成する水溶性テトラゾリウム化合物は、水溶液中で不安定であるため試薬として長期保存するのに難点を有していた。
【特許文献1】特許第2592436号公報
【特許文献2】特許第2819258号公報
【特許文献3】特許第2995880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、水溶性で長波長の光吸収を呈するホルマザンを生成するとともに、水溶液中で長期間安定であり脱水素酵素または酵素基質の定量に好適な水溶性テトラゾリウム化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、溶解性の良好なホルマザンを生じさせ、かつ安定性の高い化合物についてさらに研究を重ねた結果、新規の水溶性テトラゾリウム化合物の合成に成功し、この化合物が優れた水素受容体で、且つこのものから生じるホルマザンが水溶性で、安定であり、分析装置への付着や沈殿を起こさず脱水素酵素やその酵素基質の測定が可能であることを見出した。
【0010】
かくして、本発明は下記の一般式(1)で表されるテトラゾリウム化合物を提供するものである。
【0011】
【化1】

【0012】
式中、R〜R19は、それぞれ独立に、水素原子、ニトロ基、スルホン酸基、または炭素数1から4のアルキル基、アルコキシ基、スルホアルキル基もしくはスルホアルキルオキシ基であり、但し、R〜R19のうち少なくとも2つは、それぞれ独立に、スルホン酸基または炭素数1〜4のスルホアルキル基もしくはスルホアルキルオキシ基であり、Mはアルカリ金属またはアンモニウムである。
さらに、本発明に従えば、上記のテトラゾリウム化合物を用いることを特徴とする脱水素酵素または酵素基質の定量方法が提供され、本発明の脱水素酵素または酵素基質の定量方法には、培養細胞内または培養細胞から漏出した脱水素酵素活性を測定することも含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水溶性テトラゾリウム化合物を用いることにより、得られるホルマザンの水溶性がさらに向上し、測定機器への付着が無く、自動分析やマイクロプレート分析装置による脱水素酵素または酵素基質の高感度の定量測定が可能である。さらに、本発明のテトラゾリウムは水溶液中で長期間安定であり、試薬としての保存性においても優れている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のテトラゾリウム化合物の化学構造式を例示する。
【図2】本発明のテトラゾリウム化合物dの緩衝溶液中(5℃)の安定性を示すグラフである。
【図3】本発明のテトラゾリウム化合物dの緩衝溶液中(25℃)の安定性を示すグラフである。
【図4】比較のために、水溶液中で不安定な既存の水溶性テトラゾリウム化合物の緩衝溶液中の安定性を示すグラフである。
【図5】本発明のテトラゾリウム化合物aによる生成ホルマザンの吸光スペクトルを示す。
【図6】本発明のテトラゾリウム化合物bによる生成ホルマザンの吸光スペクトルを示す。
【図7】本発明のテトラゾリウム化合物cによる生成ホルマザンの吸光スペクトルを示す。
【図8】本発明のテトラゾリウム化合物dによる生成ホルマザンの吸光スペクトルを示す。
【図9】本発明のテトラゾリウム化合物eによる生成ホルマザンの吸光スペクトルを示す。
【図10】本発明のテトラゾリウム化合物fによる生成ホルマザンの吸光スペクトルを示す。
【図11】本発明のテトラゾリウム化合物gによる生成ホルマザンの吸光スペクトルを示す。
【図12】吸光スペクトル測定により得られた還元型ニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチドの検量線を示す。
【図13】細胞数と吸光度の関係を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の前記一般式(1)の化合物は、各種の反応を工夫し常法によって製造することができる。例えば、次の一般式(2)
【0016】
【化2】

【0017】
で示されるフェニルヒドラジン類にアルデヒド化合物をアルコール溶媒中で反応させて、一般式(3)
【0018】
【化3】

【0019】
で示されるヒドラゾンを得、次いで対応するジアゾニウム塩を水溶媒中塩基性条件下で反応させて一般式(4)
【0020】
【化4】

【0021】
で示されるホルマザンを得る。ここで塩基性化剤としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが用いられる。
次いで得られた一般式(4)のホルマザンを亜硝酸ブチル又は次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤を用いアルコール溶媒中で酸化し、前記一般式(1)のテトラゾリウム化合物を得ることができる。
【0022】
図1には、以上のようにして合成される本発明のテトラゾリウム化合物の具体例として後記の実施例において用いられているものの化学構造式を示しているが、本発明のテトラゾリウム化合物はこれらに限定されるものではない。図1から明らかなようにそれらの化合物は、一般式(1)においてR、R、R、R、R、R、R10、R12、R13、R14、R16、R17、R19が水素原子、Rがニトロ基、R、Rがスルホン酸基、R11、R18がメトキシ基(化合物a);R、R、R、R、R、R、R、R、R10、R12、R13、R14、R16、R17、R18、R19が水素原子、Rがニトロ基、R11、R15がスルホン酸基(化合物b);R、R、R、R、R、R、R10、R12、R13、R14、R16、R17、R18、R19が水素原子、Rがニトロ基、R、R、R15がスルホン酸基(化合物c);R、R、R、R、R、R、R、R10、R12、R13、R14、R16、R17、R18、R19が水素原子、R、Rがニトロ基、R11、R15がスルホン酸基(化合物d);R、R、R、R、R、R、R、R10、R12、R13、R14、R16、R17、R18、R19が水素原子、Rがニトロ基、R、R11、R15がスルホン酸基(化合物e);R、R、R、R、R、R、R10、R12、R13、R14、R16、R17、R19が水素原子、Rがニトロ基、R、Rがスルホアルキルオキシ基、R11、R18がメトキシ基(化合物f);R、R、R、R、R、R、R10、R12、R13、R14、R16、R17、R19が水素原子、Rがニトロ基、R、R、R11、R15がスルホン酸基(化合物g)に相当するものである。
【0023】
本発明の水溶性テトラゾリウム化合物から生じるホルマザンは、長波長領域において光吸収し且つそれぞれのテトラゾリウム化合物に特有の極大吸収波長を有している。例えば、既述の化合物a〜gから生じるホルマザンは、それぞれ、表1に示す極大吸収波長を有する。そして、本発明の水溶性テトラゾリウム化合物は水溶液中できわめて安定であり、経時的に分解することはない。
【0024】
【表1】

【0025】
以下に本発明の特徴をさらに明らかにするため実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
実施例1は、本発明の水溶性テトラゾリウム化合物の合成例を示すものである。実施例2は、本発明の水溶性テトラゾリウム化合物が安定であり経時的な分解を生じないことを示すものである。実施例3は、脱水素酵素反応のモデルとして1−メトキシPMS/NADH系において、本発明の水溶性テトラゾリウムから生成するホルマザンの吸光度がNADNの濃度に相関し、本発明の水溶性テトラゾリウム化合物が脱水素酵素またはその酵素基質の定量分析に利用できることを示すものである。実施例4は、本発明のテトラゾリウム化合物に由来するホルマザンの吸光度が1−メトキシPMS/培養細胞系における細胞数に相関しており、本発明の水溶性テトラゾリウム化合物が実際の培養細胞中での脱水素酵素や酵素基質の定量に用いることができることを示すものである。
【実施例1】
【0026】
(化合物aの合成)
p−ニトロフェニルヒドラジン10g(65.3mmol)及び4−フォルミル−1,3−ベンゼン−ジスルホン酸2ナトリウム塩一水和物20.26g(65.3mmol)をメタノール300mlに懸濁させ、2時間加熱還流した。次いで反応懸濁液を冷却後、反応懸濁液の沈殿物を濾取してヒドラゾン化合物25.3gを収率86.9%で得た。
得られたヒドラゾン化合物7.61g(17.1mmol)をテトラヒドロフラン200mlと水200mlの混合溶媒に溶解し、3℃に冷却した。そのヒドラゾン水溶液に2,5−ジメトキシ−4−(4−ニトロフェニルアゾ)ベンゼンジアゾニウム塩1/2塩化亜鉛を加えた。この反応溶液を0〜3℃に保持しながら、水酸化ナトリウム2.08gを水40mlに溶解した水溶液を滴下し、滴下終了後6時間撹拌した。反応混合液に塩酸を加え、弱酸性にした。次いで溶媒のテトラヒドロフランと水を減圧留去した。得られた粗成生物は水/アルコールによる再沈殿法により精製し、ホルマザン1.5gを収率11%で得た。
次いで得られたホルマザン0.46g(0.61mmol)をメタノール20mlに溶解した。そのホルマザン溶液に塩酸0.5ml(4.9mmol)を加えた後、亜硝酸ブチル1g(9.1mmol)を添加し、室温で1時間撹拌した。次いで溶媒のメタノールを減圧留去した後、粗成生物は水/アルコールによる再沈殿法により精製し、前記一般式(1)のテトラゾリウム化合物である化合物aを30mg、収率6.7%で得た。
プロトン核磁気共鳴分光法(以下H−NMRと略称する)(重水、300MHz)δ3.64(3H,s,−OCH)、4.18(3H,s,−OCH)、7.89−8.05(4H,m,aromatic CH)、8.17−8.27(4H,m,aromatic CH)、8.27−8.37(2H,m,aromatic CH)、8.58−8.68(3H,m,aromatic CH)。
赤外分光法(以下IRと略称する)(臭化カリウム錠剤法、以下KBrと略称する)3460、3100、1610、1525、1500、1345、1230、1118cm−1
質量分析法(質量スペクトル、以下MSと略称する)m/e=735(M+1)。
【0027】
(化合物bの合成)
上記化合物aと同様な方法で合成し、同定した。
H−NMR(重メタノール、300MHz)δ7.63−7.78(3H,m,aromatic CH)、8.01−8.08(4H,s,aromatic CH)、8.18−8.28(4H,m,aromatic CH)、8.32−8.38(2H,d,aromatic CH)、8.44−8.54(3H,m,aromatic CH)。
IR(KBr)3450、3100、1620、1520、1455、1350、1220、1030、850cm−1
MS m/e=630(M+1)。
【0028】
(化合物cの合成)
上記化合物aと同様な方法で合成した。
H−NMR(重メタノール、300MHz)δ7.98−8.12(5H,m,aromatic CH)、8.14−8.21(1H,m,aromatic CH)、8.23−8.37(3H,m,aromatic CH)、8.41−8.57(4H,m,aromatic CH)、8.71−8.75(1H,d,aromatic CH)。
IR(KBr)3480、3100、1638、1540、1355、1230、1140、855、610cm−1
MS m/e=834(M+1)。
【0029】
(化合物dの合成)
p−ニトロフェニルヒドラジン14g(91.4mmol)及びp−ニトロベンズアルデヒド13.8g(91.4mmol)をメタノール400mlに懸濁させ、2時間加熱還流した。次いで反応懸濁液を冷却後、反応懸濁液の沈殿物を濾取してヒドラゾン化合物23.6gを収率90.1%で得た。
4−アミノ−1,1’−アゾベンゼン−3,4−ジスルフォン酸ナトリウム塩31.2gを水200mlに懸濁し、5℃以下に冷却した。その懸濁液に濃塩酸25.7mlを、次いで水50mlに溶解した亜硝酸ナトリウム5.67gを加えた後、0〜5℃で1時間撹拌し、ジアゾニウム化合物水溶液を得た。
ヒドラゾン化合物7.61g(17.1mmol)をテトラヒドロフラン300mlと水50mlの混合溶媒に溶解し、3℃に冷却した。そのヒドラゾン水溶液に合成したジアゾニウム化合物水溶液を加えた。この反応溶液を0〜3℃に保持しながら、水160mlに溶解した水酸化ナトリウム13.2gを滴下し、滴下終了後3時間撹拌した。反応混合液に塩酸を加え、弱酸性にした。次いで溶媒のテトラヒドロフランと水を減圧留去した。濃縮物をジメチルフォルムアミドとエーテルで再沈殿精製し、ジアゾニウム塩52gを収率90.6%で得た。
次いで得られたホルマザン3g(4.3mmol)をメタノール200mlとジメチルフォルムアミド50mlの混合溶液に溶解した。そのホルマザン溶液に塩酸9ml(0.11mol)を加えた後、次亜塩素酸ナトリウム水溶液20mlを添加し室温で1時間撹拌した。反応後、その反応溶液の溶媒であるメタノールとジメチルフォルムアミドを減圧留去した後、粗成生物は水/アルコールによる再沈殿法により精製し、前記一般式(1)のテトラゾリウム化合物である化合物dを0.8g、収率27.6%で得た。
H−NMR(重水、300MHz)δ8.12−8.19(3H,m,aromatic CH)、8.20−8.23(1H,d,aromatic CH)、8.23−8.26(1H,d,aromatic CH)、8.27(1H,s,aromatic CH)、8.35−8.40(2H,m,aromatic CH)、8.60−8.68(5H,m,aromatic CH)、8.71(1H,d,aromatic CH)、8.74(1H,s,aromatic CH)。
IR(KBr)3500、3110、1630、1550、1475、1365、1240、1050、870cm−1
MS m/e=675(M+1)。
【0030】
(化合物eの合成)
上記化合物a、dと同様な方法で合成した。
H−NMR(重水、300MHz)δ7.83−7.97(2H,m,aromatic CH)、7.97−8.09(5H,m,aromatic CH)、8.09−8.18(1H,m,aromatic CH)、8.20−8.26(1H,m,aromatic CH)、8.27−8.33(1H,m,aromatic CH)、8.33−8.41(1H,m,aromatic CH)、8.43−8.53(1H,m,aromatic CH)。
IR(KBr)3450、3080、1630、1530、1410、1340、1220、1030、850、745、610、560cm−1
MS m/e=731(M+1)。
【0031】
(化合物fの合成)
上記化合物a、dと同様な方法で合成した。
H−NMR(重水、300MHz)δ2.22−2.48(4H,m,−CH−)、3.10−3.28(2H,m,−CH−)、3.66(3H,s,−OCH)、4.13(3H,s,−OCH)、4.21−4.30(2H,m,−CH−)、6.66−6.68(1H,m,aromatic CH)、6.89−6.93(1H,m,aromatic CH)、7.41(1H,s,aromatic CH)、7.70−7.75(1H,m,aromatic CH)、7.91(1H,s,aromatic CH)、8.12−8.22(4H,m,aromatic CH)、8.42−8.48(2H,m,aromatic CH)、8.52−8.58(2H,m,aromatic CH)。
IR(KBr)3475、2950、1620、1510、1350、1210、1050、860、610cm−1
MS m/e=851(M+1)。
【0032】
(化合物gの合成)
上記化合物a、dと同様な方法で合成した。
H−NMR(重水、300MHz)δ7.53−7.63(1H,m,aromatic CH)、7.96−8.01(1H,m,aromatic CH)、8.09−8.26(6H,m,aromatic CH)、8.28−8.42(3H,m,aromatic CH)、8.52−8.64(3H,m,aromatic CH)。
IR(KBr)3450、3100、1600、1530、1350、1230、1200、1040、850、610、550cm−1
MS m/e=705(M+1)。
【実施例2】
【0033】
化合物a,b,c,d,e,f,gを1mM濃度になるよう、50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4、pH8.0、pH9.0)で調製した。溶液は4℃または25℃で保存し、各化合物について、既述の表1に示すホルマザンの極大吸収波長における吸光度を測定した。図2および図3に化合物dの測定結果を示す。他の化合物についても同様の結果が得られ、全ての化合物において30日間吸光度の変化は見られず、本発明の化合物は水溶液中でホルマザンに分解することがなく安定であることが確認された。
なお、図4には比較のために特許第2995880号公報(特許文献3)に開示している水溶性テトラゾリウム化合物の緩衝液中の吸光度変化を示しており、経時的な安定性において幾分難点があることが理解される。
【実施例3】
【0034】
1mMの化合物a、b、c、d、eまたはfと、5μMの1−メトキシ−5−メチルフェナジウムメチルスルフェート(以下1−メトキシPMSと略称する)を含有する50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)5mlに、5mMの還元型ニコチン酸アミドアデニンジヌクレオチド(以下NADHと略称する)をそれぞれ0、10、20、30、40及び50μl加え(それぞれのNADH最終濃度は、0、10、20、30、40及び50μmol/lである。)、5分間室温で反応させた後、吸光度を測定した。得られた吸収スペクトルを化合物ごとに図5(化合物a)、図6(化合物b)、図7(化合物c)、図8(化合物d)、図9(化合物e)、図10(化合物f)、図11(化合物g)に示す。NADH濃度変化に伴い、化合物aでは527nm、化合物bでは493nm、化合物cでは472nm、化合物dでは530nm、化合物eでは474nm、化合物fでは530nm、化合物gでは473nmの吸光度が上昇し、ホルマザンの生成が確認された。またホルマザンの測定セルへの吸着も認められなかった。
また、図12に示されるようにNADHと吸光度との間には良好な直線性の検量線が得られ、本発明の化合物が脱水素酵素反応の定量分析に使用できることが確認された。
【実施例4】
【0035】
化合物dおよび1−メトキシPMSを150mM食塩水に各々5mMおよび0.2mM溶解し、試薬溶液を調製した。ヒト子宮頚癌細胞を96穴マイクロプレートに25000細胞/ウェルから倍希釈法により100ulずつ播種し、細胞培養用インキュベーター中、37℃、3時間インキュベーションした。試薬溶液10ulずつ各ウエルに添加し、インキュベーター中、37℃、1.5時間インキュベーション後、マイクロプレートリーダーで530nmの吸光度を測定した。マイクロプレートへのホルマザンの吸着は観測されず、細胞数(酵素または基質の濃度に対応する)と吸光度との間には良好な検量線が得られた(図13)。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、長期間使用できる安定な試薬を用いる高感度の臨床検査法として、LDHをはじめとする生体中の各種の脱水素酵素を定量分析することにより疾病の診断や治療にきわめて有意義な知見を得るのに利用され、さらに、培養細胞内または培養細胞から漏出する脱水素酵素を測定することにより、新しい化学物質や薬剤の開発に際してそれらの毒性や効能等を知る手段としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表されることを特徴とする水溶性テトラゾリウム化合物。
【化1】

(式中、R〜R19は、それぞれ独立に、水素原子、ニトロ基、スルホン酸基、または炭素数1から4のアルキル基、アルコキシ基、スルホアルキル基もしくはスルホアルキルオキシ基であり、但し、R〜R19のうち少なくとも2つは、それぞれ独立に、スルホン酸基または炭素数1〜4のスルホアルキル基もしくはスルホアルキルオキシ基であり、Mはアルカリ金属またはアンモニウムである。)
【請求項2】
請求項1のテトラゾリウム化合物を用いることを特徴とする脱水素酵素または酵素基質の定量方法。
【請求項3】
培養細胞内の脱水素酵素活性を測定することを特徴とする請求項2の方法。
【請求項4】
培養細胞から漏出した脱水酵素活性を測定することを特徴とする請求項2の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【国際公開番号】WO2005/023786
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【発行日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513603(P2005−513603)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009953
【国際出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(590005081)株式会社同仁化学研究所 (9)
【Fターム(参考)】