説明

水溶性フラックス、導電性ペーストおよび接合部品

【課題】はんだの濡れ性および広がり性に優れた水溶性フラックスを提供すること。
【解決手段】下記(A)成分および(B)成分を含有する水溶性フラックス。(A)成分:(a1)重合性不飽和二重結合を有するカルボン酸無水物に由来する構造単位、および(a2)前記構造単位(a1)を加水分解することによって得られる構造単位から選択される少なくとも1種の構造単位を有し、かつ(a3)アルキルビニルエーテル由来の構造単位を有する重合体。(B)成分:活性剤として、塩化水素酸のアミン塩、臭化水素酸のアミン塩、カルボン酸、カルボン酸のアンモニウム塩、カルボン酸のアミン塩および多価フェノール類から選択される少なくとも1種。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板と電子部品とを接合する際に好適に用いられる水溶性フラックス、該水溶性フラックスを含有する導電性ペースト、および該導電性ペーストを用いた接合部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品をはんだ接合などで基板に実装する際には、フラックスが使用されている。フラックスは、基板上の酸化膜を除去して界面張力を低下させ、はんだを濡れ広がらせるという特性(即ち、はんだの濡れ性および広がり性)を有していなければならない。そこで、ロジンを主成分とするフラックスを用いることが多い。
【0003】
ところで、フラックスを含有する導電性ペーストを用いて、電子部品をはんだ接合などで基板に実装した後にフラックスが残ると、そのフラックス残渣が有する腐食作用により、基板や電子部品が徐々に腐食することがある。
【0004】
したがって、フラックスを使用して基板の微細な部分に対してはんだ付けを行う場合には、はんだ接合後に溶剤による洗浄を行い、はんだ接合部分の信頼性および外観を確保する必要がある。ところが、ロジンを主成分とするフラックスを使用した場合、有機溶剤による洗浄が必要となるため、衛生面や環境面の観点から問題となることが多い。
【0005】
そこで、有機溶剤に代わって水による洗浄が可能なフラックスが検討されている。例えば特許文献1には、粘着性の非毒性水溶性ポリマー、有機活性化剤および水を含む水溶性はんだ付けフラックスが開示されている。また特許文献2には、有機酸と多価アルコールとのエステルを主成分とする、成形はんだを用いるリフローはんだ付け用水溶性フラックスが開示されている。
【0006】
しかしながら、従来の水溶性フラックスでは、フラックスの基本的機能として要求される、はんだを濡れ広がらせるという特性が充分ではないため、更なる改善が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−318175号公報
【特許文献2】特開2000−42786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の従来技術に伴う課題を解決するものである。すなわち本発明は、基板上の酸化膜を除去して界面張力を低下させ、はんだを濡れ広がらせるという特性に優れた水溶性フラックスを提供することを課題とする。また本発明は、前記水溶性フラックスを含有する導電性ペースト、および該導電性ペーストを用いた接合部品を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、特定の構造単位を有する重合体と活性剤とを含有するフラックスを用いることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明およびその好適態様は、以下の[1]〜[4]に関する。
【0011】
[1]下記(A)成分および(B)成分を含有する水溶性フラックス。
(A)成分:(a1)重合性不飽和二重結合を有するカルボン酸無水物に由来する構造単位、および(a2)前記構造単位(a1)を加水分解することによって得られる構造単位から選択される少なくとも1種の構造単位を有し、かつ(a3)アルキルビニルエーテル由来の構造単位を有する重合体。
(B)成分:活性剤として、塩化水素酸のアミン塩、臭化水素酸のアミン塩、カルボン酸、カルボン酸のアンモニウム塩、カルボン酸のアミン塩および多価フェノール類から選択される少なくとも1種。
【0012】
[2]さらに(C)成分:有機溶剤を含有する前記[1]に記載の水溶性フラックス。
【0013】
[3]前記[1]〜[2]の何れか一項に記載の水溶性フラックスと、導電性粒子とを含有する導電性ペースト。
【0014】
[4]構成部材と他の構成部材とが、前記[3]に記載の導電性ペーストを用いて接合してなる接合部品。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基板上の酸化膜を除去して界面張力を低下させ、はんだを濡れ広がらせるという特性に優れた水溶性フラックス、該水溶性フラックスを含有する導電性ペースト、および該導電性ペーストを用いた接合部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、はんだの広がり率の定義を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0018】
〔水溶性フラックス〕
本発明の水溶性フラックス(以下、単に「フラックス」ともいう)は、(A)成分として以下に説明する重合体(以下「重合体(A)」ともいう。)と、(B)成分として活性剤(以下「活性剤(B)」ともいう。)とを含有する。また、本発明の目的が達成される限り、本発明のフラックスは、前記成分に加えて、有機溶剤(C)や、他の成分(以下「添加剤」ともいう。)を含有してもよい。
【0019】
本発明のフラックスは、還元性を有するため、基板上に形成された酸化膜を除去することができる。このため、前記フラックスを用いることにより、所謂はんだの濡れ性および広がり性が向上する。また本発明のフラックスは、接着性を有するため、フラックスのみによって構成部材同士を固定することができる。また本発明のフラックスは、水洗浄性に優れているので、環境汚染の問題などが少ない。
【0020】
《重合体(A)》
重合体(A)は、(a1)重合性不飽和二重結合を有するカルボン酸無水物に由来する構造単位(以下「構造単位(a1)」ともいう。)、および(a2)構造単位(a1)を加水分解することによって得られる構造単位(以下「構造単位(a2)」ともいう。)から選択される少なくとも1種の構造単位を有する重合体である。前記構造単位を有する重合体(A)を用いることにより、フラックスのはんだの濡れ性が良好なものとなる。
【0021】
重合体(A)は、はんだの濡れ性や重合体の安定性の観点から、上記構造単位に加えて、さらに(a3)アルキルビニルエーテル由来の構造単位(以下「構造単位(a3)」ともいう。)を有する重合体である。
【0022】
上記構造単位を有する重合体(A)を用いることで、フラックスとはんだボールとの接着性が良好になり、また、フラックスと銅板などの基板との相互作用も良好に働く。このように本発明のフラックスは、水洗浄性に優れるとともに、はんだ付けの状態やはんだを濡れ広がらせるという特性に優れることから、これを用いることにより、信頼性に優れたはんだ電極(ひいては信頼性に優れた接合部品)を形成することができる。
【0023】
構造単位(a1)における重合性不飽和二重結合を有するカルボン酸無水物としては、無水マレイン酸、無水フマル酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。
【0024】
構造単位(a2)は、構造単位(a1)を加水分解することによって得られる構造単位である。このような構造単位としては、重合性不飽和二重結合を有しかつ酸無水物を形成可能なジカルボン酸に由来する構造単位が挙げられる。前記ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸などが挙げられる。
【0025】
構造単位(a3)におけるアルキルビニルエーテルとしては、R−O−CH=CH2
表される化合物(式中、Rは炭素数1〜5、好ましくは1〜2のアルキル基である。)が挙げられる。具体的には、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、n−ペンチルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0026】
重合体(A)は、上記構造単位のほか、本発明の目的を損なわない範囲で他の構造単位を有してもよい。例えば、デカジエン、ブタジエン、ペンタジエン、ジビニルベンゼン、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート由来の構造単位などが挙げられる。このように重合体(A)は、デカジエンなどの重合性二重結合を2つ以上有する単量体により架橋された、架橋重合体であってもよい。
【0027】
重合体(A)において、構造単位(a1)および構造単位(a2)から選択される少なくとも1種の構造単位は合計で、通常は40%以上100%未満、好ましくは50%以上100%未満の範囲で含まれる。また、構造単位(a3)は、通常は0%を超えて60%以下、好ましくは0%を超えて50%以下の範囲で含まれる。但し、重合体(A)を構成する全構造単位を100%とし、モル%基準である。
【0028】
構造単位(a1)および構造単位(a2)から選択される少なくとも1種の構造単位の含有量の合計が上記範囲にあると、はんだの濡れ性や水洗浄性に優れる点で好ましい。また、構造単位(a3)の含有量が上記範囲にあると、良好なはんだ付け状態が得られる点で好ましい。
【0029】
重合体(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、通常は1万〜30万、好ましくは5万〜25万である。
【0030】
重合体(A)は水溶性であることが好ましい。「水溶性」とは、1気圧かつ23℃の条件下で、1gの重合体を溶かすのに要する水の量が1mL未満であることをいう。
【0031】
本発明のフラックスにおいて、重合体(A)の含有量は、フラックス全体を100質量%とした場合、通常は0質量%を超えて60質量%以下、好ましくは5〜40質量%、よ
り好ましくは5〜15質量%である。前記重合体(A)の含有量を前記範囲に設定すると、水洗浄性、はんだの濡れ性および広がり性に優れるフラックスを得ることができる。
【0032】
重合体(A)は、上記構造単位を導く単量体を用い、従来公知の方法に従って製造することができる。例えば、上記カルボン酸無水物、上記ジカルボン酸、上記アルキルビニルエーテルなどの単量体の仕込み比率を、重合体(A)の各構造単位の含有割合が上記範囲となるような量に設定すればよい。なお、構造単位(a2)を有する重合体は、構造単位(a1)を有する重合体を加水分解して得られるものであっても、上記ジカルボン酸を重合して得られるものであってもよい。
【0033】
《活性剤(B)》
活性剤(B)は、フラックス作用を有する化合物、即ち還元性を有する化合物である。
【0034】
活性剤(B)としては、塩化水素酸のアミン塩、臭化水素酸のアミン塩、カルボン酸、カルボン酸のアンモニウム塩、カルボン酸のアミン塩および多価フェノール類から選択される少なくとも1種が用いられる。
【0035】
アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミンなどの第1級アミン類;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミンなどの第2級アミン類;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリイソプロピルアミンなどの第3級アミン類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン類;などが挙げられる。
【0036】
塩化水素酸または臭化水素酸のアミン塩としては、塩化水素酸または臭化水素酸と上記例示のアミンとの塩が挙げられる。
【0037】
カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘニン酸などの飽和脂肪族カルボン酸;オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの不飽和脂肪族カルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ジエチルグルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、アゼライン酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;マレイン酸、フマル酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸;安息香酸などの芳香族酸;ヒドロキシピバリン酸、ジメチロールプロピオン酸、クエン酸、リンゴ酸、グリセリン酸、乳酸などのヒドロキシ酸;ジグリコール酸;などが挙げられる。
【0038】
カルボン酸のアンモニウム塩としては、ギ酸アンモニウムなどの上記例示のカルボン酸とアンモニアとの塩が挙げられ、カルボン酸のアミン塩としては、上記例示のカルボン酸と上記例示のアミンとの塩が挙げられる。
【0039】
多価フェノール類としては、2,3−ジヒドロキシナフタレン、レゾルシノール、カテコールなどが挙げられる。
【0040】
活性剤(B)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
本発明のフラックスにおいて、活性剤(B)の含有量は、重合体(A)100質量部に対して、好ましくは10〜2000質量部、より好ましくは50〜1700質量部、更に好ましくは100〜1500質量部である。活性剤(B)の含有量を前記範囲に設定することにより、はんだの濡れ性や広がり性により優れたフラックスとすることができる。
【0042】
《有機溶剤(C)》
本発明において、フラックスの粘度を調整するため、有機溶剤(C)を用いることが好ましい。有機溶剤(C)としては、アルコール類、エステル類、エーテル類、炭化水素類、ケトン類、アミド類などが挙げられる。
【0043】
アルコール類およびエーテル類としては、イソプロパノール、ブタノールなどの1価アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールなどの2価アルコール類;グリセリンなどの3価アルコール類;
エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテルなどの(ジ)エチレングリコールエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどのプロピレングリコールモノアルキルエーテル類;プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテルなどのプロピレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ類;ブチルカルビトールなどのカルビトール類;などが挙げられる。
【0044】
エステル類としては、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n−プロピル、乳酸イソプロピルなどの乳酸エステル類;酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、酢酸イソアミル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸n−ブチル、プロピオン酸イソブチルなどの脂肪族カルボン酸エステル類;γ−ブチロラクトンなどのラクトン類;3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチルなどの他のエステル類;などが挙げられる。
【0045】
炭化水素類としては、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられ;ケトン類としては、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、シクロヘキサノンなどが挙げられ;アミド類としては、N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。
【0046】
有機溶剤(C)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
本発明のフラックスにおいて有機溶剤(C)を使用する場合、その含有量は、フラックスの好ましい粘度によって適宜選択可能であるが、重合体(A)100質量部に対して、通常は300〜10000質量部である。有機溶剤(C)の含有量を前記範囲に設定することにより、フラックスの粘度をより容易に調整できる。即ち、フラックスの塗布方法に応じて粘度を選択でき、その粘度は前記範囲の有機溶剤の使用量により調整できる。例えば、粘度を調整することにより、電極を有する基板にフラックスを塗布する際に、該電極上にフラックスを適量堆積させることができる。
【0048】
《添加剤》
本発明のフラックスは、水溶性フラックスの機能を損なわない範囲で、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、チクソトロピー性付与剤などが挙げられる。
【0049】
チクソトロピー性付与剤としては、カスターワックス(硬化ひまし油)などのポリオレフィン系ワックス;m−キシリレンビスステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド;N−ブチル−N'−ステアリル尿素などの置換尿素ワックス;ポリエチレングリコール、ポリエ
チレンオキサイド、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどの高分子化合物;シリカ粒子、カオリン粒子などの無機粒子;などが挙げられる。
【0050】
チクソトロピー性付与剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
本発明のフラックスにおいてチクソトロピー性付与剤を使用する場合、その含有量は、重合体(A)100質量部に対して、好ましくは0.1〜30質量部、より好ましくは0.1〜20質量部、更に好ましくは0.1〜10質量部である。チクソトロピー性付与剤の含有量を前記範囲に設定することにより、構成部材同士の接着力をより容易に調整できる。
【0052】
《フラックスの状態》
本発明のフラックスの状態は特に限定されず、固体であってもよく、液体(ペーストを含む。以下同じ。)であってもよい。固体とは、1気圧かつ23℃の雰囲気下で外力の負荷の有無に係わらず流動しない状態を意味する。液体とは、1気圧かつ23℃の雰囲気下で外力を加えることなく流動する状態を意味する。
【0053】
本発明のフラックスは、上記状態の何れであってもよく、使用状況に応じて適宜選択できる。例えば、固体状のフラックスは、細片化して目的とする部位に載置して用いることができる。また、液体状のフラックスは、スクリーン印刷などにより目的とする部位に付着させることができ、また、塗布により目的とする部位に付着させることもできる。
【0054】
特に、本発明のフラックスは液体として用いることが好ましい。液体状のフラックスの場合、その1気圧かつ23℃における粘度は、好ましくは0.1〜1000Pa・s、より好ましくは1〜100Pa・s、更に好ましくは10〜100Pa・sである。粘度が前記範囲にあるフラックスを用いると、基板上にフラックスを塗布した際に、フラックスの塗布状態を適宜調整することができる〔例えば、フラックスが基板上に堆積した(盛り上がった)状態とすることができる〕。フラックスの粘度は、重合体(A)および有機溶剤(C)の種類および含有量により調整することができる。
【0055】
〔導電性ペースト〕
本発明の導電性ペーストは、上記フラックスと導電性粒子とを含有する。
【0056】
本発明の導電性ペーストを用いて構成部材と他の構成部材とを接合する場合には、接合後に水洗浄などにより容易にフラックスを残渣無く除去することができ、また、過度の熱ストレスを軽減することができる。フラックス残渣は、接合部品におけるリークなどの不具合をもたらすことがある。また、接合部品への過度の熱ストレスは、基板に接合された導電性粒子の過剰な溶融や、熱膨張により接合部分にクラックを生じさせる恐れがある。導電性粒子の過剰な溶融やクラックは、ショート不良、基板と電子部品との接合強度の低下などの不具合を発生させる恐れがある。本発明ではこのような問題が起こらないため、信頼性の高い接合部品を得ることができる。
【0057】
また本発明の導電性ペーストは、接着性を有するため、導電性ペーストのみによって構成部材同士を固定することができる。このため、リフロー以前およびリフロー中において
、基板上に正確に載置した電子部品を保持することができる。
【0058】
本発明の導電性ペーストにおいて、上記フラックスの含有量は、導電性ペースト全体を100質量%とした場合、通常は10〜80質量%、好ましくは10〜60質量%、より好ましくは10〜50質量%である。上記フラックスの含有量を前記範囲に設定すると、基板上での濡れ性および広がり性により優れる導電性ペーストを得ることができる。
【0059】
導電性粒子としては、金属同士の接合化、または電子回路などにおいて構成部材(例:基板)と他の構成部材(例:電子部品)との固定化に使われる導電性金属粒子であれば特に限定されず、金、銀、銅、アルミニウムおよびこれら金属を含む合金などからなる金属粉や、公知のはんだ粉、はんだボールなどを使用することができる。これらの中でも、低温での金属同士の接合に用いる場合は、はんだ粉やはんだボールが好ましい。
【0060】
はんだ粉およびはんだボールとしては、Sn−Pb系合金、Sn−Pb−Ag系合金、Sn−Pb−Bi系合金、Sn−Pb−In系合金、Sn−Pb−Sb系合金;無鉛系のSn−Sb系合金、Sn−Bi系合金、Sn−Ag系合金、Sn−Zn系合金(Ag、Cu、Bi、In、Ni、Pなどが添加されていてもよい)などが挙げられる。これらのはんだ粉やはんだボールは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
導電性粒子の形状は、球形および不定形の何れでもよい。また、導電性粒子の粒径は特に限定されず、球形の微粒子の場合、その直径は5〜200μmが好ましく、5〜100μmがより好ましく、5〜50μmが更に好ましく、球形のボールの場合、0.01mm〜10mmが好ましい。
【0062】
本発明の導電性ペーストにおいて、導電性粒子の含有量は、導電性ペースト全体を100質量%とした場合、通常は30〜80質量%、好ましくは40〜80質量%、より好ましくは50〜80質量%である。導電性粒子の含有量を前記範囲に設定すると、基板上での濡れ性および広がり性により優れる導電性ペーストを得ることができる。
【0063】
また、本発明の導電性ペーストにおいて、本発明の目的が達成される限り、上記フラックスおよび導電性粒子に加えて、その他の添加剤を含有させることができる。
【0064】
本発明の導電性ペーストの製造方法としては、上記フラックスおよび導電性粒子ならびに必要に応じて添加される添加剤を、常法により混練する方法が挙げられる。混練の際に使用される機械としては、真空撹拌装置、混練装置、プラネタリーミキサーなどが挙げられる。混練時の条件などは特に限定されないが、通常は5〜25℃で混練することが好ましい。
【0065】
〔接合部品〕
本発明の接合部品は、構成部材と他の構成部材とが、上記導電性ペーストを用いて接合されてなる。つまり、本発明の接合部品は、構成部材同士が上記導電性ペーストに由来する導電性粒子を介して接合されている。本発明の接合部品は、フラックス残渣無く、また少ないリフロー回数で製造できるため、信頼性が高い。
【0066】
構成部材および他の構成部材は、接合により接着される部材である限り、特に限定されない。この構成部材(構成部材および他の構成部材)としては、部品搭載用の基板、チップ搭載用の基板などの各種基板;電子回路モジュール、フリップチップIC、半導体チップ、積層セラミックコンデンサなどの各種電子部品;などが挙げられる。
【0067】
接合部品の具体例としては、表面実装型電子基板(以下「実装体」ともいう。)が挙げ
られる。この実装体においては、部品搭載用の基板が有する部品接続用導体(以下「ランド」ともいう。)上に、積層セラミックコンデンサの外部電極が、上記導電性ペーストに由来する導電性粒子(例:はんだ)を介して接合されている。
【0068】
〔接合部品の製造方法〕
上記接合部品の製造方法(本発明の導電性ペーストを使用した場合の接合方法)は、本発明の導電性ペーストを用いて構成部材を接合する方法であれば、特に限定されない。例えば、導電性ペースト塗布工程および部品搭載工程を、この順序で備える通常の製造方法が挙げられる。即ち、上記接合部品の製造方法は、構成部材と他の構成部材とが接合された接合部品を製造する方法であって、構成部材に上記導電性ペーストを塗布する導電性ペースト塗布工程と、塗布された導電性ペースト上に他の構成部材を搭載する部品搭載工程とを備えることを特徴とする。
【0069】
上記接合部品の製造方法は、通常、部品搭載工程の後に、さらにリフロー工程を備える。また、好ましい製造方法としては、部品搭載工程とリフロー工程との間に、導電性粒子を溶融することなく他の構成部材が搭載された構成部材を予備加熱する予備加熱工程を備える製造方法が挙げられる。即ち、上記接合部品の製造方法の好ましい態様は、導電性ペースト塗布工程、部品搭載工程、予備加熱工程およびリフロー工程をこの順序で備える製造方法である。
【0070】
予備加熱工程における予備加熱温度は、導電性粒子の種類により適宜選択することができるが、好ましくは80〜200℃であり、より好ましくは100〜180℃である。予備加熱温度が前記範囲にあると、導電性ペーストがより接着力を発現し、構成部材と他の構成部材とをより強固に接着することができる。また、予備加熱工程は、通常のリフロー炉などにより行うことができる。
【0071】
リフロー工程における加熱温度は、導電性粒子の種類により適宜選択することができるが、好ましくは200℃を超えて350℃以下であり、より好ましくは240〜300℃である。リフロー工程では上記導電性ペーストに含有される導電性粒子が溶融し、構成部材と他の構成部材とが接合される。
【0072】
本発明の導電性ペーストは、接着力を有することから、導電性粒子を溶融させなくとも構成部材と他の構成部材とを接着することができる。このため、本発明の導電性ペーストを用いることで、接合部品の製造に係るリフロー回数を少なくすることができる。例えば、部品搭載工程およびリフロー工程が複数必要とされる接合部品(例:電子回路装置)において、導電性粒子の溶融を行うことなく電子部品の部品間の位置決めを行うことができるため、より少ないリフロー回数で接合をすることができる。よって、構成部材および他の構成部材に対する過度の熱ストレスを軽減することができる。
【0073】
具体的には、電子部品がはんだ付けなどで接合されたモジュール基板(他の構成部材)を、マザー回路基板(構成部材)に接合する場合には、まずモジュール基板に電子部品を接合した後、そのモジュール基板(他の構成部材)をマザー回路基板(構成部材)に接合する必要がある。この場合、マザー回路基板に接合されるモジュール基板はマザー回路基板に接合する時にも再度リフロー炉へ通炉されることとなり、モジュール基板としては2回目のリフローとなる。
【0074】
しかしながら、本発明の導電性ペーストを用いた場合、まず、モジュール基板に電子部品を接着する。次に、その電子部品が接着されたモジュール基板をマザー回路基板に接着する。そして、モジュール基板が接着されたマザー回路基板をリフロー炉へ通炉させることにより、モジュール基板およびマザー基板の全ての接合を行うことができる。これによ
り、接合部品の製造に係るリフローを1回のみとすることができる。
【0075】
即ち、この接合部品の製造方法は、第1の構成部材に上記導電性ペーストを塗布する導電性第1ペースト塗布工程と、塗布された導電性ペースト上に第2の構成部材を搭載する第1部品搭載工程と、前記第2の構成部材が搭載された第1の構成部材を、導電性粒子の溶融を行うことなく予備加熱して、前記第2の構成部材と前記第1の構成部材とを接着する第1予備加熱工程と、第3の構成部材に上記導電性ペーストを塗布する導電性第2ペースト塗布工程と、塗布された導電性ペースト上に、第2の構成部材が接着された第1の構成部材を搭載する第2部品搭載工程と、前記第1の構成部材が搭載された第3の構成部材を、導電性粒子の溶融を行うことなく予備加熱して、前記第1の構成部材と前記第3の構成部材とを接着する第2予備加熱工程と、必要に応じて、導電性粒子が溶融可能な粒子の場合、上記導電性ペーストに含有される導電性粒子を溶融させるリフロー工程とを備えることができる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。また、実施例中の「部」は、特に断らない限り質量基準である。
【0077】
〔粘度〕
フラックスの1気圧かつ23℃における粘度(Pa・s)は、東機産業社製 E型粘度計 RE−105Hを用いて測定した。
【0078】
[実施例1]
重合体(A)として重合体A1を15部と、活性剤(B)として活性剤B1を15部と、有機溶剤(C)として有機溶剤C1を70部とを混合して、フラックスを調製した。
【0079】
[実施例2〜6および比較例1]
実施例1において、表1に示す種類・量の成分を混合したこと以外は実施例1と同様にして、フラックスを調製した。
【0080】
【表1】

【0081】
A1:アイエスピー・ジャパン株式会社製、商品名「Gantrez-S-95」、メチルビニルエーテル・マレイン酸共重合物(メチルビニルエーテル由来の構造単位の含有量:50モル%、マレイン酸由来の構造単位の含有量:50モル%;Mw=216,000)。
A2:アイエスピー・ジャパン株式会社製、商品名「Stabileze QM」、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸との共重合物のデカジエンによる架橋物。
AR1:ポリエチレングリコール
B1:ギ酸アンモニウム
B2:2,3−ジヒドロキシナフタレン
C1:テトラエチレングリコール
C2:グリセリン
〔フラックスの評価〕
実施例1〜6および比較例1で得られたフラックスについて、下記評価を行った。
【0082】
《1.はんだボールの接着性》
フラックスを銅板上に塗布して塗膜を形成した後、はんだボール(商品名「エコソルダーボールM705」、千住金属工業(株)製、Sn:96.5重量%、Ag:3重量%、Cu:0.5重量%)を前記塗膜に乗せた。銅板を傾けた際に、はんだボールが移動するか否かを観察し、下記基準にて、はんだボールの接着性評価を行った。
○:はんだボールの移動なし。
×:はんだボールの移動あり。
【0083】
《2.はんだ付け状態》
フラックスを銅板上に塗布して塗膜を形成した後、上記千住金属工業(株)製はんだボールを前記塗膜に乗せた。これを、リフロー装置(千住金属工業(株)製、商品名「STR-2010N2M-II」)を用いて、窒素雰囲気下中、予備加熱温度180℃、加熱温度240℃にてリフローを行い、はんだ溶融基板を得た。前記はんだ溶融基板において、はんだボールの溶融状態を確認し、下記基準にて、はんだ付け状態の評価を行った。
○:はんだボールが溶融し、濡れ性も良好であった。
×:はんだボールは溶融したが、濡れ性が不良であった。
【0084】
《3.水洗浄性》
上記《2.はんだ付け状態》の評価で得られたはんだ溶融基板をイオン交換水にて洗浄し、はんだ基板を得た。前記はんだ基板の表面状態を観察し、フラックス残渣の有無、はんだ基板の表面の光沢、およびはんだ基板の表面のシミの有無を確認し、下記基準にて、水洗浄性を評価した。
○:フラックス残渣がなく、はんだ基板の表面の光沢およびシミともに良好であった。
×:はんだ基板の表面にシミが確認された。
【0085】
《4.はんだの広がり率》
直径0.5mmの上記千住金属工業(株)製はんだボール1を銅板3上に測定対象のフラックス2と共に配置し(図1(a))、リフロー装置(千住金属工業(株)製、商品名「STR-2010N2M-II」)を用いて、窒素雰囲気下中、予備加熱温度180℃、加熱温度240℃にてリフローを行った(図1(b)、(c))。
【0086】
溶融後のはんだ4の広がり具合の平均値Z(Z=(X+Y)/2)を算出した(図1(
c):Xは溶融後のはんだの長径、Yは溶融後のはんだの短径である)。平均値Zをもとにはんだの広がり率を{(Z−0.5)/0.5}×100(%)と定義して、はんだの
広がり率を評価した。なお、はんだボール1の直径が0.5mmのため、100%の広がり率とは、はんだの直径が1mmに広がったことを意味する。
【0087】
以上の評価結果を表2に示す。
【0088】
【表2】

【符号の説明】
【0089】
1・・・はんだボール(直径0.5mm)
2・・・フラックス
3・・・銅板
4・・・溶融後のはんだ
X・・・溶融後のはんだの長径
Y・・・溶融後のはんだの短径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分および(B)成分を含有する水溶性フラックス。
(A)成分:(a1)重合性不飽和二重結合を有するカルボン酸無水物に由来する構造単位、および(a2)前記構造単位(a1)を加水分解することによって得られる構造単位から選択される少なくとも1種の構造単位を有し、かつ(a3)アルキルビニルエーテル由来の構造単位を有する重合体。
(B)成分:活性剤として、塩化水素酸のアミン塩、臭化水素酸のアミン塩、カルボン酸、カルボン酸のアンモニウム塩、カルボン酸のアミン塩および多価フェノール類から選択される少なくとも1種。
【請求項2】
さらに(C)成分:有機溶剤を含有する請求項1に記載の水溶性フラックス。
【請求項3】
請求項1〜2の何れか一項に記載の水溶性フラックスと、
導電性粒子と
を含有する導電性ペースト。
【請求項4】
構成部材と他の構成部材とが、請求項3に記載の導電性ペーストを用いて接合してなる接合部品。

【図1】
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【公開番号】特開2011−104638(P2011−104638A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264059(P2009−264059)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】