説明

水溶性共重合体及びスケール防止用組成物

【課題】優れたスケール防止効果、特に、シリカ系スケールの生成に対して非常に優れたスケール防止効果を示す水溶性共重合体を提供する。
【解決手段】(a)(メタ)アクリル酸(塩)と、(b)スルホン酸基含有モノマーと、(c)N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、及び、N−ビニル−ε−カプロラクタムよりなる群から選択される少なくとも1種のモノマーと、を共重合させて得られる水溶性共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な水溶性共重合体及びスケール防止用組成物に関する。更に詳しくは、優れたスケール防止効果、特に、シリカ系スケールに対して非常に優れたスケール防止効果を示す水溶性共重合体及びスケール防止用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水系、ボイラー水系などの水に接触する器壁(特に電熱面)には、カルシウム塩、マグネシウム塩、シリカ系などのスケールが生成する。開放循環式の冷却水系は、省資源、省エネルギーの立場から系外への廃棄(ブロー)が少なく、溶解する塩類が高濃縮(高濃縮運転)される場合がある。このような場合、溶解度の低い、カルシウム塩、マグネシウム塩、シリカなどが容易にスケール化する傾向がある。特に、溶解するシリカの濃度が50ppm以上であると、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、純シリカ等のシリカ系スケールが生成し、器壁に付着することが顕著となるため、冷却水系を正常に機能させることが難しくなる。
【0003】
このようなシリカ系スケールの生成を防止し、また、器壁に付着したシリカ系スケールを除去するためのものとして、スケール防止剤が種々報告されている。例えば、ポリ(メタ)アクリル酸塩(特許文献1参照)、重量平均分子量5万以下のカルボン酸/スルホン酸/ポリアルキレンオキシド系共重合体(塩)と、ある特定の低分子量化合物(例えば、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸)とを組み合わせたもの(特許文献2参照)、アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸共重合体、2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸/アクリロイルモルホリン系共重合体(特許文献3参照)、アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸/アルキル置換アクリルアミド共重合体(特許文献4参照)、2−メチル−1,3−ブタジエン−1−スルホン酸ナトリウム(イソプレンスルホン酸ナトリウム)/アクリル酸/メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート共重合体(特許文献5参照)などが報告されている。
【0004】
【特許文献1】特公昭49−30914号公報
【特許文献2】特開平5−104093号公報
【特許文献3】特許第3832882号公報
【特許文献4】特許第3055815号公報
【特許文献5】特開2000−7734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜5に記載のスケール防止剤は、特定の温度、特定のシリカ濃度などの限られた適用条件においては優れたスケール防止効果を示すが、例えば、水系に溶解するシリカの濃度が100ppm以上(高シリカ濃度)である場合、溶解度を超えてしまうため、多量のスケールが生成し易くなり、十分なスケール防止効果を得ることが困難であった。また、夏場など、過酷な条件下で使用する場合には、冷却水の温度が上昇しやすく、特に70℃以上になる場合には、スケールの溶解度が低くなることから、スケールの析出、付着が促進され、十分なスケール防止効果を得ることが困難であった。そのため、高シリカ濃度及び高温の条件下で使用される水系に含有され、優れたスケール防止効果を示すスケール防止剤の開発が切望されていた。特に、塩類が高濃縮され得る開放循環式の冷却水系に使用されるスケール防止剤であって、シリカ系スケールの発生に対して優れたスケール防止効果を示すスケール防止剤の開発が切望されていた。
【0006】
本発明は、上述のような従来技術の課題を解決するためになされたものであり、優れたスケール防止効果、特に、シリカ系スケールに対して非常に優れたスケール防止効果を示す水溶性共重合体及びスケール防止用組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、(a)(メタ)アクリル酸(塩)と、(b)スルホン酸基含有モノマーと、(c)N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、及び、N−ビニル−ε−カプロラクタムよりなる群から選択される少なくとも1種のモノマーと、を共重合させて得られる水溶性共重合体が、スケールに対して良好な吸着性能を有しているため、優れたスケール防止効果、特に、シリカ系スケールの生成に対して非常に優れたスケール防止効果を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
具体的には、本発明により、以下の水溶性共重合体及びスケール防止用組成物が提供される。
【0009】
[1] (a)(メタ)アクリル酸(塩)と、(b)スルホン酸基含有モノマーと、(c)N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、及び、N−ビニル−ε−カプロラクタムよりなる群から選択される少なくとも1種のモノマーと、を共重合させて得られる水溶性共重合体。
【0010】
[2] 前記(b)スルホン酸基含有モノマーが、イソプレンスルホン酸(塩)である前記[1]に記載の水溶性共重合体。
【0011】
[3] 前記(a)(メタ)アクリル酸(塩)に由来する構造単位の含有割合が全構造単位に対して20〜95モル%であり、前記(b)スルホン酸基含有モノマーに由来する構造単位の含有割合が全構造単位に対して3〜40モル%であり、前記(c)N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、及び、N−ビニル−ε−カプロラクタムよりなる群から選択される少なくとも1種のモノマーに由来する構造単位の含有割合が全構造単位に対して1〜40モル%である前記[1]または[2]に記載の水溶性共重合体。
【0012】
[4] 前記(a)(メタ)アクリル酸(塩)と、前記(b)スルホン酸基含有モノマーと、前記(c)N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、及び、N−ビニル−ε−カプロラクタムよりなる群から選択される少なくとも1種のモノマーとに加えて、更に、(d)ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレートと、を共重合させて得られる前記[1]〜[3]のいずれかに記載の水溶性共重合体。
【0013】
[5] 前記[1]〜[4]のいずれかに記載の水溶性共重合体、及び水を含むスケール防止用組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水溶性共重合体は、(a)(メタ)アクリル酸(塩)と、(b)スルホン酸基含有モノマーと、(c)N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、及び、N−ビニル−ε−カプロラクタムよりなる群から選択される少なくとも1種のモノマーと、を共重合させて得られるものであるため、スケールに対する吸着性能が向上し、スケール防止剤として使用した場合に、優れたスケール防止効果、特に、シリカ系スケールの生成に対して非常に優れたスケール防止効果を示し、長期間にわたってスケール防止効果を発揮するという効果を奏するものである。
【0015】
本発明のスケール防止用組成物は、本発明の水溶性共重合体を含むため、優れたスケール防止効果、特に、シリカ系スケールの生成に対して非常に優れたスケール防止効果を示し、長期間にわたってスケール防止効果を発揮するという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。即ち、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に属することが理解されるべきである。
【0017】
[1]水溶性共重合体:
本発明の水溶性共重合体の一実施形態は、(a)(メタ)アクリル酸(塩)(以下、「(a)成分」と記す場合がある)と、(b)スルホン酸基含有モノマー(以下、「(b)成分」と記す場合がある)と、(c)N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、及び、N−ビニル−ε−カプロラクタムよりなる群から選択される少なくとも1種のモノマー(以下、「(c)成分」と記す場合がある)と、を共重合させて得られるものである。即ち、本実施形態の水溶性共重合体は、(a)成分に由来する構造単位と、(b)成分に由来する構造単位と、(c)成分に由来する構造単位と、を含有するものである。
【0018】
このような(a)成分と、(b)成分と、(c)成分と、を共重合させて得られる水溶性共重合体は、スケールに対する吸着性能が良好であるため、優れたスケール防止効果、特に、シリカ系スケールの生成に対して非常に優れたスケール防止効果を示し、長期間にわたってスケール防止効果を発揮する。
【0019】
[1−1](a)成分:
本実施形態の水溶性共重合体を得るための(a)(メタ)アクリル酸(塩)としては、具体的には、下記一般式(1)で表される化合物などを挙げることができる。本実施形態の水溶性共重合体は、(a)成分に由来する構造単位を含有することによって、カルシウム系またはマグネシウム系のスケールを良好に吸着することができるという利点がある。
【0020】
【化1】

(上記一般式(1)中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Xは、水素、ナトリウム、カリウム、リチウム、またはアンモニウムを表す)
【0021】
本実施形態の水溶性共重合体中の(a)成分に由来する構造単位の含有割合は、全構造単位に対して、20〜95モル%であることが好ましく、30〜90モル%であることが更に好ましく、50〜85モル%であることが特に好ましい。上記含有割合が20〜95モル%の範囲外であると、シリカ系スケールの防止効果が十分に得られず、シリカ系スケールの生成、付着等が生じるおそれがある。
【0022】
[1−2](b)成分:
本実施形態の水溶性共重合体を得るための(b)スルホン酸基含有モノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸(塩)、ビニルスルホン酸(塩)、アリルスルホン酸(塩)、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸(塩)、2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸(塩)、及び、下記一般式(2)で表されるイソプレンスルホン酸(塩)(即ち、2−メチル−1,3−ブタジエン−1−スルホン酸(塩))などを挙げることができる。これらの中でも、一般式(2)で表されるイソプレンスルホン酸(塩)が好ましく、一般式(2)で表されるイソプレンスルホン酸(塩)は、他の成分((a)成分及び(c)成分)との共重合性が良く、かつ、スルホン酸基を含有している。このように一般式(2)で表されるイソプレンスルホン酸(塩)は、(a)成分及び(c)成分との共重合性が良く、また、(a)成分に比べて強酸であるため、親水性が高く、カルシウム、マグネシウム等の多価イオンが共存した水中であっても、これらと凝集等を起こし難く、安定して存在することができる。更に、一般式(2)で表されるイソプレンスルホン酸(塩)を用いることによって、本実施形態の水溶性共重合体の分子鎖中に、親水性の高いスルホン酸基を均一に配置することができる。
【0023】
【化2】

(上記一般式(2)中、Aは水素、ナトリウム、カリウム、リチウム、またはアンモニウムを表す)
【0024】
本実施形態の水溶性共重合体は、(b)成分に由来する構造単位中のスルホン酸基によって親水性が高くなることと、(a)成分に由来する構造単位及び(c)成分に由来する構造単位がスケールに吸着することが相俟って、水中でスケールを安定に(良好に)分散させることができる。
【0025】
本実施形態の水溶性共重合体中の(b)成分に由来する構造単位の含有割合は、全構造単位に対して、3〜40モル%であることが好ましく、5〜30モル%であることが更に好ましく、8〜20モル%であることが特に好ましい。上記含有割合が3〜40モル%の範囲外であると、シリカ系スケールの防止効果が十分に得られず、シリカ系スケールの生成、付着等が生じるおそれがある。
【0026】
[1−3](c)成分:
本実施形態の水溶性共重合体を得るための(c)成分は、N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、及び、N−ビニル−ε−カプロラクタムよりなる群から選択される少なくとも1種のモノマーである。本実施形態の水溶性共重合体は、(c)成分に由来する構造単位を含有することによって、シリカ系スケールに対する吸着性能が向上し、水系でシリカ系スケールを安定に分散させることができるという利点がある。これらの(c)成分の中でも、N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、及びN−ビニル−ε−カプロラクタムを、それぞれ単独で用いることが好ましい。
【0027】
(c)成分のうち、N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドは、下記一般式(3)で表される化合物である。
【0028】
【化3】

(前記一般式(3)中、Rは水素原子、またはメチル基を表す)
【0029】
(c)成分のうち、N−ビニルピロリドンは、下記式(4)で表される化合物である。
【0030】
【化4】

【0031】
(c)成分のうち、N−ビニル−ε−カプロラクタムは、下記式(5)で表される化合物である。
【0032】
【化5】

【0033】
本実施形態の水溶性共重合体中の(c)成分に由来する構造単位の含有割合は、全構造単位に対して、1〜40モル%であることが好ましく、3〜30モル%であることが更に好ましく、5〜20モル%であることが特に好ましい。上記含有割合が1〜40モル%の範囲外であると、シリカ系スケールの防止効果が十分に得られず、シリカ系スケールの生成、付着等が生じるおそれがある。
【0034】
[1−4](d)成分:
本実施形態の水溶性共重合体は、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分に加えて、更に、(d)ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート(以下、「(d)成分」と記す場合がある)を共重合させて得られるものであることが好ましい。即ち、本実施形態の水溶性共重合体は、(a)成分に由来する構造単位、(b)成分に由来する構造単位、(c)成分に由来する構造単位、及び、(d)成分に由来する構造単位を含有するものであることが好ましい。
【0035】
本実施形態の水溶性共重合体を得るための(d)ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレートは、下記一般式(6)で表される化合物である。このように本実施形態の水溶性共重合体は、下記一般式(6)で表される化合物に由来する構造単位を含有することによって、シリカ系スケールに対する吸着性能が更に向上し、シリカ系スケールの析出(生成)を抑制するという利点がある。
【0036】
【化6】

(上記一般式(6)中、Rは水素原子、またはメチル基を表す)
【0037】
本実施形態の水溶性共重合体中の(d)成分に由来する構造単位の含有割合は、全構造単位に対して、3〜30モル%であることが好ましく、5〜20モル%であることが更に好ましく、7〜15モル%であることが特に好ましい。上記含有割合が3〜30モル%の範囲外であると、シリカ系スケールの防止効果が十分に得られず、シリカ系スケールの生成、付着等が生じるおそれがある。
【0038】
本実施形態の水溶性共重合体は、(a)〜(d)成分以外に、これらの各成分と共重合可能な他のモノマー(以下、「他のモノマー」と記す場合がある)を1種または2種以上共重合させて得られるものであってもよい。他のモノマーとしては、例えば、アリルアルコール、メチルビニルアルコール、エチルビニルアルコール、ビニルグリコール酸などの不飽和アルコール類、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオール(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレートなどの水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸オクチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、ブタジエン、イソプレン、2−クロル−1,3−ブタジエン、1−クロル−1,3−ブタジエンなどの脂肪族共役ジエン、(メタ)アクリロニトリルなどのビニルシアン化合物、(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、t−ブチルアクリルアミド、N−アクリロイルモルホリン、N、N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N、N−ジメチル(メタ)アクリルアミドなどのアクリルアミド系モノマーを挙げることができる。
【0039】
本実施形態の水溶性共重合体中の他のモノマーに由来する構造単位の含有割合は、全構造単位に対して、30モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることが更に好ましく、10モル%以下であることが特に好ましい。上記含有割合が30モル%超であると、シリカ系スケールの防止効果(防止性能)が十分に得られず、シリカ系スケールの生成、付着等が生じるおそれがある。
【0040】
本実施形態の水溶性共重合体は、例えば、(a)成分、(b)成分、(c)成分、及び必要に応じて他のモノマーを混合して混合物を得、得られた混合物を重合反応溶媒に添加し、公知のラジカル重合開始剤(例えば、過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなど)の存在下で、反応温度20〜200℃(好ましくは40〜150℃)、0.1〜20時間重合反応させて製造することができる。なお、得られる共重合体の分子量(重量平均分子量)は、反応条件、特に、重合反応溶媒の量、重合開始剤の種類及びその量、反応温度などを制御することにより調節することができる。
【0041】
重合反応溶媒は、反応を円滑に行うために用いるものである。重合反応溶媒としては、例えば、水、有機溶剤、または、水と混合可能な有機溶剤との混合物などを挙げることができる。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル類などを挙げることができる。
【0042】
重合反応溶媒の使用量は、上記混合物100質量部に対して、50〜10000質量部であることが好ましく、70〜1000質量部であることが更に好ましく、100〜500質量部であることが特に好ましい。上記使用量が50質量部未満であると、重合が円滑に進まないおそれがある。一方、10000質量部超であると、水溶性共重合体の生産性が低下するおそれがある。
【0043】
ラジカル重合開始剤の使用量は、全単量体成分(混合物)に対して、0.1〜20質量%であることが好ましく、0.2〜10質量%であることが更に好ましい。上記使用量が0.1質量%未満であると、重合が円滑に進まないおそれがある。一方、20質量%超であると、得られる水溶性共重合体の純度(収率)が低下するおそれがある。
【0044】
重合を行う場合は、混合物の全量を反応器に一括に仕込んで行ってもよいし、(a)成分、(b)成分、(c)成分、及び他のモノマーのうちの一部を逐次的に添加して行ってもよいし、または、混合物の一部を逐次的に添加して行ってもよい。
【0045】
本実施形態の水溶性共重合体は、その重量平均分子量が2000〜20万であることが好ましく、3000〜10万であることが更に好ましく、5000〜3万であることが特に好ましい。重量平均分子量が2000〜20万の範囲外であると、シリカ系スケール防止性能が十分に得られないおそれがある。なお、本明細書において、「重量平均分子量」は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー測定によるポリスチレンスルホン酸ナトリウム換算の重量平均分子量を意味する。
【0046】
本実施形態の水溶性共重合体中の、(a)成分に由来するカルボン酸基、及び(b)成分に由来するスルホン酸基のカチオン種は、特に限定されるものではないが、本実施形態の水溶性共重合体が水溶性を示すためには、水素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アミンなどであることが好ましい。アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウムなどを挙げることができる。アルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウムなどを挙げることができる。アミンとしては、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミンなどのアルキルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどのポリアミン、モルホリン、ピペリジンなどを挙げることができる。これらの中でも、水素、ナトリウム、及びカリウムを用いると、製造コストを低くすることができるため経済性が良いという利点がある。なお、これらのカチオン種は、種々のイオン交換技法により他種のカチオン種と相互に交換することが可能である。
【0047】
本実施形態の水溶性共重合体の構造は、赤外線吸収スペクトル法において、1,300〜1,350cm−1におけるスルホン酸基の吸収、1,700〜1,800cm−1におけるカルボン酸基の吸収、及び1,670cm−1付近におけるアクリルアミド系モノマーの吸収を観察することによって、また、NMR測定によって、確認することができる。また、本実施形態の水溶性共重合体中の各構造単位の組成比は、スルホン酸量及びカルボン酸量の測定によって、また、水溶性共重合体を元素分析することによって確認することができる。
【0048】
本実施形態の水溶性共重合体は、単独でまたは水などに溶解した後、ボイラー水系、地熱水系、開放若しくは密閉循環式の冷却水系、または一過式冷却水系などの水系に添加することによってスケール防止剤として使用することができる。水系に添加する水溶性共重合体の添加量は、水系中の金属イオン濃度、シリカ濃度などにより異なるが、5〜200mg/Lであることが好ましい。
【0049】
本実施形態の水溶性共重合体を水系に添加すると、その水系中における、カルシウム塩、マグネシウム塩などに由来する金属塩スケール、及び、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、及び純シリカなどに由来するシリカ系スケールの生成を抑制することができる。特に、シリカ系スケールの生成を効果的に防止することができる。なお、本実施形態の水溶性共重合体以外に、他のスケール防止剤、防食剤、スライム防止剤などを併用することができる。
【0050】
[2]スケール防止用組成物:
本発明のスケール防止用組成物の一の実施形態は、本発明の水溶性共重合体、及び水を含むものである。本実施形態のスケール防止用組成物は、本発明の水溶性共重合体を含むものであるため、ボイラー水系、地熱水系、開放または密閉循環式の冷却水系、一過式冷却水系などの水系中の、カルシウム塩、マグネシウム塩などに由来する金属塩スケール、及び、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、純シリカなどに由来するシリカ系スケールの生成を抑制することができ、優れたスケール防止効果を示す。本実施形態のスケール防止用組成物は、特に、シリカ系スケールに対して非常に優れたスケール防止効果を示し、長期間にわたってスケール防止効果を発揮する。
【0051】
本実施形態のスケール防止用組成物は、その全固形分含量に対して、本発明の水溶性共重合体を10質量%以上含むものであることが好ましく、20質量%以上含むものであることが更に好ましく、30質量%以上含むものであることが特に好ましい。上記含有量が10質量%未満であると、シリカ系スケールの防止効果が十分に得られず、シリカ系スケールの生成、付着等が生じるおそれがある。
【0052】
本実施形態のスケール防止用組成物は、本発明の水溶性共重合体、及び水以外に、酸剤、アルカリ剤、従来公知のスケール防止剤、防食剤、スライム防止剤などを含むことができる。
【0053】
従来公知のスケール防止剤としては、例えば、ポリアクリル酸塩、ポリアクリルアミドとその部分加水分解物、マレイン酸系重合体、イタコン酸系重合体、メタクリル酸ヒドロキシエチル、ヒドロキシアリロキシプロパンスルホン酸、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などを含むアクリル酸系の2成分系共重合体などを挙げることができる。
【0054】
防食剤としては、例えば、塩化亜鉛などの亜鉛塩、ニッケル塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩などの多価金属塩、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸などのホスホン酸及びそれらの塩、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、トリアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾールなどのアゾール類、りん酸二水素ナトリウム、ヘキサメタりん酸ナトリウム、重合りん酸塩などのりん酸塩、ホスホノブタントリカルボン酸などのホスホノカルボン酸及びそれらの塩、アミン類、りん酸エステルなどを挙げることができる。
【0055】
スライム防止剤としては、例えば、塩素ガス、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、塩素化イソシアヌール酸ナトリウムなどの塩素剤、無機または有機系臭素剤、有機窒素硫黄系薬剤、第4級アンモニウム塩などを挙げることができる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」は、特に断らない限り質量基準である。また、実施例、比較例中の各種の測定は、下記の方法により行った。
【0057】
[重量平均分子量(Mw)の測定]
重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した値を、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムを標準サンプルとして作成した検量線を用いて換算した値である。
【0058】
ここで、GPCの測定条件は、下記の通りである。
カラム1;G3000PWXL(東ソー社製)、カラム2;GMPWXL(東ソー社製)、及び、カラム3;GMPWXL(東ソー社製)を、カラム1、カラム2、及びカラム3の順に直列につなぎ、カラム1側より試料を導入した。
検出器;示差屈折計RI−8021(東ソー社製)、
溶離液;水/アセトニトリル/硫酸ナトリウム=2,100/900/15(質量比)、
流速;1.0ml/分、
温度;40℃、
サンプル濃度;0.2質量%、
サンプル注入量;400μl。
【0059】
(実施例1)
まず、1Lのビーカーに、(a)成分として80質量%濃度のアクリル酸水溶液(表1中、「AA80%水溶液」と示す)206.2g、(b)成分として40質量%濃度の2−メチル−1,3−ブタジエン−1−スルホン酸ナトリウム水溶液(表1中、「IPS40%水溶液」と示す)278.3g、(c)成分としてN−2−ヒドロキシエチルアクリルアミド(表1中、「HEAMD」と示す)32.1gを入れて混合し、混合物を得た。次に、内容積1.5Lの耐圧容器に、水300g、30質量%過酸化水素水30gを仕込み、内温を90℃とした。内温が90℃となった時点で、耐圧容器に上記混合物を添加し始め、耐圧容器の内温を90〜100℃に維持しながら、1時間かけて混合物の全量を添加した。全量添加後、内温90〜100℃に維持しながら、4時間攪拌し、水溶性共重合体を含有する水溶液(スケール防止用組成物)を得た。
【0060】
得られた水溶液中の水溶性共重合体の重量平均分子量(Mw)は、15,000であり、(a)成分に由来する構造単位が70モル%であり、(b)成分に由来する構造単位が20モル%であり、(c)成分に由来する構造単位が10モル%であった。
【0061】
[スケール防止率の測定]
内容積500mlのビーカーを用い、全量500mlの試験用水系(pH9(硫酸、水酸化ナトリウムにより調整))を調製した。この試験用水系は、シリカ濃度が200mg/L(SiO換算、メタケイ酸ナトリウム・9水和物により調整)、マグネシウム濃度が200mg/L(CaCO換算、硫酸マグネシウム・7水和物により調整)、炭酸水素ナトリウム濃度が500mg/L(CaCO換算、炭酸水素ナトリウムにより調整)、及び、水溶性共重合体濃度が50mg/L(得られた上記スケール防止用組成物により調整)となるように調製した。
【0062】
次に、調製した試験用水系を、密閉可能な内容積250mlのポリエチレン製の容器に、空気が混入しないように仕込み、密閉した後、70℃で140時間静置した。静置後、試験用水系を0.1μmのろ紙でろ過し、ろ液中のケイ酸マグネシウムの濃度(S)(mg/L)を原子吸光分光光度計(型番「AA−6200」、島津製作所社製)を用いて測定した。測定したケイ酸マグネシウムの濃度(S)を用い、以下の計算式からスケール防止率(%)を算出した。
式:スケール防止率(%)=(S/200)×100
【0063】
本実施例の水溶性共重合体を含有した試験用水系は、スケール防止率が95%であった。
【0064】
(実施例2〜6、比較例1)
表1に示す配合処方とした以外は、実施例1と同様にして、水溶性共重合体を含有する溶液を得た。なお、表1中、「AMPS40%水溶液」は40質量%濃度の2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム水溶液を示し、「VPR」はN−ビニルピロリドンを示し、「VCR」はN−ビニル−ε−カプロラクタムを示す。また、得られた水溶性共重合体の重量平均分子量(Mw)を表1に示し、(a)成分に由来する構造単位、(b)成分に由来する構造単位、(c)成分に由来する構造単位、及び、(d)成分に由来する構造単位の含有割合(モル%)を表2に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
実施例2〜6、及び比較例1で得られた水溶性共重合体を含有する溶液を用い、実施例1と同様にして評価を行い、スケール防止率(%)を算出した。結果を表3に示す。
【0068】
【表3】

【0069】
(参考例1)
水溶性共重合体を使用しないこと以外は、実施例1と同様にして評価を行い、スケール防止率(%)を算出した。結果を表3に示す。
【0070】
表3から明らかなように、実施例1〜6の水溶性共重合体は、比較例1の水溶性共重合体に比べて、優れたスケール防止効果、特に、シリカ系スケールの生成に対して非常に優れたスケール防止効果を示すことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の水溶性共重合体は、優れたスケール防止効果、特に、シリカ系スケールの生成に対して非常に優れたスケール防止効果を示すため、スケール防止剤として好適に使用することができる。
【0072】
本発明のスケール防止用組成物は、優れたスケール防止効果、特に、シリカ系スケールの生成に対して非常に優れたスケール防止効果を示すため、スケール防止剤として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)(メタ)アクリル酸(塩)と、
(b)スルホン酸基含有モノマーと、
(c)N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、及び、N−ビニル−ε−カプロラクタムよりなる群から選択される少なくとも1種のモノマーと、を共重合させて得られる水溶性共重合体。
【請求項2】
前記(b)スルホン酸基含有モノマーが、イソプレンスルホン酸(塩)である請求項1に記載の水溶性共重合体。
【請求項3】
前記(a)(メタ)アクリル酸(塩)に由来する構造単位の含有割合が全構造単位に対して20〜95モル%であり、前記(b)スルホン酸基含有モノマーに由来する構造単位の含有割合が全構造単位に対して3〜40モル%であり、前記(c)N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、及び、N−ビニル−ε−カプロラクタムよりなる群から選択される少なくとも1種のモノマーに由来する構造単位の含有割合が全構造単位に対して1〜40モル%である請求項1または2に記載の水溶性共重合体。
【請求項4】
前記(a)(メタ)アクリル酸(塩)と、前記(b)スルホン酸基含有モノマーと、前記(c)N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン、及び、N−ビニル−ε−カプロラクタムよりなる群から選択される少なくとも1種のモノマーとに加えて、更に、(d)ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレートと、を共重合させて得られる請求項1〜3のいずれか一項に記載の水溶性共重合体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の水溶性共重合体、及び水を含むスケール防止用組成物。

【公開番号】特開2009−51883(P2009−51883A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217816(P2007−217816)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】