説明

水溶性金属加工油剤および金属加工用クーラント

【課題】水で希釈した際に潤滑性、防錆性および消泡性に優れる金属加工用クーラントとなる水溶性金属加工油剤を提供する。
【解決手段】水溶性金属加工油剤は、(A)下記式(1)で示されるブロックポリアルキレングリコールおよび(B)下記式(2)で示されるポリアルキレングリコールモノエーテルのうち少なくともいずれか一種と、(C)アルカノールアミン脂肪酸塩とを配合してなる。
HO(EO)−(PO)−(EO)H (1)
(EOは、−CHCHO−であり、POは、−CH(CH)CHO−または−CHCH(CH)O−である。(EO)、(PO)および(EO)の各単位は、ブロック的に結合している。aおよびcは1〜30の整数であり、bは5〜100の整数である。)
RO(R’O)H (2)
(Rは、炭素数が1〜30のアルキル基であり、R’Oは、POあるいはEOである。ただし、EOのモル分率は100%未満である。dは1〜50の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性金属加工油剤、およびそれを水で希釈して切削や研削などの金属加工に用いる金属加工用クーラントに関する。
【背景技術】
【0002】
金属加工に用いられる金属加工油剤には油系(油性)と水系(水性)があるが、冷却性、浸潤性に優れ、火災の危険がない水性タイプが多用されている。水性タイプとしては、鉱油等の油性基油に界面活性剤を配合してなるエマルション系油剤や、界面活性剤の配合量を増やしたソルブル系油剤の他に、ポリアルキレングリコール等の水溶性潤滑剤を主成分とするソリューション系油剤が知られている。研削など、冷却性が重要な用途では、鉱油を含まず水溶性であるソリューション系油剤が多用される。ソリューション系油剤としては、アルカノールアミン脂肪酸塩とポリオキシアルキレングリコールとを配合してなる水性潤滑性組成物が知られている(特許文献1参照)。
一方、最近になって、超砥粒(ダイヤモンド、CBN)を用いた長寿命な砥石が普及するようになり、ソリューション系油剤に対してより潤滑性が要求されるようになった。そこで、炭素数6〜10のモノカルボン酸やジカルボン酸と、(PO)−(EO)−(PO)型ブロックポリアルキレングリコールとを配合した水溶性金属加工油剤が提案されている(特許文献2参照)。この油剤によれば、潤滑性や消泡性に優れたソリューション系油剤が提供できるとしている。
【0003】
【特許文献1】特公昭40−14480号公報
【特許文献2】特開平8−231977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の水性潤滑油組成物は、ソリューション系油剤として、冷却性は良好であるものの、潤滑性に関しては油系、エマルション系、ソルブル系に劣っている。また、特許文献2のソリューション系油剤についても、33倍希釈程度でも潤滑性は必ずしも十分ではない。特に、水による希釈倍率を50倍程度にまで上げた場合には、潤滑性の低下がよりいっそう問題となる。さらに、水溶性であるソリューション系油剤の場合には、防錆性や消泡性も問題となりやすい。
そこで、本発明は、水で希釈した際に潤滑性、防錆性および消泡性に優れる金属加工用クーラントとなる水溶性金属加工油剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決すべく、本発明は、以下に示すような水溶性金属加工油剤を提供するものである。
〔1〕(A)下記式(1)で示されるブロックポリアルキレングリコールおよび(B)下記式(2)で示されるポリアルキレングリコールモノエーテルのうち少なくともいずれか一種と、
HO(EO)−(PO)−(EO)H (1)
(EOは、−CHCHO−であり、POは、−CH(CH)CHO−または−CHCH(CH)O−である。(EO)、(PO)および(EO)の各単位は、ブロック的に結合している。aおよびcは1〜30の整数であり、bは5〜100の整数である。)
RO(R’O)H (2)
(Rは、炭素数が1〜30のアルキル基であり、R’Oは、POあるいはEOである。ただし、EOのモル分率は100%未満である。dは1〜50の整数である。)
(C)アルカノールアミン脂肪酸塩と、を配合してなることを特徴とする水溶性金属加工油剤。
【0006】
〔2〕上述の〔1〕に記載の水溶性金属加工油剤において、前記(A)成分の質量平均分子量が500〜10000であることを特徴とする水溶性金属加工油剤。
〔3〕上述の〔1〕または〔2〕に記載の水溶性金属加工油剤において、前記(A)成分におけるa、bおよびcが下記式(3)の関係を満たすことを特徴とする水溶性金属加工油剤。
(a+c)/(a+b+c)=0.1〜0.5 (3)
〔4〕上述の〔1〕から〔3〕までのいずれか一つに記載の水溶性金属加工油剤において、水を含有する油剤全量基準で、前記(A)成分および(B)成分を合わせた配合量が5〜40質量%、(C)成分の配合量が30〜75質量%であることを特徴とする水溶性金属加工油剤。
〔5〕上述の〔4〕に記載の水溶金属加工油剤を水で2〜200倍(容量)に希釈した金属加工用クーラント。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水溶性金属加工油剤(原液)によれば、特定構造のポリアルキレングリコール類とアルカノールアミン脂肪酸塩とを配合してなるので、高希釈率であっても潤滑性に優れ、さらに、防錆性および消泡性にも優れたクーラントを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。
本発明の水溶性金属加工油剤(以下、「本油剤」ともいう)は、(A)下記式(1)で示されるブロックポリアルキレングリコールおよび(B)下記式(2)で示されるポリアルキレングリコールモノエーテルのうち少なくともいずれか一種と、(C)アルカノールアミン脂肪酸塩とを配合してなる。
HO(EO)−(PO)−(EO)H (1)
RO(R’O)H (2)
【0009】
まず、(A)成分について説明する。(A)成分は、本発明において、低発泡性の水溶性潤滑剤として作用する。
上記した式(1)において、EOは、−CHCHO−(エチレンオキサイド単位)を表し、POは、−CH(CH)CHO−または−CHCH(CH)O−(プロピレンオキサイド単位)を表す。
前記した(EO)、(PO)および(EO)の各単位は、ブロック的に結合している。EOとPOがランダム的に結合していると希釈時に泡立ちが大きくなり好ましくない。
ここで、式(1)におけるaおよびcは1〜30、好ましくは1〜20の整数であり、bは5〜100、好ましくは10〜50の整数である。a、cが30を超えると、水で希釈した際の潤滑性が低下するため好ましくない。また、bが5未満であると、水で希釈した際の潤滑性が低下するため好ましくない。逆に、bが100を超えると、水溶性が低下するため好ましくない。
なお、(A)成分として式(1)の化合物を混合物として使用する場合は、a〜cを形式的に小数で表すこともある。
【0010】
(A)成分の質量平均分子量は、500〜10000であることが好ましく、600〜5000であることがより好ましい。質量平均分子量が500未満の場合、あるいは10000を超える場合のいずれにおいても、水で希釈した際の潤滑性が低下してしまうおそれがある。
また、式(1)におけるa、bおよびcは、下記式(3)の関係を満たすことが好ましい。
(a+c)/(a+b+c)=0.1〜0.5 (3)
式(3)の値が0.1未満であると、(A)成分が水に溶解しにくくなって、いわゆる原液安定性が不良となる。一方、式(3)の値が0.5を超えると、水で希釈した際の潤滑性が低下してしまうおそれがある。
【0011】
次に、(B)成分について説明する。(B)成分は、式(2)で示されるいわゆる片末端のポリアルキレングリコールである。(B)成分も(A)成分と同様に、水溶性の潤滑剤として作用する。
Rは、ポリアルキレングリコールの末端基であり、炭素数が1〜30、好ましくは炭素数6〜18のアルキル基である。ただし、式(2)のポリアルキレングリコールの両末端がともに封止されていると、水溶性が低下するため好ましくない。逆に、式(2)のポリアルキレングリコールの両末端がともにOHであると水で希釈した際の潤滑性が低下するため好ましくない。
ここで、Rの炭素数が30を超えると、水溶性が低下するため好ましくない。
また、R’Oは、POあるいはEOであり、POとEOの結合様式は低発泡性であるブロック構造が好ましい。ただし、EOのモル分率は100%未満である。EOのモル分率が100%であると、消泡性に劣るため好ましくない。
ここで、dは1〜50であり、好ましくは3〜30の整数である。dが50を超えると、水で希釈した際の潤滑性が低下してしまうおそれがある。なお、(B)成分として式(2)の化合物を混合物として使用する場合は、dを形式的に小数で表すこともある。
【0012】
次に、(C)成分について説明する。(C)成分は、アルカノールアミン脂肪酸塩であり、本油剤において主に防錆剤として作用する。このアルカノールアミン脂肪酸塩は、アルカノールアミンと脂肪酸を各々個別に油剤に配合するより、先に塩を調製してから油剤に配合することが好ましい。特に、脂肪酸として二塩基酸を用いる場合は、固体状であるため油剤調製前に塩を調製してから他成分と混合することが好ましい。また、アミンと脂肪酸の当量比(アミン/脂肪酸)はあまり高くない方がよい。アミンと脂肪酸の当量比が高すぎると、本油剤を水で希釈した際の摩擦係数がやや高くなってしまうおそれがある。具体的には2以下が好ましく、1.5以下がより好ましい。また、脂肪酸を溶解させるためには1以上が好ましい。
【0013】
(C)成分のアルカノールアミン脂肪酸塩を構成するアルカノールアミンとしては、特に制限はないが、一級あるいは三級アミンが耐腐敗性の点で好ましい。
例えば、下記式(4)、(5)で示される一級アミンあるいは三級アミンが好適である。
【0014】
【化1】

【0015】
【化2】

【0016】
上記した式(4)において、Rは、水素または炭素数1〜3のアルキル基である。nは、2または3である。各Rは、各々同一でも異なっていてもよいが、Rが全て水素ではないことが好ましい。ここで、nが4以上であると、水溶性が低下するので好ましくない。nは2であることが最も好ましく、nが1であるとむしろ分解によりホルムアルデヒドを放出しやすくなって好ましくない。また、Rのいずれかが炭素数が4以上であると、水溶性および鉄に対する防錆性の点で好ましくない。
上記した式(4)のアルカノールアミンの具体例としては、例えば、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、1−アミノ−2−ブタノール、2−アミノー1−プロパノール、3−アミノー2−ブタノールなどが挙げられる。これらの中でも、鉄に対する防錆性の点で1−アミノ−2−プロパノールや2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールが特に好ましい。本油剤においては、上記した成分は一種用いてもよく、二種以上を用いてもよい。
【0017】
上記した式(5)のアルカノールアミンは、防錆性だけでなく、耐腐敗性にも寄与する。式中、Rは、炭素数1〜10のアルキル基である。Rが水素であると耐腐敗性が劣ってしまい好ましくない。Rが非環状構造である場合は、炭素数が1〜4であることが好ましく、炭素数が1であるとさらに好ましい。Rの炭素数が11以上であると、水溶性や防錆性が低下してしまい好ましくない。またZ、Zは、それぞれ独立に炭素数2〜8のアルキレン基である。Z、Zの少なくともいずれかの炭素数が1であると、ホルムアルデヒドとして分解されるため、環境上好ましくない。また、Z、Zの少なくともいずれかの炭素数が9以上であると、(B)成分の水溶性が低下してしまい好ましくない。
上記した式(5)のアルカノールアミンの具体例としては、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−シクロヘキシルジエタノールアミン、N−n−プロピルジエタノールアミン、N−i−プロピルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−i−ブチルジエタノールアミン、およびN−t−ブチルジエタノールアミンなどが挙げられる。なお、Rが分岐アルキル構造やシクロアルキル構造を含むと、耐腐敗性を向上させる点で好ましく、例えば、N−シキロヘキシルジエタノールアミンが特に好ましい。本油剤においては、上記した成分は一種用いてもよく、二種以上を用いてもよい。
【0018】
上記した各アルカノールアミンと塩を構成する脂肪酸としては、例えば、炭素原子数6〜60のモノカルボン酸やジカルボン酸が挙げられる。具体的には、カプロン酸、カプリル酸、ノナン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リシノレイン酸、ヒドロキシ脂肪酸(例えば、リシノール酸、12−ヒドロキシステアリン酸等)、アラキン酸、ベヘン酸、メリシン酸、イソノナン酸、ネオデカン酸、イソステアリン酸、油脂より抽出された大豆油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、ナタネ油脂肪酸、石油より抽出されたナフテン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、モノまたはジヒドロキシアラキン酸等、さらにオレイン酸、リシノール酸、リシノレイン酸、12-ヒドロキシステアリン酸等の二量体、三量体等の合成脂肪酸が挙げられる。
特に好ましいカルボン酸としては、油剤の消泡性の観点および硬水安定性の観点より炭素原子数8〜10のカプロン酸、ノナン酸、イソノナン酸、デカン酸が、ジカルボン酸としては炭素原子数9〜12のノナン二酸、ウンデカン二酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。
特に上記したイソノナン酸は、油剤(原液)を水で希釈した時、固形物が液面にできるのを低減する効果(硬水安定性)に優れている。
また、脂肪酸の主鎖を構成するアルキル基としては耐腐敗性の点で分岐構造を有するものが好ましい。脂肪酸としては二塩基酸を用いた方が塩として用いた場合に防錆性に優れるが、後述する原液の安定性(不溶化しにくいこと)の観点より、二塩基酸と一塩基酸とを混合して使用することが好ましい。
なお、(C)成分のアルカノールアミン脂肪酸塩のpHは、8〜11となるものが防錆性の点で好ましい。ここで、pHは、イオン交換水に(C)成分を2.0容量%濃度になるように溶解し、室温にてpHメーター(DKKコーポレーション社製PHL−20)を用いて測定した値である。
【0019】
本発明の水溶性金属加工油剤は、前記(A)成分と(C)成分とから構成してもよいし、また、前記(B)成分と(C)成分とから構成してもよい。本油剤においては、前記した(A)成分と(B)成分とを併用して、(C)成分との3成分系として用いると、水で希釈した際の潤滑性、消泡性をより向上させるので特に好ましい。
【0020】
本油剤(原液)は、水を含有する油剤全量基準で、(A)成分および(B)成分を合わせた配合量(いずれかの成分だけでもよい)が5〜40質量%、(C)成分の配合量が30〜75質量%であることが好ましい。
(A)成分および(B)成分を合わせた配合量が5質量%未満であると、現場での本油剤使用時に水による希釈率が高すぎた場合、潤滑性の低下(摩擦係数の上昇)を招くおそれがある。一方、(A)成分および(B)成分を合わせた配合量が40質量%を超えると原液安定性が低下する。ここで、原液安定性とは、相分離、固体の不溶解、析出等で原液の均一性がなくなることをいう。
また、(C)成分の配合量が30質量%未満であると、現場での本油剤使用時に水による希釈率が高すぎた場合、防錆性の低下を招いてしまうおそれがある。一方、(C)成分の配合量75質量%を超えると原液安定性が低下する。
【0021】
原液調製用の水の割合は20〜75質量%が好ましい。水の割合が20質量%未満であると、(A)〜(C)成分の溶解が困難となり、原液の調製が煩雑となる。また、原液調製用の水の割合が75質量%を超えると、原液としての保管量や輸送量が過大となりハンドリング性が低下する。
なお、本油剤(原液)は、水で2〜200倍、好ましくは5〜100倍(容量)に希釈され金属加工用のクーラントとして使用される。
【0022】
ここで、(A)成分および(B)成分を合わせた配合量(いずれかの成分だけでもよい)と、(C)成分の配合量の質量比((A+B)/C)は、0.05以上、1.5以下が好ましく。0.1以上、1.2以下であることがより好ましい。この質量比が、0.05未満であると潤滑性の低下(摩擦係数の上昇)を招くおそれがある。一方、前記した質量比が、1.5を超えると防錆性の低下を招くおそれがある。
【0023】
また、本発明の水溶性金属加工油剤には、本発明の目的を阻害しない範囲で各種公知の添加剤を適宜配合することができる。例えば、極圧剤、油性剤、および消泡剤などである。
極圧剤としては、硫黄系極圧剤、リン系極圧剤、硫黄および金属を含む極圧剤、リンおよび金属を含む極圧剤が挙げられる。これらの極圧剤は一種を単独でまたは二種以上組み合わせて用いることができる。極圧剤としては、分子中に硫黄原子および/またはリン原子を含み、耐荷重性や耐摩耗性を発揮しうるものであればよい。分子中に硫黄を含む極圧剤としては、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チアジアゾール化合物、アルキルチオカルバモイル化合物、トリアジン化合物、チオテルペン化合物、ジアルキルチオジプロピオネート化合物などを挙げることができる。これらの極圧剤の配合量は、配合効果の点から、最終的な希釈液基準で、0.05〜0.5質量%程度となるように原液に配合される。
【0024】
油性剤としては、脂肪族アルコール、脂肪酸や脂肪酸金属塩などの脂肪酸化合物、ポリオールエステル、ソルビタンエステル、グリセライドなどのエステル化合物、脂肪族アミンなどのアミン化合物などを挙げることができる。これらの油性剤の配合量は、配合効果の点から、最終的な希釈液基準で、0.2〜2質量%程度となるように原液に配合される。
消泡剤としては、メチルシリコーン油、フルオロシリコーン油、ポリアクリレートなどを挙げることができる。これらの消泡剤の配合量は、配合効果の点から、最終的な希釈液基準で、0.004〜0.04質量%程度となるように原液に配合される。
【0025】
本発明の水溶性金属加工油剤は、前記したようにその使用目的に応じて適当な濃度になるよう適宜水に希釈して、切削加工や研削加工をはじめ、研磨、絞り、抽伸、圧延等の各種の金属加工分野に好適に利用することができる。そして、本発明の水溶性金属加工油剤は、希釈濃度によらず、潤滑性に優れ、さらに金属製品に対する防錆性や消泡性にも優れる。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
〔実施例1〜18、比較例1〜9〕
表1〜3に示す配合処方により水溶性金属加工油剤(原液)を調製した。各成分の詳細は以下の通りである。なお、本発明の(C)成分については、アルカノールアミン脂肪酸塩を構成するアルカノールアミンと脂肪酸を所定の当量比で事前に混合調製してから配合したが、表1〜3には各構成成分の配合量を示す。
【0027】
<(A)成分>
以下に示すブロックポリアルキレングリコールを用いた。
(1)HO(EO)−(PO)30−(EO)
(2)HO(EO)1.5−(PO)21−(EO)1.5
(3)HO(EO)13−(PO)30−(EO)13
【0028】
<(B)成分>
(1)C1225O(R’O)nH(第一工業製薬製 ノイゲンNL−Dash408)
(2)C1225O(PO)m(EO)nH(花王製 エマルゲンLS−106)
(3)CO(R’O)nH(EO=50モル%、三洋化成製 ニューポール50HB−260)
(4)C1021O(R’O)nH(第一工業製薬製 ノイゲンXL−70)
(5)C1327O(R’O)nH(第一工業製薬製 ノイゲンTDX−80D)
(6)C1633O(PO)(EO)10
(7)C1633O(PO)(EO)20
【0029】
<(C)成分>
(1)1−アミノ−2−プロパノール
(2)N−メチルジエタノールアミン
(3)N−シクロヘキシルジエタノールアミン
(4)トリエタノールアミン
(5)イソノナン酸
(6)粗ドデカン二酸(インビスタンジャパン社製Corfree M1:ドデカン二酸42%)
【0030】
<他の成分>
(1)C1021O(EO)nH(第一工業製薬製 ノイゲンSD−70)
(2)RO(EO)H(R:C12〜14)
(3)グリセリンR’O付加物(EO=67モル%)
(4)トリメチロールプロパン(EO)付加物
(5)1−ブトキシ−2−プロパノール
(6)その他(消泡剤等のパッケージ)
(7)原液調製用蒸留水
【0031】
前記した配合処方の原液をもとに、以下の各特性について評価を行った。評価結果を表1〜3に示す。
(1)潤滑性(摩擦係数)
原液を水道水で2容量%に希釈した後、下記に示す往復動摩擦試験により動摩擦係数を求めた。
<往復動摩擦試験の方法>
試験機 :往復動摩擦試験機(エーアンドディー社製)
試験片 :試験板SPCC SD、試験球SUJ−2(φ3/16インチ(4.8mm))
試験条件:液温 室温、振幅 40mm、速度40mm/s、荷重0.5kgf(4.9N)
【0032】
(2)防錆性(DIN51360−02−A準拠)
表1〜3に示した原液の濃度が2容量%となるようにイオン交換水で希釈した希釈液を用いて防錆試験(室温、2時間)を実施し、錆の発生を目視で確認した。
(3)消泡性
シリンダー法により評価した。具体的には、原液2mlをイオン交換水98mlにて2容量%に希釈した後、試料液100mlを100mlの共栓付きメスシリンダーに入れ、5秒間激しく振った後、目視にて、表面の泡が表面積の50%以下になるまでの時間を測定した。評価の基準は、以下の通りである。
○:20秒以内に表面積の50%以下まで消泡した。
×:20秒後にも表面積の50%を超えて泡が残った。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

1)A成分の代わりに、HO(EO)80−(PO)30−(EO)80Hを5.0質量%配合し、B成分の代わりに、C1021O(R’O)100H(第一工業製薬製 ノイゲンXL−1000F)を15.0質量%配合した。
2)B成分の代わりに、C1021O(R’O)100H(第一工業製薬製 ノイゲンXL−1000F)を20.0質量%配合した。
3)A成分の代わりに、HO(EO)80−(PO)30−(EO)80Hを5.0質量%、HO(EO)93−(PO)35.3−(EO)93Hを15.0質量%配合した。
【0036】
〔評価結果〕
表1〜2の結果からわかるように、実施例1〜18にかかる本発明の水溶性金属加工油剤は、いずれも潤滑性、防錆性および消泡性に優れている。特に、原液に対する水の希釈率が高い状態(2容量%)でも潤滑性が十分維持されていることが特徴的である。
これに対して、表3の結果より、比較例1〜9で用いた水溶性金属加工油剤は、本発明における必須成分を欠いているため、原液に対する水の希釈率が高い状態では、動摩擦係数がかなり高い。すなわち、高希釈時の潤滑性に劣ることがわかる。特に、比較例7〜9からわかるように、本発明のA成分やB成分とは構造が異なるタイプのポリアルキレングリコールを配合しても、高希釈時の潤滑性は不十分である。また、B成分のかわりに、EOのモル分率が100%のポリアルキレングリコールを用いた比較例4、5では、消泡性に劣っている。
なお、本実施例・比較例では、アルカノールアミン脂肪酸塩について、アルカノールアミンと脂肪酸を油剤中で混合することにより調製した。その結果、アミン/脂肪酸の当量比が3.0と高いものは、若干潤滑性が低下する傾向にあることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の水溶性金属加工油剤は、水で希釈して金属加工用クーラントとして切削加工や研削加工等の金属加工分野に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1)で示されるブロックポリアルキレングリコールおよび(B)下記式(2)で示されるポリアルキレングリコールモノエーテルのうち少なくともいずれか一種と、
HO(EO)−(PO)−(EO)H (1)
(EOは、−CHCHO−であり、POは、−CH(CH)CHO−または−CHCH(CH)O−である。(EO)、(PO)および(EO)の各単位は、ブロック的に結合している。aおよびcは1〜30の整数であり、bは5〜100の整数である。)
RO(R’O)H (2)
(Rは、炭素数が1〜30のアルキル基であり、R’Oは、POあるいはEOである。ただし、EOのモル分率は100%未満である。dは1〜50の整数である。)
(C)アルカノールアミン脂肪酸塩と、
を配合してなることを特徴とする水溶性金属加工油剤。
【請求項2】
請求項1に記載の水溶性金属加工油剤において、
前記(A)成分の質量平均分子量が500〜10000であることを特徴とする水溶性金属加工油剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の水溶性金属加工油剤において、
前記(A)成分におけるa、bおよびcが下記式(3)の関係を満たすことを特徴とする水溶性金属加工油剤。
(a+c)/(a+b+c)=0.1〜0.5 (3)
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の水溶性金属加工油剤において、
水を含有する油剤全量基準で、前記(A)成分および(B)成分を合わせた配合量が5〜40質量%、(C)成分の配合量が30〜75質量%であることを特徴とする水溶性金属加工油剤。
【請求項5】
請求項4に記載の水溶性金属加工油剤を水で2〜200倍(容量)に希釈した金属加工用クーラント。

【公開番号】特開2010−70736(P2010−70736A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267832(P2008−267832)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】