説明

水溶性金属加工油剤

【課題】切削性、安定性に優れ、被削材及び工作機械を汚染することが少ない水溶性金属加工油剤を提供すること。
【解決手段】下記の成分(A)〜(D)を含み、pH(5質量%水溶液)が8.5〜10.5である水溶性金属加工油剤。
(A)水又は水と基油の混合物、
(B)炭素数8〜22の脂肪族カルボン酸、炭素数10〜22のヒドロキシ脂肪族カルボン酸及び前記ヒドロキシ脂肪族カルボン酸の縮合物からなる群から選ばれる少なくとも1種、
(C)炭素数2〜8のヒドロキシ脂肪族カルボン酸、及び
(D)炭素数2〜10のアルカノールアミン。
さらに、上記の成分(A)〜(D)に成分(E)ポリオキシアルキレングリコールを含む水溶性金属加工油剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削加工、研削加工等の金属加工に適用できる、水で希釈して使用する水溶性金属加工用油剤に関する。特に被削材及び工作機械の汚れを防止できる水溶性金属加工油剤であり、ベアリング製造の際に使用するのに好適な水溶性金属加工油剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
切削、研削加工分野に広く使用される切削油剤には、鉱油をベースにした、不水溶性切削油剤と、鉱油、界面活性剤、有機アミン等を含有し、水に希釈して使用する水溶性切削油剤とがある。水溶性切削油剤においては、油剤の耐腐敗性能を向上させるために、防腐剤と呼ばれる化合物を添加したり、防腐効果のあるアミンを処方したりする。
例えば、油剤の耐腐敗性やさび止め性を向上させる目的で、N−アルキルアルカノールアミン、脂環式アミンおよび3級アミンを添加してなる水溶性金属加工油剤(特許文献1)が提案されている。しかし、これらの水溶性アミンを水溶性油剤の成分として使用すると耐腐敗性は向上するが、皮膚刺激性が強くなりすぎる問題が指摘されている。
【0003】
そのため、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N−メチルジエタノールアミンなどの皮膚刺激性が比較的低い3級水溶性アミンを上記水溶性アミンと併用することにより、水溶性油剤の長期間におけるさび止め性、耐腐敗性、および低皮膚刺激性を両立させる試みがなされている。しかしながら、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N−メチルジエタノールアミンを水溶性油剤の成分として使用すると、いずれも消泡性の問題が発生したり、また常温で固体状であるため作業性が悪い問題があった。
【0004】
そこで、高潤滑性を有し、長期間におけるさび止め性、耐腐敗性に優れ、しかも、低皮膚刺激性であり、消泡性が良好な水溶性油剤として、アルカノールアミン、有機カルボン酸、ポリエーテル類を含有する油剤が提案されている(特許文献2)。
一方、加工前の被削材には、保管時の錆を防ぐための防錆剤が塗布されている場合が多い。この防錆油は、切屑と共にクーラント中に混ざる。このとき、細かくなった切屑は粘性の高い防錆剤成分と共に被削材や工作機械に汚れとして付着しやすい状態になる。また加工時に発生する熱により、切削油剤成分の一部が水に溶けにくくなり、細かい切屑とともに、被削材や工作機械に付着し汚れとなる場合があった。
このように、従来の水溶性金属加工油剤は、被削材及び工作機械を汚染するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−285186
【特許文献2】特開2005−89570
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は、切削性、原液及び希釈液の安定性に優れ、被削材及び工作機械を汚染することが少ない水溶性金属加工油剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の以下に示す水溶性金属加工油剤を提供するものである。
1.下記の成分を含み、pH(5質量%水溶液)が8.5〜10.5である水溶性金属加工油剤。
(A)水又は水と基油の混合物、
(B)炭素数8〜22の脂肪族カルボン酸、炭素数10〜22のヒドロキシ脂肪族カルボン酸及び前記ヒドロキシ脂肪族カルボン酸の縮合物からなる群から選ばれる少なくとも1種、
(C)炭素数2〜8のヒドロキシ脂肪族カルボン酸、及び
(D)炭素数2〜10のアルカノールアミン。
2.さらに、(E)ポリオキシアルキレングリコールを含む上記1記載の水溶性金属加工油剤。
3.成分(B)が、カプリル酸、オレイン酸、ペラルゴン酸、ドデカン二酸、ひまし油脂肪酸、菜種油脂肪酸、及びひまし油脂肪酸縮合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1または2記載の水溶性金属加工油剤。
4.成分(C)がクエン酸及びリンゴ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1〜3のいずれか1項記載の水溶性金属加工油剤。
5.成分(D)が、モノイソプロパノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン及びメチルジエタノールアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1〜4のいずれか1項記載の水溶性金属加工油剤。
6.成分(E)のポリオキシアルキレングリコールがエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体であり、その数平均分子量が200〜10,000である上記2記載の水溶性金属加工油剤。
7.成分(A)が17.0〜95.9質量%、成分(B)が1.0〜30.0質量%、成分(C)が0.1〜5.0質量%、成分(D)が3.0〜30.0質量%、及び成分(E)が0.0〜18.0質量%である上記1〜6のいずれか1項記載の水溶性金属加工油剤。
8.さらに、アミン系殺菌剤、シリコン系消泡剤及びチアゾリン系防腐剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を0.1〜1.0質量%含有する上記1〜7のいずれか1項記載の水溶性金属加工油剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水溶性金属加工油剤は、切削性、原液及び希釈液の安定性に優れ、被削材及び工作機械を汚染することが少ない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の成分(A)は、水単独でも良いし、水と基油の混合物でも良い。
基油としては、例えば、鉱油、ポリオールエステル、油脂、ポリグリコール、ポリα−オレフィン、α−オレフィン、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、アルキルベンゼン、ポリエーテルなどが挙げられる。好ましくは、鉱油、ポリオールエステル、油脂、ポリグリコール、アルキルベンゼンである。これらは、単品でも複数種の混合物としても良い。本発明の組成物中、水と基油の合計量に対する基油の割合は、好ましくは0〜80質量%である。
【0010】
本発明の成分(B)は炭素数8〜22の脂肪族カルボン酸、炭素数10〜22のヒドロキシ脂肪族カルボン酸及び前記ヒドロキシ脂肪族カルボン酸の縮合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である。成分(B)の好ましい具体例としては、カプリル酸、オレイン酸、ペラルゴン酸、ドデカン二酸、ひまし油脂肪酸、菜種油脂肪酸、ひまし油脂肪酸縮合物が挙げられる。
【0011】
本発明の成分(C)は、炭素数2〜8のヒドロキシ脂肪族カルボン酸であり、水に溶けやすく、脂肪族オキシ酸とも呼ばれる。成分(C)の好ましい具体例としては、クエン酸、リンゴ酸が挙げられる。
本発明の成分(D)は炭素数2〜10のアルカノールアミンである。成分(D)の好ましい具体例としては、モノイソプロパノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミンが挙げられる。
【0012】
本発明において任意成分である成分(E)はポリオキシアルキレングリコールである。成分(E)の好ましい具体例としては、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのモル比率が5:95〜50:50のランダム共重合、交互共重合及びブロック共重合からなる少なくとも1種の共重合体であり、その数平均分子量が200〜10,000であるものが挙げられる。
【0013】
本発明の水溶性金属加工油剤において、各成分の含有量は、油剤(原液)全体に対して成分(A)が、好ましくは17.0〜95.9質量%、さらに好ましくは30〜80質量%、成分(B)が、好ましくは1.0〜30.0質量%、さらに好ましくは5〜25質量%、成分(C)が、好ましくは0.1〜5.0質量%、さらに好ましくは0.3〜3質量%、成分(D)が、好ましくは3.0〜30.0質量%、さらに好ましくは10〜25質量%、及び成分(E)が、好ましくは0.0〜30.0質量%、さらに好ましくは5〜20質量%である。
【0014】
成分(B)の含有量が上記範囲内にあると、特に切削性が優れている。
成分(C)の含有量が上記範囲内にあると、特に汚れ防止効果が優れている。
成分(D)の含有量が上記範囲内にあると、特に製品外観の安定性が優れている。
成分(E)の含有量が上記範囲内にあると、さらに製品外観の安定性が優れている。
【0015】
本発明の水溶性金属加工油剤は、さらに、アミン系殺菌剤、シリコン系消泡剤及びチアゾリン系防腐剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を、好ましくは0.1〜1.0質量%含有することができる。
本発明の水溶性金属加工油剤のpH(原液を水で20倍に希釈して25℃で測定)は、8.5〜10.5であり、好ましくは9〜10である。
本発明の油剤は所望の成分を所望量で混合することにより容易に製造することができる。
本発明の水溶性金属加工油剤は、水で5〜200倍程度に希釈して使用するのが一般的である。
【0016】
実施例1〜10及び比較例1〜10
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。下記表1及び表2に記載の配合組成で各金属加工油剤を調製した。表中の配合量は質量%である。
これらの油剤を以下の方法により評価した。結果を合わせて表1及び表2に示す。
【0017】
試験方法及び測定方法
pH測定
油剤の原液を水で20倍(5質量%)に希釈した油剤についてJIS Z 8802に準拠して測定する。
加工油剤原液の外観
油剤の原液を室温に24時間静置し、分離及び濁りを確認。
判定基準
合格 :〇(均一液状)
不合格 :×(油分の分離などの不均一液状)
加工油剤希釈液の外観
油剤の原液を水で20倍(5質量%)に希釈した油剤を室温に24時間静置した後、その外観を観察する。
判定基準
合格 :〇(均一液状)
不合格 :×(油分の分離などの不均一液状)
【0018】
汚れ評価試験方法
(A)試験クーラントの調製
油剤の原液を水で20倍に希釈した液500gに、ドライ切削により得られた鋳物(FC−200)切粉100gを入れて24時間攪拌した後、5A濾紙で濾過し、クーラントを調製する。
(B)汚れ物質の調製
ドライ切削により得られた鋳物(FC−200)切粉を150メッシュの金網でふるいにかけ、通過した鉄粉に鉱物油(VG46)5質量%を混ぜたものを汚れ物質とする。
(C)汚れ試験
(A)のクーラント400mlと(B)の汚れ物質2gを家庭用ミキサーに入れて3分間攪拌した後、1000mlのメスシリンダーに入れる。
(D)観察
1000mlのメスシリンダー中の試験液の泡が消泡した後、クーラント界面部内壁の汚れを観察する。
判定基準
合格 :〇(汚れなし)
不合格 :×(汚れあり)
【0019】
切削性試験
下記被削材を用い、下記条件にてφ6のタップ加工を行い、加工時に受ける切削抵抗(トルク[N・m])を測定する。
工具: OSG製 B−NRT RH7 M6×1.0
被削材: AC8B−T6
切削速度:10 m/min
送り: 1.0 mm/rev
下穴: 5.48 mmリーマ仕上げ,止まり穴
切削長: 20 mm
給油方法:下穴に試験油剤を充填
濃度: 原液を水で5質量%に希釈
判定基準
合格 :〇 切削トルクが2.40N・m 以下
不合格 :× 切削トルクが2.40N・m 超
【0020】
【表1】

【0021】
アミン系殺菌剤:ジシクロヘキシルアミン
ポリオキシアルキレングリコールA:
ポリオキシエチレン(POE)ポリオキシプロピレン(POP)ブロックポリマー
(化学構造は分子鎖中央にPOP鎖を有し、その両端にPOE鎖を有する。)
ポリオキシプロピレン鎖部分の数平均分子量:1750
ポリオキシエチレン鎖の占める割合:10質量%
凝固点:−30℃、
曇点(1質量%水溶液):24℃、
粘度(40℃):180 mPa・s
ポリオキシアルキレングリコールB:
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール
数平均分子量:2500、
ポリオキシエチレン鎖の占める割合:約28質量%
曇点(1質量%水溶液):43.2℃、
動粘度(40℃):190 mm2/s
【0022】
【表2】

【0023】
成分(A)〜(D)又は(A)〜(E)を含む本発明の実施例1〜10の油剤は、切削性、原液及び希釈液の安定性に優れ、かつ耐汚れ性に優れている。
これに対して、成分(B)を含まない比較例1及び10の油剤は、切削性及び耐汚れ性が劣っている。
成分(C)を含まない比較例2、4、6、8及び9の油剤は耐汚れ性が劣っている。
成分(D)を含まない比較例3、5及び7の油剤は原液及び希釈液の外観が劣り、耐汚れ性も劣っている。また、希釈液が不安定であり、切削性の評価はできなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分を含み、pH(5質量%水溶液)が8.5〜10.5である水溶性金属加工油剤。
(A)水又は水と基油の混合物、
(B)炭素数8〜22の脂肪族カルボン酸、炭素数10〜22のヒドロキシ脂肪族カルボン酸及び前記ヒドロキシ脂肪族カルボン酸の縮合物からなる群から選ばれる少なくとも1種、
(C)炭素数2〜8のヒドロキシ脂肪族カルボン酸、及び
(D)炭素数2〜10のアルカノールアミン。
【請求項2】
さらに、(E)ポリオキシアルキレングリコールを含む請求項1記載の水溶性金属加工油剤。
【請求項3】
成分(B)が、カプリル酸、オレイン酸、ペラルゴン酸、ドデカン二酸、ひまし油脂肪酸、菜種油脂肪酸、及びひまし油脂肪酸縮合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2記載の水溶性金属加工油剤。
【請求項4】
成分(C)がクエン酸及びリンゴ酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項記載の水溶性金属加工油剤。
【請求項5】
成分(D)が、モノイソプロパノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン及びメチルジエタノールアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4のいずれか1項記載の水溶性金属加工油剤。
【請求項6】
成分(E)のポリオキシアルキレングリコールがエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体であり、その数平均分子量が200〜10,000である請求項2記載の水溶性金属加工油剤。
【請求項7】
成分(A)が17.0〜95.9質量%、成分(B)が1.0〜30.0質量%、成分(C)が0.1〜5.0質量%、成分(D)が3.0〜30.0質量%、及び成分(E)が0.0〜18.0質量%である請求項1〜6のいずれか1項記載の水溶性金属加工油剤。
【請求項8】
さらに、アミン系殺菌剤、シリコン系消泡剤及びチアゾリン系防腐剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を0.1〜1.0質量%含有する請求項1〜7のいずれか1項記載の水溶性金属加工油剤。

【公開番号】特開2011−79956(P2011−79956A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233150(P2009−233150)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【Fターム(参考)】