説明

水溶液保持基板

【課題】 基板外部の光源から試料の生体由来物質に修飾された蛍光物質への励起光を効率よく収束照射させたり、励起された蛍光物質からの出射光を効率よく蛍光検出装置へ収束するための操作を良好にして、生体由来物質に修飾された測定用としての蛍光物質からの蛍光の収率を高めること。
【解決手段】 水溶液保持用基板は、上面に窪み1’を形成した基体1と、基体1の上面の窪み1’の開口の周囲に、窪み1’の開口との間に全周にわたって間隔を開けて形成した疎水性層5と、疎水性層5の内側の窪みの内面およびその周囲に形成した生体物質固定化層4とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば遺伝子工学、種苗、医薬品、食品等の分野における生体由来物質の測定や反応や振る舞い等を同時に取り扱うための多数のマイクロウェル(ウェル;窪み)を形成した水溶液保持基板に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子工学、種苗、医薬品、食品等の分野における生体由来物質の測定や反応や振る舞いを取り扱いに置いては乾燥による測定物の破壊や反応の異常等を阻止するために水溶液中に生体由来物質を保持してウェルと呼ばれる小型の試験管にて諸作業を行っていた。しかしながらウェルによる作業では数千から数十万通りの組み合わせのテストを行うには膨大な人手と時間が掛かっていた。
【0003】
そのため、大規模な作業を行う際は一枚のスライドガラス上の測定基板に多数のマイクロウェルと呼ばれる水溶液保持体をアレー状に配列したマイクロウェルスライドまたはマイクロウェルプレートと呼ばれる基板が使われている(図3参照)。
【0004】
このマイクロウェルスライドはガラスや樹脂等の基板21上に水溶液26を保持する親水性部分24とウェル間のコンタミを阻止するための疎水性部分25を形成している。
【0005】
このようなマイクロウェルスライドは1枚の基板21上に搭載されるウェル数の増加と保持される水溶液量の低減や生体由来物質に修飾されている測定のための蛍光物質からの蛍光強度を増加させるための工夫を要求されている。
【0006】
このため、下記の特許文献1では基板表面に多数の貫通穴を形成した疎水性シートを接合してマイクロウェルスライドを形成している。
【0007】
また、特許文献2では疎水性樹脂表面に親水性樹脂を積層した後、紫外線照射による化学反応を利用して不必要な親水性樹脂を除去すると共に疎水性樹脂を露出することにより、マイクロウェルスライドを得ている。
【0008】
また、市販品としてはスライドガラスに疎水性樹脂を印刷して2000個程度のウェルを形成したマイクロウェルスライドやスライドガラスにフッ素樹脂をコーティングした
ウェルスライドが販売されている。
【特許文献1】特開2004-212359号公報
【特許文献2】特開2004-267152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記技術においては共通の課題として、ウェルに保持している水溶液の表面張力によって水溶液表面が曲面状となりやすかった。よって、水溶液の種類や測定環境が変化すると水溶液表面の形状が変わりやすく、水溶液表面がわずかでも変形したりすると、水溶液中に進入する光や水溶液から出てゆく光が水溶液表面を通過する際に不規則な方向に屈折するため、光の進行方向がばらついて一定とならず、基板外部の光源から試料の生体由来物質に修飾された蛍光物質への励起光を効率よく収束照射させたり、励起された蛍光物質からの出射光を効率よく蛍光検出装置へ収束させるための操作が困難であった。このため、蛍光検出の効率が低いとともに、水溶液成分や基板の種類による測定バラツキが発生しやすかった。
【0010】
従って、本発明は以上の問題点を鑑みてなされたもので、基板外部の光源から試料の生体由来物質に修飾された蛍光物質への励起光を効率よく収束照射させたり、励起された蛍光物質からの出射光を効率よく蛍光検出装置へ収束するための操作を良好にして、生体由来物質に修飾された測定用としての蛍光物質からの蛍光の収率を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の水溶液保持用基板は、上面に窪みを形成した基体と、該基体の上面の前記窪みの開口の周囲に、前記窪みの開口との間に全周にわたって間隔を開けて形成した疎水性層と、該疎水性層の内側の前記窪みの内面およびその周囲に形成した生体物質固定化層とを具備していることを特徴とする。
【0012】
本発明の水溶液保持用基板において、好ましくは、前記基体の上面から順次被着した金属層およびガラス層の上面に前記生体物質固定化層を形成したことを特徴とする。
【0013】
本発明の水溶液保持用基板において、好ましくは、前記ガラス層は、SiOを主成分とすることを特徴とする。
【0014】
本発明の水溶液保持用基板において、好ましくは、前記疎水性層は、フッ素樹脂、ポリプロピレン樹脂、エポキシ樹脂、フェノールノボラック樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、およびポリエーテルエーテルケトン樹脂の少なくとも1種を主成分とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水溶液保持用基板は、上面に窪みを形成した基体と、この基体の上面の窪みの開口の周囲に、窪みの開口との間に全周にわたって間隔を開けて形成した疎水性層と、この疎水性層の内側の窪みの内面およびその周囲に形成した生体物質固定化層とを具備していることから、窪みに収容された生体由来物質を含む水溶液を窪みの開口部から外側に濡れ広がらせることによって、水溶液の表面を平坦状にすることができ、水溶液表面の形状を安定化することができる。よって、水溶液表面で屈折する光の進行方向のばらつきを小さくすることができ、水溶液保持用基板の外部の光源から水溶液に含まれる生体由来物質に修飾された蛍光物質への励起光を効率よく収束照射させたり、励起された蛍光物質からの出射光を効率よく蛍光検出装置へ収束させることが可能となる。その結果、蛍光検出の効率を高くすることができるとともに、水溶液成分や基板の種類による測定ばらつきを小さくすることができる。
【0016】
また、窪み部分と窪みの外側の平坦な部分とによる2つの集光機能をもつため、水溶液保持用基板の外部の光源から水溶液に含まれる生体由来物質に修飾された蛍光物質への励起光を収束照射させたり、励起された蛍光物質からの出射光を蛍光検出装置へ収束させる際のばらつきを互いの集光機能で補いあうことによって小さくすることができ、きわめて精度の高い測定を行なうことができる。
【0017】
本発明の水溶液保持用基板は、基体の上面から順次被着した金属層およびガラス層の上面に生体物質固定化層を形成したことから、金属層およびガラス層を鏡として機能させることができ、生体由来物質に修飾された蛍光物質から発せられた蛍光の集光効果をさらに向上させることができる。
【0018】
本発明の水溶液保持用基板は、ガラス層がSiOを主成分とすることから、SiOは緻密な面から粗い面まで自由にコントロールして層形成可能であり、金属層と生体物質固定化層をより安定に結合させることができるとともに、生体物質固定化層のガラス層上への被着状態を制御して生体物質固定化層の生体物質固定化機能を所望のものに容易に変化させることができる。
【0019】
本発明の水溶液保持用基板は、疎水性層は、フッ素樹脂、ポリプロピレン樹脂、エポキシ樹脂、フェノールノボラック樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、およびポリエーテルエーテルケトン樹脂の少なくとも1種を主成分としたことから、化学的にも熱的にも比較的安定なため、多くの種類の生体由来物質の測定が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に本発明の水溶液保持用基板を添付の図面に従って詳細に説明する。
【0021】
図1は本発明の水溶液保持用基板の実施の形態の一例の断面図である。図1において、1は基体、2は金属層、3はガラス層、4は生体物質固定化膜、5は疎水性層である。
【0022】
基体11はガラスや金属、セラミックス等の板であるが、これらに限定されず、表面を鏡面状に平坦化が可能であるとともに、生体物質の処理に関わる耐薬品性や耐熱耐湿性が満たされるならば何でも良い。
【0023】
基体11には窪み1’が形成されている。窪み1’は生体由来物質を含む水溶液6を保持するためのものであり、いわゆるウェルと呼ばれるものである。窪み1’の形状は特に限定されないが、内面は曲面状であるのがよい。好ましくは、下側に行くに伴って(深くなるに伴って)内寸法が小さくなるような縦断面形状が放物線状であるのがよい。これにより、生体由来物質に修飾された蛍光体から発する蛍光の反射光を指向性高く窪み1’直上に反射することができ、蛍光の利得が特に高くなる。
【0024】
好ましくは、窪み1’の開口において、窪み1’の内面と基体1の上面との成す角度が
5〜40度であるのがよい。40度を超える場合、窪みの曲率が小さくなるため、窪みによる集光効果は低くなる。5度未満の場合、窪み1’の作成において、量産性の高い金型加工による成形が困難となる。
【0025】
生体物質固定化膜4はアミノアルキルシランやポリ−L−リジン等からなり、生体由来物質を良好に吸着するが可能な親水性物質である。好ましくは、アミノ基,アルデヒド基,メルカプト基,シラン基およびカルボキシル基のうちの少なくとも1種を有しているものがより好ましい。これにより、蛋白質や細胞などの生体物質の吸着性を高めることができ、より多くの生体物質を固定して検出精度を高めることができる。
【0026】
生体物質固定化膜4は基体1の上面に直接被着させてもよく、基体1の上面に金属層やガラス層を介して被着させてもよい。
【0027】
好ましくは、基体の上面から順次被着した金属層2およびガラス層3の上面に生体物質固定化層4を形成するのがよい。これにより、金属層2およびガラス層3を鏡として機能させることができ、生体由来物質に修飾された蛍光物質から発せられた蛍光の集光効果をさらに向上させることができる。
【0028】
金属層2は、蛍光を反射可能であるとともに、ガラス物質との密着性がよく、耐薬品性を有する金属が用いられ、好ましくは、Cr、Ti、Ni−Cr合金、Fe−Cr−Ni合金のうちの少なくとも一種を主成分とするものであるのがよい。これにより、蛍光の反射率を非常に高くすることができるとともに、ガラス層3と金属層2との密着性を非常に高くすることができ、さらに金属層2の表面に安定な不導体皮膜が形成されるので金属層2の耐薬品性を非常に高くすることができる。
【0029】
また、金属層2の厚みについては、光を透過するアイランド構造から光を透過しない膜構造に成長する0.1μm以上が良い。特に0.2μm程度で有れば、比較的膜密着性も高くなる。また、1μmを超えると、成膜方法にもよるが膜の内部応力により基体1から膜剥がれが生じやすくなるため、1μm以下の厚みがよい。
【0030】
さらに成膜条件の選定に当たっては平滑性を考慮した成膜条件の限定が必要である。金属層2の平滑性は基体1表面の平滑性も含めてRaが0.05μm以下であるのがよい。これにより、蛍光の乱反射を抑制して蛍光の利得を高めることができる。
【0031】
ガラス層3は透明質であり、かつ、蛍光の波長の吸収が無く、生体固定化層4が良く固着される物質であれば何でも良い。特に生体物質に修飾される蛍光体の発光波長の1/2の厚みであれば干渉による吸収が生じ、また、蛍光体の波長の1/4の厚みであれば光の干渉による増幅が有るために僅かな膜厚みのばらつきが蛍光強度の測定のばらつきを大きくするので蛍光波長の4分の1よりも小さい厚みであるのがよい。
【0032】
また、ガラス層3はSiOを主成分とするのがよい。なお、本発明において、SiOを主成分とするとはSiOを70質量%以上含む物質をいう。これにより、アミノアルキルシランやポリ−L−リジンなどの一般的な生体固定化膜はほとんどのものが使用可能となる。また、SiOは緻密な面から粗い面まで自由にコントロールして層形成可能であり、金属層2と生体物質固定化層4をより安定に結合させることができるとともに、生体物質固定化層4のガラス層3上への被着状態を制御して生体物質固定化層4の生体物質固定化機能を所望のものに容易に変化させることができる。
【0033】
疎水性層5は、基体1、金属層2、またはガラス層3の表面に疎水性物質をコートする等の方法によって表面を疎水性化することにより形成される。疎水性膜5としては、例えば疎水系の樹脂疎水性物質や有機フッ化物、無機フッ化物等である。このような疎水性層5は、高い疎水性を示すため、生体物質固定化基板上にスポットされた生体物質溶液が広がる現象を有効に阻止することができる。このため、生体物質を含む溶液のスポットの面積が大きくならないため、生体物質固定化密度の低下が発生しないとともに高アレー化が可能になる。
【0034】
好ましくは、疎水性層5は、フッ素樹脂、ポリプロピレン樹脂、エポキシ樹脂、フェノールノボラック樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、およびポリエーテルエーテルケトン樹脂の少なくとも1種を主成分とするのがよい。これらは化学的にも熱的にも比較的安定なため、多くの種類の生体由来物質の測定が可能である。
【0035】
疎水性層5と窪み1’の開口との間の間隔は、窪み1’の開口径の1.1〜3倍であるのがよい。1.1倍未満であると疎水性層5と窪み1’の開口とが接近し、窪み1’に収容された生体由来物質を含む水溶液6を窪み1’の開口部から外側に濡れ広がらせることによって、水溶液の表面を平坦状にする効果が小さくなる。また、3倍を超えると窪み1’に保持された水溶液6の占める面積部分が大きくなり過ぎる傾向があり、アレーにした際の水溶液保持体数が少なくなりやすい。
【0036】
さらに、図2は本発明の水溶液保持用基板の実施の形態の他の例を示す部分断面図であるが、このようにガラス層3の成膜条件を制御して、金属層2上に隣接粒子との隙間の多い多数のガラス柱状体を成長させて成るガラス層3とするのがよい。これにより、ガラス層3の表面積がきわめて大きくなるため、固定化される生体物質量が飛躍的に増大して、蛍光の利得がより高まる。
【0037】
このような金属層2の上面に成長された多数のガラス柱状体から成るガラス層3は、例えば、低温高ガス圧力スパッタリングや斜め蒸着することによって作製される。
【0038】
なお、本発明は上述の最良の形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことは何等差し支えない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の水溶液保持基板の実施の形態の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の水溶液保持基板の実施の形態の他の例における部分拡大断面図である。
【図3】従来の水溶液保持基板の断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1:基体
2:金属層
3:ガラス層
4:生体物質固定化層
5:疎水性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に窪みを形成した基体と、該基体の上面の前記窪みの開口の周囲に、前記窪みの開口との間に全周にわたって間隔を開けて形成した疎水性層と、該疎水性層の内側の前記窪みの内面およびその周囲に形成した生体物質固定化層とを具備していることを特徴とする水溶液保持用基板。
【請求項2】
前記基体の上面から順次被着した金属層およびガラス層の上面に前記生体物質固定化層を形成したことを特徴とする請求項1記載の水溶液保持用基板。
【請求項3】
前記ガラス層は、SiOを主成分とすることを特徴とする請求項1または請求項2記載の水溶液保持用基板。
【請求項4】
前記疎水性層は、フッ素樹脂、ポリプロピレン樹脂、エポキシ樹脂、フェノールノボラック樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、およびポリエーテルエーテルケトン樹脂の少なくとも1種を主成分とすることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の水溶液保持用基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−208139(P2006−208139A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19479(P2005−19479)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】