説明

水硬性材料およびそれを用いた補修方法

【課題】ドライモルタルに混合したときの分散性が良く、初期ひび割れ抵抗性の高い玄武岩繊維を含有する水硬性材料およびそれを用いた補修方法を提供する。
【解決手段】セメント、カルシウムアルミネート、セッコウ、および溶融紡糸した玄武岩繊維を含有する水硬性材料であり、セメント100部に対して溶融紡糸した玄武岩繊維0.1〜10部を含有する水硬性材料である。さらに、凝結調整剤、骨材を含有する水硬性材料である。また、前記水硬性材料を用いた補修方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木・建築分野において使用する水硬性材料およびそれを用いた補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木、建築分野では、ポルトランドセメントなど多くの水硬性材料が使用されているが、大きな課題の一つにひび割れが入り易いことが知られている。ひび割れの発生要因としては、材料や配合に起因するもの、施工に起因するもの、外力に起因するもの、および環境条件に起因するものがある。特に、環境条件に起因するひび割れは、温度、湿度、通風の影響で水分逸散速度が増大し、硬化する前あるいは硬化初期に発生する初期ひび割れが問題となる場合がある。特に、屋外での施工や適切な養生が行えない場所での注意が必要である。
初期ひび割れを低減する方法としては、散水養生、シート養生などで水分逸散を抑制する方法があるが、これらの対策ができない場合は、エマルジョン系の被膜養生剤を散布することや材料自体に初期ひび割れ抵抗性を持たせることが行われている。材料自体に初期ひび割れ抵抗性を持たせる方法の1つとしては、短繊維を混入する方法がある(非特許文献1)。
【非特許文献1】浜田敏裕、末森寿志、斎藤忠、平居孝之、ビニロン短繊維によるコンクリートのプラスチック収縮ひび割れ抑制に関する実験的研究、コンクリート工学年次論文集、vol.22、No.2、pp.319−324、2000
【0003】
短繊維には、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維などの有機繊維、鋼繊維、炭素繊維、ガラス繊維、ロックウールなどの無機繊維が一般的に知られている。
これら短繊維は、ドライモルタルへの均一混合ができない場合がある。人造鉱物繊維を水硬性材料へ混合する場合は、吹き飛ばしてウール状にしたものではなく紡糸して繊維化したものが好ましく、例えば、石炭灰を数千度の高温で溶融紡糸して繊維化したフライアッシュファイバーで強化したセメント複合材料が知られている(特許文献1、2)。また、玄武岩を1500〜1600℃で溶融紡糸し繊維化する製造方法がある(特許文献3)。
【特許文献1】特開平06−340461号公報
【特許文献2】特開平06−340462号公報
【特許文献3】特表平09−500080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ドライモルタルに混合したときの分散性が良く、初期ひび割れ抵抗性の高い玄武岩繊維を含有する水硬性材料およびそれを用いた補修方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、(1)セメント、カルシウムアルミネート、セッコウ、および溶融紡糸した玄武岩繊維を含有する水硬性材料、(2)セメント100部に対して溶融紡糸した玄武岩繊維を0.1〜10部含有する(1)の水硬性材料、(3)さらに、凝結調整剤を含有する(1)または(2)の水硬性材料、(4)さらに、骨材を含有する(1)〜(3)のいずれかの水硬性材料、(5)(1)〜(4)のいずれかの水硬性材料を用いた補修方法、である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ドライモルタルに混合したときの分散性が良く、初期ひび割れ抵抗性が高い水硬性材料が得られ、それを用いた補修が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下,本発明を詳細に説明する。
なお、本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【0008】
本発明で使用するセメントとは、JIS R 5210に規定されている各種ポルトランドセメント、JIS R 5211、JIS R 5212、およびJIS R 5213に規定された各種混合セメント、JISに規定された以上の混和材混入率で製造した高炉セメント、フライアッシュセメントおよびシリカセメントや、石灰石粉末などを混合したフィラーセメントから選ばれる1種又は2種以上などが挙げられる。
【0009】
本発明で使用するカルシウムアルミネートとは、CaO原料とAl原料などを混合したものをキルンで焼成したり、電気炉などで溶融したりして得られるものである。その組成としては、CaOが63〜21%、Alが37〜79%の範囲内にあるものが好ましい。アルミナセメントも本発明のカルシウムアルミネートに含まれる。カルシウムアルミネートの鉱物成分としては、例えば、CaOをC、AlをAとすると、CA、C12、CA、およびCAなどで示されるものが挙げられ、これらの1種または2種以上を併用することができる。さらに、その他の鉱物成分として、ナトリウム、カリウム、およびリチウムなどのアルカリ金属塩が一部固溶したカルシウムアルミネートなどが挙げられる。また、SiOを含有するアルミノケイ酸カルシウム、SO成分を含むC・SOも同様に使用できる。
【0010】
本発明で使用するカルシウムアルミネートの粒度は、ブレーン値で3000cm/g以上が好ましい。3000cm/g未満だと水和活性が低下する場合がある。カルシウムアルミネートの結晶化度は、特に限定されるものではなく、結晶質および非晶質いずれも使用できる。
【0011】
本発明で使用するセッコウとは、強度発現性を向上させるために使用する。セッコウとしては、無水セッコウ、半水セッコウ、およびニ水セッコウなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上を併用することができる。これらの中では、強度発現性の点で無水セッコウの使用が好ましい。
【0012】
本発明で使用するセッコウの使用量は、カルシウムアルミネート100部に対して、30〜300部が好ましく50〜200部がより好ましい。30部未満では、強度発現を改善できない場合があり、300部を超えると初期強度発現性が悪くなる場合がある。
【0013】
本発明で使用する玄武岩繊維とは、天然の玄武岩を原料とし、高温で溶融紡糸した非晶質の人造鉱物繊維である。玄武岩繊維は、有機繊維に比べ耐熱性に優れ、ガラス繊維やロックウールに比べ耐薬品性に優れ、密度が2.8g/cm程度であることから、ドライモルタルと同程度であり、均一混合性に優れるという特徴がある。
【0014】
本発明で使用する玄武岩繊維の繊維径は、2〜50μmが好ましく、7〜20μmがより好ましい。2μmより小さいと安定的に製造することが困難であり、50μmを超えると初期ひび割れ低減効果が低下する場合がある。また、玄武岩繊維の繊維長は、2〜15mmが好ましく、5〜10mmがより好ましい。2mmより小さいと初期ひび割れ低減効果が小さく、15mmを超えるとドライモルタルに混合したときの分散性が悪くなる場合がある。玄武岩繊維は、溶融紡糸した時の繊維が単独にほぐれた単繊維状態(繊維径としては0.1mm以上となる)ではなく、セメントや砂と混合したときに分散性に支障をきたさない程度の接着力を有する接着剤で繊維径50μm以下の単繊維を束状にした収束タイプのものを使用することが好ましい。適度に接着力のある収束状態にすることで、ドライモルタルと混合したときに簡単にほぐれて均一な混合が可能となる。
【0015】
本発明で使用する玄武岩繊維の使用量は、セメント100部に対して、0.1〜10部が好ましく、0.3〜5部がより好ましい。0.1部未満では、初期ひび割れ低減効果が期待できず、10部を超えると均一な混合ができなくなる場合がある。
【0016】
本発明では、本発明の水硬性材料の性能に影響を与えない範囲内で、各種有機繊維、炭素繊維、鋼繊維などの玄武岩繊維以外の繊維を併用して使用することも可能である。
【0017】
本発明で使用する凝結調整剤とは、凝結時間をコントロールするものであり、主に凝結遅延剤を使用するものであるが、凝結促進剤と併用して使用しても構わない。
凝結遅延剤としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、これらのアルカリ金属塩などのオキシカルボン酸塩や、蔗糖、ブドウ糖、果糖などの糖類、トリポリリン酸塩などのリン酸塩類などが挙げられる。
凝結促進剤としては、アルカリ金属の炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、アルミン酸塩、水酸化物、ケイ酸塩、ギ酸塩、消石灰などが挙げられる。
【0018】
本発明で使用する凝結調整剤の使用量は、特に限定されるものではなく、使用する環境条件や用途によって変わり、その種類や使用量は各種性能に悪影響を与えない範囲で使用すればよい。
【0019】
本発明で使用する骨材とは、通常の砂、砂利の他に、例えば、ケイ砂系や石灰石系などの天然骨材、高炉水砕スラグ系、高炉徐冷スラグ系、再生骨材系などの人工骨材が挙げられる。耐酸性などの観点からは、ケイ砂系を選定することが好ましい。また、比重3.0g/cm以上の重量骨材を使用することもでき、その具体例としては、例えば、人工骨材として、電気炉酸化期スラグ系骨材や、フェロニッケルスラグ、フェロクロムスラグ、銅スラグ、亜鉛スラグおよび鉛スラグなどを総称する非鉄精錬スラグ骨材などが、また、天然骨材としては、橄欖岩(かんらん岩)系骨材、いわゆるオリビンサンドや、エメリー鉱などが挙げられる。本発明では、これらの1種または2種以上を併用できる。
【0020】
本発明の水硬性材料は、水を加えて練り混ぜて使用するものであり、使用する水の量は、特に限定されるものではないが、セメント100部に対して、通常、30〜60部が好ましい。
【0021】
本発明の水硬性材料の初期ひび割れ抵抗性に影響を与えない範囲で、一般に使用される減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、セメント混和用ポリマーディスパージョン、消泡剤、防錆剤、防凍剤、増粘剤、抗菌剤などの各種セメント混和剤や、シリカフューム、フライアッシュ、スラグ、粘土鉱物などの無機粉末を併用することができる。
【0022】
本発明の水硬性材料は、主に土木及び建築分野において使用されるものであるが、特に、乾燥の影響を受けやすい部位へ適用しても初期ひび割れが抑制されるので、例えば、建築物の外壁、鉄道や道路の橋梁、ンネル等の補修材としての適用が好ましい。補修方法としては、例えば、コンクリートの劣化した箇所をはつり取った後、断面修復する工事が挙げられる。この工事では、通常、コテ塗り工法、吹付け工法、グラウト工法などの方法で施工することができ、いずれの工法にも本発明の水硬性材料は適用できる。
【実施例1】
【0023】
セメント100部に対して、カルシウムアルミネート10部、セッコウ10部、さらに、玄武岩繊維と骨材(砂)をセメント100部に対して表1に示す割合でドライ混合したときの繊維の分散性について評価した。なお、比較のためにビニロン繊維についても同様に行った。結果を表1に示す。
【0024】
(使用材料)
セメント:普通ポルトランドセメント、電気化学工業社製
カルシウムアルミネート:CaO40%、Al60%組成、非晶質、ブレーン比表面積5800cm/g
セッコウ:無水セッコウ、ブレーン比表面積4900cm/g、市販品
骨材:新潟県青海産石灰砂、最大粒径1.0mm
玄武岩繊維:繊維径10μm、繊維長6mm、収束タイプ、天然の玄武岩を高温で溶融紡糸した非晶質の人造鉱物繊維、市販品
ビニロン繊維:繊維径14μm、繊維長6mm、収束タイプ、市販品
【0025】
(試験方法)
分散性:容量50リットルの傾胴ミキサーにセメント10kgを投入し、骨材(砂)と玄武岩繊維を表1に示す量(セメント100部に対しての部)を加え、15分間攪拌した。得られたドライ混合物を1mの正方形容器に移し、同じ面積になるように9分割した。各分割した部分から500gサンプリングし、2.5mmの篩でドライ混合物を篩い、篩に残った玄武岩繊維の質量を計測し、その平均値と標準偏差から変動係数を算出し分散性を評価した。
外観:混合物を正方形容器に移したときに目視観察し、ファイバーボール(繊維が絡まって球状の固まりになったもの)などの有無を確認した。
【0026】
【表1】

【0027】
表1より、本発明の水硬性材料は、セメント、カルシウムアルミネート、セッコウ、骨材(砂)、玄武岩繊維をドライモルタルとして混合したときファイバーボールが無く、分散性が良いことが分かる。
【実施例2】
【0028】
実施例1の材料を使用し、セメント100部に対して、玄武岩繊維またはビニロン繊維0.3部、骨材(砂)200部、さらに、カルシウムアルミネートとセッコウの混合物(カルシウムアルミネート100部に対してセッコウ100部の混合物)を表2に示すように加え、ドライモルタルを調製した。そのドライモルタル中のセメント100部に対して水を55部加え20秒間練り混ぜた後、横30cm×縦30cm×厚さ6cmのコンクリート平板に厚み1cmとなるようにすばやく打設した。打設完了した試験体は、湿度60%、温度5℃の環境下において、送風機で風速1〜3mの風を当てた状態で1日後のひび割れ状況を確認した。結果を表2に示す。
【0029】
(試験方法)
全ひび割れ長さ:発生したひび割れに沿って長さを計測した。
【0030】
【表2】

【0031】
表2より、本発明の水硬性材料は、初期ひび割れ抵抗性が高いことが分かる。
【実施例3】
【0032】
セメント100部に対して、玄武岩繊維を0.3部、骨材(砂)を200部、カルシウムアルミネート100部にセッコウを表に示す割合で混合した混合物を10部加え、ドライモルタルを調製し、圧縮強度を測定したこと以外は実施例2と同様に行った。結果を表3に示す。
【0033】
(試験方法)
圧縮強度:JIS R 5201に準拠、養生は湿度60%、温度5℃
【0034】
【表3】

【0035】
表3より、本発明の水硬性材料は、初期ひび割れ抵抗性が高く、強度発現性が良好であることが分かる。
【実施例4】
【0036】
セメント100部に対して、骨材(砂)を200部、カルシウムアルミネート100部にセッコウを100部混合した混合物を10部、玄武岩繊維を表4に示すように加え、ドライモルタルを調製したこと以外は実施例2と同様に行った。結果を表4に示す。
【0037】
【表4】

【0038】
表4より、本発明の水硬性材料は、初期ひび割れ抵抗性が高いことが分かる。
【実施例5】
【0039】
実験No.2-6のドライモルタルに凝結調整剤をセメント100部に対して表5に示すように加えドライモルタルを調製し、可使時間を測定したこと以外は実施例2と同様に行った。結果を表5に示す。
【0040】
(使用材料)
凝結調整剤:市販のクエン酸と炭酸カリウムの混合物(混合比=50部:50部)
【0041】
(試験方法)
可使時間:練り混ぜてからコテ均し作業ができなくなる時間を目視で判断した。環境条件は湿度60%、温度5℃。
【0042】
【表5】

【0043】
表5より、本発明の水硬性材料は、可使時間を調整することが可能であり、初期ひび割れ抵抗性が高いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、ドライモルタルに混合したときの分散性が良く、初期ひび割れ抵抗性が高い水硬性材料が得られる。また、本発明の水硬性材料をコンクリートの補修分野などに幅広く適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、カルシウムアルミネート、セッコウ、および溶融紡糸した玄武岩繊維を含有する水硬性材料。
【請求項2】
セメント100部に対して溶融紡糸した玄武岩繊維を0.1〜10部含有する請求項1記載の水硬性材料。
【請求項3】
さらに、凝結調整剤を含有する請求項1または2記載の水硬性材料。
【請求項4】
さらに、骨材を含有する請求項1〜3記載のいずれか1項に記載された水硬性材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載された水硬性材料を用いた補修方法。

【公開番号】特開2007−290912(P2007−290912A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120779(P2006−120779)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】