説明

水硬性組成物及びその製造方法

【課題】セメントの物性を変化させないごく少量の添加剤の使用により、六価クロムの固定能力が著しく向上した六価クロム固定化用水硬性組成物の提供。
【解決手段】水硬性材料に対し、単体硫黄を、水硬性組成物中の結合性成分の乾燥重量に対し10ppm以上配合したことを特徴とする六価クロム固定化用水硬性組成物。
水硬性組成物の製造工程中、水硬性材料の粉砕前から混練までのいずれかの段階において、単体硫黄を、水硬性組成物中の結合性成分の乾燥重量に対し10ppm以上配合することを特徴とする六価クロム固定化用水硬性組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六価クロム固定能力に優れた水硬性組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有害物質を含んだ廃棄物の処理の際には、何らかの手段による無害化が義務づけられている。セメントは、重金属等の有害物質を固定する能力があるため、有害廃棄物の固化処理に利用されているが、一般の重金属は99.99%以上固定できるのに対して、六価クロムについては若干固定率が低いといわれている。
【0003】
六価クロムの固定率向上のためには、高炉スラグの添加などが有効であるが、セメントの水和初期には効果が低く、また、六価クロム固定率も99.0%程度であり、更なる固定率の向上が望まれていた。また、セメントに硫酸第一鉄(FeSO4)等の還元剤を添加することにより、六価クロムを難溶性の三価クロムへ還元するという技術もあるが、セメントの貯蔵期間が長いと硫酸第一鉄の効果が低下すること、セメントが硬化した後は効果が落ちることなどの問題があり、また添加量が多いとセメントの凝結が遅延するなど、セメントの物性にも悪影響があった。このようなことから、より少量の添加剤の使用で長期間効果を発揮し得る、かつセメントの物性に影響を及ぼすことのない、セメント中の六価クロムを固定する技術の開発が望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って本発明の目的は、セメントの物性を変化させないごく少量の添加剤の使用により、六価クロムの固定能力が著しく向上した水硬性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる実情に鑑み本発明者らは、六価クロムの固定能力に優れた水硬性組成物を開発すべく鋭意研究を行った結果、酸化数4以下の硫黄原子を有する物質を水硬性材料に配合すれば、上記欠点がなく、六価クロムの固定能力に優れた水硬性組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち本発明は、水硬性材料に対し、単体硫黄を、水硬性組成物中の結合性成分の乾燥重量に対し10ppm以上配合したことを特徴とする六価クロム固定化用水硬性組成物を提供するものである。
【0007】
また、本発明は、水硬性組成物の製造工程中、水硬性材料の粉砕前から混練までのいずれかの段階において、単体硫黄を、水硬性組成物中の結合性成分の乾燥重量に対し10ppm以上配合することを特徴とする六価クロム固定化用水硬性組成物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水硬性組成物は、添加剤の量がわずかでも六価クロムを固定する能力が高い。また、この効果は、水硬性材料が硬化する前から発現し、硬化後も持続する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明における六価クロムの固定の作用機構は、硫黄物質により六価クロムが還元され三価クロムへ転換することによるものと考えられる。六価クロムは水溶性が高いことが知られており、水硬性組成物に含まれる場合には、その硬化前はもちろん、組織が緻密化した硬化後もわずかではあるが溶出する。一方、三価クロムは難溶性であり、特にセメントのような高pHの状態では容易に沈殿し、硬化前であっても系外へ溶出することはほとんどない。
【0010】
本発明で用いられる硫黄物質としては、酸化数0である単体硫黄のほか、硫化物、チオ酸等の酸化数−2の硫黄化合物、ハロゲン化硫黄等の酸化数2の硫黄化合物、亜硫酸塩等の酸化数4の硫黄化合物が例示され、これらは単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。これら硫黄物質の添加による六価クロムの還元効果は、その硫黄原子の酸化数に依存しており、酸化数が低いものほど還元効果は大きく、少量の添加で六価クロム還元効果を発現する。このため、上記硫黄物質のうち、酸化数のより低いもの、特に単体硫黄、硫化物及びチオ酸が好ましい。
【0011】
また本発明で用いられる硫黄物質を含有する組成物の好適な例として、溶融スラグが挙げられる。溶融スラグとしては、都市ゴミ溶融スラグ、下水汚泥溶融スラグ等、各種廃棄物を溶融処理して得られるものを利用することができ、これにより廃棄物の有効利用にも資することができる。
【0012】
硫黄物質による還元効果が発現する時期は、その粉末度に依存しており、早期に六価クロムを還元する必要がある場合には、使用する硫黄物質又はこれを含有する組成物の粉末度を高くすることが望ましい。好ましい粉末度はブレーン比表面積3000〜15000cm2/g、特に好ましくは9000〜15000cm2/gである。
【0013】
硫黄物質を配合する対象である水硬性材料としては、セメントが挙げられ、より具体的には、ポルトランドセメント、ジェットセメント、アルミナセメント、白色セメント、混合セメント、ビーライトセメント、エコセメント等が挙げられる。ここで、ポルトランドセメントには、普通ポルトランドセメントを始めとして、早強、中庸熱、白色、超早強、耐硫酸塩セメント等が包含され、ジェットセメントには、カルシウムフルオロアルミネートを含有する超速硬セメント、混合セメントには、スラグセメント、フライアッシュセメント、シリカセメント、高炉スラグセメント、石灰石微粉末含有セメント等が包含される。ビーライトセメントは、低発熱性を有する特殊セメントであり、エコセメントは、都市ゴミ焼却灰、下水汚泥焼却灰等の廃棄物焼却灰の一種以上を原料としてなる焼成物であって、カルシウムクロロアルミネート、カルシウムフルオロアルミネート、カルシウムアルミネートの一種以上及びカルシウムシリケートを含む焼成物からなるセメントである。
【0014】
本発明の水硬性組成物中の硫黄物質の含有量は、単体硫黄に換算して、水硬性組成物中の結合性成分の乾燥重量に対し10ppm以上とすることが、六価クロムを効果的に固定するために好ましく、更に100ppm以上、特に1000ppm以上とすることが好ましい。なお、ここでいう結合性成分とは、水硬性組成物中のセメント成分、高炉スラグ、潜在水硬性物質等の水との共存下で結合機能を有する成分をいう。
【0015】
本発明の水硬性組成物は、上記結合性成分のほか、非結合性成分を含有するものであってもよく、非結合性成分としては、砂、砂利、又はその代替として使用される石炭灰、溶融スラグ等の各種細骨材、粗骨材を挙げることができる。また、硫酸第一鉄等の還元剤を非結合性成分として添加してもよい。特に硫酸第一鉄は、まだ固まらない本発明の水硬性組成物と廃棄物との混合物中のクロムの還元増強効果がある。
【0016】
本発明の水硬性組成物には、更に、レオロジー特性の向上、防錆、その他の目的のために、通常用いられるAE剤、AE減水剤、減水剤、高性能減水剤、凝結調整剤、防錆剤等の各種混和剤を併用してもよい。
【0017】
また、硫黄物質の配合による六価クロムの還元効果は、その配合時又は配合後の水硬性材料の温度にも依存し、当該温度を35〜110℃とするのが好ましい。添加温度が35℃未満では六価クロム還元効果が低く、添加温度が110℃を超えると、水硬性材料中の硫酸アルカリが脱水し、物性に悪影響を与える。
【0018】
硫黄物質又はこれを含有する組成物の水硬性材料への添加時期は、特に限定されず、水硬性材料の粉砕前から水との混練までのいずれかの段階でよいが、水硬性材料がセメントの場合、粉砕時のセメントミル内の温度は通常90〜110℃程度に制御されており、上述した六価クロムの還元効果と温度との関係の点からも、水硬性材料の粉砕前に又はこれと同時に添加すれば、その後の粉砕時に上記温度に加熱されるため、別途熱源を必要とせず、好ましい。
【0019】
本発明が適用可能な、六価クロムを含む有害廃棄物としては特に限定されないが、ゴミ焼却灰等から発生する各種粉塵、汚泥や都市ゴミの焼却で発生する各種焼却灰、金属やプラスチック、廃水処理や下水処理で発生する各種汚泥、各種廃液等が挙げられる。
【0020】
本発明の水硬性組成物を用いて有害物質を固定化するには、本発明の水硬性組成物中の結合性成分と有害廃棄物をあらかじめ混合しておき、そこへ混練水を加えて混練し、必要に応じて非結合性成分を添加するのが代表的な方法である。有害廃棄物の性状等により上記手順では十分な混合ができないときは、本発明の水硬性組成物、有害廃棄物及び混練水を同時に混合することも可能である。また、有害廃棄物と水を予め混合しておき、これに本発明の水硬性組成物を添加してもよい。すなわち、最終的に、本発明の水硬性組成物中の結合性成分、必要に応じて添加する非結合性成分、有害廃棄物及び混練水が十分混合されるのであれば、混合の順番は、特に問わない。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
実施例1
表1に示す化学組成の普通ポルトランドセメントに、硫黄純薬を0、10、100、1000若しくは10000ppm、硫化鉄(FeS)若しくは亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)を硫黄として1000ppm、又は表2に示す化学組成の都市ゴミ溶融スラグを2%(硫黄として100ppm)を配合して本発明の水硬性組成物を調製した。本組成物と表3に示す化学組成の汚泥とを10:90の重量比で混合した。更にこの混合物と水とを2:1の重量比で混練した。練り混ぜはホバートミキサーで行い、混練後、20℃で材齢28日まで密封養生した。
【0023】
養生終了後の硬化体は、環境庁告示第13号に従って、溶出試験を行った。すなわちセメント硬化体を0.5〜5.0mmに粒度調整し、セメント硬化体の10倍の水と混合し、20℃で6時間振盪した。振盪後の濾液をICP分光分析により分析し、六価クロムの溶出量とした。この結果を表4に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
【表4】

【0028】
酸化数4以下の硫黄原子を有する硫黄物質を添加していない普通セメントでは、汚泥に含まれていた1200ppmの六価クロムのうち、20.5ppmが溶出した。これに対して、硫黄を10ppm添加したセメントでは、六価クロムの溶出量が15.0ppm、100ppm添加で1.3ppmへ減少した。また、1000ppm及び10000ppm添加では、0.12及び0.11ppmとなり、1000ppm以上添加した場合には、大きな差は生じなかった。また、硫化鉄を硫黄として1000ppm添加した場合の六価クロム溶出量は0.14ppmとなり、硫黄純薬の場合とほぼ同等の効果が得られた。亜硫酸ナトリウムとして硫黄を1000ppm添加した場合の六価クロム溶出量は0.21ppmとなり、硫黄純薬の場合よりやや溶出量が増えた。また、都市ゴミ溶融スラグとして硫黄を100ppm添加した場合、六価クロムの溶出量は1.5ppmとなり、硫黄純薬の場合よりわずかに溶出量が増えた。
【0029】
実施例2
表1に示す化学組成の普通ポルトランドセメントの粉砕前のクリンカーに、硫黄純薬を1000若しくは10000ppm、又は亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)を硫黄として1000ppm添加し、更に二水石膏をSO3として2重量%加え、実験用ミルで粉砕し、本発明の水硬性組成物を調製した。この粉砕時の温度は40℃であった。本組成物と表3に示す化学組成の汚泥とを10:90の重量比で混合した。更にこの混合物と水とを2:1の重量比で混練した。練り混ぜはホバートミキサーで行い、混練後、20℃で材齢28日まで密封養生した。
【0030】
養生終了後の硬化体は、環境庁告示第13号に従って、溶出試験を行った。すなわちセメント硬化体を0.5〜5.0mmに粒度調整し、セメント硬化体の10倍の水と混合し、20℃で6時間振盪した。振盪後の濾液をICP分光分析により分析し、六価クロムの溶出量とした。この結果を表5に示す。
【0031】
【表5】

【0032】
硫黄純薬を1000ppm添加した水硬性組成物では、六価クロムの溶出量が0.03ppmと、表4における同じ硫黄添加量の場合と比較して4分の1程度となった。また、硫黄純薬を10000ppm添加した場合でも、六価クロムの溶出量は0.02ppmであり、大きな差は生じなかった。亜硫酸ナトリウムとして硫黄を1000ppm添加した場合の六価クロム溶出量は0.04ppmとなり、硫黄純薬の場合よりやや溶出量が増加したが、表4の結果と比較すると温度制御による更なる効果の向上が確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性材料に対し、単体硫黄、水硬性組成物中の結合性成分の乾燥重量に対し10ppm以上配合したことを特徴とする六価クロム固定化用水硬性組成物。
【請求項2】
水硬性材料が、セメントである請求項1記載の六価クロム固定化用水硬性組成物。
【請求項3】
水硬性組成物の製造工程中、水硬性材料の粉砕前から混練までのいずれかの段階において、単体硫黄、水硬性組成物中の結合性成分の乾燥重量に対し10ppm以上配合することを特徴とする六価クロム固定化用水硬性組成物の製造方法。
【請求項4】
単体硫黄を配合する際又は配合した後の水硬性材料の温度を、35〜110℃とするものである請求項3記載の六価クロム固定化用水硬性組成物の製造方法。

【公開番号】特開2009−1487(P2009−1487A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207110(P2008−207110)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【分割の表示】特願平11−10260の分割
【原出願日】平成11年1月19日(1999.1.19)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】