説明

水系インク組成物およびこれを用いた記録物

【課題】 記録媒体上に印刷されたときに金属光沢度に優れた画像を記録することができる銀粒子含有水系インク組成物を提供する。
【解決手段】 本発明に係る水系インク組成物は、水と、銀粒子と、保湿剤と、を少なくとも含有する水性インク組成物であって、前記保湿剤は、グリセロール類、グリコール類および糖質から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系インク組成物およびこれを用いた記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、印刷物上に金属光沢を有する塗膜を形成する手法として、真鍮、アルミニウム微粒子等から作製された金粉や銀粉を顔料に用いた印刷インキ、金属箔を用いた箔押し印刷、金属箔を用いた熱転写方式等が使用されている。
【0003】
近年、印刷におけるインクジェットへの応用例が数多く見受けられ、その中の応用例の一つとしてメタリック印刷があり、金属光沢を有するインクの開発が進められている。例えば、特許文献1には、アルキレングリコール等の有機溶媒をベースとしたアルミニウム顔料分散液およびそれを含有する非水系インク組成物が開示されている。
【0004】
その一方で、地球環境面および人体への安全面等の観点から、有機溶媒をベースとした非水系インク組成物よりも水系インク組成物の開発が望まれているという実態がある。水系インクの場合、該水系インクの粘度調整や印刷機中での乾燥防止の観点から、通常保湿剤が添加される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−174712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、金属顔料として銀粒子を含有する水系インクの場合、添加される保湿剤の種類によって記録媒体上に記録される画像の金属光沢度が大きく変化するという課題があった。
【0007】
本発明に係る幾つかの態様は、前記課題を解決することで、記録媒体上に印刷されたときに金属光沢度に優れた画像を記録することができる銀粒子含有水系インク組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0009】
[適用例1]
本発明に係る水系インク組成物の一態様は、
水と、銀粒子と、保湿剤と、を少なくとも含有する水系インク組成物であって、
前記保湿剤は、グリセロール類、グリコール類および糖質から選択される少なくとも1種である。
【0010】
適用例1の水系インク組成物によれば、記録媒体上に印刷されたときに金属光沢度に優れた画像を記録することができる。
【0011】
[適用例2]
適用例1において、
前記グリセロール類は、グリセリンまたはトリメチロールプロパンであることができる。
【0012】
[適用例3]
適用例1または適用例2において、
前記グリコール類は、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールであることができる。
【0013】
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれか一例において、
前記保湿剤の含有量は、5質量%以上20質量%以下であることができる。
【0014】
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれか一例において、
前記銀粒子の平均一次粒径が10nm以上100nm以下であり、かつ、前記銀粒子の粒径加積曲線における粒径d90が50nm以上1μm以下であることができる。
【0015】
[適用例6]
適用例5において、
さらに、前記銀粒子の粒径加積曲線における粒径d10が2nm以上20nm以下であることができる。
【0016】
[適用例7]
適用例1ないし適用例6のいずれか一例において、
前記銀粒子は、表面処理されたものであることができる。
【0017】
[適用例8]
本発明に係る記録物の一態様は、適用例1ないし適用例7のいずれか一例に記載の水系インク組成物によって画像が記録されたものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の好適な実施の形態について説明する。以下に説明する実施の形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
【0019】
1.水系インク組成物
本発明の一実施形態に係る水系インク組成物は、水と、銀粒子と、保湿剤と、を含有する。また、前記保湿剤は、グリセロール類、グリコール類および糖質から選択される少なくとも1種である。
【0020】
1.1.銀粒子
1.1.1.銀粒子の性状
本実施の形態に係る水系インク組成物は、銀粒子を含有する。銀粒子とは、銀を主成分とする粒子であり、副成分として他の金属元素、炭素、酸素等を含んでもよい。銀粒子における銀の純度は、好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上である。銀粒子は、銀と他の金属(インジウム、パラジウム、白金等)との合金であってもよい。また、水系インク組成物中の銀粒子は、コロイド(粒子コロイド)の状態で存在していてもよい。銀粒子がコロイド状態で分散している場合には、さらに分散性が良好となり、例えば水系インク組成物の保存安定性の向上に寄与することができる。
【0021】
本実施の形態に係る水系インク組成物中の銀粒子の平均一次粒径は、好ましくは10nm以上100nm以下であり、より好ましくは15nm以上50nm以下である。平均一次粒径が前記範囲であると、水系インク組成物中における銀粒子の分散安定性が良好となり、保存安定性を高めることができる。
【0022】
本実施の形態に係る水系インク組成物中の銀粒子の粒径加積曲線における粒径d90は、50nm以上1μm以下であることが好ましい。ここで、粒径加積曲線とは、水性インク組成物中に分散された銀粒子について、該粒子の直径および該粒子の存在数を求めることができる測定を行った結果を、統計的に処理して得られる曲線の一種である。本明細書における粒径加積曲線は、粒子の直径を横軸にとり、粒子の質量(粒子を球と見なしたときの体積、粒子の密度、および粒子数の積)について、直径の小さい粒子から大きい粒子に向かって積算した値(積分値)を縦軸にとったものである。「粒径加積曲線における粒径d90」とは、小さい粒子からその質量を積算した場合に累積質量%が90質量%となるときの粒子径をいう。なお、この場合の銀粒子の直径とは、銀粒子そのものの直径であってもよいし、銀粒子がコロイド状で分散している場合には、当該粒子コロイドの直径であってもよい。
【0023】
さらに、本実施の形態に係る水系インク組成物中の銀粒子の粒径加積曲線におけるd10は、2nm以上20nm以下であることがより好ましい。このようにすれば、水性インク組成物中における銀粒子の分散性をより良好とすることができるので、例えば保存安定性をさらに高めることができる。なお、「粒径加積曲線における粒径d10」とは、小さい粒子からその質量を積算した場合に累積質量%が10質量%となるときの粒子径をいう。
【0024】
本実施の形態に係る水系インク組成物中の銀粒子の平均一次粒径や粒径加積曲線は、例えば、動的光散乱法に基づく粒子径分布測定装置を使用することによって求めることができる。動的光散乱法は、分散している銀粒子にレーザー光を照射し、その散乱光を光子検出器で観測するものである。一般に分散している銀粒子は、通常ブラウン運動をしている。銀粒子の運動の速度は、粒子直径の大きな粒子ほど大きく、粒子直径の小さな粒子ほど小さい。ブラウン運動をしている銀粒子にレーザー光を照射すると、散乱光において、各銀粒子のブラウン運動に対応した揺らぎが観測される。この揺らぎを測定し、光子相関法等により自己相関関数を求め、キュムラント法およびヒストグラム法解析等を用いることで銀粒子の直径や、直径に対応した銀粒子の頻度(個数)を求めることができる。本実施形態に係る水性インク組成物のようにサブミクロンサイズの銀粒子を含む試料に対しては、動的光散乱法が適しており、動的光散乱法を用いることにより比較的容易に粒径加積曲線を得ることができる。動的光散乱法に基づく粒子径分布測定装置としては、例えば、ナノトラックUPA−EX150(日機装株式会社製)、ELSZ−2、DLS−8000(以上、大塚電子株式会社製)、LB−550(株式会社堀場製作所製)等が挙げられる。
【0025】
前記銀粒子の含有量(固形分)は、水系インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.1質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上20質量%以下であり、特に好ましくは5質量%以上15質量%以下である。銀粒子の含有量が前記範囲であると、記録媒体上に金属光沢を有する画像を記録することができる。
【0026】
1.1.2.銀粒子の製造方法
銀粒子の製造方法は、特に制限されないが、例えば以下に示す第1ないし第3の方法が挙げられる。以下に示す手法は、銀コロイド粒子が水系分散媒中に分散したコロイド液として製造される。
【0027】
1.1.2a.第1の方法
第1の手法は、少なくともビニルピロリドンのポリマーと多価アルコールとを含む第1溶液を用意する第1溶液用意工程と、銀(金属)に還元することが可能な銀前駆体が溶媒に溶解した第2溶液を用意する第2溶液用意工程と、第1溶液を所定の温度に加熱する第1溶液加熱工程と、加熱した第1溶液と第2溶液とを混合し混合液を得る混合工程と、混合液を所定の温度で一定時間保持する反応進行工程と、反応が進行した混合液から銀粒子(銀コロイド粒子)を取り出し、水系分散媒に分散する分散工程とを有している。
【0028】
<第1溶液用意工程>
まず、少なくともビニルピロリドンのポリマーと多価アルコールとを含む第1溶液を用意する。
【0029】
第1溶液に含まれるビニルピロリドンのポリマーの機能の一つとしては、本例の製造方法により製造される銀粒子の表面に吸着することにより、銀粒子の凝集を防止し、銀コロイド粒子を形成することが挙げられる。
【0030】
使用するビニルピロリドンのポリマーには、ビニルピロリドンの単独重合体(ポリビニルピロリドン)、ビニルピロリドンの共重合体が含まれてもよい。
【0031】
ビニルピロリドンの共重合体としては、例えば、ビニルピロリドンとα−オレフィンとの共重合体、ビニルピロリドンと酢酸ビニルとの共重合体、ビニルピロリドンとジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートとの共重合体、ビニルピロリドンと(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドとの共重合体、ビニルピロリドンとビニルカプロラクタムジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートとの共重合体、ビニルピロリドンとスチレンとの共重合体、ビニルピロリドンと(メタ)アクリル酸との共重合体等が挙げられる。
【0032】
ビニルピロリドンのポリマーとしてポリビニルピロリドンを用いる場合、ポリビニルピロリドンの重量平均分子量は、3000以上60000以下であることが好ましい。
【0033】
多価アルコールは、第2溶液中に含まれる銀前駆体を銀(金属)に還元する機能を有する化合物である。
【0034】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリエタノールアミン、トリヒドロキシメチルアミノメタン等が挙げられる。
【0035】
上記のようなビニルピロリドンのポリマーを上記多価アルコールに溶解させることにより、第1溶液を用意する。
【0036】
なお、ビニルピロリドンのポリマーは、余分な水分や不純物等を取り除く目的で、70℃以上120℃以下で加熱されていることが好ましい。また、この場合の加熱時間は、8時間以上であることが好ましい。
【0037】
また、第1溶液中には、多価アルコールとは別に、第2溶液中の銀前駆体を還元する還元剤が含まれていてもよい。
【0038】
このような還元剤としては、例えば、ヒドラジンおよびその誘導体;ヒドロキシルアミンおよびその誘導体;メタノール、エタノール等の一価のアルコール;ホルムアルデヒド、ギ酸、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドおよびこれらのアンモニウム塩等のアルデヒド;次亜リン酸塩;亜硫酸塩;テトラヒドロホウ酸塩(例えば、Li、Na、Kのテトラヒドロホウ酸塩);水素化アルミニウムリチウム(LiAlH);水素化ホウ素ナトリウム(NaBH);ヒドロキノン、アルキル置換したヒドロキノン、カテコールおよびピロガロール等のポリヒドロキシベンゼン;フェニレンジアミンおよびその誘導体;アミノフェノールおよびその誘導体;アスコルビン酸、クエン酸、アスコルビン酸ケタール等のカルボン酸およびその誘導体;3−ピラゾリドンおよびその誘導体;ヒドロキシテトロン酸、ヒドロキシテトロン酸アミドおよびその誘導体;ビス・ナフトール類およびその誘導体;スルホンアミドフェノールおよびその誘導体;Li、NaおよびK等が挙げられる。これらの中でも、ギ酸アンモニウム塩、ギ酸、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アスコルビン酸、クエン酸、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、トリエチル水素化ホウ素リチウムを用いることが好ましく、ギ酸アンモニウム塩を用いることがより好ましい。
【0039】
<第2溶液用意工程>
次に、銀に還元することが可能な銀前駆体を溶媒に溶解させた第2溶液を用意する。
【0040】
銀前駆体とは、上述した多価アルコールや還元剤によって還元することにより、銀(金属)を生成する化合物である。
【0041】
このような銀前駆体としては、例えば、銀の、酸化物、水酸化物(水和した酸化物を含む)、硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物(例えばフッ化物、塩化物、臭化物およびヨウ化物)、炭酸塩、リン酸塩、アジ化物、ホウ酸塩(フルオロホウ酸塩、ピラゾリルホウ酸塩等を含む)、スルホン酸塩、カルボン酸塩(例えば、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸エステルおよびクエン酸塩)、置換されたカルボン酸塩(トリフルオロアセテート等のハロゲン化カルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩、アミノカルボン酸塩等を含む)、ヘキサクロロ白金酸塩、テトラクロロ金酸塩、タングステン酸塩等の銀の無機および有機酸塩等、銀アルコキシド、銀錯体等が挙げられる。
【0042】
溶媒としては、上述した銀前駆体が溶解するものであれば特に限定されず、例えば、上記第1溶液用意工程で説明した多価アルコール、脂肪族、脂環式、芳香族のアルコール類(本明細書において、単に「アルコール」と示した場合「一価のアルコール」のことを指す)、エーテルアルコール類、アミノアルコール類等を用いることができる。
【0043】
上記のような銀前駆体を溶媒に溶解させることにより、第2溶液を得る。
【0044】
<混合工程>
次に、第1溶液と第2溶液とを混合し、混合液を得る。
【0045】
この際、第1溶液の温度は、100℃以上140℃以下であることが好ましく、101℃以上130℃以下であることがより好ましく、115℃以上125℃以下であることがさらに好ましい。これにより、第2溶液中の銀前駆体をより効率よく還元することができるとともに、形成される銀粒子の表面にビニルピロリドンを効率よく吸着させることができる。
【0046】
<反応進行工程>
次に、第1溶液と第2溶液とを混合して得られた混合液を所定の温度で一定時間加熱し、銀前駆体の還元反応を進行させる。
【0047】
この際の加熱温度は、100℃以上140℃以下であることが好ましく、101℃以上130℃以下であることがより好ましく、115℃以上125℃以下であることがさらに好ましい。これにより、銀前駆体をより効率よく還元することができるとともに、形成される銀粒子の表面にビニルピロリドンを効率よく吸着させることができる。
【0048】
また、加熱時間(反応時間)は、加熱温度にもよるが、30分以上180分以下であることが好ましく、30分以上120分以下であることがより好ましく、60分以上120分以下であることがさらに好ましい。これにより、銀前駆体をより確実に還元することができるとともに、形成される銀粒子の表面にビニルピロリドンをより効果的に吸着させることができる。
【0049】
<分散工程>
その後、必要に応じて、形成された銀粒子(銀コロイド粒子)をろ過や遠心分離等によって分離し、分離した銀粒子を水系分散媒に所望の濃度で分散させる。このようにして、銀粒子、水性インク組成物、または銀コロイド水分散液を得ることができる。
【0050】
1.1.2b.第2の手法
第2の手法は、まず、分散剤と還元剤とを溶解した水溶液を調製する。分散剤としては、特に限定されないが、COOH基とOH基とを合わせて3個以上有し、かつ、COOH基の数がOH基と同じか、それよりも多いヒドロキシ酸またはその塩を含むものとする。これらの分散剤の機能の一つとしては、銀粒子の表面に吸着してコロイド粒子を形成し、分散剤中に存在するCOOH基の電気的反発力によって銀コロイド粒子を水溶液中に均一に分散させてコロイド液を安定化することが挙げられる。分散剤を配合することにより、銀コロイド粒子が安定して分散媒中に存在することができるようになるため、例えば、より分散安定性を高めることができる。
【0051】
このような分散剤としては、例えば、クエン酸、リンゴ酸、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三リチウム、クエン酸三アンモニウム、リンゴ酸二ナトリウム、タンニン酸、ガロタンニン酸、五倍子タンニン等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせたものが挙げられる。
【0052】
また、分散剤は、COOH基とSH基とを合わせて2個以上有するメルカプト酸またはその塩を含んでいてもよい。これらの分散剤は、メルカプト基の銀粒子の表面に吸着する能力が、水酸基と同程度または水酸基よりも強いことがあるため、コロイド粒子をさらに形成しやすく、分散剤中に存在するCOOH基の電気的反発力によってコロイド粒子を水溶液中に均一に分散させてコロイド液を安定化する働きが高まる場合がある。このような分散剤としては、例えば、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオジプロピオン酸、メルカプトコハク酸、チオ酢酸、メルカプト酢酸ナトリウム、メルカプトプロピオン酸ナトリウム、チオジプロピオン酸ナトリウム、メルカプトコハク酸二ナトリウム、メルカプト酢酸カリウム、メルカプトプロピオン酸カリウム、チオジプロピオン酸カリウム、メルカプトコハク酸二カリウム等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせたものが挙げられる。
【0053】
分散剤の配合量としては、出発物質である硝酸銀のような銀塩中の銀と分散剤とのモル比が1:1以上1:100以下程度となるように配合することが好ましい。銀塩に対する分散剤のモル比が大きくなると、銀粒子の粒径が小さくなって分散性をより高めることができる。
【0054】
還元剤の機能の一つとしては、出発物質である硝酸銀(AgNO)のような銀塩中のAgイオンを還元して銀粒子を生成させることが挙げられる。
【0055】
還元剤としては、特に限定されず、例えば、ヒドラジン、ジメチルアミノエタノール、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン系;水酸化ホウ素ナトリウム、水素ガス、ヨウ化水素等の水素化合物系;一酸化炭素、亜硫酸次亜リン酸等の酸化物系、Fe(II)化合物、Sn(II)化合物等の低原子価金属塩系、D−グルコースのような糖類、ホルムアルデヒド等の有機化合物系、あるいはヒドロキシ酸であるクエン酸、リンゴ酸や、ヒドロキシ酸塩であるクエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三リチウム、クエン酸三アンモニウム、リンゴ酸二ナトリウムやタンニン酸等が挙げられる。これらの中でも、タンニン酸や、ヒドロキシ酸は、還元剤として機能すると同時に分散剤としての効果を発揮するため、より好適に用いることができる。あるいは、銀表面で安定した結合を形成する分散剤として上記に挙げたメルカプト酸であるメルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、チオジプロピオン酸、メルカプトコハク酸、チオ酢酸やメルカプト酸塩であるメルカプト酢酸ナトリウム、メルカプトプロピオン酸ナトリウム、チオジプロピオン酸ナトリウム、メルカプトコハク酸ナトリウム、メルカプト酢酸カリウム、メルカプトプロピオン酸カリウム、チオジプロピオン酸カリウム、メルカプトコハク酸カリウム等は、還元剤として好適に用いることができる。
【0056】
これらの分散剤や還元剤は、いずれも単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。また、これらの分散剤や還元剤を使用する際には、光や熱を加えて還元反応を促進させるようにしてもよい。
【0057】
還元剤の配合量としては、上記出発物質である銀塩を完全に還元できる量があれば十分であるが、過剰な還元剤は不純物として銀コロイド液中に残存して成膜後の導電性を悪化させる等の原因となることがあるため、できるだけ少ない量を配合することが好ましい。具体的な配合量としては、上記銀塩と還元剤とのモル比が1:1以上1:3以下程度であることが好ましい。
【0058】
この製造方法の例では、分散剤と還元剤とを溶解して水溶液を調製した後、この水溶液のpHは6以上12以下に調整することが好ましい。これは、以下のような理由による。例えば、分散剤であるクエン酸三ナトリウムと還元剤である硫酸第一鉄とを混合した場合、全体の濃度にもよるがpHは大体4以上5以下程度と、上記したpH6を下回る。このとき存在する水素イオンは、下記反応式(1)で表される反応の平衡を右辺に移動させ、COOHの量が多くなる。したがって、その後、銀塩溶液を滴下して得られる銀粒子表面の電気的反発力が減少し、銀粒子(コロイド粒子)の分散性が低下してしまう。
【0059】
−COO+H ←→ −COOH…(1)
そこで、分散剤と還元剤とを溶解して水溶液を調製した後、この水溶液にアルカリ性の化合物を添加し、水素イオン濃度を低下させることにより、このような分散性の低下を抑制することができる。
【0060】
添加するアルカリ性の化合物としては、特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水や、上述したアルカノールアミン等を用いることができる。これらの中でも、アルカノールアミンを用いた場合、pHを容易に調整できるとともに、形成される銀コロイド粒子の分散安定性をより向上させることができる。
【0061】
なお、アルカリ性の化合物の添加量が多すぎて、pHが12を超えると、鉄イオンのような残存している還元剤のイオンの水酸化物の沈殿が起こりやすくなるため、好ましくない。
【0062】
次に、この製造方法の例では、調製した分散剤と還元剤とが溶解した水溶液に銀塩を含む水溶液を滴下する。銀塩としては、特に限定されず、例えば、酢酸銀、炭酸銀、酸化銀、硫酸銀、亜硝酸銀、塩素酸銀、硫化銀、クロム酸銀、硝酸銀、二クロム酸銀等を用いることができる。これらの中では、水への溶解度が大きい点で硝酸銀が特に好ましい。
【0063】
また、銀塩の量は、目的とするコロイド粒子の含有量、および、還元剤により還元される割合を考慮して定められるが、例えば、硝酸銀の場合、水溶液100質量部に対して15質量部以上70質量部以下程度とするのが好ましい。
【0064】
銀塩水溶液は、上記銀塩を純水に溶かすことにより調製し、調製した銀塩の水溶液を徐々に前述した分散剤と還元剤とが溶解した水溶液中に滴下する。この工程において、銀塩は還元剤により銀粒子に還元され、さらに、該銀粒子の表面に分散剤が吸着して銀コロイド粒子が形成される。これにより、銀コロイド粒子が水溶液中にコロイド状に分散した水溶液が得られる。
【0065】
得られた溶液中には、コロイド粒子のほかに、還元剤の残留物や分散剤が存在しており、液全体のイオン濃度は高くなっている。このような状態の液は、一般に凝析が起こり、沈殿を生じやすい。そこで、このような水溶液中の余分なイオンを取り除いてイオン濃度を低下させるために、洗浄を行うことがより望ましい。
【0066】
洗浄の方法としては、例えば、得られたコロイド粒子を含む水溶液を一定期間静置し、生じた上澄み液を取り除いた上で、純水を加えて再度攪拌し、さらに一定期間静置して生じた上澄み液を取り除く工程を幾度が繰り返す方法、上記静置の代わりに遠心分離を行う方法、限外ろ過等でイオンを取り除く方法等を挙げることができる。
【0067】
あるいは、次のような方法で洗浄を行ってもよい。溶液を製造した後に溶液のpHを5以下の酸性の領域に調整し、上記反応式(1)の反応の平衡を右辺に移動させることで銀粒子表面の電気的反発力を減少させ、積極的に銀コロイド粒子を凝集させた状態で洗浄を行い、塩類や溶媒を除去することができる。メルカプト酸のような低分子量の硫黄化合物を分散剤として粒子表面に有する銀コロイド粒子であれば金属表面で安定した結合を形成するため、凝集した銀コロイド粒子は、溶液のpHを6以上のアルカリ性の領域に再調整することにより、容易に再分散し、分散安定性に優れた金属コロイド液を得ることができる。
【0068】
この製造方法の例では、上記工程の後、必要により銀コロイド粒子が分散した水溶液に水酸化アルカリ金属水溶液を添加し最終的なpHを6〜11に調整することが好ましい。これは、この製造方法の例では、還元後に洗浄を行っているため、電解質イオンであるナトリウム濃度が減少している場合があり、このような状態の溶液では、下記反応式(2)で表される反応の平衡が右辺へ移動することになる。このままでは、銀コロイドの電気的反発力が減少して銀粒子の分散性が低下するおそれがあるため、適当量の水酸化アルカリを添加することにより、反応式(2)の平衡を左辺に移動させ、銀コロイドを安定化させるのである。
【0069】
−COONa+HO ←→ −COOH+Na+OH…(2)
このときに使用する水酸化アルカリ金属としては、例えば、最初にpHを調整する際に用いた化合物と同様の化合物を挙げることができる。pHが6未満では、反応式(2)の平衡が右辺に移動するため、コロイド粒子が不安定化し、一方、pHが11を超えると、鉄イオンのような残存しているイオンの水酸化塩の沈殿が起こりやすくなるため好ましくない。ただし、予め鉄イオン等を取り除いておけば、pHが11を超えても大きな問題はない。
【0070】
なお、ナトリウムイオン等の陽イオンは水酸化物の形で加えるのが好ましい。これは、水の自己プロトリシスを利用できるため最も効果的にナトリウムイオン等の陽イオンを水溶液中に加えることができるからである。また、pHを6〜11に調整する上記工程において、水酸化アルカリ金属水溶液の代わりに、アルカノールアミンを用いてもよい。
【0071】
1.1.2c.第3の手法
第3の手法は、フェノール化合物の酸化重合物が溶媒に溶解した酸化重合物溶液を用意する酸化重合物水溶液用意工程と、銀化合物が溶解した銀化合物溶液を用意する銀化合物溶液用意工程と、酸化重合物水溶液と銀化合物溶液とを混合し、銀化合物を還元し、銀の微粒子を得る混合・還元工程とを有している。
【0072】
<酸化重合物溶液用意工程>
本工程では、フェノール化合物の酸化重合物が溶媒に溶解した酸化重合物溶液を用意する。
【0073】
フェノール化合物の酸化重合物は、還元力があって、後述する銀化合物を還元することができる。さらに、フェノール化合物の酸化重合物の還元反応等で酸化されたものや過剰なものが、配位や吸着等に、生成した銀の微粒子の表面に存在することができ、これにより、銀コロイド粒子が分散した銀コロイド溶液を得ることができる。
【0074】
フェノール化合物の酸化重合物しては、フェノール化合物分子の一部を酸化しながら分子2個以上が結合し重合して生成した炭素縮合多環性化合物を用いることができる。
【0075】
具体的には、下記の(1)〜(4)から選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましい。(1)水酸基の置換位置が1〜4位から選ばれる2ヶ所であり、カルボニル基の置換位置が5〜8位から選ばれる2ヶ所であるジヒドロキシ−ジベンゾフラン−ジオン、およびそれらの誘導体、例えば1,2−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−7,8−ジオン、2,4−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−5,7−ジオン、1,2−ジヒドロキシ−4,5−ジカルボキシ−ジベンゾフラン−7,8−ジオン等、(2)水酸基の置換位置が1〜3位から選ばれる2ヶ所、4位の1ヶ所、および6位、7位から選ばれる1ヶ所であるテトラヒドロキシ−5H−ベンゾ[7]アンヌレン−5−オンおよびそれらの誘導体、例えば2,3,4,6−テトラヒドロキシ−5H−ベンゾ[7]アンヌレン−5−オン(一般名プルプロガリン)等、(3)上記(1)または上記(2)の化合物をさらに酸化重合した化合物、(4)上記(1)〜(3)から選ばれる少なくとも一種の化合物と2価および3価のフェノール化合物およびそれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種の化合物とを酸化重合した化合物。ここで、誘導体とは、酸化重合物の分子内の小部分の変化によって生成する化合物をいい、例えば、酸化重合物に含まれる水素原子をアルキル基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基等で置換したものである。
【0076】
フェノール化合物の酸化重合物は、フェノール化合物を酸化剤で酸化することにより得ることができ、酸化剤の添加量、酸化反応時間等でその重合度を制御することかできる。具体的には、フェノール化合物と酸化剤を混合したり、あるいはフェノール化合物を水系溶媒、アルコール等の有機溶媒または水溶媒とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒に溶解させた後、この溶液と酸化剤とを混合することで得ることができる。
【0077】
酸化剤としては、例えば、空気、酸素等の酸化性ガスや、過酸化水素、過マンガン酸、過マンガン酸カリウム、ヨウ素酸ナトリウム等の化合物を用いることができ、特に空気を用いるのが経済的に有利で好ましい。
【0078】
酸化剤として酸化性ガスを用いる場合、フェノール化合物が溶媒に溶解した溶液(フェノール化合物溶液)と空気等の酸化性ガスとの混合は、開放系で溶液を撹拌して行っても、溶液中に空気等の酸化性ガスをバブリングして行ってもよい。
【0079】
溶媒としては、後述する金属化合物溶液と同様に、取り扱い易さや経済性の点で水系溶媒を用いるのが好ましい。フェノール化合物が酸化されると、透明な溶液が赤褐色、茶褐色、黒褐色等に変色し、重合が進むとさらに濃色に変化するので、目視より酸化重合物の生成を確認できる。フェノール化合物溶液のpHを6以上に調整すると、重合が進み易いので好ましく、6以上13以下の範囲がより好ましく、8以上11以下の範囲がさらに好ましい。
【0080】
また、酸化重合物は、2価または3価のフェノール化合物やそれらの誘導体を前記の条件で酸化重合させたものが好ましい。2価のフェノール化合物としては、ヒドロキノン、カテコール、レソルシノール等が、3価のものとしては、ピロガロール、フロログルシノール、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン等が、誘導体としてはピロガロールの誘導体である没食子酸等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。上述した中でも水酸基が3個のものが好ましく、ピロガロール、フロログルシノール、1,2,4−トリヒドロキシベンゼンを用いるのがより好ましい。
【0081】
具体的には、ピロガロールの酸化重合物としては、1,2−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−7,8−ジオン、プルプロガリン(2,3,4,6−テトラヒドロキシ−5H−ベンゾ[7]アンヌレン−5−オン)等の炭素縮合多環性化合物が挙げられる。また、フロログルシノールの酸化重合物としては、2,4−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−5,7−ジオン等の炭素縮合多環性化合物が挙げられる。また、1,2,4−トリヒドロキシベンゼンの酸化重合物としては、1,3−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−6,8−ジオン、1,3,4,7−テトラヒドロキシ−5H−ベンゾ[7]アンヌレン−5−オン等の炭素縮合多環性化合物が挙げられる。
【0082】
また、2価または3価のフェノール化合物の誘導体としては、例えば、没食子酸の酸化重合物である1,2−ジヒドロキシ−4,5−ジカルボキシ−ジベンゾフラン−7,8−ジオン等の炭素縮合多環性化合物が挙げられる。
【0083】
また、前記多環性化合物をさらに酸化重合したもの、あるいは、前記多環性化合物またはその酸化重合物と2価および3価のフェノール化合物およびそれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種の化合物とを酸化重合したもの、さらにはそれらの誘導体を作製して用いてもよい。
【0084】
<銀化合物溶液用意工程>
一方、銀化合物が溶解した銀化合物溶液を用意する。
【0085】
銀化合物は、還元されることにより銀(金属)となる化合物で、銀粒子を製造するための原料である。
【0086】
銀化合物は、例えば、銀の、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩等を用いることができる。銀化合物を溶解する溶媒は、水、アルコール等の有機化合物または水とアルコール等の有機化合物との混合物を用いることができ、取り扱い易さや経済性の点で水を溶媒として用いることが好ましい。銀化合物の溶媒中の濃度は、銀化合物が溶解する範囲であれば特に制約はないが、工業的には5mmol/L以上とすることが好ましい。
【0087】
<混合・還元工程>
次に、上記のような酸化重合物溶液と銀化合物溶液とを撹拌下で混合し、銀化合物を還元して、銀の粒子を製造する。
【0088】
酸化重合物の使用量は、特に限定されないが、フェノール化合物の単体を基準として銀化合物のモル比で0.1以上10以下の範囲の量が好ましく、0.2以上5以下の範囲の量がより好ましい。
【0089】
還元温度は、適宜設定することができるが、5℃以上105℃以下程度の範囲で行うことが好ましく、10℃以上80℃以下程度で行うことがより好ましい。
【0090】
なお、前記の還元反応には補助的に別の還元剤、例えば、アルコール類やアミン類を添加してもよい。このようにして銀粒子が製造することができ、必要に応じて透析、固液分離、洗浄して余剰成分や不要なイオン成分を除去したり、更に必要に応じて乾燥等を行うことができる。
【0091】
このような還元反応によって製造した銀粒子は、その表面に上記フェノール化合物の酸化重合物およびその酸化重合物の酸化体の少なくとも一方が存在しており、銀コロイド粒子を構成している。その結果、例えば水に分散させることにより、容易に銀コロイド液を得ることができる。
【0092】
1.2.保湿剤
本実施の形態に係る水系インク組成物は、保湿剤を含有する。本実施の形態に係る水系インク組成物は、前記保湿剤として、グリセロール類、グリコール類および糖質から選択される少なくとも1種を含有する。このような保湿剤を含有することで、記録媒体上に印刷されたときに金属光沢度に優れた画像を記録することができる。また、水性インク組成物の乾燥を防止し、インクジェット記録ヘッド部分における目詰まりを防止する効果がある。
【0093】
グリセロール類としては、例えばグリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、C1〜10のアルキルグリセリルエーテル、C1〜10のアルキルジグリセリルエーテル、C1〜10のアルキルトリグリセリルエーテル等が挙げられる。これらのグリセロール類の中でも、画像の金属光沢度をより向上できる点で、グリセリン、トリメチロールプロパンが好ましい。
【0094】
グリコール類としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。これらのグリコール類の中でも、画像の金属光沢度をより向上できる点で、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールが好ましい。
【0095】
糖質としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース等の単糖類;マルトース、スクロース、セロビオース、ラクトース、トレハロース、イルマルトース、ゲンチオビース等の二糖類;ゲンチアノース、ラフィノース、パノース等の三糖類;その他の多糖類;糖アルコール等が挙げられる。糖質としては、市販されているHS−500(株式会社林原商事製)等の還元澱粉糖化物(糖アルコールを含む混合物)を用いてもよい。
【0096】
前記例示した保湿剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0097】
前記保湿剤の含有量は、水系インク組成物の全質量に対して、好ましくは5質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上15質量%以下である。保湿剤の含有量が前記範囲であると、記録媒体上に印刷されたときに金属光沢度に優れた画像を記録することができる。保湿剤の含有量が前記範囲未満であると、画像の金属光沢度が低下する傾向があり、保湿剤の含有量が前記範囲を超えても、画像の金属光沢度が低下する傾向がある。
【0098】
以上のように、銀粒子含有水系インク組成物は、保湿剤の種類または含有量を適宜調整することにより、記録媒体上に印刷されたときの画像の金属光沢度を制御することができる。かかる技術的思想によれば、記録媒体上に印刷されたときの画像の金属光沢度がそれぞれ異なる銀粒子含有水系インク組成物セットを製造することもできる。
【0099】
1.3.水
本実施の形態に係る水性インク組成物は、水を含有する。水は、特に制限されず、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水が挙げられる。水には、銀粒子の分散の妨げにならない程度であればイオン等が存在してもよい。
【0100】
1.4.その他の添加剤
本実施の形態に係る水系インク組成物は、必要に応じて、界面活性剤、防腐剤、pH調整剤、色材等の添加剤を含有してもよい。
【0101】
界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、ポリシロキサン系界面活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、被記録面への濡れ性を高め、インクの浸透性を向上させる効果がある。アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば
2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、2,4−ジメチル−5−ヘキシン−3−オール等が挙げられる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は、市販品を利用することもでき、例えばオルフィンE1010、STG、Y(以上、日信化学株式会社製)、サーフィノール104、82、465、485、TG(以上、Air Products and Chemicals Inc.製)が挙げられる。ポリシロキサン系界面活性剤としては、市販品を利用することができ、例えばBYK−347、BYK−348(ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。さらに、本実施の形態に係る水系インク組成物には、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等のその他の界面活性剤を添加してもよい。
【0102】
界面活性剤の含有量は、水系インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.01〜5質量%であり、より好ましくは0.1〜1質量%である。
【0103】
防腐剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジンチアゾリン−3−オン(ICI社製のプロキセルCRL、プロキセルBND、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)等が挙げられる。
【0104】
防腐剤の含有量は、水系インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.1〜2質量%であり、より好ましくは0.2〜1質量%である。
【0105】
pH調整剤としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、モルホリン等のアミン類およびそれらの変成物;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等の無機塩類;水酸化アンモニウム、四級アンモニウム水酸化物(テトラメチルアンモニウム等)が挙げられる。
【0106】
色材としては、顔料および染料が挙げられ、通常のインクに使用することのできる色材を用いることができる。本実施の形態に係る水系インク組成物に添加することができる色材の色としては、有彩色、無彩色のいずれであってもよい。水系インク組成物に色材を含有させる場合には、例えば、記録媒体に記録される画像に、金属光沢と共に、光沢の色彩を付与することができる。
【0107】
1.5.水系インク組成物の用途および物性
本実施の形態に係る水系インク組成物の用途は、特に制限されるものではなく、筆記具、スタンプ、記録計、ペンプロッター、インクジェット記録装置等に適用することができる。
【0108】
例えば用途がインクジェット記録方式の印刷である場合、水系インク組成物の20℃における粘度は、好ましくは2mPa・s以上10mPa・s以下であり、より好ましくは3mPa・s以上5mPa・s以下である。水系インク組成物の20℃における粘度が前記範囲にあると、ノズルから水性インク組成物が適量吐出され、水系インク組成物の飛行曲がりや飛散を一層低減することができるため、インクジェット記録装置に好適に使用することができる。また、水系インク組成物の表面張力は、20℃で、通常0.2〜0.7mN/cm、好ましくは0.25〜0.6mN/cm、より好ましくは0.3〜0.4mN/cmである。水系インク組成物の粘度および表面張力は、上記した各成分の添加量を適宜変えることによって調整することができる。
【0109】
2.記録物
本発明の一実施形態に係る記録物は、上述した水系インク組成物によって記録媒体上に画像が記録されたものである。本実施の形態に係る水系インク組成物は、上述した銀粒子および保湿剤を含有している。そのため、かかる水系インク組成物を用いて記録された画像は、優れた金属光沢性を有している。
【0110】
記録媒体は、グロス系、マット系、ダル系のいずれであってもよい。記録媒体の具体例としては、例えば、コート紙、アート紙、キャストコート紙等の表面加工紙、および、インク受容層などが形成された塩化ビニルシートやPETフィルム等のプラスチックフィルム等が挙げられる。
【0111】
なお、本実施の形態に係る水系インク組成物によって、記録媒体上に記録された画像の光沢度は、日本工業規格(JIS)Z8741:1997「鏡面光沢度−測定方法」の方法に従って評価することができる。光沢度は、画像の記録された面に対して、例えば、20°、45°、60°、75°および85°の入射角で光を入射させ、その反射角の方向に光検出器を設置して光の強度を測定した結果に基づいて算出されることができる。このような測定が可能な装置としては、例えば、コニカミノルタ株式会社製「MULTI GLOSS 268」、日本電色工業株式会社製「GlossMeter 型番VGP5000」等が挙げられる。
【0112】
上記の光沢度の評価方法において、例えば20°の光沢度の最大値が700以上であることが好ましく、800以上であることがより好ましく、900以上であることが特に好ましい。
【0113】
3.実施例
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0114】
3.1.水系インク組成物の調製
表1に示す配合量で、銀粒子、保湿剤、界面活性剤、防腐剤およびイオン交換水を混合撹拌し、孔径5μmの金属フィルターにてろ過、真空ポンプを用いて脱気処理をして、実施例1〜16および比較例1の各インク組成物を得た。なお、表1の実施例1〜16および比較例1に記載されている濃度の単位は、質量%であり、銀粒子については固形分換算濃度である。
【0115】
銀粒子には、市販品「CSD−29」(Cabot Corporation社製)を用いた。CSD−29は、銀粒子を固形分濃度20%の割合で含むスラリーである。
【0116】
なお、得られたインク組成物について、動的光散乱法を測定原理とする粒子径分布測定装置(日機装株式会社製、型式「ナノトラックUPA−EX−150」)を用いて、銀粒子の平均一次粒径、粒径d10および粒径d90を求めたところ、いずれのインク組成物においても銀粒子の平均一次粒径は20nmであり、粒径d10は10nmであり、粒径d90は80nmであった。
【0117】
表1に記載した各成分は、下記の通りである。
・グリセリン(アデカクリーンエイド株式会社製、商品名「DGグリセリン」)
・トリメチロールプロパン(三菱ガス化学株式会社製、商品名)
・トリエチレングリコール(三菱ガス化学株式会社製、商品名)
・ヘキシレングリコール(東京化成工業株式会社製、商品名)
・還元澱粉糖化物(株式会社林原商事製、商品名「HS−500」、糖アルコールを含む混合物)
・プロピレングリコール(関東化学株式会社製、商品名)
・ポリエチレングリコール(日油株式会社製、商品名「PEG1000」)
・界面活性剤(日信化学株式会社製、商品名「オルフィン(R)E1010」)
・防腐剤(アビシア株式会社製、商品名「プロキセル(R)XL2」)
【0118】
3.2.評価試料の作製
表1に記載の銀粒子を含有する水系インク組成物を、インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、製品名「PX−G930」)の専用カートリッジのブラックインク室にそれぞれ充填した。このようにして作製されたインクカートリッジをプリンターに装着した。ブラック以外のインクカートリッジはそれぞれ市販のものを装着した。これは、ダミーとして用いるもので、本実施例の評価では用いないので、効果には関与しない。
【0119】
次いで、写真用紙<光沢>(セイコーエプソン株式会社より入手)に対して、1440×720dpiの解像度で印刷を行った。印刷パターンは、100%dutyベタパターンとした。なお、「duty」とは、下式で算出される値である。
duty(%)=実印字ドット数/(縦解像度×横解像度)×100
(式中、「実印字ドット数」は単位面積当たりの実印字ドット数であり、「縦解像度」および「横解像度」はそれぞれ単位面積当たりの解像度である。100%dutyとは、画素に対する単色の最大インク質量を意味する。)
【0120】
3.3.光沢度の評価方法
「3.2.評価試料の作製」で得られた各試料について、光沢度を評価した。
光沢度は、「MULTI GLOSS 268型光沢計」(コニカミノルタ社製)を用いて、入射角20°および60°の光沢度を測定した。表1には、入射角20°および60°における測定結果および評価結果を記載した。光沢度の評価基準は、以下の通りである。
A:入射角20°における光沢度の最大値が900以上
B:入射角20°における光沢度の最大値が800以上900未満
C:入射角20°における光沢度の最大値が700以上800未満
D:入射角20°における光沢度の最大値が700未満
【0121】
【表1】

【0122】
3.4.評価結果
表1に記載の実施例1〜16の水系インク組成物を用いた試料は、保湿剤を含有しない比較例1の水系インク組成物を用いた試料に比べていずれも20°における光沢度の最大値が大幅に上昇することが判った。
【0123】
また、保湿剤の濃度が同じでも保湿剤の種類を変えることで、20°における光沢度の最大値が変化することが判った。保湿剤の種類がトリメチロールプロパン、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、糖アルコール、プロピレングリコールの場合に特に良好な光沢度を有することが判った。
【0124】
さらに、保湿剤の種類が同じでも保湿剤の濃度を変えることで、20°における光沢度の最大値が変化することが判った。保湿剤の種類がトリメチロールプロパン、テトラエチレングリコール、ヘキシレングリコール、糖アルコール、プロピレングリコールの場合には、10質量%〜15質量%が最適な濃度範囲であることが判った。
【0125】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、銀粒子と、保湿剤と、を少なくとも含有する水系インク組成物であって、
前記保湿剤は、グリセロール類、グリコール類および糖質から選択される少なくとも1種である、水系インク組成物。
【請求項2】
請求項1において、
前記グリセロール類は、グリセリンまたはトリメチロールプロパンである、水系インク組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記グリコール類は、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールである、水系インク組成物。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記保湿剤の含有量は、5質量%以上20質量%以下である、水系インク組成物。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項において、
前記銀粒子の平均一次粒径が10nm以上100nm以下であり、かつ、前記銀粒子の粒径加積曲線における粒径d90が50nm以上1μm以下である、水系インク組成物。
【請求項6】
請求項5において、
さらに、前記銀粒子の粒径加積曲線における粒径d10が2nm以上20nm以下である、水系インク組成物。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項において、
前記銀粒子は、表面処理された、水系インク組成物。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の水系インク組成物によって画像が記録された、記録物。

【公開番号】特開2011−241241(P2011−241241A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111823(P2010−111823)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】