説明

水系リチウムイオン二次電池及びその製法

【課題】充放電のサイクル安定性に優れた水系リチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】水系リチウムイオン二次電池であるコインセル10は、充電時にリチウムイオンを放出し放電時にリチウムイオンを吸蔵する材料を正極活物質とする正極13と、充電時にリチウムイオンを吸蔵し放電時にリチウムイオンを放出する材料を負極活物質とする負極14と、電解質としてリチウム塩が溶解しており正極活物質及び負極活物質に含まれる各遷移金属の濃度の合計値が20mg/L以下である水系電解液17と、正極13と負極14との間に配置され水系電解液17を保持するセパレータ16とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系リチウムイオン二次電池及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電解液として水溶液を用いた水系リチウムイオン二次電池が知られている(例えば特許文献1参照)。この水系リチウムイオン二次電池は、非水系リチウムイオン二次電池が有する問題に対して以下の利点がある。即ち、水系リチウムイオン二次電池は、電解液に有機溶媒を用いていないため、基本的には燃えることはない。また、製造工程においてドライ環境を必要としないため、製造にかかるコストを大幅に削減することができる。さらに、一般的に水系電解液は非水系電解液に比べて導電性が高いため、水系リチウムイオン二次電池は、非水系リチウムイオン二次電池に比べて内部抵抗が低くなる。このような利点を持つ反面、水系リチウムイオン二次電池は、水の電気分解反応が起こらない電位範囲での使用が求められるため、非水系リチウムイオン二次電池と比較して起電力が小さくなる。現在、正極活物質としては、リン酸鉄リチウムや各種層状遷移金属酸化物が提案され、負極活物質としては、バナジウム酸化物やリン酸チタン化合物などが提案され、これらを組み合わせることで1.0〜1.8Vの電池電圧が実現されている。
【特許文献1】特表平9−509490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、こうした水系リチウムイオン二次電池は、充放電に伴う容量の低下が大きく、充放電のサイクル安定性が十分でなかった。
【0004】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、充放電のサイクル安定性に優れた水系リチウムイオン二次電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを正極活物質、負極活物質としてバナジウム酸リチウムを選定し、負極活物質については予め水系電解液と同じ組成の洗浄液で洗浄したものを使用して水系リチウムイオン二次電池を組み立てたところ、洗浄していない負極活物質を使用した場合に比べて充放電に伴う容量が低下しにくいことを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の水系リチウムイオン二次電池は、充電時にリチウムイオンを放出し放電時にリチウムイオンを吸蔵する材料を正極活物質とする正極と、充電時にリチウムイオンを吸蔵し放電時にリチウムイオンを放出する材料を負極活物質とする負極と、電解質としてリチウム塩が溶解しており、前記正極活物質及び前記負極活物質に含まれる各遷移金属の濃度の合計値が20mg/L以下である水系電解液と、を備えたものである。ここで、遷移金属とは、周期表で第3族元素から第11族元素の間に存在する元素の総称である。
【0007】
また、本発明の水系リチウムイオン二次電池の製法は、充電時にリチウムイオンを放出し放電時にリチウムイオンを吸蔵する材料を正極活物質とする正極と、充電時にリチウムイオンを吸蔵し放電時にリチウムイオンを放出する材料を負極活物質とする負極と、電解質としてリチウム塩が溶解している水系電解液と、を備えた水系リチウムイオン二次電池の製法であって、前記正極活物質及び前記負極活物質の少なくとも一方を、水又は前記リチウム塩が溶解した水溶液で予め洗浄する活物質洗浄工程を含むものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水系リチウムイオン二次電池は、充放電のサイクル安定性が優れている。具体的には、初期容量に対する、充放電サイクルを複数回繰り返した後の容量の割合(容量維持率)が従来に比べて向上する。その理由は定かではないが、各活物質から水系電解液に溶出する不純物(遷移金属を含む不純物)の濃度が低いため、そうした不純物による悪影響、例えば水系電解液のpH変化に伴う電極の腐食や各活物質の劣化などが抑制されたのではないかと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の水系リチウムイオン二次電池は、充電時にリチウムイオンを放出し放電時にリチウムイオンを吸蔵する材料を正極活物質とする正極と、充電時にリチウムイオンを吸蔵し放電時にリチウムイオンを放出する材料を負極活物質とする負極と、電解質としてリチウム塩が溶解しており、前記正極活物質及び前記負極活物質に含まれる各遷移金属の濃度の合計値が20mg/L以下である水系電解液と、を備えたものである。
【0010】
本発明の水系リチウムイオン二次電池において、正極は、充電時にリチウムイオンを放出し放電時にリチウムイオンを吸蔵する材料を正極活物質とするものであれば、特に限定されないが、例えばスピネル構造のリチウムマンガン複合酸化物やオリビン構造のリチウムマンガン複合酸化物、層状構造のリチウムマンガン複合酸化物、欠損型層状構造のリチウムマンガン複合酸化物、オリビン構造のリチウムリン酸化合物等を正極活物質とすることが好ましい。正極活物質は、水の電気分解による酸素が生じない電位範囲において、可逆的にできるだけ大量のリチウムイオンの吸蔵・放出が可能であることが好ましい。こうした観点から、正極活物質としては、オリビン構造のリチウムリン酸化合物が好ましく、Li及び遷移金属(例えばFe)を金属元素の主成分とするオリビン構造のリチウムリン酸化合物がより好ましく、LiFePO4が更に好ましい。
【0011】
本発明の水系リチウムイオン二次電池において、負極は、充電時にリチウムイオンを吸蔵し放電時にリチウムイオンを放出する材料を負極活物質とするものであれば、特に限定されないが、例えばバナジウム、鉄、チタン、マンガン等の遷移金属を含有する酸化物や水酸化物、また、これらの金属とリチウムとの複合酸化物等を負極活物質とすることが好ましい。こうした負極活物質としては、例えばバナジウムを含む酸化物(LiV24、LiV38、VO2など)やチタンを含むリン酸化合物(TiP27など)、オキシ水酸化鉄(FeOOH)が挙げられる。負極活物質は、水の電気分解による水素が生じない電位範囲において、可逆的にできるだけ大量のリチウムイオンの吸蔵・放出が可能であることが好ましい。こうした観点から、負極活物質としては、スピネル構造のリチウム複合酸化物が好ましく、Li及びVを金属元素の主成分とするスピネル構造のリチウム複合酸化物がより好ましく、LiV24が更に好ましい。
【0012】
本発明の水系リチウムイオン二次電池において、正極及び負極は、導電材を含んでいてもよい。導電材としては、導電性を有する材料であれば特に限定されない。例えば、ケッチェンブラックやアセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類でもよいし、鱗片状黒鉛のような天然黒鉛や人造黒鉛、膨張黒鉛などのグラファイト類でもよいし、炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類でもよいし、銅や銀、ニッケル、アルミニウムなどの金属粉末類でもよいし、ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料でもよい。また、これらを単体で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0013】
本発明の水系リチウムイオン二次電池において、正極及び負極は、バインダを含んでいてもよい。バインダとしては、特に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などが挙げられる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体などが挙げられる。これらの材料は単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0014】
本発明の水系リチウムイオン二次電池において、水系電解液は、電解質としてリチウム塩が溶解した水溶液であり、正極活物質及び負極活物質に含まれる各遷移金属の濃度の合計値が20mg/L以下のものである。ここで、リチウム塩としては、例えば硝酸リチウムや硫酸リチウム、酢酸リチウムなどが挙げられるが、このうち硝酸リチウムが好ましい。また、正極活物質及び負極活物質に含まれる各遷移金属は、正極活物質及び負極活物質としてどのような化合物を採用するかによって決まる。例えば、正極活物質としてリン酸鉄リチウム、負極活物質としてバナジウム酸リチウムを用いる場合には、鉄の濃度とバナジウムの濃度の合計値が20mg/L以下、好ましくは12mg/L以下となるようにする。正極活物質及び負極活物質に含まれる遷移金属の濃度の合計値を20mg/L以下とすることにより、充放電サイクルを複数回繰り返した後の容量が初期容量に比べて大きく低下するのを防止することができる。こうした水系電解液のpHは、5〜11であることが好ましい。水系電解液のpHが5未満の場合には、一般に正極活物質や負極活物質が不安定になりやすく、電池の容量や充放電サイクル特性が低下するおそれがある。一方、pHが11を超える場合には、水の電気分解電位、即ち水素発生電位及び酸素発生電位が低下するため、正極や負極で酸素や水素が発生し易くなるおそれがある。
【0015】
本発明の水系リチウムイオン二次電池において、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、例えば高分子化合物の微多孔フィルムなど、リチウムイオン二次電池の使用範囲に耐えうる材質であれば、特に限定されずに用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドなどのポリエーテル類、カルボキシメチルセルロースやヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース類、ポリ(メタ)アクリル酸及びその種々のエステル類等を主体とする高分子化合物やその誘導体、これらの共重合体や混合物からなるフィルムなどが挙げられる。また、これらは、単独で用いてもよいし、複数のフィルムを重ね合わせた複層フィルムとして用いてもよい。また、これらのフィルムには、例えばイオンの伝導性を高める添加剤や強度・耐食性を高めるような種々の添加剤を添加してもよい。この微多孔フィルムのうち、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホンなどが好ましく用いられる。このセパレータは、水系電解液が浸透してイオンが透過しやすいように、親水処理を施したり微多孔化を施すのが好ましい。
【0016】
本発明の水系リチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、こうした水系リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して電気自動車用電源としてもよい。電気自動車としては、例えば、電池のみで駆動する電池電気自動車や内燃機関とモータ駆動とを組み合わせたハイブリッド電気自動車、燃料電池で発電する燃料電池自動車等が挙げられる。
【0017】
本発明の水系リチウムイオン二次電池の製法は、充電時にリチウムイオンを放出し放電時にリチウムイオンを吸蔵する材料を正極活物質とする正極と、充電時にリチウムイオンを吸蔵し放電時にリチウムイオンを放出する材料を負極活物質とする負極と、電解質としてリチウム塩が溶解している水系電解液と、を備えた水系リチウムイオン二次電池の製法であって、前記正極活物質及び前記負極活物質の少なくとも一方を、水又は前記リチウム塩が溶解した水溶液で予め洗浄する活物質洗浄工程を含むものである。
【0018】
本発明の水系リチウムイオン二次電池の製法において、活物質洗浄工程では、正極活物質及び負極活物質の少なくとも一方を、水又はリチウム塩が溶解した水溶液で予め洗浄する。正極活物質や負極活物質、リチウム塩については、既に説明したとおりである。洗浄液としては、水をイオン交換樹脂を通して脱イオン処理をしたイオン交換水や水を加熱蒸留した蒸留水などを用いてもよいし、水系電解液に溶解させるリチウム塩と同じ塩を水に溶解したものを用いてもよい。後者の場合には、リチウム塩の濃度は飽和濃度以下であればよい。また、水系電解液に複数種類のリチウム塩を溶解させる場合には、それらの複数種類のリチウム塩のうちの1種類以上のリチウム塩を水に溶解したものを用いてもよい。洗浄液の使用量は、特に限定されるものではないが、活物質を浸漬させるのに十分な量を使用することが好ましく、例えば活物質1gに対して10cc以上、好ましくは50cc以上使用することが好ましい。洗浄は、1回行ってもよいし複数回行ってもよいが、複数回行うのが好ましい。洗浄を複数回行う場合には、例えば、毎回同じ組成の洗浄液を使用してもよいし、毎回異なる組成の洗浄液を使用してもよい。
【0019】
こうした活物質洗浄工程では、水系電解液における正極活物質及び負極活物質に含まれる各遷移金属の濃度の合計値が20mg/L以下となるように洗浄するのが好ましい。こうすれば、この製法によって得られる水系リチウムイオン二次電池において、充放電サイクルを複数回繰り返した後の容量が初期容量に比べて大きく低下するのを防止することができる。また、負極活物質は、バナジウムを含む酸化物であることが好ましく、活物質洗浄工程では、少なくとも負極活物質を洗浄することが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の具体例を実施例を用いて説明する。
【0021】
[実施例1]
正極活物質を以下のようにして作製した。すなわち、出発原料として鉄の価数が2価であるシュウ酸鉄、炭酸リチウム、リン酸二水素アンモニウムをモル比でLi:Fe:P=1.2:1:1となるように混合し、ペレット状に成形して650℃、アルゴンガス雰囲気下で24時間焼成し、オリビン構造のLiFePO4を得た。これを正極活物質とした。
【0022】
負極活物質を以下のようにして作製した。すなわち、炭酸リチウム(Li2CO3)、五酸化バナジウム(V25)を化学量論比に従って秤量し、自動乳鉢で120分間混合した。次いで、この混合物をプレス成形し、水素気流中、700℃で3時間焼成した。得られた混合物を乳鉢にて十分に解砕した後、炭酸ガスと酸素とよりなる酸素含有ガス中で650℃で48時間焼成した。更に乳鉢で十分に解砕してもう一度650℃、48時間の条件で焼成してスピネル構造のLiV24を得た。このLiV24の粒径は、SEMによる目視観察の結果、およそ0.5μmであった。これを負極活物質とした。
【0023】
活物質洗浄工程を以下のようにして行った。すなわち、得られた負極活物質(LiV24)を、1Mの硝酸リチウム水溶液を洗浄液として洗浄した。洗浄液とLiV24との割合は活物質1gに対し洗浄液66.7ccとし、洗浄時間は24時間とした。その後ろ過し、さらにろ過後の負極活物質を、イオン交換水を洗浄液として洗浄した。洗浄液と負極活物質との割合は活物質1gに対し洗浄液133.3ccとし、洗浄時間は10分間とした。その後ろ過し、ろ過後の負極活物質を80℃で8時間乾燥した。
【0024】
次に、図1に示すCR2016型のコインセル10を組み立てた。まず、LiFePO4と導電材であるカーボンと結着材であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とを重量比が70:25:5となるように秤量して良く混合した。この混合粉末20mgをあらかじめコインセル10のケース本体11の内側に溶接したSUS製メッシュ上に約0.6ton/cm2で圧着して正極13とした。続いて、洗浄後乾燥したLiV24と導電材であるカーボンと結着材であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とを重量比が70:25:5となるように秤量して良く混合した。この混合粉末14.3mgをあらかじめコインセル10のケース蓋体12の内側に溶接したSUS製メッシュ上に約0.6ton/cm2で圧着して負極14とした。そして、ケース本体11の内周にガスケット15を配置すると共に正極13と負極14との間にポリプロピレン製のセパレータ16を配置し、ケース本体11に水系電解液17を適量注入してセパレータ16に含浸させた。この水系電解液17としては、6Mの硝酸リチウム水溶液を使用した。そして、ケース本体11の端部をかしめ加工することにより密封して試験用のコインセル10を得た。
【0025】
[実施例2]
活物質洗浄工程において、1Mの硝酸リチウム水溶液を洗浄液とする洗浄を実施した後、イオン交換水を洗浄液とする洗浄を実施することなく、ろ過後の負極活物質を80℃で8時間乾燥した以外は、実施例1と同様にしてコインセル10を組み立てた。
【0026】
[実施例3]
活物質洗浄工程において、6Mの硝酸リチウム水溶液を洗浄液とする洗浄を実施した後、イオン交換水を洗浄液とする洗浄を実施することなく、ろ過後の負極活物質を80℃で8時間乾燥した以外は、実施例1と同様にしてコインセル10を組み立てた。
【0027】
[実施例4]
活物質洗浄工程において、1Mの硝酸リチウム水溶液を洗浄液とする洗浄を実施することなく、イオン交換水を洗浄液とする洗浄を実施し、ろ過後の負極活物質を80℃で8時間乾燥した以外は、実施例1と同様にしてコインセル10を組み立てた。
【0028】
[比較例1]
合成した負極活物質を洗浄することなく使用した以外は、実施例1と同様にしてコインセル10を組み立てた。
【0029】
[初回放電容量の確認]
実施例1〜4及び比較例1につき、初回放電容量を確認した。すなわち、作製した各コインセル10につき、電流密度0.1mA/cm2で1.3Vまで充電し、同じく0.1mA/cm2で0.5Vまで放電した。このときの放電電流容量を初期容量とし、下記表1にまとめた。
【0030】
[容量維持率の算出]
実施例1〜4及び比較例1につき、充放電サイクル試験を行い、容量維持率を算出した。すなわち、初回の充放電を終えた各コインセル10につき、電流密度0.1mA/cm2で1.3Vまで充電し、同じく0.1mA/cm2で0.5Vまで放電するというサイクル試験を、20℃で20サイクル行った。20サイクル目の放電容量を記録し、以下の計算式によって容量維持率を算出し、下記表1にまとめた。
【数1】

【0031】
[水系電解液の遷移金属濃度]
実施例1〜4及び比較例1につき、充放電サイクル試験を行ったものとは別に同じものを作製し、初回放電容量を確認した後各コインセル10を解体し、水系電解液を抽出した。その水系電解液のICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分析を行い、今回使用した活物質に含まれる遷移金属であるバナジウムと鉄の水系電解液中の濃度を測定した。その結果を下記表1にまとめた。
【表1】

【0032】
表1から明らかなように、負極活物質の洗浄を実施した実施例1〜4では、洗浄を実施しなかった比較例1と比べて、バナジウムの濃度と鉄の濃度との合計値が格段に低くなると共に、容量維持率が大きく向上した。その理由は定かではないが、負極活物質から水系電解液に溶出する不純物(遷移金属を含む不純物)の濃度が低いため、そうした不純物による悪影響、例えば水系電解液のpH変化に伴う電極の腐食や各活物質の劣化などが抑制されたのではないかと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】コインセル10の断面図である。
【符号の説明】
【0034】
10 コインセル、11 ケース本体、12 ケース蓋体、13 正極、14 負極、15 ガスケット、16 セパレータ、17 水系電解液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電時にリチウムイオンを放出し放電時にリチウムイオンを吸蔵する材料を正極活物質とする正極と、
充電時にリチウムイオンを吸蔵し放電時にリチウムイオンを放出する材料を負極活物質とする負極と、
電解質としてリチウム塩が溶解しており、前記正極活物質及び前記負極活物質に含まれる各遷移金属の濃度の合計値が20mg/L以下である水系電解液と、
を備えた水系リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記負極活物質はバナジウムを含む酸化物である、
請求項1に記載の水系リチウムイオン二次電池。
【請求項3】
充電時にリチウムイオンを放出し放電時にリチウムイオンを吸蔵する材料を正極活物質とする正極と、充電時にリチウムイオンを吸蔵し放電時にリチウムイオンを放出する材料を負極活物質とする負極と、電解質としてリチウム塩が溶解している水系電解液と、を備えた水系リチウムイオン二次電池の製法であって、
前記正極活物質及び前記負極活物質の少なくとも一方を、水又は前記リチウム塩が溶解した水溶液で予め洗浄する活物質洗浄工程
を含む水系リチウムイオン二次電池の製法。
【請求項4】
前記活物質洗浄工程では、前記正極活物質及び前記負極活物質に含まれる各遷移金属の前記水系電解液における濃度の合計値が20mg/L以下となるように洗浄する、
請求項3に記載の水系リチウムイオン二次電池の製法。
【請求項5】
前記負極活物質は、バナジウムを含む酸化物であり、前記活物質洗浄工程では、少なくとも前記負極活物質を洗浄する、
請求項3又は4に記載の水系リチウムイオン二次電池の製法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−289448(P2009−289448A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137997(P2008−137997)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】