説明

水系塗布型制振材料

【課題】水系塗布型制振材料において、塗装ロボット等を用いて自動施工が可能であり、プロピレングリコールを始めとするグリコール(2価アルコール)の含有量を制限することによって、温水が浸漬しても電着塗膜にブリスターが発生することがないこと。
【解決手段】樹脂エマルションとしてスチレン−ブタジエン共重合体エマルションを用い、無機質充填剤として炭酸カルシウムを用いて、グリコールの配合量をいずれも2重量%以下とした水系塗布型制振材料においては、168時間(7日間)の50℃の温水浸漬後も、336時間(14日間)の温水浸漬後も、そして1000時間の温水浸漬後も、ブリスターの発生は認められない。したがって、本発明にかかる水系塗布型制振材料は、優れた制振性を有するとともに、電着塗料に対して高い防錆性能を有することになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂エマルションと無機質充填剤とを含有し、車両のフロア等に用いられる剛性と制振性に優れ、耐ブリスター性にも優れた水系の塗布型制振材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用車等の車両のフロア等には振動を防止するために、アスファルトを主成分としたシート状の制振材が設置されていた。しかし、かかるシート状の制振材は車両等に用いる場合には、各車種ごとに設置する部分の形状に合わせて切断しなければならず、さらにシート状制振材の設置は作業者が行わなければならないため、自動化の障害になり工程時間の短縮を阻害していた。そこで、特許文献1に示されるように、ロボットによる自動化の可能な塗装式の制振組成物(水系制振材用エマルション)が開発されている。
【0003】
特許文献1においては、制振材として塗布された厚い塗膜を乾燥させる場合に表面から乾燥して硬化することによって、塗膜内部の水分が蒸発する際に塗膜に膨れを生じたり、クラックが発生したりするのを防止するために、制振材として形成された塗膜の乾燥性を向上させるように、凝固率を一定範囲内に制御した水系制振材用エマルションの発明について開示している。
【0004】
この発明にかかる水系制振材用エマルションは、塗装ロボットによる自動化が可能であり工程時間を短縮できるだけでなく、水系塗料であるため、施工時に従来のシート状制振材におけるアスファルト臭や有機溶剤系塗料における有機溶剤臭を発生しないという長所も兼ね備えている。
【特許文献1】特開2004−115665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1にかかる水系制振材用エマルションにおいては、添加剤としてプロピレングリコールが4.5%配合されており、かかる塗布型制振材を車体パネル等の電着塗料の塗膜の上から塗布して焼付けを行うことによって、プロピレングリコールが電着塗膜を膨潤・軟化させ、その後温水浸漬を行うことによって、軟化した電着塗膜中に温水が浸入して電着塗膜と鋼板との界面に入り込み、ブリスター(電着塗膜に細かいブツブツ(膨れ)が発生すること)となる。
【0006】
かかる温水の浸漬は、特に冬季の北海道や東北・北陸地方の豪雪地帯や北米地方等で、靴に着いた雪が車両フロアで溶けて温められた場合に起こり易く、水系制振塗料には添加剤としてプロピレングリコール、エチレングリコールを使用する場合が多いため、上述の如きメカニズムによって、車両下地塗膜(電着塗膜)にブリスターを発生させてしまうという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明は、車両のフロア部、トランクルーム、ダッシュ部等に塗装ロボット等を用いて自動施工が可能であり、プロピレングリコールを始めとするグリコール(2価アルコール)の含有量を制限することによって、温水が浸漬してもブリスターが発生することがない水系塗布型制振材料を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明にかかる水系塗布型制振材料は、樹脂エマルションと無機質充填剤とを含有する水系塗布型制振材料であって、2価アルコール(グリコール)を含まないか、2価アルコール(グリコール)の含有量が2.0重量%以下であるものである。
【0009】
請求項2の発明にかかる水系塗布型制振材料は、請求項1の構成において、前記樹脂エマルションは第1の樹脂エマルションと第2の樹脂エマルションとを混合したものであり、前記第1の樹脂エマルションの損失正接(tanδ)のピーク温度(Tg)が0℃〜20℃の範囲内であり、前記第2の樹脂エマルションの損失正接(tanδ)のピーク温度(Tg)が25℃〜50℃の範囲内であるものである。
【0010】
請求項3の発明にかかる水系塗布型制振材料は、請求項1または請求項2の構成において、前記樹脂エマルションはスチレン―ブタジエンエマルション及び/またはアクリル酸エステルエマルション及び/またはエチレン―酢酸ビニルエマルションであるものである。
【0011】
ここで、「スチレン―ブタジエンエマルション及び/またはアクリル酸エステルエマルション及び/またはエチレン―酢酸ビニルエマルション」とは、樹脂エマルションまたは第1の樹脂エマルションまたは第2の樹脂エマルションが、スチレン―ブタジエンエマルションのみからなる場合と、アクリル酸エステルエマルションのみからなる場合と、エチレン―酢酸ビニルエマルションのみからなる場合と、スチレン―ブタジエンエマルション及びアクリル酸エステルエマルションからなる場合と、アクリル酸エステルエマルション及びエチレン―酢酸ビニルエマルションからなる場合と、スチレン―ブタジエンエマルション及びエチレン―酢酸ビニルエマルションからなる場合と、スチレン―ブタジエンエマルション及びアクリル酸エステルエマルション及びエチレン―酢酸ビニルエマルションからなる場合と、の全てを含む意味である。
【0012】
請求項4の発明にかかる水系塗布型制振材料は、請求項1乃至請求項3のいずれか1つの構成において、前記無機質充填剤は炭酸カルシウム、タルク、珪藻土、硫酸バリウム、ゼオライト、炭酸マグネシウム、マイカから選ばれる少なくとも1つであるものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明にかかる水系塗布型制振材料は、樹脂エマルションと無機質充填剤とを含有する水系塗布型制振材料であって、2価アルコール(グリコール)を含まないか、2価アルコール(グリコール)の含有量が2.0重量%以下である。
【0014】
ここで、樹脂エマルションとしては、アクリルエマルション、アクリル−スチレンエマルション、スチレン―ブタジエンエマルション、スチレン―ブタジエン―ラテックス(SBR)エマルション、酢酸ビニルエマルション、エチレン−酢酸ビニルエマルション、エチレン−アクリルエマルション、エポキシ樹脂エマルション、ウレタン樹脂エマルション、フェノール樹脂エマルション、ポリエステル樹脂エマルション、アクリロニトリル―ブタジエン―ラテックス(NBR)エマルション、等を用いることができる。
【0015】
また、無機質充填剤としては、炭酸カルシウム、タルク(滑石)、珪藻土、硫酸バリウム、ゼオライト、炭酸マグネシウム、マイカ(雲母)、グラファイト、ケイ酸カルシウム、クレー、ガラスフレーク、ヒル石、カオリナイト、等を用いることができる。
【0016】
さらに、2価アルコール(グリコール)の代表例としては、エチレングリコール、プロピレングリコールがある。
【0017】
本発明者らが鋭意実験研究を積み重ねた結果、樹脂エマルションと無機質充填剤とを含有する水系塗布型制振材料であって、水系塗布型制振材料中に含まれるエチレングリコール、プロピレングリコールを始めとする2価アルコール(グリコール)の含有量が合計で2.0重量%以下である場合には、温水に浸漬させても車両下地塗膜(電着塗膜)にブリスターが発生しないことを見出し、この知見に基いて本発明を完成したものである。
【0018】
このようにして、車両のフロア部、トランクルーム、ダッシュ部等に塗装ロボット等を用いて自動施工が可能であり、プロピレングリコールを始めとするグリコール(2価アルコール)の含有量を制限することによって、温水が浸漬してもブリスターが発生することがない水系塗布型制振材料となる。
【0019】
請求項2の発明にかかる水系塗布型制振材料は、樹脂エマルションは第1の樹脂エマルションと第2の樹脂エマルションとを混合したものであり、第1の樹脂エマルションの損失正接(tanδ)のピーク温度(Tg)が0℃〜20℃の範囲内であり、第2の樹脂エマルションの損失正接(tanδ)のピーク温度(Tg)が25℃〜50℃の範囲内である。
【0020】
本発明者らが鋭意実験研究を積み重ねた結果、損失正接(tanδ)のピーク温度(Tg)が0℃〜20℃の範囲内の第1の樹脂エマルションに、損失正接(tanδ)のピーク温度(Tg)が25℃〜50℃の範囲内の第2の樹脂エマルションを混合することによって、焼付け乾燥初期における水分の蒸発を促進させることができ、焼付け乾燥時における塗膜膨れがより改善され、膜厚8mmという非常に厚い塗膜での焼付け乾燥でも割れ、膨れを生ずることなく、制振性に優れた硬化塗膜が得られることを見出し、この知見に基いて本発明を完成したものである。
【0021】
このようにして、車両のフロア部、トランクルーム、ダッシュ部等に塗装ロボット等を用いて自動施工が可能であり、プロピレングリコールを始めとするグリコール(2価アルコール)の含有量を制限することによって、温水が浸漬してもブリスターが発生することがないだけでなく、より厚い制振塗膜を得ることができる水系塗布型制振材料となる。
【0022】
請求項3の発明にかかる水系塗布型制振材料は、樹脂エマルションがスチレン―ブタジエンエマルション及び/またはアクリル酸エステルエマルション及び/またはエチレン―酢酸ビニルエマルションである。
【0023】
本発明者らがさらに鋭意実験研究を積み重ねた結果、樹脂エマルションとしてスチレン―ブタジエンエマルション、アクリル酸エステルエマルション、エチレン―酢酸ビニルエマルションのいずれか、またはこれらのうち2種以上の混合物を使用した場合に、制振性についても剛性についてもより優れた制振塗膜が得られることを見出し、この知見に基いて本発明を完成したものである。また、これら3種のエマルションは入手が容易であり、低コストであるという利点も有している。
【0024】
このようにして、車両のフロア部、トランクルーム、ダッシュ部等に塗装ロボット等を用いて自動施工が可能であり、プロピレングリコールを始めとするグリコール(2価アルコール)の含有量を制限することによって、温水が浸漬してもブリスターが発生することがないだけでなく、より制振特性に優れた制振塗膜を得ることができる水系塗布型制振材料となる。
【0025】
請求項4の発明にかかる水系塗布型制振材料は、無機質充填剤が炭酸カルシウム、タルク、珪藻土、硫酸バリウム、ゼオライト、炭酸マグネシウム、マイカから選ばれる少なくとも1つである。これらの無機質充填剤は、いずれも入手が容易で安価であり、樹脂エマルションとの相性も良いので、良好な制振特性を得ることができる。
【0026】
このようにして、車両のフロア部、トランクルーム、ダッシュ部等に塗装ロボット等を用いて自動施工が可能であり、プロピレングリコールを始めとするグリコール(2価アルコール)の含有量を制限することによって、温水が浸漬してもブリスターが発生することがないだけでなく、より制振特性に優れた制振塗膜を得ることができ、低コスト化できる水系塗布型制振材料となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態にかかる水系塗布型制振材料について説明する。
【0028】
実施の形態1
まず、本実施の形態1にかかる水系塗布型制振材料の製造方法について、図1のフローチャートを参照して説明する。図1は本実施の形態1にかかる水系塗布型制振材料の製造方法を示すフローチャートである。図1に示されるように、まずステップS1で容器(樹脂カップまたは琺瑯ビーカー)に液体状の樹脂エマルションを入れて、これに添加剤を添加し(ステップS2)、さらに無機質充填剤を混入して(ステップS3)、ディスパーで均一になるまで混合する(ステップS4)。それから、脱泡用の容器に移して(ステップS5)、脱泡装置に入れて真空ポンプで吸引しながら約15分〜約30分攪拌することによって脱泡する(ステップS6)。以上の工程で、水系塗布型制振材料の製造が完了する(ステップS7)。
【0029】
次に、本実施の形態1にかかる水系塗布型制振材料の配合について説明する。樹脂エマルションとしてスチレン−ブタジエンエマルションを用い、無機質充填剤として炭酸カルシウムを用い、そして添加剤(分散剤・タレ止め剤)を配合し、さらにグリコール(プロピレングリコール、エチレングリコール)を2重量%以下配合して、総計100重量%となるようにした。
【0030】
これらの配合比を変えたものを実施例1〜実施例7まで製造し、さらに比較のために比較例1〜比較例3をも製造して、特性試験(耐ブリスター性試験)を行った。実施例1〜実施例7及び比較例1〜比較例3の各配合を表1にまとめて示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1に示されるように、実施例1〜実施例7及び比較例1〜比較例3の各配合を通して、樹脂エマルション(スチレン−ブタジエン共重合体エマルション,)の配合量は全て35重量%に統一し、添加剤(分散剤・タレ止め剤)の配合量は全て4重量%に統一した。そして、グリコール(プロピレングリコール、エチレングリコール)の配合量の変化に合わせて無機質充填剤(炭酸カルシウム)の配合量を増減して、総計100重量%となるようにした。
【0033】
表1に示されるように、実施例1においては、グリコール(プロピレングリコール、エチレングリコール)を全く配合していない。そして、無機質充填剤(炭酸カルシウム)を61重量%配合することによって、合計100重量%としている。
【0034】
実施例2,実施例3,実施例4においては、グリコールとしてプロピレングリコールをそれぞれ0.5重量%,1重量%,2重量%配合しており、これに応じて無機質充填剤(炭酸カルシウム)の配合量を60.5重量%,60重量%,59.5重量%と徐々に減らしている。
【0035】
また、実施例5,実施例6,実施例7においては、グリコールとしてエチレングリコールをそれぞれ0.5重量%,1重量%,2重量%配合しており、これに応じて無機質充填剤(炭酸カルシウム)の配合量を60.5重量%,60重量%,59.5重量%と徐々に減らしている。
【0036】
これに対して、比較例1においては、グリコールとしてプロピレングリコールを3重量%配合しており、比較例2においては、グリコールとしてエチレングリコールを3重量%配合しており、さらに比較例3においては、グリコールとしてプロピレングリコールを1.5重量%、エチレングリコールを1.5重量%、合計3重量%配合している。これに応じて、無機質充填剤(炭酸カルシウム)の配合量を58重量%としている。
【0037】
要するに、実施例1〜実施例7においては、グリコールの配合量がいずれも2重量%以下であり、比較例1〜比較例3においては、グリコールの配合量がいずれも3重量%、即ち2重量%を超えているものである。
【0038】
次に、特性試験(耐ブリスター性試験)の試験方法について説明する。
【0039】
70mm×150mm×厚さ0.8mmのED鋼板に車両下地塗膜(電着塗膜)を形成したものに、水系塗布型制振材料を50mm×150mmの大きさで面密度4kg/m2 になるように塗布し、130℃で30分の2回焼付けして試験片を作製し、この試験片について、50℃の温水に浸漬して所定時間経過後に引き上げて、目視観察によってブリスターの発生の有無を判定し、ブリスターの発生が認められない場合は○、ブリスターの発生が認められた場合は×と判定した。その結果を、表1の下段にまとめて示す。
【0040】
表1に示されるように、実施例1〜実施例7の配合の水系塗布型制振材料においては、168時間(7日間)の温水浸漬後も、336時間(14日間)の温水浸漬後も、そして1000時間の温水浸漬後も、ブリスターの発生は認められない。したがって、本実施の形態1にかかる水系塗布型制振材料は、優れた制振性を有するとともに、電着塗料に対して高い防錆性能を有することになる。
【0041】
これに対して、比較例1〜比較例3の配合の水系塗布型制振材料においては、168時間(7日間)の温水浸漬後に早くもブリスターの発生が認められた。これによって、水系塗布型制振材料におけるグリコールの配合量が2重量%を超える場合には、グリコールが電着塗膜を膨潤・軟化させ、その後温水浸漬を行うことによって、軟化した電着塗膜中に温水が浸入して電着塗膜と鋼板との界面に入り込み、ブリスターが発生することが判明した。
【0042】
このようにして、本実施の形態1にかかる水系塗布型制振材料(実施例1〜実施例7)は、車両のフロア部、トランクルーム、ダッシュ部等に塗装ロボット等を用いて自動施工が可能であり、プロピレングリコールを始めとするグリコール(2価アルコール)の含有量を制限することによって、温水が浸漬してもブリスターが発生することがないだけでなく、樹脂エマルションとしてスチレン−ブタジエン共重合体エマルションを用い、無機質充填剤として炭酸カルシウムを用いることによって、より制振特性に優れた制振塗膜を得ることができ、低コスト化することができる。
【0043】
実施の形態2
次に、本実施の形態2にかかる水系塗布型制振材料の配合について説明する。第1の樹脂エマルションとしてTgが0℃〜20℃の範囲内(Tg=5℃)であるスチレン−ブタジエンエマルションを用い、第2の樹脂エマルションとしてTgが25℃〜50℃の範囲内(Tg=25℃)であるアクリルエマルションを用いて、無機質充填剤として炭酸カルシウムを用い、そして添加剤(分散剤・タレ止め剤)を配合し、さらにグリコール(プロピレングリコール、エチレングリコール)を2重量%以下配合して、総計100重量%となるようにした。
【0044】
これらの配合比を変えたものを実施例8〜実施例14まで製造して、実施の形態1と同様に特性試験(耐ブリスター性試験)を行った。なお、本実施の形態2にかかる水系塗布型制振材料の製造方法は、図1に示される実施の形態1の場合と同様である。実施例8〜実施例14の各配合を表2にまとめて示す。
【0045】
【表2】

【0046】
表2に示されるように、実施例8〜実施例14の各配合を通して、第1の樹脂エマルション(スチレン−ブタジエン共重合体エマルション,Tg=5℃)及び第2の樹脂エマルション(アクリルエマルション,Tg=25℃)の合計の配合量は全て35重量%に統一し、添加剤(分散剤・タレ止め剤)の配合量は全て4重量%に統一した。そして、グリコール(プロピレングリコール、エチレングリコール)の配合量の変化に合わせて無機質充填剤(炭酸カルシウム)の配合量を増減して、総計100重量%となるようにした。
【0047】
ここで、表2に示されるように、実施例8においては、グリコール(プロピレングリコール、エチレングリコール)を全く配合していない。そして、無機質充填剤(炭酸カルシウム)を61重量%配合することによって、合計100重量%としている。また、実施例8においては、樹脂エマルションとして第2の樹脂エマルション(アクリルエマルション,Tg=25℃)のみを使用している。従って、表2に示される実施例8〜実施例14の各配合のうち、実施例8のみは1種類の樹脂エマルションを用いた実施例である。
【0048】
実施例9,実施例10,実施例11においては、グリコールとしてプロピレングリコールをそれぞれ0.5重量%,1重量%,2重量%配合しており、これに応じて無機質充填剤(炭酸カルシウム)の配合量を60.5重量%,60重量%,59重量%と徐々に減らしている。また、第1の樹脂エマルション(スチレン−ブタジエン共重合体エマルション)の配合量を10重量%,20重量%,30重量%と徐々に増やしており、これに応じて第2の樹脂エマルション(アクリルエマルション)の配合量を25重量%,15重量%,5重量%と徐々に減らしている。
【0049】
更に、実施例12,実施例13,実施例14においては、グリコールとしてエチレングリコールをそれぞれ0.5重量%,1重量%,2重量%配合しており、これに応じて無機質充填剤(炭酸カルシウム)の配合量を60.5重量%,60重量%,59重量%と徐々に減らしている。また、第1の樹脂エマルション(スチレン−ブタジエン共重合体エマルション)の配合量を10重量%,20重量%,30重量%と徐々に増やしており、これに応じて第2の樹脂エマルション(アクリルエマルション)の配合量を25重量%,15重量%,5重量%と徐々に減らしている。
【0050】
これらの水系塗布型制振材料について、実施の形態1と同様にして、耐ブリスター性試験を行った。即ち、70mm×150mm×厚さ0.8mmのED鋼板に車両下地塗膜(電着塗膜)を形成したものに、水系塗布型制振材料を50mm×150mmの大きさで面密度4kg/m2 になるように塗布し、130℃で30分の2回焼付けして試験片を作製し、この試験片について、50℃の温水に浸漬して所定時間経過後に引き上げて、目視観察によってブリスターの発生の有無を判定し、ブリスターの発生が認められない場合は○、ブリスターの発生が認められた場合は×と判定した。その結果を、表2の下段にまとめて示す。
【0051】
表2に示されるように、実施例8〜実施例14の配合の水系塗布型制振材料においては、168時間(7日間)の温水浸漬後も、336時間(14日間)の温水浸漬後も、そして1000時間の温水浸漬後も、ブリスターの発生は認められない。したがって、本実施の形態2にかかる水系塗布型制振材料は、優れた制振性を有するとともに、電着塗料に対して高い防錆性能を有することになる。
【0052】
更に、本実施の形態2のうち実施例9〜実施例14においては、樹脂エマルションを第1の樹脂エマルションと第2の樹脂エマルションとを混合したものとして、第1の樹脂エマルションのTgが0℃〜20℃の範囲内であり、第2の樹脂エマルションのTgが25℃〜50℃の範囲内であるものとしたことによって、焼付け乾燥初期における水分の蒸発を促進させることができ、焼付け乾燥時における塗膜膨れがより改善され、膜厚8mmという非常に厚い塗膜での焼付け乾燥でも割れ、膨れを生ずることなく、制振性に優れた硬化塗膜が得られる。
【0053】
上記各実施の形態においては、樹脂エマルションとしてスチレン−ブタジエン共重合体エマルション及びアクリルエマルションを用いた例について説明しているが、これら以外にもアクリル−スチレンエマルション、スチレン―ブタジエン―ラテックス(SBR)エマルション、酢酸ビニルエマルション、エチレン−酢酸ビニルエマルション、エチレン−アクリルエマルション、エポキシ樹脂エマルション、ウレタン樹脂エマルション、フェノール樹脂エマルション、ポリエステル樹脂エマルション、アクリロニトリル―ブタジエン―ラテックス(NBR)エマルション、等を用いることができる。
【0054】
さらに、上記各実施の形態においては、無機質充填剤として炭酸カルシウムを用いているが、他にも、タルク(滑石)、珪藻土、硫酸バリウム、ゼオライト、炭酸マグネシウム、マイカ(雲母)、グラファイト、ケイ酸カルシウム、クレー、ガラスフレーク、ヒル石、カオリナイト、等を用いることができる。
【0055】
水系塗布型制振材料のその他の組成、成分、配合量、材質、大きさ、製造方法等についても、上記各実施の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は本実施の形態1にかかる水系塗布型制振材料の製造方法を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂エマルションと無機質充填剤とを含有する水系塗布型制振材料であって、
2価アルコール(グリコール)を含まないか、2価アルコール(グリコール)の含有量が2.0重量%以下であることを特徴とする水系塗布型制振材料。
【請求項2】
前記樹脂エマルションは第1の樹脂エマルションと第2の樹脂エマルションとを混合したものであり、前記第1の樹脂エマルションの損失正接(tanδ)のピーク温度(Tg)が0℃〜20℃の範囲内であり、前記第2の樹脂エマルションの損失正接(tanδ)のピーク温度(Tg)が25℃〜50℃の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の水系塗布型制振材料。
【請求項3】
前記樹脂エマルションはスチレン―ブタジエンエマルション及び/またはアクリル酸エステルエマルション及び/またはエチレン―酢酸ビニルエマルションであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水系塗布型制振材料。
【請求項4】
前記無機質充填剤は炭酸カルシウム、タルク、珪藻土、硫酸バリウム、ゼオライト、炭酸マグネシウム、マイカから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の水系塗布型制振材料。

【図1】
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【公開番号】特開2007−39656(P2007−39656A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162031(P2006−162031)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】