説明

水系塗料およびこれを用いた水系塗膜

【課題】溶媒への分散性が向上した水系塗料を提供する。
【解決手段】修飾基を有しかつ前記修飾基の全部または一部をカルボン酸塩に変性してなる環状分子と、前記環状分子を串刺し状に包接する直鎖状分子と、前記直鎖状分子の両末端に配置され前記環状分子の脱離を防止する封鎖基と、を有する変性ポリロタキサンを含む水系塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系塗料および当該水系塗料を用いて形成される水系塗膜に関する。当該水系塗料は、主として、自動車のボディ、屋内・屋外において使用される樹脂成型品、階段、床、家具等の木工製品、メッキ、蒸着、スパッタリング等の処理が施されたアルミホイール、ドアミラー等の製品などに好適に用いられる。さらに詳しくは、本発明は、水分散可能なポリロタキサンを含有し、平滑性、耐擦傷性、耐水性、耐酸性、耐鳥糞性及び延伸性に優れ、酸性雨や鳥糞等の大気降下物から塗膜の保護が可能となる水系塗料および当該水系塗料を用いて形成される水系塗膜に関する。また、本発明は、上記水系塗料用の材料として用いられるカルボン酸塩変性ポリロタキサン水分散体(エマルジョン、ディスパージョン)に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートやアクリル等の樹脂成型品、あるいは各種金属製品においては、硬度、耐候性、耐汚染性、耐溶剤性、防食性等の諸物性が要求されるレベルに満たない場合には、これらの物性を補うために、表面処理が施されることがある。このような表面処理には、通常、常温乾燥型塗料や2液ウレタン塗料等の硬化型塗料が用いられるが、このような塗料による表面処理膜には傷が付き易く、しかも傷が付いてしまった場合には、これが目立ち易い。
【0003】
また、製品としての意匠性を向上させるために、各種部品に、めっきや蒸着、スパッタリングのような金属鏡面処理を施すことがあるが、このような金属鏡面処理を行った場合、処理膜には傷が付き易く、付いた傷が目立ち易い。そのため、このような鏡面処理膜には、通常、さらに上述したような塗料による表面処理が行われているが、この塗料処理膜にも、上記のように傷が付き易く、付いた傷が目立ち易いという欠点がある。
【0004】
また、自動車用トップコートについても、近年では新車時の塗装外観を長期間に亘って保持することができるように、高耐久化指向が強まってきており、塗膜には、洗車機や、砂塵等によっても傷の付かない耐擦傷性が求められている。
【0005】
このような耐擦傷性を有する塗膜を形成することができる塗料としては、従来、親水性ポリロタキサンを用いた水系塗料等が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、自動車等の大型商品は、消費者の手に届くまでの期間中に、風雨、湿気、日光、空気、鉄粉、鳥糞、煤煙などの大気中の汚染物質に曝され、塗装面が汚染され易い。このため、従来から自動車等の塗装面の上に更に塗膜保護剤を塗布しておき、消費者に渡る直前にその塗膜保護剤を除去することで、塗装面の汚染を防止し商品価値を維持することが行なわれている。
【0007】
上述の塗膜保護剤は、その用途から明らかなように、風雨や湿気等によっては簡単に除去されないような耐久性と、除去が必要となった時には有機溶剤や水または手拭きなどによって簡単に除去できるという易除去性を兼ねそなえる必要がある。
【0008】
従来の塗膜保護剤としては、例えば、ワックス溶剤分散型、手拭き除去が可能なワックス−固体粉末溶剤分散型、ワックスを乳化分散した水性乳液型等がある。
【0009】
このような塗膜保護剤のうち、塗布乾燥の際に有機溶剤が揮発する塗膜保護剤や、除去の際には有機溶剤が必要な塗膜保護剤は、特に公害問題の点、その他資源の浪費、経済性
、安全性などの点で近年問題視されている。
【0010】
そこで、有機溶剤の揮発が無く、不用になったときに剥ぎ取ることができる親水性ポリロタキサンを用いたストリッパブルペイント型が検討され始めている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−99973号公報
【特許文献2】特開2007−106867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献1に開示された水系塗料や特許文献2に開示されたストリッパブルペイント型塗膜保護剤は、耐擦傷性、下地保護性及び除去性の観点での問題はないものの、親水性ポリロタキサンが分散できる溶媒種が限定されるため、その限定された溶媒種に可溶な添加剤を選択することになるため添加剤の材料選択の自由度が低い。
【0013】
本発明は、このような従来の水系塗料における上記課題に鑑みてなされたものであり、溶媒への分散性が向上した水系塗料を提供することを目的とする。
【0014】
本発明はまた、平滑性、耐擦傷性、下地保護性、除去性、耐水性、耐湿性、耐酸性、耐鳥糞性、延伸性等、塗料として具備すべき種々の性能にも優れた水系塗膜を形成しうる水系塗料を提供することを目的とする。
【0015】
本発明は、平滑性、耐擦傷性、下地保護性、除去性、耐水性、耐湿性、耐酸性、耐鳥糞性、延伸性に優れた水系塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討をさらに繰り返した結果、ポリロタキサンの滑車効果に基づく優れた伸縮性や粘弾性、機械的強度に着目した。すなわち、環状分子が有する水酸基の全部又は一部を修飾基で修飾されたポリロタキサンの、該修飾基の全部又は一部をカルボン酸塩に変性すると、分散できる溶媒種を広げることができ、また、その分散性が向上することを知得した。また、当該変性ポリロタキサンは水や水系溶媒に分散可能であり、耐久性が要求される製品への適用範囲が広がり、このような変性ポリロタキサンを塗料に適用することによって、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、上記目的は、環状分子の修飾基の全部又は一部をカルボン酸塩に変性した変性ポリロタキサンを含む水系塗料によって達成されうる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の変性ポリロタキサンを含む水系塗料は、変性ポリロタキサンの水や水系溶媒への分散性が向上した塗料となる。また、本発明の水系塗料は、変性ポリロタキサンが様々な溶媒種に分散できるため、添加剤等の材料選択の自由度が広がる。
【0019】
また、本発明の水系塗料を用いて形成される水系塗膜は、平滑性、耐擦傷性、下地保護性、除去性、耐水性、耐湿性、耐酸性、耐鳥糞性、延伸性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る変性ポリロタキサンの基本構造を概念的に示す模式図である。
【図2】架橋構造型変性ポリロタキサンを概念的に示す模式図である。
【図3】本発明のクリヤー塗膜を含む積層塗膜の構造例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の塗装保護膜の構造例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、修飾基を有しかつ前記修飾基の全部または一部をカルボン酸塩に変性してなる環状分子と、前記環状分子を串刺し状に包接する直鎖状分子と、前記直鎖状分子の両末端に配置され前記環状分子の脱離を防止する封鎖基と、を有する変性ポリロタキサンを含む水系塗料を提供する。なお、本明細書では、修飾基を有しかつ前記修飾基の全部または一部をカルボン酸塩に変性してなる環状分子を、単に「変性環状分子」とも称し、変性前の環状分子を、単に「環状分子」とも称する。また、前記環状分子を串刺し状に包接する直鎖状分子を、単に「直鎖状分子」とも称する。さらに、前記直鎖状分子の両末端に配置され前記環状分子の脱離を防止する封鎖基を、単に「封鎖基」とも称する。
【0022】
本発明は、環状分子と、直鎖状分子と、封鎖基と、を有するポリロタキサンにおいて、環状分子に修飾基を導入しかつ当該修飾基の少なくとも一部をカルボン酸塩に変性した変性ポリロタキサンを使用することに特徴がある。このような変性ポリロタキサンは、環状分子に導入された修飾基の少なくとも一部をカルボン酸塩に変換しているので、水や水系溶媒への分散性がさらに向上する。また、この変性ポリロタキサンは、水や水系溶媒への分散性の向上により、使用できる水系溶媒の種類も多様化できる。このため、本発明の水系塗料を、例えば、車体のクリヤー塗膜や塗装保護膜等の物体の表面塗膜や表面保護膜の形成に使用する場合には、得られる水系塗膜は、優れた平滑性を示す。また、ポリロタキサンは、その構造による滑車効果に基づき、優れた伸縮性や粘弾性、機械的強度を発揮でき、この効果は、変性ポリロタキサンであっても維持される。このため、本発明の水系塗料を、例えば、車体のクリヤー塗膜や塗装保護膜等の物体の表面塗膜や表面保護膜の形成に使用される場合には、得られる水系塗膜は、優れた耐擦傷性、耐チッピング性、耐鳥糞性、延伸性を発揮しうる。なお本願発明において修飾基は、親水性、疎水性、両親媒性のいずれの特性を有していてもよいが、疎水性修飾基であることが好ましい。
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において、「質量」と「重量」、「質量%」と「重量%」、および「質量部」と「重量部」は同義語であり、「%」は特記しない限り質量百分率(質量%)を意味する。また、物性等の測定に関しては特に断りがない場合は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%で測定する。
【0024】
上記したように、本発明に係る変性ポリロタキサンは、環状分子の修飾基の少なくとも一部をカルボン酸塩に変性したものであり、このような変性により、水や水系溶媒への分散性が向上する。本発明の水系塗料は、上記変性ポリロタキサンを含有するものである。
【0025】
図1は、本発明に係る変性ポリロタキサンの基本構造を概念的に示す模式図である。図1中、変性ポリロタキサン1は、環状分子2、当該環状分子2の開口部を介して串刺し状に貫通する直鎖状分子3、当該直鎖状分子3の両末端に結合する封鎖基4からなる。ここで、封鎖基4は、環状分子2が直鎖状分子3からの脱離を防止するよう働く。上記構造により、外的応力が加わる場合には、環状分子2が直鎖状分子3に沿って自由に移動する(滑車効果)。このため、本発明の水系塗料を使用して形成された水系塗膜は、伸縮性や粘弾性に優れ、フィルムが切れたり、傷が生じ難いという優れた特性を備えている。ゆえに、本発明の水系塗料を用いて形成される水系塗膜は、耐擦傷性(耐チッピング性)、耐鳥糞性、延伸性、下地保護性に優れる。また、環状分子2は、修飾基2aを有し、この修飾基の全部又は一部がカルボン酸塩2bに変性されている。このようにカルボン酸塩が存在することにより、変性ポリロタキサンは、水や水系溶媒への分散性が向上し、水系塗料の
成分として好適に配合できる。ゆえに、本発明の水系塗料は、様々な用途に応じた水や水系溶媒を利用した塗料となる。また、変性ポリロタキサンが水系塗料中に均一に分散できるので、当該水系塗料を用いて形成される水系塗膜は平滑性にも優れる。
【0026】
また、上記したような水や水系溶媒への分散性の発現は、従来は水や水系溶媒に難溶性ないしは不溶性であったポリロタキサンに対し、水や水系溶媒という反応場、典型的には架橋場を提供するものである。すなわち、本発明に係る変性ポリロタキサンは、水や水系溶媒の存在下で他のポリマーとの架橋が容易に行えるよう反応性を向上させたものである。
【0027】
上記したように、本発明に係る変性ポリロタキサンは、環状分子と、直鎖状分子と、封鎖基と、を有するポリロタキサンにおいて、環状分子に修飾基を導入しかつ当該修飾基の少なくとも一部をカルボン酸塩に変性した構造を有する。
【0028】
ここで、環状分子としては、環状構造を有し、直鎖状分子に包接されて滑車効果を奏するものであれば特に制限されない。なお、本明細書において、「環状構造」とは、必ずしも閉環した形状である必要はない。すなわち、環状分子は、例えば、「C」字状のように、実質的に環状構造を有するものであれば十分である。
【0029】
また、環状分子は、反応基を有することが好ましい。これによって、修飾基などの導入が行い易くなる。このような反応基としては、例えば水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、チオール基、アルデヒド基などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、反応基としては、後述する封鎖基を形成する(ブロック化反応)際に、この封鎖基と反応しない基が好ましい。このような点を考慮すると、反応基は、水酸基、エポキシ基、アミノ基であることが好ましく、水酸基であることが特に好ましい。
【0030】
具体的には、環状分子としては、シクロデキストリン、クラウンエーテル類、ベンゾクラウン類、ジベンゾクラウン類、ジシクロヘキサノクラウン類、ならびにこれらの誘導体及び変性体などが挙げられる。これらのうち、シクロデキストリンおよびシクロデキストリン誘導体が好ましく使用される。ここで、シクロデキストリンおよびシクロデキストリン誘導体の種類は、特に制限されない。シクロデキストリンは、α型、β型、γ型、δ型、ε型のいずれでもよい。また、シクロデキストリン誘導体としてもα型、β型、γ型、δ型、ε型のいずれでもよい。なお、シクロデキストリン誘導体とは、例えば、アミノ体、トシル体、メチル体、プロピル体、モノアセチル体、トリアセチル体、ベンゾイル体、スルホニル体及びモノクロロトリアジニル体等の化学修飾体を意図したものである。本発明で使用できるシクロデキストリンおよびシクロデキストリン誘導体のより具体的な例としては、α−シクロデキストリン(グルコース数=6個)、β−シクロデキストリン(グルコース数=7個)、γ−シクロデキストリン(グルコース数=8個)等の、シクロデキストリン;ジメチルシクロデキストリン、グルコシルシクロデキストリン、2−ヒドロキシプロピル−α−シクロデキストリン、2,6−ジ−O−メチル−α−シクロデキストリン、6−O−α−マルトシル−α−シクロデキストリン、6−O−α−D−グルコシル−α−シクロデキストリンモノ、ヘキサキス(2,3,6−トリ−O−アセチル)−α−シクロデキストリン、ヘキサキス(2,3,6−トリ−O−メチル)−α−シクロデキストリン、ヘキサキス(6−O−トシル)−α−シクロデキストリン、ヘキサキス(6−アミノ−6−デオキシ)−α−シクロデキストリン、ヘキサキス(2、3−アセチル−6−ブロモ−6−デオキシ)−α−シクロデキストリン、ヘキサキス(2,3,6−トリ−O−オクチル)−α−シクロデキストリン、モノ(2−O−ホスホリル)−α−シクロデキストリン、モノ[2,(3)−O−(カルボキシルメチル)]−α−シクロデキストリン、オクタキス(6−O−t−ブチルジメチルシリル)−α−シクロデキストリン、スクシニ
ル−α−シクロデキストリン、グルクロニルグルコシル−β−シクロデキストリン、ヘプタキス(2,6−ジ−O−メチル)−β−シクロデキストリン、ヘプタキス(2,6−ジ−O−エチル)−β−シクロデキストリン、ヘプタキス(6−O−スルホ)−β−シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3−ジ−O−アセチル−6−O−スルホ)−β−シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3−ジ−O−メチル−6−O−スルホ)−β−シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3,6−トリ−O−アセチル)−β−シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3,6−トリ−O−ベンゾイル)−β−シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3,6−トリ−O−メチル)−β−シクロデキストリン、ヘプタキス(3−O−アセチル−2,6−ジ−O−メチル)−β−シクロデキストリン、ヘプタキス(2,3−O−アセチル−6−ブロモ−6−デオキシ)−β−シクロデキストリン、2−ヒドロキシエチル−β−シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、(2−ヒドロキシ−3−N,N,N−トリメチルアミノ)プロピル−β−シクロデキストリン、6−O−α−マルトシル−β−シクロデキストリン、メチル−β−シクロデキストリン、ヘキサキス(6−アミノ−6−デオキシ)−β−シクロデキストリン、ビス(6−アジド−6−デオキシ)−β−シクロデキストリン、モノ(2−O−ホスホリル)−β−シクロデキストリン、ヘキサキス[6−デオキシ−6−(1−イミダゾリル)]−β−シクロデキストリン、モノアセチル−β−シクロデキストリン、トリアセチル−β−シクロデキストリン、モノクロロトリアジニル−β−シクロデキストリン、6−O−α−D−グルコシル−β−シクロデキストリン、6−O−α−D−マルトシル−β−シクロデキストリン、スクシニル−β−シクロデキストリン、スクシニル−(2−ヒドロキシプロピル)−β−シクロデキストリン、2−カルボキシメチル−β−シクロデキストリン、2−カルボキシエチル−β−シクロデキストリン、ブチル−β−シクロデキストリン、スルホプロピル−β−シクロデキストリン、6−モノデオキシ−6−モノアミノ−β−シクロデキストリン、シリル[(6−O−t−ブチルジメチル)2,3−ジ−O−アセチル]−β−シクロデキストリン、2−ヒドロキシエチル−γ−シクロデキストリン、2−ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリン、ブチル−γ−シクロデキストリン、3A−アミノ−3A−デオキシ−(2AS,3AS)−γ−シクロデキストリン、モノ−2−O−(p−トルエンスルホニル)−γ−シクロデキストリン、モノ−6−O−(p−トルエンスルホニル)−γ−シクロデキストリン、モノ−6−O−メシチレンスルホニル−γ−シクロデキストリン、オクタキス(2,3,6−トリ−O−メチル)−γ−シクロデキストリン、オクタキス(2,6−ジ−O−フェニル)−γ−シクロデキストリン、オクタキス(6−O−t−ブチルジメチルシリル)−γ−シクロデキストリン、オクタキス(2,3,6−トリ−O−アセチル)−γ−シクロデキストリン、などが挙げられる。ここで、上述のシクロデキストリン等の環状分子は、その1種を単独、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。上記環状分子の中では、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、およびこれらの誘導体が好ましく、被包接性の観点からは、α−シクロデキストリンおよびこれらの誘導体を使用することが特に好ましい。
【0031】
直鎖状分子に包接される環状分子の個数(包接量)は、特に制限されず、所望の溶媒への分散性、修飾基の種類などによって適宜選択されうる。具体的には、直鎖状分子に包接される環状分子の個数(包接量)は、直鎖状分子が環状分子を包接し得る最大包接量を1とするとき、0.06〜0.61が好ましく、0.11〜0.48がより好ましく、0.24〜0.41が特に好ましい。
【0032】
本明細書において、「直鎖状分子が環状分子を包接し得る最大包接量」とは、直鎖状分子に対して環状分子が隙間無く包接する際の環状分子の数を意味し、下記式により算出できる。
【0033】
【数1】

【0034】
ここで、直鎖状分子の鎖長は、その分子量(重量平均分子量)から鎖長を容易に求められる。また、環状分子の厚みもまた、公知であり、例えば、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンの場合は、約0.7nmである。
【0035】
本発明では、上記環状分子は、修飾基を有する。修飾基の環状分子への導入により、ある程度溶媒への分散性を向上でき、他のポリマーとの反応性を向上することができる。ここで、環状分子が備える修飾基は、下記修飾基であることが好ましい。例えば、アルキル基、ベンジル基、ベンゼン誘導体含有基、アシル基、シリル基、トリチル基、及びトシル基等の、上記基がウレタン結合、エステル結合またはエーテル結合と結合した基または上記2つの基が上記いずれかの結合を介して結合した基などを挙げることができる。
【0036】
また、本発明に係る変性ポリロタキサンが複数の環状分子を有する場合には、環状分子の反応基の全部が修飾基によって修飾されている必要はない。言い換えると、次のカルボン酸塩への変性により変性ポリロタキサン全体として所望の溶媒への分散性を示す限り、修飾基によって修飾されていない水酸基を有する環状分子が部分的に存在したとしても何ら差し支えない。また、変性ポリロタキサン中に複数の環状分子を有する場合、修飾基は、環状分子全体に均一に導入されていても、あるいは不均一に導入されてもよい。しかし、溶媒への分散性、機械的強度、滑車効果に基づく優れた伸縮性や粘弾性等、塗料として具備すべき種々の諸特性を考慮すると、修飾基は環状分子全体に均一に(実質的に同数のまたは同比の修飾基が各環状分子に存在するように)導入されることが好ましい。
【0037】
ここで、環状分子の修飾基による平均修飾度は、特に制限されず、所望の溶媒への分散性、環状分子の種類などによって適宜選択されうる。環状分子の修飾基による平均修飾度は、環状分子の有する反応基が修飾され得る最大数を1とするとき、0.02以上であることが好ましく、0.04以上であることがより好ましく、0.06以上であることが特に好ましい。なお塗膜形成時に不溶性ブツ(異物付着などに由来する突出物)が生成することがある。本明細書において、「環状分子の反応基が修飾され得る最大数」とは、修飾基による修飾前に環状分子が有していた全反応基数を意味する。また、「平均修飾度」とは、変性ポリロタキサンの環状分子1個の全反応基数に対する修飾された全反応基数の比のことである。例えば、環状分子としてα−シクロデキストリンを有する場合には、α−シクロデキストリンは18個の水酸基を反応基として持つため、修飾前のポリロタキサンの全反応基数は18×(α−シクロデキストリンの個数)となる。このうち、計n個の反応基が修飾基で修飾されたとすると、平均修飾度は、n/(18×(α−シクロデキストリンの個数))となる。
【0038】
本発明では、上記修飾基の少なくとも一部をカルボン酸塩に変性する。このような変性により、特に水や水系溶媒への分散性が向上できる。ここで、修飾基の全てがカルボン酸塩に変性する必要はない。言い換えると、最終産物である変性ポリロタキサン全体として所望の溶媒への分散性を示す限り、カルボン酸塩に変性していない修飾基が部分的に存在したとしても何ら差し支えない。また、変性ポリロタキサン中に複数の環状分子を有する場合、カルボン酸塩は、環状分子全体に均一になるように修飾基を変性しても、あるいは不均一な状態で修飾基を変性していてもよい。しかし、溶媒への分散性、機械的強度、滑車効果に基づく優れた伸縮性や粘弾性等、塗料として具備すべき種々の諸特性を考慮すると、カルボン酸塩は、環状分子全体に均一になるように修飾基を変性することが好ましい。即ち、各環状分子当たり実質的に同数のカルボン酸塩が存在することが好ましい。
【0039】
カルボン酸塩による修飾基の変性度は、特に制限されず、所望の溶媒への分散性、修飾基の種類などによって適宜選択されうる。カルボン酸塩による修飾基の変性度は、修飾基全数に対して、好ましくは10〜50%、より好ましくは20〜40%である。このような範囲であれば、十分な溶媒への分散性、特に水や水系溶媒への十分な分散性を示すことができる。なお、上記カルボン酸塩による修飾基の変性度は、下記に詳述するが、酸無水物、およびアミン化合物の添加量によって適宜制御できる。
【0040】
カルボン酸塩としては、特に水や水系溶媒への分散性が向上できる形態であれば特に制限されない。具体的には、カルボン酸塩は、下記式(1)で示される基を有する。
【0041】
【化1】

【0042】
上記式(1)において、R、R及びRは、水素原子または炭素原子数1〜8の分岐鎖を有してもよい炭化水素基を表わす。ここで、R、R及びRは、それぞれ、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。炭素原子数1〜8の分岐鎖を有してもよい炭化水素基は、特に制限されないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、等の、炭素原子数1〜8の直鎖または分岐鎖のアルキル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル及びシクロオクチル等の、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基;フェニル、ベンジル、フェネチル、o−,m−若しくはp−トリル、2,3−若しくは2,4−キシリル、メシチル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、ビフェニリル、ベンズヒドリル、トリチル及びピレニル等の、炭素原子数6〜20のアリール基などが挙げられる。これらのうち、R、R及びRは、水素原子、炭素原子数1〜4の直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基がより好ましく、水素原子、エチル基がさらにより好ましく、特にエチル基が特に好ましい。また、Rは、ヒドロキシアルキル基の水酸基をラクトン誘導体で修飾した修飾基を表わす。好ましくは、Rは、ヒドロキシプロピル基の水酸基をラクトン誘導体で修飾した修飾基を表わす。このようなカルボン酸塩の形態であれば、得られる変性ポリロタキサンは特に水や水系溶媒への優れた分散性を示す。
【0043】
本発明に係る変性ポリロタキサンは、上記環状分子を串刺し状に包接する直鎖状分子をさらに有する。直鎖状分子は、実質的に直鎖であればよく、回転子である環状分子が回動可能で滑車効果を発揮できるように包接できる限り、分岐鎖を有していてもよい。また、環状分子の大きさにも影響を受けるが、直鎖状分子の長さ(直鎖状分子の分子量)についても、環状分子が滑車効果を発揮できる限り特に限定されない。
【0044】
直鎖状分子は、その材質は特に制限されないが、両末端に反応基を有するものが好ましい。これにより、上記封鎖基と容易に反応させることができ、直鎖状分子の両末端に封鎖基を導入できる。かかる反応基は、特に制限されず、採用する直鎖状分子や封鎖基の種類などに応じて適宜変更することができるが、水酸基、アミノ基、カルボキシル基及びチオール基などを例示することができる。
【0045】
このような直鎖状分子は、特に限定されるものではない。具体的には、直鎖状分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリアルキレン類;ポリカプロラクトン、ポリバレロラクトンなどのポリエステル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリエーテル類;ポリアミド類;ポリ(メタ)アクリル類;及びベンゼン環を
有する直鎖状分子などを挙げることができる。これら直鎖状分子のうち、ポリエステルやポリエーテルが好ましく、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリカプロラクトンがより好ましく、水や水系溶媒への分散性の観点から、ポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0046】
また、上記直鎖状分子の分子量(重量平均分子量)は、特に制限されず、環状分子の種類や包接量などによって適宜選択されうる。直鎖状分子の分子量は、好ましくは10,000〜60,000、より好ましくは15,000〜40,000、特に好ましくは20,000〜35,000の範囲である。このような範囲であれば、十分数の環状分子を直鎖状分子に包接できる。なお、直鎖状分子の分子量が10,000未満では、環状分子による滑車効果が十分に得られなくなって塗膜の伸び率が低下する可能性がある。このような場合には、変性ポリロタキサンを塗膜にした場合の塗膜の耐擦傷性が低くなるおそれがある。また、分子量が50,000を超えると、水や水系溶媒への分散性が低下する可能性がある。このような場合には、変性ポリロタキサンを塗膜にした場合の塗膜の平滑性などが劣るおそれがある。なお、上記分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC:Gel
Permeation Chromatography)などの公知の方法によって測定できる。
【0047】
本発明に係る変性ポリロタキサンは、環状分子の脱離を防止するために、上記直鎖状分子の両末端に配置される封鎖基をさらに有する。上記封鎖基は、直鎖状分子の両末端に配置されて、環状分子が直鎖状分子によって串刺し状に貫通された状態を保持できる基でさえあれば、特に制限されない。例えば、「嵩高さ」を有する基又は「イオン性」を有する基などを挙げることができる。なお、ここで「基」とは、分子基及び高分子基を含む種々の基を意味する。「嵩高さ」を有する基は、主にその大きさにより環状分子の脱離を防止する基であり、例えば、球形をなすものや、側壁状の基を例示することができる。また、「イオン性」を有する基は、主に封鎖基のイオン性により、環状分子の有するイオン性との相互作用、例えば、反発作用等により、環状分子が直鎖状分子に串刺しにされた状態を保持する基である。
【0048】
このような封鎖基を有する物質としては、2,4−ジニトロフェニル基、3,5−ジニトロフェニル基等の、ジニトロフェニル基を有する化合物類、シクロデキストリン類、アダマンタンアミン等の、アダマンタン類、トリチル基を有する化合物類、フルオレセイン類、及びピレン類;並びにこれらの誘導体や変性体などを挙げることができる。なお、封鎖基を有する物質は、環状分子の脱離を防止できればよく、上記に限定されるものではない。
【0049】
本発明に係る上記変性ポリロタキサンの製造方法は、特に制限されない。以下で、本発明に係る変性ポリロタキサンの製造方法の好ましい形態を記載するが、本発明は、下記方法に限定されるものではない。本発明に係る変性ポリロタキサンの製造方法の好ましい形態としては、下記(1)〜(4)の工程を有する。
(1)環状分子と直鎖状分子とを混合し、環状分子の開口部を直鎖状分子で串刺し状に貫通して直鎖状分子に環状分子を包接して、擬ポリロタキサンを得る工程;
(2)上記(1)で得られた擬ポリロタキサンの直鎖状分子の両末端(直鎖状分子の両末端)を封鎖基で封鎖することにより環状分子が直鎖状分子から脱離しないように調整して、ポリロタキサンを得る工程;
(3)上記(2)で得られたポリロタキサンの環状分子が有する反応基(例えば、水酸基)を修飾基で修飾して、修飾ポリロタキサンを得る工程;および
(4)上記(3)で得られた修飾ポリロタキサンの修飾基をさらにカルボン酸塩に変性する工程。
【0050】
まず、環状分子と直鎖状分子とを混合し、環状分子の開口部を直鎖状分子で串刺し状に
貫通して直鎖状分子に環状分子を包接して、擬ポリロタキサンを得る。
【0051】
ここで、直鎖状分子は、環状分子との混合前に、酸化されてもよい。例えば、直鎖状分子が反応基として水酸基を有する場合には、直鎖状分子は、酸化されると、少なくとも一部(好ましくは、末端部分)にカルボキシル基が導入される。このように直鎖状分子を予め酸化することにより、次工程(2)で擬ポリロタキサンの直鎖状分子の両末端との反応性が上がるため、封鎖基を導入しやすい、環状分子の酸化を防ぐという利点がある。
【0052】
この際、直鎖状分子の酸化方法は、特に制限されず、公知の酸化方法が使用できる。例えば、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジニルオキシラジカル)などが挙げられる。また、酸化条件は、特にされず、公知の酸化条件が同様にあるいは適宜修飾して適用できる。
【0053】
なお直鎖分子の酸化法、及び末端がカルボン酸基で酸化された直鎖分子と環状分子との包接錯体の形成、さらにアダマンタンアミンを用いた封鎖反応についての詳細は国際公開公報WO2005−052026に記載されている。本発明で用いたポリロタキサンは上記国際公開公報を参考に作製したものである。
【0054】
次に、上記で得られたポリロタキサンの環状分子が有する反応基(例えば、水酸基)を修飾基で修飾して、修飾ポリロタキサンを得る。
【0055】
ここで、ポリロタキサンの環状分子への修飾基の導入方法としては、特に制限されない。例えば、上記で得られたポリロタキサンにアルキレンオキシドを添加して、環状分子の反応基とアルキレンオキシドを反応させる。ここで、ポリロタキサンは適当な溶媒に溶解させておくことが好ましい。この際、適当な溶媒としては、ポリロタキサンを溶解できれば特に制限されないが、溶解性を考慮すると、アルカリ溶液であることが好ましい。例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などが挙げられる。
【0056】
上記方法において、アルキレンオキシドとしては、特に制限されないが、炭素原子数2〜4のアルキレンオキシドが好ましい。具体的には、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどである。これらのうち、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドがより好ましい。上記アルキレンオキシドは、1種を単独で使用してもあるいは2種以上を混合物の形態で使用してもよい。アルキレンオキシドの添加量は、特に制限されず、上記したような環状分子の修飾基による修飾度となるような量であることが好ましい。具体的には、アルキレンオキシドの添加量は、ポリロタキサンの全反応基数に対して、好ましくは50〜100モル%、より好ましくは80〜100モル%である。
【0057】
またアルキレンオキシドの添加、反応条件は特に制限されないが、通常10〜30℃で、水酸化ナトリウム水溶液中で行なうことが好ましい。詳細な条件は国際公開公報WO2005−080469に記載されている。
【0058】
次に、このヒドロキシアルキル化ポリロタキサンに、ラクトン誘導体を添加して、環状分子のヒドロキシアルキルをさらにラクトン誘導体で修飾する。ここで、ラクトン誘導体としては、特に制限されない。例えば、ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトンなどが挙げられる。これらのうち、ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンおよびδ−バレロラクトンが好ましく、ε−カプロラクトンが特に好ましい。上記ラクトン誘導体は、1種を単独で使用してもあるいは2種以上を混合物の形態で使用してもよい。ラクトン誘導体の添加量は、特に制限されず、上記したような環状分
子の修飾基による修飾度となるような量であることが好ましい。具体的には、ラクトン誘導体の添加量は、ポリロタキサンの重量に対して、好ましくは1〜4.5倍、より好ましくは3.5〜4.5倍である。
【0059】
また、ラクトン誘導体の添加・反応条件は、特に制限されない。例えば、上記ヒドロキシアルキル化ポリロタキサンに、ラクトン誘導体を添加し、反応を行なう。この際、当該反応は、ヒドロキシアルキル化ポリロタキサンとラクトン誘導体とのみで行なわれてもよいが、触媒の存在下でこの反応を行なうことが好ましい。ここで使用できる触媒は、特に制限されず、公知の触媒が使用できる。例えば、2−エチルへキサン酸スズなどが挙げられる。また、上記反応は、通常、80〜100℃で、4時間、行なうことが好ましい。なお、上記反応は、溶液が均一になるように、攪拌してもよい。ここで、攪拌は、上記反応の前あるいは上記反応と同時のいずれでもよいが、反応前に予め攪拌した後、触媒を添加することが好ましい。上記添加及び必要であれば攪拌後は、適当な溶媒による析出、遠心分離、透析、凍結乾燥、熱風乾燥、減圧蒸留、減圧乾燥、真空乾燥などを行なってもよい。これにより、環状分子の修飾基がラクトン誘導体で修飾された修飾ポリロタキサンが得られる。
【0060】
次に、この修飾ポリロタキサンの修飾基をさらにカルボン酸塩に変性して、本発明に係る変性ポリロタキサンを得る。これにより、本発明に係る変性ポリロタキサンは特に水や水系溶媒への分散性が向上する。ここで、修飾ポリロタキサンの修飾基のカルボン酸塩への変性方法は、特に制限されない。具体的には、上記修飾ポリロタキサンに、酸無水物を添加して、反応させる。ここで酸無水物としてはエチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基、t−ブチレン基を有する、炭素原子数1〜4の直鎖または分岐鎖のアルキレン基、またはフェニレン基、ナフタレン基を有する、炭素原子数6〜20のアリール基、の少なくともいずれか1種を有する酸無水物が挙げられる。より具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸の酸無水物などが挙げられる。これらのうち、コハク酸、イソフタル酸の無水物が好ましく、コハク酸の無水物がより好ましい。上記酸無水物は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0061】
上記酸無水物と修飾ポリロタキサンとの混合比は、特に制限されず、上記したようなカルボン酸塩による修飾基の変性度となるような量であることが好ましい。具体的には、その酸無水物を、修飾ポリロタキサン100質量部に対して、好ましくは1〜10質量部、より好ましくは5〜8質量部となるように、混合する。また、酸無水物の添加量は、特に制限されず、上記したようなカルボン酸塩による修飾基の変性度となるような量であることが好ましい。具体的には、酸無水物の添加量は、ポリロタキサンの全反応基数に対して、好ましくは10〜50モル%、より好ましくは20〜40モル%である。
【0062】
上記酸無水物と修飾ポリロタキサンとの反応は、無溶媒下で行なわれてもあるいは溶媒中で行なわれてもよいが、溶媒中で行なわれることが好ましい。この際、溶媒としては、上記修飾ポリロタキサン及び酸無水物が溶解できるものであれば特に制限されない。具体的には、トルエン、脱水トルエンである。上記溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、上記溶媒の添加量は、上記反応が進行する量であれば特に制限されない。具体的には、溶媒中の修飾ポリロタキサンの濃度が、10〜25質量%となるような量である。また、上記反応条件は、その酸無水物と修飾ポリロタキサンとの反応が進行する条件であれば特に制限されない。好ましくは、酸無水物と修飾ポリロタキサンとの混合物を、30〜80℃で2〜3時間、反応させる。なお、上記反応は、溶液が均一になるように、攪拌してもよい。ここで、攪拌は、上記反応の前あるいは上記反応と同時のいずれでもよいが、攪拌しながら反応を行うことが好ましい。これ
により、カルボン酸は、修飾基に均一に導入できる。上記添加及び必要であれば攪拌後は、適当な溶媒による析出、遠心分離、透析、凍結乾燥、熱風乾燥、減圧蒸留、減圧乾燥、真空乾燥などを行なってもよい。これにより、環状分子の修飾基がカルボン酸で修飾されたカルボン酸修飾ポリロタキサンが得られる。
【0063】
その後、このカルボン酸修飾ポリロタキサンにアミン化合物を添加して、反応(中和)を行い、本発明に係る変性ポリロタキサンを得る。ここで、アミン化合物は、特に制限されず、所望の変性ポリロタキサンの構造によって適宜選択される。具体的には、アミン化合物としては、アンモニア;メチルアミン、エチルアミン等の第1級アミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン等の第2級アミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン等の第3級アミンなどが挙げられる。これらのうち、第3級アミンが好ましく、トリメチルアミン、トリエチルアミンが特に好ましい。上記アミン化合物は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。なお、上記アミン化合物のうち、アンモニアを使用する場合には、アンモニアガスをカルボン酸修飾ポリロタキサンを含む溶液中に吹き込む方法などが使用できる。このような方法によって、カルボン酸修飾ポリロタキサンのカルボキシル基がカルボン酸塩に変性して、上記式(1)中のR〜Rが水素原子である変性ポリロタキサンが製造できる。
【0064】
アミン化合物とカルボン酸修飾ポリロタキサンとの混合比は、特に制限されず、上記したようなカルボン酸塩による修飾基の変性度となるような量であることが好ましい。具体的には、アミン化合物を、カルボン酸修飾ポリロタキサン100質量部に対して、好ましくは1〜10質量部、より好ましくは5〜8質量部となるように、混合する。また、アミン化合物の添加量は、特に制限されず、上記したようなカルボン酸塩による修飾基の変性度となるような量であることが好ましい。具体的には、アミン化合物の添加量は、ポリロタキサンの全反応基数に対して、好ましくは10〜50モル%、より好ましくは20〜40モル%である。
【0065】
上記アミン化合物によるカルボン酸修飾ポリロタキサンの中和反応は、無溶媒下で行なわれてもあるいは溶媒中で行なわれてもよいが、溶媒中で行なわれることが好ましい。この際、溶媒としては、上記反応で得られたカルボン酸修飾ポリロタキサンの溶媒をそのまま用いてもよいし、上記アミン化合物が液状である場合には、アミン化合物を溶媒として使用してもよい。また、中和反応後の溶液のpHは、7〜8程度であることが好ましい。これにより、カルボン酸は、適度にカルボン酸塩に変性(中和)導入できる。上記反応後は、適当な溶媒による析出、遠心分離、透析、凍結乾燥、熱風乾燥、減圧蒸留、減圧乾燥、真空乾燥などを行なってもよい。これにより、環状分子の修飾基がカルボン酸塩で修飾された本発明に係る変性ポリロタキサンが得られる。
【0066】
上記方法をより理解することを目的として、ジカルボン酸の酸無水物として、無水コハク酸を、また、アミン化合物としてトリエチルアミンを、それぞれ、使用した場合の、修飾ポリロタキサンの修飾基をカルボン酸塩に変性する反応を、下記反応式1に示す。なお、下記反応式1は、本発明をより明瞭に理解することを目的とするものであり、本発明を限定するものではない。
【0067】
【化2】

【0068】
上記したような方法によって、本発明に係る変性ポリロタキサンが製造できる。なお、上記方法では、修飾基による修飾及びカルボン酸塩の変性を、ポリロタキサンを製造した後に行なったが、本発明は、当該順番に制限されない。例えば、環状分子が有する水酸基を予め修飾基で修飾し、更に修飾基をカルボン酸塩変性した後、この修飾後の環状分子を直鎖状分子に包接し、さらに直鎖状分子の両末端に封鎖基を導入しても、水や水系溶媒への分散性に優れた変性ポリロタキサンを得ることができる。または、環状分子が有する水酸基を予め修飾基で修飾した後、この修飾後の環状分子を直鎖状分子に包接し、この状態で上記修飾基をカルボン酸塩変性した後、直鎖状分子の両末端に封鎖基を導入しても、水や水系溶媒への分散性に優れた変性ポリロタキサンを得ることができる。または、環状分子が有する水酸基を予め修飾基で修飾した後、この修飾後の環状分子を直鎖状分子に包接し、直鎖状分子の両末端に封鎖基を導入した後、上記修飾基をカルボン酸塩変性しても、水や水系溶媒への分散性に優れた変性ポリロタキサンを得ることができる。
【0069】
なお、本発明において、水や上記のような水系溶媒に分散可能である限りにおいて、変性ポリロタキサンが架橋構造を有しているものであってもよい。かかる架橋構造の変性ポリロタキサン(「架橋構造型変性ポリロタキサン」とも称する)を、非架橋の変性ポリロタキサンの代りに又はこれと混合して用いることができる。このような架橋構造型変性ポリロタキサンとしては、比較的低分子量のポリマー、代表的には分子量が数千程度のポリマーと架橋した変性ポリロタキサンを挙げることができる。ここで、一般に、架橋構造型変性ポリロタキサンは、ポリロタキサン単体と他のポリマーとが架橋したものを言うが、下記に詳述するが、塗膜形成時には、上記変性ポリロタキサンが、ポリマーなどの塗膜形成成分と架橋して成る。この塗膜形成成分は、ポリロタキサンの環状分子を介してポリロ
タキサンと結合している。
【0070】
また、本発明において、架橋構造型変性ポリロタキサンは、修飾基やカルボン酸塩に加えて、他の官能基を有していてもよい。これにより、他のポリマーとの反応性を向上させることができる。かかる官能基は、特に制限されないが、環状分子、例えばシクロデキストリンの外側にあることが立体構造的に好ましく、ポリマーと結合又は架橋する際、この官能基を用いて容易に反応を行なうことができる。このような官能基は、架橋剤を用いない場合には、例えば用いる溶媒の種類に応じて適宜変更することができる。一方、架橋剤を用いる場合には、その用いる架橋剤の種類に応じて適宜変更することができる。
【0071】
更に、本発明においては、官能基の具体例として、例えば水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、チオール基及びアルデヒド基などを挙げることができるが、これに限定されるものではない。本発明に係る変性ポリロタキサンでは、上述の官能基を、その1種を単独で又は2種以上を組合わせて有していてもよい。
【0072】
かかる官能基としては、特にシクロデキストリンの水酸基と結合した化合物の残基であり、当該残基が、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基を有するものが良好であり、反応の多様性の観点からは水酸基が好ましい。このような官能基を形成する化合物としては、例えばε−カプロラクトンなどを挙げることができるが、これに限定されるものではない。例えば、当該ポリロタキサンの水や水系溶媒への分散性向上効果をあまり低下させなければ、官能基を形成する化合物がポリマーであってもよく、分散性の観点からは、例えば、分子量が数千程度であることが望ましい。
【0073】
図2は、このような架橋構造型変性ポリロタキサンを概念的に示す模式図であって、図において架橋構造型変性ポリロタキサン6は、前述のポリロタキサン1とポリマー7とを有しており、このポリロタキサン1は、環状分子2を介して架橋点8によってポリマー7及びポリマー7’と結合している。なお、この図に示す環状分子2は、図1に示したように修飾基2a及びカルボン酸塩2bを有している。このような構成を有する架橋構造型変性ポリロタキサン6に対し、図2(A)の矢印X−X'方向の変形応力が負荷されると、
架橋構造型変性ポリロタキサン6は、図2(B)に示すように変形してこの応力を吸収することができる。すなわち、図2(B)に示すように、環状分子2は滑車効果によって直鎖状分子3に沿って移動可能であるため、容易に変形することができ、上記応力の内部吸収が可能となる。このように、架橋構造型変性ポリロタキサンは、図示したような滑車効果を有するものであり、従来のゲル状物などに比し優れた伸縮性や粘弾性、機械的強度を有するものである。また、この架橋構造型変性ポリロタキサンの前駆体である変性ポリロタキサン(カルボン酸塩変性ポリロタキサン)は、上述の如く水や水系溶媒への分散性が改善されており、水や水系溶媒中での架橋などが容易である。
【0074】
上記したように、本発明の水系塗料は、架橋構造型変性ポリロタキサンを用いているので、水や水系溶媒への分散性に優れるため、塗膜形成時に優れた平滑性を発揮する。また、ポリロタキサンは、その構造による滑車効果に基づき、優れた伸縮性や粘弾性、機械的強度を発揮でき、この効果は、架橋構造型変性ポリロタキサンであっても維持する。このため、本発明の水系塗料は、塗膜形成時に優れた耐擦傷性、耐チッピング性、耐鳥糞性、延伸性をも発揮しうる。
【0075】
本発明の水系塗料は、本発明の水系塗料用材料、架橋構造型変性ポリロタキサンを含有するものであって、本発明の塗膜は、当該水系塗料を固化して成るものである。架橋構造型変性ポリロタキサンは、水や水系溶媒が存在する条件下で容易に得ることができ、特に、変性ポリロタキサンと水溶性の塗膜形成成分とを架橋させることにより、容易に得ることができる。
【0076】
本発明の水系塗料が架橋構造型変性ポリロタキサンを含む場合には、塗膜形成時に架橋構造型変性ポリロタキサンが有する修飾基やカルボン酸塩や他の官能基が、塗膜形成成分と反応し、架橋構造型変性ポリロタキサンを形成することによって、耐擦傷性、耐チッピング性に優れた塗膜となる。また、クラックなども発生し難く、耐候性、耐汚染性、密着性等にも優れたものとなる。よって、本発明の水系塗料用材料は、水溶性の塗膜ポリマーを用いる塗料、特に耐洗車性、耐引っ掻き性、耐チッピング性、耐衝撃性及び耐候性の要求される自動車用の塗料や、家電用の塗料にも適用可能であり、これらの用途においても優れた滑車効果を発現できるものである。
【0077】
また別の観点からは、上記架橋構造型変性ポリロタキサンは、変性ポリロタキサン(カルボン酸塩変性ポリロタキサン)の架橋対象である塗膜形成成分の物性を損なうことなく、当該塗膜形成成分と当該ポリロタキサンとを複合体化したものと言うことができる。
【0078】
したがって、以下に説明するように、塗膜中に架橋構造型変性ポリロタキサンを形成させることによって、上記塗膜形成成分の物性と親水性ポリロタキサン自体の物性を兼ね備えた塗膜が得られ、ポリマー種などを選択することにより、所望の機械的強度などを有する塗膜とすることができる。
【0079】
ここで、本発明に用いる変性ポリロタキサンの架橋について説明する。すなわち、架橋構造型変性ポリロタキサンは、代表的には、
(a)水系塗料用材料である変性ポリロタキサンを他の塗膜形成成分と混合し、
(b)当該塗膜形成成分の少なくとも一部を物理的及び/又は化学的に架橋させ、
(c)当該塗膜形成成分の少なくとも一部と変性ポリロタキサンとを環状分子を介して結合させる(硬化反応)ことにより形成できる。
【0080】
なお、架橋構造型変性ポリロタキサンは、水や水系溶媒に分散可能であるため、(a)〜(c)工程を水、水系溶媒、及びこれらの混合溶媒中で円滑に行うことができる。また、これらの工程は硬化剤を用いることでより円滑に行うことができる。
【0081】
(b)、(c)工程においては、化学架橋することが好ましく、例えば、これは上述の如き変性ポリロタキサンの環状分子が有する水酸基と、塗料形成成分の一例であるメラミン樹脂とが、ウレタン結合を繰返し形成することによって、架橋構造型変性ポリロタキサンが得られる。また、(b)工程と(c)工程はほぼ同時に実施してもよい。
【0082】
(a)工程の混合工程は、用いる塗膜形成成分に依存するが、水や水系溶媒などの溶媒中で、又はこれら溶媒なしで行なうことができる。また、溶媒は塗膜形成時に加熱処理などで除去できる。
【0083】
本発明に係る変性ポリロタキサンは、環状分子に導入された修飾基の少なくとも一部をさらにカルボン酸塩に変性することにより、水や水系溶媒への分散性をさらに向上できる。また、溶媒への分散性の向上により、使用できる水系溶媒の種類も多様化できる。
【0084】
上記したように、本発明の水系塗料は、溶媒への分散性に優れる変性ポリロタキサンを用いているので、塗膜形成時に優れた平滑性を発揮する。また、ポリロタキサンは、その構造による滑車効果に基づき、優れた伸縮性や粘弾性、機械的強度を発揮でき、この効果は、変性ポリロタキサンであっても維持する。このため、本発明の水系塗料は、塗膜形成時に優れた耐擦傷性、耐チッピング性、耐鳥糞性、延伸性をも発揮しうる。
【0085】
本発明の水系塗料は、本発明の水系塗料用材料、すなわち上述した変性ポリロタキサン
(カルボン酸塩変性ポリロタキサン)を含有するものであって、本発明の塗膜は、当該水系塗料を固化して成るものである。
【0086】
ここで、水系溶媒とは、水との間で相互作用し合い、水との親和力が強い性質をもつ溶媒のことを意味する。具体的には、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、エチレングリコール等の、アルコール類;セロソルブアセテート、ブチルセロソロブアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等の、エーテルエステル類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等の、グリコールエーテル類などを挙げることができる。これらの水系溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合液の形態で使用されてもよい。また、水系溶媒と水との混合物として使用してもよい。本発明に係る変性ポリロタキサンは、これらの2種以上を混合した溶媒についても良好な分散性を示す。これらのうち、水、アルコール類、グリコールエーテル類が好適に使用され、水、グリコールエーテル類がより好適に使用される。なお、水としては、特に制限されず、水道水、脱イオン水、蒸留水、濾過水などいずれも使用できる。また、本発明の水系塗料に用いられる溶媒は、全体として水との親和力が強い性質を有すれば、トルエンのような有機溶剤が若干含まれていてもよい。
【0087】
また、本発明の水系塗料における変性ポリロタキサンの含有量は、水や水系溶媒中に分散できる量であれば特に制限されない。具体的には、変性ポリロタキサンの含有量は、水系塗料の塗膜形成成分(固形分)に対して、好ましくは1〜90質量%、より好ましくは20〜80質量%、特に好ましくは30〜60質量%の範囲である。ここで、変性ポリロタキサンの含有量が1質量%に満たない場合には、変性ポリロタキサンの滑車効果が十分に得られず、塗膜の伸び率が低下して所望の耐擦傷性が得られなくなることがある。逆に、90質量%を超えると、表面の膜形成のために塗膜としての平滑性が損なわれ、外観が劣化する可能性がある。
【0088】
本発明の水系塗料は、変性ポリロタキサンを必須成分として含むが、他の成分をさらに含んでもよい。この際、他の成分としては、通常の水系塗料に使用される成分が同様にして使用でき、種類は特に制限されない。具体的には、界面活性剤や水系溶媒などがある。ここで、水系溶媒は、上記例示と同様であるので、ここでは説明を省略する。また、界面活性剤としては、特に制限されず、公知の界面活性剤が使用できる。例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルケニルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩、アルケニル硫酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸またはエステル塩、アルカンスルホン酸塩、飽和脂肪酸塩、不飽和脂肪酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルケニルエーテルカルボン酸塩、アミノ酸型界面活性剤、N−アシルアミノ酸型界面活性剤、アルキルリン酸エステルまたはその塩、アルケニルリン酸エステルまたはその塩等の、アニオン性界面活性剤;ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、高級脂肪酸アルカノールアミドまたはそのアルキレンオキサイド付加物、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグリコキシド、脂肪酸グリセリンモノエステル、アルキルアミンオキサイド等の、ノニオン性界面活性剤;第4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤;およびカルボキシル型両性界面活性剤、スルホベタイン型両性界面活性剤等の両性界面活性剤などが挙げられる。これらのうち、ノニオン性界面活性剤が好ましく、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルが好ましい。この際、界面活性剤の含量は、特に制限されず、通常水系塗料に使用されるのと同様の量でありうる。具体的には、界面活性剤の含量は、水系塗料全質量に対して、0.01〜0.03質量%である。
【0089】
また、本発明の水系塗料は、その用途によって種々の形態で使用できる。例えば、本発明に係る変性ポリロタキサンを、既存の水系塗料、例えばアクリルメラミン系クリヤー塗
料や、2液型ウレタン樹脂塗料などに、望ましくは上記含有量となるように配合することによって得られる。言い換えれば、本発明に係る変性ポリロタキサンに、上記水、水系溶媒、界面活性剤に加えて、樹脂成分、硬化剤、添加剤、顔料、光輝剤及び溶媒からなる群より選択される1種以上を常法に基づいて配合し、混合することによって得ることができる。
【0090】
上記樹脂成分としては、特に限定されるものではないが、主鎖又は側鎖に水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ビニル基、チオール基又は光架橋基、及びこれらの任意の組合せに係る基を有するものが好ましい。上記のうち、光架橋基としては、ケイ皮酸、クマリン、カルコン、アントラセン、スチリルピリジン、スチリルピリジニウム塩及びスチリルキノリン塩などを例示できる。また、2種以上の樹脂成分を混合使用してもよいが、この場合、少なくとも1種の樹脂成分が環状分子を介してポリロタキサンと結合していることが好ましい。
【0091】
かかる樹脂成分は、ホモポリマーでもコポリマーでもよい。コポリマーの場合、2種以上のモノマーから構成されるものでもよく、ブロックコポリマー、交互コポリマー、ランダムコポリマー又はグラフトコポリマーのいずれであってもよい。
【0092】
具体例としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、澱粉及びこれらの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン及び他のオレフィン系単量体との共重合樹脂などのポリオレフィン系樹脂、アルキッド樹脂などのポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル−スチレン共重合樹脂などのポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合体などのアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂及びこれらの誘導体又は変性体、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ナイロン(登録商標)などのポリアミド類、ポリイミド類、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどのポリジエン類、ポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン類、ポリスルホン類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類、及びこれらの誘導体などを挙げることができる。誘導体としては、上述した水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ビニル基、チオール基又は光架橋基及びこれらの組合せに係る基を有するものなどが好ましい。上記樹脂成分は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0093】
上記硬化剤は、特に制限されず、水系塗料で通常使用される硬化剤が同様にして使用できる。具体的には、メラミン樹脂、ポリイソシアネート化合物(例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート)、ブロックイソシアネート化合物、塩化シアヌル、トリメソイルクロリド、テレフタロイルクロリド、エピクロロヒドリン、ジブロモベンゼン、グルタールアルデヒド、フェニレンジイソシアネート、ジイソシアン酸トリレイン、ジビニルスルホン、1,1’−カルボニルジイミダゾール又はアルコキシシラン類を挙げることができる。上記硬化剤は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、上記硬化剤は、分子量などについても特に制限されない。好ましくは、硬化剤は、分子量が2000未満、より好ましくは1000未満、更により好ましくは600未満、いっそう好ましくは400未満のものを用いることができる。なお、硬化剤の分子量の
下限は、特に制限されないが、好ましくは150である。
【0094】
上記添加剤は、特に制限されず、水系塗料で通常使用される添加剤が同様にして使用できる。具体的には、紫外線吸収剤、光安定化剤、表面調整剤、沸き防止剤などを挙げることができる。
【0095】
また、顔料は、特に制限されず、水系塗料で通常使用される顔料が同様にして使用できる。具体的には、アゾ系顔料、フタロシアン系顔料、ペリレン系顔料などの有機系着色顔料や、カーボンブラック、二酸化チタン、ベンガラなどの無機系着色顔料を用いることができる。
【0096】
そして、光輝剤は、特に制限されず、水系塗料で通常使用される光輝剤が同様にして使用できる。具体的には、アルミ顔料やマイカ顔料を挙げることができ、さらに溶媒としては、水と共に、上記した水系溶媒、例えばアルコール類やグリコールエーテル類を挙げることができる。
【0097】
なお、上記した各種塗料原料に、変性ポリロタキサンを混合するに際しては、カルボン酸塩変性した状態の変性ポリロタキサンをそのまま配合してもよい。しかし、当該変性ポリロタキサンをあらかじめ水や水系溶媒などの溶媒に分散させて希釈した状態で配合することが望ましい。このような変性ポリロタキサン溶液は、塗料製造時に調製しても、塗料製造に先立って、調製しておいてもよい。
【0098】
本発明の水系塗料としては、一般的なクリヤー塗料、ベースコート用塗料あるいはエナメル塗料とすることができる。なお、本発明の水系塗料において、上記成分に加えてシリカ、樹脂ビーズなどのマット剤を添加することによって艶消し塗料とすることができる。
【0099】
本発明はまた、水系塗料を用いて形成される水系塗膜をも提供する。上記したように、本発明の水系塗料は、変性ポリロタキサンを用いているので、水や水系溶媒への分散性に優れる。このため、本発明の水系塗料を用いて形成された水系塗膜塗は、優れた平滑性を発揮する。また、ポリロタキサンは、その構造による滑車効果に基づき、優れた伸縮性や粘弾性、機械的強度を発揮でき、この効果は、変性ポリロタキサンであっても維持する。このため、本発明の水系塗料を用いて形成された水系塗膜は、優れた耐擦傷性、耐チッピング性、耐鳥糞性、延伸性をも発揮しうる。また、本発明の水系塗膜は、優れた下地保護性、除去性、耐水性、耐湿性、耐酸性をも発揮しうる。
【0100】
ここで、水系塗膜としては、その用途は特に制限されず、自動車、建材など、いずれの塗膜として使用されてもよい。例えば、自動車用途では、下塗り塗膜、ベースコート塗膜、クリヤー塗膜、さらには塗装保護膜など、いずれの塗膜にも適用できる。上述したように、本発明の水系塗膜は、平滑性、耐擦傷性、下地保護性、除去性、耐水性、耐湿性、耐酸性、耐鳥糞性、延伸性に優れる。このため、本発明の水系塗膜は、被塗物に被覆される塗膜の最表層に配設される塗膜として好適に使用できる。また、本発明の水系塗膜は、平滑性、耐擦傷性、耐水性に優れる。このため、本発明の水系塗膜は、クリヤー塗膜として特に好適に使用できる。さらに、本発明の水系塗膜は、下地保護性、除去性、耐酸性、耐鳥糞性、延伸性に優れる。このため、本発明の水系塗膜は、塗装保護膜として特に好適に使用できる。
【0101】
本発明の水系塗膜の形成方法は、本発明の水系塗料を使用する以外は、従来と、同様の方法が使用できる。例えば、クリヤー塗膜の場合には、本発明の水系塗料を、スプレーガン、刷毛を始めとする各種の塗装装置によって、従来の塗料と同等の作業性の下で、様々な被塗装物に塗装することができる。ここで、被塗物の材質としては、特に制限されず、
用途によって適宜選択される。例えば、鉄や鋼、アルミニウムなどの金属材料、ポリプロピレン、ポリカーボネートなどの各種有機材、石英、セラミックス(炭化カルシウム他)などの各種無機材、木質材料、石材やレンガ、ブロックなどの石質材料、皮革材料などからなる各種の被塗物が使用できる。塗装後は、常温で、あるいは焼付け処理によって、塗膜を固化し、クリヤー塗膜を形成することができる。このときの塗膜厚さとしては、特に限定されるものではないが、20〜40μm程度となるように塗装することが望ましい。
【0102】
また、塗装保護膜の場合には、本発明の水系塗料を、上記と同様、スプレーガン、刷毛などを用いる既知の塗布方法を採用して、塗布できる。塗布後は、常温乾燥又は加熱乾燥して水分を蒸発させ、固化することによって、塗装保護膜を形成することができる。または、塗装保護膜は、水系塗料を被保護面に塗布して形成することに限られず、あらかじめフィルム状に形成したものを被保護面に被覆してもよい。塗装保護膜の厚さとしては、特に限定されるものではないが、100〜1000μm程度となるように塗装することが好ましい。より好ましくは500〜1000μm、特に好ましくは800〜1000μmである。100μm未満では、保護効果が低減しやすい。1000μmを超えると、水分の蒸発に時間がかかり、作業性が低下する。また、塗装保護膜の保護対象となる塗膜は、特に制限されないが、例えば、アクリルメラミン系塗膜、ウレタン系塗膜などのクリヤー系塗膜、エナメル塗膜などが挙げられる。
【0103】
本発明の水系塗膜の具体的な積層構造は、特に制限されず、塗膜の種類によって適宜選択できる。例えば、クリヤー塗膜の場合には、被塗物にベース塗料を塗布し、さらにその上に本発明の水系塗料を塗装したのち、焼付けることも望ましく、これによって、ベースコート塗膜と当該塗膜から成る2層構造の塗膜が得られることになる。また、被塗物に下塗り塗料を塗布して常温乾燥あるいは焼付けののち、上記同様に、ベース塗料及び本発明の塗料を塗布して、焼付けるようになすこともでき、これによって、被塗物表面に、下塗り塗膜とベースコート塗膜と当該塗膜から成る3層構造の塗膜が形成されることになる。図3は、このような3層構造の積層塗膜の一例を示す断面図であって、図に示す積層塗膜は、図示しない被塗物の上に形成された下塗り塗膜10と、その上に形成されたベースコート塗膜11と、さらにその上の本発明の水系塗膜からなるクリヤー塗膜12から構成されている。
【0104】
また、本発明の水系塗膜が塗装保護膜である場合の一実施形態を図4に示す。図4では、図示しない被塗物表面に、下塗り塗膜20とエナメル塗膜21とから成る積層塗膜が形成されており、当該積層塗膜を保護するために水系塗装保護膜22が更に被覆されている。
【0105】
次に、本発明の塗装物品について詳細に説明する。
【0106】
本発明の塗装物品は、上述した本発明の水系塗料から成る水系塗膜と被塗物とから成り、物品に本発明の水系塗料から成る塗膜が形成されているものである。なお、上述した積層塗膜を備え、物品に積層塗膜が形成されているものであっても本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【0107】
被塗物の材質としては上記の通りである。
【0108】
また、上記被塗物の具体的な適用例としては、耐傷付き性が要求される自動車のボディ、メッキ、蒸着、スパッタリング等の処理が施されたアルミホイール、ドアミラーや、屋内・屋外における樹脂製品、階段、床、家具等の木工製品などを挙げることができる。
【0109】
このようにして得られる塗装物品としては、自動車、オートバイ、自転車、鉄道、その
他の輸送機械、建設機械、携帯電話、電化製品、光学機器、家具、建材、楽器、鞄、スポーツ用品、レジャー用品、キッチン用品、ペット用品、文房具などを挙げることができる。
【実施例】
【0110】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。
【0111】
実施例1
(1)PEGのTEMPO酸化によるPEG−カルボン酸の調製
直鎖状分子として、PEG(ポリエチレングリコール、分子量:35,000)10g、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジニルオキシラジカル)100mg、臭化ナトリウム1gを水100mLに溶解させ、これに市販の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度5%)5mLを添加し、室温で10分間攪拌した。次いで、余った次亜塩素酸ナトリウムを分解させるために、エタノールを最大5mLまでの範囲で添加して反応を終了させた。
【0112】
そして、50mLの塩化メチレンを用いた抽出を3回繰返して、無機塩以外の成分を抽出したのち、エバポレータで塩化メチレンを留去し、250mLの温エタノールに溶解させてから、冷凍庫(−4℃)に一晩おいて、PEG−カルボン酸のみを析出させ、回収、乾燥した。
【0113】
(2)PEG−カルボン酸とα−CDを用いた包接錯体の調製
上記(1)により調製したPEG−カルボン酸3g及びα−CD(シクロデキストリンα)12gをそれぞれ別々に用意した70℃の温水50mLに溶解させた後、両者を混合し、よく振り混ぜた。次に、この混合物を冷蔵庫(4℃)中で一晩静置し、クリーム状に析出した包接錯体を凍結乾燥により回収した。
【0114】
(3)アダマンタンアミンとBOP試薬反応を用いた包接錯体の封鎖
室温でジメチルホルムアミド(DMF)50mlにアダマンタンアミン0.13gを溶解し、さらに上記得られた包接錯体を添加して速やかによく振り混ぜた。続いてBOP試薬(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート)0.38gをDMFに溶解したものをさらに添加して同様によく振り混ぜた。さらにジイソプロピルエチルアミン0.14mlをDMFに溶解させたものをさらに次いで添加して同様によく振り混ぜて試薬を得た。
【0115】
次にスラリー状になった試薬を冷蔵庫(4℃)中に一晩静置した。その後DMF/メタノール混合溶媒(体積比1/1)50mlを添加、混合、遠心分離を行なって上澄みを捨てた。さらに上記DMF/メタノール混合溶液による洗浄を2回繰り返した後、更にメタノール100mLを用いて洗浄、遠心分離を2回繰り返した。得られた沈殿物を真空乾燥で乾燥させた後、50mLのDMSOに溶解させ、得られた透明な溶液を700mLの水中に滴下してポリロタキサンを析出させた。析出したポリロタキサンを遠心分離で回収し、真空乾燥させた。さらにDMSOに溶解、水中で析出、回収、乾燥のサイクルを2回繰り返して最終的に精製ポリロタキサンを得た。なおα−CDの包接量は0.25である。
【0116】
(4)シクロデキストリンの水酸基のヒドロキシプロピル化
上記調製したポリロタキサン500mgを1mol/LのNaOH水溶液50mLに溶解し、プロピレンオキシド3.83g(66mmol)を添加し、アルゴン雰囲気下、室温で一晩撹拌した。1mol/LのHCl水溶液でpHが7〜8になるように中和し、透析チューブにて透析した後、凍結乾燥し、回収して、ヒドロキシプロピル化ポリロタキサ
ンを得た。得られたヒドロキシプロピル化ポリロタキサンは、H−NMR及びGPCで同定し、所望の構造を有するヒドロキシプロピル化ポリロタキサンであることを確認した。
【0117】
(5)ヒドロキシプロピル化ポリロタキサンの修飾基修飾
上記調製したヒドロキシプロピル化ポリロタキサン1.0gにモレキュラーシーブで乾燥させたε−カプロラクトン4.5gを添加し、室温で30分間撹拌し、浸透させた。2−エチルへキサン酸スズ0.16gを添加し、100℃で1時間反応させた。
【0118】
反応終了後、試料を50mLのトルエンに溶解させ、撹拌した450mLのヘキサン中に滴下して析出させ、回収し、乾燥して、修飾ポリロタキサンを得た。得られた修飾ポリロタキサンは、H−NMR及びGPCで同定し、所望の構造を有する修飾ポリロタキサンであることを確認した。なお得られた修飾ポリロタキサンは修飾基による添加量の4.5倍重量であった。
【0119】
(6)修飾ポリロタキサンのカルボン酸塩変性
上記調製した修飾ポリロタキサン500mgに、脱水トルエン20mLを加えて、無水コハク酸0.40g(ポリロタキサンの全ての水酸基に対して20mol%)を添加し、50℃で24時間攪拌した。反応後のpHは4〜5であった。トルエンをエバポレータで95体積%除去した後、トリエチルアミン0.55mLで中和し、pHが7〜8であるのを確認した後、乾燥して、変性ポリロタキサンを得た。得られた変性ポリロタキサンはIR及びGPCで同定し、所望の構造を有する変性ポリロタキサンであることを確認した。なお、得られた変性ポリロタキサンの修飾基のカルボン酸塩による変性度は20%であった。
【0120】
(7)水系塗料の調製
まず、上記(6)で得られた変性ポリロタキサン500mgを蒸留水に10(w/v)%濃度となるように分散させ、さらに界面活性剤としてポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(和光純薬工業製)を1(v/v)%濃度となる様に加えてよく攪拌し、変性ポリロタキサン水溶液を得た。
【0121】
次に、水溶性アルキッド樹脂(不揮発分:42%、水酸基価;100KOHmg/g、酸価:14KOHmg/gに、上記で得られた変性ポリロタキサン水溶液を攪拌しながら添加した。次に、この溶液に、硬化剤としてHDI系イソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネート)(NCO:8.2%)を、上記水溶性アルキッド樹脂とイソシアネートとの割合が133/2.17(質量比)となるように添加した。これにより、直鎖状分子の分子量が35,000、包接量が0.25、修飾基による添加量の4.5倍重量、修飾基のカルボン酸塩による変性度が20%である変性ポリロタキサンを塗膜形成成分に対して50質量%含有する水系塗料が得られた。
【0122】
(8)積層塗膜の形成
りん酸亜鉛処理した厚み0.8mm、70mm×150mmのダル鋼板に、カチオン電着塗料(日本ペイント社製カチオン型電着塗料、商品名「パワートップU600M」)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装した。次に、この電着塗装膜を160℃で30分間焼き付けた。その後、日本油脂株式会社製のグレーのベース塗料(商品名「ハイエピコNo.500」)を乾燥膜厚が30μmとなるように塗装し、140℃で30分間焼付けることによって、ベースコート塗膜を上記電着塗装膜上に形成した。
【0123】
次に、日本油脂株式会社製のアクアBC−3(3)メタリック塗色を10μmの厚さに塗装し、ウエットオンウエットで上記(7)で得られた水系塗料を乾燥膜厚が30μmと
なるように塗装し、140℃で30分間焼付けてクリヤー塗膜とした。
【0124】
(9)塗装保護膜の形成
リン酸亜鉛処理した厚み0.8mm、70mm×150mmのダル鋼板に、カチオン電着塗料(商品名「パワートップU600M」、日本ペイント社製カチオン型電着塗料)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装した後、160℃で30分間焼き付けた。その後、上記(7)で得られた水系塗料を乾燥膜厚が30μmとなるように塗装し、140℃で30分間焼き付けた。
【0125】
(実施例2〜4、比較例1〜4)
表1に示す仕様とした以外は、実施例1(1)〜(7)と同様の操作を繰返して、実施例1と同様の操作を行い、水系塗料を調製した。また、それぞれで得られた水系塗料を使用する以外は、実施例1(8)と同様の操作を繰り返して、積層塗膜を形成した。さらに、それぞれで得られた水系塗料を使用する以外は、実施例1(9)と同様の操作を繰り返して、塗装保護膜を形成した。
【0126】
また、比較例1〜3では、実施例1中の(6)を実施しなかった。また、比較例4では実施例1(5)、(6)を実施しなかった。
【0127】
上記各実施例及び比較例で得られた水系塗料について、分散性、当該塗料による塗膜の平滑性、耐擦傷性、耐水性、耐酸性、耐鳥糞性及び延伸性を、以下のような基準に基づいて評価した。その結果を各塗料の特性と共に下記表1に示す。
【0128】
(1)分散性
各塗料をガラス板に塗布(乾燥膜厚が30μm)した時の白濁度を目視評価した。なお、分散性は、下記3段階に分類した。〇:変化なし、△:若干の白濁、×:白濁および分離。
【0129】
(2)平滑性
各塗膜の平滑度合いを目視評価した。なお、平滑性は、下記3段階に分類した。〇:かなり平滑、△:若干、凹凸、×:凹凸。
【0130】
(3)耐擦傷性
各塗膜(大きさ:70mm×150mm)について、磨耗試験機の摺動子にダストネル(摩擦布)を両面テープで貼り付け、0.22g/cmの荷重下で50回往復させ、傷の有無を評価した。なお、平滑性は、下記3段階に分類した。○:殆ど傷がない、△:少し傷がある、×:目立つほど多くの傷がある。
【0131】
(4)耐水性
各塗膜(大きさ:70mm×150mm)について、40℃の温水に240時間浸漬した。その後、塗膜の表面の膨れ度合いを目視評価した。なお、耐水性は、下記3段階に分類した。○:異常なし、△:若干の膨れ有り、×:明らかな膨れ有り。
【0132】
(5)耐酸性
各塗膜(大きさ:70mm×150mm)に、1%の硫酸を2mL滴下し、40℃の恒温槽に24時間放置した。その後、塗膜を剥がし、塗膜表面の外観を目視評価した。なお、耐酸性は、下記3段階に分類した。〇:異常なし、△:若干のしみ有り、×:明らかなしみ有り。
【0133】
(6)耐鳥糞性
各塗膜(大きさ:70mm×150mm)について、10%のアルブミン水溶液を2mL滴下し、40℃の恒温槽に24時間放置した。その後、塗膜を剥がし、塗膜表面の外観を目視評価した。なお、耐鳥糞性は、下記3段階に分類した。〇:異常なし、△:若干のしみ有り、×:明らかなしみ有り。
【0134】
(7)延伸性
各塗膜(大きさ:70mm×150mm)について、(株)東洋ボールドウィン製のTENSILON UTM−4−200を用いて測定した。フィルムの引っ張り速度は、4mm/minで行った。なお、延伸性は、下記3段階に分類した。〇:伸び率100%以上、△:伸び率30〜100%未満、×:伸び率30%未満。
【0135】
【表1】

【0136】
表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1〜4の水系塗料は、疎水性ポリロタキサンの修飾基をカルボン酸塩によって変性することで、良好な分散性を示す。上記利点
に加えて、本発明の実施例1〜4の水系塗料を用いて形成された塗膜及び塗装保護膜は、上記ポリロタキサンが有する滑車効果に基づく耐擦傷性および良好な外観性、下地保護性および除去性の向上と共に、耐水性を示していることが確認される。
【0137】
これに対し、修飾基をカルボン酸塩に変性されない疎水性ポリロタキサンを含む比較例1〜3の塗料を用いて形成された塗膜では、分散性、平滑性、耐擦傷性、延伸性などに劣ることが判明した。また、修飾されない親水性ポリロタキサンを含む比較例4の塗料を用いて形成された塗膜では、分散性、平滑性、耐擦傷性及び延伸性には優れるものの、耐水性、耐酸性及び耐鳥糞性に劣ることが判明した。
【符号の説明】
【0138】
1…変性ポリロタキサン、
2…環状分子、
2a…修飾基、
2b…カルボン酸塩、
3…直鎖状分子、
4…封鎖基、
6…架橋構造型変性ポリロタキサン、
8…ポリマー、
10…下塗り塗膜、
11…ベースコート塗膜、
12…クリヤー塗膜、
20…下塗り塗膜、
21…エナメル塗膜、
22…水系塗装保護膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
修飾基を有しかつ前記修飾基の全部または一部をカルボン酸塩に変性してなる環状分子と、前記環状分子を串刺し状に包接する直鎖状分子と、前記直鎖状分子の両末端に配置され前記環状分子の脱離を防止する封鎖基と、を有する変性ポリロタキサンを含む水系塗料。
【請求項2】
前記カルボン酸塩は、下記式(1):
【化1】

ただし、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1〜8の分岐鎖を有してもよい炭化水素基を表わし;Rは、ヒドロキシアルキル基の水酸基をラクトン誘導体で修飾した修飾基を表わす、
で示される基を有する、請求項1に記載の水系塗料。
【請求項3】
、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1〜4の直鎖または分岐鎖のアルキル基である、請求項2に記載の水系塗料。
【請求項4】
前記環状分子は、水酸基を有し、
前記修飾基は、環状分子の水酸基をアルキレンオキシドと反応させた後、ラクトン誘導体と反応させることによって、環状分子に導入される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水系塗料。
【請求項5】
前記ラクトン誘導体は、ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンおよびδ−バレロラクトンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項4に記載の水系塗料。
【請求項6】
界面活性剤および水系溶媒をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の水系塗料。
【請求項7】
上記界面活性剤がポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルである、請求項6に記載の水系塗料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の水系塗料から成る層を、被塗物上に形成させたことを特徴とする水系塗膜。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の水系塗料から成る層を、被塗物上に形成される塗膜の最表層に配設させたことを特徴とする請求項8に記載の水系塗膜。
【請求項10】
前記塗膜がクリヤー塗膜または塗装保護膜である、請求項9または10に記載の水系塗膜。
【請求項11】
請求項8または9に記載の水系塗膜と、被塗物と、から成ることを特徴とする塗装物品。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−144338(P2011−144338A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12112(P2010−12112)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(505136963)アドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社 (19)
【Fターム(参考)】