説明

水系防錆塗膜

【課題】建築及び建材などの各種金属部材への防錆塗料用途において、塗料組成物が十分な防錆性と重ね塗り時の密着性、および重ね塗り時の耐水密着性に優れる塗装物を提供する。
【解決手段】特定の塩化ビニリデン系共重合樹脂からなるラテックスと特定のリン酸類塩を含む塗料と、それに重ね塗りされる特定のヒドラジド誘導体を含む塗料とにより得られる塗装物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築及び建材などの各種金属部材への防錆塗料用途において、塗料組成物が十分な防錆性と、重ね塗り時の密着性、および重ね塗り時の耐水密着性に優れる塩化ビニリデン系共重合体ラテックスを主成分とする水系防錆塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護に対する関心が高まり、塗料に対する溶剤規制や重金属に対する規制が強化されるなどの影響で溶剤系塗料から水系塗料へ移行する動きが活発となっており、溶剤系塗料と同等の性能を有する防錆性、防湿性に優れた水系塗料が強く望まれている。種々の水系塗料用樹脂の中で特に塩化ビニリデン系共重合体ラテックス樹脂は水蒸気透過率や酸素透過率が低いなどのバリヤ性に優れていることから、防錆塗料用樹脂として非常に適している。
【0003】
防錆塗料としては、塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスにタンニン酸を混合した防錆塗料組成物が特許文献1に開示されている。この防錆塗料組成物は、塩化ビニリデン樹脂のバリヤ作用とタンニン酸と酸化鉄とのキレート反応との相乗効果により優れた防錆性能を示している。しかし、この塗料組成物は20℃以上の温度で貯蔵中に変化が生じてタンニンの効果が序々に薄れ、防錆性が次第に低下するなどの問題があった。また、塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスに防錆顔料であるトリポリリン酸アルミニウムと多価アルコール化合物を混合した防錆塗料組成が特許文献2に開示されている。ところが、この水性防錆塗料組成物を下塗り塗料として塗装後、上塗りに各種塗料を塗装した場合、下塗り塗膜と上塗り塗膜との弾性率の差が大きいことに起因する付着性不良が発生するという問題があった。一方、上塗り塗膜との付着性を向上させることを目的として、塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスにシリコン樹脂系レベリング剤を混合した水性塗料組成が特許文献3に開示されている。しかしながら、この水性防錆塗料組成物を下塗りした塗膜上に、上塗り塗料を塗装した塗膜を水に浸漬した場合、上塗り塗膜と下塗り塗膜の吸水率の差が大き過ぎることに起因する体積膨張差が生じ、この体積膨張差から発生するひずみを吸収するだけの付着力が十分でないため、下塗りと上塗りの塗膜の間で膨れが生じるなどの問題があった。また、密着性、造膜性などを向上させるために水性樹脂に対してヒドラジド系架橋剤を用いた例が特許文献4に記載されているが、その効果がアルデヒド基またはケトン基を有する水性樹脂に限定されてしまい、かつ水性成分の増加に伴い重ね塗り時の耐水密着性が低下するという問題があった。
【特許文献1】特開昭63−105073号公報
【特許文献2】特開平5−140501号公報
【特許文献3】特開平5−156199号公報
【特許文献4】特開2001−335670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、十分な防錆性、及び重ね塗り時の耐水密着性に優れる塗膜を形成し得る塩化ビニリデン系共重合樹脂からなるラテックスを主成分とする水系防錆塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記のような問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の塩化ビニリデン系共重合樹脂からなるラテックスと特定のリン酸類塩を使用した水性防錆塗料組成物と、それにより得られた塗膜に重ね塗りする水性防錆塗料組成物中に特定のヒドラジド誘導体を含む水性塗料組成物を塗装することによって得られる、少なくとも2層以上の塗装物を作成した場合において防錆性、重ね塗り時の密着性、及び重ね塗り時の耐水密着性に優れることを見いだし、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の第1は、水性防錆塗料組成物(1)と水性塗料組成物(2)を塗装することにより得られる少なくとも2層からなる塗装物であって、該水性防錆塗料組成物(1)は、塩化ビニリデン、塩化ビニルの中から選ばれる少なくとも1種からなる塩素含有ビニル系単量体(A)80〜95質量%、カルボン酸基含有ビニル系単量体(B)0.5〜5質量%、これらと共重合可能な1種または2種以上のその他のビニル系単量体(C)3〜15質量%を含む混合物を乳化重合して形成される塩化ビニリデン系共重合樹脂からなるラテックスと、リン酸類塩(a)を含み、該塩化ビニリデン系共重合樹脂からなるラテックスの固形分100質量部に対してリン酸類塩(a)を3〜40質量部含むことを特徴とするものであって、該水性塗料組成物(2)は、該水性防錆塗料組成物(1)を塗装して得られる塗膜に対して重ね塗りに供され、少なくとも1つ以上のヒドラジド残基を持つヒドラジド誘導体(b)を、塗料固形分に対して0.1〜12質量%含むことを特徴とするものである、上記塗装物である。
本発明の第2は、塩化ビニリデン、塩化ビニルの中から選ばれる少なくとも1種からなる塩素含有ビニル系単量体(A)中の塩化ビニルの比率が0〜25質量%であることを特徴とする第1に記載の塗装物である。
本発明の第3は、水性塗料組成物(2)の塗料固形分に対し10〜60質量%のアクリル系エマルジョン(c)を含むことを特徴とする第1又は2に記載の塗装物である。
本発明の第4は、水性塗料組成物(2)中にアクリル系エマルジョン(c)を含むことを特徴とし、かつ該アクリルエマルジョンが加水分解性シランによって変性されていることを特徴とする第1〜3のいずれか一つに記載の塗装物である。
本発明の第5は、ヒドラジド誘導体(b)のヒドラジド残基数が1〜3であることを特徴とする第1〜4のいずれか一つに記載の塗装物である。
本発明の第6は、第1〜5のいずれか一つに記載の塗装物が、金属基材上に塗装されている防錆塗料処理金属材料である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の、リン酸類塩を含み、塩化ビニリデン系共重合樹脂からなるラテックスを主成分とする水系防錆塗料組成物と、それに対して重ね塗りする水系塗料中にヒドラジド誘導体を用いることで、防錆性と重ね塗り時の密着性、及び重ね塗り時の耐水密着性に優れる塗装物を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の内容を詳細に説明する。
本発明の塩化ビニリデン、塩化ビニルの中から選ばれる少なくとも1種からなる塩素含有ビニル系単量体(A)の合計量は80〜95質量%であり、好ましくは85〜93質量%である。80質量%以上でバリア性が向上し、十分な防錆性を発現できる。一方、95質量%以下とすることで高い上塗りとの密着性を発現させることができる。また塩化ビニリデン、塩化ビニルの中から選ばれる少なくとも1種からなる塩素含有ビニル系単量体(A)中の塩化ビニルの比率は好ましくは0〜25質量%であり、さらに好ましくは5〜20質量%の範囲である。塩化ビニルの比率が増すと塩化ビニリデン系共重合樹脂中の結晶性が低下して密着性向上に寄与するが、塩化ビニルの比率が25質量%以下にすることでバリヤ性を向上させることができ、結果的に防錆性が向上する。
【0008】
本発明の塩化ビニリデン系共重合樹脂からなるラテックスには、カルボン酸基含有ビニル系単量体(B)が共重合される。カルボン酸基ビニル系単量体を使用することにより、顔料との分散性が良好になり、防錆性が向上するばかりでなく、被塗物や上塗り塗膜との密着性も良好になる。カルボン酸基含有ビニル系単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸などが挙げられる。そのなかでも好ましいのは、アクリル酸、メタクリル酸である。
【0009】
カルボン酸基含有ビニル系単量体(B)の量は0.5〜5質量%であり、好ましくは1〜3質量%の範囲である。カルボン酸基含有ビニル系単量体の比率が0.5質量%以上とすることにより顔料との分散性が良くなり、密着性が向上するとともに、十分な防錆性を発現させることができる。一方、5質量%以下とすることで塗膜中の親水性物質が好ましい量となり、本発明が目指すところの耐水密着性を発現できる。
【0010】
塩素系ビニル単量体(A)及びカルボン酸基含有ビニル系単量体(B)と共重合可能なその他のビニル系単量体(C)としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル等のエチレン系α,β−不飽和カルボン酸のアルキルエステル単量体が挙げられる。また、例えば、アクリロニトリル、またはメタクリロニトリル等の二トリル基を有する単量体も同様に挙げられる。また、エチレン系α、β−不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル、アクリルアミド等のエチレン系α、β−不飽和カルボン酸のアクリルアミド化合物、酢酸ビニル等のビニルエステル、酢酸アリル等のアリルエステル、アリルメチルエーテル等のアリルエーテル等が挙げられ、さらにスチレン系化合物も挙げられる。
【0011】
塩素系ビニル単量体(A)及びカルボン酸基含有ビニル系単量体(B)と共重合可能なその他のビニル系単量体(C)の量は3〜15質量%であり、好ましくは3〜10質量%の範囲である。3質量%以上で塩化ビニリデン系共重合樹脂の結晶性が低下し、成膜性が向上するばかりでなく、樹脂自体の弾性率が低くなり密着性が向上する。一方、15質量%以下とすることで塩化ビニリデン系共重合樹脂中の塩化ビニリデン量が減少することなく好ましい量となり、十分な防錆性を発現させることができる。
【0012】
塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスは、上記した各単量体を上記範囲内で混合し、重合開始剤、界面活性剤等を添加して乳化重合することにより得られるが、重合開始剤、界面活性剤等の種類は特に限定されない。この乳化重合は従来と同様の方法で実施することができる。
【0013】
さらに、本発明の水性防錆塗料用塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスは、そのままコーティング剤としてクリヤー皮膜を形成させるために使用することもできるし、必要に応じて、一般的に使用されている種々の成分、たとえば、消泡剤、レオロジー調整剤、増粘剤、分散剤、及び、界面活性剤等の安定化剤、湿潤剤、可塑剤、着色剤、ワックス、シリコーンオイル、シランカップリング剤などを添加してもよい。また、必要に応じて、着色顔料、体質顔料、防錆顔料を配合して使用することも可能である。
【0014】
本発明の水性防錆塗料組成物(1)にはリン酸類塩(a)を含むことが必須である。リン酸類塩(a)は、一般に水に難溶性の縮合リン酸塩とカルシウム化合物からなる防錆顔料、又はリン酸系層状化合物とカルシウム化合物からなる防錆顔料も用いられているが、本発明に際しては変性の有無を問わない。リン酸類塩(a)とは、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸、ポリリン酸、などのリン酸類の塩のことである。具体的には、リン酸類塩(a)としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸、ポリリン酸、などのリン酸類に対して、Zn、Al、Sn、Mg、Mn、Ca、Fe、Ni、Mo、SrおよびCeの中から選ばれる1種または2種以上の金属元素を含むリン酸類塩であることが望ましい。
その中でも防錆性と経済性の観点からリン酸アルミニウムやリン酸亜鉛等が広く用いられている。使用するリン酸類塩(a)は塩化ビニリデン系共重合樹脂からなるラテックスの固形分100質量部に対して3〜40質量部であり、好ましくは10〜35質量部、更に好ましくは15〜32質量部である。3質量部以上用いることにより必要な密着性を発現させることができ、40質量部以下にすることによって塗液の凝集安定性を維持させることができる。
【0015】
本発明における水性防錆塗料組成物(1)に対して重ね塗りされる水性塗料組成物(2)に使用される塗料としては、一般に市販されている各種上塗り塗料を用いることができる。その例としては、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、シリコン樹脂系、塩化ビニル樹脂系などの溶剤系や水系の上塗り塗料が挙げられる。
【0016】
本発明における水性防錆塗料組成物(1)に対して重ね塗りされる水性塗料組成物(2)にはヒドラジド誘導体(b)を添加することが必須である。使用されるヒドラジド誘導体(b)量は、水性塗料組成物(2)の塗料固形分に対して1〜15質量%であり、好ましくは3〜15質量%、更に好ましくは5〜13質量%である。1質量%以上用いることにより重ね塗り時の密着性および重ね塗り時の耐水密着性を発現させることができ、15質量%以下にすることによって必要な塗面の光沢、防錆性を維持することができる。
【0017】
本発明に使用されるヒドラジド誘導体(b)は、1分子中に少なくとも1個以上のヒドラジド基を有する化合物である。ヒドラジド基含有化合物としては特に制限されず、従来公知のものを使用できる。具体的には、例えば、蓚酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド等の2塩基酸ジヒドラジド類、フタル酸ジヒドラジド、(テレ)イソフタル酸ジヒドラジド、ピロメリット酸のジ、トリ及びテトラヒドラジド、2,6−ナフトエ酸ジヒドラジド等の芳香族ポリカルボン酸のポリヒドラジド類、炭酸ジヒドラジド、カルボヒドラジド、一般式 NH2−NH−CO−NHRNH−CO−NHNH2[式中Rは例えばo−,m−,p−フェニレン基、トルイレン基、シクロヘキシリデン基、メチルシクロヘキシリデン基等を示す。]で表される脂環式又は芳香族のビスセミカルバジド類、トリカルボン酸のジ−又はトリ−ヒドラジド類、ビス(ヒドラジンスルホニル)ベンゼン等のジスルホン酸のジヒドラジド類、トリスルホン酸のジ−又はトリヒドラジド類、ポリアクリル酸ポリヒドラジド、ニトリロ酢酸トリヒドラジド、エチレンジアミンテトラ酢酸テトラヒドラジド等を挙げることができる。これらの中でも、ヒドラジド残基数が1〜3であることが望ましい。また、これらヒドラジド基含有化合物は、1種を単独で使用でき、2種以上の併用も可能である。
【0018】
本発明の水性塗料組成物(2)としては、アクリル系エマルジョン(c)を用いた塗料が好ましい。その場合、水性塗料組成物(2)の塗料固形分に対して10〜60質量%のアクリル系エマルジョン(c)を含むことが望まれる。10質量%以上添加することにより得られる塗膜の耐候性、重ね塗り時の密着性、および重ね塗り時の耐水密着性を向上させることができ、60質量%以下にすることで好ましい塗面の光沢を発現することができる。さらに、アクリル樹脂(c)はシリコン変性を行われていることが望ましい。一般に、シリコン変性を行うためにはアクリル系エマルジョンに加水分解性シランを添加させるが、本発明における加水分解性シランの添加法は、例えば乳化重合系に添加させても、乳化重合の前あるいは後に添加してもよい。好ましくは耐候性の向上に問題がないことから、乳化重合系に添加させた方が良い。
本発明に用いることのできる加水分解性シランとしては特に制限は無く、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン等が挙げられ、非重合性3 官能性加水分解性シランとしては例えばメチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ビニルシラン、γ − アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ − アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ − メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ − メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ − グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N − β ( アミノエチル) γ − アミノプロピルトリメトキシシラン、γ − メルカプトプロピルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルクロロシラン、ビニルクロルシラン、γ − ( メタ) アクリロキシプロピルトリクロロシラン、γ− ( メタ) アクリロキシプロピルジクロロメチルシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン、及びポリシロキサンなどが挙げられ、これらの中から1種類、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
本発明の水性防錆塗料組成物を塗布する方法としては、被塗物表面にエアースプレー、エアーレス、ロールコーター、カーテンフローコート、ロールコート、浸漬等の公知の方法を用いることができ、塗布後は常温または加熱下で所定時間保持して乾燥する。
【0020】
本発明の塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスとシランカップリング剤からなる水性防錆塗料組成物は、塗料組成物が十分な防錆性、各種上塗り塗料との耐水密着性に優れており、各種被塗物への防錆塗料として非常に有用である。
【0021】
以下、実施例などにより本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例などにより何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の部及び%はそれぞれ質量部、及び質量%を示す。
【実施例】
【0022】
[実施例1]
塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスを下記の方法により製造した。ガラスライニングを施した耐圧反応器中に純水80部、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.2部、過硫酸ナトリウム0.1部を仕込み、攪拌しながら脱気を行ったのち、内容物の温度を50℃に保った。別の容器に塩化ビニリデン(VDC)73部、塩化ビニル(VC)17部、アクリル酸(AA)2部、ブチルアクリレート(BA)8部を計量混合してモノマー混合物を作成した。該モノマー混合物の内10部を上記耐圧反応器中に一括添加し、内圧が降下するまで重合した。続いて、残りのモノマー混合物90部を15時間にわたって連続的に定量して圧入した。並行してアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.8部を10時間にわたって連続的に定量圧入した。この間内容物を攪拌しながら50℃に保ち、内圧が十分に降下するまで反応を進行させた。重合収率は99.9%であった。重合収率は、ほぼ100%なので、共重合体の組成は仕込み比にほぼ等しい。かくして得られたラテックスを水蒸気ストリッピングによって未反応モノマーを除去したのち、固形分を60%とした。
【0023】
かくして得られた塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックスを用いて下記に示す配合組成で水性防錆塗料を作製した。
<水性防錆塗料組成物(1)の作製>
純水16.35部、ブチルグリコール(成膜助剤:和光純薬工業(株)製)1.89部、Benton LT(増粘剤:NL.Induatries Inc.製)0.13部、SNデフォーマーH2(消泡剤:サンノプコ(株)製)0.20部、シンペロニックPE/F87 30%水溶液(安定化剤:ICI Chem.& Ply.社製)3.43部、サーフィノール104E(湿潤剤:日信化学工業(株)製)0.30部、Proxel BD(防腐剤:Avecia製)0.05部、BYK154(分散剤:BYK Chemie Gmbh製)0.50部、K−white84(防錆顔料:テイカ(株)製)5.96部、トダカラー120ED(着色顔料:戸田工業(株)製)3.28部、タルクMS(体質顔料:日本タルク(株)製)20.37部を容器に仕込み、VMA GETZMANN GmbH社製 DISPERMAT GMBH−D−51580にて毎分10000回転で20分間攪拌して顔料分散液を調製した。ついでこの顔料分散液に、予め10%アンモニア水にてpH4に調整した上記塩化ビニリデン系共重合樹脂ラテックス45.40部を加えたのち、10%亜硝酸ナトリウム(フラッシュラスト防止剤:和光純薬工業(株)製)1.14部、CS−12(成膜助剤:チッソ(株)製)1.00部を加えて均一になるまで撹拌して水性防錆塗料を得た。これを水性防錆塗料組成物(1)とした。
【0024】
ついで上塗り密着性評価に用いる上塗り塗料を下記に示す配合組成で作製した。
<水性防錆塗料組成物(2)の作製>
市販のアクリル樹脂塗料であるアレスアクアグロス(関西ペイント(株)製)の塗料固形分に対して2質量%のアジポイルジヒドラジド(和光純薬工業(株)製)を添加し、均一になるまで撹拌して水性塗料組成物(2)を得た。
【0025】
上述のようにして得られた水性防錆塗料組成物(1)と水性塗料組成物(2)を用いて、下記に示す試験方法で試験を実施した。
【0026】
<防錆性試験>
JIS K 5600−1−4に準処して処理、調整した研磨鋼板(寸法:70×150×1t)にアプリケーターを用いて水性防錆塗料組成物(1)を乾燥塗膜が40μmとなるように塗装し、乾燥させたのち、端部と背面も同一水性防錆塗料を用いて塗装した。この塗装板を20℃、55%RH雰囲気下、一日間乾燥した。ついでこの乾燥塗膜の上にアプリケーターを用いて水性塗料組成物(2)を塗装し、20℃、55%RH雰囲気下、一週間乾燥した。水性防錆塗料組成物(1)と水性塗料組成物(2)の乾燥塗膜が合計90μmのものを得た。この塗装板を20℃、55%RH雰囲気下、一週間乾燥した。このようにして得られた塗板をJIS K 5600−7−1に準処して耐中性塩水噴霧性の試験を240時間行った。なお防錆性の評価は以下の基準とした。
○;膨れがなく、スクラッチからの錆巾が1mm以下
△;膨れがあるが、スクラッチからの錆巾が1mm以下
×;膨れがあり、スクラッチからの錆巾が1mm以上
【0027】
<上塗りとの密着性試験>
JIS K 5600−1−4に準処して処理、調整した研磨鋼板(寸法:70×150×1t)にアプリケーターを用いて水性防錆塗料組成物(1)を乾燥塗膜が40μmとなるように塗装し、乾燥させたのち、端部と背面も同一水性防錆塗料を用いて塗装した。この塗装板を20℃、55%RH雰囲気下、一日間乾燥した。ついでこの乾燥塗膜の上にアプリケーターを用いて水性塗料組成物(2)を塗装し、20℃、55%RH雰囲気下、一週間乾燥した。水性防錆塗料組成物(1)と水性塗料組成物(2)の乾燥塗膜が合計90μmのものを得た。このようにして得られた塗板の密着性をJIS K 5600−5−6(クロスカット法)に準処して測定した。なお密着性の膨れの評価は下記の基準とした。
[塗膜の密着性の評価]
0:カットの縁が完全で滑らかで、どの格子の目にもはがれがない
1:カットの交差点における塗膜の小さなはがれ。クロスカット部分で影響を受ける
のは、明確に5%を上回ることはない
2:塗膜がカットの縁に沿って、及び/又は交差点においてはがれている。クロスカ
ット部分で影響を受けるのは明確に5%を超えるが15%を上回ることはない
3:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び/
又は目のいろいろな部分が部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分
で影響を受けるのは明確に15%を超えるが35%を上回ることはない
4:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び/
又は数か所の目が部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を
受けるのは明確に35%を超えるが65%を上回ることはない
5:はがれの程度が分類4を超える場合
【0028】
<上塗りとの耐水密着性試験>
JIS K 5600−1−4に準処して処理、調整した研磨鋼板(寸法:70×150×1t)にアプリケーターを用いて水性防錆塗料組成物(1)を乾燥塗膜が40μmとなるように塗装し、乾燥させたのち、端部と背面も同一水性防錆塗料を用いて塗装した。この塗装板を20℃、55%RH雰囲気下、一日間乾燥した。ついでこの乾燥塗膜の上にアプリケーターを用いて水性塗料組成物(2)を塗装し、20℃、55%RH雰囲気下、一週間乾燥した。水性防錆塗料組成物(1)と水性塗料組成物(2)の乾燥塗膜が合計90μmのものを得た。このようにして得られた塗板を、約600mLの水を入れた1Lのプラスチック容器に入れて、開口部を防湿ラップフィルムでシールしたのち、20℃の水中に1週間浸漬して膨れの状態を観察した。さらに水中から取出したのち、20℃、55%RH雰囲気下、1週間乾燥後、水に浸せきした部分の付着性をJIS K 5600−5−6(クロスカット法)に準処して測定した。なお耐水付着性の膨れの評価は下記の基準とした。
[膨れの評価]
○:水浸せき部、非浸せき部ともに膨れなし
△:水浸せき部に膨れがあるが、非浸せき部には膨れなし
×:水浸せき部、非浸せき部ともに膨れあり
[乾燥塗膜の密着性の評価]
0:カットの縁が完全で滑らかで、どの格子の目にもはがれがない
1:カットの交差点における塗膜の小さなはがれ。クロスカット部分で影響を受ける
のは、明確に5%を上回ることはない
2:塗膜がカットの縁に沿って、及び/又は交差点においてはがれている。クロスカ
ット部分で影響を受けるのは明確に5%を超えるが15%を上回ることはない
3:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び/
又は目のいろいろな部分が部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分
で影響を受けるのは明確に15%を超えるが35%を上回ることはない
4:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び/
又は数か所の目が部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を
受けるのは明確に35%を超えるが65%を上回ることはない
5:はがれの程度が分類4を超える場合
【0029】
[実施例2]
実施例1における水性防錆塗料組成物(1)はそのままで、水性塗料組成物(2)をプロピレングリコール(成膜助剤:和光純薬工業(株)製)2.1部、水3部、AMP95(pH調整剤:AngusChemicalCompany製)0.2部、Dehydran1293(消泡剤:CognisCompany製)0.5部、サーフィノール104E(湿潤剤:日信化学工業(株)製)0.4%、オロタン165A(分散剤:ローム・アンド・ハース・ジャパン(株)製)6.2部、を容器に仕込み、VMA GETZMANN GmbH社製 DISPERMAT GMBH−D−51580にて毎分10000回転で10分間攪拌して顔料分散液を調製した。ついでこの顔料分散液にポリデュレックスG624(バインダー:旭化成ケミカルズ(株)製アクリルラテックス)53.7部、アジポイルジヒドラジド(和光純薬工業(株)製)、メトキシブタノール(成膜助剤:和光純薬工業(株)製)5部、ブチルジグリコール(成膜助剤:和光純薬工業(株)製)5部、Dehydran1293(消泡剤:CognisCompany製)0.8部、CoatexBR100P(増粘剤:CognisCompany製)5部を加えて均一になるまで攪拌することにより得た。以降この水性塗料組成物(2)を塗料配合(イ)と称する。
【0030】
[実施例3]
実施例1における水性防錆塗料組成物(1)はそのままで、水性塗料組成物(2)の市販のアレスアクアグロス(関西ペイント(株)製)のかわりに市販のエポキシ樹脂塗料であるファインウレタン(日本ペイント(株)製)を用いることにより水性塗料組成物(2)を得た。
【0031】
[実施例4]
実施例1における水性塗料組成物(2)はそのままで、水性防錆塗料組成物(1)作成時のK−white84(防錆顔料:テイカ(株)製)のかわりに、りん酸亜鉛四水和物(和光純薬工業(株)製)とした以外は同様として水性防錆塗料組成物(1)を得た。
【0032】
[実施例5]
実施例1における水性防錆塗料組成物(1)はそのままで、水性塗料組成物(2)をアジポイルジヒドラジドのかわりに、こはく酸ジヒドラジド(和光純薬工業(株)製)を用いることにより水性塗料組成物(2)を得た。
【0033】
[実施例6]
実施例1における水性塗料組成物(2)はそのままで、塩化ビニリデン系共重合樹脂からなるラテックス作成時の組成を表1記載の組成とすることにより、水性防錆塗料組成物(1)を得た。
【0034】
[実施例7]
実施例2における水性防錆塗料組成物(1)はそのままで、塗料配合(イ)を作成する際には、アクリル樹脂(c)固形分100質量%に対して1.5質量%のγ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(タナック(株)製)を用いることにより水性塗料組成物(2)を得た。
【0035】
[比較例1]
実施例1における水性防錆塗料組成物(1)はそのままで、水性塗料組成物(2)のアジポジヒドラジドを添加せず、かわりに同量の水を用いることにより水性塗料組成物(2)を得た。
【0036】
[比較例2]
実施例1における水性塗料組成物(2)はそのままで、水性防錆塗料組成物(1)のK−white84を添加せず、かわりに同量の水を用いることにより、水性防錆塗料組成物(1)を得た。
【0037】
[比較例3]
実施例1における水性防錆塗料組成物(1)はそのままで、水性塗料組成物(2)のアジポイルジヒドラジドの添加量を塗料固形分に対して19質量%とすることにより、水性塗料組成物(2)を得た。
【0038】
[比較例4]
実施例1における水性塗料組成物(2)はそのままで、塩化ビニリデン系共重合樹脂からなるラテックス作成時の組成を表1記載の組成とすることにより、水性防錆塗料組成物(1)を得た。
【0039】
[比較例5]
実施例1における水性塗料組成物(2)はそのままで、塩化ビニリデン系共重合樹脂からなるラテックス作成時の組成を表1記載の組成とすることにより、水性防錆塗料組成物(1)を得た。
【0040】
【表1】

【0041】
実施例1〜7と比較例1〜5を比較すると、本発明の水性防錆塗料組成物が防錆性、及び上塗りとの耐水密着性のいずれの特性にも優れていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、塗料組成物が十分な防錆性と重ね塗り時の密着性、および重ね塗り時の耐水密着性に優れる塗装物を提供する。従って、防錆作用を持つ建築及び建材などの各種金属部材へ好適に使用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性防錆塗料組成物(1)と水性塗料組成物(2)を塗装することにより得られる少なくとも2層からなる塗装物であって、該水性防錆塗料組成物(1)は、塩化ビニリデン、塩化ビニルの中から選ばれる少なくとも1種からなる塩素含有ビニル系単量体(A)80〜95質量%、カルボン酸基含有ビニル系単量体(B)0.5〜5質量%、これらと共重合可能な1種または2種以上のその他のビニル系単量体(C)3〜15質量%を含む混合物を乳化重合して形成される塩化ビニリデン系共重合樹脂からなるラテックスと、リン酸類塩(a)を含み、該塩化ビニリデン系共重合樹脂からなるラテックスの固形分100質量部に対してリン酸類塩(a)を3〜40質量部含むことを特徴とするものであって、該水性塗料組成物(2)は、該水性防錆塗料組成物(1)を塗装して得られる塗膜に対して重ね塗りに供され、少なくとも1つ以上のヒドラジド残基を持つヒドラジド誘導体(b)を、塗料固形分に対して0.1〜12質量%含むことを特徴とするものである、上記塗装物。
【請求項2】
塩化ビニリデン、塩化ビニルの中から選ばれる少なくとも1種からなる塩素含有ビニル系単量体(A)中の塩化ビニルの比率が0〜25質量%であることを特徴とする請求項1に記載の塗装物。
【請求項3】
水性塗料組成物(2)の塗料固形分に対し10〜60質量%のアクリル系エマルジョン(c)を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の塗装物。
【請求項4】
水性塗料組成物(2)中にアクリル系エマルジョン(c)を含むことを特徴とし、かつ該アクリルエマルジョンが加水分解性シランによって変性されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の塗装物。
【請求項5】
ヒドラジド誘導体(b)のヒドラジド残基数が1〜3であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の塗装物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の塗装物が、金属基材上に塗装されている防錆塗料処理金属材料。

【公開番号】特開2010−131897(P2010−131897A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310872(P2008−310872)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】