説明

水素を含む液体の容器への充填方法

【課題】 水素含有液体を充填した容器において、陰圧の影響による容器変形を防ぎながら、容器内の空隙に水素ガスが抜け出すことを防止することを目的とする。
【解決手段】 水素含有液体の充填について、容器内の空隙の全容量に対する割合と、空隙内を置換する混合ガスの組成成分を最適な範囲に限定する。具体的には、0.2ppm以上の水素を含む水素含有液体を容器内に充填した水素含有液体充填容器の製造方法であって、この容器内に0.7%から5%の空隙の割合を残して水素含有液体を導入し、ノズルを通じてこの空隙に対し、1.5%から50%の水素ガスを含む混合ガスを吹き込み、当該吹き込み直後にキャップで密封すること、を特徴とする水素含有液体充填容器の製造方法にかかる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を容器に充填する方法である。本発明にかかる液体は、好ましくは水素を含むものである。本発明をより詳細にいうと、ペットボトルまたは金属缶等の容器に水素を含む液体を充填する際に、熱滅菌処理後にボトル容器が陰圧の影響で変形することを防ぎ、液体中に溶存する水素ガスが空隙中の気体へ抜け出すことを防ぐことを特徴とする、液体を容器に充填する方法である。
【背景技術】
【0002】
従来、容器に導入された液体の品質の変化、容器の形状変化、液漏れ等の異常を防止する手段として、特開平6−286726号、特開平10−218288号の公開技術のように、液体を収容した容器内に液体窒素を滴下して気化させることで容器内の空隙を窒素ガスで置換し、開口部を密封する方法があった。
【特許文献1】 特開平6−286726号公報
【特許文献2】 特開平10−218288公報
【0003】
背景技術に示した技術では、容器内の酸素を窒素と置換し酸素による液体の品質変化防止を目的としている。具体的には、液体窒素を滴下し容器内の酸素を窒素置換しながら熱滅菌処理後の冷却時に液体の体積縮小による陰圧で容器が凹むことを防止している。従来技術の工程に、容器内に空隙(ヘッドスペース)を残しながら本願にかかる水素含有液体を充填した場合、液体中の水素が容器内の空隙(ヘッドスペース)に逃げ出すこととなり、水素含有液体が持つ酸化還元力の特徴と能力がなくなる。
【0004】
これを防止するためには、容器に水素含有液体を満タン充填し、水素が逃げ出す容器内の空隙(ヘッドスペース)をなくすことが考えられる。この場合、水素含有液体から水素が逃げ出すことは防止されるが、水素含有液体充填後の熱滅菌処理工程において容器を昇温して滅菌し、その後容器を冷却する工程において、水素含有液体の体積縮小による陰圧の影響で容器が凹むという別の問題を生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明は、水素含有液体を充填した容器において、陰圧の影響による容器変形を防ぎながら、容器内の空隙に水素ガスが抜け出すことを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に着目し、水素を含む液体を容器内に良好な状態で保存する方法について容器内の空隙の全容量に対する割合と、空隙内を置換する混合ガスの組成成分を最適な範囲に限定することにより、上記課題を克服する方法を発明した。
【0007】
より具体的には、本願発明は、0.2ppm以上の水素を含む水素含有液体を容器内に充填した水素含有液体充填容器の製造方法であって、この容器内に0.7%から5%の空隙の割合を残して水素含有液体を導入し、ノズルを通じてこの空隙に対し、1.5%から50%の水素ガスを含む混合ガスを吹き込み、当該吹き込み直後にキャップで密封すること、を特徴とする水素含有液体充填容器の製造方法にかかる。この際、吹き付けられる混合ガスは、水素ガスと、窒素ガスまたは不活性ガスとを主要成分とするものであり、混合ガスの水素ガス濃度が2%〜35%であることがより好ましく、混合ガスの水素ガス濃度が4%〜10%であることが最も好ましい。
【0008】
なお、本願において、水素含有液体とは0.2ppm以上の水素を含む液体をいい、典型的にはそのような濃度を含む飲料水のことをいう。水素含有液体中の水素含有濃度の上限は特に制限がないが、水溶液の場合は、1.2ppmくらいが水素の溶解度その他の缶充填技術との関係で上限となる。また、水素含有液体中の水素含有濃度の下限を0.2ppmとしているのは、これ以下であると水素含有液体が有する酸化還元能が著しく低下、もしくは、消失するためである。
【本発明の効果】
【0009】
本発明は、熱滅菌処理後の冷却において、水素含有液体の体積縮小により缶内に陰圧が発生し、(ア)容器が変形したり、破損したりするという現象を防止する効果、および、(イ)水素含有液体中に溶存する水素が容器内の空隙へ抜け出すことによって水素含有液中の水素濃度が低下することを防止するという効果を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の構成について詳述する。本発明において用いられる容器は金属缶、紙パック、ペットボトル等、容器から容易に気体が漏れ出さないものであればよい。
【0011】
本発明において、ノズルを通じて容器内の空隙に吹き付けるための混合ガス内における水素ガスの体積濃度について、その下限値は1.5%が好ましいが、2%がより好ましく、4%が非常に好ましい。また、その上限値は、50%が好ましく、より好ましくは35%、非常に好ましいのが10%である。混合ガスの水素ガスの体積濃度があまりにも低いと、水素含有液体中に溶存する水素が容器内の空隙へ抜け出すことによって水素含有液中の水素濃度が低下することを防止できず、水素ガスの体積濃度が高すぎる場合は、吹き付け時に引火・爆発するなどの作業上の安全性に問題が生じうる。
この観点からいえば、なるべく低い水素濃度であって、水素含有液体中に溶存する水素濃度を高く維持できる混合ガス中の水素ガス濃度を採用することが望ましい。このような観点から、混合ガス中の水素濃度は、体積濃度にして4%〜10%が最も望ましい。ただし、何らかの事情からより高い水素濃度を採用すべき場合は、換気等、操業時の安全性確保手段を十分に講じた上で、混合ガス中の水素濃度を30%程度まで高くしてもよい。また、比較的強度の高い缶を用いる場合は、以下に定義する空隙率を低くするとともに、その分、混合ガス中の水素濃度を低くすることができる。この場合、混合ガス中の水素濃度は、体積濃度にして4%〜35%もしくは2%〜35%が望ましいということになる。
【0012】
本発明において、前記混合ガス内の水素ガス以外の気体としては、窒素もしくはアルゴンを体積濃度で50%〜98.5%の割合で含むことが望ましいが、他の不活性ガスでもかまわない。また、窒素もしくはアルゴンその他の不活性ガスは単独で水素ガスと混合されても、複数の種類のガスが混合されていても構わない。
【0013】
本発明において、水素含有液体を充填する容器の全容量に対する容器内の空隙の割合(空隙率)は、容器内の全容量に対して0.7%〜5%が望ましく、1.0%〜3.5%程度がより望ましい。より具体的には、缶の全容量においてこの比率は若干変化し、全容量が200mlの缶において空隙は5ccから6ccが好ましく、全容量が300mlの缶において空隙は6ccから8ccが望ましく、全容量が500mlの缶において空隙は7ccから10ccくらいが望ましい。「空隙率」は、水素含有液体を充填した場合の空隙の割合を意味する。すなわち、容器の全体積(キャップを閉めたときの体積をいう)をV0、容器中に導入された液体の体積をV1とすると、以下の式で定義される概念である。
【数1】

【0014】
本願発明の原理について説明する。例えば、全容量が210ccの缶に加熱殺菌した水素含有液体を1%程度の空隙を残して充填した後に、冷却すると水素含有液体は207ccに圧縮され陰圧が発生する。なお、一般的にスチール缶の場合は、陰圧に耐えるだけの強度を有しているので冷却時に凹むことはほとんどないが、これをもって本発明の射程外であるとは言えない。そして、約5ccの空隙は真空となり、この部分に水素が抜け出すことになる。仮に、水素含有液体中に水素が1ppm含有されていた場合、水素含有液体中の水素が約0.5ppmが抜け出し、水素含有液体中の水素濃度を平衡に保つと、それ以上の水素の抜け出しは防止することができる。しかし、水素含有液体中の水素濃度がより低い場合、例えば0.3ppm程度の場合は、このような抜け出しが生じると充填されている水素含有液体中の水素濃度が規定値である0.2ppmを下回ってしまう恐れがある。そこで、充填時に空隙中に水素混合ガスを吹き付け、水素含有液体中と空隙中の平衡が高い水素濃度で生じるようにすることが必要である。
【0015】
これに対し、アルミ缶を用いた場合は、材質的スチールに比して強度が強くないので、満タン充填をすると全部凹む。そこで、予め設ける空隙の率を高めに設定して陰圧を逃がすような工夫が必要となる。
【実施例】
【0016】
本発明の実施例を図1及び表1,2に示す。
【0017】
アルミ缶容器3(容積327cc)へ水素ガスを1.2ppm含む水素含有液体5を充填し、液体表面と容器内との間の空隙4に表1、2の組成からなる混合ガスをノズル1によって吹き付けることによって置換し、容器を運搬して2日後に、水素含有液体5内に溶け込んでいる水素ガスの溶存濃度(ppm)を計測した。各実施例において使用した混合ガスを組成するガスは、アルゴンガス、窒素ガス、水素ガスの三種類であり、それぞれの混合前の密度はアルゴンガスが1.784kg/m、窒素ガスが1.2506kg/m、水素ガスが0.0899kg/mである。
【0018】
このときの結果を表1,2に示す。全ての缶において陰圧による缶凹みは生じていなかった。また、全ての混合ガスの条件において水素含有液体の水素ガスの溶存濃度は0.2ppm以上であった。従って、表1,2の条件によれば、水素含有液体を充填した容器において、陰圧の影響による容器変形を防ぎながら、容器内の空隙に水素ガスが抜け出すことを防止するという発明の課題を解決している。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
他方、本発明の比較例を表3に示す。表3中の用語の定義および実験方法は実施例と同様である。
【0022】
【表3】

【0023】
比較例においては、水素含有液体中の溶存水素濃度が0.2ppmを下回るか、そうではないものについては、缶くぼみなどの容器変形が生じている。なお、比較例として、混合ガスにおける水素ガスが体積比率で50%を上回るものも考えられるが、このような混合ガスは水素の爆発限界を大幅に過ぎており危険なので実施していない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】 本発明において充填される容器、水素を含む液体、空隙の位置関係
【符号の説明】
【0025】
1 混合ガス噴出ノズル
2 キャップ
3 容器
4 空隙
5 水素含有液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.2ppm以上の水素を含む水素含有液体を容器内に充填した水素含有液体充填容器の製造方法であって、前記容器内に0.7%から5%の空隙の割合を残して前記水素含有液体を導入し、前記空隙を体積濃度で1.5%から50%の水素ガスを含む混合ガスで置換し、当該置換直後にキャップで密封すること、を特徴とする水素含有液体充填容器の製造方法。
【請求項2】
0.2ppm以上の水素を含む水素含有液体を容器内に充填した水素含有液体充填容器の製造方法であって、前記容器内に0.7%から5%の空隙の割合を残して前記水素含有液体を導入し、ノズルを通じて前記空隙に体積濃度で1.5%から50%の水素ガスを含む混合ガスを吹き込み、当該吹き込み直後にキャップで密封すること、を特徴とする水素含有液体充填容器の製造方法。
【請求項3】
前記混合ガスは、水素ガスと、窒素ガスまたは/及び不活性ガスとを主要成分とする請求項1または2記載の水素含有液体充填容器の製造方法。
【請求項4】
前記混合ガスの水素ガス濃度が体積濃度で2%〜35%であることを特徴とする請求項1ないし3記載の水素含有液体充填容器の製造方法。
【請求項5】
前記混合ガスの水素ガス濃度が体積濃度で4%〜35%であることを特徴とする請求項1ないし3記載の水素含有液体充填容器の製造方法。
【請求項6】
前記混合ガスの水素ガス濃度が体積濃度で4%〜10%であることを特徴とする請求項1ないし3記載の水素含有液体充填容器の製造方法。

【図1】
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