説明

水素ガスから不純物を除去するためのフィルタ装置

【課題】水素含有ガスから水素以外の不純物を除去する技術を提供する。
【解決手段】フィルタ装置230は、水素含有ガスが流れる上流側から下流側にわたって多層的に配置される複数のメッシュ層20〜22と、水素吸蔵合金が充填された水素吸蔵合金層30を備えている。水素吸蔵合金層30は、水素吸蔵合金層30より上流側に配置された各メッシュ層20〜22より目が細かくなるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水素含有ガスから水素以外の不純物を除去するためのフィルタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素の貯蔵方法としては、例えば、水素吸蔵合金の水素吸蔵・放出を利用した水素貯蔵タンク等が知られている。水素貯蔵タンクでは、水素ガスを充填する際に、水素以外の不純物(イオン化しやすい金属や、活性物質など)も同時に水素貯蔵タンク内に混入してしまう場合がある。こうした不純物は、水素貯蔵タンクの劣化の原因となるばかりでなく、水素の供給先(例えば燃料電池など)の構成部材の劣化の原因となる場合がある。これまで、水素ガスに混入する水素以外の不純物を除去するための種々のフィルタ装置が提案されてきた(特許文献1等)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−054798号公報
【特許文献2】特開2004−308763号公報
【特許文献3】特開2000−171125号公報
【特許文献4】特開2006−43546号公報
【特許文献5】特開2005−281115号公報
【0004】
通常、フィルタ装置では、メッシュ等の微小な気孔(細孔)を有する多孔体によって不純物を濾過する。しかし、微小なサイズの不純物(例えば0.1〜1.0μm程度の大きさの不純物など)を濾過するために、当該多孔体の細孔径を小さくすると、目詰まりを生じやすく、フィルタ装置における圧力損失が増大してしまうという問題があった。これまで、こうした問題に対して十分な工夫がなされてこなかったのが実情であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、水素含有ガスから水素以外の不純物を除去する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]流入する水素含有ガスから水素以外の不純物を除去するためのフィルタ装置であって、前記水素含有ガスが流れる上流側から下流側にわたって順次配置された、複数のフィルタ層を備え、前記複数のフィルタ層は、水素吸蔵合金が充填された水素吸蔵合金層を含み、前記水素吸蔵合金層は、前記水素吸蔵合金層より上流側に配置された他のフィルタ層よりも目の細かいフィルタ層である、フィルタ装置。このフィルタ装置によれば、上流側のフィルタ層によってサイズの大きい不純物をトラップし、下流側の水素吸蔵合金層によって、サイズの小さい不純物をトラップするとともに、水素吸蔵合金によって水素分子を透過させることができる。従って、フィルタの目詰まりを低減するとともに、圧力損失の増大を抑制しつつ水素分子を透過させることができる。
【0008】
[適用例2]適用例1記載のフィルタ装置であって、前記水素吸蔵合金層は、前記水素吸蔵合金を繊維の間に分散させた不織布を備えるフィルタ装置。このフィルタ装置によれば、さらに、水素吸蔵合金層による圧力損失の増大を抑制しつつ、水素吸蔵合金層における不純物のトラップ能を向上させることができる。
【0009】
[適用例3]水素を貯蔵するための水素貯蔵タンクであって、水素吸蔵合金が収納された、水素を充填するための充填部と、前記充填部に接続する水素用配管と、前記水素用配管に設けられた、適用例1又は適用例2記載のフィルタ装置とを備える、水素貯蔵タンク。この水素貯蔵タンクによれば、より不純物の少ない水素ガスを、フィルタ装置による圧力損失の増大を抑制しつつ、供給することができる。
【0010】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、フィルタ装置、そのフィルタ装置を備えた水素貯蔵タンク、その水素貯蔵タンクを備えた燃料電池システム、その燃料電池システムを搭載した車両等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
A.第1実施例:
図1は本発明の一実施例としての燃料電池システムの構成を示す概略図である。この燃料電池システム1000は、燃料電池100と、水素供給部200と、酸素供給部300とを備えている。
【0012】
燃料電池100は、反応ガスとして水素と酸素の供給を受けて発電を行う固体高分子型燃料電池である。なお、燃料電池100としては、固体高分子型燃料電池でなくとも良く、任意の種々のタイプの燃料電池に本発明を適用することが可能である。
【0013】
水素供給部200は、水素貯蔵タンク210と、水素供給用配管220と、フィルタ装置230と、水素補給用配管240とを備えている。水素貯蔵タンク210は、水素吸蔵合金が充填されたチューブ(図示せず)を備えている。水素吸蔵合金は、チューブ内の圧力の低下に伴って吸蔵した水素を放出し、圧力の上昇に伴って水素を吸蔵する。
【0014】
水素貯蔵タンク210は、水素供給用配管220を介して燃料電池100と接続されている。これによって、水素供給部200は、水素貯蔵タンク210内に充填された水素を供給水素ガスとして、燃料電池100のアノード側へと供給する。
【0015】
水素供給用配管220には、その上流側から順に、フィルタ装置230と、レギュレータ222と、水素遮断弁223とが設けられている。レギュレータ222は、燃料電池100に供給される供給水素ガスの圧力を調整し、水素遮断弁223は、開閉動作によって供給水素ガスの流れを制御する。フィルタ装置230については後述する。
【0016】
水素補給用配管240は、水素貯蔵タンク210のタンク内への水素補給時に、水素貯蔵タンク210と外部の水素ステーションとを連結する。なお、水素補給用配管240には、水素の流れを制御するための水素遮断弁241が設けられている。
【0017】
酸素供給部300は、エアコンプレッサ310と、酸素供給用配管320とを備えている。エアコンプレッサ310は、酸素供給用配管320を介して燃料電池100と接続されており、燃料電池100のカソード側に、酸化ガスとして高圧空気を供給する。
【0018】
なお、燃料電池100に供給された水素及び酸素のうち、発電反応に供されることのなかった水素及び酸素はそれぞれ、燃料電池100に接続する水素排出用配管250及び酸素排出用配管350によって、燃料電池100の外部へと排出される。
【0019】
ところで、水素貯蔵タンク210に補給される水素ガスには、水素ガスの製造時等に混入した水素分子以外の不純物が含まれる場合がある。そうした不純物が、水素貯蔵タンク210から水素分子とともに、燃料電池100に供給されると、燃料電池100の構成部材の劣化を引きおこす可能性がある。そこで、この燃料電池100では、水素供給用配管220に設けられたフィルタ装置230を用いて、供給水素ガス中の不純物を除去する。
【0020】
図2は、フィルタ装置230の内部構造を示す概略断面図である。フィルタ装置230は、ケーシング10と、複数のメッシュ層20〜22と、水素吸蔵合金層30とを備えている。
【0021】
ケーシング10は、中空の容器であり、水素供給用配管220(図1)と接続される、水素流入口11と水素流出口12とが、それぞれ対向する位置に設けられている。以後、フィルタ装置230に水素が流入する水素流入口11側を「上流側」と呼び、水素が流出する水素流出口12側を「下流側」と呼ぶ。
【0022】
複数のメッシュ層20〜22及び水素吸蔵合金層30は、上流側から下流側に渡って積層された状態でケーシング10内に収納されている。複数のメッシュ層20〜22及び水素吸蔵合金層30は、ケーシング10内に流入した供給水素ガス中の不純物をトラップして除去するためのトラップ層(フィルタ層)として機能する。複数のメッシュ層20〜22としては、ステンレス鋼(SUS)の焼結体等の多孔体による多孔層として構成される。なお、複数のメッシュ層20〜22は、繊維状の物質を網目状に織り込んだ網状体によって構成される多孔層として構成されるものとしても良い。
【0023】
水素吸蔵合金層30は、水素吸蔵合金粉末を成形した多孔体による多孔層として構成される。なお、水素吸蔵合金粉末としては、水素貯蔵タンクなどで使用が継続された結果、微粉化して水素貯蔵タンク外に排出されてしまった水素吸蔵合金の粉末を用いるものとしても良い。これによって、水素吸蔵合金層30を低コストで製造することが可能である。
【0024】
複数のメッシュ層20〜22及び水素吸蔵合金層30は、下流側のトラップ層ほど、微小なサイズの不純物をトラップ可能なように目が細かく構成されている。ここで、「トラップ層の目が細かい」とは、例えば、各トラップ層の平均細孔径及び/又は最大細孔径がより小さいことを意味する。「平均細孔径」とは、各多孔体に存在する全細孔の直径の平均値である。また、「最大細孔径」とは、各多孔体に存在する全細孔の直径の最大値である。
【0025】
水素吸蔵合金層30の平均細孔径及び/又は最大細孔径は、例えば、0.1〜1.0μm程度としても良い。メッシュ層20〜22及び水素吸蔵合金層30の平均細孔径及び最大細孔径は、例えば、窒素などを用いたガス吸着法によって細孔分布を測定することによって得ることができる。なお、複数のメッシュ層20〜22を、網状体によって構成した場合には、細孔径は、繊維間の目開きとして解釈することができる。
【0026】
これまでの説明からも理解できるように、このフィルタ装置230では、下流側のトラップ層ほど、サイズの小さい不純物をトラップすることが可能である。ところで、一般のフィルタ装置において、平均細孔径及び最大細孔径が微小(例えば1μm以下)であるメッシュ層は、トラップされた異物によって細孔が塞がれる、いわゆる目詰まりを生じる可能性が高い。また、その目の細かさのために圧力損失が増大する傾向にある。しかし、このフィルタ装置230では、平均細孔径及び最大細孔径が微小径となる最下流側のトラップ層として水素吸蔵合金層30が配置されている。この水素吸蔵合金層30によれば、後述する水素吸蔵合金層30の水素透過機能により、水素分子を透過しつつ、微小なサイズの不純物をトラップすることが可能である。また、トラップした不純物によって細孔が塞がれてしまうような場合であっても、圧力損失の増大を抑制しつつ水素の透過を継続することが可能である。
【0027】
図3は、水素吸蔵合金層30の水素透過機能を説明するための模式図である。図3は、図2に示すフィルタ装置230のうち、水素吸蔵合金層30のみを拡大して図示しており、フィルタ装置230内に流入した水素分子1と供給水素ガスに含まれる不純物2の流れを模式的に示している。なお、図3は、紙面に向かって右側が上流側であり、供給水素ガスは図中の矢印FDの示す方向に流れている。
【0028】
水素吸蔵合金層30の表面に存在する細孔は、その直径dより大きいサイズの不純物2をトラップする。一方、水素吸蔵合金層30を構成する水素吸蔵合金粉末31は、水素分子1を吸着する。ここで、水素吸蔵合金は、圧力の低下に伴って水素を放出する性質を有する。また、フィルタ装置230内は下流側ほど圧力が低いため、水素吸蔵合金粉末31に吸着された水素分子は下流側へと放出される。このように、水素吸蔵合金層30内では、水素吸蔵合金粉末31のそれぞれが、水素分子の下流側からの吸着と上流側への放出を繰り返し、水素分子を伝搬していく。即ち、水素吸蔵合金層30は、一種の水素透過膜として機能する。
【0029】
このように、フィルタ装置230の水素吸蔵合金層30は、上流側の複数のメッシュ層20〜22ではトラップされない微小サイズの不純物をトラップするとともに、圧力損失の増大を抑制しつつ水素分子を透過する。これによって、フィルタ装置230は、目詰まりの発生の可能性が低減され、圧力損失の増大による供給水素ガスの供給効率の低下が抑制される。
【0030】
従って、本実施例の燃料電池システム1000(図1)では、フィルタ装置230を設けたことによる供給水素ガスの供給効率の低下を抑制しつつ、供給水素ガス中に含まれる不純物による燃料電池100の劣化を抑制することができる。
【0031】
B.第2実施例:
図4は、本発明の一実施例として、フィルタ装置230Aの構成を示す概略断面図である。図4は、水素吸蔵合金層30の構成が異なる点以外は、図2とほぼ同じである。このフィルタ装置230Aの水素吸蔵合金層30Aは、層全体に渡って不織布32が配置され、不織布32の繊維の間に水素吸蔵合金粉末が分散・充填されている。なお、水素吸蔵合金層30Aは、第1実施例の水素吸蔵合金層30と同様に、他の上流側のメッシュ層20〜22より目が細かくなるように構成されている。
【0032】
このような構成であれば、第1実施例のフィルタ装置230の効果に加えて、不織布32によって不純物のトラップ能を向上させることが可能である。また、不織布32は、保水性・吸水性に優れているため、供給水素ガス中の余分な水分を吸収することができる。
【0033】
C.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0034】
C1.変形例1:
上記実施例において、フィルタ装置230,230Aは、複数のメッシュ層20〜22を備えていたが、複数のメッシュ層としては、任意の数のメッシュ層が設けられているものとしても良いし、単一のメッシュ層が設けられているものとしても良い。こうした構成であっても、水素吸蔵合金層30は、上流側に設けられた各メッシュ層よりも目が細かく構成されていれば良い。なお、単一のメッシュ層を備える場合において、当該メッシュ層は、上流側から下流側に渡って細孔の目が徐々に(連続的に)細かくなる構成であっても良い。
【0035】
C2.変形例2:
上記実施例において、複数のメッシュ層20〜22は、下流側の層ほど目が細かくなるように構成されていたが、上流側より下流側に目の粗いメッシュ層が設けられる構成であっても良い。また、上記実施例では、水素吸蔵合金層30が最下流側に配置されていたが、水素吸蔵合金層30のさらに下流側に、他のトラップ層が設けられるものとしても良い。
【0036】
C3.変形例3:
上記実施例において、フィルタ装置230,230Aは、水素貯蔵タンク210に接続する水素供給用配管220に設けられていたが、水素補給用配管240に設けられているものとしても良い。また、フィルタ装置230,230Aは、水素貯蔵タンク210に接続する配管に設けられていなくとも良く、例えば、改質機に接続する配管など、水素が流入する配管に設けられていればよい。
【0037】
C4.変形例4:
上記実施例において、燃料電池システム1000に、フィルタ装置230,230Aが用いられていたが、他の水素を利用するシステムの水素系統に用いられるものとしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】燃料電池システムの構成を示す概略構成図。
【図2】フィルタ装置の内部構成を示す概略断面図。
【図3】水素吸蔵合金層の水素透過機能を説明するための模式図。
【図4】第2実施例としてのフィルタ装置の内部構造を示す概略断面図。
【符号の説明】
【0039】
1…水素分子
2…不純物
10…ケーシング
11…水素流入口
12…水素流出口
20〜22…メッシュ層
30,30A…水素吸蔵合金層
31…水素吸蔵合金粉末
32…不織布
100…燃料電池
1000…燃料電池システム
200…水素供給部
210…水素貯蔵タンク
220…水素供給用配管
222…レギュレータ
223…水素遮断弁
230,230A…フィルタ装置
240…水素補給用配管
241…水素遮断弁
250…水素排出用配管
300…酸素供給部
310…エアコンプレッサ
320…酸素供給用配管
350…酸素排出用配管
FD…矢印
d…細孔の直径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入する水素含有ガスから水素以外の不純物を除去するためのフィルタ装置であって、
前記水素含有ガスが流れる上流側から下流側にわたって順次配置された、複数のフィルタ層を備え、
前記複数のフィルタ層は、水素吸蔵合金が充填された水素吸蔵合金層を含み、
前記水素吸蔵合金層は、前記水素吸蔵合金層より上流側に配置された他のフィルタ層よりも目の細かいフィルタ層である、フィルタ装置。
【請求項2】
請求項1記載のフィルタ装置であって、
前記水素吸蔵合金層は、前記水素吸蔵合金を繊維の間に分散させた不織布を備える、フィルタ装置。
【請求項3】
水素を貯蔵するための水素貯蔵タンクであって、
水素吸蔵合金が収納された、水素を充填するための充填部と、
前記充填部に接続する水素用配管と、
前記水素用配管に設けられた、請求項1又は請求項2記載のフィルタ装置と、
を備える、水素貯蔵タンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−120435(P2009−120435A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295254(P2007−295254)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】