説明

水素ガス発生部材及びその水素ガス製造方法

【課題】圧延処理もしくは粉末化処理を行ったAl合金と水を接触させることにより、水素ガス発生反応を安全に促進させる水素ガス発生部材を提供する。
【解決手段】金属マトリックス中に、Alを微細分散させた組織を有し、水を接触させて、水素ガスを生成する水素ガス発生部材20であり、水素発生装置10内には、水素ガス発生部材20を装着するための固定部材14があり、内部に貯められている水15と水素ガス発生部材20と接触させ、その表面から発生する水素ガスを水素ガス供給管12を通して外部に供給して、図示しない貯蔵タンクへ貯蔵する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Alに代表される水酸化物形成金属と水との反応を利用し、内燃機関、燃料電池等の燃料や化学工業用原料として使用される水素ガスを製造する水素ガス発生部材及びその水素ガス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素ガスは、水の電気分解(HO→H+1/2O)や炭化水素の水蒸気改質(CH+HO→3H+CO)等で従来から製造されているが、電気分解方法ではエネルギー効率が悪く、水蒸気改質では、大きな設備負担や副生物の処理等が問題である。そこで、金属と水との反応により水素を製造する方法が検討されている。
水素製造に使用される代表的な金属はAlおよびAl合金である。たとえば、特許文献1、2及び特許文献4では、Alを融点30℃以下のGaやGa−In合金融液に浸漬し、表面酸化膜を取り除き、活性面を表出させ、水との接触反応により(Al+3HO→Al(OH)+1.5H)により水素ガスを発生・捕集している。また、水に浸漬したAl合金を切削加工して新鮮な活性面を露出させる方法(特許文献3)、摩擦及び摩擦に伴う力学的破壊(特許文献5)、急熱、急冷による熱衝撃(特許文献6)等も知られている。
【0003】
水素ガスの発生をAl合金の活性面と水との反応に依る場合、活性面の多寡に水素ガスの発生量が影響され、Al合金のバルクは水素ガス発生反応に寄与しないともいえる。活性面よりもバルクが圧倒的に多いため、Al合金の消費量に比較して水素ガスの発生量が大幅に少なく、Al+3HO→Al(OH)+1.5Hの反応式から算出される理論値1.3リットル/g・Alの数%に留まることもある。
また、Ga、In、Sn、Zn等の低融点金属と合金化したAlを水と接触反応させて水素ガスを発生することも報告されている(非特許文献1)。Ga、In、Sn、Zn等のドーパントと合金化したAlは、水と接触させるだけで水素ガス発生反応を生起させる点で、Al合金表面の切削、摩擦等で新生した活性面と水との反応に依る方法に比較して有利である。しかし、合金化したAl合金は、Ga、In等の高価な金属が含まれ、コスト的に不向きである。
また、ボールミルを利用したメカニカルアロイング法により、Alに0〜30重量%のBiを添加して作製する合金粉末と水の接触により、水素ガス発生反応が誘起されることが報告されている(非特許文献2)。
【0004】
【特許文献1】米国特許第4358291号
【特許文献2】米国特許第4745204号
【特許文献3】特開2001−31401号公報
【特許文献4】特開2003−12301号公報
【特許文献5】特開2004−123517号公報
【特許文献6】特開2006−45004号公報
【非特許文献1】O.V Kravchenko et al.,Journal of Alloys and Compounds 397(2005).pp.58-62
【非特許文献2】M-Q.Fan et al., InternationalJournal of Hydrogen Energy, Corrected Proof, Available online 12 February 2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この際、水温によって、水素ガス発生量が変化することは特許文献6や非特許文献1で示されているが、常温の水温(5〜40℃)で安定な水素発生量が得られることが望ましいことは経済的に考えて言うまでもない。
【0006】
本発明者は、ドーパントの合金化がもたらす影響を種々調査・検討した。その結果、意外にも合金化したAl合金を圧延処理もしくは粉末化処理を行うことによって、高価なGaを用いることなく、水素ガス発生反応を安全にかつ効率よく進行することを見出した。
そこで、本発明は、かかる知見を基礎とし、圧延処理もしくは粉末化処理を行って、水を接触させることにより、水素ガス発生反応を安全に促進させる水素ガス発生部材を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、水素ガス発生部材を用いて水を接触させることにより、水素ガス発生反応をおこなう水素ガス製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、金属マトリックス中に、Alを微細分散させた組織を有し、水を接触させて、水素ガスを生成する水素ガス発生部材であることを特徴とする。
また、本発明の前記水素ガス発生部材は、液相状態で互いに組成の異なる液相の2相分離し、固相状態で2相に分離していることを特徴とする。
また、本発明の前記水素ガス発生部材は、Al−X合金で、Xが、Sn、Bi、Inのうちから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする。
また、本発明の水素ガス発生部材は、Al−X合金で、Xが、Sn:10.1〜99.5%(質量%:以下同じ)、Bi:30.1〜99.5%、In:10.1〜99.5%、Sn+Bi:20.1〜99.5%、Sn+In:10〜99.5%、Bi+In:20.1〜99.5%、Sn+Bi+In:20〜99.5%のうちから選ばれたものであることを特徴とする。
また、本発明の水素ガス発生部材は、前記Al−X合金は、さらに、Yを含有し、そのYとして、Pb:0.01〜20%、Zn:0.01〜30%、Si:0.01〜20%、Cd:0.01〜20%、Cu:0.01〜20%、Fe:0.01〜5%、Ga:0.01〜30%、Ge:0.01〜30%、Hg:0.01〜20%、Mg:0.01〜20%、Ni:0.01〜5%、S:
0.01〜5%、Mn:0.01〜5%のうちから選ばれた少なくとも1種であり、複数の元素を含有する場合でも60%を越えない範囲であって、XとYが、2X>Yの関係にあることを特徴とする。
また、本発明の水素ガス発生部材は、圧延加工されていることを特徴とする。
また、本発明の水素ガス発生部材は、粉末化されていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の水素ガス製造方法は、上述のいずれかに記載の水素ガス発生部材であって、該水素ガス発生部材に水を接触させて、水素ガスを生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
以上の課題を解決する手段によって、本発明の水素ガス発生部材によって、安価な構成材料で、しかも、水を接触させることにより、水素ガス発生反応を安全に発生させることができる。
また、本発明の水素ガス製造方法は、簡単な構造であって、水素ガス発生反応を安全に発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。なお、いわゆる当業者は特許請求の範囲内における本発明を変更・修正をして他の実施形態をなすことは容易であり、これらの変更・修正はこの特許請求の範囲に含まれるものであり、この特許請求の範囲を限定するものではない。
本発明の水素ガス発生部材は、金属マトリックス中に、Alを微細分散させた組織を有する水素ガス発生部材であって、該水素ガス発生部材に水を接触させて、水素ガスを生成することを特徴とする。
清浄な表面が露出しているAlでは、Alと水とが反応してAl(OH)になるなかで、水素を発生させることが知られている。また、この作用は、太陽光等の波長の短い高エネルギーの光を受けると、同様に、水を分解して水素を発生させることが知られている。本発明の水素ガス発生部材は、金属マトリックス中に微細分散したAlと水が反応してAl(OH)になる中で、水素を発生し、Alが消失した所に、さらに水が浸入し、金属マトリックス内部のAlと水が反応するという、連続的な水素発生メカニズムで水素を発生させる。このなかで、Alは、金属マトリックス中に分散させることで、Al表面が酸素で酸化されても、その水素発生能力が大きく低下することがない。
金属マトリックス中にAlを微細な粒径にして分散させている。このAlの微細な組織(以下、単にAl結晶粒と記す。)は、金属マトリックス中に、金属マトリックスの結晶粒とAl結晶粒とが2相に分離している。また、Al結晶粒の個数平均ドメイン径が0.01〜500μmの範囲にある。Al結晶粒の金属マトリックス中での存在状態によって水素の発生効率が影響される。Al結晶粒の個数平均ドメイン径が0.01μm未満では、水素の発生効率が低く工業上実用的ではないし、500μmを越えると、酸化が激しくなり、水素を発生させる能力が低下してくる。
【0011】
また、本発明の水素ガス発生部材は、不可避的な不純物を含むAlと金属Xとで形成される。金属Xとしては、Sn、Bi、Inのうちから選ばれた少なくとも1種である。また、本発明の水素ガス発生部材は、液相状態で互いに組成の異なるAlと他の1つの液相に分離して液相2相分離を示す温度域を有する組成を示している。これによって、本発明の水素ガス発生部材では、金属マトリックスとして金属XとAlの2相に分離している金属組織を有する。
さらに、Xの含有量は、水素ガス発生部材に対してXが、Sn:10.1〜99.5%、Bi:30.1〜99.5%、In:10.1〜99.5%の範囲にある。含有量がSn:10.1%、Bi:30.1%、In:10.1%未満では、Alが多くなりAl分散領域が著しく減少するというデメリットがあり、99.5%を越えるとAlが少なくなり、水素ガスの発生が少なくなる等のデメリットがある。特に、Xが、Sn:20〜95%、Bi:35〜90%、In:25〜95%の範囲が好ましい。水素ガス発生が効率的に生じるメリットがある。
さらに、金属Xとして、Sn、Bi、Inのうちから選ばれた2種または3種の合計が、Sn+Bi:20.1〜99.5%、Sn+In:10〜99.5%、Bi+In:20.1〜99.5%、Sn+Bi+In:20〜99.5%の範囲にあってもよい。2種以上の金属を含有させることにより、液相状態で互いに組成の異なる金属XとAlの2相に分離が促進され、合金作製が容易となる。含有量がSn+Bi、Bi+Inが20.1未満、Sn+Inが10未満、Sn+Bi+Inが20%未満では、Alが多くなりAl分散領域が著しく減少するデメリットがあり、また、99.5%を越えるとAlが少なくなり、水素ガスの発生が少なくなる等のデメリットがある。特にSn+Bi:25〜95%、Sn+In:25〜95%、Bi+In:25〜95%、Sn+Bi+In:25〜95%の範囲が好ましく、水素ガス発生が効率的に生じるメリットがある。
【0012】
また、本発明の水素ガス発生部材は、Al−X合金に、Yを含有させる。Yとしては、Pb:0.01〜20%、Zn:0.01〜30%、Si:0.01〜20%、Cd:0.01〜20%、Cu:0.01〜20%、Fe:0.01〜5%、Ga:0.01〜30%、Ge:0.01〜30%、Hg:0.01〜20%、Mg:0.01〜20%、Ni:0.01〜5%、S:0.01〜5%、Mn:0.01〜5%のうちから選ばれた少なくとも1種である。
Yは、Alに含有させることで、液相2相分離系を形成する傾向が大きい元素で、とくに、Sn、Bi、Inを含有する液相2相分離系Al合金を、より安定な液相2相分離系とし、合金の溶解が容易となる。
Yを含有することで、2液相分離が安定となり、合金作製の溶解温度を低下し、Al結晶粒を金属マトリックス中に微細に分散させることが容易となる。
さらに、Yの含有量は、複数の元素を添加する場合でも、合計しても、60%を越えない範囲にある。Yの含有量が0.01%未満では、2液相分離が不安定であるデメリットがあり、60%を越えるとAlが少なくなり、水素ガスの発生が少なくなる等のデメリットがある。特に、0.1〜30%の範囲が好ましく、合金作製が容易となるメリットがある。さらに、Yとしては、特に、Mn、Zn、Mg、Gaが好ましい。MnやZnおよびMgは量産されているアルミ缶の添加元素であり、アルミ缶を溶かしても、水素が発生しうる。また、Gaの添加により、2液相分離温度が急激に低下するため、合金の溶解が容易となり、水素ガス発生量も大きくなる。
また、XとYが、2X>Yの関係にある。またXとYとの合計が、10.1〜99.5%の範囲で、合金作製すると、Alの微細結晶粒がX−Yマトリックス中に分散するという作用がある。さらに、X、Y、及び不可避不純物に加え残りをAlとし、合計質量%は100%になる。
【0013】
また、本発明の水素ガス発生部材は、圧延加工されている。圧延装置は、2段圧延、ゼンジマー圧延、プラネタリ圧延、ユニバーサル圧延のいずれであっても良い。圧延率は、30〜99.99%の範囲が好ましい。
この圧延工程を経ることで、金属マトリックス中の元来微細な純度の非常に高いAl結晶粒をファイバー状に伸ばし、さらに、結晶粒に多数の微細な亀裂を形成することで、水と接触する面積を増加、水との反応性を高めることができる。また、ファイバー状のAl粒が水と反応することにより、板材の内部まで空隙が生じ、その中に水がさらに浸入することにより、金属マトリックス中のAl全体が水と反応することにより、水素の発生効率を大きくすることができる。
また、本発明の水素ガス発生部材は、粉末化されている。粉末化は、ボールミル、アトライタ等の機械的粉砕法でも、アトマイザー等のように溶融状態から粉末にするのでも良い。水素ガス発生部材を小粒径化し、さらに、その表面にAl結晶粒を存在させることで、水との接触表面積を増加させ、水素の発生効率を大きくすることができる。このときに、水素ガス発生部材の重量平均粒径は、5〜400μmの範囲にする。重量平均粒径が5μm未満では、Alの表面酸化膜が多くなり、水素発生を阻害する等のデメリットがあり、400μmを越えるとAlの分散粒径が大きくなる等のデメリットがある。特に、20〜100μmの範囲が好ましい。Alの分散粒径と水素発生効率のバランスが良い等のメリットがある。
【0014】
また、本発明の水素ガス製造方法について説明する。図1は、水素ガスを発生させる水素ガス発生装置の構成を示す概略図である。
図1に示すように、水素発生装置10には水を供給する水供給管13と発生した水素ガスを貯蔵するために外部に取り出す水素ガス採集管12とが設けられている。さらに、水素発生装置10内には、水素ガス発生部材20を装着するための固定部材14があり、内部に貯められている水15に接触させている。水供給管13から水素発生装置10内に水を供給して、水素ガス発生部材20と接触させ、その表面から発生する水素ガスを水素ガス採集管12を通して外部に供給して、図示しない貯蔵タンクへ貯蔵する。図1に示すように、固定部材14は水素ガス発生部材20を固定するだけではなく、上下に移動できるようにすることで、水素ガス発生部材20と水との接触面積を調整する事によって水素発生量を制御することができる。また、固定部材14を複数設けても良いが、ここでは省略する。この水素ガス発生部材20を備える水素発生装置10によって、水素ガスを容易に製造することができる。
【0015】
次に、本発明の水素ガス発生部材を、さらに、具体的に説明する。
(実施例1)
水素ガス発生部材のAl−X−Y合金を圧延処理までの過程を説明する。
まず、Alとドーパント金属XとしてSnを同一坩堝中で高周波溶解炉にて溶解し、鋳型に鋳込むことにより合金化処理を施す。溶解方法は、電気炉による加熱等の公知の技術のいずれを用いてもよい。
鋳込んだAl合金を圧延により圧延処理を施す。潤滑材には灯油等の公知のものを用いることができる。また、熱間圧延もしくは冷間圧延いずれの技術を用いることも可能であるが、コストを考えると、冷間圧延による圧延処理が好ましい。
図2は、AlとSnとを含む水素ガス発生部材の断面を示すSEM写真である。AlとSnとを高周波溶解後に直径20mmの円柱鋳型に鋳込んだ。SEM写真では、白素地のマトリックスがSnで、黒い点がAlである。全体の組成分析をEPMAにより行った結果、Al30%、Sn70%であった。この試験片を切り出し、冷間圧延機で圧延を行った。圧延は容易に行うことができ、圧延率99.99%の水素ガス発生部材を得ることができた。
得られた試料の圧延面をXPS(X線光電子分光法)にて分析した。その結果、圧延した試料の極最表面には、Alの酸化物とSnの酸化物が共存していることが分かった。
薄膜の水素ガス発生部材0.0515gを15℃の水に浸漬した。浸漬後60秒ほどすると、激しく水素を発生した。
試験片の膨張に伴い、試験片内部からも水素の発生が進行している様子が観察された。最終的に水素発生が終了したときには、試験片の圧延時の形状をとどめていなかった。この時の水素発生量は、約6mLであり、理論的な水素発生量からすると約90%の効率であった。
この時の組成と水素ガスの発生の状況を表1に示す。水素ガス発生の評価は、目視で、激しく発生している場合は◎、実用上問題ない状態で十分発生している場合は○、発生していない又は発生していても実用上不十分な場合は×とした。
(実施例2ないし19)
実施例1と同様にして、X、Yのドーパント金属の種類と量とを変えて、実施例2ないし19のAl−X−Y合金を圧延処理した。その時の組成と水素ガスの発生の状況を表1に併せて示す。
【0016】
(比較例1)
純Alを高周波溶解後に直径20mmの円柱鋳型に鋳込んだ。この試験片を切り出し、冷間圧延機で圧延を行った。圧延率が99.99%の試験片を準備した。この試験片をXPSにて分析した。その結果、試料の極最表面には、Alの酸化物が確認された。また、同じ試験片を常温の水と接触させた。板材からは何も発生することがなかった。この結果を表1に示す。
(比較例2ないし34)
実施例1と同様にして、X、Yのドーパント金属の種類と量とを変えて、Sn、Bi,Inを添加した比較例2ないし4、及びFe、Zn、Ga、Ge、Hg、PbおよびSiを添加した合金、比較例5ないし11を圧延処理した。その時の組成と水素ガスの発生の状況を表1に併せて示す。Sn、Bi、Inの板材および他の合金からは何も発生することがなかった。この結果を表1に示す。
【0017】
実施例1および比較例1のXPSの結果より、水素発生の初期段階として、添加元素の酸化物が試料極最表面にあることが重要であることが分かった。Alの酸化物と添加元素の酸化物の界面に水が浸入し、内部にある純Alとの反応によって水素が発生する。
【0018】
このときに、Alに対する合金化の添加元素と圧延率、水素発生を調べた。その結果を、実施例1ないし34、比較例1ないし11と含めて下記表1に示す。
【表1】

表1から明らかなように、Alに対する添加元素として、Sn、Bi、Inの添加で水素ガスを発生させることができることがわかった。更に、圧延率が高いほど、水素の発生効率が高かった。
【0019】
(実施例35)
本発明の水素ガス発生部材のAl−X−Y合金の粉末処理までの過程を説明する。
まず、Al−X−Y合金を同一坩堝中で高周波溶解炉にて溶解し、ガスアトマイズ法等の粉末作製技術により粉末を作製する。溶解方法は、電気炉による加熱等の公知の技術のいずれを用いてもよい。
Al−X−Y合金を高周波溶解後にガスアトマイズ法により粉末を作製した。表2に作製した粉末の組成を示す。
図3は、AlとSn、Inを含む水素ガス発生部材の断面を示すSEM写真である。白素地のマトリックスがSn−In、黒い点がAlであり、全体の組成分析をEPMAにより行った結果、Al60%、Sn−In合金40%であった。
この粉末を5g取り出し、ステンレスメッシュに収納して60℃の温水と接触させた。浸漬後すぐに、激しく水素を発生しながら、水が変色していった。その時の、試験粉末の断面組織のSEM写真を図4に示す。表面から亀裂が入り、Alの内部に進展している。この際、Alの活性面が表出し、水との水酸化物形成の水和反応により水素が発生したと考えられる。その時の組成と水素ガスの発生の状況を表2に示す。
(実施例36ないし53)
実施例35と同様にして、X、Yのドーパント金属の種類と量とを変えて、実施例36ないし53のAl−X−Y合金を粉末化処理した。その時の組成と水素ガスの発生の状況を表2に併せて示す。
【0020】
(比較例12ないし18)
実施例35と同様にして、X、Yのドーパント金属の種類と量とを変えて、比較例12ないし18のAl−X−Y合金を粉末化処理した。その時の組成と水素ガスの発生の状況を表2に併せて示す。この粉末を5g取り出し、温水と接触させた。浸漬後変化が生じず、水素発生は見られなかった。
【0021】
このときに、Alに対する合金化の添加元素と粒径、水素発生を調べた。その結果を、実施例35ないし53、比較例12ないし18と含めて下記表2に示す。
【表2】

表2から明らかなように、Alに対する添加元素として、Sn、In、Biが良かった。更に、粒径が細かいほど、水素の発生効率が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明によって得られる、水素ガス発生部材及び水素ガス製造方法を用いて、携帯用電池や緊急用発電機を始めとする多くの用途が考えられる。また、水の仕組みを理解する理科教材としても、安全な材料である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】水素ガスを発生させる水素ガス発生装置の構成を示す概略図である。
【図2】AlとSnとを含む水素ガス発生部材の断面を示すSEM写真である。
【図3】AlとSn、Inを含む水素ガス発生部材の断面を示すSEM写真である。
【図4】AlとSn、Inを含む水素ガス発生部材の水素が発生した時の断面組織のSEM写真である。
【符号の説明】
【0024】
10 水素ガス発生装置
11 装置容器
12 水素ガス採集管
13 水供給管
14 固定部材
15 水
16 水排水管
20 水素ガス発生部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属マトリックス中に、Alを微細分散させた組織を有する水素ガス発生部材であって、
該水素ガス発生部材に水を接触させて、水素ガスを生成する
ことを特徴とする水素ガス発生部材。
【請求項2】
前記水素ガス発生部材が、液相状態で互いに組成の異なるAlと他の1つの液相に分離して液相の2相分離している
ことを特徴とする請求項1に記載の水素ガス発生部材。
【請求項3】
前記水素ガス発生部材は、Al−X合金で、
Xが、Sn、Bi、Inのうちから選ばれた少なくとも1種である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水素ガス発生部材。
【請求項4】
前記水素ガス発生部材は、Al−X合金で、
Xが、Sn:10.1〜99.5%(質量%:以下同じ)、Bi:30.1〜99.5%、In:10.1〜99.5%、Sn+Bi:20.1〜99.5%、Sn+In:10〜99.5%、Bi+In:20.1〜99.5%、Sn+Bi+In:20〜99.5%のうちから選ばれたものである
ことを特徴とする請求項3に記載の水素ガス発生部材。
【請求項5】
前記Al−X合金は、さらに、Yを含有し、
そのYとして、Pb:0.01〜20%、Zn:0.01〜30%、Si:0.01〜20%、Cd:0.01〜20%、Cu:0.01〜20%、Fe:0.01〜5%、Ga:0.01〜30%、Ge:0.01〜30%、Hg:0.01〜20%、Mg:0.01〜20%、Ni:0.01〜5%、S:0.01〜5%、Mn:0.01〜5%のうちから選ばれた少なくとも1種であり、複数の元素を含有する場合でも60%を越えない範囲であって、
XとYが、2X>Yの関係にある
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の水素ガス発生部材。
【請求項6】
前記水素ガス発生部材は、圧延加工されている
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の水素ガス発生部材。
【請求項7】
前記水素ガス発生部材は、粉末化されている
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の水素ガス発生部材。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の水素ガス発生部材であって、
該水素ガス発生部材に水を接触させて、水素ガスを生成する
ことを特徴とする水素ガス製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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