説明

水素供給用多層樹脂管

【課題】水素ガスを主成分とした気体又は液体を供給するために必要な、高い水素ガスバリア性を有し、管として十分な機械強度を具備し、かつ、汎用性の高い水素供給管を提供することにある。
【解決手段】ポリオレフィン層(a1:外層)/接着剤層(b)/ガスバリア層(c)/接着剤層(b)/ポリオレフィン層(a2:内層)からなる少なくとも5層を含む多層樹脂管であって、該多層樹脂管の水素透過量が4cc/m・day・atm以下であることを特徴とする水素供給用多層樹脂管。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスバリア性と成形体としての機械強度とを兼ね備えた水素供給用多層樹脂管に関する。
【背景技術】
【0002】
多層樹脂管は、軽量であり、しかも継ぎ目が少なくて溶接部での漏れの心配のないということから、フロアーヒーティングやセントラルヒーティングなどの温水や熱水の循環用パイプとして、金属管に代わり広く用いられている。例えば、架橋ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどのポリオレフィン管及びそれらとEVOH等のガスバリア性樹脂との積層管が使用されている。(特許文献1、特許文献2参照)
一方、エネルギー事情や環境問題を発端に水素ガスの利用が注目されている。水素ガスは、取扱い上の問題があるため、インフラ整備が必要でありその研究が広く行われている。水素ガス特有の爆発危険性の問題により、当初、金属管をメインに検討されてきたが、近年、金属層を有する多層ゴム管や水素供給のためのインフラ設備用に特殊な樹脂が開発されている。(特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6参照)しかしながら、これらの技術は、依然として金属層の腐食、管としての強度、樹脂の汎用性に問題を抱えており、より安全で使用条件を選ばない水素供給管が求められている。
【特許文献1】特開昭61−83035号公報
【特許文献2】特開平8−224836号公報
【特許文献3】特開2002−168377号公報
【特許文献4】特開2004−190738号公報
【特許文献5】特開2005−214287号公報
【特許文献6】特開2005−126652号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
現在知られている技術では達成されていない、水素ガス又は水素ガスを主成分とする気体を供給するために必要な、高い水素ガスバリア性を有し、管として十分な機械強度を具備し、かつ、使用条件を選ばない水素供給管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは鋭意検討した結果、驚くべきことに、特定の多層樹脂管が水素供給管として上記問題点を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0005】
すなわち、本発明は、
〔1〕 ポリオレフィン層(a1:外層)/接着剤層(b)/ガスバリア層(c)/接着剤層(b)/ポリオレフィン層(a2:内層)からなる少なくとも5層を含む多層樹脂管であって、該多層樹脂管の水素透過量が1000cc/m2・day・atm以下であることを特徴とする水素供給用多層樹脂管、
〔2〕 ガスバリア層(c)がEVOHであることを特徴とする〔1〕の水素供給用多層樹脂管、
〔3〕 ポリオレフィン層(a1)及び/又はポリオレフィン層(a2)が、架橋ポリエチレン、非架橋ポリエチレン又はポリブテンのいずれかであることを特徴とする〔1〕又は〔2〕の水素供給用多層樹脂管、
〔4〕 ポリオレフィン層(a1)が架橋ポリエチレン又はポリブテンであり、該ポリオレフィン層(a1)の外側にさらに非架橋ポリエチレンが積層されていることを特徴とする〔3〕の水素供給用多層樹脂管、
〔5〕 ポリオレフィン層(a2)が架橋ポリエチレン又はポリブテンであり、該ポリオレフィン層(a2)の内側にさらに非架橋ポリエチレンが積層されていることを特徴とする〔3〕の水素供給用多層樹脂管、
〔6〕 ガスバリア層(c)の膜厚を1としたときのポリオレフィン層(a1)及び(a2)の膜厚が1以上(ただし、a1/a2は1以上)、接着剤層(b)の膜厚が0.1〜1.0であることを特徴とする〔1〕の水素供給用多層樹脂管、及び、
〔7〕 〔1〕乃至〔6〕の樹脂管同士を、継手を用いて電気融着接合した水素供給用多層樹脂管構造体、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の水素供給用多層樹脂管は、極めて優れた水素ガスバリア性を有し、かつ、管としての機械強度及び汎用性にも優れており、水素ガス供給のインフラ部材として極めて有用である。また、樹脂管の最外層に非架橋ポリエチレンを使用すると電気融着接合が可能となり、ガス漏れの発生しやすい接合部からのガス漏れも防止することができ、特に有用である。さらに、一定の使用条件下において、耐磨耗性と地中埋設使用においては、土圧や地上からの荷重に耐え、土中の水分や硫化水素などの腐蝕性成分による機能劣化が無視できるくらい小さく、地上配置使用においては紫外線や水分、その他大気成分による機能劣化が無視できるくらい小さいため、耐久性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
<ポリオレフィン層>
本発明のポリオレフィン層は、管を形成しうるポリオレフィンであれば樹脂の種類は特に限定されないが、ポリブテン又は架橋ポリオレフィン、並びに非架橋ポリエチレンが好ましい。ポリブテンとしては、ポリブテン−1のホモポリマー、ブテン−1を主成分として他のオレフィンモノマーを少量成分としてその主鎖中に共重合させた重合体のうちの1種または2種以上を用いることができる。ブテン−1の共重合体で用いる他のモノマーとしてはエチレン、プロピレン等のオレフィン、ブタジエン等のジエン系オレフィン、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸無水物などを挙げることができる。また、本発明の目的を阻害しない範囲内で、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体エラストマーやポリイソブチレンゴムなどの熱可塑性エラストマーなどを混合しても良い。
【0008】
架橋ポリオレフィンとしては、水架橋ポリオレフィン、放射線架橋ポリオレフィン、過酸化物架橋ポリオレフィンが挙げられる。水架橋ポリオレフィンは、加水分解可能な有機基を持ったシリル基を有するビニルモノマーを、オレフィンと共重合したりまたはポリオレフィンにグラフト重合して得られる水架橋性ポリオレフィンをシラノール縮合触媒の存在下に水、熱水、水蒸気などを、使用して架橋して得られる。水架橋ポリオレフィンの製造に用いられる加水分解性可能な有機基を持つシリル基含有ビニルモノマーは特に限定されないが、例えば下記の一般式;
R−Si−(OR’)3
[式中、RはCH2=CH−またはCH=C(CH3)−COO−(CH2n−(n=1〜5の整数)、R’はメチル基、エチル基、CH3−O−CH2−CH2−などを示す]
で表されるビニルモノマーなどをあげることができる。ベースとなるポリオレフィンは特に限定されないが、ポリエチレンが最も好ましい。水架橋ポリオレフィンの架橋度は、55%以上であることが好ましい。また、本発明の目的を阻害しない範囲内で未変性のポリオレフィンを配合してもよく、その場合にも最終的な架橋度が55%以上になるようにすることが望ましい。
【0009】
放射線架橋ポリオレフィンとしては、ポリエチレン;ポリプロピレン;エチレンおよび/またはプロピレンを主成分として、これにブテンなどの他のオレフィン類、ジオレフィン、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸無水物の1種または2種以上を共重合した共重合体;並びにエチレンおよび/またはプロピレンからなる幹重合体にブテンなどの他のオレフィン類、ジオレフィン、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸無水物の1種または2種以上をグラフト重合したグラフト共重合体の1種または2種以上からなるポリオレフィン、或いはこれらのポリオレフィンに必要に応じて他の熱可塑性重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレンエラストマー、ポリイソブチレンゴムなどの熱可塑性エラストマーを本発明の目的が阻害されない範囲内の量で配合したものを、放射線で架橋したポリオレフィンが好ましく用いられる。その場合の放射線としては、γ線、β線、電子線、X線などの電離性放射線を使用するのが好ましく、放射線の線量は約5〜20Mrad程度とするのがよい。
【0010】
過酸化物架橋ポリオレフィンは、過酸化物特に有機過酸化物を用いて、重合槽または押出機によりポリオレフィンと反応させることにより得ることができる。過酸化物の具体的な例としては、ケトンパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、アルキルパーエステルなどがあげられる。
【0011】
ポリブテン及び架橋ポリオレフィンは、外層(a1)及び/又は内層(a2)に適用される。なお、外層(a1)又は内層(a2)のどちらか一方に非架橋ポリエチレンが適用される場合には、他方の層に適用される。
【0012】
また、ポリオレフィン層として非架橋ポリエチレンを使用することは、本発明の多層樹脂管を電気融着させる場合には、必須である。主管の場合には外層(a1)に、継手の場合には内層(a2)に採用される。使用されるポリエチレンとしては、190℃、2.16kg荷重下におけるMFRが0.01〜10g/10min、密度が0.910〜0.980のものであることが好ましい。なお、主管として用い、かつ、外層(a1)にポリブテン又は架橋ポリエチレンが採用されている場合において、電気融着接合を可能にするために外層のさらに外側に非架橋ポリエチレン層を設けても良い。
【0013】
ポリオレフィン層には本発明の効果を損なわない程度に、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、フィラ−などの添加剤を含有してもよい。例えば、酸化防止剤としては、2,5−t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾ−ル、4,4´−チオビス−(6−t−ブチルフェノ−ル)、2,2´−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノ−ル)、オクタデシル−3−(3´,5´−ジ−t−ブチル−4´−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト、4,4´−チオビス−(6−t−ブチルフェノ−ル)等;紫外線吸収剤としては、エチレン2−シアノ−3,3´−ジフェニルアクリレレ−ト、2−(2´−ヒドロキシ−5´−メチルフェニル)ベンゾトリゾ−ル、2−(2´ヒドロキシ−3´−t−ブチル−5´−メチルフェニル)5−クロロベンゾトリアゾ−ル、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2´−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オキトシキベンゾフェノン等;帯電防止剤としては、ペンタエリスリットモノステアレ−ト、ソルビタンモノパルミテ−ト、硫酸化ポリオレフィン類、ポリエチレンオキシド、カ−ボワックス等;滑剤としては、エチレンビスステアロアミド、ブチルステアレ−ト等;着色剤としては、カ−ボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、ベンガラ等;フィラ−としては、グラスファイバ−、カーボンファイバー、バラストナイト、ケイ酸カルシウム等が挙げられる。紫外線は、樹脂管の寿命や供給する水素含有流体の品質に影響するため、外層(a1)に使用するポリオレフィン層に紫外線吸収剤又は紫外線遮蔽性の高い無機フィラーを添加することは特に有為である。
【0014】
<接着剤層(b)>
本発明の接着剤層(b)としては、ポリオレフィン層(a)とガスバリア層(c)を強固に接着できる接着剤であれば特に限定されないが、不飽和カルボン酸またはその誘導体でグラフト変性されたポリオレフィンを用いることが好ましい。被変性ポリオレフィンとしては特に限定されないが、ポリエチレン、エチレン・αオレフィン共重合体(αオレフィン:炭素数3〜12)、ポリプロピレンが好ましい。グラフトモノマーとしては、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体を好ましく用いることができる。グラフトモノマーとして用いられる不飽和カルボン酸および/またはその誘導体としては、カルボン酸基を1以上有する不飽和化合物、カルボン酸基を有する化合物とアルキルアルコールとのエステル、無水カルボン酸基を1以上有する不飽和化合物等を挙げることができ、不飽和基としては、ビニル基、ビニレン基、不飽和環状炭化水素基などを挙げることができる。具体的な化合物としては、例えばアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ナジック酸〔商標〕(エンドシス-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸)等の不飽和カルボン酸;またはその誘導体、例えば酸ハライド、アミド、イミド、無水物、エステル等が挙げられる。かかる誘導体の具体例としては、例えば塩化マレニル、マレイミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、トリメリット酸、グリシジルマレエート等が挙げられる。これらの不飽和カルボン酸および/またはその誘導体は、1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。これらの中では、不飽和ジカルボン酸またはその酸無水物が好適であり、特にマレイン酸、ナジック酸またはこれらの酸無水物が好ましく用いられる。これらは、さらに、接着力向上のための化合物(例えば、カルボジイミド等)をグラフトさせたものであっても良い。
【0015】
不飽和カルボン酸および/またはその誘導体の被変性ポリオレフィン100重量%に対する含有量は、通常0.001〜5重量%であり、好ましくは0.01〜3重量%である。不飽和カルボン酸および/またはその誘導体の含有量が上記範囲にあることにより、本発明のポリオレフィン組成物は、ポリエステルまたはエチレン・ビニルアルコール共重合体等に対して高い接着強度を示す。不飽和カルボン酸および/またはその誘導体の含有量の制御は、例えば、グラフト条件を適宜に選択することにより、容易に行うことができる。
【0016】
不飽和カルボン酸および/またはその誘導体から選ばれるグラフトモノマーをグラフトさせる方法については特に限定されず、溶液法、溶融混練法等、従来公知のグラフト重合法を採用することができる。例えばポリマーを溶融し、そこへグラフトモノマーを添加してグラフト反応させる方法、あるいはポリマーを溶媒に溶解して溶液となし、そこへグラフトモノマーを添加してグラフト反応させる方法等がある。
【0017】
本発明の接着剤層(b)には、該グラフト変性物の有する特性を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂、エラストマー等を配合することができる。それらの配合は、グラフト変性段階でも変性後の混合であってもよい。
【0018】
さらに、本発明の接着層(b)には、グラフト変性物の有する特性を損なわない範囲で、公知のプロセス安定剤、耐熱安定剤、耐熱老化剤、フィラー等を添加することも可能である。特に、粘着性を付与する目的でいわゆる粘着付与剤を配合することが好ましい。粘着性を付与する物質としては、例えば、ロジン誘導体、テルペン樹脂、石油樹脂、およびそれらの水素化物を挙げることができ、これらの中では、水素化テルペン樹脂、水素化石油樹脂が好ましい。粘着付与剤は、グラフト変性物を70〜95重量%、粘着付与剤を5〜30重量%の割合で配合することが好ましい。
【0019】
本発明の接着剤層(b)を構成する接着剤の190℃、2.16kg荷重下でのMFRは0.5〜10g/10min、密度は0.880〜0.940、M値は0.01〜5であることが好ましい。
【0020】
<ガスバリア層(c)>
本発明におけるガスバリア層(c)は、水素ガスの遮蔽性に優れた樹脂であれば特に限定されない。例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリエステル等、及びそれらの変性体などが挙げられる。これらは単独でも2種以上混合したポリマーアロイでも良い。特に好ましい樹脂としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体鹸化物(以下EVOHと略記する)が挙げられる。EVOHのエチレン含量は20〜70モル%が好ましく、さらに好適には22〜65モル%であり、またビニルエステル成分の鹸化度は90%以上が好ましく、さらに好適には95%以上である。ビニルエステルとしては酢酸ビニルが代表的なものとしてあげられるが、その他の脂肪酸ビニルエステル(プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなど)も使用できる。
【0021】
また、EVOHに共重合成分としてビニルシラン化合物0.0002〜0.2モル%を含有させると、均質な共押出成形体の製造が可能なだけでなく、EVOH同士をブレンドしたときの分散性が改善され有用である。ビニルシラン系化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、γ−メタクリルオキシプロピルメトキシシランが挙げられる。なかでも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好適に用いられる。さらに、本発明の目的が阻害されない範囲で、他の共単量体[例えば、プロピレン、ブチレン、不飽和カルボン酸又はそのエステル{(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルメチル、エチル}など]、ビニルピロリドン(N−ビニルピロリドンなど)をブレンドすることもできる。
【0022】
また、EVOHには、更に少量のプロピレン、イソブテン、4−メチルペンテン−1、ヘキセン、オクテン等のα−オレフィン、イタコン酸、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸、その塩、その部分または完全エステル、そのニトリル、そのアミド、その無水物、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン系化合物、不飽和スルホン酸、その塩、アルキルチオール類、N−ビニルピロリドン等の共重合成分を含んでいてもよい。
【0023】
ガスバリア層(c)として用いるEVOHの190℃、2.16kg荷重下のMFRは好ましくは0.1〜50g/10min、最も好ましくは0.5〜20g/10minである。
【0024】
また、ガスバリア層に用いるEVOHはエチレン含有量の異なる2種類以上のEVOHの混合物であってもよく、重合度や化度の異なる2種類以上のEVOHの混合物であってもよい。さらに、エチレン含有量と重合度や鹸化度が共に異なっていてもよい。
【0025】
ガスバリア層(c)にEVOHを用いる場合は、本発明を阻害しない範囲で、酸化防止剤、色剤、有機系紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、可塑剤、硼酸等の架橋剤、フィラ−、無機乾燥剤等の各種添加剤、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、等の各種樹脂を配合してもよい。特に紫外線は、樹脂管の寿命や供給する水素含有流体の品質に影響するため、紫外線吸収剤又は紫外線遮蔽性の高い無機フィラーの添加は望ましい。
【0026】
また、ガスバリア層(c)は、多層体であっても良い。該多層体は、表面が硼酸やホルマリンを初めとする各種アルデヒドで架橋処理されていても良い。さらに表面にアルミニウム、酸化アルミニウム、酸化珪素等の金属および金属酸化物が蒸着されていてもよい。
【0027】
<多層樹脂管>
本発明の多層樹脂管の層構造としては、ポリオレフィン層(a1:外層)/接着剤層(b)/ガスバリア層(c)/接着剤層(b)/ポリオレフィン層(a2:内層)の少なくとも5層を含む多層樹脂管である。好ましい5層構成としては、架橋ポリオレフィン又はポリブテン層/グラフト変性ポリオレフィン層/EVOH層/グラフト変性ポリオレフィン層/架橋ポリオレフィン又はポリブテン層であり、より好ましくは水架橋ポリオレフィン層/グラフト変性ポリエチレン層/EVOH層/グラフト変性ポリエチレン層/水架橋ポリエチレン層、さらに好ましくは、水架橋ポリエチレン層/無水マレイン酸変性ポリエチレン層/EVOH層/無水マレイン酸変性ポリエチレン層/水架橋ポリエチレン層である。
【0028】
本発明の多層樹脂管を電気融着により接合する場合には、ポリオレフィン層として非架橋ポリエチレンを適用することを必須とし、主管の場合、非架橋ポリエチレン層/無水マレイン酸変性ポリエチレン層/EVOH層/無水マレイン酸変性ポリエチレン層/水架橋ポリエチレン層が最も好ましい5層構成である。また、ポリオレフィン層が架橋ポリオレフィン又はポリブテンである場合には、さらにその外側(又は内側)に非架橋ポリエチレンを採用することにより電気融着接合が可能となる。
【0029】
また、必要に応じて、上記のような多層樹脂管において、その最外層を構成する樹脂層にさらに表面保護層を設けても良い。表面保護層の素材としては、ポリエステル、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアミドなどの耐久性のある重合体が好ましい。それらは、接着剤を用いて積層されていてもよい。形状は、フィルム状、織布状、編布状、不職布状等いずれの形状でもよく、さらに他の樹脂が含浸された状態であっても良い。表面保護層の厚みは、特に限定されないが、10〜100μ程度が好ましい。
【0030】
本発明の多層樹脂管の製造方法としては、特に限定されず、任意の方法を採用することができる。例えば、内層パイプを溶融押出成形し、その外側表面に次の層を溶融押出被覆し、というように逐次的に成形していく方法(なお、架橋ポリオレフィンを含む層の場合、押出後に随時架橋処理を施す。)、共押出法(なお、架橋ポリオレフィンを含む層がある場合、共押出後に架橋処理を施す。架橋法の異なる架橋ポリオレフィンを含む場合は、逐次的に架橋処理を施す。)などが挙げられる。特に、共押出法は、経済的かつ簡便であり好適である。
【0031】
本発明において多層樹脂管の水素透過量は、以下のように測定される。
バルブCから窒素を装入しバルブDから排気することによりチャンバー内を窒素で置換する。バルブBから水素を装入し、パイプ内を水素置換する。バルブAを閉めた後、バルブCから水を注入し、チャンバー内の気体をバルブDを通してガスクロへサンプリングする。(図1参照)
本発明の多層樹脂管の水素透過量は、通常大気と接し自然混合しても引火しない濃度であることが望ましい、具体的には、1000cc/m2・day・atm以下、好ましくは500cc/m2・day・atm以下、さらに好ましくは、200cc/m2・day・atm以下である。
【0032】
本発明の多層樹脂管を水素供給用に使用する場合、取扱うガスの危険性を鑑みると、管としての強度は重要である。必要な機械物性は、引張降伏応力としては、10MPa以上、好ましくは15MPa以上、引張破断点応力としては、20MPa以上、引張破断点伸び率としては、300%以上、好ましくは400%以上である。
【0033】
本発明の多層樹脂管の外径、内径、肉厚は、各層を構成する樹脂及び適用場面に応じて適宜選択することができ特に制限されないが、外径は、例えば10〜100mm程度であり、内径は、例えば5〜95mm程度である。肉厚は、例えば5〜20mm程度である。基本となる5層については、ガスバリア層(c)の膜厚を1としたときのポリオレフィン層(a1)及び(a2)の膜厚は1以上で、かつ、a1/a2が1以上であることが好ましい。内層は、管内ガス中の不純物(例えば、水等)のバリア性等、外層は、外部からの衝撃に対する強度保持等というように各層の主たる目的が相違するため、このような膜厚比率にすることが望ましい。また、a1/a2が1以上にすると、使用する樹脂を最低限にし、かつ、管の肉厚を稼げるため、効率的に強度設計が可能であり好ましい。その場合、a1としては、例えば、1〜1000が好ましく、より好ましくは1〜800、さらに好ましくは1〜500である。一方、a2としては、好ましくは1〜100、より好ましくは1〜50、さらに好ましくは1〜30である。接着剤層(b)の膜厚は、好ましくは0.1〜1.0、より好ましくは0.3〜0.8である。ガスバリア層(c)の膜厚(絶対値)は、管径及び使用する樹脂により異なるが、例えば、EVOHを用いる場合には、1〜500μm、好ましくは10〜300μmである。ただし、これらの数値は、全て前記水素透過量及び機械物性を満たすように調整される必要がある。
【0034】
本発明の多層樹脂管は、内部が中空であればいかなる形状でも良く、単なる円筒状の直管、L字管、T字管等の多岐管、等が挙げられる。また、長さに特に限定はなく、接合用の継手も本発明の多層樹脂管に含まれる。
【0035】
<多層樹脂管構造体>
本発明の多層樹脂管のうち電気融着接合可能なものは、従来公知の方法によって、継手を介した構造体とすることができる。本発明の多層樹脂管を用いた構造体は、それ自体の水素ガスバリア性に加え、機械締め等と比較してガス漏れの発生しやすい接続部からのガス漏れも合わせて軽減することができ、極めて有用である。
【0036】
電気融着接合のために使用される継手は、従来公知の非架橋ポリエチレン単層のもの、又は内層が非架橋ポリエチレンで外層が架橋ポリエチレンである2層のものを用いても良いし、主管とは対称の層構成の多層継手を用いても良い。電気融着は、公知の方法により行うことができる。
【0037】
電気融着接合された多層樹脂管構造体の水素透過量は、継手を1つ含む構造体1mあたり、1000cc/m2・day・atm以下、好ましくは500cc/m2・day・atm以下、さらに好ましくは200cc/m2・day・atm以下である。
【実施例】
【0038】
以下に実施例などにより本発明を具体的に説明するが本発明はそれにより限定されない。
【0039】
<使用樹脂>
ポリエチレンA:シラン架橋ポリエチレン
MFR(190℃、2.16kg荷重):0.2g/10min
密度:0.939
ポリエチレンB:中密度ポリエチレン(非架橋)
MFR(190℃、2.16kg荷重):0.2g/10min
密度:0.939
接着剤 :無水マレイン酸変性ポリエチレン
MFR(190℃、2.16kg荷重):1.8g/10min
密度:0.916
EVOH :MFR(190℃、2.16kg荷重):1.6g/10min
密度:1.19
エチレン含有量:32%
【0040】
<物性測定方法>
[水素透過量]
バルブCから窒素を装入しバルブDから排気することによりチャンバー内を窒素で置換する。バルブBから水素を装入し、パイプ内を水素置換する。バルブAを閉めた後、バルブCから水を注入し、チャンバー内の気体をバルブDを通してガスクロへサンプリングする。(図1参照)
[引張降伏応力]
[引張破断点応力]
[引張破断点伸び率]
JIS K 6769に準じて測定した。
【0041】
[実施例1]
最外層及び最内層がポリエチレンA、第2層及び第4層が接着剤、第3層がEVOHとなるように3種5層共押出した後、架橋処理をして5層樹脂管を作成した。外径13mm、内径9.8mm、各層膜厚は、750/50/100/50/550(μm)とした。得られた5層樹脂管の各特性は以下のとおりであった。
水素透過量 :63.9cc/m2・day・atm
引張降伏応力 :15.3MPa
引張破断点応力:23.1MPa
引張破断点伸び:410%
【0042】
[実施例2]
最外層にポリエチレンBを使用する以外は、実施例1と同様にして5層樹脂官を作成した。該5層樹脂管どうしを非架橋ポリエチレン単層の継手を用いて電気融着式ソケットにて融着接合した。該融着接合された樹脂管の水素透過量を測定した結果、88.9cc/m2・day・atmであった。
【0043】
[比較例1]
ポリエチレンAを用いて単層の樹脂管を押出成形した。管の外径、内径、厚みは実施例1と合わせた。該パイプの水素透過量は、1730cc/m2・day・atmであった。
【0044】
[比較例2]
実施例1で得られた樹脂管を使用し、既存のメカ継手で管接合した。該接合管の水素透過量を測定したが、漏れにより測定不能であった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の多層樹脂管及び多層樹脂管構造体は、施工性および耐久性に優れ、しかも水素ガスバリア性及び管としての機械物性に優れているので、水素供給に関するインフラ用のパイプとして特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の多層樹脂管及び多層樹脂管構造体の水素透過量を測定する装置の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン層(a1:外層)/接着剤層(b)/ガスバリア層(c)/接着剤層(b)/ポリオレフィン層(a2:内層)からなる少なくとも5層を含む多層樹脂管であって、該多層樹脂管の水素透過量が1000cc/m2・day・atm以下であることを特徴とする水素供給用多層樹脂管。
【請求項2】
ガスバリア層(c)がEVOHであることを特徴とする請求項1に記載の水素供給用多層樹脂管。
【請求項3】
ポリオレフィン層(a1)及び/又はポリオレフィン層(a2)が、架橋ポリエチレン、非架橋ポリエチレン又はポリブテンのいずれかであることを特徴とする請求項1又は2に記載の水素供給用多層樹脂管。
【請求項4】
ポリオレフィン層(a1)が架橋ポリエチレン又はポリブテンであり、該ポリオレフィン層(a1)の外側にさらに非架橋ポリエチレンが積層されていることを特徴とする請求項3に記載の水素供給用多層樹脂管。
【請求項5】
ポリオレフィン層(a2)が架橋ポリエチレン又はポリブテンであり、該ポリオレフィン層(a2)の内側にさらに非架橋ポリエチレンが積層されていることを特徴とする請求項3に記載の水素供給用多層樹脂管。
【請求項6】
ガスバリア層(c)の膜厚を1としたときのポリオレフィン層(a1)及び(a2)の膜厚が1以上(ただし、a1/a2は1以上)、接着剤層(b)の膜厚が0.1〜1.0であることを特徴とする請求項1に記載の水素供給用多層樹脂管。
【請求項7】
請求項1乃至7に記載の樹脂管同士を継手を用いて電気融着接合した水素供給用多層樹脂管構造体。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−283582(P2007−283582A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−111927(P2006−111927)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【出願人】(000167794)広島ガス株式会社 (15)
【Fターム(参考)】