水素処理触媒およびそれらの製造
水素処理触媒の製造方法において、元素周期律表の第6族から選択される少なくとも一種の第一の金属の酸化物を含む粒子状金属酸化物組成物を、元素周期律表の第8〜10族から選択される少なくとも一種の第二の金属の硫化物の粒子と混合して、粒子状触媒前駆体を製造することができる。粒子状触媒前駆体は、次いで、粒子状触媒前駆体を、第二の金属の硫化物と関連する欠陥部位を有する層状金属硫化物に、少なくとも一部分を転化するために十分な条件下で硫化することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素処理触媒およびそれらの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
水素処理触媒は、通常、一種以上の硫化第6族金属を、一種以上の第8〜10族金属助触媒と組合せて担体(アルミナなど)上に含む。バルク非担持触媒もまた、知られる。水素化脱硫ならびに水素化脱窒素に特に適切である水素処理触媒は、一般に、モリブデンおよび/またはタングステンの硫化物を含み、これらは、コバルト、ニッケル、鉄、またはその組合せなどの金属で促進される。これらの硫化触媒は、一般に、層状または小板組織を有する。
【0003】
水素処理触媒に対する最近の研究は、より低レベルの硫黄および窒素を有する留出油燃料を製造するという必要性によって推し進められつつある。これは、環境規制によって義務付けられ、一方同時に、より多量のこれらのヘテロ原子を有する原油を処理するという製油所の必要性を満たすものである。実質的な必要性は、したがって、特に、既存の水素処理設備がそれらの圧力能力に限界がある場合に、より効率的な脱硫および脱窒素を行なうことができる触媒を見出すことにある。
【0004】
水素処理触媒のナノ構造組織を修飾する能力は、それらの活性および選択性を制御することができる方法を提供する。したがって、特許文献1においては、炭素原子少なくとも10個の骨格を有する界面活性剤アミンを含むバルク二元金属Ni(またはCo)/Mo(またはW)相を硫化することにより、MoS2(またはWS2)のスタック層を含む触媒が与えられ、これは、炭素を含まないバルク酸化物を硫化することによって得られるものに比較して、低減されたスタック高さを有したことが示された。類似の結果は、特許文献2に、バルク三元Ni−Mo−W触媒について報告された。より低いスタック高さは、重要である。何故なら、それらは、より小さな結晶のMo/W硫化物が存在することを意味し、これは、次に、触媒として利用可能なより大きな表面積をもたらすからである。
【0005】
触媒活性を制御するための他の可能性のある経路は、触媒の結晶構造中の格子欠陥の生成であり、何故なら、格子欠陥は、活性および/または選択性の増大と関連する特定部位をもたらすことができるからである。非特許文献1を参照されたい。
【0006】
本発明者らによる最近の研究は、エクスシチュー(ex-situ)透過電子顕微鏡法(TEM)ベースの時間−温度−転化の硫化実験を用いて、砕屑NixS粒子が、モリブデンおよびタングステン酸化物を硫化する際に、MoS2/WS2の前に発現することを示している。従来のTEM(CTEM)画像法は、エネルギー分散分光法(EDS)およびTEM断層撮影法(TEMT)による元素分析との組合せで、MoS2/WS2粒子が、比較的真っすぐな層状構造として、砕屑(detrital)NiXS粒子が全く検知されない領域で成長することを表す。したがって、MoS2/WS2のこれらの比較的真っすぐな層は、あるとしても、最小の格子欠陥が形成することを必要とする。しかし、硫化中には、砕屑NixS粒子の表面における水素の溢出が、湾曲組織を有する層状MoS2/WS2構造の核形成および成長をもたらす。CTEM、EDS、およびTEMTのデータは、MoS2/WS2粒子の湾曲は、砕屑NixS粒子の核形成表面のそれに一致することを示す。したがって、これらのMoS2/WS2構造は、格子欠陥を発現して、それらの成長が、砕屑NixS粒子の表面回りに受入れられる。格子欠陥は、活性および/または選択性の増大と関連する特定部位をもたらすことができることから、欠陥部位およびそれらの部位密度を制御する能力は、重要である。
【0007】
したがって、本発明にしたがって、Mo(W)酸化物前駆体物質を、サイズおよび形状が制御されたNixS粒子と共に「播種する(seeding)」ことによって、NixS種は、その後の硫化の際に製造されるMoS2/WS2粒子の湾曲を、それ故MoS2/WS2の欠陥部位および欠陥部位の密度を制御することができることが見出された。類似のMoS2/WS2の組織制御は、CoXS粒子と共に播種されるか、またはMo(W)より低い温度で硫化する他の第8〜10族金属を含む系で、達成することができる。本発明の「播種する」という事象は、種々のゼオライト物質の構造を指向するのに用いられる種々の有機物質によって示される、テンプレート機能に類似すると思われる。しかし、無機相を他の無機相のためのテンプレート剤(templating agent)として用いるという概念は、決して、以前には文献に示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7,591,942号明細書
【特許文献2】米国特許第7,544,632号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Kaszstelan S.A.著「Descriptive Model of Surface Sites on MoS2(WS2)Particles」(Langmuir、第6巻、第590〜595頁、1990年)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の態様は、水素処理触媒の製造方法に関する。本方法は、(a)元素周期律表の第6族から選択される少なくとも一種の第一の金属の酸化物を含む粒子状(又は微粒子)金属酸化物組成物を、元素周期律表の第8〜10族から選択される少なくとも一種の第二の金属の硫化物の粒子(又は微粒子)と混合して、粒子状触媒前駆体を製造する工程、および(b)粒子状触媒前駆体の成分を第二の金属の硫化物と関連する欠陥部位を有する層状金属硫化物に、少なくとも部分的に転化するために十分な条件下で、粒子状触媒前駆体を硫化する工程を含む。
【0011】
本発明の第二の態様は、本発明の第一の態様に基づいて製造される水素処理触媒に関する。
【0012】
本発明の第三の態様は、本発明の第二の態様による水素処理触媒の存在下に、炭化水素供給原料を水素処理するために十分な条件下で、炭化水素供給原料を水素と接触させる工程を含む。
【0013】
本発明の第四の態様は、炭化水素含有供給原料を水素処理する方法に関する。本方法は、(a)本発明の第一の態様に基づいて、水素処理触媒を製造する工程、(b)水素処理触媒の存在下に、炭化水素供給原料を水素処理するために十分な条件下で、炭化水素含有供給原料を水素と接触させる工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1(a)および図1(b)は、実施例1の完全硫化金属酸化物触媒の明視野透過型電子顕微鏡写真(TEM)である。
【図2】図2は、実施例1の完全硫化金属酸化物触媒について、MoS2/WS2粒子の平均スタック高さを示す棒グラフである。
【図3】図3(a)、(b)、および(c)は、第一の硫化の種々の段階における、実施例2の金属酸化物触媒の明視野TEMである。実験
【図4】図4(a)、(b)、および(c)は、第二の硫化実験の最後における、実施例2の金属酸化物触媒の種々の領域の明視野TEMである。
【図5】図5(a)、(b)、および(c)は、第三の硫化実験の種々の段階における、実施例2の金属酸化物触媒の明視野TEMである。
【図6】図6は、実施例3の完全硫化金属酸化物触媒の種々の領域における明視野TEMである。
【図7】図7は、実施例3の完全硫化金属酸化物触媒の種々の領域における明視野TEMである。
【図8】図8は、実施例3の完全硫化金属酸化物触媒の種々の領域における明視野TEMである。
【図9】図9(a)、(b)、および(c)は、実施例3の金属酸化物触媒のさらなる明視野TEM画像であり、それぞれ、Mo酸化物粒子の新規結晶格子構造;約10%のH2S中約350℃約1時間後のMo酸化物粒子の外側表面における、酸化物から硫化物への転化;および引続く、約10%のH2S中約400℃約1時間後のMo酸化物粒子の酸化物から硫化物への転化を示す。
【図10】図10(a)、(b)、および(c)は、実施例3の金属酸化物触媒について、さらにさらなる明視野TEM画像であり、それぞれ、W酸化物粒子の新規結晶格子構造;約10%のH2S中約350℃約1時間後のW酸化物粒子の外側表面における、酸化物から硫化物への転化;および引続く、約10%のH2S中約450℃約2時間後のW酸化物粒子における、酸化物から硫化物への転化を示す。
【図11】図11は、実施例4の完全硫化金属酸化物触媒の明視野TEMである。
【図12】図12は、実施例4の完全硫化金属酸化物触媒の明視野TEMである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書には、水素処理触媒の製造を開示する。その際、元素周期律表の第6族から選択される少なくとも一種の第一の金属の酸化物、および任意に第8〜10族からの一種以上のさらなる金属の酸化物を含む粒子状金属酸化物組成物を、元素周期律表の第8〜10族から選択される少なくとも一種の第二の金属の硫化物の粒子と混合して、粒子状触媒前駆体を製造することができる。次いで、前駆体が、第二の金属硫化物と関連する欠陥部位を有する層状金属硫化物へ、少なくとも部分的に転化するために十分な条件下で、前駆体を硫化することができる。理論に束縛されることなく、欠陥部位は、第二の金属硫化物粒子の不在下に製造される比較的平坦な層状構造に加えて、湾曲した金属硫化物粒子の製造と関連すると思われる。
【0016】
本明細書に用いられるように、元素周期律表の族の番号付け方式(「新表記法」)は、「Chemical and Engineering News」(第63巻、第5号、第27頁、1985年)に開示されるものである。
【0017】
本方法で用いられる粒子状金属酸化物組成物は、第6族からの少なくとも一種の第一の金属(特にモリブデンおよび/またはタングステン)の酸化物含む。加えて、金属酸化物組成物はまた、有利には、第8〜10族から選択される少なくとも一種のさらなる金属(コバルトおよび/またはニッケルなど)の酸化物を含むことができる。それにも係わらず、粒子状金属酸化物組成物中にいかなる第8〜10族金属の酸化物も含まなくても、粒子状触媒前駆体および最終硫化触媒はいずれも、依然としておよび必然的に、第二の金属の硫化物粒子を添加することによって、少なくとも一種の第8〜10族金属を含むであろうことが、理解されるべきである。一実施形態においては、粒子状金属酸化物組成物は、第6族金属の酸化物少なくとも約45wt%、例えば少なくとも約50wt%、または少なくとも約55wt%を含むことができる。この実施形態においては、粒子状金属酸化物組成物は、第8〜10族金属の酸化物約50wt%以下、例えば約45wt%以下を含むことができる。加えてまたは別に、粒子状金属酸化物組成物は、第6族金属の酸化物約45wt%〜約70wt%、例えば約50wt%〜約65wt%、または約55wt%〜約60wt%、および/または第8〜10族金属の酸化物約25wt%〜約50wt%、例えば約30wt%〜約45wt%を含むことができる。
【0018】
本方法で有用な粒子状金属酸化物組成物は、好都合には、以下によって製造することができる。すなわち、第6族金属の酸化物の一種以上の素材源(又はソース)、および任意に第8〜10族金属の酸化物の一種以上の素材源を含む反応混合物を、プロトン性液体中に形成し、反応混合物を、実質的水熱条件下に加熱して、粒子状金属酸化物組成物が形成されることによる。いかなるプロトン性溶剤も、反応混合物中で用いることができる。典型的な例には、水、カルボン酸、アルコール(メタノール、エタノール、およびその混合物など)、およびその類似物、ならびにその組合せまたは反応生成物が含まれるが、これらに限定されない。一般に、プロトン性液体は、水、例えばアルコールおよび水の混合物を含んでもよく、または好ましくは水であってもよい。金属酸化物の素材源は、プロトン性液体に溶解されてもよいか、または単に緩やかに可溶性であってもよく、そのために第一の(および任意に、第二の)金属酸化物の素材源は、水熱反応中に、少なくとも一部分が固体状態のままであってもよい。
【0019】
本明細書において、実質的水熱反応とは、反応混合物を、反応混合物中に用いられるプロトン性液体の大気沸点超の温度へ加熱することを指す。典型的には、これは、密閉反応器槽内で、好ましくは自動的に生ずる圧力下に、または外部圧力を加えることなく達成することができる。合成条件については、自動的に生ずる圧力は、一般に、大気圧超、すなわち1bara(100kPaa超)であってもよい。プロトン性液体が水なら、反応は、一般に、オートクレーブ中、温度約105℃〜約180℃、例えば約110℃〜約170℃、約120℃〜約160℃、または約140℃〜約160℃で行うことができる。反応は、生成物のX線回折パターンが、明白に識別可能な未反応出発化合物の反射を示さない場合に、実質的に完了したと考えられることができ、これは、典型的には、少なくとも約2時間、例えば少なくとも約4時間、少なくとも約6時間、または少なくとも約8時間の反応時間を超えて生じることができる。加えてまたは別に、粒子状金属酸化物組成物を製造するために適切な水熱プロセスを取巻く詳細を、米国特許出願公開第2007/0090023号明細書に見出すことができ、その全内容は、引用することによって、本明細書に組み込まれる。
【0020】
所望の水素処理触媒を製造するために、粒子状金属酸化物組成物を、元素周期律表の第8〜10族から選択される少なくとも一種の第二の金属の硫化物の粒子と混合して、粒子状触媒前駆体を製造することができる。好ましい実施形態においては、第二の金属の硫化物は、ニッケル硫化物および/またはコバルト硫化物から選択することができる。加えてまたは別に、第二の金属の硫化物は、粒子状触媒前駆体中に、前駆体組成物の全重量を基準として、約15wt%〜約35wt%、例えば約20wt%〜約25wt%の量で存在することができる。得られる前駆体組成物は、次いで、粒子状触媒前駆体の成分を、層状金属硫化物に、少なくとも一部分を転化するのに、および一般には実質的に完全に転化するのに十分な条件下に硫化することができる。適切な硫化条件は、以下に限定されないが、粒子状触媒前駆体を、硫化水素を含む雰囲気中で、温度約350℃〜約425℃、例えば約375℃〜約400℃で、硫化時間約1時間〜約6時間、例えば約2時間〜約4時間加熱することを含むことができる。一実施形態においては、硫化水素含有雰囲気は、水素および硫化水素の混合物であることができ、約5vol%〜約20vol%のH2S、例えば約10vol%〜約15vol%のH2Sを含む。これらの条件下に、前駆体の金属酸化物成分が硫化を経るにしたがって、硫化物の結晶が、第二の金属の硫化物粒子の周りに、形成および成長することができる。これは、無機テンプレートとして機能することができ、透過型電子顕微鏡法(TEM)によって認識できる欠陥部位を、湾曲した結晶領域としてもたらす傾向がある。
【0021】
得られる硫化触媒組成物が、水素処理プロセスにおいて広く用いられ、種々の炭化水素原料を、広範囲の反応条件下で処理することができる。これらの条件の一例には、温度約200℃〜450℃、水素圧約5barg(約2.5MPag)〜約300barg(約150MPag)、液空間速度(LHSV)約0.05h−1〜約10h−1、および水素処理ガス速度約36Sm3/m3(約200scf/bbl)〜約1700Sm3/m3(約10,000scf/bbl)が含まれる。本明細書で用いられる用語「水素処理」は、炭化水素原料を、上記の温度および圧力で水素と反応させるいかなるプロセスをも包含すると理解すべきである。とりわけ、水素処理には、水素化脱金属、水素化脱ロウ、水素化、水素仕上げ、水素添加、水素化脱硫、水素化脱窒素、水素化脱酸素、水素化脱芳香族、水素異性化、水素化分解(選択的水素化分解を含む)、およびその類似物、ならびにその組合せを含むことができる。水素処理のタイプおよび反応条件にしたがって、水素処理の生成物は、水素処理前の関連組成物に比較して、向上された粘度、粘度指数、飽和分含有量、低温特性、揮発度、減極性(depolarization)、および/またはその類似物を示してもよい。水素処理は、一つ以上の反応域において、および向流または並流方式のいずれかで(ただし、各方式は、異なる反応器要素が存在することを必要としてもよい)、行うことができることが理解されるべきである。向流方式とは、原料ストリームが、水素含有処理ガスの流れに反対の方向に流動するプロセス方式を意味する。したがって、並流方式とは、原料ストリームおよび水素含有処理ガスが、類似の方向で流動しているプロセス方式を意味する。水素処理反応器は、いかなる適切な触媒床の配置方式においても運転することができる。例えば、固定床、スラリー床、沸騰床、またはその類似物である。
【0022】
幅広い種類の炭化水素供給原料を、本明細書に記載されるように製造された触媒の存在下に、水素処理することができる。水素処理に適切な供給原料には、全および/または抜頭(蒸留)石油原油、常圧および/または減圧残渣油、プロパン脱瀝残油(例えば、ブライトストック)、サイクル油、FCC塔ボトム、ガス油(常圧および減圧ガス油、ならびにコーカーガス油を含む)、軽質〜重質留出油(未精製直留留出油を含む)、水素化分解油、水素化油、脱ロウ油、スラックワックス、フィッシャー−トロプシュワックス、ラフィネート、ナフサ、およびその類似物、ならびにその混合物を含むことができるが、これらに限定されない。
【0023】
加えてまたは別に、本発明には、以下の実施形態の一つ以上を含むことができる。
【0024】
実施形態1:水素処理触媒の製造方法であり、本方法は、(a)元素周期律表の第6族から選択される少なくとも一種の第一の金属の酸化物を含む粒子状金属酸化物組成物を、元素周期律表の第8〜10族から選択される少なくとも一種の第二の金属の硫化物の粒子と混合して、粒子状触媒前駆体を製造する工程、および(b)粒子状触媒前駆体の成分を第二の金属硫化物と関連する欠陥部位を有する層状金属硫化物に、少なくとも部分的転化するために十分な条件下で、粒子状触媒前駆体を硫化する工程
を含む。
【0025】
実施形態2:実施形態1の方法であり、その際少なくとも一種の第一の金属は、モリブデンおよび/またはタングステンである。
【0026】
実施形態3:実施形態1または実施形態2の方法であり、その際粒子状金属酸化物組成物は、第6族金属の酸化物45wt%〜70wt%、好ましくは約55wt%〜約60wt%を含む。
【0027】
実施形態4:先の実施形態のいずれかの方法であり、その際粒子状金属酸化物組成物は、さらに、元素周期律表の第8〜10族から選択される少なくとも一種のさらなる金属の酸化物を含む。
【0028】
実施形態5:実施形態4の方法であり、その際少なくとも一種のさらなる金属は、コバルトおよび/またはニッケルである。
【0029】
実施形態6:実施形態4または実施形態5の方法であり、その際粒子状金属酸化物組成物は、第8〜10族金属の酸化物約45wt%以下を含む。
【0030】
実施形態7:先の実施形態のいずれか一つの方法であり、その際粒子状金属酸化物組成物は、第一の金属の酸化物の素材源をプロトン性液体中に含む反応混合物を形成し、反応混合物を水熱条件下に加熱して、粒子状金属酸化物組成物を形成することによって、製造される。
【0031】
実施形態8:先の実施形態のいずれか一つの方法であり、その際少なくとも一種の第二の金属の硫化物は、ニッケル硫化物および/またはコバルト硫化物である。
【0032】
実施形態9:実施形態4〜8のいずれか一つの方法であり、その際粒子状触媒前駆体は、第二の金属の硫化物約15wt%〜約35wt%、好ましくは約20wt%〜約25wt%を含む。
【0033】
実施形態10:先の実施形態のいずれか一つの方法であり、その際硫化は、粒子状触媒前駆体を、硫化水素の存在下に、温度約350℃〜約425℃、好ましくは約375℃〜約400℃で、約1時間〜約6時間、好ましくは約2時間〜約4時間加熱することによって行われる。
【0034】
実施形態11:先の実施形態のいずれか一つの方法によって製造される水素処理触媒組成物。
【0035】
実施形態12:炭化水素供給原料を、実施形態11の触媒組成物の存在下に、炭化水素供給原料を水素処理するのに十分な条件下で水素と接触させる工程を含む水素処理方法。
【0036】
実施形態13:炭化水素含有供給原料を水素処理するための方法であり、本方法は、(a)水素処理触媒を、実施形態1〜10のいずれか一つの方法にしたがって製造する工程、および(b)水素処理触媒の存在下に、炭化水素供給原料を水素処理するのに十分な条件下で、炭化水素含有供給原料を水素と接触させる工程を含む。
【実施例】
【0037】
本発明は、ここで、添付の図面および以下の限定されない実施例を参照して、より詳細に記載されるであろう。
【0038】
実施例1
Ni1Mo0.5W0.5O4組成物を、米国特許出願公開第2007/0090023号明細書に記載される手順にしたがって調製した。Ni1Mo0.5W0.5O4のペレットを、約1〜2グラムをリンドバーグ(Lindberg)加熱炉内に置かれた石英ボートに移すことによって硫化した。加熱炉を、約15分間、約10vol%のH2Sを含む水素流(約200cm3/分)を用いてパージした。ペレットを、同じ約10vol%のH2S流(残りはH2)(約200cm3/分)の下に、周囲温度(約20〜25℃)から約400℃へ約45分間で加熱し、約400℃で約2時間保持した。ペレットを、その後冷却し、周囲温度で約30分間、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約200cm3/分)の下に保持した。加熱炉を、約30分間、窒素流(約300cm3/分)を用いてパージした。最後に、ペレットを、終夜、約1vol%のO2流(残りはHe)(約50cm3/分)中で不動態化し、次いで加熱炉から取出した。
【0039】
不動態化された硫化Ni1Mo0.5W0.5ペレット4〜5個を、メノウ乳鉢および乳棒を用いて、微粉(厚さ<約100nmの断片)に粉砕した。微粉を、標準200メッシュの穴あき炭素被覆TEMグリッド上に振りまき、Philips CM200F(商標)装置の明視野TEM画像方式により、加速電圧凡そ200kVで検査した。結果を、図1(a)〜(b)に示す。デジタル画像を、Gatan CCD(商標)カメラおよびGatanのDigital Micrograph(商標)ソフトウェア(バージョン2.5)を用いて、物質の無作為に選択された領域から集めた。300を超えるMoS2/WS2結晶に対するスタック高さを、手作業で計数し、そのデータを、図2に示される棒グラフにプロットした。図2から、MoS2/WS2粒子の平均スタック高さは、粒子当り約4.6層であったことがわかることができる。バルク触媒内部の一般的な特徴を、触媒の特に薄い領域から集められたエネルギー分散型分光分析(EDS)データを用いて特定した(例えば、図1(b)を参照されたい)。
【0040】
実施例2
新規Ni1Mo0.5W0.5O4組成物の硫化を含む一連の時間−温度−転化の実験を行った。再度、新規酸化物のペレットを、米国特許出願公開第2007/0090023号明細書にしたがって調製した。全ての場合に、酸化物のペレットを、上記されるTEM検査用に調製した。酸化物試料中の無作為に選択された領域を画像化し、TEMグリッド上のそれらの位置を、Gatan CCD(商標)カメラおよびGatanのDigital Micrograph(商標)ソフトウェア(バージョン2.5)を用いてマップ化した。全てのTEMグリッドを、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)中約2℃/分で、それらを加熱することによって硫化した。硫化時間および温度を、それぞれの場合に変動させて、NixSおよびMoS2/WS2粒子の発現が、より良好に評価された。各硫化実験の詳細を以下に記載する。
【0041】
第一の実験では、新規酸化物のTEMグリッドを、反応器に密閉した。反応器を、周囲温度で、窒素流(約50cm3/分)を用いて約30分間パージし、次いで、さらに約30分間、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)を用いてパージした。グリッドを、次いで、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)中約2℃/分で、約200℃へ加熱し、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)中約200℃で、約8時間保持した。グリッドを、次いで、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)下に、周囲温度へ冷却して戻した。反応器を、その後、終夜(約8〜16時間)、窒素流(約50cm3/分)を用いてパージした。グリッドを、反応器から取出し、TEMに移し、先にマップ化されているその領域を、上記のように再検査した。図3(a)は、新規酸化物のTEMであり、図3(b)は、単に約200℃で、約8時間硫化した後の物質のTEMである。図3(b)は、砕屑NixS粒子が、硫化プロセスにおいて、核形成し、非常に早く成長したことを表す。しかし、この段階では、MoS2/WS2の構造は、まだ全く観察されなかった。したがって、グリッドを、硫化反応器に置き戻し、再度、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)中約2℃/分で、約375℃へ加熱し、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)中約375℃で、約4時間超保持した。グリッドを、次いで、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)下に、周囲温度へ冷却した。反応器を、その後、終夜、窒素流(約50cm3/分)下にパージした。グリッドを、次いで、反応器から取出し、TEMに移し、先にマップ化されているその領域を、再度、上記のように再検査した。結果を、図3(c)に示す。これは、その後の約4時間の硫化処理(約375℃)が、実質的に完全に発現されたNixSおよびMoS2/WS2粒子をもたらしたことを示す。
【0042】
第二の硫化実験を、新規酸化物の異なるTEMグリッドについて行なって、約300℃での約10vol%のH2S(残りはH2)中に処理後約1時間のみ存在する、NixSおよびMoS2/WS2相の程度が決定された。したがって、新規酸化物のTEMグリッドを、再度、硫化反応器中に密閉し、反応器を、上記のように周囲温度でパージした。グリッドを、次いで、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)中約2℃/分で、約300℃へ加熱し、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)中約300℃で、約1時間保持した。グリッドを、次いで、周囲温度へ冷却し、反応器を、上記のように終夜パージした。グリッドを、反応器から取出し、TEMに移した。試料の領域全般を検査し、上記のように画像化した。図4は、その実験結果を示す。これは、実質的に完全に形成された砕屑NixS粒子が構造内に存在することを表す(図4(a))。図4(b)は、いくつかのMoS2/WS2粒子の早期の発現を示し、図4(c)は、モリブデン酸化物の粒子を示す。モリブデン酸化物の粒子は、非常に小さな割合(<約1%)の物質を示し、約300℃で約1時間後に、存在する場合でも最小の硫化を示す。これらのデータは、実質的に完全なMoS2/WS2粒子が発現するためには、より高い温度またはより多くの時間のいずれかが必要であることを表す。
【0043】
したがって、新規酸化物の他のグリッドを含む第三の実験を、行った。先に記載されるように、グリッドを、硫化装置中に密閉し、装置を、周囲温度でパージした。グリッドを、次いで、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)中約2℃/分で、約300℃へ加熱し、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)中約300℃で、約5時間保持した。グリッドを、次いで、周囲温度へ冷却し、反応器を、上記のようにパージした。グリッドを、反応器から取出し、TEMに移し、先にマップ化されている領域を、上記のように再検査した。結果を、図5(a)および5(b)に示す。図5(a)は、新規酸化物のTEMであり、図5(b)は、約10vol%のH2S流(残りはH2)中約300℃で約5時間後のTEMであり、実質的に完全に形成された砕屑NixS粒子の存在を示す。図5(b)はまた、いくつかのMoS2/WS2粒子の早期の発現を示すが、完全に形成されたMoS2/WS2構造は、依然として全く観察されなかった。その後、グリッドを、硫化装置に置き戻し、先に記載されるように、周囲温度でパージした後、グリッドを、次いで、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)中約2℃/分で、約400℃へ加熱し、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)中約400℃で、さらに約1時間保持した。グリッドを、次いで、周囲温度へ冷却し、反応器を、上記のようにパージした。グリッドを、反応器から取出し、TEMに移し、先にマップ化されている領域を、再度、上記のように再検査した。結果を、図5(c)に示す。この顕微鏡写真のMoS2/WS2粒子は、約400℃で約1時間の硫化処理の後には、実質的に完全に発現されたと思われる(図5(b)および5(c)を比較されたい)。したがって、これらの硫化ベースの時間−温度−転化の実験から、NixS粒子は、MoS2/WS2粒子が発現する前に、形成されることが明らかである。
【0044】
実施例3
再度、前記の手順を用いて、Ni1Mo0.5W0.5O4を調製し、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)中で、約400℃へ約2時間硫化した。硫化された物質を、上記のようにTEM用に調製し、TEMで検査した。従来のTEM観察は、一貫して、NixS粒子に隣接する湾曲したMoS2/WS2粒子、および触媒のNixS−希薄領域における比較的真っすぐな(湾曲していない)MoS2/WS2粒子を表した(図6を参照されたい)。NixS粒子と、MoS2/WS2粒子の湾曲との間の関係を、TEM傾斜実験(TEM tilting experiment)によって確認した。図7は、NixS−希薄流域に形成された典型的な直線状MoS2/WS2粒子の組織を表す。二つの相互貫入するMoS2/WS2構造により、さらに、これらの粒子が比較的真っすぐな(湾曲してない)構造として触媒のNixS−希薄領域に成長する傾向が確認された。図8は、NixS粒子に隣接して発現する湾曲したMoS2/WS2粒子の組織を示す。理論によって縛られることなく、MoS2/WS2の湾曲は、NixS表面における水素の溢出がMoS2/WS2粒子の核形成および成長を導く際に、生じると考えられる。最後に、図9は、触媒のNixS−希薄領域における高度結晶性のモリブデン酸化物の粒子と関連する硫化メカニズムを明らかにするのに役立つTEM顕微鏡写真を示す。これらの状況においては、硫化は、モリブデン酸化物粒子の外側表面での転化から始まり、内部へ進行すると思われる。これは、その親となる酸化物の粒子に一般に類似する硫化物粒子の組織をもたらした(図9(a)〜(c)を参照されたい)。したがって、再度、比較的真っすぐな(湾曲していない)MoS2構造が形成する。類似の結果は、タングステン酸化物結晶の硫化において観察された(図10(a)〜(c)を参照されたい)。
【0045】
実施例4
近似式 Ni0.25Mo0.5W0.5O4を有する低ニッケル組成物を、米国特許出願公開第2007/0090023号明細書に記載される手順にしたがって調製し、前記のように硫化した。この物質を、上記のようにTEM用に調製し、それで検査した。従来TEM観察は、再度、非常に多くの直線状のMoS2/WS2領域を、触媒のNixS−希薄流域に表し(図11を参照されたい)、一方湾曲したMoS2/WS2領域は、NixS構造に隣接して観察された(図12を参照されたい)。これにより、再度、NixS粒子の存在と、その結果のMoS2/WS2粒子の組織との間の提唱された関係が確認される。
【0046】
本発明は、特定の実施形態を引用して、記載および例示されているものの、当業者には、本発明が本明細書に必ずしも例示されない変形に対しても役立つことが、理解されるであろう。この理由から、次いで、本発明の真の範囲を決定する目的に対しては、添付の請求項のみが、参照されるべきである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素処理触媒およびそれらの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
水素処理触媒は、通常、一種以上の硫化第6族金属を、一種以上の第8〜10族金属助触媒と組合せて担体(アルミナなど)上に含む。バルク非担持触媒もまた、知られる。水素化脱硫ならびに水素化脱窒素に特に適切である水素処理触媒は、一般に、モリブデンおよび/またはタングステンの硫化物を含み、これらは、コバルト、ニッケル、鉄、またはその組合せなどの金属で促進される。これらの硫化触媒は、一般に、層状または小板組織を有する。
【0003】
水素処理触媒に対する最近の研究は、より低レベルの硫黄および窒素を有する留出油燃料を製造するという必要性によって推し進められつつある。これは、環境規制によって義務付けられ、一方同時に、より多量のこれらのヘテロ原子を有する原油を処理するという製油所の必要性を満たすものである。実質的な必要性は、したがって、特に、既存の水素処理設備がそれらの圧力能力に限界がある場合に、より効率的な脱硫および脱窒素を行なうことができる触媒を見出すことにある。
【0004】
水素処理触媒のナノ構造組織を修飾する能力は、それらの活性および選択性を制御することができる方法を提供する。したがって、特許文献1においては、炭素原子少なくとも10個の骨格を有する界面活性剤アミンを含むバルク二元金属Ni(またはCo)/Mo(またはW)相を硫化することにより、MoS2(またはWS2)のスタック層を含む触媒が与えられ、これは、炭素を含まないバルク酸化物を硫化することによって得られるものに比較して、低減されたスタック高さを有したことが示された。類似の結果は、特許文献2に、バルク三元Ni−Mo−W触媒について報告された。より低いスタック高さは、重要である。何故なら、それらは、より小さな結晶のMo/W硫化物が存在することを意味し、これは、次に、触媒として利用可能なより大きな表面積をもたらすからである。
【0005】
触媒活性を制御するための他の可能性のある経路は、触媒の結晶構造中の格子欠陥の生成であり、何故なら、格子欠陥は、活性および/または選択性の増大と関連する特定部位をもたらすことができるからである。非特許文献1を参照されたい。
【0006】
本発明者らによる最近の研究は、エクスシチュー(ex-situ)透過電子顕微鏡法(TEM)ベースの時間−温度−転化の硫化実験を用いて、砕屑NixS粒子が、モリブデンおよびタングステン酸化物を硫化する際に、MoS2/WS2の前に発現することを示している。従来のTEM(CTEM)画像法は、エネルギー分散分光法(EDS)およびTEM断層撮影法(TEMT)による元素分析との組合せで、MoS2/WS2粒子が、比較的真っすぐな層状構造として、砕屑(detrital)NiXS粒子が全く検知されない領域で成長することを表す。したがって、MoS2/WS2のこれらの比較的真っすぐな層は、あるとしても、最小の格子欠陥が形成することを必要とする。しかし、硫化中には、砕屑NixS粒子の表面における水素の溢出が、湾曲組織を有する層状MoS2/WS2構造の核形成および成長をもたらす。CTEM、EDS、およびTEMTのデータは、MoS2/WS2粒子の湾曲は、砕屑NixS粒子の核形成表面のそれに一致することを示す。したがって、これらのMoS2/WS2構造は、格子欠陥を発現して、それらの成長が、砕屑NixS粒子の表面回りに受入れられる。格子欠陥は、活性および/または選択性の増大と関連する特定部位をもたらすことができることから、欠陥部位およびそれらの部位密度を制御する能力は、重要である。
【0007】
したがって、本発明にしたがって、Mo(W)酸化物前駆体物質を、サイズおよび形状が制御されたNixS粒子と共に「播種する(seeding)」ことによって、NixS種は、その後の硫化の際に製造されるMoS2/WS2粒子の湾曲を、それ故MoS2/WS2の欠陥部位および欠陥部位の密度を制御することができることが見出された。類似のMoS2/WS2の組織制御は、CoXS粒子と共に播種されるか、またはMo(W)より低い温度で硫化する他の第8〜10族金属を含む系で、達成することができる。本発明の「播種する」という事象は、種々のゼオライト物質の構造を指向するのに用いられる種々の有機物質によって示される、テンプレート機能に類似すると思われる。しかし、無機相を他の無機相のためのテンプレート剤(templating agent)として用いるという概念は、決して、以前には文献に示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7,591,942号明細書
【特許文献2】米国特許第7,544,632号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Kaszstelan S.A.著「Descriptive Model of Surface Sites on MoS2(WS2)Particles」(Langmuir、第6巻、第590〜595頁、1990年)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の態様は、水素処理触媒の製造方法に関する。本方法は、(a)元素周期律表の第6族から選択される少なくとも一種の第一の金属の酸化物を含む粒子状(又は微粒子)金属酸化物組成物を、元素周期律表の第8〜10族から選択される少なくとも一種の第二の金属の硫化物の粒子(又は微粒子)と混合して、粒子状触媒前駆体を製造する工程、および(b)粒子状触媒前駆体の成分を第二の金属の硫化物と関連する欠陥部位を有する層状金属硫化物に、少なくとも部分的に転化するために十分な条件下で、粒子状触媒前駆体を硫化する工程を含む。
【0011】
本発明の第二の態様は、本発明の第一の態様に基づいて製造される水素処理触媒に関する。
【0012】
本発明の第三の態様は、本発明の第二の態様による水素処理触媒の存在下に、炭化水素供給原料を水素処理するために十分な条件下で、炭化水素供給原料を水素と接触させる工程を含む。
【0013】
本発明の第四の態様は、炭化水素含有供給原料を水素処理する方法に関する。本方法は、(a)本発明の第一の態様に基づいて、水素処理触媒を製造する工程、(b)水素処理触媒の存在下に、炭化水素供給原料を水素処理するために十分な条件下で、炭化水素含有供給原料を水素と接触させる工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1(a)および図1(b)は、実施例1の完全硫化金属酸化物触媒の明視野透過型電子顕微鏡写真(TEM)である。
【図2】図2は、実施例1の完全硫化金属酸化物触媒について、MoS2/WS2粒子の平均スタック高さを示す棒グラフである。
【図3】図3(a)、(b)、および(c)は、第一の硫化の種々の段階における、実施例2の金属酸化物触媒の明視野TEMである。実験
【図4】図4(a)、(b)、および(c)は、第二の硫化実験の最後における、実施例2の金属酸化物触媒の種々の領域の明視野TEMである。
【図5】図5(a)、(b)、および(c)は、第三の硫化実験の種々の段階における、実施例2の金属酸化物触媒の明視野TEMである。
【図6】図6は、実施例3の完全硫化金属酸化物触媒の種々の領域における明視野TEMである。
【図7】図7は、実施例3の完全硫化金属酸化物触媒の種々の領域における明視野TEMである。
【図8】図8は、実施例3の完全硫化金属酸化物触媒の種々の領域における明視野TEMである。
【図9】図9(a)、(b)、および(c)は、実施例3の金属酸化物触媒のさらなる明視野TEM画像であり、それぞれ、Mo酸化物粒子の新規結晶格子構造;約10%のH2S中約350℃約1時間後のMo酸化物粒子の外側表面における、酸化物から硫化物への転化;および引続く、約10%のH2S中約400℃約1時間後のMo酸化物粒子の酸化物から硫化物への転化を示す。
【図10】図10(a)、(b)、および(c)は、実施例3の金属酸化物触媒について、さらにさらなる明視野TEM画像であり、それぞれ、W酸化物粒子の新規結晶格子構造;約10%のH2S中約350℃約1時間後のW酸化物粒子の外側表面における、酸化物から硫化物への転化;および引続く、約10%のH2S中約450℃約2時間後のW酸化物粒子における、酸化物から硫化物への転化を示す。
【図11】図11は、実施例4の完全硫化金属酸化物触媒の明視野TEMである。
【図12】図12は、実施例4の完全硫化金属酸化物触媒の明視野TEMである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書には、水素処理触媒の製造を開示する。その際、元素周期律表の第6族から選択される少なくとも一種の第一の金属の酸化物、および任意に第8〜10族からの一種以上のさらなる金属の酸化物を含む粒子状金属酸化物組成物を、元素周期律表の第8〜10族から選択される少なくとも一種の第二の金属の硫化物の粒子と混合して、粒子状触媒前駆体を製造することができる。次いで、前駆体が、第二の金属硫化物と関連する欠陥部位を有する層状金属硫化物へ、少なくとも部分的に転化するために十分な条件下で、前駆体を硫化することができる。理論に束縛されることなく、欠陥部位は、第二の金属硫化物粒子の不在下に製造される比較的平坦な層状構造に加えて、湾曲した金属硫化物粒子の製造と関連すると思われる。
【0016】
本明細書に用いられるように、元素周期律表の族の番号付け方式(「新表記法」)は、「Chemical and Engineering News」(第63巻、第5号、第27頁、1985年)に開示されるものである。
【0017】
本方法で用いられる粒子状金属酸化物組成物は、第6族からの少なくとも一種の第一の金属(特にモリブデンおよび/またはタングステン)の酸化物含む。加えて、金属酸化物組成物はまた、有利には、第8〜10族から選択される少なくとも一種のさらなる金属(コバルトおよび/またはニッケルなど)の酸化物を含むことができる。それにも係わらず、粒子状金属酸化物組成物中にいかなる第8〜10族金属の酸化物も含まなくても、粒子状触媒前駆体および最終硫化触媒はいずれも、依然としておよび必然的に、第二の金属の硫化物粒子を添加することによって、少なくとも一種の第8〜10族金属を含むであろうことが、理解されるべきである。一実施形態においては、粒子状金属酸化物組成物は、第6族金属の酸化物少なくとも約45wt%、例えば少なくとも約50wt%、または少なくとも約55wt%を含むことができる。この実施形態においては、粒子状金属酸化物組成物は、第8〜10族金属の酸化物約50wt%以下、例えば約45wt%以下を含むことができる。加えてまたは別に、粒子状金属酸化物組成物は、第6族金属の酸化物約45wt%〜約70wt%、例えば約50wt%〜約65wt%、または約55wt%〜約60wt%、および/または第8〜10族金属の酸化物約25wt%〜約50wt%、例えば約30wt%〜約45wt%を含むことができる。
【0018】
本方法で有用な粒子状金属酸化物組成物は、好都合には、以下によって製造することができる。すなわち、第6族金属の酸化物の一種以上の素材源(又はソース)、および任意に第8〜10族金属の酸化物の一種以上の素材源を含む反応混合物を、プロトン性液体中に形成し、反応混合物を、実質的水熱条件下に加熱して、粒子状金属酸化物組成物が形成されることによる。いかなるプロトン性溶剤も、反応混合物中で用いることができる。典型的な例には、水、カルボン酸、アルコール(メタノール、エタノール、およびその混合物など)、およびその類似物、ならびにその組合せまたは反応生成物が含まれるが、これらに限定されない。一般に、プロトン性液体は、水、例えばアルコールおよび水の混合物を含んでもよく、または好ましくは水であってもよい。金属酸化物の素材源は、プロトン性液体に溶解されてもよいか、または単に緩やかに可溶性であってもよく、そのために第一の(および任意に、第二の)金属酸化物の素材源は、水熱反応中に、少なくとも一部分が固体状態のままであってもよい。
【0019】
本明細書において、実質的水熱反応とは、反応混合物を、反応混合物中に用いられるプロトン性液体の大気沸点超の温度へ加熱することを指す。典型的には、これは、密閉反応器槽内で、好ましくは自動的に生ずる圧力下に、または外部圧力を加えることなく達成することができる。合成条件については、自動的に生ずる圧力は、一般に、大気圧超、すなわち1bara(100kPaa超)であってもよい。プロトン性液体が水なら、反応は、一般に、オートクレーブ中、温度約105℃〜約180℃、例えば約110℃〜約170℃、約120℃〜約160℃、または約140℃〜約160℃で行うことができる。反応は、生成物のX線回折パターンが、明白に識別可能な未反応出発化合物の反射を示さない場合に、実質的に完了したと考えられることができ、これは、典型的には、少なくとも約2時間、例えば少なくとも約4時間、少なくとも約6時間、または少なくとも約8時間の反応時間を超えて生じることができる。加えてまたは別に、粒子状金属酸化物組成物を製造するために適切な水熱プロセスを取巻く詳細を、米国特許出願公開第2007/0090023号明細書に見出すことができ、その全内容は、引用することによって、本明細書に組み込まれる。
【0020】
所望の水素処理触媒を製造するために、粒子状金属酸化物組成物を、元素周期律表の第8〜10族から選択される少なくとも一種の第二の金属の硫化物の粒子と混合して、粒子状触媒前駆体を製造することができる。好ましい実施形態においては、第二の金属の硫化物は、ニッケル硫化物および/またはコバルト硫化物から選択することができる。加えてまたは別に、第二の金属の硫化物は、粒子状触媒前駆体中に、前駆体組成物の全重量を基準として、約15wt%〜約35wt%、例えば約20wt%〜約25wt%の量で存在することができる。得られる前駆体組成物は、次いで、粒子状触媒前駆体の成分を、層状金属硫化物に、少なくとも一部分を転化するのに、および一般には実質的に完全に転化するのに十分な条件下に硫化することができる。適切な硫化条件は、以下に限定されないが、粒子状触媒前駆体を、硫化水素を含む雰囲気中で、温度約350℃〜約425℃、例えば約375℃〜約400℃で、硫化時間約1時間〜約6時間、例えば約2時間〜約4時間加熱することを含むことができる。一実施形態においては、硫化水素含有雰囲気は、水素および硫化水素の混合物であることができ、約5vol%〜約20vol%のH2S、例えば約10vol%〜約15vol%のH2Sを含む。これらの条件下に、前駆体の金属酸化物成分が硫化を経るにしたがって、硫化物の結晶が、第二の金属の硫化物粒子の周りに、形成および成長することができる。これは、無機テンプレートとして機能することができ、透過型電子顕微鏡法(TEM)によって認識できる欠陥部位を、湾曲した結晶領域としてもたらす傾向がある。
【0021】
得られる硫化触媒組成物が、水素処理プロセスにおいて広く用いられ、種々の炭化水素原料を、広範囲の反応条件下で処理することができる。これらの条件の一例には、温度約200℃〜450℃、水素圧約5barg(約2.5MPag)〜約300barg(約150MPag)、液空間速度(LHSV)約0.05h−1〜約10h−1、および水素処理ガス速度約36Sm3/m3(約200scf/bbl)〜約1700Sm3/m3(約10,000scf/bbl)が含まれる。本明細書で用いられる用語「水素処理」は、炭化水素原料を、上記の温度および圧力で水素と反応させるいかなるプロセスをも包含すると理解すべきである。とりわけ、水素処理には、水素化脱金属、水素化脱ロウ、水素化、水素仕上げ、水素添加、水素化脱硫、水素化脱窒素、水素化脱酸素、水素化脱芳香族、水素異性化、水素化分解(選択的水素化分解を含む)、およびその類似物、ならびにその組合せを含むことができる。水素処理のタイプおよび反応条件にしたがって、水素処理の生成物は、水素処理前の関連組成物に比較して、向上された粘度、粘度指数、飽和分含有量、低温特性、揮発度、減極性(depolarization)、および/またはその類似物を示してもよい。水素処理は、一つ以上の反応域において、および向流または並流方式のいずれかで(ただし、各方式は、異なる反応器要素が存在することを必要としてもよい)、行うことができることが理解されるべきである。向流方式とは、原料ストリームが、水素含有処理ガスの流れに反対の方向に流動するプロセス方式を意味する。したがって、並流方式とは、原料ストリームおよび水素含有処理ガスが、類似の方向で流動しているプロセス方式を意味する。水素処理反応器は、いかなる適切な触媒床の配置方式においても運転することができる。例えば、固定床、スラリー床、沸騰床、またはその類似物である。
【0022】
幅広い種類の炭化水素供給原料を、本明細書に記載されるように製造された触媒の存在下に、水素処理することができる。水素処理に適切な供給原料には、全および/または抜頭(蒸留)石油原油、常圧および/または減圧残渣油、プロパン脱瀝残油(例えば、ブライトストック)、サイクル油、FCC塔ボトム、ガス油(常圧および減圧ガス油、ならびにコーカーガス油を含む)、軽質〜重質留出油(未精製直留留出油を含む)、水素化分解油、水素化油、脱ロウ油、スラックワックス、フィッシャー−トロプシュワックス、ラフィネート、ナフサ、およびその類似物、ならびにその混合物を含むことができるが、これらに限定されない。
【0023】
加えてまたは別に、本発明には、以下の実施形態の一つ以上を含むことができる。
【0024】
実施形態1:水素処理触媒の製造方法であり、本方法は、(a)元素周期律表の第6族から選択される少なくとも一種の第一の金属の酸化物を含む粒子状金属酸化物組成物を、元素周期律表の第8〜10族から選択される少なくとも一種の第二の金属の硫化物の粒子と混合して、粒子状触媒前駆体を製造する工程、および(b)粒子状触媒前駆体の成分を第二の金属硫化物と関連する欠陥部位を有する層状金属硫化物に、少なくとも部分的転化するために十分な条件下で、粒子状触媒前駆体を硫化する工程
を含む。
【0025】
実施形態2:実施形態1の方法であり、その際少なくとも一種の第一の金属は、モリブデンおよび/またはタングステンである。
【0026】
実施形態3:実施形態1または実施形態2の方法であり、その際粒子状金属酸化物組成物は、第6族金属の酸化物45wt%〜70wt%、好ましくは約55wt%〜約60wt%を含む。
【0027】
実施形態4:先の実施形態のいずれかの方法であり、その際粒子状金属酸化物組成物は、さらに、元素周期律表の第8〜10族から選択される少なくとも一種のさらなる金属の酸化物を含む。
【0028】
実施形態5:実施形態4の方法であり、その際少なくとも一種のさらなる金属は、コバルトおよび/またはニッケルである。
【0029】
実施形態6:実施形態4または実施形態5の方法であり、その際粒子状金属酸化物組成物は、第8〜10族金属の酸化物約45wt%以下を含む。
【0030】
実施形態7:先の実施形態のいずれか一つの方法であり、その際粒子状金属酸化物組成物は、第一の金属の酸化物の素材源をプロトン性液体中に含む反応混合物を形成し、反応混合物を水熱条件下に加熱して、粒子状金属酸化物組成物を形成することによって、製造される。
【0031】
実施形態8:先の実施形態のいずれか一つの方法であり、その際少なくとも一種の第二の金属の硫化物は、ニッケル硫化物および/またはコバルト硫化物である。
【0032】
実施形態9:実施形態4〜8のいずれか一つの方法であり、その際粒子状触媒前駆体は、第二の金属の硫化物約15wt%〜約35wt%、好ましくは約20wt%〜約25wt%を含む。
【0033】
実施形態10:先の実施形態のいずれか一つの方法であり、その際硫化は、粒子状触媒前駆体を、硫化水素の存在下に、温度約350℃〜約425℃、好ましくは約375℃〜約400℃で、約1時間〜約6時間、好ましくは約2時間〜約4時間加熱することによって行われる。
【0034】
実施形態11:先の実施形態のいずれか一つの方法によって製造される水素処理触媒組成物。
【0035】
実施形態12:炭化水素供給原料を、実施形態11の触媒組成物の存在下に、炭化水素供給原料を水素処理するのに十分な条件下で水素と接触させる工程を含む水素処理方法。
【0036】
実施形態13:炭化水素含有供給原料を水素処理するための方法であり、本方法は、(a)水素処理触媒を、実施形態1〜10のいずれか一つの方法にしたがって製造する工程、および(b)水素処理触媒の存在下に、炭化水素供給原料を水素処理するのに十分な条件下で、炭化水素含有供給原料を水素と接触させる工程を含む。
【実施例】
【0037】
本発明は、ここで、添付の図面および以下の限定されない実施例を参照して、より詳細に記載されるであろう。
【0038】
実施例1
Ni1Mo0.5W0.5O4組成物を、米国特許出願公開第2007/0090023号明細書に記載される手順にしたがって調製した。Ni1Mo0.5W0.5O4のペレットを、約1〜2グラムをリンドバーグ(Lindberg)加熱炉内に置かれた石英ボートに移すことによって硫化した。加熱炉を、約15分間、約10vol%のH2Sを含む水素流(約200cm3/分)を用いてパージした。ペレットを、同じ約10vol%のH2S流(残りはH2)(約200cm3/分)の下に、周囲温度(約20〜25℃)から約400℃へ約45分間で加熱し、約400℃で約2時間保持した。ペレットを、その後冷却し、周囲温度で約30分間、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約200cm3/分)の下に保持した。加熱炉を、約30分間、窒素流(約300cm3/分)を用いてパージした。最後に、ペレットを、終夜、約1vol%のO2流(残りはHe)(約50cm3/分)中で不動態化し、次いで加熱炉から取出した。
【0039】
不動態化された硫化Ni1Mo0.5W0.5ペレット4〜5個を、メノウ乳鉢および乳棒を用いて、微粉(厚さ<約100nmの断片)に粉砕した。微粉を、標準200メッシュの穴あき炭素被覆TEMグリッド上に振りまき、Philips CM200F(商標)装置の明視野TEM画像方式により、加速電圧凡そ200kVで検査した。結果を、図1(a)〜(b)に示す。デジタル画像を、Gatan CCD(商標)カメラおよびGatanのDigital Micrograph(商標)ソフトウェア(バージョン2.5)を用いて、物質の無作為に選択された領域から集めた。300を超えるMoS2/WS2結晶に対するスタック高さを、手作業で計数し、そのデータを、図2に示される棒グラフにプロットした。図2から、MoS2/WS2粒子の平均スタック高さは、粒子当り約4.6層であったことがわかることができる。バルク触媒内部の一般的な特徴を、触媒の特に薄い領域から集められたエネルギー分散型分光分析(EDS)データを用いて特定した(例えば、図1(b)を参照されたい)。
【0040】
実施例2
新規Ni1Mo0.5W0.5O4組成物の硫化を含む一連の時間−温度−転化の実験を行った。再度、新規酸化物のペレットを、米国特許出願公開第2007/0090023号明細書にしたがって調製した。全ての場合に、酸化物のペレットを、上記されるTEM検査用に調製した。酸化物試料中の無作為に選択された領域を画像化し、TEMグリッド上のそれらの位置を、Gatan CCD(商標)カメラおよびGatanのDigital Micrograph(商標)ソフトウェア(バージョン2.5)を用いてマップ化した。全てのTEMグリッドを、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)中約2℃/分で、それらを加熱することによって硫化した。硫化時間および温度を、それぞれの場合に変動させて、NixSおよびMoS2/WS2粒子の発現が、より良好に評価された。各硫化実験の詳細を以下に記載する。
【0041】
第一の実験では、新規酸化物のTEMグリッドを、反応器に密閉した。反応器を、周囲温度で、窒素流(約50cm3/分)を用いて約30分間パージし、次いで、さらに約30分間、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)を用いてパージした。グリッドを、次いで、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)中約2℃/分で、約200℃へ加熱し、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)中約200℃で、約8時間保持した。グリッドを、次いで、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)下に、周囲温度へ冷却して戻した。反応器を、その後、終夜(約8〜16時間)、窒素流(約50cm3/分)を用いてパージした。グリッドを、反応器から取出し、TEMに移し、先にマップ化されているその領域を、上記のように再検査した。図3(a)は、新規酸化物のTEMであり、図3(b)は、単に約200℃で、約8時間硫化した後の物質のTEMである。図3(b)は、砕屑NixS粒子が、硫化プロセスにおいて、核形成し、非常に早く成長したことを表す。しかし、この段階では、MoS2/WS2の構造は、まだ全く観察されなかった。したがって、グリッドを、硫化反応器に置き戻し、再度、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)中約2℃/分で、約375℃へ加熱し、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)中約375℃で、約4時間超保持した。グリッドを、次いで、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)下に、周囲温度へ冷却した。反応器を、その後、終夜、窒素流(約50cm3/分)下にパージした。グリッドを、次いで、反応器から取出し、TEMに移し、先にマップ化されているその領域を、再度、上記のように再検査した。結果を、図3(c)に示す。これは、その後の約4時間の硫化処理(約375℃)が、実質的に完全に発現されたNixSおよびMoS2/WS2粒子をもたらしたことを示す。
【0042】
第二の硫化実験を、新規酸化物の異なるTEMグリッドについて行なって、約300℃での約10vol%のH2S(残りはH2)中に処理後約1時間のみ存在する、NixSおよびMoS2/WS2相の程度が決定された。したがって、新規酸化物のTEMグリッドを、再度、硫化反応器中に密閉し、反応器を、上記のように周囲温度でパージした。グリッドを、次いで、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)中約2℃/分で、約300℃へ加熱し、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)中約300℃で、約1時間保持した。グリッドを、次いで、周囲温度へ冷却し、反応器を、上記のように終夜パージした。グリッドを、反応器から取出し、TEMに移した。試料の領域全般を検査し、上記のように画像化した。図4は、その実験結果を示す。これは、実質的に完全に形成された砕屑NixS粒子が構造内に存在することを表す(図4(a))。図4(b)は、いくつかのMoS2/WS2粒子の早期の発現を示し、図4(c)は、モリブデン酸化物の粒子を示す。モリブデン酸化物の粒子は、非常に小さな割合(<約1%)の物質を示し、約300℃で約1時間後に、存在する場合でも最小の硫化を示す。これらのデータは、実質的に完全なMoS2/WS2粒子が発現するためには、より高い温度またはより多くの時間のいずれかが必要であることを表す。
【0043】
したがって、新規酸化物の他のグリッドを含む第三の実験を、行った。先に記載されるように、グリッドを、硫化装置中に密閉し、装置を、周囲温度でパージした。グリッドを、次いで、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)中約2℃/分で、約300℃へ加熱し、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)中約300℃で、約5時間保持した。グリッドを、次いで、周囲温度へ冷却し、反応器を、上記のようにパージした。グリッドを、反応器から取出し、TEMに移し、先にマップ化されている領域を、上記のように再検査した。結果を、図5(a)および5(b)に示す。図5(a)は、新規酸化物のTEMであり、図5(b)は、約10vol%のH2S流(残りはH2)中約300℃で約5時間後のTEMであり、実質的に完全に形成された砕屑NixS粒子の存在を示す。図5(b)はまた、いくつかのMoS2/WS2粒子の早期の発現を示すが、完全に形成されたMoS2/WS2構造は、依然として全く観察されなかった。その後、グリッドを、硫化装置に置き戻し、先に記載されるように、周囲温度でパージした後、グリッドを、次いで、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)中約2℃/分で、約400℃へ加熱し、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)中約400℃で、さらに約1時間保持した。グリッドを、次いで、周囲温度へ冷却し、反応器を、上記のようにパージした。グリッドを、反応器から取出し、TEMに移し、先にマップ化されている領域を、再度、上記のように再検査した。結果を、図5(c)に示す。この顕微鏡写真のMoS2/WS2粒子は、約400℃で約1時間の硫化処理の後には、実質的に完全に発現されたと思われる(図5(b)および5(c)を比較されたい)。したがって、これらの硫化ベースの時間−温度−転化の実験から、NixS粒子は、MoS2/WS2粒子が発現する前に、形成されることが明らかである。
【0044】
実施例3
再度、前記の手順を用いて、Ni1Mo0.5W0.5O4を調製し、約10vol%のH2S流(残りはH2)(約20cm3/分)中で、約400℃へ約2時間硫化した。硫化された物質を、上記のようにTEM用に調製し、TEMで検査した。従来のTEM観察は、一貫して、NixS粒子に隣接する湾曲したMoS2/WS2粒子、および触媒のNixS−希薄領域における比較的真っすぐな(湾曲していない)MoS2/WS2粒子を表した(図6を参照されたい)。NixS粒子と、MoS2/WS2粒子の湾曲との間の関係を、TEM傾斜実験(TEM tilting experiment)によって確認した。図7は、NixS−希薄流域に形成された典型的な直線状MoS2/WS2粒子の組織を表す。二つの相互貫入するMoS2/WS2構造により、さらに、これらの粒子が比較的真っすぐな(湾曲してない)構造として触媒のNixS−希薄領域に成長する傾向が確認された。図8は、NixS粒子に隣接して発現する湾曲したMoS2/WS2粒子の組織を示す。理論によって縛られることなく、MoS2/WS2の湾曲は、NixS表面における水素の溢出がMoS2/WS2粒子の核形成および成長を導く際に、生じると考えられる。最後に、図9は、触媒のNixS−希薄領域における高度結晶性のモリブデン酸化物の粒子と関連する硫化メカニズムを明らかにするのに役立つTEM顕微鏡写真を示す。これらの状況においては、硫化は、モリブデン酸化物粒子の外側表面での転化から始まり、内部へ進行すると思われる。これは、その親となる酸化物の粒子に一般に類似する硫化物粒子の組織をもたらした(図9(a)〜(c)を参照されたい)。したがって、再度、比較的真っすぐな(湾曲していない)MoS2構造が形成する。類似の結果は、タングステン酸化物結晶の硫化において観察された(図10(a)〜(c)を参照されたい)。
【0045】
実施例4
近似式 Ni0.25Mo0.5W0.5O4を有する低ニッケル組成物を、米国特許出願公開第2007/0090023号明細書に記載される手順にしたがって調製し、前記のように硫化した。この物質を、上記のようにTEM用に調製し、それで検査した。従来TEM観察は、再度、非常に多くの直線状のMoS2/WS2領域を、触媒のNixS−希薄流域に表し(図11を参照されたい)、一方湾曲したMoS2/WS2領域は、NixS構造に隣接して観察された(図12を参照されたい)。これにより、再度、NixS粒子の存在と、その結果のMoS2/WS2粒子の組織との間の提唱された関係が確認される。
【0046】
本発明は、特定の実施形態を引用して、記載および例示されているものの、当業者には、本発明が本明細書に必ずしも例示されない変形に対しても役立つことが、理解されるであろう。この理由から、次いで、本発明の真の範囲を決定する目的に対しては、添付の請求項のみが、参照されるべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素処理触媒の製造方法であって、
(a)元素周期律表の第6族から選択される少なくとも一種の第一の金属の酸化物を含む粒子状金属酸化物組成物を、元素周期律表の第8〜10族から選択される少なくとも一種の第二の金属の硫化物の粒子と混合して、粒子状触媒前駆体を製造する工程、及び
(b)粒子状触媒前駆体の成分を、第二の金属の硫化物と関連する欠陥部位を有する層状金属硫化物に、少なくとも部分的に転化するために十分な条件下で、粒子状触媒前駆体を硫化する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも一種の第一の金属は、モリブデン及び/又はタングステンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粒子状金属酸化物組成物は、第6族金属の酸化物45wt%〜70wt%、好ましくは約55wt%〜約60wt%を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記粒子状金属酸化物組成物は、更に、元素周期律表の第8〜10族から選択される少なくとも一種のさらなる金属の酸化物を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも一種のさらなる金属は、コバルト及び/又はニッケルである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記粒子状金属酸化物組成物は、約45wt%以下の第8〜10族金属の酸化物を含む、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記粒子状金属酸化物組成物は、第一の金属酸化物の素材源をプロトン性液体に含む反応混合物を形成し、前記反応混合物を水熱条件下に加熱して、粒子状金属酸化物組成物を形成することによって製造する、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも一種の第二の金属の硫化物は、ニッケル硫化物及び/又はコバルト硫化物である、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記粒子状触媒前駆体は、前記第二の金属の硫化物約15wt%〜約35wt%、好ましくは約20wt%〜約25wt%を含む、請求項4〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記硫化は、粒子状触媒前駆体を、硫化水素の存在下に、温度約350℃〜約425℃、好ましくは約375℃〜約400℃で、約1時間〜約6時間、好ましくは約2時間〜約4時間加熱することによって行なわれる、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の方法によって製造される、水素処理触媒組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の触媒組成物の存在下で、炭化水素供給原料を水素処理するために十分な条件下で、炭化水素供給原料を水素と接触させる工程を含む、炭化水素供給原料の水素処理方法。
【請求項13】
炭化水素含有供給原料を水素処理する方法であって、
(a)水素処理触媒を、請求項1〜10のいずれかに記載の方法に基づいて製造する工程、及び
(b)水素処理触媒の存在下で、炭化水素供給原料を水素処理するために十分な条件下で、炭化水素含有供給原料を水素と接触させる工程
を含む、方法。
【請求項1】
水素処理触媒の製造方法であって、
(a)元素周期律表の第6族から選択される少なくとも一種の第一の金属の酸化物を含む粒子状金属酸化物組成物を、元素周期律表の第8〜10族から選択される少なくとも一種の第二の金属の硫化物の粒子と混合して、粒子状触媒前駆体を製造する工程、及び
(b)粒子状触媒前駆体の成分を、第二の金属の硫化物と関連する欠陥部位を有する層状金属硫化物に、少なくとも部分的に転化するために十分な条件下で、粒子状触媒前駆体を硫化する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記少なくとも一種の第一の金属は、モリブデン及び/又はタングステンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粒子状金属酸化物組成物は、第6族金属の酸化物45wt%〜70wt%、好ましくは約55wt%〜約60wt%を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記粒子状金属酸化物組成物は、更に、元素周期律表の第8〜10族から選択される少なくとも一種のさらなる金属の酸化物を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも一種のさらなる金属は、コバルト及び/又はニッケルである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記粒子状金属酸化物組成物は、約45wt%以下の第8〜10族金属の酸化物を含む、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記粒子状金属酸化物組成物は、第一の金属酸化物の素材源をプロトン性液体に含む反応混合物を形成し、前記反応混合物を水熱条件下に加熱して、粒子状金属酸化物組成物を形成することによって製造する、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも一種の第二の金属の硫化物は、ニッケル硫化物及び/又はコバルト硫化物である、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記粒子状触媒前駆体は、前記第二の金属の硫化物約15wt%〜約35wt%、好ましくは約20wt%〜約25wt%を含む、請求項4〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記硫化は、粒子状触媒前駆体を、硫化水素の存在下に、温度約350℃〜約425℃、好ましくは約375℃〜約400℃で、約1時間〜約6時間、好ましくは約2時間〜約4時間加熱することによって行なわれる、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の方法によって製造される、水素処理触媒組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の触媒組成物の存在下で、炭化水素供給原料を水素処理するために十分な条件下で、炭化水素供給原料を水素と接触させる工程を含む、炭化水素供給原料の水素処理方法。
【請求項13】
炭化水素含有供給原料を水素処理する方法であって、
(a)水素処理触媒を、請求項1〜10のいずれかに記載の方法に基づいて製造する工程、及び
(b)水素処理触媒の存在下で、炭化水素供給原料を水素処理するために十分な条件下で、炭化水素含有供給原料を水素と接触させる工程
を含む、方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2013−514178(P2013−514178A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544694(P2012−544694)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【国際出願番号】PCT/US2010/060211
【国際公開番号】WO2011/075463
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【国際出願番号】PCT/US2010/060211
【国際公開番号】WO2011/075463
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】
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