説明

水素分離回収方法および水素分離回収設備

【課題】 トリクロロシランを生成する転換設備などに接続され、転換反応の生成ガスから水素を効率よく分離回収して再利用することができる水素分離回収方法および設備を提供する。
【解決手段】クロロシラン類と塩化水素および水素を含む混合ガスを、液状のクロロシラン類を主体とする吸収液に接触させて混合ガス中のクロロシランおよび塩化水素を該吸収液に吸収させる工程〔吸収工程〕、クロロシランおよび塩化水素を吸収した吸収液を蒸留して塩化水素をガス化し分離する工程〔塩化水素分離工程〕、塩化水素を分離したクロロシラン類を回収し、冷却して上記吸収工程に戻す工程〔吸収液循環工程〕、吸収液を通過した水素主体のガスを活性炭に通じてガス中に残留するクロロシラン類および塩化水素を該活性炭に吸着させて水素と分離する工程〔水素精製工程〕を有することを特徴とする水素分離回収方法およびその設備。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、トリクロロシランを生成する転換設備に接続され、転換反応の生成ガスに含まれる塩化水素およびクロロシラン類を分離して精製された水素を回収することができる水素分離回収方法およびその設備に関する。
【背景技術】
【0002】
高純度多結晶シリコンは、例えばトリクロロシラン(SiHCl3:TCSと略称)および水素を原料とし、次式(1)に示されるトリクロロシランの水素還元反応、次式(2)に示されるトリクロロシランの熱分解反応によって生成されている。
SiHCl3+H2 → Si+3HCl ・・・(1)
4SiHCl3 → Si+3SiCl4+2H2 ・・・(2)
【0003】
多結晶シリコンの上記生成反応から排出されるガスには、未反応のトリクロロシランおよび水素と共に、副生した塩化水素およびテトラクロロシラン、ジクロロシラン、ヘキサクロロジシランなどのクロロシラン類が含まれる。これらのクロロシラン類は沸点に応じて段階的に蒸留分離され、必要に応じて再利用される。
【0004】
例えば、上記生成反応の排ガスから蒸留分離して回収したテトラクロロシランを原料とし、次式(3)に示す水素付加の転換反応によってトリクロロシランを得ることができる。転換反応において生成したガスに含まれるトリクロロシランやテトラクロロシランなどのクロロシラン類は冷却凝集して回収し、トリクロロシランは上記多結晶シリコンの製造原料として再利用される。
SiCl4+H2 → SiHCl3+HCl ・・・(3)
【0005】
また、上記生成ガスには未反応の水素が多量に含まれているので、クロロシラン類を凝縮分離した後に、混合ガス中の水素を回収して上記転換反応の原料として転換炉に戻して再利用すれば、水素の使用効率を高め大幅なコスト低減を図ることができる。
【0006】
しかし、上記生成ガスには塩化水素が含まれており、塩化水素が含まれている状態で転換反応の原料として使用すると、転換反応が阻害されると云う問題があり、上記生成ガスから水素を回収して再利用するには、生成ガスに含まれる塩化水素を効率よく取り除くことが必要である。
【0007】
従来の塩化水素の除去方法としては、例えば、図3に示す処理方法が知られている。この方法は、まず転換炉1の反応生成ガスを冷却器2に導いて冷却し、クロロシラン類を凝縮させて捕集し、生成ガスから取り除いて塩化水素と水素の混合ガスにする。次に、塩化水素と水素の混合ガスを苛性ソーダの水溶液が循環する中和塔3に通して塩化水素を取り除く。混合ガスに含まれている塩化水素と未凝縮のクロロシラン類は中和塔3において苛性ソーダと反応し、塩化ナトリウム、珪酸ナトリウムを生じて塔底に沈積するので、これを抜き出して系外に除去する。
【0008】
一方、水素が残った混合ガスは中和塔3を通過して乾燥塔4に導入される。該乾燥塔4にはゼオライトが充填されており、水素含有ガスが塔内を通過する間に乾燥される。乾燥された水素は蒸発器5に戻され、供給水素および供給STCと混合されて転換炉1に導入され、循環使用される(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭48−40625号公報(第4頁右上欄、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図3に示す従来の水素回収技術では、反応生成ガス中の塩化水素は塩化ナトリウム等に転換して除去されるので、有効利用されることなく廃棄物として処理されており、廃棄処理のコストが嵩む。また、転換装置から抜き出した生成ガスを極低温まで冷却し、凝縮液化したクロロシラン類を分離するが、極低温まで冷却しても未凝縮クロロシラン類が生成ガスに残留するので、水素除去のためにこれを中和処理すると、未凝縮クロロシラン類も中和処理されて廃棄物となるので、クロロシラン類を有効に利用できない問題があった。さらに、中和剤として多くの苛性ソーダを消費してしまう不都合もあった。
【0010】
本発明は、従来の水素回収技術における上記問題を解決するものであり、水素と共にクロロシラン類および塩化水素を含むガス、例えば、転換炉の生成ガスから効率よく塩化水素およびクロロシラン類を分離除去して、転換反応に再利用できる精製水素ガスを回収し、かつ塩化水素およびクロロシラン類を有効利用できる形態で分離して廃棄ロスを防止した水素精製回収方法とその設備を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の〔1〕〜〔6〕に示す構成を有することによって、上記課題を解決した水素分離回収方法に関する。
〔1〕クロロシラン類と塩化水素および水素を含む混合ガスから水素を分離回収する方法であって、液状のクロロシラン類を主体とする吸収液を用い、上記混合ガスを該吸収液に接触させてクロロシラン類と塩化水素を該吸収液に吸収させて水素と分離し、該吸収液を通過した水素主体のガスを回収することを特徴とする水素分離回収方法。
〔2〕吸収液が常温以下で液状のクロロシラン類である上記[1]に記載する水素分離回収方法。
〔3〕請求項1〜請求項2の何れかに記載する方法において、吸収液が流れる吸収塔に上記混合ガスを導入して上記吸収液にクロロシラン類および塩化水素を吸収させ、吸収塔から流出した吸収液を蒸留塔に導き、吸収液に含まれている塩化水素を蒸留分離し、一方、蒸留塔から流出した吸収液を回収して冷却し、吸収塔に戻して再び使用する上記[1]または上記[2]に記載する水素分離回収方法。
〔4〕上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する方法において、吸収液を通過したガスを活性炭に通じ、ガス中に残留するクロロシラン類および塩化水素を上記活性炭に吸着させてクロロシラン類および塩化水素をガス中から分離することによって精製した水素ガスを得る水素分離回収方法。
〔5〕クロロシラン類と塩化水素および水素を含む混合ガスを、液状のクロロシラン類を主体とする吸収液に接触させて混合ガス中のクロロシランおよび塩化水素を該吸収液に吸収させる工程〔吸収工程〕、クロロシランおよび塩化水素を吸収した吸収液を蒸留して塩化水素をガス化し分離する工程〔塩化水素分離工程〕、塩化水素を分離したクロロシラン類を回収し、冷却して上記吸収工程に戻す工程〔吸収液循環工程〕、吸収液を通過した水素主体のガスを活性炭に通じてガス中に残留するクロロシラン類および塩化水素を該活性炭に吸着させて分離する工程〔水素精製工程〕を有することを特徴とする水素分離回収方法。
〔6〕テトラクロロシランと水素を反応させてトリクロロシランを生成させる転換反応において生成した混合ガスから水素を分離回収する方法であって、転換反応において生成した混合ガスを冷却してトリクロロシランを含むクロロシラン類を凝縮液化させてガス中から分離する工程〔凝縮分離工程〕を有し、凝縮分離後の残留クロロシラン類および塩化水素を含む混合ガスを上記吸収工程、上記塩化水素分離工程、上記吸収液循環工程、および上記水素精製工程に導いて水素を分離回収する上記[1]〜上記[5]の何れかに記載する水素分離回収方法。
【0012】
また、本発明は、以下の〔7〕〜〔12〕に示す構成を有することによって、上記課題を解決した水素分離回収設備に関する。
〔7〕クロロシラン類と塩化水素および水素を含む混合ガスから水素を分離回収する設備であって、液状のクロロシラン類を主体とする吸収液と上記混合ガスとが接触する吸収装置(吸収塔)を有し、上記混合ガスのクロロシラン類および塩化水素を上記吸収液に吸収させて生成ガスから分離することを特徴とする水素分離回収設備。
〔8〕上記[7]の設備において、吸収装置を通過した水素主体のガスが導入される水素精製装置を有し、該水素精製装置には活性炭が充填されており、上記ガスが該活性炭を通過する間にガス中のクロロシラン類および塩化水素が該活性炭に吸着されてガス中から除去される水素分離回収設備。
〔9〕上記[7]または上記[8]の設備において、吸収装置から流出した吸収液が導入される蒸留装置と、蒸留装置から流出した吸収液を吸収装置に戻す循環路を有し、該循環路には冷却器が設けられており、蒸留装置から流出した吸収液を常温以下に冷却して吸収装置に戻し、再利用する水素分離回収設備。
〔10〕クロロシラン類と塩化水素および水素を含む混合ガスを、液状のクロロシラン類を主体とする吸収液に接触させて混合ガス中のクロロシランおよび塩化水素を該吸収液に吸収させる吸収装置、クロロシランおよび塩化水素を吸収した吸収液を蒸留して塩化水素をガス化し分離する蒸留装置、塩化水素を分離したクロロシラン類を回収し、冷却して上記吸収工程に戻す循環路、吸収液を通過した水素主体のガスを活性炭に通じてガス中に残留するクロロシラン類および塩化水素を該活性炭に吸着させて分離する水素精製装置を有することを特徴とする水素分離回収設備。
〔11〕テトラクロロシランと水素を反応させてトリクロロシランを生成させる転換装置(転換炉)に接続され、該転換装置と吸収装置の間に冷却器が設けられており、転換装置から流出した生成ガスを冷却器に導いて凝縮し、液化したクロロシラン類を分離したガスを吸収装置に導き、吸収装置から流出した水素主体のガスを転換装置に戻して再利用する上記[7]〜上記[10]に記載する水素分離回収設備。
〔12〕吸収装置から転換装置(転換炉)に至る管路を有し、該管路の途中には水素精製装置を有し、該水素精製装置には活性炭が充填されており、吸収塔から流出したガスを水素精製装置に導入し、該ガスが上記活性炭を通過する間にガス中に残留しているクロロシラン類および塩化水素が該活性炭に吸着されてガス中から除去され、精製された水素ガスが上記管路を通じて転換装置に導入される上記[11]に記載する水素分離回収設備。
【発明の効果】
【0013】
上記[1]の方法および上記[7]の設備では、クロロシラン類と水素と塩化水素とを含む混合ガスを、液状のクロロシラン類を主体とする吸収液に接触させて、クロロシラン類と塩化水素を上記吸収液に吸収させることによってガス中から除去するので、混合ガスから容易に水素を分離して回収することができる。
【0014】
本発明において使用する吸収液は、液状のクロロシラン類を主体とするものであり、具体的には、上記[2]に示すように、常温以下、例えば20℃以下で液状のクロロシラン類からなるものである。液状のクロロシラン類からなる吸収液に混合ガスを気液接触させることによって、ガス中の塩化水素およびクロロシラン類がこの吸収液に吸収され、ガス中に残る水素と分離することができる。20℃以下で液状のクロロシラン類としてはトリクロロシラン、ジクロロシラン、テトラクロロシランなどを用いることができる。
【0015】
本発明において、上記[3]の方法および上記[9]の設備では、クロロシラン類および塩化水素を吸収した吸収液を蒸留することによって塩化水素を蒸留分離することができる。また、クロロシラン類は液状のまま残るので、クロロシラン類を極低温まで冷却する必要がなく、これを回収して吸収液として再利用することができる。従って、クロロシラン類のロスが無く、使用効率を高めることができる。
【0016】
上記[4]の方法および上記[8]の設備では、吸収液(吸収塔)を通過した水素主体のガスを水素精製装置に導入して活性炭に通じ、ガス中に残留するクロロシラン類および塩化水素を活性炭に吸着させてガス中から除去するので、クロロシラン類および塩化水素を実質的に含まない精製された水素ガスを得ることができる。従って、この水素ガスをトリクロロシランの転換反応に再利用することができ、該反応の転換率を高めることができる。また、水素を乾燥させる工程が不要である。
【0017】
上記[5]の方法および上記[10]の設備は、吸収工程、蒸留による塩化水素分離工程、該蒸留分離工程から回収したクロロシラン類を反応液として循環し再利用する工程、水素精製工程を有し、混合ガスが上記一連の工程を経て処理されるので、混合ガスから効率よく水素を分離し回収することができる。
【0018】
上記[6]の方法および上記[11][12]の設備は、本発明の水素分離回収技術をトリクロロシランの生成転換反応に適用したものであり、この転換反応において生成したガスから水素を効率よく分離して回収することができる。具体的には、上記転換反応において生成したガスを冷却してガス中のクロロシラン類を凝縮液化して分離し、凝縮捕集したクロロシラン類を回収工程に導いてトリクロロシランを分離回収し、また凝縮分離後の残留クロロシラン類を含む混合ガスを上記吸収工程、上記塩化水素分離工程、上記吸収液循環工程、および上記水素精製工程に導いて水素を分離回収し、これを転換反応に戻して有効に再利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。本発明に係る水素分離回収システム(方法ないし設備)の一例を図1に示す。図1に示す実施形態は、テトラクロロシランと水素との反応によってトリクロロシランを生成させる転換設備に本発明の水素分離回収システムを適用した例である。
【0020】
図示する水素分離回収設備は、液状のクロロシラン類を主体とする吸収液と上記混合ガスとが接触する吸収装置8、該吸収装置を通過した水素主体のガスが導入される水素精製装置12、上記吸収装置8から抜き出した吸収液が導入される蒸留装置9、該蒸留装置9から抜き出したクロロシラン類を上記吸収装置8に戻す循環管路10、該循環管路10に設けた冷却器14を有している。さらに、この水素分離回収設備はテトラクロロシランと水素を反応させてトリクロロシランを生成させる転換装置に接続されており、該転換装置から吸収装置に至る管路の間に冷却器7が設けられている。
【0021】
〔転換設備〕
図示する例において、トリクロロシランを生成する転換設備には、テトラクロロシランの蒸発器5と、転換炉1とが設けられている。原料の水素および四塩化珪素(STC)は蒸発器5に導入され、混合されて転換炉1に導入される。転換炉1は約800℃〜約1300℃の炉内温度に設定され、水素と四塩化珪素が反応してクロロシラン類が生成する。クロロシラン類はテトラクロロシラン、トリクロロシラン、微量のジクロロシラン、ヘキサクロロジシランなどであり、これらは上記反応温度下でガス化し、これらのクロロシラン類と塩化水素および水素を含む混合ガスが転換炉1から抜き出される。
【0022】
〔凝縮分離工程〕
転換炉1から流出した混合ガス(温度約600℃〜約1100℃)は第1冷却器7に導かれて約−50℃〜約50℃に冷却される。混合ガスに含まれているクロロシラン類は冷却されて凝縮液化し、混合ガスから分離される。
【0023】
分離したクロロシラン類は蒸留設備(図示省略)に導かれ、複数の蒸留塔を通過する間に、クロロシラン類の沸点に対応した蒸留温度下で、トリクロロシラン、テトラクロロシラン、その他の高沸点物が段階的に蒸留分離される。回収されたトリクロロシランは多結晶シリコンの製造原料などに利用することができる。
【0024】
〔吸収工程〕
第1冷却器7を通過した混合ガスは水素分離回収設備の吸収装置8に導入される。この混合ガスには未分離のクロロシラン類、塩化水素、水素が含まれている。吸収装置8には液状のクロロシラン類を主体とする吸収液が供給され、上記混合ガスは吸収液と気液接触し、ガス中のクロロシラン類および塩化水素が吸収液に吸収される。
【0025】
吸収液は液状のクロロシラン類を主体とするものであり、具体的には、常温以下、例えば20℃以下で液状のクロロシラン類からなるものである。このクロロシラン類としてはトリクロロシラン、ジクロロシラン、テトラクロロシランなどを用いることができる。
【0026】
吸収装置8としては、吸収塔やバブリング槽を用いることができる。吸収塔は例えばポールリング充填塔などが用いられ、塔底から混合ガスを供給し、塔頂から吸収液をシャワー状に流下させ、混合ガスが塔内を上昇する間に吸収液と接触させる。吸収槽では槽内に吸収液を溜め、槽下部から混合ガスを導入して吸収液内をバブリングさせれば良い。
【0027】
〔塩化水素の蒸留分離工程〕
吸収装置8から抜き出した吸収液は蒸留装置(蒸留塔)9に導入される。蒸留装置9は塩化水素の沸点に応じて操作され、上記吸収液に含まれる塩化水素は蒸留し、塔頂成分として取り除かれる。一方、未蒸留物のクロロシラン類は塔底成分として抜き出され、塩化水素を分離したクロロシラン類、例えば塩化水素濃度100ppm以下のクロロシラン類を回収することができる。
【0028】
なお、分離した塩化水素は各種の用途に使用することができる。例えば、分離した塩化水素は塩化水素と金属シリコンとを反応させてトリクロロシランを製造する工程に送り、原料として再利用することができる。
【0029】
〔反応液の循環工程〕
未蒸留物のクロロシラン類は蒸留装置9から抜き出され、循環管路10を通じて第2冷却器14に導入され、常温以下、例えば20℃以下、好ましくはくは−50℃〜20℃に冷却され、ガス状のまま含まれるクロロシラン類が凝縮液化し、循環管路10を通じて上記吸収装置8に戻され、吸収液として再び使用される。
【0030】
このように、吸収液は繰り返し循環して使用される。吸収液は循環使用によって繰返しクロロシラン類が吸収されることによって液量が一定量以上に増加した場合には吸収液の一部を抜き出し、また、冷却器14の出口ガス温度が吸収塔の塔内温度より低いと吸収塔内で液の蒸発が生じて液量が減るので、液量が減る場合にはクロロシラン類を追加し、吸収液の循環量が一定範囲になるように調整される。
【0031】
吸収液の循環液量を調整するために抜出された吸収液(クロロシラン類)はトリクロロシランを回収する蒸留設備などに送られ、有効に再利用される。このように、クロロシラン類は一定量になるまで系外に抜き出されないので、実質的にクロロシラン類の損失を生じることがなく、効率よくクロロシラン類を利用することができる。
【0032】
図2に示すように、吸収装置8から蒸留装置9に至る管路に熱交換機11を設け、循環路10が該熱交換機11を経由するように形成することによって、蒸留装置9の熱を有効に利用できるようにすると良い。蒸留装置9から抜き出されるクロロシラン類の温度は概ね70℃〜120℃であり、一方、吸収装置8から抜き出された吸収液の温度は常温以下であるので、熱交換機11を通じることによって蒸留装置9に導入する吸収液の温度を高めることができ、蒸留に必要な熱量を節約することができる。
【0033】
〔水素精製工程〕
上記吸収装置8に導入された混合ガス中の水素は吸収液(液状のクロロシラン類)に吸収されずにガス状のまま吸収液を通過する。従って、吸収装置8から流出するガスは水素主体のガスであり、これは水素精製装置12に導入される。水素精製装置12には活性炭が充填されており、水素主体のガスが該活性炭充填層を通過する間に、ガス中に含まれる未分離のクロロシラン類および塩化水素が活性炭に吸着されてガス中から除去され、精製された水素ガスが得られる。
【0034】
精製された水素ガスは循環管路13を通じて転換設備の蒸発器5に導入され、転換反応の原料の一部として再利用される。この精製された水素ガスはクロロシラン類および塩化水素を含まないので、上記転換反応を阻害せず、原料の転換率を高めることができる。
【0035】
なお、水素精製装置12において、クロロシラン類および塩化水素を吸着した活性炭充填層は、加熱下で水素ガスを通過させることによって脱着することができる。この脱着ガスを冷却し、クロロシラン類を凝縮液化して回収することができる。
【実施例】
【0036】
本発明の水素分離回収設備を用い、トリクロロシランを生成する転換反応において生じた混合ガスから水素を分離回収した実施例を以下に示す。
【0037】
転換炉出口ガス(上記混合ガス)の成分を以下に示す。
TCS=2.7kmol/hr、STC=15.4kmol/hr、HCl=2.7kmol/hr、H2=33.5kmol/hr
【0038】
上記混合ガスを冷却器7に導入し、−50℃〜20℃に冷却してクロロシラン類を凝縮液化して捕集し、未凝縮のクロロシラン類を含む混合ガスを図2に示す水素分離回収設備の吸収塔8に導入した。吸収塔8は塔径800mmφ、充填層高さ13500mmhのポールリング充填塔を用いた。吸収塔に導入する混合ガスの圧力を表1に示した。また吸収塔の温度、および塔内を流れる吸収液の循環液量を表1に示す範囲に制御した。この結果を表1に示した。
【0039】
吸収塔出口ガスに含まれるクロロシラン類および塩化水素の濃度はガスクロマトグラフィー法ないし赤外吸収光度法(FTIR)に基づいて測定した。吸収塔の循環液量は吸収液の吸収塔に供給する液量である。塩化水素の吸収率は(吸収塔出口ガス中のHCl濃度/吸収塔入口ガス中のHCl濃度)によって示される。
【0040】
吸収塔8から流出したガスを活性炭充填層12を有する水素精製装置に導入した。活性炭充填層12は、塔径1600mmφ、充填高さ9000mmhのものを用いた。この結果を表1に示した。
【0041】
表1の結果に示すように、吸収塔出口ガスのクロロシラン類および塩化水素の濃度は何れも低く、混合ガスに含まれるクロロシラン類および塩化水素の大部分は吸収液に吸収されることがわかる。特に塩化水素の吸収率は、No.2およびNo.3を除き、96%以上であり、高い吸収率を示している。さらに水素精製装置の出口ガスからは塩化水素およびクロロシラン類が検出されず、これらが完全に除去されており、塩化水素およびクロロシラン類を含まない精製された水素ガスが回収されている。
【0042】
【表1】

【0043】
上記循環液量、塩化水素の吸収率などは装置のサイズ、吸収塔充填物の性能、混合ガスの組成などによって変わるので上記実施例は一例である。また、従って、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る水素分離回収方法ないし設備の一例を示す概念図。
【図2】本発明に係る水素分離回収方法ないし設備の他の一例を示す概念図。
【図3】従来の水素分離回収設備を示す概念図。
【符号の説明】
【0045】
1…転換炉、7…第1冷却器、8…吸収塔(吸収装置)、9…蒸留塔(蒸留装置)、
10…吸収液循環管路、12…活性炭吸着塔(水素精製装置)、13…水素循環管路、
14…第2冷却器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロシラン類と塩化水素および水素を含む混合ガスから水素を分離回収する方法であって、液状のクロロシラン類を主体とする吸収液を用い、上記混合ガスを該吸収液に接触させてクロロシラン類と塩化水素を該吸収液に吸収させて水素と分離し、該吸収液を通過した水素主体のガスを回収することを特徴とする水素分離回収方法。
【請求項2】
吸収液が常温以下で液状のクロロシラン類である請求項1に記載する水素分離回収方法。
【請求項3】
請求項1〜請求項2の何れかに記載する方法において、吸収液が流れる吸収塔に上記混合ガスを導入して上記吸収液にクロロシラン類および塩化水素を吸収させ、吸収塔から流出した吸収液を蒸留塔に導き、吸収液に含まれている塩化水素を蒸留分離し、一方、蒸留塔から流出した吸収液を回収して冷却し、吸収塔に戻して再び使用する請求項1または2に記載する水素分離回収方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れかに記載する方法において、吸収液を通過したガスを活性炭に通じ、ガス中に残留するクロロシラン類および塩化水素を上記活性炭に吸着させてクロロシラン類および塩化水素をガス中から分離することによって精製した水素ガスを得る水素分離回収方法。
【請求項5】
クロロシラン類と塩化水素および水素を含む混合ガスを、液状のクロロシラン類を主体とする吸収液に接触させて混合ガス中のクロロシランおよび塩化水素を該吸収液に吸収させる工程〔吸収工程〕、クロロシランおよび塩化水素を吸収した吸収液を蒸留して塩化水素をガス化し分離する工程〔塩化水素分離工程〕、塩化水素を分離したクロロシラン類を回収し、冷却して上記吸収工程に戻す工程〔吸収液循環工程〕、吸収液を通過した水素主体のガスを活性炭に通じてガス中に残留するクロロシラン類および塩化水素を該活性炭に吸着させて分離する工程〔水素精製工程〕を有することを特徴とする水素分離回収方法。
【請求項6】
テトラクロロシランと水素を反応させてトリクロロシランを生成させる転換反応において生成した混合ガスから水素を分離回収する方法であって、転換反応において生成した混合ガスを冷却してトリクロロシランを含むクロロシラン類を凝縮液化させてガス中から分離する工程〔凝縮分離工程〕を有し、凝縮分離後の残留クロロシラン類および塩化水素を含む混合ガスを上記吸収工程、上記塩化水素分離工程、上記吸収液循環工程、および上記水素精製工程に導いて水素を分離回収する請求項1〜請求項5の何れかに記載する水素分離回収方法。
【請求項7】
クロロシラン類と塩化水素および水素を含む混合ガスから水素を分離回収する設備であって、液状のクロロシラン類を主体とする吸収液と上記混合ガスとが接触する吸収装置を有し、上記混合ガスのクロロシラン類および塩化水素を上記吸収液に吸収させて上記生成ガスから分離することを特徴とする水素分離回収設備。
【請求項8】
請求項7の設備において、吸収装置を通過した水素主体のガスが導入される水素精製装置を有し、該水素精製装置には活性炭が充填されており、上記ガスが該活性炭を通過する間にガス中のクロロシラン類および塩化水素が該活性炭に吸着されてガス中から除去される水素分離回収設備。
【請求項9】
請求項7または請求項8の設備において、吸収装置から流出した吸収液が導入される蒸留装置と、蒸留装置から流出した吸収液を吸収装置に戻す循環路を有し、該循環路には冷却器が設けられており、蒸留装置から流出した吸収液を常温以下に冷却して吸収装置に戻し、再利用する水素分離回収設備。
【請求項10】
クロロシラン類と塩化水素および水素を含む混合ガスを、液状のクロロシラン類を主体とする吸収液に接触させて混合ガス中のクロロシランおよび塩化水素を該吸収液に吸収させる吸収装置、クロロシランおよび塩化水素を吸収した吸収液を蒸留して塩化水素をガス化し分離する蒸留装置、塩化水素を分離したクロロシラン類を回収し、冷却して上記吸収工程に戻す循環路、吸収液を通過した水素主体のガスを活性炭に通じてガス中に残留するクロロシラン類および塩化水素を該活性炭に吸着させて分離する水素精製装置を有することを特徴とする水素分離回収設備。
【請求項11】
テトラクロロシランと水素を反応させてトリクロロシランを生成させる転換装置(転換炉)に接続され、該転換装置と吸収装置の間に冷却器が設けられており、転換装置から流出した生成ガスを冷却器に導いて凝縮し、液化したクロロシラン類を分離したガスを吸収装置に導き、吸収装置から流出した水素主体のガスを転換装置に戻して再利用する請求項7〜請求項10に記載する水素分離回収設備。
【請求項12】
吸収装置から転換装置(転換炉)に至る管路を有し、該管路の途中には水素精製装置を有し、該水素精製装置には活性炭が充填されており、吸収塔から流出したガスを水素精製装置に導入し、該ガスが上記活性炭を通過する間にガス中に残留しているクロロシラン類および塩化水素が該活性炭に吸着されてガス中から除去され、精製された水素ガスが上記管路を通じて転換装置に導入される請求項11に記載する水素分離回収設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−143775(P2008−143775A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276564(P2007−276564)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】