説明

水素化処理用触媒の再生条件の選別方法、再生水素化処理用触媒の製造方法

【課題】使用済みの水素化処理用触媒から、安定して高い活性を有する再生水素化処理用触媒を製造することを可能とする、水素化処理用触媒の再生条件の選別方法の提供。
【解決手段】アルミニウム酸化物を含む無機担体にコバルトが担持された水素化処理用触媒であって水素化処理に用いられる前の触媒についてXAFS分析を行い、Co K吸収端のEXAFSスペクトルから動径分布曲線を得、該動径分布曲線においてCo−O結合に帰属されるピークの強度Iを求める。次に、水素化処理に用いられた後の触媒について所定の条件で再生処理を行い、再生処理後の触媒についてXAFS分析を行い、Co K吸収端のEXAFSスペクトルから動径分布曲線を得、該動径分布曲線においてCo−O結合に帰属されるピークの強度Iを求める。そして、予め得られているI/Iと触媒活性との相関に基づいて、上記の再生処理の条件の良否を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化処理用触媒の再生条件の選別方法及び再生水素化処理用触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原油には含硫黄化合物、含窒素化合物、含酸素化合物等が不純物として含まれ、原油を分留して得られる各留出石油留分中にもこれら不純物が含まれる。これら留出石油留分中の前記不純物は、水素の存在下に水素化活性を有する触媒に接触せしめる水素化処理と呼ばれる工程により、その含有量を低減することが行われている。特に含硫黄化合物の含有量を低減する脱硫がよく知られている。最近は環境負荷低減の観点から、石油製品中の含硫黄化合物をはじめとする前記不純物の含有量に対する規制、低減の要求が一層厳しくなっており、所謂「サルファー・フリー」と呼ばれる石油製品が多く生産されている。
【0003】
前記留出石油留分の水素化処理に使用する水素化処理用触媒は、一定の期間使用されるとコークや硫黄分の沈着等により活性が低下することから、交換が行われる。特に上記「サルファー・フリー」が求められるようになり、灯油、軽油、減圧軽油といった留分の水素化処理設備において、高い水素化処理能力が求められている。その結果、触媒交換頻度が増大し、結果として触媒コストの上昇や触媒廃棄量の増加をもたらしている。
【0004】
この対策として、これらの設備においては使用済みの水素化処理用触媒を再生処理した再生触媒(再生水素化処理用触媒)の使用が一部行われている(例えば、特許文献1、2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭52−68890号公報
【特許文献2】特開平5−123586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
再生水素化処理用触媒の使用に当って、水素化処理と再生処理とを複数回繰り返しても水素化処理用触媒の活性を維持することができれば、再生した水素化処理用触媒(以下、「再生水素化処理用触媒」又は単に「再生触媒」という。)の使用のメリットは一層大きなものとなる。
【0007】
ここで、従来の再生処理においては、水素化処理用触媒の使用中に生じる活性低下の主原因がコークあるいは硫黄の沈着にあるため、再生処理条件はこれらの沈着物を除去できるか否かという観点から再生処理条件を選別するのが一般的であった。例えば、従来の再生処理においては、処理温度をなるべく高温とするのがよいと考えられていた。
【0008】
しかし、本発明者の検討によれば、沈着したコークあるいは硫黄の除去の問題とは別に、再生処理自体が、触媒上に担持された活性金属の構造(活性金属と酸素原子の配位形態等)を変化せしめる等して、触媒活性を低下させてしまうことがあることが判明した。
【0009】
そのため、触媒の再生前の使用履歴、再生処理方法等によって再生後の触媒活性は異なり、再生触媒、特に複数回再生後の再生触媒は安定して充分な活性を有するとは限らない。また、使用済み触媒の履歴等によって、異なる再生処理条件を選択することが必要な場合もある。そして、再生処理した触媒を水素化処理設備に充填し、水素化処理運転を開始した後にその活性が低いことが判明した場合には、原料油の処理速度の低減等が必要となり、大きな問題となる。
【0010】
上記のような理由により、水素化処理設備において、必ずしも再生触媒が充分に採用されていないのが実情である。そのため、水素化処理用触媒の再生における活性低下が抑制され、安定して高い活性を有する再生触媒が供給されることが強く要望されている。
【0011】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、使用済みの水素化処理用触媒から、安定して高い活性を有する再生水素化処理用触媒を製造することを可能とする、水素化処理用触媒の再生処理条件の選別方法及び再生水素化処理用触媒の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、下記(1)に記載の水素化処理用触媒の再生条件の選別方法、並びに下記(2)、(3)に記載の再生水素化処理用触媒の製造方法を提供する。
(1)留出石油留分を処理するための水素化処理用触媒を再生処理するに際し、再生処理条件を選別する方法であって、
アルミニウム酸化物を含む無機担体及び該無機担体に担持されたコバルトを含有する水素化処理用触媒であって水素化処理に用いられる前の触媒について、X線吸収微細構造分析を行い、Co K吸収端の広域X線吸収微細構造スペクトルから動径分布曲線を得、該動径分布曲線においてCo−O結合に帰属されるピークの強度Iを求める第1の工程と、
水素化処理後の上記水素化処理用触媒について所定の条件で再生処理を行い、再生処理後の該触媒についてX線吸収微細構造分析を行い、Co K吸収端の広域X線吸収微細構造スペクトルから動径分布曲線を得、該動径分布曲線においてCo−O結合に帰属されるピークの強度Iを求める第2の工程と、
第1の工程で得られたIに対する第2の工程で得られたIの比I/Iを求め、予め得られているピーク強度の比I/Iと触媒活性との相関に基づいて第2の工程における再生処理の条件の良否を判定する第3の工程と、
を備える、水素化処理用触媒の再生処理条件の選別方法。
(2)アルミニウム酸化物を含む無機担体及び該無機担体に担持されたコバルトを含有する水素化処理用触媒であって留出石油留分を処理するための水素化処理に使用された後の触媒を、(1)に記載の方法により選別された条件で再生処理する工程を備える、再生水素化処理用触媒の製造方法。
(3)選別された上記条件が、下記式(1)で表される条件を満たすものである、(2)に記載の方法。
1.22≦I/I≦1.35 (1)
[式(1)中、Iは、水素化処理に用いられる前の前記水素化処理用触媒の動径分布曲線における、Co−O結合に帰属されるピークの強度を示し、Iは、水素化処理及び再生処理を経た後の前記水素化処理用触媒の動径分布曲線における、Co−O結合に帰属されるピークの強度を示す。]
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、使用済みの水素化処理用触媒から、安定して高い活性を有する再生水素化処理用触媒を製造することを可能とする、水素化処理用触媒の再生条件の選別方法及び再生水素化処理用触媒の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】Co K吸収端のEXAFS(X−ray Absorption Fine Structure)スペクトルの一例を示すグラフである。
【図2】動径分布曲線の一例を示すグラフである。
【図3】実施例1〜5及び比較例2、3で得られた、ピーク強度比I/Iと比活性との相関を示すグラフである。
【図4】実施例6〜8及び比較例4で得られた、ピーク強度比I/Iと比活性との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
(水素化処理用触媒)
本実施形態における水素化処理用触媒は、アルミニウム酸化物を含む無機担体及び該無機担体に担持されたコバルトを含有する。
【0017】
アルミニウム酸化物を含む無機担体の好ましい例としては、アルミナ、アルミナ−シリカ、アルミナ−ボリア、アルミナ−チタニア、アルミナ−ジルコニア、アルミナ−マグネシア、アルミナ−シリカ−ジルコニア、アルミナ−シリカ−チタニア、あるいは各種ゼオライト、セビオライト、モンモリロナイト等の各種粘土鉱物などの多孔性無機化合物をアルミナに添加した担体などを挙げることができ、中でもアルミナが特に好ましい。
【0018】
本実施形態に係る水素化処理用触媒において、コバルトの担持量は、コバルト酸化物として、0.5〜10質量%であることが好ましく、1〜7質量%がより好ましい。
【0019】
また、上記の無機担体上には、コバルト以外に、周期表第8〜10族金属及びモリブデンから選択される1種又は2種以上の活性金属がさらに担持されていてもよい。コバルト以外の周期表第8〜10族金属としては、鉄、ニッケルが好ましく、ニッケルがより好ましい。本実施形態における活性金属の組み合わせとして、具体的にはコバルト−モリブデン、コバルト−モリブデン−ニッケルなどが好ましく用いられる。なお、ここで周期表とは、国際純正・応用化学連合(IUPAC)により規定された長周期型の周期表をいう。コバルト以外の活性金属の担持量は、活性金属の酸化物として、0.5〜40質量%であることが好ましく、1〜30質量%がより好ましい。
【0020】
上記水素化処理用触媒であって未使用のもの(未使用触媒)の好適な態様としては、アルミニウム酸化物を含む無機担体に、触媒の全質量を基準として、コバルトを酸化物として1〜7質量%、モリブデンを酸化物として10〜30質量%、それぞれ担持させて得られる触媒が挙げられる。
【0021】
コバルト及び必要に応じて用いられるその他の活性金属を前記無機担体に担持する際に用いる活性金属種の前駆体は限定されないが、各金属の無機塩、有機金属化合物等が使用され、水溶性の無機塩が好ましく使用される。担持工程においては、これら活性金属前駆体の溶液、好ましくは水溶液を用いて担持を行うことが好ましい。担持操作としては、例えば、浸漬法、含浸法、共沈法等の公知の方法が好ましく採用される。
【0022】
活性金属前駆体が担持された担体は、乾燥後、好ましくは酸素の存在下に焼成され、活性金属種は一旦酸化物とされることが好ましい。さらに留出石油留分の水素化処理を行う前に、予備硫化と呼ばれる硫化処理により、活性金属を硫化物とすることが好ましく行われる。
【0023】
(水素化処理工程)
留出石油留分の水素化処理工程においては、水素化処理反応の前に、当該設備に充填された触媒を、予備硫化と呼ばれる硫黄化合物による触媒の処理により活性金属種を金属硫化物とすることが好ましい。
【0024】
予備硫化の条件としては特に限定されないが、留出石油留分の水素化処理に使用する原料油に硫黄化合物を添加し、これを温度200〜380℃、LHSV 1〜2h−1、圧力は水素化処理運転時と同一、処理時間48時間以上の条件にて、前記再生水素化処理用触媒に連続的に接触せしめることが好ましい。前記原料油に添加する硫黄化合物としては限定されないが、ジメチルジスルフィド(DMDS)、硫化水素等が好ましく、これらを原料油に対して原料油の質量基準で1質量%程度添加することが好ましい。
【0025】
留出石油留分の水素化処理工程における運転条件は特に限定されず、触媒の活性金属種が硫化物である状態を維持する目的で、DMDS等の硫黄化合物を原料油に少量添加してもよいが、通常は原料油中に既に含有される硫黄化合物により硫化物である状態を維持することが可能であるので、硫黄化合物は特に添加しないことが好ましい。
【0026】
水素化処理工程における反応器入口における水素分圧は好ましくは3〜13MPa、より好ましくは3.5〜12MPa、特に好ましくは4〜11MPaである。水素分圧が3MPa未満の場合は触媒上のコーク生成が激しくなり触媒寿命が短くなる傾向にある。一方、水素分圧が13MPaを超える場合は反応器や周辺機器等の建設費が上昇し、経済性が失われる懸念がある。
【0027】
水素化処理工程におけるLHSVは、好ましくは0.05〜5h−1、より好ましくは0.1〜4.5h−1、特に好ましくは0.2〜4h−1の範囲で行うことができる。LHSVが0.05h−1未満である場合には、反応器の建設費が過大となり経済性が失われる懸念がある。一方、LHSVが5h−1を超える場合には原料油の水素化処理が十分に達成されない懸念がある。
【0028】
水素化処理工程における水素化反応温度は、好ましくは200℃〜410℃、より好ましくは220℃〜400℃、特に好ましくは250℃〜395℃である。反応温度が200℃を下回る場合には、原料油の水素化処理が十分に達成されない傾向にある。一方、反応温度が410℃を上回る場合には、副生成物であるガス分の発生が増加するため、目的とする精製油の収率が低下することとなり望ましくない。
【0029】
前記水素化処理工程における水素/油比は、好ましくは100〜8000SCF/BBL、より好ましくは120〜7000SCF/BBL、特に好ましくは150〜6000SCF/BBLの範囲で行うことができる。水素/油比が100SCF/BBL未満の場合には、リアクター出口での触媒上のコーク生成が進行し、触媒寿命が短くなる傾向にある。一方、水素/油比が8000SCF/BBLを超える場合には、リサイクルコンプレッサーの建設費が過大になり、経済性が失われる懸念がある。
【0030】
前記水素化処理工程における反応形式は特に限定されないが、通常は、固定床、移動床等の種々のプロセスから選ぶことができるが、固定床が好ましい。また反応器は塔状であることが好ましい。
【0031】
留出石油留分の水素化処理に供される原料油としては、蒸留試験による留出温度が好ましくは130〜700℃、さらに好ましくは140〜680℃、特に好ましくは150〜660℃の範囲のものが使用される。留出温度が130℃を下回る原料油を用いた場合には水素化処理反応が気相での反応となり、上記の触媒では性能が充分に発揮されない傾向にある。一方、留出温度が700℃を上回る原料油を用いた場合には、原料油中に含まれる重金属などの触媒に対する被毒物の含有量が大きくなり、上記触媒の寿命が大きく低下する。原料油として用いる留出石油留分のその他の性状としては特に限定されないが、代表的な性状としては、15℃における密度が0.8200〜0.9700g/cm、硫黄含有量1.0〜4.0質量%である。
【0032】
硫黄含有量とは、JIS K 2541―1992に規定する「原油及び石油製品―硫黄分試験方法」の「放射線式励起法」に準拠して測定される硫黄含有量を意味する。また、蒸留試験とは、JIS K 2254に規定する「石油製品―蒸留試験方法」の「減圧法蒸留試験方法」または「ガスクロマトグラフ法蒸留試験方法」に準拠して行われるものを意味する。15℃における密度と、JIS K2249に規定する「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量・容量換算表」の「振動式密度試験方法」に準拠して行われるものを意味する。
【0033】
(再生処理条件の選別方法)
本実施形態に係る再生処理条件の選別方法は、以下の工程を備える。
工程(1):アルミニウム酸化物を含む無機担体及び該無機担体に担持されたコバルトを含有する水素化処理用触媒であって水素化処理に用いられる前の触媒について、X線吸収微細構造分析を行い、Co K吸収端の広域X線吸収微細構造スペクトルから動径分布曲線を得、該動径分布曲線においてCo−O結合に帰属されるピークの強度Iを求める。
工程(2):水素化処理後の上記水素化処理用触媒について所定の条件で再生処理を行い、再生処理後の該触媒についてX線吸収微細構造分析を行い、Co K吸収端の広域X線吸収微細構造スペクトルから動径分布曲線を得、該動径分布曲線においてCo−O結合に帰属されるピークの強度Iを求める。
工程(3):工程(1)で得られたIに対する工程(2)で得られたIの比I/Iを求め、予め得られているピーク強度の比I/Iと触媒活性との相関に基づいて第2の工程における再生処理の条件の良否を判定する。
【0034】
工程(1)、(2)におけるXAFS(X−ray Absorption Fine Structure)分析は、電子加速器で発生する放射光に含まれるX線、あるいはこれに相当するX線を、エネルギーを変化させて分析対象物質に照射し、該物質のX線吸収率をX線エネルギーに対してプロットした吸収スペクトル(XAFSスペクトル)により該物質の構造を分析する手法である。EXAFSスペクトルは、XAFSスペクトルのうち、照射X線エネルギーに対してX線吸収率が急激に変化する領域(吸収端、本実施形態においてはCo K吸収端)よりも高エネルギー側の領域のスペクトルである。このEXAFSスペクトルをフーリエ変換することにより、図2に示す動径分布曲線を得ることができる。
【0035】
このようにしれ得られる動径分布曲線から、測定対象原子の周囲の構造に関する情報を得ることができる。本実施形態においては、動径分布関数においてCo−O結合に帰属されるピーク(通常、原子間距離0.16nm±0.02nmの範囲にあるピーク)に着目し、工程(1)、(2)ではピークの強度I、Iを求める。
【0036】
本発明におけるXAFS分析は、以下の方法により実施される(後述する実施例においても同様である。)。
X線源:連続X線
分光結晶:Si(111)
ビームサイズ:1mm×2mm
検出器:電離箱
測定雰囲気:大気
Dwell time:1sec
測定範囲:Co K吸収端(7200〜8800eV)
データ解析(フーリエ変換)プログラム:REX2000(リガク製)
【0037】
また、EXAFSスペクトルを抽出する際のベースラインの取り方等、データ解析の詳細については、「X線吸収分光法 ―XAFSとその応用― 太田俊明編、アイピーシー発行(2002)、57〜61ページ」に記載されている方法に従ってXAFS解析統合ソフトウェアREX2000(リガク)を用いて行うことができる。後述する実施例においてもこの手法を採用した。
【0038】
工程(3)では、工程(1)で得られたIに対する工程(2)で得られたIの比I/Iを求め、予め得られているピーク強度の比I/Iと触媒活性との相関に基づいて第2の工程における再生処理の条件の良否を判定する。
【0039】
本実施形態において、工程(3)で用いるピーク強度比I/Iと触媒活性との相関は、異なる再生処理条件で再生処理した複数の再生水素化処理用触媒について、それぞれ上記の工程(2)を行い、その一方で、これらの再生水素化処理用触媒の触媒活性を評価することによって、予め求めておくことができる。再生処理条件としては、処理温度、処理時間、処理雰囲気などが挙げられる。また、評価する触媒活性としては、脱硫活性などが挙げられる。
【0040】
例えば、未使用触媒について上記の工程(1)を行う。また、使用済みの水素化処理用触媒について処理温度を変化させ、それ以外の再生処理条件を固定した再生処理を行うことにより複数の再生水素化処理用触媒を得、それらの再生水素化処理用触媒について、それぞれ上記の工程(2)を行う。その一方で、未使用触媒及び再生水素化処理用触媒のそれぞれについて脱硫活性を評価し、得られるI/Iと脱硫活性との相関を予め求めておく。なお、未使用触媒(新触媒)の活性はその製造者、製造単位等によりそれぞれ異なるため、水素化処理用触媒を使用した後再生処理して得られる再生水素化処理用触媒の活性は、相当する未使用の触媒の活性基準での相対的な活性により評価することが妥当と考えられる。そこで、下記の式により定義される比活性により再生水素化処理用触媒の活性を評価する。
比活性=再生水素化処理用触媒の脱硫速度定数/未使用の水素化処理用触媒の脱硫速度定数
【0041】
このようにして得られるピーク強度比I/Iと触媒活性との相関に基づいて、第2の工程における再生処理の条件の良否を判定することによって、使用済みの水素化処理用触媒から、安定して高い活性を有する再生水素化処理用触媒を製造するための再生処理条件を精度よく選別することができる。
【0042】
(再生水素化処理用触媒の製造方法)
本実施形態に係る再生水素化触媒の製造方法は、上記の方法により選別された再生処理条件下、アルミニウム酸化物を含む無機担体及び該無機担体に担持されたコバルトを含有する水素化処理用触媒であって、留出石油留分を処理するための水素化処理に使用された後の触媒を再生処理する工程を備える。
【0043】
再生処理工程に用いられる設備は特に限定されないが、留出石油留分の水素化処理設備とは異なる設備で行われることが好ましい。すなわち、留出石油留分の水素化処理設備の反応器に触媒を充填したままの状態で再生処理を行うのではなく、反応器より触媒を抜き出し、抜き出された触媒を再生処理のための設備に移動させて、該設備により再生処理を行うことが好ましい。
【0044】
使用済み触媒の再生処理を行うための形態は限定されないが、使用済み触媒から微粉化した触媒、場合により触媒以外の充填材等を篩い分けにより除去する工程、使用済み触媒に付着した油分を除去する工程(脱油工程)、使用済み触媒に沈着したコーク、硫黄分等を除去する工程(再生工程)からこの順に構成されるものであることが好ましい。
【0045】
このうち、脱油工程には、酸素が実質的に存在しない雰囲気、例えば窒素雰囲気下に、使用済み触媒を200〜400℃程度の温度に加熱することにより油分を揮散せしめる方法などが好ましく採用される。また、脱油工程は、軽質の炭化水素類にて油分を洗浄する方法、あるいはスチーミングによる油分の除去等の方法によるものであってもよい。
【0046】
再生工程における再生処理条件としては、上記の再生処理条件の選別方法において「良」と判定されたものを採用する。例えば、選別された上記条件が、下記式(1)で表される条件を満たすものであると、再生処理後の水素化処理用触媒に十分な触媒活性を付与することができ、好ましい。
1.22≦I/I≦1.35 (1)
[式(1)中、Iは、水素化処理に用いられる前の前記水素化処理用触媒の動径分布曲線における、Co−O結合に帰属されるピークの強度を示し、Iは、水素化処理及び再生処理を経た後の前記水素化処理用触媒の動径分布曲線における、Co−O結合に帰属されるピークの強度を示す。]
【0047】
また、本実施形態における再生処理の処理雰囲気、処理温度及び処理時間は、以下のようにすることができる。但し、以下の記載は、処理雰囲気、処理温度及び処理時間が各要件を満たせば必ず再生水素化処理用触媒に十分な触媒活性を付与できることを意味するものではなく、本実施形態における再生処理の処理雰囲気、処理温度及び処理時間は、再生処理条件の選別方法の工程(3)において「良」と判定されるように適宜選定されるものであることは言うまでもない。
【0048】
再生工程における処理雰囲気は、分子状酸素が存在する雰囲気、例えば空気中、特には空気流中とすることが好ましい。
【0049】
また、再生工程の処理温度は、再生水素化処理用触媒の履歴等に応じて異なるが、好ましくは250〜380℃、より好ましくは260〜350℃、さらに好ましくは280〜320℃の範囲で選択される。沈着したコーク、硫黄分等を酸化して除去する方法が好ましく採用される。加熱温度が前記下限温度を下回る場合には、コーク、硫黄分等の触媒活性を低下せしめた物質の除去が効率的に進行しない等の傾向にある。一方、加熱温度が前記上限温度を超える場合には、触媒中の活性金属が複合金属酸化物を形成する、凝集を起こす等して、得られる再生水素化処理用触媒の活性が低下する傾向にある。
【0050】
前記再生処理の時間は、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは2時間以上、さらに好ましくは2.5時間以上、特に好ましくは3時間以上である。処理時間が0.5時間未満の場合には、コーク、硫黄分等の触媒活性を低下せしめた物質の除去が効率的に進行しない傾向にある。
【0051】
(再生水素化処理用触媒)
上記の製造方法によって得られた再生水素化処理用触媒は、工程(3)におけるピーク強度比I/Iが1.22〜1.35の範囲内のものであることが好ましく、より好ましくは1.25〜1.34、さらに好ましくは1.27〜1.33である。ピーク強度比I/Iが上記の範囲内であると、コバルトの酸化物の構造変化に起因する触媒活性の低下を十分に抑制することができる。
【0052】
また、再生水素化処理用触媒に含まれる残留カーボン量は、再生水素化処理用触媒の質量基準で、好ましくは0.15質量%以上、さらに好ましくは0.4質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上であり、また、好ましくは3.0質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以下、特に好ましくは2.0質量%以下である。0.15質量%を下回ると、再生工程における熱履歴を受けて活性金属の凝集等が起こり、再生水素化処理用触媒の活性が低下する傾向にある。一方、3.0質量%を超える場合には、カーボンが触媒の活性点を塞いでしまうことにより再生水素化処理用触媒の活性が低下する傾向にある。なお、本発明において「残留カーボン」とは、使用済みの水素化処理用触媒を再生処理した後に該再生水素化処理用触媒中に残留するカーボン(コーク)をいい、再生水素化処理用触媒中の残留カーボン量は、JIS M 8819に規定する「石炭類及びコークス類−機器分析装置による元素分析方法」に準拠して測定を行う。
【0053】
(再生水素化処理用触媒の使用法)
本実施形態に係る再生水素化処理用触媒は、上述の留出石油留分の水素化処理工程の触媒として単独で使用してもよく、未使用触媒と積層して使用してもよい。未使用触媒と積層して使用する場合、再生水素化処理用触媒の割合は特に限定されるものではないが、触媒廃棄量の削減、触媒交換時における触媒の分離し易さ等の観点で未使用触媒100に対して80以上(質量比)が好ましく、120以上(質量比)がより好ましい。
【実施例】
【0054】
次に実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0055】
[実施例1〜4、比較例1、2]
(未使用触媒および再生触媒)
まず、活性金属としてコバルト及びモリブデンをアルミナ担体に担持した触媒(未使用触媒、コバルト担持量:2.5質量%、モリブデン担持量:22.9質量%)を用意した。次に、上記の触媒の一部を、灯油の水素化処理設備において2年間使用し、使用済み触媒を得た。
【0056】
(再生処理)
次に、上記の使用済み触媒について、空気流中、表1に示す処理温度で5時間の再生処理を行った。このようにして得られた実施例1〜4及び比較例2の再生触媒(1回再生触媒)について、以下のXAFS分析及び触媒活性の評価を行った。また、比較例1では、上記の未使用触媒をそのまま用いて、XAFS分析及び触媒活性の評価を行った。
【0057】
(XAFS分析)
比較例1の未使用触媒並びに実施例1〜4及び比較例2の各再生触媒についてXAFS分析を行い、各触媒のCo K吸収端のEXAFSスペクトルから動径分布曲線を得、該動径分布曲線におけるCo−O結合に帰属されるピーク(原子間距離0.16nm±0.02nmの範囲にある主ピーク)の強度I又はIを求めた。XAFS分析の手順の詳細は実施形態において説明した通りである。実施例1〜4及び比較例1、2で得られたピーク強度比I/Iを表1に示す。
【0058】
(触媒活性の評価)
未使用触媒又は複数の再生触媒のそれぞれについて、以下のようにして触媒活性を評価した。
まず、固定床連続流通式反応装置に触媒を充填し、触媒の予備硫化を行った。具体的には、灯油留分に、該留分の質量基準で1質量%のDMDSを添加し、これを48時間前記触媒に対して連続的に供給した。そしてその後、上記の灯油留分(DMDS未添加のもの)を原料油として、水素分圧3MPa、LHSV1h−1、水素/油比200NL/L、反応温度300℃で水素化処理反応を行った。生成油中の硫黄分含有量から、脱硫速度定数を求めた。また、再生触媒1に対応する未使用の触媒を用いて同様の反応を行って脱硫速度定数を求め、これらから再生触媒1の比活性を算出した。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示した結果から、ピーク強度比I/Iが1.24〜1.32の範囲内であれば、1回再生触媒の未使用触媒に対する比活性を0.90以上となると予測できる。
【0061】
[実施例5、比較例3]
実施例5及び比較例3においては、それぞれ再生処理温度を200℃又は450℃としたこと以外は上記と同様にして、再生処理及びXAFS分析を行った。実施例5及び比較例3で得られたピーク強度比I/Iを表2に示す。
また、実施例1〜4及び比較例1、2で得られたピーク強度比I/Iと触媒活性との相関に基づいて、実施例5の再生処理条件によれば、1回再生触媒の未使用触媒に対する比活性は0.90以上になると予測した。一方、比較例3の再生処理条件によれば、1回再生触媒の未使用触媒に対する比活性は0.90未満になると予測した。
【0062】
次に、実施例5及び比較例3の各再生触媒について、上記と同様にして触媒活性の評価を行った。得られた比活性を表2に示す。
表2に示したように、実施例5及び比較例3のいずれの場合も、ピーク強度比I/Iから予測した触媒活性と、実際に評価した触媒活性とが良好な相関を示した。
【0063】
【表2】

【0064】
さらに、実施例1〜5及び比較例2、3で得られたピーク強度I/Iと比活性との相関を図3に示す。図3に示した結果から、ピーク強度比I/Iが1.22〜1.35の範囲内であれば、1回再生触媒の未使用触媒に対する比活性は0.90以上となると予測できる。
【0065】
[実施例6、7、比較例4]
上記の実施例4の再生触媒の一部を、灯油の水素化処理設備において2年間使用し、使用済み触媒を得た。
この使用済み触媒について、空気流中、表3に示す処理温度で5時間の再生処理を行った。このようにして得られた実施例6、7及び比較例4の再生触媒(2回再生触媒)について、上記と同様にしてXAFS分析及び触媒活性の評価を行った。得られたピーク強度比I/I及び比活性を3に示す。なお、表3に示すピーク強度I/I及び比活性は、それぞれ比較例1の未使用触媒を基準とするものである。
【0066】
【表3】

【0067】
表3に示した結果から、ピーク強度比I/Iが1.23〜1.31の範囲内であれば、2回再生触媒の未使用触媒に対する比活性は0.80以上となると予測できる。
【0068】
[実施例8]
実施例8においては、再生処理温度を400℃としたこと以外は上記と同様にして、再生処理及びXAFS分析を行った。実施例8で得られたピーク強度比I/Iを表4に示す。
ここで、実施例6、7及び比較例4で得られたピーク強度比I/Iと触媒活性との相関に基づいて、実施例8の再生処理条件によれば、2回再生触媒の未使用触媒に対する比活性は0.80以上となると予測した。
【0069】
次に、実施例8の再生触媒について、上記と同様にして触媒活性の評価を行った。得られた比活性を表4に示す。
表4に示したように、実施例8においては、ピーク強度比I/Iから予測した触媒活性と、実際に評価した触媒活性とが良好な相関を示した。
【0070】
【表4】

【0071】
さらに、実施例6〜8及び比較例4で得られたピーク強度I/Iと比活性との相関を図4に示す。図4に示した結果から、ピーク強度比I/Iが1.22〜1.35の範囲内であれば、2回再生触媒の比活性を0.80以上となると予測できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
留出石油留分を処理するための水素化処理用触媒を再生処理するに際し、再生処理条件を選別する方法であって、
アルミニウム酸化物を含む無機担体及び該無機担体に担持されたコバルトを含有する水素化処理用触媒であって水素化処理に用いられる前の触媒について、X線吸収微細構造分析を行い、Co K吸収端の広域X線吸収微細構造スペクトルから動径分布曲線を得、該動径分布曲線においてCo−O結合に帰属されるピークの強度Iを求める第1の工程と、
水素化処理後の上記水素化処理用触媒について所定の条件で再生処理を行い、再生処理後の該触媒についてX線吸収微細構造分析を行い、Co K吸収端の広域X線吸収微細構造スペクトルから動径分布曲線を得、該動径分布曲線においてCo−O結合に帰属されるピークの強度Iを求める第2の工程と、
前記第1の工程で得られたIに対する前記第2の工程で得られたIの比I/Iを求め、予め得られているピーク強度の比I/Iと触媒活性との相関に基づいて前記第2の工程における再生処理の条件の良否を判定する第3の工程と、
を備える、水素化処理用触媒の再生処理条件の選別方法。
【請求項2】
アルミニウム酸化物を含む無機担体及び該無機担体に担持されたコバルトを含有する水素化処理用触媒であって留出石油留分を処理するための水素化処理に使用された後の触媒を、請求項1に記載の方法により選別された条件で再生処理する工程を備える、再生水素化処理用触媒の製造方法。
【請求項3】
選別された前記条件が、下記式(1)で表される条件を満たすものである、請求項2に記載の方法。
1.22≦I/I≦1.35 (1)
[式(1)中、Iは、水素化処理に用いられる前の前記水素化処理用触媒の動径分布曲線における、Co−O結合に帰属されるピークの強度を示し、Iは、水素化処理及び再生処理を経た後の前記水素化処理用触媒の動径分布曲線における、Co−O結合に帰属されるピークの強度を示す。]


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−200797(P2011−200797A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70553(P2010−70553)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】