説明

水素化及び脱水素化による固相反応を利用した高強度マグネシウム合金の製造方法

【課題】 高強度マグネシウム合金を安価で、比較的簡便な方にて製造することができる新しい製造方法を提供すること。
【解決手段】 亜鉛とイットリウムを含むマグネシウム合金の製造を、予め水素化物としてミリング処理し、脱水素化処理後、焼結処理をすることを特徴とする。具体的には、先ずマグネシウムとイットリウムをアーク溶解法にて化学量論的MgY化合物を形成後、マグネシウム及び亜鉛と共に耐圧性のミリング容器に入れ、遊星型のボールミル装置を用い、10気圧程度の水素雰囲気中にてマグネシウムが完全に水素化されるまでボ−ルミリング処理を行い、圧縮成型後脱水素化処理し、更に圧縮成型後焼結処理をする工程からなる高強度マグネシウム合金の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合金水素化物を脱水素化処理して作製する高強度マグネシウム合金の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
細江等は、水素を用いたマグネシウム合金の製造技術を開示している(特許文献1参照)が、それはあくまでも水素貯蔵を目的としたものであり、合金成分として選ばれる元素も水素吸収・放出特性を向上させるために必要なものであり、高強度を目的とする場合に選ばれる元素については何ら述べられていない。又、川村等は高強度で高延性を有するマグネシウム合金として、原子%でMg97Znを代表とする高強度マグネシウム合金の製造技術を開示している(特許文献2参照)。その製造法は急速凝固粉末冶金法によるもので、その概要を説明すると、ガス・アトマイズ法と呼ばれる方法で急速凝固粉末を作製し、作製された粉末を粒径32μm以下に分級処理後、銅缶に入れて溶接封入し、ビレットを作製する。このビレットを温間押し出し加工して固化成型するというものである。更に、マグネシウム粉末は発火の危険が大きいので処理は真空中で実施する必要がある。そのために装置は大がかりとなり、高価な装置を準備する必要があり大量生産に向いた製造方法とは言えない。西等は軽量で、高強度と高延性を備えたMg合金技術を開示している(特許文献3及び4参照)。合金の組成はMg100-a-bLnaZnb:Lnは希土類元素、0.5≦a≦5.0、0.2≦b≦4、1.5≦a+b≦7というものである。製造方法は川村等と類似の方法であり、既に述べたような問題点を含んでいる。
【特許文献1】再公表特許01/000891公報
【特許文献2】再公表特許02/066696公報
【特許文献3】公開特許2004-099940公報
【特許文献4】公開特許2004-099941公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
高強度マグネシウム合金に関してはいくつかの技術が知られているが、従来の製造技術は大がかりな装置を必要とし、且つマグネシウムが粉末状態では特に発火しやすい性質を有する元素である為、製造工程を大がかりな真空装置中で行う必要があった。このような状況を踏まえて、本発明は軽量で、高強度なマグネシウム合金を大がかりな設備を必要とせず、比較的簡便な方法で製造する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
マグネシウムが特に粉末状態では発火しやすいという問題に関しては水素化物とすることで解決が可能となる。亜鉛及びイットリウムを添加元素とするマグネシウム合金を水素中でボールミリングして水素化した合金粉末を得ることが望ましい。しかし、イットリウム金属は硬いためマグネシウムと一緒にボールミリング処理しても簡単には粉末化できない。またイットリウムの粉末は酸化し易く、入手も容易でないためイットリウム粉末を原料として用いることはできない。色々と検討する中で、予めマグネシウムとイットリウムの化学量論的化合物を作り、それをマグネシウム及び亜鉛とともにボールミリング処理すると良好に微粉化出来ることを見いだした。すなわち、Mg24のようなMgY系化学量論的化合物、マグネシウム及びイットリウムを目的とする原子%組成比となるような量にて適切なボールミリング容器に入れ、水素ガス中にてボールミリング処理し、合金成分元素を含むマグネシウム水素化物を得る。この粉末を直接に脱水素化処理するか、またはあらかじめ加圧成型した後に脱水素化する。加圧成型することにより表面積を減らし、脱水素化後の酸化を防ぐ効果がある。脱水素化後は加圧成型した後、焼結処理をするという製造方法である。
【発明の効果】
【0005】
本法によれば、水素雰囲気中でミリングすることにより、マグネシウムを溶融することなく室温で水素化物を生成することができる。更に、得られる水素化物は脆い性質のために微粉化が容易に進行し、結晶粒も微細化されやすいという利点を有する。水素化物は空気に曝されても酸化の恐れがないため、大気中で取り扱えるという利点も有する。以上の理由により、本発明の製造技術により、高強度マグネシウム合金を安全に、且つ簡単で安価な方法にて入手することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
ボールミリング原材料としての主成分であるマグネシウム(Mg)は削片を使用する。合金成分として用いる亜鉛(Zn)は金属片を、イットリウム(Y)はアーク溶解法で作製したMg24等の組成比(原子%)の化学量論的MgY化合物を原材料として使用する。これらの原材料を合金として目的の組成比になるような量にて、真空排気可能な耐圧ボールミル容器に投入し、真空排気した後、10気圧から20気圧の水素ガスを導入する。水素ガスを導入した状態でボールミリング処理を行う。ミリング容器内の水素圧力が水素化反応で減少した分を補うため、適宜水素ガスを加圧補充し、投入した全てのマグネシウムが水素化するまでミリングを行う。Mgの水素化反応の進行度合いは投入した材料をX線回折測定することで判定することが出来る。すなわち、銅をターゲットとするX線回折において回折角(2θ)が45度付近のMgに基づく回折ピークが消失し、27.5度付近等のMgHに固有の回折ピークのみが得られるようになれば、投入したMgは完全に水素化されたと判定することが出来る。水素化が完了したら、粉末試料を容器から取り出し、プレス機にて20〜100MPa程度の圧力を加え、ディスク状に加圧成型する。加圧成型後、真空炉にて、真空度6.5×10−3Pa、温度約350〜400℃で約1時間、脱水素処理を行う。脱水素化処理をし、室温まで冷却した試料をプレス機にて70〜200MPa程度の圧力で加圧成型処理を行う。その試料を再び真空炉にて真空度約6.5×10−3Pa、温度400℃から500℃の間で焼結処理を行う。焼結処理をした試料は場合によっては再び加圧成型する。以下にその具体例を実施例にて示す。
【実施例】
【0007】
マグネシウム(Mg)とイットリウム(Y)をアーク溶解することにより合金化し、Mg24の組成のMgY化合物を作製した。原子%でMg97%、Zn1%、Y2%となるように、Mg削片、亜鉛(Zn)片及びMg24化合物をそれぞれ耐圧性のボールミリング容器に投入する。ミリング容器を10−2〜10−3Pa程度に真空排気した後、10気圧の水素ガス(純度99.99999%以上)を容器に導入する。遊星型ボールミリング装置を用い、ミリング容器の回転速度はボールが重力加速度の約10から20倍になるように調節する。ミリング開始後1時間経過毎に水素ガスを補充して10気圧に保つ。図1には、ミリング時間が5時間、7時間及び10時間経過後の容器中の試料のX線回折結果を示した。10時間ミリングした後では、マグネシウムは完全に水素化されていると判断できた。ミリングにより水素化が完了した試料を容器から取り出し、プレス機にて約50MPaの圧力にて、円板状に成型する。その後、10−3〜10−4Pa程度の真空度に排気された真空焼鈍炉にて400℃の温度で1時間、脱水素化処理を行った。脱水素化処理した円板試料をプレス機にて75MPa以上の圧力で加圧処理した後、10−3〜10−4Pa程度の真空度に排気された真空焼鈍炉にて、450℃にて1時間保持し、焼結処理を行った。このようにして原子%比率でMg97Znという組成を有するMg合金を得た。この試料の体積密度は理論値の98%以上であった。4.9ニュートン(N)の荷重で測定したビッカース硬度の値は176Hvで、これを引っ張り強度に換算すると約601MPaとなり、高強度な合金であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0008】
従来法と違いマグネシウムを溶解する行程を取ることなく微細な結晶粒を有する高強度マグネシウム合金が得られる点、水素化物を利用することで大気中での取り扱いが可能となる点などにより、簡便で比較的容易な方法にて高強度マグネシウム合金を得ることができるので、航空機や自動車等の部品材料を製造する技術として使用される可能性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】Mg、Zn及びMg24化合物を1MPaの水素ガス中にてボールミリング処理した試料のミリング処理時間5,7,10時間経過後のX線構造回折結果及び脱水素化処理後の試料のX線構造回折結果を示す。ここでX線源は銅を用いた。
【符号の説明】
【0010】
(a)ミリング処理5時間経過試料
(b)ミリング処理7時間経過試料
(c)ミリング処理10時間経過試料
(d)脱水素化処理後の試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム(Mg)とイットリウム(Y)から成るMgY系化合物、マグネシウム及び亜鉛(Zn)を水素ガス中にてボールミリング処理し、得られた水素化物を脱水素化処理し、更に加圧成型後、焼結処理を行う高強度マグネシウム合金の製造方法。
【請求項2】
水素ガス中でのボールミリング処理を含まれているマグネシウムが完全に水素化されるまで行う請求項1に記載の高強度マグネシウム合金の製造方法。
【請求項3】
合金成分に用いるイットリウム(Y)を原子%でMg24、MgYまたはMgYのいずれかの化学量論的化合物から合金成分として取り込む請求項1に記載の高強度マグネシウム合金の製造方法。
【請求項4】
加圧成型後の脱水素化処理を400℃以下にて行う請求項1に記載の高強度マグネシウム合金の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−176802(P2006−176802A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−369053(P2004−369053)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 日本金属学会2004年秋期(第135回)大会 主催者名 社団法人日本金属学会 開催日 2004年9月29日
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】