説明

水素化触媒の再生方法

不活性担体上のRu、Rh、Pd、Os、Ir及びPtからなる群から選択される少なくとも1種の触媒金属を含む使用ずみの水素化触媒を再生する方法であって、前記再生方法は本質的に、酸素の存在下で300〜700℃の温度における熱処理からなる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、特定の水素化触媒を再生する方法、及びそのような再生された触媒を用いる産業的方法に関する。
【0002】
多くの産業的方法は、触媒水素化工程を用いる。このために大いに好適な触媒は、不活性担体(シリカ、アルミナなど)上の元素Ru、Rh、Pd、Os、Ir及びPtから選択される周期表のVIII族の金属を含むものである。
そのような方法の例は、エチレン(C2H4)の直接塩素化及びオキシ塩素化をカップリングして、1,2-ジクロロエタン(DCEa)を形成し、これを熱分解に付して、一方でVCM及び他方でHClを形成することによる塩化ビニルモノマー(VCM)の製造である。この熱分解の過程で、約2,000ppm(HClの体積と比較した体積)のオーダーの少量のアセチレン(C2H2)が共に製造されるが、それらの非常に類似した揮発度のため、HClから容易に分離することができない。続いて、熱分解によるHClはオキシ塩素化に再循環され、その過程中にC2H2は反応して種々の価値のない副生成物を与え、これらはこの方法の収益性に有害となる。このC2H2を除去するための的確な一つの既知な方法は、適切な触媒を用いる水素化によって、それをエチレン(C2H4)に転化することから成る。一つのそのような触媒は、独国特許出願第24 38 153号明細書に記載されており、これは特に非多孔性シリカに担持されたPdに基づく触媒を説明している。しかし、この触媒は使用されると徐々に失活し、上記の出願はその再生理論の可能性を記載しているが、実際のところ、そのような再生は特に重金属によるこの触媒の汚染のために効果がないことが証明された(H. Muellerら., Chem.-Ing.-Tech. 59 (1987) No. 8, pp. 645-7)。
【0003】
しかし、本出願人は驚くべきことに、そのような汚染された触媒を酸素存在下で、汚染物質を除去するのに十分であるが触媒を害しないために高すぎない温度で処理すると、前記触媒はそれにもかかわらず十分に再生できることが見出された。
従って、本発明は、不活性担体上のRu、Rh、Pd、Os、Ir及びPtからなる群から選択される少なくとも1種の触媒金属を含む水素化触媒を再生する方法を提供し、前記再生方法は本質的に、酸素の存在下での300〜700℃の温度における熱処理からなる。
【0004】
上記触媒金属の中で、好ましいのはPt及びPdである。Pdは、その高い水素吸着能力のために特に好ましい。触媒における触媒金属の濃度は、一般的に0.01質量%(触媒の全質量に対して)以上、好ましくは0.05質量%以上、又はさらに0.1質量%以上である。しかし、この濃度は、一般的に10質量%以下、さらに5質量%以下、又はさらに1質量%以下である。
本発明の方法によって再生することのできる触媒の不活性担体は、好ましくは多孔性及び非多孔性シリカ、アルミナ及びシリカ-アルミナから選択される。主としてシリカに基づく担体(言い換えれば50%よりも多く、好ましくは95%よりも多くがSiO2からなる)が、良好な結果を示す。担体は、好ましくは非多孔性又は低多孔性であり、言い換えれば5m2/gよりも少ない、好ましくは3m2/gよりも少ない、又はさらに1m2/gよりも少ない比表面積(窒素によるBET方法に基づいて測定)を有する。この担体の平均孔容積は、都合よくは0.01mL/gよりも少ない。その粒子サイズは、都合よくは1〜20mm、又はさらに2〜10mm、及び好ましくは3〜7mmである。この担体上の触媒金属は、一般的にミクロン以下の層で存在する。それは、一般的に0.1〜0.5μmのサイズを有する微結晶の形態である。特に、上記引例(独国特許出願24 38 153号明細書及びMuellerによる論文)に記載の非多孔性シリカが、良好な結果を示す。
【0005】
本発明の方法が“本質的に熱処理からなる”という事実によって意味されるのは、触媒の再生の大部分(言い換えれば、選択率及び/又は転化率における少なくとも50%の増加)が熱処理によって実現されることである。好ましくは、再生の少なくとも75%が熱処理の成果であり、又はさらに少なくとも90%以上、及び特に好ましくは再生の全てがその成果であり、本発明のこの見解では、その方法が、前記熱処理よりも前又は後の任意の再生処理(例えば蒸気又はH2による)の不存在下で起こり、従って熱処理から得られた触媒がそのままで水素化反応に再利用されることを意味している。
しかし、一般的に注意が払われるのは、依然として触媒の表面上に存在する反応物質を、本発明の熱再生の前に除去することである(例えば、窒素でフラッシすることによる)。
同様に、“そのままの触媒の再利用”によって意味されるのは、新鮮な触媒と同一な使用である。そのような使用は、例えばH2でフラッシすることによる事前の活性化を含んでもよい。
【0006】
当該熱処理は、高温(300〜700℃)の酸素存在下に滞留させることからなる。熱処理中の温度は、再生の効率を増加させるために、好ましくは400℃以上、又はさらに500℃以上である。しかし、触媒を害さないために(高すぎる温度では、担持された触媒が触媒金属の“フリッティング(fritting)”、又は凝集を起こし、活性表面の減少による活性の損失となり得ることが知られているため)、好ましくは600℃以下、又はさらに550℃以下である。熱処理は、純粋な酸素の存在下で行ってもよい。しかし、好ましくは、酸素が例えば不活性ガスで希釈されている。従って、空気が良好な結果を示す。
従って、当該処理が実際には、典型的に概して酸化雰囲気と呼ばれるものを伴い、これは静的又は動的のいずれでもよい(つまり、酸素含有ガス流が再生される触媒上を通る)。動的酸化雰囲気が、良好な結果を示す。好ましくはファンを備えたストーブ又は電気オーブンにおける単純な滞留が、本発明の熱処理に用いられ得る。良好な結果を示す別の方法は、水素化反応器における触媒床に例えば現場で酸化雰囲気を通すことからなる。
【0007】
よりよい結果が一般的に得られるのは、触媒が処理中に分散されているときである:すなわち、最大表面積が酸化雰囲気にあるときである。従って、触媒は都合よくは、触媒の単層(その厚みは触媒の粒子サイズに依存する)から約20cmの層までの範囲であるが、好ましくはこの層の厚みが10cm、又はさらに5cmを超えない層に広げられる。
前記処理の時間は、当業者によって容易に決定され、再生の所望の程度に適応される。それは一般的に1時間以上、又はさらに5時間以上である。しかし、この時間は、一般的に48時間以下、又はさらに24時間以下である。同様のことを換気流速に適用し、これは好ましくは触媒1kg当たり0.01L/分(又は触媒のkg当たりリットル毎分)以上、又はさらに触媒1kg当たり0.1L/分以上であるが、一般的に触媒1kg当たり100L/分以下、又はさらに触媒1kg当たり10L/分以下である。
【0008】
本発明の方法によって再生されるべきと意図される触媒は、その触媒活性(選択率及び/又は転化率に関して)が低下した後の、“使用ずみの”触媒(すなわち、水素化反応に用いられた触媒)である。触媒活性におけるそのような低下は、一般的に炭素質成分の分解及び/又は塩素化合物及び/又は微量の少なくとも1種の重金属による汚染に帰する。“重金属”の用語は、以下の金属:Al、As、Cd、Cr、Ni、Cu、Sn、Fe、Mn、Hg、Pb、Zn及びTi(後者は一般的に重金属であると考えられていないが、それにも関わらず水素化触媒にとって破壊的な汚染を構成し、それによって本発明の中では重金属であると考える)の1つを意味すると意図される。微量の重金属が特に破壊的であり、中でもFe及びTiが特にそうであるのは、それらが一般的に、それらを運ぶ/処理するのに用いられる設備の性質による産業用水に存在するからである。同様に、H2のある供給源で遭遇し得る微量のHgも、破壊的である。“微量”によって意味されるのは、ppm、又はさらに10ppmのオーダーの量である。出発触媒がすでに微量のある重金属を含んでいるのはまれではない(特にFe、しかし一般的に50ppmよりも少ない)が、使用中にその量が増加(例えばFeの場合、50ppm以上の量に)することは、一般的に触媒活性の低下に寄与する。
【0009】
その触媒が用いられた水素化反応は、好ましくはアセチレン水素化反応である。それを好ましくは、上記したように流体に、好ましくは本質的にHClからなるガス混合物中に存在し、且つDCEaの熱分解から得られる微量のアセチレン(C2H2)に適用する。そのような混合物は一般的に、1,500〜2,500ppmのアセチレンを含む。それはしばしば、数十〜数百ppmのオーダー塩素化有機生成物、例えばVCM及び塩化メチル又は塩化エチル、及び/又は非塩素化有機生成物、例えばエチレン(C2H4)、メタン及びブタジエンも含む。これらの汚染物質は、HClから熱分解生成物を分離するための操作中の不完全な分離から生じ、前記分離は一般的に蒸留によって行われている。上記のこのタイプの反応として、非多孔性シリカ担体上のPdに基づく触媒が良好な結果を示し、本発明の方法によって容易に再生することができる。
本発明の方法によって再生された触媒は、触媒活性を有する任意の水素化反応に用いてもよい。
好ましくは、それは、前に用いたのと同様の方法で再利用される。従って、本発明はさらに、エチレンの直接塩素化及びオキシ塩素化のカップリングによって、DCEaを形成し、これを熱分解によって主にVCM及びHClに転化させることによってVCMを合成する方法も提供し、前記HClは、微量のアセチレンを含み、且つ上記方法によって再生された触媒の存在下において、これら微量のアセチレンを水素化した後に、オキシ塩素化に再循環される。
【0010】
本発明は、以下の例によって非限定的に説明される:
Degussaによって販売され、且つMuellerによる上記論文に記載の触媒E39H(表面に0.15%のPdが担持され、且つ1m2/gよりも少ない比表面積を有する、直径3〜5mmのシリカビーズ)を用いて、4年半(54ヶ月)の間、10bar下及び120〜180℃の温度で、約2,000ppmのC2H2を含むHClと接触させた。時間(1時間当たりのHClのm3(s.t.p)数と、m3で表す触媒床の体積との間の比)は、1,680時間-1であった。用いたH2の量は、C2H2のモル当たり3.8モルであった。
そのように消耗された触媒を分析し、未使用の触媒と比較した。これらの分析結果を以下の表に与える:

【0011】
一群の150kgのこの使用ずみの触媒を、それぞれ0.3m2の表面積を有する18枚のプレート上に広げた。オーブンの温度を500℃にし、18時間保持した。オーブンの換気は、100L/分の空気を投入することによって制御する。
続いて、この一群を173℃の温度で上記と同様の条件下で再利用し、その触媒活性を、以下の表において寿命の終わりの使用ずみの触媒(180℃で用いた)と比較した:

触媒活性が大いに再生された(より低い操作温度にも関わらず、転化率が改善され、且つ収率が改善された)ことが見出される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性担体上のRu、Rh、Pd、Os、Ir及びPtからなる群から選択される少なくとも1種の触媒金属を含む使用ずみの水素化触媒を再生する方法であって、当該使用ずみの触媒が、本質的にHClからなるガス混合物中に存在し、且つ1,2-ジクロロエタン(DCEa)の熱分解から得られる微量のアセチレンの水素化反応に用いられていて、前記方法が、本質的に酸素の存在下で300〜700℃の温度における熱処理からなることを特徴とする、方法。
【請求項2】
触媒金属がPdである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
不活性担体が、主にシリカに基づく、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
不活性担体が、5m2/gよりも少ないBET表面積を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
熱処理中の温度が、400〜600℃である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
熱処理が、空気の存在下で行われる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
熱処理が、ストーブ又は換気された電気オーブンでの滞留からなる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
触媒が、微量の重金属で汚染されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
エチレンの直接塩素化及びオキシ塩素化をカップリングすることで、DCEaを形成し、これを熱分解によって主にVCM及びHClに転化させることによる塩化ビニルモノマー(VCM)の合成方法であって、前記HClが、微量のアセチレンを含み、且つ請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法によって再生された触媒の存在下において、これら微量のアセチレンを水素化した後にオキシ塩素化に再循環される、方法。

【公表番号】特表2007−501691(P2007−501691A)
【公表日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522361(P2006−522361)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【国際出願番号】PCT/EP2004/051723
【国際公開番号】WO2005/014168
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(591001248)ソルヴェイ (252)
【Fターム(参考)】