説明

水素燃料の供給方法及びバイフューエルエンジン車

【課題】 エンジンで発生した廃熱を利用して、十分に低い温度で十分な量の水素をエンジンに供給することが可能な水素燃料の供給方法を提供すること。
【解決手段】 金属元素として実質的にマグネシウム及びスズのみを含有する水素吸蔵材料20に、エンジン10で発生した廃熱を供給して水素を放出させ、該水素を上記エンジン10に供給することを特徴とする水素燃料の供給方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素燃料の供給方法及びバイフューエルエンジン車に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の動力源として、現在はガソリン、軽油を燃料とするエンジンが主流となっているが、CO排出など環境負荷の点では課題も多く、将来的には燃料電池自動車や電気自動車に徐々に置き換わっていくと考えられている。
【0003】
また、環境負荷の低減という点では、水素と液体燃料の2種類の燃料を切り替えて使用できるバイフューエル車も注目を集めている。特に、水素とガソリンを併用したバイフューエル車については、限定的ではあるが販売もされている。環境負荷低減という点では、ガソリンで走る比率を減らし、水素で走る比率を増大させることが鍵と言える。
【0004】
バイフューエル車は、液体燃料については貯蔵方法が確立しているものの、水素の搭載方法については未だ技術的目処が立っていないのが現状である。例えば、水素を高圧ガスとして運搬して使用する方法が実用化されているものの、35MPa程度の極めて高圧にしても体積が過大になり、小型化が困難であるといった問題がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
水素の貯蔵方法としては、水素吸蔵合金への吸蔵も有力な方法である。しかし、水素吸蔵合金の水素吸蔵量は通常3%程度であり、移動体などに用いるためには不十分であるばかりか、重量が重くなりすぎるという欠点を有している(例えば、非特許文献2参照)。
【0006】
それに対して、マグネシウムは理論水素吸蔵量が7.6%程度と高く、水素をコンパクトに蓄える手段として有力視されている。
【0007】
【非特許文献1】秋山ら,「エンジンテクノロジー」,第5巻,第3号,2003年,p.43−47
【非特許文献2】秋葉,「エンジンテクノロジー」,第5巻,第3号,2003年,p.36−42頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
自動車に搭載されるエンジンは、駆動時に熱エネルギーを発生するが、その一部は廃熱として捨てられているのが現状である。したがって、エネルギー効率の点から、エンジンで発生する廃熱を、マグネシウムから水素を放出させるために利用することが有効である。しかしながら、マグネシウムは、通常は水素を放出するのに300℃以上の高温が必要であり、エネルギー効率の点からも水素供給システムとしての利用はなされていなかった。そのため、マグネシウムの水素放出温度をより低くし、水素の放出にエンジンで発生する廃熱を利用することで、コンパクトに水素を貯蔵することとエネルギー効率とを両立したシステムの構築が望まれている。
【0009】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、水素吸蔵量が十分に高く、且つ、水素の放出温度が十分に低い水素吸蔵材料を用い、エンジンで発生した廃熱を利用して十分な量の水素をエンジンに供給することが可能な水素燃料の供給方法、及び、該供給方法により水素をエンジンに供給する水素供給システムを備えるバイフューエルエンジン車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、金属元素として実質的にマグネシウム及びスズのみを含有する水素吸蔵材料に、エンジンで発生した廃熱を供給して水素を放出させ、該水素を上記エンジンに供給することを特徴とする水素燃料の供給方法を提供する。
【0011】
従来のマグネシウム系水素吸蔵材料としては、マグネシウムニッケル系合金が一般的であったが、本発明者らは鋭意研究の末に、ニッケルを用いることなく、マグネシウムに対してスズを単独で組み合わせることで、ニッケルを用いた場合と比較して非常に優れた水素放出温度の低温化効果が奏されることを見出した。すなわち、本発明で用いる水素吸蔵材料によれば、金属元素として実質的にマグネシウム及びスズのみを含有することにより、マグネシウムによる高い水素吸蔵量を十分に維持しつつ、スズの存在により水素放出温度を十分に低くすることができる。更に、本発明で用いる水素吸蔵材料においては、マグネシウムに対して少量のスズを加えるだけで水素放出温度の低温化効果を十分に得ることができる。そのため、水素吸蔵材料中のマグネシウムの比率を十分に高く維持することが可能であり、それによっても十分に高い水素吸蔵量を得ることが可能となる。そして、こうした十分に高い水素吸蔵量と十分に低い水素放出温度を有する水素吸蔵材料を用いることにより、エンジンで発生する廃熱を利用して十分な量の水素を燃料としてエンジンに供給することができる。したがって、本発明の水素燃料の供給方法によれば、エンジンの廃熱を有効に利用して、他の余分なエネルギーを消費することなく水素を供給することが可能であるとともに、水素を高圧ガスとして運搬する場合等と比較して、水素を貯蔵する容器の小型化を実現することができる。
【0012】
また、本発明の水素燃料の供給方法において、上記水素吸蔵材料は、上記マグネシウムを、金属元素として実質的に上記マグネシウムのみを含む粒子として含有し、且つ、上記スズを、金属元素として実質的に上記スズのみを含む粒子として含有することが好ましい。このように、マグネシウムとスズとが合金化することなく、それぞれが粒子状に存在していることにより、スズの触媒的な作用をより生かすことができる。そのため、水素放出温度をより低くすることが可能であるとともに、水素吸蔵材料中のマグネシウムの比率をより高くして水素吸蔵量を向上させることが可能である。
【0013】
更に、本発明の水素燃料の供給方法において、上記水素吸蔵材料における上記スズの含有量は、上記マグネシウム及び上記スズの合計の含有量を基準として1〜40モル%であることが好ましい。これにより、高い水素吸蔵量と低い水素放出温度とをより高水準で両立させることができる。
【0014】
本発明はまた、上記本発明の水素燃料の供給方法によりエンジンに水素を供給する水素供給システムを備えることを特徴とするバイフューエルエンジン車を提供する。
【0015】
かかるバイフューエルエンジン車によれば、上述した本発明の水素燃料の供給方法を用いた水素供給システムを備えるため、エンジンで発生する廃熱を利用して十分な量の水素を燃料としてエンジンに供給することができる。したがって、本発明のバイフューエルエンジン車によれば、エンジンの廃熱を有効に利用して、他の余分なエネルギーを消費することなく水素を供給することが可能であるとともに、水素を高圧ガスとして運搬する場合等と比較して、水素を貯蔵する容器の小型化を実現することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、エンジンで発生した廃熱を利用して十分な量の水素をエンジンに供給することが可能な水素燃料の供給方法、及び、該供給方法により水素をエンジンに供給する水素供給システムを備えるバイフューエルエンジン車を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
本発明の水素燃料の供給方法は、金属元素として実質的にマグネシウム及びスズのみを含有する水素吸蔵材料に、エンジンで発生した廃熱を供給して水素を放出させ、該水素を上記エンジンに供給することを特徴とする方法である。
【0019】
ここで、図1は、本発明の水素燃料の供給方法により水素をエンジンに供給する水素供給システムの概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、本発明の水素燃料の供給方法においては、エンジン10の駆動により発生した廃熱Aを、熱交換器30を介して熱Bとして水素吸蔵材料20に供給する。そして、水素吸蔵材料20を熱Bにより加熱することで、該水素吸蔵材料20に貯蔵されている水素を放出させ、燃料としての水素ガスCをエンジン10に供給する。この水素ガスCによってエンジン10を駆動させ、更にその時の廃熱Aを利用することで、上記のプロセスを繰り返すことができる。
【0020】
本発明の水素燃料の供給方法において用いられる水素吸蔵材料20は、金属元素として実質的にマグネシウム及びスズのみを含有するものである。
【0021】
ここで、「金属元素として実質的にマグネシウム及びスズのみを含有する」とは、マグネシウム及びスズ以外の金属元素を水素吸蔵材料20に意図的に加えていないことを意味する。すなわち、原料中に含まれる不純物としての金属元素や、ボールミリング処理等の水素吸蔵材料20の製造工程において発生する金属元素等は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、水素吸蔵材料20中に混入していてもよい。また、水素吸蔵材料20には、金属元素以外の元素は特に制限なく含有され、例えば、水素、ハロゲン等の金属元素以外の元素が含有されていてもよい。なお、水素吸蔵材料20におけるマグネシウム及びスズの合計の含有量は、含有する金属元素の総量を基準として70質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。また、本明細書において、「金属元素」とはケイ素を含む概念とする。
【0022】
水素吸蔵材料20において、マグネシウムとスズとは合金化していても合金化していなくてもよく、また、一部が合金化していてもよいが、合金化していないことが好ましい。すなわち、水素吸蔵材料20は、マグネシウムを、金属元素として実質的にマグネシウムのみを含む粒子として含有し、且つ、スズを、金属元素として実質的にスズのみを含む粒子として含有することが好ましい。なお、金属元素として実質的にマグネシウムのみを含む粒子と、金属元素として実質的にスズのみを含む粒子とは、互いに付着しながら混ざり合った状態で存在していることが好ましい。この場合、金属元素として実質的にマグネシウムのみを含む粒子と、金属元素として実質的にスズのみを含む粒子とは、合金化することなく互いに付着して複合粒子を形成した状態となる。
【0023】
ここで、「金属元素として実質的にマグネシウムのみを含む粒子」とは、マグネシウム以外の金属元素を意図的に加えていない粒子を意味し、「金属元素として実質的にスズのみを含む粒子」とは、スズ以外の金属元素を意図的に加えていない粒子を意味する。すなわち、原料中に含まれる不純物としての金属元素や、ボールミリング処理等の水素吸蔵材料20の製造工程において発生する金属元素等は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、それぞれの粒子中に混入していてもよい。また、それぞれの粒子には、金属元素以外の元素は特に制限なく含有され、例えば、水素、ハロゲン等の金属元素以外の元素が含有されていてもよい。
【0024】
水素吸蔵材料20において、スズの含有量は、マグネシウム及びスズの合計の含有量を基準として1〜40モル%であることが好ましく、10〜25モル%であることがより好ましい。スズの含有量が1モル%未満であると、水素放出温度の低温化効果が低下する傾向があり、40モル%を超えると、水素吸蔵量が低下する傾向がある。
【0025】
また、水素吸蔵材料20は、粉末状のものであることが好ましい。また、XRD分析により測定される水素吸蔵材料の結晶子のサイズは、本発明の効果をより十分に得る観点から、30nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。
【0026】
以上説明した水素吸蔵材料20は、十分に高い水素吸蔵量と、十分に低い水素の放出温度とを有するものとなる。かかる水素吸蔵材料20を用いることにより、水素ガスを高密度に貯蔵することが可能となる。
【0027】
次に、上述した水素吸蔵材料20の製造方法について説明する。水素吸蔵材料20は、マグネシウム単体及び/又はマグネシウム化合物とスズ単体及び/又はスズ化合物とを、真空中、不活性ガス雰囲気中又は水素ガス雰囲気中でボールミリングすることにより得ることができる。
【0028】
ここで、マグネシウム単体及びマグネシウム化合物は、粉末状のものであることが好ましく、その平均粒子径は100μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
【0029】
上記マグネシウム化合物としては、例えば、MgH等が挙げられる。
【0030】
スズ単体及びスズ化合物は、粉末状のものであることが好ましく、その平均粒子径は100μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
【0031】
上記スズ化合物としては、例えば、SnCl、SnCl、SnO、SnO、SnO、SnS及び有機スズ化合物等が挙げられる。上記水素吸蔵材料20の製造方法においては、ミリング後に最終的に生成する活物質がスズ単体であることから、スズ単体及びスズ化合物の中でも、スズ単体を用いることが好ましい。
【0032】
マグネシウム単体及び/又はマグネシウム化合物とスズ単体及び/又はスズ化合物とをボールミリングする際の雰囲気は、真空、不活性ガス雰囲気又は水素ガス雰囲気であることが必要であるが、不活性ガス雰囲気又は水素ガス雰囲気であることが好ましく、不活性ガス雰囲気であることがより好ましい。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられるが、中でも窒素ガスが好ましい。
【0033】
ボールミリングを不活性ガス雰囲気又は水素ガス雰囲気中で行う場合、雰囲気ガスの圧力は、0.05〜1MPaであることが好ましく、0.1〜0.5MPaであることがより好ましい。この圧力が0.05MPa未満であると、水素放出温度が高くなる傾向がある。一方、圧力が1MPaを超える場合、更に圧力を高めることによる効果が小さい傾向がある。
【0034】
また、マグネシウム単体及び/又はマグネシウム化合物とスズ単体及び/又はスズ化合物とのボールミリングは、有機溶媒の存在下で行うことが好ましい。ボールミリングの際に有機溶媒を添加することで、ミリング効果を高めることができ、得られる水素吸蔵材料20の水素吸蔵量及び水素放出温度の双方をより安定して良好なものとすることができる。
【0035】
上記有機溶媒としては特に制限されないが、例えば、ベンゼン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン(THF)及びトルエン等が挙げられる。これらの中でも、ミリング効果をより高める観点から、シクロヘキサンが好ましい。有機溶媒の添加量は、ミリング効果をより高める観点から、マグネシウム単体及び/又はマグネシウム化合物1gに対して0.1〜5mLとすることが好ましく、0.7〜1.5mLとすることがより好ましい。
【0036】
ボールミリングは、遊星型ボールミルを用いて行うことが好ましい。ボールミルの容器及びボールの材質としては、ステンレス、クロム鋼、ジルコニア、メノー、タングステンカーバイド等が好ましく挙げられ、特にジルコニアが好ましい。
【0037】
また、ボールミリングは、上述した平均粒子径を有する粉末状の水素吸蔵材料20が得られる条件で行うことが好ましく、例えば、容器の回転数200〜900rpmで1〜10時間の条件にて行うことが好ましい。
【0038】
以上説明した水素吸蔵材料20の製造方法によれば、水素吸蔵量が十分に高く、且つ、水素の放出温度が十分に低い水素吸蔵材料20を効率的に且つ確実に製造することができる。
【0039】
本発明の水素燃料の供給方法において、水素吸蔵材料20は、容器内に収容して貯蔵される。水素吸蔵材料20を収容する容器としては特に制限されないが、耐圧性の高いボンベを用いることが好ましい。具体的には、鋼製容器又はCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)容器を用いることが好ましい。また、容器の耐圧性としては、0.5〜45MPaの圧力に耐えられるものであることが好ましく、20〜45MPaの圧力に耐えられるものであることがより好ましい。
【0040】
熱交換器30は、例えば、内部に熱媒を循環させた配管等により構成され、好ましくは、その配管の一部が水素吸蔵材料20を収容する上記容器内を通り、且つ、他の一部がエンジン10に接触するように配置される。すなわち、上記容器は、その内部に熱交換機能を有する配管が配置された構造を有していることが好ましく、その配管内に熱媒を循環させることにより、容器内部の水素吸蔵材料20に熱が供給される。
【0041】
水素吸蔵材料20から水素を放出させるための熱源としては、エンジン10の廃熱が利用される。具体的には、エンジン10又はその排気管部分に、上記容器の内部を通るように設けられた熱交換用の配管を接触させ、その配管内に熱媒を循環させることにより、熱媒を介してエンジン10の廃熱を上記容器内部の水素吸蔵材料20に供給する。
【0042】
ここで、熱媒としては、耐熱性が十分にあり、流動性の高いものであれば特に制限されないが、例えば、合成系熱媒体油、シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0043】
エンジン10としては、水素ガスを燃料として利用可能なエンジンであれば特に制限されず、バイフューエルエンジン、水素ガスエンジン等が挙げられる。
【0044】
また、水素吸蔵材料20に供給する熱の温度は、水素の放出が可能な温度であれば特に制限されないが、通常、150〜250℃であることが好ましく、200〜250℃であることが好ましい。上記温度範囲の熱を水素吸蔵材料20に供給することで、十分な量の水素を放出することが可能である。また、熱媒のハンドリング(耐熱性等)の観点からも、上記温度範囲とすることが好適である。
【0045】
なお、本発明の水素燃料の供給方法において、エンジン10で発生する廃熱を水素吸蔵材料20に供給する際に、必ずしも上述のような熱交換器30を介さなくてもよい。例えば、エンジン10に対して、水素吸蔵材料20入りの容器を熱伝導性の高い金属を介して接触させる方法等を用いることもできる。
【0046】
本発明のバイフューエルエンジン車は、上述した本発明の水素燃料の供給方法によりエンジンに水素を供給する水素供給システムを備えることを特徴とするものである。かかるバイフューエルエンジン車は、上記水素供給システムを備えるため、エンジンで発生する廃熱を利用して、十分に低い温度で十分な量の水素を燃料としてエンジンに供給することができる。したがって、上記バイフューエルエンジン車によれば、エンジンの廃熱を有効に利用して、他の余分なエネルギーを消費することなく水素を供給することが可能であるとともに、水素を高圧ガスとして運搬する場合等と比較して、水素を貯蔵する容器の小型化を実現することができる。
【0047】
また、上記バイフューエルエンジン車において、水素放出後の水素吸蔵材料への水素の補給は、例えば、水素ステーション等で行うことができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
窒素ガス雰囲気中、MgH粉末(和光純薬工業社製、純度98%)1g、Sn粉末(レアメタリック社製、純度99.9%、325メッシュ)0.9g、シクロヘキサン1mLを混合した。得られた混合物を、遊星型ボールミル(栗本鐵工社製)のジルコニア製容器(容量170mL)中に、直径2mmのジルコニア製ボール55mLとともに入れ、更に不活性ガスとして窒素ガスを大気圧で充填し、蓋をして密閉状態とした。次いで、この容器を、遊星型ボールミル装置の架台に載せ、容器の回転数を863rpmとしてボールミリングを2時間行い、粉末状の水素吸蔵材料を得た。得られた水素吸蔵材料について、水素放出時のエンタルピー変化をDSC(示差走査熱量計)で測定した結果、47kJ/mol−Hであった。
【0050】
次に、得られた水素吸蔵材料100gを、内部に熱交換器としての配管を有する容器に充填した。熱交換器の配管内に、電気ヒーターで200℃に加熱した熱媒(シリコーンオイル)を循環させ、水素吸蔵材料から水素を放出させた。この水素放出時の熱量をDSCにより測定した結果、119kJであった。また、このとき発生した水素量(完全に放出しきったときの水素量)をガス流量計で測定した結果、42Lであった。
【0051】
(実施例2)
実施例1と同様にして水素吸蔵材料を作製した。得られた水素吸蔵材料100gを、内部に熱交換器としての配管を有する容器に充填した。また、熱交換器の配管の一部をバイフューエルエンジン車のエンジンに接触するように配置した。この熱交換器の配管内に、エンジンの廃熱で200℃に加熱した熱媒(シリコーンオイル)を循環させた結果、エンジンの廃熱以外の余分なエネルギーを消費することなく、水素吸蔵材料から水素を放出することができた。また、このとき発生した水素量(完全に放出しきったときの水素量)をガス流量計で測定した結果、42Lであった。
【0052】
(比較例1)
MgH粉末(和光純薬工業社製、純度98%)1gを、遊星型ボールミル(栗本鐵工社製)のジルコニア製容器(容量170mL)中に、直径2mmのジルコニア製ボール55mLとともに入れ、更に不活性ガスとして窒素ガスを大気圧で充填し、蓋をして密閉状態とした。次いで、この容器を、遊星型ボールミル装置の架台に載せ、容器の回転数を863rpmとしてボールミリングを2時間行い、粉末状の水素吸蔵材料を得た。得られた水素吸蔵材料について、水素放出時のエンタルピー変化をDSCで測定した結果、76kJ/mol−Hであった。
【0053】
次に、得られた水素吸蔵材料100gを、内部に熱交換器としての配管を有する容器に充填した。熱交換器の配管内に、電気ヒーターで200℃に加熱した熱媒を循環させたが、水素を放出することはできなかった。
【0054】
(比較例2)
MgNi粉末(高純度化学社製、純度3N)1gを、遊星型ボールミル(栗本鐵工社製)のジルコニア製容器(容量170mL)中に、直径2mmのジルコニア製ボール55mLとともに入れ、更に不活性ガスとして窒素ガスを大気圧で充填し、蓋をして密閉状態とした。次いで、この容器を、遊星型ボールミル装置の架台に載せ、容器の回転数を863rpmとしてボールミリングを2時間行った。得られた粉末をオートクレーブ中で350℃、3時間、水素圧1MPaで処理を行い、水素吸蔵材料を得た。得られた水素吸蔵材料について、水素放出時のエンタルピー変化をDSCで測定した結果、64kJ/mol−Hであった。
【0055】
次に、得られた水素吸蔵材料100gを、内部に熱交換器としての配管を有する容器に充填した。熱交換器の配管内に、電気ヒーターで200℃に加熱した熱媒を循環させたが、水素を放出することはできなかった。
【0056】
(実施例3)
窒素ガス雰囲気中、MgH粉末(和光純薬工業社製、純度98%)1g、Sn粉末(レアメタリック社製、純度99.9%、325メッシュ)4.5g、シクロヘキサン1mLを混合した。得られた混合物を、遊星型ボールミル(栗本鐵工社製)のジルコニア製容器(容量170mL)中に、直径2mmのジルコニア製ボール55mLとともに入れ、更に不活性ガスとして窒素ガスを大気圧で充填し、蓋をして密閉状態とした。次いで、この容器を、遊星型ボールミル装置の架台に載せ、容器の回転数を863rpmとしてボールミリングを2時間行い、粉末状の水素吸蔵材料を得た。水素放出時のエンタルピー変化をDSCで測定した結果、42kJ/mol−Hであった。
【0057】
次に、得られた水素吸蔵材料100gを、内部に熱交換器としての配管を有する容器に充填した。熱交換器の配管内に、電気ヒーターで200℃に加熱した熱媒(シリコーンオイル)を循環させ、水素吸蔵材料から水素を放出させた。この水素放出時の熱量をDSCにより測定した結果、57kJであった。また、このとき発生した水素量(完全に放出しきったときの水素量)をガス流量計で測定した結果、14Lであった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の水素燃料の供給方法により水素をエンジンに供給する水素供給システムの概略構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0059】
10…エンジン、20…水素吸蔵材料、30…熱交換器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素として実質的にマグネシウム及びスズのみを含有する水素吸蔵材料に、エンジンで発生した廃熱を供給して水素を放出させ、該水素を前記エンジンに供給することを特徴とする水素燃料の供給方法。
【請求項2】
前記水素吸蔵材料は、前記マグネシウムを、金属元素として実質的に前記マグネシウムのみを含む粒子として含有し、且つ、前記スズを、金属元素として実質的に前記スズのみを含む粒子として含有することを特徴とする請求項1記載の水素燃料の供給方法。
【請求項3】
前記水素吸蔵材料における前記スズの含有量が、前記マグネシウム及び前記スズの合計の含有量を基準として1〜40モル%であることを特徴とする請求項1又は2記載の水素燃料の供給方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の水素燃料の供給方法によりエンジンに水素を供給する水素供給システムを備えることを特徴とするバイフューエルエンジン車。


【図1】
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【公開番号】特開2009−78950(P2009−78950A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249964(P2007−249964)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】