説明

水素生成・分離一体型機能性薄膜及びその製造方法

【課題】水素生成装置の小型化に資する水素生成・分離一体型機能性薄膜を提供する。
【解決手段】水素生成・分離一体型機能性薄膜10は、原料ガスの分子を水素分子と副生成物の分子に分解すると共に、該分解後のガスから水素ガスを分離するための薄膜であって、水素分子を透過し、且つ前記副生成物の分子を透過しない水素透過膜11と、前記水素透過膜の一方の表面に立設された二酸化チタンナノチューブの集合体である二酸化チタンナノチューブアレイ12とを備えることを特徴とする。原料ガスの分子を水素分子と副生成物の分子に分解する二酸化チタンナノチューブアレイ12と、該分解後のガスから水素ガスのみを分離する水素透過膜11が一体で形成されているため、この水素生成・分離一体型機能性薄膜10だけで水素ガスのみを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料を分解して水素を生成すると共に、該水素と該原料又は/及び副生成物を分離する水素生成・分離一体型機能性薄膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を排出しない、燃料電池や水素内蔵エンジン等の水素(H2)を用いた動力源が注目されている。水素は一般に水やアルコール等を分解させることにより生成される。このうち水を用いる場合には、水素を生成する際の副生成物が酸素のみであり、CO2を一切排出しない。一方、アルコールを用いる場合にはCO2が副生成物として生成されるが、植物を原料とするアルコールでは、この副生成物はもともと大気中に存在したCO2を植物が取り込んだものであり、それを再度排出することになるだけであるため、大気中の二酸化炭素総量の増減には影響を与えないと考えられている。
【0003】
水素は酸素と激しく反応するため、安全性の観点から、水素そのものを貯蔵しておくよりも、原料である水やアルコールを貯蔵しておいて随時必要な量だけ水素を生成する方が望ましい。
【0004】
特許文献1には、シリカガラス等から成る部材内に空洞を設け、その空洞内に、二酸化チタン(TiO2)の微粒子又は二酸化チタンナノチューブを触媒として挿入した水素生成ユニットが記載されている。なお、二酸化チタンナノチューブは、二酸化チタンから成り、数十nm程度の内径を有する管状の部材である。この水素生成ユニットでは、空洞内に気体のホルムアルデヒド(CH2O)を供給したうえで紫外線を照射することにより、ホルムアルデヒドを水素と二酸化炭素に分解する反応が生じる。但し、この方法では、水素ガスと他の気体(二酸化炭素、及び分解されなかったホルムアルデヒド)の分離がなされず、水素ガスのみを得ることはできない。
【0005】
特許文献2には、白金やロジウム等から成る改質用触媒を有する改質部と、パラジウム(Pd)系合金等を用いた水素透過膜を備える水素生成装置が記載されている。この装置では、水、炭化水素、アルコール等のガスを改質部において水素を含むガスに改質し、改質後のガスを水素分離膜(水素透過膜)に通すことにより、水素ガスのみを分離して取り出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-350293号公報
【特許文献2】特開2010-024070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような水素生成装置は、自動車や一般の家屋等、極力スペースを取らないことが求められる場所に設置する必要がある。しかしながら、特許文献2の水素生成装置では改質部と水素分離膜が別々に設けられているため、装置の小型化が困難である。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、水素生成装置の小型化に資する水素生成・分離一体型機能性薄膜及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係る水素生成・分離一体型機能性薄膜は、原料ガスの分子を水素分子と副生成物の分子に分解すると共に、該分解後のガスから水素ガスを分離するための薄膜であって、
a) 水素分子を透過し、且つ前記副生成物の分子を透過しない水素透過膜と、
b) 前記水素透過膜の一方の表面に立設された二酸化チタンナノチューブの集合体である二酸化チタンナノチューブアレイと、
を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る水素生成・分離一体型機能性薄膜を用いて、以下のように、水素ガスのみを得ることができる。
水素透過膜の表面と接していない側の二酸化チタンナノチューブの先端側に原料ガスを供給しつつ、該水素生成・分離一体型機能性薄膜に紫外線を照射する。これにより、二酸化チタンナノチューブ内又は二酸化チタンナノチューブ同士の隙間において、二酸化チタンを光触媒として原料ガスの分子が水素分子と副生成物の分子に分解する反応が生じる。こうして生成された水素と副生成物の混合ガスのうち、副生成物は水素透過膜を透過しないため、水素ガスのみが水素透過膜を透過して混合ガスから分離される。
【0011】
上記原料ガスには、例えばメタノールやエタノール等のアルコールのガス、あるいは水蒸気等を用いることができる。アルコールのガスを用いる場合には、二酸化炭素や、水素と二酸化炭素に分解する過程で生じるアルデヒド類等の副生成物が生成される。水蒸気を用いる場合には副生成物として酸素が生成される。これら二酸化炭素、アルデヒド類及び酸素のいずれもほとんど透過せず、且つ水素を透過する膜として、パラジウム(Pd)、バナジウム(V)、タンタル(Ta)若しくはニオブ(Nb)の単体、それらのうちの2種以上の合金、又はそれら単体若しくはそれら合金と他の金属元素との合金から成る膜が、前記水素透過膜に好適に用いることができる。特に、パラジウムの単体、又は銀(Ag)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)若しくはイリジウム(Ir)のうちの1種若しくは2種以上の元素とパラジウムの合金から成る膜は、水素透過率が高いため、前記水素透過膜により好適に用いることができる。
【0012】
本発明に係る水素生成・分離一体型機能性薄膜の製造方法は、原料ガスの分子を水素分子と副生成物の分子に分解すると共に、該分解後のガスから水素ガスを分離するための薄膜を製造する方法であって、
a) チタン製の部材の少なくとも一部を電解液に浸漬し、該電解液を挟んで設けられた対向電極と該チタン製部材の間に直流電流を流し、該チタン製部材を該電解液から取り出して450〜550℃で熱処理することにより、該チタン製部材に二酸化チタンナノチューブアレイを形成する工程と、
b) 前記二酸化チタンナノチューブアレイの表面に、水素分子を透過し、且つ前記副生成物の分子を透過しない膜である水素透過膜を形成する工程と、
c) 前記二酸化チタンナノチューブアレイを前記チタン製部材から剥離する工程と
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る水素生成・分離一体型機能性薄膜によれば、原料ガスの分子を水素分子と副生成物の分子に分解する二酸化チタンナノチューブアレイと、該分解後のガスから水素ガスのみを分離する水素透過膜が一体で形成されているため、この水素生成・分離一体型機能性薄膜だけで水素ガスのみを得ることができる。これにより、水素生成装置を飛躍的に小型化することができる。このように小型化が可能であるため、自動車や一般の家庭など、極力スペースを取らないことが求められる場所に、水素生成装置を好適に設置できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る水素生成・分離一体型機能性薄膜の一実施例を示す縦断面図。
【図2】本実施例の水素生成・分離一体型機能性薄膜の使用方法の一例及び作用を示す概略図であって、(a)は部分縦断面図、(b)は部分上面図。
【図3】本実施例の水素生成・分離一体型機能性薄膜の製造方法を示す概略図。
【図4】本実施例の水素生成・分離一体型機能性薄膜の作製途中における二酸化チタンナノチューブアレイの表面(a)、作製された水素生成・分離一体型機能性薄膜における二酸化チタンナノチューブアレイの表面(b)、及び作製途中における二酸化チタンナノチューブアレイの断面(c)の電子顕微鏡写真。
【図5】本実施例の水素生成・分離一体型機能性薄膜の性能を確認するための実験に用いる装置の概略構成図。
【図6】メタノールが気化したものを原料ガスとした場合において、本実施例の水素生成・分離一体型機能性薄膜での処理により得られたガスの成分を測定した結果を示すグラフ。
【図7】エタノールが気化したものを原料ガスとした場合において、本実施例の水素生成・分離一体型機能性薄膜での処理により得られたガスの成分を測定した結果を示すグラフ。
【図8】水蒸気を原料ガスとした場合において、本実施例の水素生成・分離一体型機能性薄膜での処理により得られたガスの成分を測定した結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1〜図8を用いて、本発明に係る水素生成・分離一体型機能性薄膜の実施例を説明する。
【実施例】
【0016】
本実施例の水素生成・分離一体型機能性薄膜(以下、「機能性薄膜10」とする)は図1に示すように、水素透過膜11と、水素透過膜11の一方の面に立設された二酸化チタンナノチューブアレイ12を有する。
【0017】
水素透過膜11は、本実施例ではパラジウム製であって厚みが約10μmのものを用いた。なお、水素透過膜11の材料には、パラジウムの他に、バナジウム、タンタル、若しくはニオブの単体、それら3種及びパラジウムのうちの2種以上から成る合金、又はそれらの単体若しくは合金と他の元素から成る合金等、金属製のものを用いることが、二酸化チタンナノチューブアレイ12と固定し易いため望ましい。特に、パラジウムの単体、又は銀、白金、ロジウム、ルテニウム若しくはイリジウムのうちの1種若しくは2種以上の元素とパラジウムの合金から成る膜は、水素透過率が高いため、水素透過膜11に好適に用いることができる。一方、材料のコストを抑えるという点では、バナジウム、タンタル、若しくはニオブの単体又はそれら3種のうちの2種以上から成る合金を用いるとよい。さらには、副生成物(例えば原料ガスがメタノールならばホルムアルデヒド及び二酸化炭素、原料ガスが水蒸気ならば酸素)を透過せず、且つ水素を透過するという特性を有する膜であれば、上記のもの以外の材料から成る膜も本実施例の水素透過膜11に用いることができる。
【0018】
水素透過膜11の望ましい厚みは材料によって異なるが、パラジウムの場合には、厚みが薄い方が、水素が透過しやすいうえに材料のコストを抑えることができるため望ましい。
【0019】
二酸化チタンナノチューブアレイ12は、二酸化チタンナノチューブが多数、水素透過膜11の一方の表面に立設するように形成されたものである。本実施例では二酸化チタンナノチューブの長さを5μm程度とした。この長さが長いほど、原料ガスの分子をより高い割合で分解することができる。一方、この長さが長くなるほど、二酸化チタンナノチューブアレイ12を作製し難くなる。実用上は本実施例程度の長さがあれば十分である。
【0020】
次に、図2を用いて、本実施例の機能性薄膜10の使用方法の一例及び作用を説明する。図2(a)は機能性薄膜10の縦断面の一部を拡大したものであり、(b)は二酸化チタンナノチューブアレイ12の上面(水素透過膜11と接している面の反対側の面。なお、この説明で用いる「上」及び「下」との語は、本発明に係る水素生成・分離一体型機能性薄膜の使用時の向きを限定するものではない)を模式的に示した拡大図である。なお、これらの図では、二酸化チタンナノチューブアレイ12を構成する各二酸化チタンナノチューブ121が同じ径であって最密に配置されるように描いたが、それらの径は同じである必要はなく、また、最密に配置される必要もない。また、図2には水蒸気を原料ガスとして用いる場合を例として、原料ガス(H2O)及び副生成物(O2)の分子を示すが、以下で説明する機能性薄膜10の作用は、他の原料ガスを用いた場合でも同様である。
【0021】
機能性薄膜10の使用時には、原料ガスを二酸化チタンナノチューブアレイ12の上面側に供給すると共に、機能性薄膜10(の二酸化チタンナノチューブアレイ12)に紫外線を照射する。原料ガスは二酸化チタンナノチューブ121の管内121A、及び二酸化チタンナノチューブ121と他の二酸化チタンナノチューブ121の隙間121Bに拡散する。このようにガスが管内121A又は隙間121Bを通過する間に、二酸化チタンを触媒として、原料ガスが分解し、プロトン(H+)及び副生成物が生成される。プロトンは二酸化チタンナノチューブアレイ12内で還元されて水素分子となり、水素透過膜11を透過する。一方、副生成物の分子は水素透過膜11を透過することができない。その結果、水素透過膜11の下面側において、水素ガスのみを得ることができる。なお、本実施例で水素透過膜11の材料に用いたパラジウムは、プロトンを還元するための助触媒としても用いられる材料であるため、本実施例では水素透過膜11が助触媒として作用している可能性がある。
【0022】
次に、図3を用いて、本実施例の機能性薄膜10の製造方法の一例を説明する。
まず、単体のチタンから成る部材(チタン製部材21)を用意する。ここで、チタン製部材21はバルクであっても薄膜でもよい。次に、チタン製部材21の少なくとも一部を電解液23に浸漬し、電解液23を挟んでチタン製部材21と対向する対向電極22を設ける。そして、チタン製部材21が陽極になるように、チタン製部材21と対向電極22の間に直流電流を流す(陽極酸化法、図3(a))。本実施例では、対向電極22の材料には白金を用い、電解液23にはフッ化アンモニウム(NH4F)を溶解させたグリセリン溶液を用いた。この陽極酸化法により、チタン製部材21を電解液23に触れている表面からチタン製部材21の内部に向かって酸化させる。この段階では、チタン製部材21が酸化した部分12Aには、アモルファス状の二酸化チタンによりナノチューブアレイ構造が形成されている(b)。その後、チタン製部材21を電解液23から離し、この酸化した部分12Aを含むチタン製部材21を450〜550℃に加熱することにより、その部分に、結晶化した二酸化チタンから成る二酸化チタンナノチューブアレイ12を形成する(c)。本実施例で作製された二酸化チタンナノチューブアレイ12における二酸化チタンの結晶構造はアナターゼ型であった。
【0023】
続いて、二酸化チタンナノチューブアレイ12の表面(電解液23と接していた面)に水素透過膜11を形成する(d)。本実施例では、水素透過膜11の形成には高周波スパッタリングによる蒸着法を用いる。その際、水素透過膜11と二酸化チタンナノチューブアレイ12の境界における両者の結合を強固にするために、それらを加熱する。この時の加熱温度は400〜550℃とすることが好ましく、本実施例ではチタン製部材21の温度が500℃になるようにした。その後、チタン製部材21のうち酸化することなく残った部分から、水素透過膜11及び二酸化チタンナノチューブアレイ12を機械的に剥離する(e)。その際、蒸着法等で水素透過膜11を形成していることにより、水素透過膜11と二酸化チタンナノチューブアレイ12の境界の方が二酸化チタンナノチューブアレイ12とチタン製部材21の境界よりも強固に結合しているため、水素透過膜11と二酸化チタンナノチューブアレイ12が結合した状態でチタン製部材21から剥離することができる。こうして、本実施例の機能性薄膜10が得られる。
【0024】
この方法で本実施例の機能性薄膜10を作製する途中及び作製後に撮影した電子顕微鏡写真を図4に示す。図4(a)は、チタン製部材21に二酸化チタンナノチューブアレイ12を形成した直後の段階で、二酸化チタンナノチューブアレイ12の表面を撮影したものである。なお、その後の工程でこの表面に水素透過膜11が形成されることからわかるように、この表面は図1及び図2(a)における下側の面に相当する。図4(b)は、作製された機能性薄膜10における二酸化チタンナノチューブアレイ12の上面を撮影したものである。これら図4(a)及び(b)中で円状あるいは楕円状に見えるものは個々の二酸化チタンナノチューブ121である。これらの顕微鏡写真から、図3(c)の工程で形成された二酸化チタンナノチューブ121(図4(a))の大半が、図3(e)の機械的剥離工程において水素透過膜11と分離することなく機能性薄膜10に残っている(図4(b))、といえる。
【0025】
図4(c)は、陽極酸化法によりチタン製部材21に二酸化チタンナノチューブアレイ12を形成した直後の段階で撮影した、二酸化チタンナノチューブアレイ12の縦断面の顕微鏡写真である。この写真より、チタン製部材21の表面21Aから内部に向かって、個々の二酸化チタンナノチューブ121が延びていることがわかる。
【0026】
次に、図5〜図8を参照しつつ、本実施例の機能性薄膜10を用いて原料ガスから水素ガスを得る実験を行った結果を示す。
【0027】
まず、この実験に用いた図5に示す実験装置30について説明する。この実験装置30は、真空容器中に、中央に開口331が設けられた仕切り板33を横方向に渡すことにより形成された、仕切り板33よりも上側の第1真空室31及び下側の第2真空室32を有する。第1真空室31の側面には、使用前に第1真空室31内に存在する気体のパージ、及び第1真空室31内に原料ガスを供給するための第1管34が接続されている。第2真空室32の側面には、使用前に第2真空室32内に存在する気体のパージ、及び後述のように第2真空室32内に到達する生成ガスを取り出すための第2管35が接続されている。また、第1真空室31の上壁には、紫外線を透過する石英製の紫外線導入窓37が設けられている。
【0028】
機能性薄膜10は、中央に開口361が設けられたチタン製の板から成る載置台36の上に、この開口361の直上に二酸化チタンナノチューブアレイ12が配置されるように固定されている。機能性薄膜10と載置台36の間は、開口361を通して気体がリークしないように、真空漏れ補修剤(トールシール)で塞がれており、この真空漏れ補修剤が機能性薄膜10を載置台36に固定する役割を果たしている。載置台36は、それに設けられた開口361と仕切り板33の開口331の位置を合わせるようにして、仕切り板33の上に載置されている。仕切り板33と載置台36の間には、気体のリークを防ぐためにOリングが設けられている。
【0029】
この実験装置30の使用方法を説明する。まず、第1真空室31及び第2真空室32内に存在する気体を第1管34及び第2管35から外部に排出する。続いて、第1真空室31内に原料ガスを導入すると共に、紫外線導入窓37を通して機能性薄膜10に紫外線を照射する。本実施例で用いた紫外線の波長は300〜400nm、強度は20mW/cm2である。これにより、機能性薄膜10で生成された水素ガスが第2真空室32内に到達する。第2真空室32内の水素ガス及びその他のガス(以下、これらを合わせて「生成ガス等」と呼ぶ)は随時、第2管35を通して第2真空室32から取り出し、質量分析装置により成分の測定を行った。
【0030】
図6は、メタノールの気体を原料ガスとした場合における、生成ガス等の成分(水素、二酸化炭素、及びホルムアルデヒド)の時間変化を、成分毎のガスの分圧で示したグラフである。また、このグラフ中で「紫外線照射」と記載されている時間帯は機能性薄膜10に紫外線を照射している時間帯であり、それ以外の時間帯は紫外線の照射を行っていない時間帯である。このグラフより、水素ガスは、機能性薄膜10に紫外線の照射を開始した直後に分圧が急上昇し、紫外線の照射を止めた直後に分圧が急下降する。これは、紫外線を照射している時間帯にのみ、機能性薄膜10により水素ガスが生成(原料ガスが水素分子と副生成物の分子に分解)していることを意味している。一方、二酸化炭素及びホルムアルデヒドは紫外線の照射の有無による分圧の変化がほとんどなく、また、それらのガスの分圧の値は紫外線照射時の水素ガスの分圧よりも1桁以上小さい。これらのデータは、検出された二酸化炭素及びホルムアルデヒドが、機能性薄膜10の作用により生成された副生成物が到達したものではなく、バックグラウンドとして存在しているものであることを意味している。実際、以下の式
(水素の分圧上昇)/(水素+二酸化炭素+ホルムアルデヒドの分圧上昇)
で定義(但し、「分圧上昇」は、「紫外線照射中の分圧の平均」を「紫外線照射直前の分圧」で減じた値)した水素純度の値は、1回目の紫外線照射時には100%、2回目の紫外線照射時には99%であった。
【0031】
このように、メタノールの気体を原料ガスとした場合において、本実施例の機能性薄膜10によって高純度の水素ガスを得ることができることが確認された。
【0032】
図7は、エタノールの気体を原料ガスとした場合における、生成ガス等の成分(水素、二酸化炭素、及びホルムアルデヒド)の時間変化を、成分毎のガスの分圧で示したグラフである。メタノールの場合と同様に、紫外線照射を開始した直後に、水素ガスの分圧の値は大きく変化するのに対して、二酸化炭素及びホルムアルデヒドガスの分圧の値はほとんど変化しない。分圧上昇は、1回目及び2回目の紫外線照射時に、共に100%であった。従って、エタノールを原料ガスとした場合にも、高純度の水素ガスを得ることができるといえる。
【0033】
図8は、水蒸気を原料ガスとした場合における、生成ガス等の成分(水素、二酸化炭素、及び酸素)の時間変化を、成分毎のガスの分圧で示したグラフである。この場合においても、紫外線照射を開始した直後に、水素ガスの分圧の値は大きく変化するのに対して、二酸化炭素及び酸素の分圧の値はほとんど変化しない。1回目の紫外線照射時には100%、2回目の紫外線照射時には87%であった。なお、ここでは、副生成物として生成し得ない二酸化炭素の分圧を除外して水素純度を計算した。
【符号の説明】
【0034】
10…水素生成・分離一体型機能性薄膜(機能性薄膜)
11…水素透過膜
12…二酸化チタンナノチューブアレイ
121…二酸化チタンナノチューブ
121A…管内
121B…隙間
21…チタン製部材
21A…チタン製部材の表面
22…対向電極
23…電解液
30…実験装置
31…第1真空室
32…第2真空室
33…仕切り板
331…仕切り板の開口
34…第1管
35…第2管
36…載置台
361…載置台の開口
37…紫外線導入窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ガスの分子を水素分子と副生成物の分子に分解すると共に、該分解後のガスから水素ガスを分離するための薄膜であって、
a) 水素分子を透過し、且つ前記副生成物の分子を透過しない水素透過膜と、
b) 前記水素透過膜の一方の表面に立設された二酸化チタンナノチューブの集合体である二酸化チタンナノチューブアレイと、
を備えることを特徴とする水素生成・分離一体型機能性薄膜。
【請求項2】
前記水素透過膜がパラジウム、バナジウム、タンタル若しくはニオブの単体、それらのうちの2種以上の合金、又はそれら単体若しくはそれら合金と他の金属元素との合金から成ることを特徴とする請求項1に記載の水素生成・分離一体型機能性薄膜。
【請求項3】
前記水素透過膜がパラジウムの単体、又は銀(Ag)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)若しくはイリジウム(Ir)のうちの1種若しくは2種以上の元素とパラジウムの合金から成ることを特徴とする請求項2に記載の水素生成・分離一体型機能性薄膜。
【請求項4】
原料ガスの分子を水素分子と副生成物の分子に分解すると共に、該分解後のガスから水素ガスを分離するための薄膜を製造する方法であって、
a) チタン製の部材の少なくとも一部を電解液に浸漬し、該電解液を挟んで設けられた対向電極と該チタン製部材の間に直流電流を流し、該チタン製部材を該電解液から取り出して450〜550℃で熱処理することにより、該チタン製部材に二酸化チタンナノチューブアレイを形成する工程と、
b) 前記二酸化チタンナノチューブアレイの表面に、水素分子を透過し、且つ前記副生成物の分子を透過しない膜である水素透過膜を形成する工程と、
c) 前記二酸化チタンナノチューブアレイを前記チタン製部材から剥離する工程と
を有することを特徴とする水素生成・分離一体型機能性薄膜製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−153561(P2012−153561A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13778(P2011−13778)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】