説明

水素生成方法

【課題】良好なエネルギー効率で水から水素を生成する方法を提供する。
【解決手段】本発明の水素生成方法は、水を水素及び酸素に分解することを含む。ここで、この本発明の方法では、太陽熱エネルギーを用いて、下記式(X1)で示される反応で、硫酸を、水、二酸化硫黄、及び酸素に分解することを含み、下記式(X1−1)の素反応の少なくとも一部を、太陽熱エネルギーを用いて行わせ、下記式(X1−2)の素反応の少なくとも一部を、太陽熱エネルギー以外の追加の熱エネルギーを用いて行わせ、追加の熱エネルギーによる加熱温度が、太陽熱エネルギーによる加熱温度よりも10℃以上高く、かつ追加の熱エネルギーの少なくとも一部を、反応容器内で発生させる:(X1)HSO→HO+SO+1/2O、(X1−1)HSO→HO+SO、及び(X1−2)SO→SO+1/2O

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を生成する方法、特に水から水素を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化等の問題から、燃焼時に二酸化炭素を生成しないクリーンエネルギーとしての水素が注目されている。
【0003】
水素の生成のためには一般に、下記式(A1)及び(A2)で示される炭化水素燃料の水蒸気改質が用いられている:
(A1)C + nHO → nCO + (n+m/2)H
(A2)CO + HO → CO + H
全反応:C + 2nHO → nCO + (2n+m/2)H
【0004】
したがって、水素の燃焼自体は二酸化炭素を生成させないものの、水素の生成においては二酸化炭素を発生させることが一般的であった。
【0005】
これに関して、炭化水素燃料を用いずに水素を生成させるための方法として、太陽熱エネルギー又は原子力熱エネルギーを用いることが提案されている(特許文献1、非特許文献1)。
【0006】
熱エネルギーを利用して水から水素を生成させる方法としては、下記式(B1)〜(B3)で示されるI−S(ヨウ素−イオウ)サイクル法と呼ばれる方法が提案されている:
(B1)HSO(液体)
→ HO(気体) + SO(気体) + 1/2O(気体)
(反応温度=約950℃、ΔH=188.8kJ/mol−H
(B2)I(液体) + SO(気体) + 2HO(液体)
→ 2HI(液体) + HSO(液体)
(反応温度=約130℃、ΔH=−31.8kJ/mol−H
(B3)2HI(液体) → H(気体) + I(気体)
(反応温度=約400℃、ΔH=146.3kJ/mol−H
【0007】
上記式(B1)〜(B3)で示されるI−S(ヨウ素−イオウ)サイクル法の全反応は下記のとおりである:
O → H + 1/2O
(ΔH=286.5kJ/mol−H(高位発熱量基準))
(ΔH=241.5kJ/mol−H(低位発熱量基準))
【0008】
ここで、上記式(B1)の反応は、下記式(B1−1)及び(B1−2)の2つの素反応に分けることができる:
(B1−1)HSO(液体) → HO(気体) + SO(気体)
(反応温度=約300℃、ΔH=90.9kJ/mol−H
(B1−2)SO(気体) → SO(気体) + 1/2O(気体)
(反応温度=約950℃、ΔH=97.9kJ/mol−H
【0009】
すなわち、I−Sサイクル法で水素を生成する場合、式(B1−2)の三酸化硫黄(SO)分解反応において最も高い温度を必要とし、この反応で必要とされる高温を得ることが容易でなかった。
【0010】
このような問題に関して、非特許文献1では、熱源として太陽熱エネルギーを用いつつ、必要に応じて天然ガスを燃焼させて、追加の熱エネルギーを得るとしている。
【0011】
また、式(B1−2)の三酸化硫黄分解反応において必要とされる温度を低下させるために、白金触媒を用いることが提案されている。しかしながら、この反応において白金触媒を用いる場合、触媒の使用開始時には高い特性を有するものの、反応によって生成する酸素によって白金が酸化され、白金粒子が粗大化することにより触媒活性が低下することが知られている。また、白金触媒は高価であることから、産業的な規模においては用いることが難しい。
【0012】
これに関して、非特許文献2では、三酸化硫黄分解反応において必要とされる温度を低下させるために、白金(Pt)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、及びそれらの酸化物からなる群より選択される触媒をアルミナ担体に担持させて用いることを提案している。
【0013】
また、I−Sサイクル法に関して、特許文献2では、上記式(B2)で表される反応、すなわちヨウ素、二酸化硫黄及び水から、ヨウ化水素及び硫酸を得る反応において、二酸化硫黄と水との反応をカチオン交換膜の正極側で行わせ、かつヨウ素の反応をカチオン交換膜の負極側で行わせることによって、その後の分離操作を省略することを提案している。
【0014】
なお、I−Sサイクル法以外にも、熱エネルギーを利用して水素を生成する方法として、ウエスティングハウス・サイクル、Ispra−Mark 13サイクル法等が知られているが、これらの方法においても、式(B1−2)でのようにして、三酸化硫黄を二酸化硫黄と水素とに分解することが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2007−218604
【特許文献2】特開2005−041764
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】A.Giaconia, et al., International Journal of Hydrogen Energy, 32, 469−481(2007)
【非特許文献2】H.Tagawa, et al.,International Journal of Hydrogen Energy, 14, 11−17(1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明では、水素を生成する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本件発明者は、鋭意検討の結果、下記の本発明に想到した。
【0019】
〈1〉水を水素及び酸素に分解することを含む、水素生成方法であって、
太陽熱エネルギーを用いて、下記式(X1)で示される反応で、硫酸を、水、二酸化硫黄、及び酸素に分解することを含み、
下記式(X1)で示される反応が、下記式(X1−1)及び(X1−2)で示される素反応を含み、
下記式(X1−1)の素反応の少なくとも一部を、太陽熱エネルギーを用いて行わせ、
下記式(X1−2)の素反応の少なくとも一部を、太陽熱エネルギー以外の追加の熱エネルギーを用いて行わせ、
上記追加の熱エネルギーによる加熱温度が、太陽熱エネルギーによる加熱温度よりも10℃以上高く、かつ
上記追加の熱エネルギーの少なくとも一部を、式(X1−1)及び/又は式(X1−2)の素反応を行わせる反応容器内で発生させる、
水素生成方法:
(X1)HSO → HO + SO + 1/2O
(X1−1)HSO → HO + SO
(X1−2)SO → SO + 1/2O
〈2〉上記追加の熱エネルギーを、上記反応容器内での水素の燃焼及び/又は電気ヒーター加熱によって提供する、上記〈1〉項に記載の方法。
〈3〉上記追加の熱エネルギーを、上記反応容器内での水素の燃焼によって提供する、上記〈2〉項に記載の方法。
〈4〉上記水素が、太陽熱エネルギー及び/又は太陽光エネルギーを用いて水を水素及び酸素に分解して得られた水素である、上記〈3〉項に記載の方法。
〈5〉上記追加の熱エネルギーを、上記反応容器内での電気ヒーター加熱によって提供する、上記〈2〉項に記載の方法。
〈6〉上記電気ヒーターのための電力が、太陽熱エネルギー及び/又は太陽光エネルギーから得られた電力である、上記〈5〉項に記載の方法。
〈7〉上記反応容器が流通式反応容器であり、かつ上記太陽熱エネルギーを、熱媒体を介して、上記反応容器に供給される硫酸と向流で、上記反応容器に供給する、上記〈1〉〜〈6〉項のいずれか1項に記載の水素生成方法。
〈8〉上記反応容器が流通式反応容器であり、かつ上記追加の熱エネルギーの少なくとも一部を、上記式(X1−2)の素反応が開始される箇所よりも下流で発生させる、上記〈1〉〜〈7〉項のいずれか1項に記載の水素生成方法。
〈9〉上記反応容器が流通式反応容器であり、かつ上記追加の熱エネルギーの少なくとも一部を、上記反応容器の400℃以上の箇所で発生させる、上記〈1〉〜〈8〉項のいずれか1項に記載の水素生成方法。
〈10〉I−Sサイクル法、ウエスティングハウス・サイクル法(ハイブリッド・サイクル法ともいう)、又はIspra−Mark 13サイクル法である、上記〈1〉〜〈9〉項のいずれか1項に記載の水素生成方法。
〈11〉上記太陽熱エネルギーを、パラボリックディッシュ型集光装置、ソーラータワー型集光装置、パラボリックトラフ型集光装置、又はそれらの組合せによって得る、上記〈1〉〜〈10〉項のいずれか1項に記載の法。
〈12〉上記反応容器内に、遷移金属、典型金属、及びそれらの酸化物、並びにそれらの組合せからなる群より選択される三酸化硫黄分解触媒が配置されている、上記〈1〉〜〈11〉項のいずれか1項に記載の水素生成方法。
〈13〉上記三酸化硫黄分解触媒が、遷移金属及び希土類元素からなる群より選択される少なくとも1つの金属とバナジウムとの複合酸化物を含む、上記〈12〉項に記載の方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の水素生成方法によれば、太陽熱以外の追加の熱エネルギーに関して、良好なエネルギー効率で、水から水素を生成できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の水素生成方法の第1の態様を説明するための図である。
【図2】図2は、本発明の水素生成方法の第2の態様を説明するための図である。
【図3】図3は、本発明の水素生成方法の第3の態様を説明するための図である。
【図4】図4は、式(B1−2)で示される反応の転化率、すなわち三酸化硫黄を分解して二酸化硫黄及び酸素を得る反応の転化率に対する、温度及び水素の影響を示す図である。
【図5】図5は、(a)実施例1及び(b)実施例2で単身触媒として用いた複合金属酸化物についてのX線回折分析の結果を示す図である。
【図6】図6は、(a)実施例3、(b)実施例4、及び(c)比較例1で単身触媒として用いた複合金属酸化物についてのX線回折分析の結果を示す図である。
【図7】図7は、実施例、比較例及び参考例の三酸化硫黄分解触媒の評価のために用いた装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の水素生成方法は、水を水素及び酸素に分解することを含む。
【0023】
ここで、この方法は、太陽熱エネルギーを用いて、下記式(X1)で示される反応で、硫酸を、水、二酸化硫黄、及び酸素に分解することを含み、かつ下記式(X1)で示される反応が、下記式(X1−1)及び(X1−2)で示される素反応を含む:
(X1)HSO → HO + SO + 1/2O
(X1−1)HSO → HO + SO
(X1−2)SO → SO + 1/2O
【0024】
また、この方法では、上記式(X1−1)の素反応の少なくとも一部を、太陽熱エネルギーを用いて行わせ、上記式(X1−2)の素反応の少なくとも一部を、太陽熱エネルギー以外の追加の熱エネルギーを用いて行わせ、かつこの追加の熱エネルギーによる加熱温度が、太陽熱エネルギーによる加熱温度よりも、10℃以上、50℃以上、100℃以上、150℃以上、又は200℃以上高い。
【0025】
ここで、式(X1−1)の素反応のうちの太陽熱エネルギーを用いて行わせる割合は、この反応によって吸収される全熱エネルギーに対して、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、又は約100%であってよい。この割合が大きいことは、本発明の水素生成方法において、太陽熱エネルギーの利用割合が大きいことを意味し、したがって追加の熱エネルギーのエネルギー効率に関して一般に好ましい。
【0026】
また、式(X1−2)の素反応のうちの追加の熱エネルギーを用いて行わせる割合は、この反応によって吸収される全熱エネルギーに対して、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、又は約100%であってよい。上記記載のように、追加の熱エネルギーによる加熱温度は、太陽熱エネルギーによる加熱温度よりも高いので、この割合が大きいことは、式(X1−2)の素反応を比較的高温で行うことを意味する。したがって、この割合が大きいことは、式(X1−2)の素反応の反応速度、転化率等に関して好ましい。ただし、この割合が大きいすぎることは、本発明の水素生成方法において追加の熱エネルギーの利用割合が大きいこと、すなわち太陽熱エネルギーの利用割合が小さいことを意味し、したがって追加の熱エネルギーのエネルギー効率に関しては好ましくない。
【0027】
I−S(ヨウ素−イオウ)サイクル法と呼ばれる水素生成方法に関して上記で説明されているように、式(X1−2)の素反応の反応エネルギー(ΔH)は、97.9kJ/mol−Hであるのに対して、水から水素を生成する全反応の反応エネルギー(ΔH)は、低位発熱量基準で241.5kJ/mol−Hである。すなわち、式(X1−2)の素反応の反応エネルギーは、水から水素を生成する全反応の反応エネルギーの半分以下である。
【0028】
したがって例えば、式(X1−1)の素反応の全てを、太陽熱エネルギーを用いて行わせ、かつ式(X1−2)の素反応の全てを、追加の熱エネルギーを用いて行わせる場合、得られる水素のエネルギーと必要とされる追加の熱エネルギーのエネルギーとの差、すなわち本発明の水素生成方法において太陽熱エネルギーから得られるエネルギーは、143.6kJ/mol−H{すなわち、(241.5kJ/mol−H)−(97.9kJ/mol−H)}となる。これは、水から水素を生成する全反応の反応エネルギーの約59%{すなわち、(143.6kJ/mol−H)/(241.5kJ/mol−H)}が、太陽熱エネルギーから得られることを意味する。
【0029】
また例えば、式(X1−1)の素反応の全てを、太陽熱エネルギーを用いて行わせ、かつ式(X1−2)の素反応の半分を、追加の熱エネルギーを用いて行わせる場合、得られる水素のエネルギーと必要とされる追加の熱エネルギーのエネルギーとの差、すなわち本発明の水素生成方法において太陽熱エネルギーから得られるエネルギーは、169.7kJ/mol−H{すなわち、(241.5kJ/mol−H)−(97.9kJ/mol−H)/2}となる。これは、水から水素を生成する全反応の反応エネルギーの約70%{すなわち、(169.7kJ/mol−H)/(241.5kJ/mol−H)}が、太陽熱エネルギーから得られることを意味する。
【0030】
なお、上記のエネルギー計算は、単純な反応式の反応熱による計算であるが、実際のプラントでは、熱ロスや、個々の反応率が100%に至らないことなどがある。したがって、太陽熱エネルギーから得られる全反応の反応エネルギーに対する割合は上記の値とは必ずしも一致しない。
【0031】
(太陽熱熱エネルギー)
太陽熱熱エネルギーは、任意の様式で反応容器に供給できる。
【0032】
例えば、式(X1)の反応を行わせる反応容器が流通式反応容器である場合、太陽熱エネルギーを、溶融金属、溶融金属塩等の熱媒体によって、反応容器に供給される硫酸と向流で、反応容器に供給することができる。この場合には、流通式反応容器の出口側、すなわち式(X1−2)で表される素反応が起こっている側の温度を比較的高くし、かつ流通式反応容器の入口側、すなわち式(X1−1)で表される素反応が起こっている側の温度を比較的低くすることができる。この場合、比較的高温を必要とする式(X1−2)で表される素反応が起こる側の温度を高くできることから、効率的に太陽熱エネルギーを利用することができる。
【0033】
なお、太陽熱エネルギーを得る集光装置としては、パラボリックディッシュ型集光装置、ソーラータワー型集光装置、及びパラボリックトラフ型集光装置が知られている。これらのうちでパラボリックトラフ型集光装置は、構造が簡単で、コストが安く、かつ大規模なプラントに適している点で好ましい。
【0034】
(追加の熱エネルギー)
追加の熱エネルギーは、太陽熱エネルギーによる加熱温度よりも高温の任意の熱源によって供給できる。
【0035】
ここで、追加の熱エネルギーの少なくとも一部、例えば追加の熱エネルギーの30%以上、50%以上、70%以上、90%以上、又は約100%は、式(X1−1)及び/又は式(X1−2)の素反応を行わせる反応容器内で少なくとも部分的に発生させる。これによれば、追加の熱エネルギーを、式(X1−1)及び/又は式(X1−2)の素反応のために効率的に利用することができる。これに対して、追加の熱エネルギーを反応容器の外部から供給する場合、式(X1−1)及び/又は式(X1−2)の素反応が吸熱反応であることから、反応容器の中心部分においては温度が低くなり、それによって反応容器の中心部分における反応速度が低下する。
【0036】
例えば、反応容器が流通式反応容器である場合、追加の熱エネルギーの少なくとも一部は、式(X1−2)の素反応が開始される箇所よりも下流で発生させることができる。また、反応容器が流通式反応容器である場合、追加の熱エネルギーの少なくとも一部を、反応容器の400℃以上、500℃以上、又は600℃以上の箇所で発生させることができる。これらの態様によれば、式(X1−2)の素反応がある程度進行した箇所で温度を上げて、最終的な転化率を効率的に高めることができる。
【0037】
追加の熱エネルギーは例えば、反応容器内における水素の燃焼及び/又は電気ヒーター加熱によって提供できる。
【0038】
(追加の熱エネルギー−水素の燃焼)
追加の熱エネルギーを、反応容器内における水素の燃焼によって提供する場合、式(X1−1)及び/又は式(X1−2)の素反応を行わせる反応容器内に水素を供給し、反応容器内容においてこの水素を燃焼させることによって、燃焼熱を供給することができる。
【0039】
反応容器内において水素を燃焼させることは、水素及び燃焼によって生成される水が、式(X1−1)及び/又は式(X1−2)の素反応に悪影響を与えない点で好ましい。また、水素の添加は、下記式(X1−2’)で示す平衡関係において、平衡が三酸化硫黄の分解側、すなわち二酸化硫黄の生成側に移動する点で好ましい:
(X1−2’)HO + SO + nH
←→ (1+n)HO + SO + (1−n)/2O
【0040】
式(X1−2)の素反応への水素の添加による平衡の移動は、例えば図4によって示すことができる。ここで、この図4では、下側の実線が、水素を添加しないときの温度と平衡転化率との関係を示しており、また上側の点線が、三酸化硫黄に対する水素の比(H/SO)が0.2であるときの、温度と平衡転化率との関係を示している。
【0041】
図4から理解されるように、水素の添加がある場合にも、水素の添加がない場合にも、三酸化硫黄(SO)から二酸化硫黄(SO)への平衡転化率は、温度の上昇と共に大きくなる。また、一定の温度であれば、水素の添加があった場合の方が、三酸化硫黄(SO)から二酸化硫黄(SO)への平衡転化率が大きくなる。
【0042】
したがって、例えば三酸化硫黄に対する水素の比(H/SO)を0.13にして、水素の燃焼によって温度を550℃から650℃にする場合、図4で示しているように、反応温度が550℃から650℃になったことによって、平衡が点Aから点Bに移動し、かつ水素比が0から0.2になったことによって、さらに平衡が点Bから点Cに移動する。
【0043】
具体的には例えば、単に反応温度を550℃から650℃に上昇させただけでは、平衡転化率が23.11%増加するのに対して、水素比を0.13にして温度を550℃から650℃に上昇させる場合には、平衡転化率が更に4.40%改良されて、27.51%(すなわち、23.11%+4.40%)になる。
【0044】
三酸化硫黄に対する水素の比(H/SO)は、所望の反応温度、最終転化率等に応じて任意に決定することができ、例えば0.01以上、0.05以上、又は0.10以上であって、0.3以下、又は0.2以下にすることができる。
【0045】
なお、反応容器に提供される水素は、太陽熱エネルギー及び/又は太陽光エネルギーを用いて水を水素及び酸素に分解して得られた水素であってよい。この場合、反応容器に提供される水素の生成においても、二酸化炭素の発生がない又は比較的少ない点で好ましい。
【0046】
追加の熱エネルギーを、反応容器内における水素の燃焼によって提供する場合、本発明の水素生成方法のための反応容器は、例えば、図1又は2に示すようなものであってよい。
【0047】
図1に示す流通式反応容器では、式(X1)の反応の原料としての硫酸(HSO)を、矢印(12)で示すようにして、流通式反応容器(32、34、36)に通す。また、太陽熱エネルギーを、熱媒体を介して、矢印(14)で示すようにして、反応容器に供給される硫酸と向流で、反応容器に供給する。さらに、水素(24)は、水素添加装置(22)から、反応容器に添加する。
【0048】
この図1では、流通式反応容器を、式(X1−1)の反応を行わせる上流部(32)、水素を添加する中流部(34)、及び式(X1−2)の反応を行わせる下流部(36)に分けて示しているが、これらの部分(32、34、36)は、明確に分かれていなくてもよい。また、反対に、図2に示しているように、流通式反応容器では、これらの部分(32、34、36)がそれぞれ独立の反応容器とされていて、これら独立の反応容器が導管によってつながれていてもよい。
【0049】
(追加の熱エネルギー−電気ヒーター加熱)
追加の熱エネルギーを、反応容器内における電気ヒーター加熱によって提供する場合、反応容器内での加熱に使用できる任意の電気ヒーターを用いることができる。すなわち、熱源として電気ヒーターによる加熱を用いる場合、式(X1−1)及び/又は式(X1−2)の素反応を行わせる反応容器内に電気ヒーターを配置し、電気ヒーターに通電することによって、反応容器内において加熱を行うことができる。
【0050】
なお、電気ヒーターのための電力は、太陽熱エネルギー及び/又は太陽光エネルギーから得られた電力であってよい。この場合、電気ヒーターのための電力の生成においても、二酸化炭素の発生がない又は比較的少ない点で好ましい。
【0051】
追加の熱エネルギーを、反応容器内における電気ヒーター加熱によって提供する場合、本発明の水素生成方法のための反応容器は、例えば、図3に示すようなものであってよい。
【0052】
図3に示す反応容器では、式(X1)の反応の原料としての硫酸(HSO)を、矢印(12)で示すようにして、図の左側から右側に、流通式反応容器(32、34、36)に通す。また、太陽熱エネルギーを、熱媒体を介して、矢印(14)で示すようにして、反応容器に供給される硫酸と向流で、反応容器に供給する。また、反応容器には、電気ヒーター(52)が配置されている。
【0053】
この図3では、流通式反応容器を、式(X1−1)の反応を行わせる上流部(32)、水素を添加する中流部(34)、及び式(X1−2)の反応を行わせる下流部(36)に分けて示しているが、これらの部分(32、34、36)は、明確に分かれていなくてもよい。また、反対に、水素を添加する態様に関して図2で示しているように、流通式反応容器では、これらの部分(32、34、36)はそれぞれ独立の反応容器とされていて、これら独立の反応容器が導管によってつながれていてもよい。
【0054】
(水素生成サイクル)
太陽熱エネルギーを用いて水を水素及び酸素に分解することを含む本発明の水素生成方法は、下記式(X1)で示される反応で、硫酸を、水、二酸化硫黄、及び酸素に分解することを含む:
(X1)HSO → HO + SO + 1/2O
【0055】
この本発明の水素生成方法は例えば、I−Sサイクル法、ウエスティングハウス・サイクル法、Ispra−Mark 13サイクル法であってよい。
【0056】
すなわち、例えば、水素を生成する本発明の方法は、下記式(X1)〜(X3)で示されるI−S(ヨウ素−イオウ)サイクル法であってよい:
(X1)HSO → HO + SO + 1/2O
(X2)I + SO + 2HO → 2HI + HSO
(X3)2HI → H + I
全反応:HO → H + 1/2O
【0057】
また、例えば、水素を生成する本発明の方法は、下記式(X1)、(X4)及び(X5)で示されるウエスティングハウス・サイクル法であってよい:
(X1)HSO → HO + SO + 1/2O
(X4)SO + 2HO → HSO
(X5)HSO + HO + → H + HSO(電気分解)
全反応:HO → H + 1/2O
【0058】
さらに、例えば、水素を生成する本発明の方法は、下記式(X1)、(X6)及び(X7)で示されるIspra−Mark 13サイクル法であってよい:
(X1)HSO → HO + SO + 1/2O
(X6)2HBr → Br + H
(X7)Br + SO + 2HO+ → 2HBr + HSO
全反応:HO → H + 1/2O
【0059】
(三酸化硫黄分解触媒)
本発明の水素生成方法では、式(B1−2)の三酸化硫黄分解反応に必要とされる温度を低下させ、例えば700℃以下程度の温度において、実質的な速度で三酸化硫黄分解反応を進行させるために、反応容器において、三酸化硫黄分解触媒を用いることができる。
【0060】
三酸化硫黄分解触媒は、例えば、遷移金属及び希土類元素からなる群より選択される少なくとも1つの金属とバナジウムとの複合酸化物を含む。
【0061】
上記記載のように、三酸化硫黄を分解する従来の方法では、1000℃近い温度を用いることが一般的であった。しかしながら、このような高温に耐えられる材料は非常に限定されており、またかなり高価なものであった。
【0062】
また、1000℃近い高温は、太陽エネルギーによっては安価に得ることが困難であった。すなわち例えば、太陽熱エネルギーを得る集光装置としては、パラボリックディッシュ型集光装置、ソーラータワー型集光装置、及びパラボリックトラフ型集光装置が知られているが、これらのうちで構造が簡単で、コストが安く、かつ大規模なプラントに適しているパラボリックトラフ型集光装置では、太陽エネルギーの収集と放射によるエネルギーの散逸との釣り合いから、1000℃近い高温での太陽エネルギーの収集は非現実的である。
【0063】
したがって、三酸化硫黄分解触媒によって、三酸化硫黄分解反応に必要とされる温度を低下させ、例えば700℃程度の温度において、実質的な速度で三酸化硫黄分解反応を進行するようにすることは、産業的な価値が非常に大きい。
【0064】
(三酸化硫黄分解触媒−複合酸化物)
三酸化硫黄分解触媒は、例えば、遷移金属及び希土類元素からなる群より選択される少なくとも1つの金属とバナジウムとの複合酸化物を含む。この複合酸化物を構成する遷移金属及び希土類元素としては、任意の遷移金属及び希土類元素、例えば銅(Cu)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、及びそれらの組合せからなる群より選択される金属を用いることができる。
【0065】
また、三酸化硫黄分解触媒の複合酸化物において、遷移金属及び希土類元素からなる群より選択される少なくとも1つの金属とバナジウム原子比(遷移金属等の少なくとも1つの金属:バナジウム)は、1:9〜9:1、2:8〜8:2、3:7〜7:3、又は4:6〜6:4にすることができる。
【0066】
三酸化硫黄分解触媒の複合酸化物は、任意の方法で得ることができる。
【0067】
例えば、この複合酸化物は、複合酸化物を構成する個々の金属の酸化物を混合し、焼成して得ることができる。また、遷移金属元素等の塩及びバナジウム塩を、これらの共沈が可能なように選択する場合、この複合酸化物は、遷移金属元素等の塩及びバナジウム塩の水溶液から、複合酸化物の前駆体を共沈によって得、その後、得られた共沈物を焼成して得ることができる。
【0068】
さらに、三酸化硫黄分解触媒が、担体に複合酸化物が担持されている担持触媒である場合、遷移金属元素又は希土類元素の塩の水溶液を、担体に吸水させ、乾燥及び仮焼成し、バナジウム塩の水溶液を、担体に吸水させ、乾燥及び仮焼成し、そしてその後で、得られた担体を焼成することによって、三酸化硫黄分解触媒を得ることができる。また、これとは反対に、バナジウム塩の水溶液を先に担体に吸水させ、乾燥及び仮焼成し、遷移金属元素等の塩の水溶液を、担体に吸水させ、乾燥及び仮焼成し、そしてその後で、得られた担体を焼成することによって、三酸化硫黄分解触媒を得ることができる。また、遷移金属元素等の塩及びバナジウム塩を、これらの共沈が可能なように選択する場合、遷移金属元素等の塩及びバナジウム塩の両方を含有する水溶液を、担体に吸水させ、乾燥及び仮焼成し、そしてその後で、得られた担体を焼成することによって、三酸化硫黄分解触媒を得ることもできる。
【0069】
(三酸化硫黄分解触媒−担体)
三酸化硫黄分解触媒の複合酸化物は、担体に担持し、それによって複合酸化物の表面積を大きくし、また使用の間の複合酸化物の表面積の減少を抑制することができる。これに関して使用可能な担体としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア及びそれらの組合せからなる群より選択される担体を挙げることができる。
【0070】
したがって例えば、担体としては、シリカ、特に細孔構造を有する多孔質シリカ担体を用いることができる。この場合、好ましくは、複合酸化物が多孔質シリカ担体の細孔構造内に担持されている。また、この場合、好ましくは、多孔質シリカ担体の細孔分布において、シリカの一次粒子間の間隙に起因するピークが、細孔径5〜50nm、特に細孔径5〜30nmの範囲にあり、かつシリカ粒子内の細孔構造に起因するピークが、細孔径1〜5nm、特に細孔径2〜4nmの範囲にある。
【0071】
このように、細孔構造を有する多孔質シリカ担体を用いる場合、複合酸化物が、多孔質シリカ担体の細孔構造表面近傍に担持され、それによって複合酸化物粒子のシンタリングが抑制される。理論に限定されるわけではないが、このように非常に微細な状態で維持されている複合酸化物粒子では、触媒の微粒子化によって、触媒の表面積が100倍程度増大されるだけでなく、触媒の表面の性質が変化して、複合酸化物の触媒性能が改良される場合もあると考えられる。
【0072】
また、細孔構造を有する多孔質シリカ担体の細孔分布において、二元の細孔分布となることにより、細孔径が数nmの表面積の広い活性部位に、十〜数十nmの細孔から拡散速度の速い気相ガスが高速に供給されることによって、複合酸化物粒子と三酸化硫黄との接触の機会が多く、それによって触媒性能を改良すると考えられる。
【0073】
なお、細孔構造を有する多孔質シリカ担体は、特開2008−12382に記載の方法によって得ることができる。
【0074】
三酸化硫黄分解触媒を用いて、三酸化硫黄を二酸化硫黄と酸素とに分解する反応は、三酸化硫黄分解触媒を用いることによって、三酸化硫黄を分解する従来の方法よりも低い温度、例えば800℃以下、750℃以下、700℃以下、650℃以下の温度で実施することができる。
【実施例】
【0075】
以下の実施例では、本発明の水素生成方法で使用できる触媒について評価している。
【0076】
《実施例1》
この実施例では、触媒として銅(Cu)とバナジウム(V)との複合金属酸化物(Cu−V−O)を用いた。
【0077】
(単身触媒の製造)
触媒として使用した単身触媒は、それぞれの金属の原子比が1:1である酸化銅及び酸化バナジウムを、乳鉢で粉砕し、良く混合し、アルミナ性るつぼに入れ、そして750℃で12時間にわたって焼成して得た。得られた単身触媒についてのX線回折分析(XRD)結果を図5(a)に示す。
【0078】
(担持触媒の製造)
下記のようにして、細孔構造を有する多孔質シリカ担体に複合金属酸化物が担持されている担持触媒を製造した。
【0079】
(担持触媒の製造−多孔質シリカ担体の製造)
担持触媒のための多孔質シリカ担体は、特開2008−12382に記載の方法と類似の方法によって製造した。すなわち、多孔質シリカ担体は、下記のようにして製造した。
【0080】
蒸留水6L(リットル)に、セチルトリメチルアンモニウムクロライド1kgを溶解した。得られた水溶液を2時間にわたって撹拌して、セチルトリメチルアンモニウムクロライドを自己配列させた。次に、セチルトリメチルアンモニウムクロライドを自己配列させた溶液に、テトラエトキシシランとアンモニア水を添加して、溶液のpHを9.5にした。
【0081】
この溶液中において、テトラエトキシシランを30時間にわたって加水分解して、配列したヘキサデシルアミンの周りにシリカを析出させて、ナノサイズの細孔を有する一次粒子からなる二次粒子を形成し、多孔質シリカ担体前駆体を得た。
【0082】
その後、得られた多孔質シリカ担体前駆体を、エタノール水で洗浄し、ろ過し、乾燥して、800℃の空気中で2時間にわたって焼成して、多孔質シリカ担体を得た。
【0083】
ここで得られた多孔質シリカ担体は、シリカの細孔構造に起因する2.7nm付近の細孔、及びシリカの一次粒子間の間隙に起因する10nm強の細孔を有していた。
【0084】
(担持触媒の製造−複合金属酸化物の担持)
複合酸化物は、吸水担持法によって、多孔質シリカ担体に担持した。具体的には、初めに、銅の硝酸塩を水に溶解した水溶液を作り、この水溶液を担体に吸水させ、150℃で乾燥し、350℃で1時間にわたって仮焼成した。次に、メタバナジン酸アンモニウムを水に溶解し、この水溶液を担体に吸水させ、150℃で乾燥し、350℃で1時間にわたって仮焼成した。最後に、得られた担体を600℃で2時間にわたって焼成して、複合酸化物を担持している多孔質シリカ担体を得た。
【0085】
なお、担持量は、銅が0.12mol/100g−担体、かつバナジウムが0.12mol/100g−担体とした。
【0086】
《実施例2》
実施例2では、クロム(Cr)とバナジウム(V)との複合金属酸化物(Cr−V−O)を触媒として用いた。ここでは、単身触媒の製造において焼成温度を700℃にしたことを除いて、実施例1と同様にして単身触媒を製造した。
【0087】
得られた単身触媒についてのX線回折分析(XRD)結果を図5(b)に示す。
【0088】
《実施例3》
実施例3では、セリウム(Ce)とバナジウム(V)との複合金属酸化物(Ce−V−O)を触媒として用いた。ここでは、単身触媒の製造において焼成温度を700℃にしたことを除いて、実施例1と同様にして単身触媒及び担持触媒を製造した。
【0089】
得られた単身触媒についてのX線回折分析(XRD)結果を図6(a)に示す。
【0090】
《実施例4》
実施例4では、ジルコニウム(Zr)とバナジウム(V)との複合金属酸化物(Zr−V−O)を触媒として用いた。ここでは、単身触媒の製造において焼成温度を700℃にしたことを除いて、実施例1と同様にして単身触媒を製造した。
【0091】
得られた単身触媒についてのX線回折分析(XRD)結果を図6(b)に示す。
【0092】
《実施例5》
実施例5では、チタン(Ti)とバナジウム(V)との複合金属酸化物(Ti−V−O)を触媒として用いた。ここでは、単身触媒の製造において焼成温度を600℃にしたことを除いて、実施例1と同様にして単身触媒を製造した。
【0093】
《実施例6》
実施例5では、ランタン(La)とバナジウム(V)との複合金属酸化物(La−V−O)を触媒として用いた。ここでは、実施例1と同様にして担持触媒を製造した。
【0094】
《実施例7》
実施例5では、ネオジム(Nd)とバナジウム(V)との複合金属酸化物(Nd−V−O)を触媒として用いた。ここでは、実施例1と同様にして担持触媒を製造した。
【0095】
《比較例1》
比較例1では、亜鉛(Zn)とバナジウム(V)との複合金属酸化物(Zn−V−O)を触媒として用いた。ここでは、単身触媒の製造において焼成温度を700℃にしたことを除いて、実施例1と同様にして単身触媒を製造した。
【0096】
得られた単身触媒についてのX線回折分析(XRD)結果を図6(c)に示す。
【0097】
《比較例2》
比較例2では、クロム(Cr)の酸化物(Cr−O)を触媒として用いた。ここでは、単身触媒の製造において複合酸化物の形成のための焼成を行わなかったこと、及び担持触媒の製造において、クロムの担持量を0.24mol/100g−担体としたことを除いて、実施例1と同様にして単身触媒及び担持触媒を製造した。
【0098】
《比較例3》
比較例3では、鉄(Fe)の酸化物(Fe−O)を触媒として用いた。ここでは、単身触媒の製造において複合酸化物の形成のための焼成を行わなかったこと、及び担持触媒の製造において、鉄の担持量を0.24mol/100g−担体としたことを除いて、実施例1と同様にして単身触媒及び担持触媒を製造した。
【0099】
《比較例4》
比較例4では、銅(Cu)の酸化物(Cu−O)を触媒として用いた。ここでは、単身触媒の製造において複合酸化物の形成のための焼成を行わなかったことを除いて、実施例1と同様にして単身触媒を製造した。
【0100】
《比較例5》
比較例5では、バナジウム(V)の酸化物(V−O)を触媒として用いた。ここでは、単身触媒の製造において複合酸化物の形成のための焼成を行わなかったことを除いて、実施例1と同様にして単身触媒を製造した。
【0101】
《比較例6》
比較例6では、ニッケル(Ni)の酸化物(Ni−O)を触媒として用いた。ここでは、単身触媒の製造において複合酸化物の形成のための焼成を行わなかったことを除いて、実施例1と同様にして単身触媒を製造した。
【0102】
《比較例7》
比較例7では、コバルト(Co)の酸化物(Co−O)を触媒として用いた。ここでは、単身触媒の製造において複合酸化物の形成のための焼成を行わなかったことを除いて、実施例1と同様にして単身触媒を製造した。
【0103】
《比較例8》
比較例8で触媒を用いなかった。
【0104】
《参考例》
参考例では、γ−アルミナ担体に白金を担持して、担持触媒を製造した。ここでは、担持量をPt0.5g/100g−担体とした。
【0105】
(評価)
図5に示す固定床流通反応装置を用いて、実施例、比較例及び参考例の単身触媒及び担持触媒について、下記式(X1−2)の三酸化硫黄分解反応の転化率を評価した:
(X1−2)SO → SO + 1/2O
【0106】
具体的には、三酸化硫黄分解反応の転化率は、図7に関して下記で説明するようにして評価した。
【0107】
14〜20メッシュに調整した0.5gの単身触媒又は担持触媒を、触媒床10として、石英製反応管4(内径10mm)に充填した。窒素(N)(100mL/分)及び47重量%硫酸(HSO)水溶液(50μL/分)を、それぞれ窒素供給部1及び硫酸供給部3から、石英製反応管4の下段に供給した。
【0108】
石英製反応管4の下段に供給された硫酸(HSO)は、石英製反応管4の下段及び中段において加熱されて、三酸化硫黄(SO)及び酸素(O)に分解し、そして触媒床10に流入した(SO:4.5mol%、HO:31mol%、N:残部、0℃換算ガス流量:148.5cm/分、重量流量比(W/F比):5.61×10−5g・h/cm、気体時空間速度(GHSV:Gas Hourly Space Velocity):約15,000h−1)。
【0109】
ここで、石英製反応管4は、下段がヒーター4aによって約400℃に加熱されており、かつ中段がヒーター4bによって約600℃に加熱されていた。また、石英製反応管4の上段は、ヒーター4cによって初めに約600℃に加熱されており、定常状態になった後で、650℃に加熱した。
【0110】
石英製反応管4の上段をヒーター4cによって650℃に加熱した後で、石英製反応管4からの流出ガスを、空冷し、その後で、0.05Mのヨウ素(I)溶液にバブリングして、ヨウ素溶液に二酸化硫黄(SO)を吸収させた。0.025Mのチオ硫酸ナトリウム(Na)溶液を用いて、二酸化硫黄を吸収したヨウ素溶液にヨードメトリー滴定を行って、吸収された二酸化硫黄の量を求めた。
【0111】
また、ヨウ素溶液にバブリングした後の流出ガスは、ドライアイス・エタノール混合物で冷却し、残留している二酸化硫黄及び三酸化硫黄をミストアブソーバー及びシリカゲルで完全に除去し、その後で、磁気圧力酸素計(堀場製作所のMPA3000)及びガスクロマトグラフ(島津製作所のGC8A、モレキュラーシーブ5A、TCD検出器)を用いて、酸素(O)の量を求めた。
【0112】
三酸化硫黄(SO)から二酸化硫黄(SO)への転化率は、上記のようにして求めた二酸化硫黄及び酸素の量から計算した。
【0113】
実施例、比較例、及び参考例についての評価結果を下記の表1に示す。
【0114】
【表1】

【0115】
表1からは、実施例の触媒が、比較例の触媒と比較して、650℃という比較的低い温度において、有意に好ましい三酸化硫黄分解特性を有していることが理解される。また、表1からは、貴金属を用いていない実施例の触媒が、貴金属である白金を用いている参考例の触媒と比較しても、同等又は好ましい三酸化硫黄分解特性を有していることが理解される。
【0116】
なお、上記の比較例5で用いられている酸化バナジウム、特に五酸化バナジウム(V)は、下記式(C−1)〜(C−3)で示される反応で硫酸を製造する接触法と呼ばれる方法において、二酸化硫黄を酸化させて三酸化硫黄を得る式(C−2)の反応を促進するために用いられている:
(C−1)S(固体) + O(気体) → SO(気体)
(C−2)2SO(気体) + O(気体) → 2SO(気体)
(C−3)SO(気体) + HO(液体) → HSO(液体)
【0117】
しかしながら、酸化バナジウムを用いている比較例5は、実施例と比較して有意に劣った転化率を示していた。
【符号の説明】
【0118】
1 窒素供給部
3 硫酸供給部
4 石英製反応管
4a、4b、4c ヒーター
10 触媒床
22 水素添加装置
24 水素
32、34、36 流通式反応容器
52 電気ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を水素及び酸素に分解することを含む、水素生成方法であって、
太陽熱エネルギーを用いて、下記式(X1)で示される反応で、硫酸を、水、二酸化硫黄、及び酸素に分解することを含み、
下記式(X1)で示される反応が、下記式(X1−1)及び(X1−2)で示される素反応を含み、
下記式(X1−1)の素反応の少なくとも一部を、太陽熱エネルギーを用いて行わせ、
下記式(X1−2)の素反応の少なくとも一部を、太陽熱エネルギー以外の追加の熱エネルギーを用いて行わせ、
前記追加の熱エネルギーによる加熱温度が、太陽熱エネルギーによる加熱温度よりも10℃以上高く、かつ
前記追加の熱エネルギーの少なくとも一部を、式(X1−1)及び/又は式(X1−2)の素反応を行わせる反応容器内で発生させる、
水素生成方法:
(X1)HSO → HO + SO + 1/2O
(X1−1)HSO → HO + SO
(X1−2)SO → SO + 1/2O
【請求項2】
前記追加の熱エネルギーを、前記反応容器内での水素の燃焼及び/又は電気ヒーター加熱によって提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記追加の熱エネルギーを、前記反応容器内での水素の燃焼によって提供する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記水素が、太陽熱エネルギー及び/又は太陽光エネルギーを用いて水を水素及び酸素に分解して得られた水素である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記追加の熱エネルギーを、前記反応容器内での電気ヒーター加熱によって提供する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記電気ヒーターのための電力が、太陽熱エネルギー及び/又は太陽光エネルギーから得られた電力である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記反応容器が流通式反応容器であり、かつ前記太陽熱エネルギーを、熱媒体を介して、前記反応容器に供給される硫酸と向流で、前記反応容器に供給する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の水素生成方法。
【請求項8】
前記反応容器が流通式反応容器であり、かつ前記追加の熱エネルギーの少なくとも一部を、前記式(X1−2)の素反応が開始される箇所よりも下流で発生させる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の水素生成方法。
【請求項9】
前記反応容器が流通式反応容器であり、かつ前記追加の熱エネルギーの少なくとも一部を、前記反応容器の400℃以上の箇所で発生させる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の水素生成方法。
【請求項10】
I−Sサイクル法、ウエスティングハウス・サイクル法、又はIspra−Mark 13サイクル法である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の水素生成方法。
【請求項11】
前記太陽熱エネルギーを、パラボリックディッシュ型集光装置、ソーラータワー型集光装置、パラボリックトラフ型集光装置、又はそれらの組合せによって得る、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記反応容器内に、遷移金属、典型金属、及びそれらの酸化物、並びにそれらの組合せからなる群より選択される三酸化硫黄分解触媒が配置されている、請求項1〜11のいずれか1項に記載の水素生成方法。
【請求項13】
前記三酸化硫黄分解触媒が、遷移金属及び希土類元素からなる群より選択される少なくとも1つの金属とバナジウムとの複合酸化物を含む、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−140290(P2012−140290A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294085(P2010−294085)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】