説明

水素発生システム及び燃料電池システム

【課題】極めて安全性に優れ、高信頼性を有する水素発生システム及び燃料電池システムを提供する。
【解決手段】本発明の水素発生システムは、水との反応により水素を発生する水素発生材料10を収容する水素発生材料収容容器1と、水を収容する水収容容器4とを含み、水収容容器4内の水を水素発生材料収容容器1内に供給して水素を発生させる水素発生システムにおいて、水素発生材料10と水との水素発生反応を抑制可能な水素発生抑制剤を収容する水素発生抑制剤収容容器3と、水素発生材料収容容器1に作用する加速度aを検出する加速度検出部13とを含み、水素発生材料収容容器1に作用する加速度aが、あらかじめ設定した閾値a_1に対して、a_1≦aなる関係を満足するとき、水素発生抑制剤収容容器3内の水素発生抑制剤を水素発生材料収容容器1に供給することにより水素発生を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素発生システム及び燃料電池システムに関し、詳しくは、水との反応により水素を発生する水素発生材料を用いた水素発生システム及び燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータ、携帯電話などのコードレス機器の普及に伴い、その電源である二次電池はますます小型化、高容量化が要望されている。現在、エネルギー密度が高く、小型軽量化が図れる二次電池としてリチウムイオン二次電池が実用化されており、ポータブル電源として需要が増大している。しかし、このリチウム二次電池は、一部のコードレス機器に対して十分な連続使用時間を保証することができない場合がある。
【0003】
上記問題の解決に向けて、例えば固体高分子型燃料電池などの燃料電池の開発が進められている。燃料電池は、燃料及び酸素の供給さえ行えば、連続的に使用することが可能である。例えば、電解質に固体高分子電解質、正極活物質に空気中の酸素、負極活物質に各種燃料を用いる固体高分子型燃料電池は、リチウムイオン二次電池よりも高エネルギー密度化が期待できる電池として注目されている。
【0004】
このような燃料電池に用いる燃料に関しては、水素、メタノールなどが提案され、種々開発が行われているが、高出力が期待できる点で、水素を燃料とする燃料電池が注目されている
【0005】
燃料電池の燃料源となる水素を製造する方法としては、例えば、特許文献1には、アルミニウム、マグネシウム及びそれらの合金よりなる群から選択される少なくとも1種の金属材料を含み、水との反応により水素を発生する水素発生材料を用いることで、低温で簡便に水素を発生させる方法が開示されている。また、特許文献2には、水との反応により水素を発生する水素発生材料が収容された水素発生材料収容容器への水の供給量を制御することで、水素発生反応を安定的に維持し、簡便で効率よく且つ安定的に水素を製造する方法が開示されている。
【0006】
ところで、水素の発生を停止させたい場合、上記のような水と水素発生材料との反応により水素を製造する方法では、水素発生材料への水の供給を停止すれば良いが、水の供給を止めた後も、系内に残存している水と水素発生材料との反応により水素発生がしばらく継続する。例えば、燃料電池などの水素を使用する機器に水素を供給する水素製造装置において、特許文献2に記載の水素発生方法を利用した場合、機器の運転の停止と同時に水素発生材料への水の供給を停止しても、水素製造装置で水素発生がしばらく継続することになる。そのため、機器の運転を停止した状態で、水素発生材料を再充填するために使用中の水素発生材料収容容器を機器から取り外したり、水素発生材料が充填された別の水素発生材料収容容器に交換するために使用中の水素発生材料収容容器を機器から取り外したりする際に、系外への水素の漏出を防ぐには、水素発生材料への水の供給停止から水素発生材料収容容器の取り外しまでに、時間をおく必要がある。
【0007】
また、水素は可燃性であるため、その取り扱いには充分な注意を要し、緊急時には水素の発生を即座に停止するなど系外への水素の漏洩を防ぐ安全対策が求められる。
【0008】
このような要望に応える安全対策の一つとして、例えば、特許文献3では、金属水素錯化合物のアルカリ水溶液を含む原料貯蔵帯域と、下部が触媒体層であり上部が空間部である水素発生帯域とを上下に隔離した状態で配置し、水素ガス発生時には、上方の原料貯蔵帯域から金属水素錯化合物のアルカリ水溶液を下方の水素発生帯域に供給して、触媒体との接触面積に応じて所望量の水素ガスを発生させ、水素ガス発生の停止時には接触面積を減少または接触を遮断させる方法が提案されている。特許文献3に記載の技術によれば、緊急時には水素発生反応を応答性よく迅速に停止できる。
【0009】
また、特許文献4では、燃料電池システムが組み込まれた燃料電池車両に加速度センサを搭載し、加速度センサにより検出される燃料電池車両に作用する加速度に基づいて、燃料電池車両の走行系、及び/又は、燃料電池発電システムの補機駆動系の電源ラインを遮断することで、車両の衝突発生時に燃料電池の発電を停止する方法が提案されている。
【0010】
また、特許文献5では、燃料電池システムが搭載された移動体への衝撃を検知する衝撃検知手段と、燃料ガスの濃度を検出する燃料ガス濃度検出手段とを備え、衝撃検知手段により検知された衝撃値に応じて燃料ガス濃度検出手段によるガス漏れ診断を行い、ガス漏れを検知した場合は燃料電池への水素の供給を停止する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−306700号公報
【特許文献2】特開2007− 45646号公報
【特許文献3】特開2003−146605号公報
【特許文献4】特開2001−357863号公報
【特許文献5】特開2006−318817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の技術では、水素発生システムに瞬間的な不慮の大きな加速度が加わった状態、例えば落下したような場合の安全性確保に関する対策が充分に採られていない。
【0013】
また、特許文献3に記載の技術では、水素の放出を抑制することが可能である一方で、原料貯蔵帯域と水素発生帯域とを分割し、かつ、停止時には各帯域を天地逆転させる必要がある。このような機構を有する燃料電池は、方向自在性が求められる用途には不向きであり、また、触媒体の細孔に浸漬したアルカリ溶液を完全に除去するのに時間を要するため、水素発生を早急に停止できない虞がある。
【0014】
また、特許文献4及び5では、燃料電池装置あるいは燃料電池システムが搭載された移動体に衝撃が加わった場合の技術が開示されているが、いずれも燃料電池自動車などの移動体に搭載される燃料電池システムを想定したものである。このため、例えば携帯型燃料電池システムそのものが落下したりして衝撃が加わった場合などの安全性確保に関しては開示されていない。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、極めて安全性に優れ、高信頼性を有する水素発生システム及び燃料電池システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の水素発生システムは、水との反応により水素を発生する水素発生材料を収容する水素発生材料収容容器と、水を収容する水収容容器とを含み、上記水収容容器内の水を上記水素発生材料収容容器内に供給して水素を発生させる水素発生システムにおいて、上記水素発生材料と上記水との水素発生反応を抑制可能な水素発生抑制剤を収容する水素発生抑制剤収容容器と、上記水素発生材料収容容器に作用する加速度aを検出する加速度検出部とを含み、上記水素発生材料収容容器に作用する加速度aが、あらかじめ設定した閾値a_1に対して、a_1≦aなる関係を満足するとき、上記水素発生抑制剤収容容器内の上記水素発生抑制剤を上記水素発生材料収容容器に供給することにより水素発生を抑制することを特徴とする。
【0017】
本発明の燃料電池システムは、上記本発明の水素発生システムから発生した水素を、燃料電池に供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、水素発生材料収容容器に作用する加速度に基づいて、水素発生抑制剤を上記水素発生材料収容容器内に供給することにより、極めて安全性に優れ、高信頼性を有する水素発生システム及び燃料電池システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の水素発生システムの一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の水素発生システムにおける液体選択判定処理の一例を示すフローチャート図である。
【図3】物体が自由落下する時の落下距離と落下時間との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の燃料電池システムの一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の水素発生システムは、水との反応により水素を発生する水素発生材料を収容する水素発生材料収容容器と、水を収容する水収容容器とを備え、上記水収容容器内の水を上記水素発生材料収容容器内に供給して水素を発生させるものである。また、本発明の水素発生システムは、上記水素発生材料と上記水との水素発生反応を抑制可能な水素発生抑制剤を収容する水素発生抑制剤収容容器と、上記水素発生材料収容容器に作用する加速度aを検出する加速度検出部とを備え、上記水素発生材料収容容器に作用する加速度aが、あらかじめ設定した閾値a_1に対して、a_1≦aなる関係を満足するとき、上記水素発生抑制剤収容容器内の上記水素発生抑制剤を上記水素発生材料収容容器に供給することにより水素発生を抑制することを特徴とする。これにより、水素発生材料収容容器に作用する加速度に応じて水素発生反応を自動的に抑制あるいは停止でき、極めて安全性に優れ、高信頼性を有する水素発生システムを提供できる。
【0021】
また、本発明の燃料電池システムは、上記本発明の水素発生システムから発生した水素を、燃料電池に供給することを特徴とする。これにより、水素発生材料収容容器に作用する加速度に応じて水素発生反応を自動的に抑制あるいは停止でき、極めて安全性に優れ、高信頼性を有する燃料電池システムを構築できる。
【0022】
以下、本発明の水素発生システム及び燃料電池システムについて、図面を参照しながら具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
(実施形態1)
まず、本発明の実施形態1に係る水素発生システムについて説明する。図1は、本発明の水素発生システムの一例を示す概略構成図である。
【0024】
本実施形態の水素発生システムは、図1に示すように、水素発生材料収容容器1、液体供給部11、水素排出部12、加速度検出部13、液体選択弁2、水素発生抑制剤収容容器3、水収容容器4、液体選択弁制御部5、及び液体選択判定部6を備えている。水素発生材料収容容器1には、水との反応により水素を発生する水素発生材料10が収容され、水素発生抑制剤収容容器3には、水素発生材料10と水との水素発生反応を抑制可能な水素発生抑制剤が収容され、水収容容器4には水が収容されている。なお、図1において、水素発生材料収容容器1、液体供給部11、及び水素排出部12については断面図としている。
【0025】
水素発生材料収容容器1は、水素発生材料10を収容可能であれば、その材質や形状は特に限定されないが、液体や水素が漏れない材質や形状が好ましい。具体的な容器の材質としては、液体及び水素が透過しにくく、かつ120℃程度に加熱しても容器が破損しない材質が好ましく、例えば、アルミニウム、鉄などの金属、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの樹脂を用いることができる。また、容器の形状としては、角柱状、円柱状などが採用できる。
【0026】
液体供給部11は、液体選択弁2に連結されており、水素発生抑制剤収容容器3あるいは水収容容器4に収容されている液体を水素発生材料収容容器1内に供給する。
【0027】
水素排出部12は、水素発生材料収容容器1内において、水素発生材料10と水との反応により発生した水素を外部へ排出する。
【0028】
加速度検出部13は、水素発生材料収容容器1近傍に設置される。図1では、加速度検出部13は水素発生材料収容容器1に接している。この加速度検出部13は、水素発生材料収容容器1に作用する加速度aを検出し、液体選択判定部6に通知する。加速度検出部13としては、公知の各種加速度センサを用いることができる。
【0029】
液体選択弁2は、液体選択弁制御部5からの指示に基づいて、水素発生抑制剤収容容器3あるいは水収容容器4を液体供給部11に接続し、水素発生抑制剤あるいは水を水素発生材料収容容器1内に供給可能な状態にする。
【0030】
水素発生抑制剤収容容器3は、水素発生抑制剤を収容可能であれば、その材質や形状は特に限定されないが、収容する水素発生抑制剤によって腐食しない材質が好ましい。具体的な容器の材質としては、ポリプロピレン、高密度ポリエチレンなどのポリオレフィン類や、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などのフッ素樹脂などを用いることができる。
【0031】
水収容容器4は、水を収容可能であれば特に制限はなく、例えば、従来から知られている水素製造装置と同様の水を収容するタンクなどを使用できる。
【0032】
液体選択弁制御部5は、液体選択判定部6の判定結果に応じて水素発生抑制剤収容容器3あるいは水収容容器4に収容されている液体を水素発生材料収容容器1内に供給可能な状態となるように液体選択弁2を制御する。
【0033】
液体選択判定部6は、タイマー61と加速度連続時間算出部62とを備え、加速度検出部13で検出された水素発生材料収容容器1に作用する加速度aに基づいて、液体供給部11から水素発生材料収容容器1内に供給すべき液体の種類を判定する。
【0034】
水素発生材料収容容器1に収容される水素発生材料10としては、水との反応により水素を発生するものであれば良い。例えば、アルミニウム、マグネシウム及びそれらの合金よりなる群から選択される少なくとも1種の金属材料や、それら材料の水酸化物を用いることができる。特に、上記金属材料が、60μm以下の粒径の粒子を80質量%以上含むものである場合、水との反応性が向上するため好ましい。
【0035】
また、水素発生材料10は、常温(20℃〜30℃の範囲の温度)で水と反応して発熱する発熱材料をさらに含むことが好ましい。水素発生材料10が発熱材料を含む場合、水素発生材料収容容器1内に供給された水が低温であっても、発熱材料が水と反応して発熱するため、水素発生材料10と水との水素発生反応が促進され、迅速に水素を発生させることができるからである。また、金属材料と発熱材料との合計質量中、金属材料の割合が、85質量%超で99質量%以下であることが好ましい。金属材料の量が少なすぎると、水素発生量が低下し、発熱材料の量が多すぎると、温度が上昇しすぎて水素発生反応を制御するのが難しくなるからである。
【0036】
水素発生材料10に含まれる発熱材料としては、例えば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及び硫酸カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を使用できる。
【0037】
水素発生材料10に含まれる金属材料が、アルミニウム合金またはマグネシウム合金である場合、より効率よく水素を発生させるためには、アルミニウム合金またはマグネシウム合金が、2〜20質量%の添加元素を含むことが好ましい。添加元素としては、例えば、ケイ素、鉄、銅、マンガン、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、チタン、鉛、スズ及びクロムよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を使用できる。
【0038】
ところで、金属材料は、一般に、表面に安定な酸化皮膜が形成されているため、常温では水と反応しにくく、加熱しても水との反応が進行しない場合もある。しかし、平均粒径を100μm以下にすれば、酸化皮膜による水との反応抑制作用が減少し、常温では水と反応しにくいものの、加熱すれば水との反応が促進され、水素発生反応が持続するようになる。金属材料の平均粒径を30μm以下とすれば、より水との反応が促進され、より効率よく水素を発生できる。一方、金属材料の粒径を小さくすれば、水素発生速度を増加できるが、粒径が0.1μmより小さくなると、引火性が高まり取り扱いが困難となるだけでなく、金属材料の充填密度が低下してエネルギー密度が低下しやすくなる。そのため、金属材料の粒径は、0.1μm以上であることが好ましい。
【0039】
なお、金属材料の平均粒径とは、体積基準の積算分率50%における粒子直径の値であるD50を意味している。平均粒径の測定方法としては、例えば、レーザー回折・散乱法などを用いることができる。具体的には、水などの液相に分散させた測定対象物質にレーザー光を照射することによって検出される散乱強度分布を利用した粒子径分布の測定方法である。レーザー回折・散乱法による粒子径分布測定装置としては、例えば、日機装株式会社製の「マイクロトラックHRA(製品名)」などを用いることができる。
【0040】
また、金属材料は、アトマイズ法により作製された粉末状のものを使用できる。より効率よく水素を発生させるためには、金属材料は、化学的手段または機械的手段により、表面における水との反応性を向上させるための表面処理が施されていることが好ましい。金属材料の表面処理は、例えば、金属材料を溶媒中で機械的に撹拌することにより行う。また、金属材料は、ペレット状または顆粒状に形成されていても良い。
【0041】
水素発生抑制剤収容容器3に収容される水素発生抑制剤としては、沸点が95℃以上の有機溶剤が好ましく、有機溶剤の沸点は120℃以上であることがより好ましい。本発明で利用する水素発生反応は発熱を伴うが、例えばエタノール(沸点:78℃)や2−プロパノール(沸点:82℃)のような低沸点の有機溶剤では、水よりも沸点が非常に低いため、水素発生反応を生じている系内に添加すると、揮発してしまって水素発生反応の抑制効果が小さくなる虞がある。
【0042】
また、高沸点の有機溶剤は、一般に粘度が高い傾向にあるが、有機溶剤の粘度が高すぎて流動性が乏しいと、水素発生反応を生じている系内へ添加しにくくなることから、有機溶剤は、例えば沸点が300℃以下のものが好ましく、このような沸点の中から、比較的粘度の低いものを選択することが望ましい。なお、有機溶剤の粘度は、例えば、2Pa・s以下であることが好ましい。有機溶剤の粘度は、例えば、20℃の条件下で、コーン式粘度計を用いて計測することができる。有機溶剤としては、例えば、20℃における誘電率が1.9以上のものが好ましい。
【0043】
ここで、上記有機溶剤の具体例について説明する。なお、下記有機溶剤の例示中、「bp.」は沸点を、「ε」は誘電率を、誘電率の後の括弧内の温度は誘電率の測定温度を、それぞれ意味している。
【0044】
上記有機溶剤としては、例えば、1−プロパノール[bp.:97.2℃、ε:22.2(25℃)]、イソプロパノール[bp.:82.4℃、ε:18.3(25℃)]、1−ブタノール[bp.:117.7℃、ε:17.1(25℃)]などのアルコール類;エチレングリコールモノエチルエーテル[bp.:135.6℃、ε:29.6(24℃)]、エチレングリコールモノブチルエーテル[bp.:170.2℃、ε:9.3(25℃)]、プロピレングリコールモノメチルエーテル[bp.:120℃、ε:27(20℃)]などのセロソルブ類;エチレングリコール[bp.:198℃、ε:37.0(25℃)]、プロピレングリコール[bp.:187.3℃、ε:32(20℃)]のグリコール類;グリセロール[bp.:290℃、ε:42.5(25℃)];ヘプタン[bp.:98.4℃、ε:1.92(25℃)]、オクタン[bp.:125.7℃、ε:1.94(20℃)]などの脂肪族炭化水素類;o−キシレン[bp.:144.4℃、ε:2.26(20℃)]、m−キシレン[bp.:139.1℃、ε:2.37(20℃)]、p−キシレン[bp.:138.4℃、ε:2.27(20℃)]、トルエン[bp.:110.6℃、ε:2.24(20℃)]などの芳香族炭化水素類;ジエチルケトン[bp.:102℃、ε:12.5(80℃)]、メチルイソブチルケトン[bp.:115.9℃、ε:13.1(20℃)]、メチル−n−ブチルケトン[bp.:140℃、ε:2.27(20℃)]、メチル−n−プロピルケトン[bp.:102.3℃、ε:6.8(20℃)]、シクロヘキサノン[bp.:155.7℃、ε:18.3(20℃)]などのケトン類;酢酸プロピル[bp.:101.6℃、ε:6.0(20℃)]などのエステル類;N−メチルピロリドン[bp.:202℃、ε:32.0(25℃)];γ−ブチロラクトン[bp.:204℃、ε:39.1(20℃)];ホルムアミド[bp.:210℃、ε:111.0(20℃)];ニトロベンゼン[bp.:210℃、ε:34.8(25℃)];炭酸エチレン[bp.:238℃、ε:89.6(40℃)];スクシノニトリル[bp.:267℃、ε:56.5(57.4℃)];スルホラン[bp.:287℃、ε:43.3(30℃)];モルホリン[bp.:129℃、ε:7.4(25℃)];などが挙げられる。また、低粘度ジメチルシリコーンオイル、低粘度のメチルフェニルシリコーンオイルなどのストレートシリコーンオイル;アルキルアラルキル変性シリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイルなどの変性シリコーンオイル;なども、沸点が95℃以上の有機溶剤に該当し、水素発生抑制剤として使用することができる。上記例示の有機溶剤は、それぞれ1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
なお、上記方法により測定される粘度が2Pa・s以下の有機溶剤としては、エチレングリコール(粘度:0.021Pa)やプロピレングリコール(粘度:0.056Pa)
などが挙げられる。
【0046】
また、トリクロロメタン(沸点:112℃)やトリクロロニトロメタン(沸点:113℃)などのように、少なくとも一部がハロゲン元素で置換された炭化水素には、金属と反応し該金属を腐食させる可能性のある有機溶剤もあり、そのような場合には、水素発生反応を抑制する作用が低下する可能性があるので、有機溶剤としては、ハロゲン元素を含有しない化合物を用いるのがより好ましい。
【0047】
なお、水素発生抑制剤として使用する有機溶剤は、極性溶剤(極性溶媒)であることが好ましい。本発明で利用する水素発生反応は、金属からなる水素発生材料と水との反応であるため、水との親和性の高い極性溶剤を水素発生抑制剤として使用することで、より迅速な反応抑制(停止)を行うことができるからである。
【0048】
水素発生抑制剤として使用する有機溶剤の量は、水素発生反応の抑制効果をより良好に確保する観点から、例えば、水素発生反応が生じる前の水素発生材料(水素発生材料収容容器に最初に投入した水素発生材料)100質量部に対して、20質量部以上とすることが好ましい。また、有機溶剤の使用量は、水素発生反応が生じる前の水素発生材料100質量部に対して、40質量部以下程度とすることが好ましい。
【0049】
さらに、水素発生抑制剤には、上記の有機溶剤とともに、リン酸、リン酸塩、リン酸化合物、リン酸エステル化合物、またはリン酸エステル化合物の中和物といった添加剤を併用することが好ましい。これらの添加剤は、金属表面に吸着して、金属腐食インヒビターとして作用することが知られている。そのため、上記の有機溶剤と併用することで、より良好に水素発生反応を抑制できる。
【0050】
水素発生抑制剤に添加し得るリン酸としては、例えば、オルトリン酸、ピロリン酸、メタリン酸、三リン酸、四リン酸、亜リン酸、ポリリン酸、ラウリルリン酸、ポリオキシプロピレンオレイルエーテルリン酸、ジポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルリン酸などの無機リン酸が挙げられる。
【0051】
水素発生抑制剤に添加し得るリン酸エステル化合物としては、リン酸のアルキルエステル、アルケニルエステル、アリールエステルや、アルキル基またはアルケニル基にエチレンオキシド鎖が付加したエステルが該当する。なお、リン酸エステル化合物は、モノエステル、ジエステルのいずれであってもよく、これらの混合物であってもよい、また、種類の異なるリン酸エステル化合物の混合物であっても構わない。
【0052】
リン酸エステル化合物の具体例としては、オクチルアシッドホスフェート、トリデシルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、ポリキシエチレンアルキルエーテルアシッドホスフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルアシッドホスフェート、2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジ−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、トリ−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジ−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、トリ−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジブチル−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジオクチル−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジオクチル−2−メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジオクチル−2−アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、2−メタクリロイロキシプロピルアッシドフォスフェート、ビス(2−クロロエチル)ビニルホスホネート、ジアリルジブチルホスホノサクシネート、ポリオキシエチレントリデシルエーテルアシッドフォスフェートなどが挙げられる。
【0053】
水収容容器4に収容される水は、中性の水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液などのいずれであってもよい。すなわち、少なくとも水を含む液体であればよく、使用する水素発生材料10との反応性などに応じて好適なものを選択すればよい。
【0054】
次に、本実施形態の水素発生システムの動作について説明する。
【0055】
水素を発生させるために、まず、水素発生材料10が収容された水素発生材料収容容器1に、液体供給部11を介して水収容容器4内の水を供給する。すると、水素発生材料収容容器1内では、水素発生材料10と水とが反応し、水素が発生する。その後、水素の発生を停止する場合には、上記水の供給を停止する、あるいは、水素発生抑制剤収容容器3内の水素発生抑制剤を供給する。特に、水素発生抑制剤を用いた場合には、水素発生材料10と水との水素発生反応を短時間で抑制できる。
【0056】
次に、本実施形態の水素発生システムにおいて、水素発生中の液体選択判定処理、つまり、水の供給により水素の製造を開始した後、水素発生抑制剤を用いて水素発生反応を停止させる場合の処理について図1を参照しながら図2を用いて説明する。図2は、本発明の水素発生システムにおける液体選択判定処理の一例を示すフローチャート図である。
【0057】
水素発生材料収容容器1内に水を供給して水素の発生を開始すると共に、液体選択判定処理を開始する(ステップS101)。まず、加速度検出部13を用いて水素発生材料収容容器1に作用する加速度aを常時検出する(ステップS102)。液体選択判定部6では、加速度検出部13により検出された加速度aと、あらかじめ設定した閾値a_1とを比較する(ステップS103)。ここで、a_1は、安全性の観点から水素発生材料収容容器1に作用する加速度として許容される最大加速度となる値に設定する。さらに、a_1は、水素発生材料収容容器1の内壁の機械的強度及び化学反応に対する耐久性を考慮して設定する。
【0058】
ステップS103における比較の結果、加速度aが閾値a_1以上である場合、液体選択判定部6では、後述する連続時間t_highの数値に依存せずに、即座に水素発生抑制剤の供給を行うことを決定する(ステップS104)。
【0059】
一方、ステップS103において、加速度aが閾値a_1よりも低い場合、ステップS105に進み、液体選択判定部6で、加速度aと、a_2<a_1なるあらかじめ設定した閾値a_2とを比較する。
【0060】
ステップS105における比較の結果、加速度aが閾値a_2以上である場合は、加速度aがa_2≦a<a_1を満たす連続時間t_highをタイマー61及び加速度連続時間算出部62を用いて算出し(ステップS106)、算出した連続時間t_highと、あらかじめ設定した最大連続時間t_high_maxとを比較する(ステップS107)。ここで、a_2及びt_high_maxは、加速度aが瞬間的に閾値a_2となった場合には安全性の問題は生じないが、加速度aが閾値a_2以上閾値a_1未満となっている状態が長時間続くと、安全性に問題が発生する可能性があると考えられる値にそれぞれ設定する。また、a_2及びt_high_maxは、上記a_1の設定と同様に、水素発生材料収容容器1の内壁の機械的強度及び化学反応に対する耐久性を考慮して設定する。
【0061】
そして、ステップS107において、連続時間t_highが最大連続時間t_high_maxを超えた場合、液体選択判定部6では、水素発生抑制剤の供給を行うことを決定する(ステップS108)。一方、連続時間t_highが最大連続時間t_high_max以内である場合、液体選択判定部6では、引き続き水の供給を行うことを決定する(ステップS109)。
【0062】
一方、ステップS105における比較の結果、加速度aが閾値a_2よりも低い場合は、液体選択判定部6では、引き続き水の供給を行うことを決定する(ステップS110)。
【0063】
以上のようにして水素発生材料収容容器1内に供給すべき液体の種類が決定されると、液体選択弁制御部5では、上記液体選択判定部6による判定結果に応じて液体選択弁2を制御し、液体を水素発生材料収容容器1内に供給する(ステップS111)。水素発生抑制剤が供給された場合は、水素発生反応が抑制される。一方、水が供給された場合は、引き続き水素が発生することになる。
【0064】
本実施形態の水素発生システムによれば、水素発生材料収容容器1に作用する加速度aが、予め設定した閾値a_1以上であるとき、あるいは、水素発生材料収容容器1に作用する加速度aが、a_2<a_1なるあらかじめ設定した閾値a_1、a_2に対して、a_2≦a<a_1を満たす連続時間t_highがあらかじめ設定した最大連続時間t_high_maxを超えたとき、水素発生抑制剤を水素発生材料収容容器1内に供給するようにしたので、水素発生材料収容容器1に作用する加速度に応じて水素発生反応を抑制あるいは停止でき、極めて安全性に優れ、高信頼性を有する水素発生システムを構築できる。
【0065】
例えば、物体に作用する自由落下時の加速度に基づいて水素発生抑制剤を供給するように設定すれば、本実施形態の水素発生システムを備えた携帯型燃料電池システムそのものが落下した場合、携帯型燃料電池システムが着地面に衝突して衝撃を受ける前に水素発生抑制剤を供給して水素発生反応を抑制し、水素が外部に漏れるのを防ぐことができ、安全性を確保できる。
【0066】
具体的には、閾値a_1、a_2を次のように設定することができる。自由落下したときに物体に作用する加速度は1G=9.8(m/s2)であり、本発明の水素発生システムが自由落下したときの安全性を確保する観点から、少なくとも閾値a_2は9.8(m/s2)より小さい値に設定することが好ましい。ただし、1.0(m/s2)より小さくすると、危険を伴わない加速度でも水素発生反応を停止することになり却って利便性が悪くなるため、閾値a_2は1.0(m/s2)以上であることが好ましい。一方、閾値a_1については、閾値a_2よりも大きい値であれば特に制限されないが、地球上で起こり得る衝撃を考慮すると、例えば、閾値a_1の上限値は、3G=29.4(m/s2)と設定できる。
【0067】
ここで、本実施形態の水素発生システムを用いることで、自由落下したときの安全性の確保が可能であることについて、より詳細に説明する。
【0068】
物体が自由落下している時、加速度としては重力加速度9.8(m/s2)のみが加わる等加速度運動をすることになるため、落下距離s(m)と落下時間t(ms)には次の関係が成立する。
【数1】

【0069】
図3は、数1を用いて物体が自由落下する場合の落下距離s(m)と落下時間t(ms)との関係を算出した結果を示すグラフである。図3を考慮して、a_1、a_2とt_high_maxの数値を設定することで、本実施形態の水素発生システムを自由落下させた場合でも、安全に水素発生を停止させることが可能となる。
【0070】
例えば、a_1=15.0(m/s2)、a_2=5.0(m/s2)、t_high_max=400(ms)と設定した場合について説明する。今、本実施形態の水素発生システムを高度2.0(m)の高さから自由落下させるとする。このとき、加速度検出部13で検出される加速度aは9.8(m/s2)となるが、この値は閾値a_2以上でかつ閾値a_1より小さいため、液体選択判定部8では、加速度a=9.8(m/s2)を検出してから連続時間400(ms)を超えた後に、水素発生抑制剤の供給を行うことを決定し、水素発生抑制剤の供給を実行する(図2におけるステップS105、S106、S107、S108、S111)。図3から物体が高度2.0(m)から自由落下した場合の落下時間tは638.8(ms)と算出されるが、上記のように、加速度9.8(m/s2)を検出してから連続時間400(ms)を超えた後すぐに水素発生抑制剤の供給を決定し、水素発生抑制剤の供給を実行するため、本実施形態の水素発生システムが自由落下して着地面に衝突する前に水素発生抑制剤を供給することになり、システムの安全性を高めることができる。
【0071】
また、a_1=5.0(m/s2)、a_2=1.0(m/s2)、t_high_max=200(ms)と設定した場合は、自由落下時の加速度9.8(m/s2)はa_1以上であるため、液体選択判定部8で、即座に水素発生抑制剤の供給を行うことを決定し(図2におけるステップS103、104)、水素発生抑制剤の供給を実行することになる。よって、閾値a_1を9.8(m/S2)以下に設定すると、システムの安全性をより一層高めることができる。
【0072】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2に係る燃料電池システムについて説明する。図4は、本発明の燃料電池システムの一例を示す概略構成図である。図4において、図1と同一構成要素については同一符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0073】
本実施形態の燃料電池システムは、図4に示すように、水素発生材料収容容器1、液体供給部11、水素供給部12、加速度検出部13、液体選択弁2、水素発生抑制剤収容容器3、水収容容器4、液体選択弁制御部5、及び液体選択判定部6を有する上記実施形態1の水素発生システムを、水素供給源として備えている。なお、図中の12は、上記実施形態1では、水素発生材料収容容器1内で発生した水素を排出するものであるため、「水素排出部」と呼んでいたが、本実施形態では、燃料電池71の負極に連結されて水素発生材料収容容器1内で発生した水素に供給するものであるため、「水素供給部」と呼ぶ。また、図4において、水素発生材料収容容器1、液体供給部11、及び水素供給部12については断面図としている。
【0074】
また、本実施形態の燃料電池システムは、燃料電池71、電圧検出部72、電流検出部73、ローパスフィルタ(LPF)74、二次電池充電回路制御部75、二次電池充電回路76、二次電池77、及びDC−DCコンバータ78を備えている。DC−DCコンバータ78の出力は、外部負荷79に接続されている。
【0075】
このような構成の本実施形態の燃料電池システムでは、水素発生材料10と水との反応により発生した水素が水素供給部12を介して燃料電池71の負極に供給される。燃料電池71は、高周波ノイズをカットするLPF74を介して電圧検出部72に並列接続される一方で、電流検出部73と直列接続されており、電圧検出部72及び電流検出部73により、燃料電池71の電圧及び電流が検出される。電圧検出部72で検出された電圧値と、電流検出部73で検出された電流値は二次電池充電回路制御部75に入力される。二次電池充電回路制御部75は、燃料電池71の電圧値及び電流値に基づいて、二次電池77の特性に合わせた充電制御を行うための回路であり、この二次電池充電回路制御部75の制御に従って、二次電池充電回路76により二次電池77の充電が行われ、DC−DCコンバータ78を介して、安定した直流電流が、携帯用電子機器などの外部負荷79に供給される。
【0076】
本実施形態の燃料電池システムによれば、上記実施形態1の水素発生システムを水素供給源とすることにより、水素発生材料収容容器1に作用する加速度に応じて水素発生反応を自動的に抑制でき、極めて安全性に優れ、高信頼性を有する燃料電池システムを構築できる。
【実施例】
【0077】
以下、上記実施形態1の水素発生システムを用いて本発明の水素発生抑制剤の抑制効果について説明する。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではない。
【0078】
(実施例1)
まず、図1に示す構成の水素発生システムを作製した。水素発生材料収容容器1には、内容積50cm3のポリプロピレン製角柱状の容器を用い、その中に水素発生材料10として平均粒径6μmのアルミニウム粉末20.7gと、発熱材料として酸化カルシウム3.5gを収容した。水収容容器4には、内容積50cm3のポリプロピレン製角柱状の容器を用い、その中に水を50g収容した。液体供給部11及び水素排出部12には、内径2mm、外径3mmのシリコンゴムチューブを用いた。
【0079】
水素発生抑制剤については、次のようにして調製した。まず、リン酸及びリン酸エステル化合物に対する溶媒として、2−プロパノールとエチレングリコールとを容器に収容し、常温で10分間攪拌した。2−プロパノールの量は、アルミニウム粉末100質量部に対し43質量部となる量とし、エチレングリコールの量は、アルミニウム粉末100質量部に対し20質量部となる量とした。その後、上記容器内に、リン酸としてオルトリン酸、リン酸エステル化合物としてポリオキシエチレントリデシルエーテルアシッドフォスフェート(商品名:RS−610、東邦化学製)、及び有機溶剤としてモルホリンを添加し、常温で60分間以上攪拌することにより、水素発生抑制剤を調製した。オルトリン酸、ポリオキシエチレントリデシルエーテルアシッドフォスフェート、及びモルホリンの量はそれぞれ、アルミニウム粉末100質量部に対し、1.8質量部、0.1質量部、1.5質量部とした。
【0080】
作製した上記水素発生システムを用いて、以下の実験を行った。
【0081】
水素発生材料10を収容した水素発生材料収容容器1内に、水収容容器4内の水を供給し、2時間水素を発生させた。水の供給量は毎分2.2gとした。そして、水収容容器4から水素発生材料収容容器1への水の供給を停止した後、水素発生材料収容容器1内の温度が室温になるまで待ってから、上記水素発生抑制剤を水素発生収容容器1内に供給した。
【0082】
上記水素発生抑制剤の供給後、1時間常温保存し、さらに50℃の温浴にて保存し、水素発生量を計測した。ここで、50℃の温浴にて保存する理由は、高温下での水素発生抑制剤の抑制効果を調べるためである。水素発生量の計測については、水上置換法で集めた水素の量を計測することで行い、単位時間あたりの水素発生量を水素発生速度として求めた。具体的には、上記水素発生抑制剤を供給してから1時間経過した時の水素発生量から「1時間後の水素発生速度」を求めた。また、上記水素発生抑制剤を供給して1時間経過した時からさらに1時間経過した時の水素発生量から「2時間後の水素発生速度」を求めた。
【0083】
(実施例2)
本実施例2では、水素発生抑制剤中のポリオキシエチレントリデシルエーテルアシッドフォスフェートの含有量を、アルミニウム粉末100質量部に対して1.0質量部とした以外、上記実施例1と同様にして水素発生システムを作製し、上記実施例1と同様の実験を行った。
【0084】
(実施例3)
本実施例3では、水素発生抑制剤中のポリオキシエチレントリデシルエーテルアシッドフォスフェートの含有量を、アルミニウム粉末100質量部に対して3.2質量部とした以外、上記実施例1と同様にして水素発生システムを作製し、上記実施例1と同様の実験を行った。
【0085】
(実施例4)
本実施例4では、水素発生抑制剤中のポリオキシエチレントリデシルエーテルアシッドフォスフェートの含有量を、アルミニウム粉末100質量部に対して10.0質量部とした以外、上記実施例1と同様にして水素発生システムを作製し、上記実施例1と同様の実験を行った。
【0086】
(比較例1)
本比較例1では、上記実施例1と同様にして水素発生システムを作製し、水素発生抑制剤を供給せずに以下の実験を行った。
【0087】
水素発生材料10を収容した水素発生材料収容容器1内に、水収容容器4内の水を供給して、2時間水素を発生させた。水の供給量は毎分2.2gとした。水収容容器4から水素発生材料収容容器1への水の供給を停止した後、水素発生材料収容容器1内の温度が室温になってから1時間常温保存し、さらに50℃の温浴にて保存し、水素発生量を計測した。50℃の温浴にて保存を開始した時の水素発生量から「1時間後の水素発生速度」を求めた。また、50℃の温浴での保存時間が1時間経過した時の水素発生量から「2時間後の水素発生速度」を求めた。
【0088】
表1に、上記実験の結果を示した。なお、表1における「相対水素発生速度」は、比較例1で求めた「2時間後の水素発生速度」を1.0とした相対値で示している。
【0089】
【表1】

【0090】
表1から明らかなように、実施例1〜3では、水素発生抑制剤の抑制効果が見られた。特に、実施例2及び3の場合、顕著に水素発生反応を抑制できることが分かった。
【0091】
一方、実施例4では、水素発生抑制剤を供給して1時間後では、水素発生抑制剤の抑制効果は見られず、水素発生抑制剤を供給して2時間後に、水素発生抑制剤の抑制効果が見られた。しかし、この抑制効果は、実施例1〜3に比べて小さかった。実施例4の場合、水素発生抑制剤中のリン酸エステル化合物の含有量が多いことにより、水素発生抑制剤の粘性が高まり、アルミニウム表面への浸透が悪化したためと考えられる。
【0092】
以上のことから、上記実施例で用いた水素発生材料及び水素発生抑制剤の場合、水素発生抑制剤中に含まれるリン酸エステル化合物の含有量は、アルミニウム粉末100質量部に対して0.1〜3.2質量%の範囲内であることが望ましく、より好ましくは1.0〜3.2質量%の範囲内であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の水素発生システムは、安全性に優れた水素発生システムとして、産業上幅広く利用可能である。また、本発明の燃料電池システムは、ポータブル電源として幅広く利用可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 水素発生材料収容容器
10 水素発生材料
11 液体供給部
12 水素排出部(水素供給部)
13 加速度検出部
2 液体選択弁
3 水素発生抑制剤収容容器
4 水収容容器
5 液体選択弁制御部
6 液体選択判定部
61 タイマー
62 加速度連続時間算出部
71 燃料電池
72 電圧検出部
73 電流検出部
74 LPF
75 二次電池充電回路制御部
76 二次電池充電回路
77 二次電池
78 DC−DCコンバータ
79 外部負荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水との反応により水素を発生する水素発生材料を収容する水素発生材料収容容器と、水を収容する水収容容器とを含み、前記水収容容器内の水を前記水素発生材料収容容器内に供給して水素を発生させる水素発生システムにおいて、
前記水素発生材料と前記水との水素発生反応を抑制可能な水素発生抑制剤を収容する水素発生抑制剤収容容器と、
前記水素発生材料収容容器に作用する加速度aを検出する加速度検出部とを含み、
前記水素発生材料収容容器に作用する加速度aが、あらかじめ設定した閾値a_1に対して、a_1≦aなる関係を満足するとき、前記水素発生抑制剤収容容器内の前記水素発生抑制剤を前記水素発生材料収容容器に供給することにより水素発生を抑制することを特徴とする水素発生システム。
【請求項2】
a_2<a_1なるあらかじめ設定した閾値a_1、a_2に対して、a_2≦a<a_1を満たす連続時間t_highを算出する加速度連続時間算出部をさらに含み、
前記連続時間t_highが、あらかじめ設定した最大連続時間t_high_maxを越えたとき、前記水素発生抑制剤収容容器内の前記水素発生抑制剤を前記水素発生材料収容容器に供給することにより水素発生を抑制する請求項1に記載の水素発生システム。
【請求項3】
前記水素発生抑制剤は、沸点が95〜300℃の有機溶剤である請求項1または2に記載の水素発生システム。
【請求項4】
前記水素発生抑制剤は、リン酸、リン酸塩、リン酸エステル化合物及びリン酸エステル化合物の中和物よりなる群から選択された少なくとも一種の化合物をさらに含む請求項3に記載の水素発生システム。
【請求項5】
前記水素発生材料は、アルミニウム、マグネシウム及びそれらの合金よりなる群から選択される少なくとも1種の金属材料である請求項1〜4のいずれか1項に記載の水素発生システム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の水素発生システムから発生した水素を、燃料電池に供給することを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−79712(P2011−79712A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234327(P2009−234327)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】