説明

水素製造方法、水素製造装置および発電システム

【課題】室温において水素を発生させることができ、また必要に応じて水素発生量を調節することができ、水素化物を水素貯蔵源として繰り返し利用することが可能な水素製造方法を提供する。
【解決手段】電解液槽1に収容したメタノール、エタノールなどの有機溶媒にアンモニアボラン(NH3BH3)および過塩素酸リチウムなどの支持電解質が溶解した電解液3を、白金、パラジウム、ニッケル、銅または鉄からなる陽極5および陰極6を用いて電気分解することにより、水素を発生させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素製造方法、水素製造装置および発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人類によるエネルギー消費が増大し、化石燃料の枯渇が問題視されている。また、大量に放出される二酸化炭素は地球温暖化の原因物質とされており、排出量の規制が急務となっている。さらに、窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)も、酸性雨といった公害をもたらしている。上記のような問題を解決するための新たなエネルギー源として、燃料電池の燃料とすることができ、燃焼時の排出物が水のみである水素が注目されている。
【0003】
しかし、水素は常温において気体であるため、その貯蔵方法に難点がある。現在用いられている水素貯蔵方法は、(1)高圧ガスとして貯蔵、(2)液体水素として貯蔵、(3)水素吸蔵合金に貯蔵、(4)有機材料に吸着または付加させて貯蔵、(5)水素化物として貯蔵の5種類に大別される。
これらの水素貯蔵方法の中でも、アンモニアボランなどの水素化物は、質量あたりの水素含有率に優れているため、水素化物から水素を取り出す方法が特に注目されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−528438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の水素化物から水素を取り出す方法では、水素化物を加熱することにより、水素を発生させるため、加熱するためのエネルギーが必要であり、また、必要に応じて水素の発生を調節することが難しい。また、従来の方法では、水素化物を加熱することにより水素を発生させるのと同時に副生成物が生じ、この副生成物が水素化物を水素貯蔵源として繰り返し利用することを難しくする場合がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、室温において水素を発生させることができ、また必要に応じて水素発生量を調節することができ、水素化物を水素貯蔵源として繰り返し利用することが可能な水素製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、有機溶媒にアンモニアボラン(NH3BH3)および支持電解質が溶解した電解液を電気分解することにより、水素を発生させることを特徴とする水素製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、有機溶媒にアンモニアボランおよび支持電解質が溶解した電解液を電気分解することにより、アンモニアボランの脱水素反応を電気化学的に進行させることができ、水素を発生させることができる。また、この脱水素反応を室温程度の温度で進行させることができる。
本発明によれば、水素を発生させたい場合に電気分解を行い水素を発生させることができ、水素を発生させたくない場合に電気分解を停止して、水素を発生させない又は発生量を少なくすることができる。このことにより、必要に応じて水素の発生を調節することができる。
本発明によれば、アンモニアボランの脱水素反応は、電気分解を行う電極表面で進行するため、電極を電解液から引き上げることにより水素発生を完全に停止させることができる。
本発明によれば、電解液としてアンモニアボランおよび支持電解質が溶解した有機溶媒を用いるため、アンモニアボランへの還元が難しいホウ酸などを生成させずに水素を発生させることができる。このため、アンモニアボランの脱水素反応により生じる反応生成物を水素化し、アンモニアボランへの還元が可能となり、電解液に含まれるアンモニアボランを水素貯蔵源として繰り返し利用することが可能である。
本発明によれば、水素質量密度が19.6質量%であるアンモニアボランを水素貯蔵源として用いるため、より多くの水素を発生させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態の水素製造装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施形態の発電システムの構成を示す概略図である。
【図3】サイクリックボルタンメトリー実験を行った装置の概略図である。
【図4】メタノール溶液中でのサイクリックボルタモグラムである。
【図5】アンモニアボランを含むメタノール溶液およびアンモニアボランを含まないメタノールに対するサイクリックボルタモグラムである。
【図6】アンモニアボランを含むメタノール溶液のサイクリックボルタモグラムである。
【図7】定電位電解をした時の、酸化電流の経時変化を示すグラフである。
【図8】作用極側での水素発生量の経時変化を示すグラフである。
【図9】対極側での水素発生量の経時変化を示すグラフである。
【図10】得られた電気量と、作用極側での水素発生量の関係を示すグラフである。
【図11】得られた電気量と、対極側での水素発生量の関係を示すグラフである。
【図12】0.5V vs. Ag/AgClでの定電位電解を行った場合の、電流の経時変化を示すグラフである。
【図13】得られた電気量と、作用極側での水素発生量の関係を示すグラフである。
【図14】得られた電気量と、対極側での水素発生量の関係を示すグラフである。
【図15】1.1V vs. Ag/AgClにおける定電位電解での電流変化を示すグラフである。
【図16】得られた電気量と、作用極側での水素発生量の関係を示すグラフである。
【図17】得られた電気量と、対極側での水素発生量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の水素製造方法は、有機溶媒にアンモニアボラン(NH3BH3)および支持電解質が溶解した電解液を電気分解することにより、水素を発生させることを特徴とする。
【0010】
アンモニアボランとは、化学式NH3BH3で表すことができる化合物である。なお、図面中では、アンモニアボランをABと略して記載している。
【0011】
本発明の水素製造方法において、前記有機溶媒は、アルコールであることが好ましい。
このことにより、アンモニアボランを有機溶媒に溶解することができる。
本発明の水素製造方法において、前記電解液は、10mmol・dm-3以上100mmol・dm-3以下のアンモニアボラン濃度を有することが好ましい。
このことにより、アンモニアボランの脱水素反応を電気化学的に進行させることができ、水素を発生させることができる。
【0012】
本発明は、有機溶媒にアンモニアボラン(NH3BH3)および支持電解質が溶解した電解液を溜める電解液槽と、陽極と、陰極とを備え、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加することにより前記陽極または前記陰極から水素を発生させる水素製造装置も提供する。
この水素製造装置により、アンモニアボランの脱水素反応を電気化学的に進行させることができ、水素を発生させることができる。
本発明の水素製造装置において、陽極および陰極は、白金、パラジウム、ニッケル、銅または鉄からなるが好ましい。
このことにより、陽極または陰極から水素を発生させることができる。
【0013】
本発明は、本発明の水素製造装置と、前記水素製造装置から発生させた水素を燃料とすることが可能な燃料電池とを備える発電システムも提供する。
本発明の発電システムにより、電気が必要なときに水素を発生させ、燃料電池が発電することができる。
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0015】
水素製造装置の構成
図1は本発明の一実施形態の水素製造装置の構成を示す概略図である。
【0016】
本実施形態の水素製造方法は、有機溶媒にアンモニアボラン(NH3BH3)および支持電解質が溶解した電解液3を電気分解することにより、水素を発生させることを特徴とする。
本実施形態の水素製造装置20は、有機溶媒にアンモニアボラン(NH3BH3)および支持電解質が溶解した電解液3を溜める電解液槽1と、陽極5と、陰極6とを備え、陽極5と陰極6との間に電圧を印加することにより、陽極5から水素を発生させる。
【0017】
また、本実施形態の水素製造装置20は、参照電極8をさらに有してもよい。
また、本実施形態の水素製造装置20は、電解液槽1、陽極5、陰極6、参照電極8、電解液3の注入口、排出口、発生気体の取り出し口などを備えた電解槽を有してもよい。
以下、本実施形態の水素製造方法、水素製造装置20および発電システムについて説明する。
【0018】
1.水素製造装置
水素製造装置20は、有機溶媒にアンモニアボラン(NH3BH3)および支持電解質が溶解した電解液3を電気分解することにより水素を発生させる装置である。電気分解に用いる電源は、特に限定されないが、例えば、水素製造装置で発生させた水素を導入した燃料電池を用いてもよく、太陽電池などを用いてもよい。
【0019】
2.電解液槽
電解液槽1は、電解液3を溜めることができる容器であって、陽極5および陰極6を電解液3に接触させることができるものであれば特に限定されないが、例えば、図1に示したようなH字型の電解液槽1である。また、電解液槽1は、ガス排出路15を備えてもよい。このことにより、陽極5または陰極6から発生させた気体を回収することができる。また、電解液槽1は、電解液3が流れることができるようなものでもよい。
また、電解液槽1は、陽極5を入れる電解液3を溜める槽と陰極6を入れる電解液3を溜める槽を隔膜やイオン交換膜で分離されていてもよい。
【0020】
3.電解液
電解液3は、有機溶媒にアンモニアボランおよび支持電解質が溶解した電解液である。このことにより、陽極でアンモニアボランの酸化的脱水素反応を電気化学的に進行させることができ、水素を発生させることができる。また、電解液3は、有機電解液であってもよい。
アンモニアボランは、化学式NH3BH3で表される物質であり、水素質量密度が19.6質量%と高い。また、アンモニアボラン1molから最高で水素ガス3molを発生させることが可能であり、質量あたりの水素発生量がとても多い物質である。また、本実施形態の水素発生装置でアンモニアボランの酸化的脱水素反応を電気化学的に進行させ、水素を発生させた後、アンモニアボランの反応生成物を水素化することにより、アンモニアボランへ還元することが可能である。このことにより、アンモニアボランを水素貯蔵源として繰り返し用いることが可能である。
【0021】
電解液3には水が極力含まれていない方がよい。電解液3に含まれる水は、アンモニアボランの加水分解反応によりホウ酸などの物質の生成の原因となる場合がある。
このことによりアンモニアボランの酸化的脱水素反応によりホウ酸などの物質が生成することを防止することができる。ホウ酸は、還元処理を行うことによりアンモニアボランに還元することが難しい。このため、ホウ酸が生成すると、アンモニアボランを水素貯蔵源としての繰り返し用いることを阻害する原因となる。従って、電解液3に含まれるアンモニアボランは、水素貯蔵源として繰り返し用いることが可能となると考えられる。
【0022】
電解液3に含まれる有機溶媒は、アルコールが好ましい。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、またはグリセリンである。また、有機溶媒をメタノールとすることにより、陰極6においてメタノールを還元することにより水素を発生させる反応を進行させることができる。
【0023】
また、電解液3は、支持電解質を含む。このことにより、電解液3が導電性を有することができる。支持電解質は、例えば、過塩素酸リチウム、六フッ化ホウ酸リチウムなどである。
【0024】
また、電解液3の温度は、例えば、室温、または0℃〜50℃である。このことによりアンモニアボランの熱分解による水素発生を抑制することができ、陽極5と陰極6との間に印加する電圧を調節することにより、水素発生量の調節を容易にすることができる。
【0025】
4.陽極および陰極
陽極5および陰極6は、この両極に電圧を印加させることができ、陽極において酸化反応を進行させることができ、陰極において還元反応を進行させることができるものであれば特に限定されない。
例えば、陽極5および陰極6は、白金、パラジウム、ニッケル、銅、鉄などの8〜11属遷移金属からなってもよい。また、これらの金属板などを使用することができる。また、陽極5および陰極6に白金を用いた場合、白金は、触媒活性が高いため、アンモニアボランの酸化的脱水素反応を効率的に生じさせることができ、水素をより効率的に発生させることができる。ただし、白金は、触媒活性が高いため、陽極5と陰極6との間に電圧を印加しない場合でも、アンモニアボランの酸化的脱水素反応は、反応速度は遅いが進行してしまう。しかし、陽極5および陰極6を電解液3から引き上げることによりこの進行を完全に停止させることができる。
【0026】
また、陽極5と陰極6との間に電圧を印加すると、陽極5において水素を発生させることができ、陽極5と陰極6との間に印加する電圧をなくすと、水素の発生量を少なくすることができる。このことにより、陽極5と陰極6との間に印加する電圧を調節することにより、水素の発生量を調節することができ、必要に応じて水素を発生させることができる。
【0027】
陽極5と陰極6との間に印加する電圧は、陽極5から水素を発生させることができれば特に限定されないが、例えば1V〜3Vの電圧を印加させ水素を発生させることができる。
また、陽極5の電位は、銀―塩化銀電極に対して0.1V〜0.5Vとすることができる。
【0028】
5.参照電極
参照電極8は、電解液3中で安定な電位を示し、電極電位の算出や測定や設定の基準となる電極であれば特に限定されないが、例えば、銀―塩化銀電極などである。
【0029】
6.発電システム
図2は、本実施形態の発電システムの構成を示す概略図である。
本実施形態の発電システムは、水素製造装置20と、水素製造装置20から発生させた水素を燃料とすることが可能な燃料電池26とを備える。
水素製造装置20は、必要に応じて水素を発生させることができるため、発電が必要なときに水素を燃料電池26の燃料極24に供給することができる。このことにより、燃料電池26は、電気が必要なときに発電をすることができる。
【0030】
実験
1.電極の作製
陽極(作用極)5、陰極(対極)6の作製
5×5mmの白金板(陽極5)および10×10mmの白金板(陰極6)(ニラコ、PT-353382、厚さ0.1mm)と白金線(ニラコ、PT-351385、線径0.50mm)とを用いて、陽極5および陰極6を作製した。また、作製した陽極5および陰極6について電解研磨を行った。電解研磨は、参照電極に可逆水素電極(RHE)、電解液に0.5M H2SO4(WAKO、190-04675、96+ %、F.W.=98.08)を用いてセルを構築し、高純度窒素(住友精化、99.999 %)を10分間バブリングした後、0.05〜1.2Vの電位範囲を100mVs-1の走査速度で、Ptに特有なサイクリックボルタモグラムが得られるまで行った。
【0031】
参照電極の作製
アルゴンで満たされたグローブバッグ内で銀線を紙やすりで研磨し、参照電極用銀塩化銀インク(BAS、コードNo. 011464)を塗布した。その後、銀線をサンプル管内に封入し、1日乾燥させた。ガラス管の先端にバイコールガラス(BAS、Cat. No. 012182、直径2.73mm、高さ4mm)を熱収縮チューブ(BAS、Cat. No. 012183、直径3mm)で固定した。
また、塩化リチウム(Mitsuwa、39141、99 %、F.W.=42.40、以下LiClと表記)を減圧下、120 ℃で3時間乾燥させた。真空引きを行いながら自然冷却したLiClを、グローブボックスに入れ、脱水メタノール(WAKO、132-12385、99.8%、F.W.=32.04)10mlを注ぎ、サンプル管のふたをしっかりと閉め、さらにテフロンテープを巻いてグローブボックスから取り出した。50℃の水が入った恒温槽に30分間浸し、自然冷却後に再びグローブボックス内で静置することで、飽和塩化リチウム溶液を調製した。
これらを用いて、グローブボックス内で参照電極を作製した。
【0032】
2.サイクリックボルタンメトリー実験
メタノール中でのアンモニアボランの電気化学的特性を調べるため、サイクリックボルタンメトリーを行った。装置にはALS-730C(BAS)を用いた。グローブボックス内で、10、20、30mMのアンモニアボランと過塩素酸リチウム(WAKO、123-05741、98+%、F.W.=106.39、以下LiClO4と表記)を、10mlの脱水メタノールに溶解させて電解液とし、図3に示すようなセルを構築した。グローブボックスからセルを取り出し、高純度窒素を15分間バブリングした。室温において、様々な電位範囲を20mVs-1の走査速度でサイクリックボルタンメトリーを行った。アンモニアボランを含まない電解液についても、同様の測定を行った。支持電解質であるLiClO4は、120℃で脱水処理したものを使用し、濃度は0.5Mとした。
【0033】
メタノールの電位窓
N2飽和、0.5MLiClO4を含むメタノール溶液中でのサイクリックボルタモグラムを図4に示す。この図から、電極にPtを用いた場合、正電位方向の電位走査では1.2V付近から酸化電流が認められた。また、負電位方向の電位走査では−0.8V付近から還元電流が認められ、電極からは気泡が発生していた。この気泡は、Pt電極上で化1のような反応が進行したことにより生成した水素であると考えられる。
【0034】
(化1)
2 CH3OH + 2 e- → 2 CH3O- + H2
【0035】
これらの結果より、電極にPtを用いた場合メタノールの電位窓は−0.8V〜1.2Vであると判断した。
【0036】
アンモニアボランを含む溶液のサイクリックボルタモグラム
10、20、30mMのアンモニアボランを含むメタノール溶液およびアンモニアボランを含まないメタノールに対する、−0.7V〜0.7V vs. Ag/AgClの電位範囲におけるサイクリックボルタモグラムを図5に示す。電極にはPt板を用いた。この電位範囲において、アンモニアボランを含まない場合、酸化電流はほとんど流れなかった。一方、アンモニアボランを含む場合、いずれの濃度でも−0.3V付近から酸化電流が認められ、0V付近でピークに達した。また、アンモニアボランの濃度が濃くなるにつれて、酸化電流も大きくなり、作用極で気泡の発生が見られた。従って、アンモニアボランを含むメタノール溶液では、アンモニアボランの酸化的脱水素反応が起こっていると考えられる。10mMのアンモニアボランを含むメタノール溶液の、−1.2V〜1.6V vs. Ag/AgClの電位範囲におけるサイクリックボルタモグラムを図6に示す。この電位範囲でも、0V付近に酸化ピークが見られた。また、0.5V付近で電流が少し減少し、1.2V付近から大きな酸化電流が流れた。さらに負電位側へ走査すると、0.85V付近に酸化ピークが見られた。アンモニアボランを含まない場合、このようなピークが見られていないことから、アンモニアボランの酸化反応に関係するピークであると考えられる。そこで、0.1V、0.5V、1.1Vでの定電位電解を行い、アンモニアボランの電気化学的酸化反応によって発生した気体をガスクロマトグラフィーにより定性・定量した。
【0037】
3.定電位電解測定
アンモニアボランの電気化学的脱水素反応を調べるため、定電位電解測定を行った。装置はALS-730C(BAS)を用いた。図1に示すようなセルを構築し、シリコン製シール剤(GE東芝シリコーン、6-377-01、TSE382C)を塗布して一晩乾燥させた。グローブボックス内において、10mMのアンモニアボランと0.5MのLiClO4を30mlの脱水メタノールに溶解させ、セル内に注入した。グローブボックスからセルを取り出し、高純度窒素を15分間バブリングした後、室温で、電解液をスターラーで撹拌させながら0.1、0.5、1.1V vs. Ag/AgClで定電位電解を24時間行った。作用極側の気相をマイクロシリンジ(HAMILTON、4015-42005、1705RN、50ml)で30ml採取し、ガスクロマトグラフィーによって成分を定性・定量した。対極側の気相についても30ml採取し、ガスクロマトグラフィーによって成分を定性・定量した。また、エレクトロメーター(NIKKOU KEISOKU、ELECTRO METER NE-1)を用いて、定電位電解中の電圧を測定した。アンモニアボランを含まない電解液についても、同様の測定を行った。
【0038】
定電位電解中に生成した気体は、ガスクロマトグラフィーにより定性・定量した。装置にはGC-14A(SHIMADZU)を用い、CHROMATOPAC (SHMADZU、C-R6A)で記録した。
なお、充填剤としてモレキュラーシーブ (GL Science、1001-11506、5A、60/80 mesh)を用い、キャリアーガスとして、アルゴンガスを用い、検出器は熱伝導度検出器(TCD)を用いた。
【0039】
アンモニアボランを含むメタノール溶液と、アンモニアボランを含まないメタノール溶液中、0.1Vで定電位電解をした時に流れた酸化電流の経時変化を図7に示す。アンモニアボランが含まれない場合、電流値はほぼ0であったが、10mMのアンモニアボランを含む場合、電位印加直後から大きな電流が流れ(6.8mA)、その後は徐々に減少した。また、作用極と対極の両方から大量の気泡が発生した。
【0040】
この発生した気泡を同定するために、ガスクロマトグラフィーにより定性・定量分析を行った。その結果、両極から水素が発生していることがわかった。作用極側での水素発生量の経時変化を図8に示す。アンモニアボランを含まない場合(without AB, 0.1V)は、24時間の測定で何も検出されなかった。一方、アンモニアボランを含む場合(10mM AB、0.1V)には、窒素をバブリングした直後は何も検出されなかったが、電位を印加した直後から水素が検出され、時間が経過するにつれて水素量は増大した。なお、10mMのアンモニアボランが溶解したメタノール溶液にPt電極を浸漬させただけの場合(10mM AB、methanolysis)でも水素が発生したため、以後のデータでは算出した水素量からメタノール分解による寄与を除いた。この結果から、アンモニアボランを含む場合、電位を印加することによってアンモニアボランの電気化学的な脱水素反応が進行し、水素が発生することがわかった。
【0041】
対極側での水素発生量の経時変化を図9に示す。対極においても、アンモニアボランを含まない場合(without AB, 0.1V)は何も検出されなかったが、アンモニアボランを含む場合(10mM AB、0.1V)は水素が検出され、時間とともに増大した。また、電位を印加しない場合(10mM AB、methanolysis)でも、アンモニアボランのメタノール分解による水素の発生が見られた。
【0042】
得られた電気量と、作用極側もしくは対極側での水素発生量の関係を図10、図11に示す。どちらの電極でも、電気量が増大すると水素発生量も増大し、作用極側では50クーロンの電気量で254mmol(0.85当量)、作用極側では48Cの電気量で71mmolの水素が発生した。
【0043】
10mMのアンモニアボランを含むメタノール溶液において、0.5V vs. Ag/AgClでの定電位電解を行った場合の、電流の経時変化を図12に示す。電位印加直後には9.2mAという大きな電流が流れたが、その後は徐々に減少した。この挙動は0.1Vの結果と同じであった。
【0044】
0.5Vでの定電位電解測定において、得られた電気量と、作用極側もしくは対極側での水素発生量の関係を図13、図14に示す。この電位においても水素が検出され、電気量の増加とともに水素発生量は増大した。また、0.5Vでの定電位電解では、43クーロンの電気量で308mmol (1.02当量)の水素が得られており、0.1Vでの測定よりも多くの水素が発生した。対極では44クーロンで84mmolの水素が発生し、0.1Vでの測定よりも多かった。この結果から、より大きな電位を印加することで、アンモニアボランの電気化学的脱水素反応が、より進行すると考えられる。
【0045】
1.1V vs. Ag/AgClにおける定電位電解での電流変化を図15に示す。この電位においても、測定開始直後は大きな電流が得られ、その後は低下するという挙動を示した。しかし、0.5Vでの結果と比較すると、初期段階での電流値が小さく、電流の減少も早いものであった。この理由としては、メタノールの酸化側の電位窓に近い電位を印加したことにより、アンモニアボランの脱水素反応を阻害するような要因が現れたためであると考えられる。
【0046】
得られた電気量と、作用極側もしくは対極側での水素発生量の関係を図16、図17に示す。どちらの電極でも、電気量の増大とともに水素発生量は増大した。しかし作用極から発生した水素量は49クーロンの電気量で286mmol(0.95当量)、対極から発生した水素量は49クーロンの電気量で75mmolであり、0.5Vでの測定よりも少量であった。
【符号の説明】
【0047】
1:電解液槽 3:電解液 5:陽極(作用極) 6:陰極(対極) 8:参照電極 10:窒素導入口 12:サンプリング口 15:ガス排出路 16:窒素排出口 20:水素製造装置 21:電解質 23:空気極 24:燃料極 26:燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒にアンモニアボラン(NH3BH3)および支持電解質が溶解した電解液を電気分解することにより、水素を発生させることを特徴とする水素製造方法。
【請求項2】
前記有機溶媒は、アルコールである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電解液は、10mmol・dm-3以上100mmol・dm-3以下のアンモニアボラン濃度を有する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
有機溶媒にアンモニアボラン(NH3BH3)および支持電解質が溶解した電解液を溜める電解液槽と、陽極と、陰極とを備え、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加することにより前記陽極または前記陰極から水素を発生させる水素製造装置。
【請求項5】
前記陽極または前記陰極は、白金、パラジウム、ニッケル、銅または鉄からなる請求項4に記載の装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の水素製造装置と、
前記水素製造装置から発生させた水素を燃料とすることが可能な燃料電池とを備える発電システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−184789(P2011−184789A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54622(P2010−54622)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】