説明

水素製造方法

【課題】 簡便かつ効率よく水素を製造し得る水素製造方法を提供する。
【解決手段】 水素発生物質と水とを反応させて水素を製造するにあたり、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、マグネシウムおよびこれらの1種以上の金属元素を主体とする合金よりなる群から選択される1種以上の金属を60質量%以上含有し、かつ100μm以下の粒径の粒子を80質量%以上含有する水素発生物質を使用し、少なくとも水素発生反応の開始段階において、25℃におけるイオン伝導度が10μS/cm未満の水を上記水素発生物質に供給することで、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素発生物質と水とを反応させて水素を製造する水素製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、携帯電話などのコードレス機器の普及に伴い、その電源である電池には、ますます小型化、高容量化が要望されている。現在、リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高く、小型軽量化を図り得る電池として実用化されており、ポータブル電源としての需要が増大している。しかし、このリチウムイオン二次電池は、一部のコードレス機器に対して、十分な連続使用時間を保証することができないという問題がある。
【0003】
上記問題の解決に向けて、例えば固体高分子型燃料電池(PEFC)などの燃料電池の開発が進められている。燃料電池は、燃料および酸素の供給を行えば、連続的に使用することが可能である。そして、電解質に固体高分子電解質、正極活物質に空気中の酸素、負極活物質に燃料を用いるPEFCは、リチウムイオン二次電池よりもエネルギー密度が高い電池として注目されている。
【0004】
PEFCに用いる燃料に関しては、水素、メタノールなどが提案され、種々開発が行われているが、高エネルギー密度化が可能な点で、水素を燃料とするPEFCが期待されている。
【0005】
PEFCのような燃料電池に供給する水素としては、例えば、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素、亜鉛などの、水素源となる水素発生物質と水とを反応る方法により得られる水素が考えられる(特許文献1〜4)。
【0006】
【特許文献1】米国特許第6506360号公報
【特許文献2】特許第2566248号公報
【特許文献3】特開2004−231466号公報
【特許文献4】特開2004−123517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、アルミニウムとアルカリまたは酸とを反応させる上記特許文献1〜3に記載の方法によれば、化学的に簡便に水素が発生するが、アルミニウムに見合う当量のアルカリまたは酸を添加する必要があり、水素源以外の材料の比率が高くなることによるエネルギー密度の減少の問題が生じる。また、万一漏洩した場合の人体への危険度が非常に高い。
【0008】
更に、水中で金属材料を摩擦し、かかる金属材料を力学的に破壊しつつ水と反応させる上記特許文献4の方法では、破壊によって新たに生じた金属材料表面が急速に酸化してしまい、酸化した部分は水素発生反応に寄与しないため、供給する金属材料の総量に対して得られる水素発生量が少なく、水素発生効率が低いという問題がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡便かつ効率よく水素を製造し得る水素製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成し得た本発明の水素製造方法は、水素発生物質と水とを反応させることで水素を製造するにあたり、水素発生物質として、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、マグネシウムおよびこれらの1種以上の金属元素を主体とする合金よりなる群から選択される1種以上の金属を60質量%以上含有し、かつ100μm以下の粒径の粒子を80質量%以上含有するものを使用し、また、少なくとも水素発生反応の開始段階において、25℃におけるイオン伝導度が10μS/cm未満の水を上記水素発生物質に供給することを特徴とする方法である。
【0011】
例えば、アルミニウムと水との反応は、下記式(1)〜(3)のいずれかによって進行しているものと考えられる。下記式(1)による発熱量は、419kJ/molである。
【0012】
2Al+6HO→Al・3HO+3H (1)
2Al+4HO→Al・HO+3H (2)
2Al+3HO→Al+3H (3)
【0013】
本発明法で使用する水素発生物質は、主に、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、マグネシウムといった金属やこれらの金属元素を主体とする合金で構成されており、各種の形状を有する粒子として用いるが、このような粒子は、一般に、上記金属や合金を金属状態で含有する粒子内部と、かかる粒子内部の少なくとも一部を被覆する表面皮膜[上記式(1)〜(3)に示す反応生成物である酸化物などで形成された皮膜]で構成されている。このような水素発生物質に水を供給すると、表面皮膜に水が浸透して、粒子内部の金属や合金にまで水が到達して初めて水素が発生する。そのため、水素発生物質への水の供給開始から、実際に水素が発生するまでには、ある程度の時間が必要であり、また、水素の最大発生速度にも限界があった。
【0014】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、水素発生物質と反応させる水のイオン伝導度によって、水素発生挙動に大きな差が生じることを見出した。そして、少なくとも水素発生反応の開始段階において、25℃におけるイオン伝導度が10μS/cm未満の水を、上記特定の形態および上記特定の成分組成を有する水素発生物質に供給すれば、水素発生物質に酸化物などからなる表面皮膜が形成されていても、速やかに水素発生反応を生じさせることが可能であり、水素発生物質への水の供給開始から水素の発生が開始するまでの時間を短縮し、最大水素発生速度を高め、更には、水素発生効率を向上させることが可能であることも見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0015】
本発明法によれば、簡便かつ効率よく水素を製造することができる。すなわち、本発明法では、特定の形態と特定の成分組成を有する水素発生物質を用い、少なくとも水素発生反応の開始段階において特定のイオン伝導度を有する水を使用するだけで、特別の操作・装置の必要なしに速やかに水素を製造することができ、簡便であると共に、水素発生物質の使用量に対して得られる水素の量も多く、水素発生効率が高い。そのため、携帯可能な装置によって水素を製造することも可能であり、例えば、本発明法によって得られる水素を燃料電池の水素源として用いることで、燃料電池の小型化、高エネルギー密度化を達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明法に係る水素発生物質は、アルミニウム、ケイ素、亜鉛、マグネシウムといった金属や、アルミニウム、ケイ素、亜鉛およびマグネシウムの中の1種以上の金属元素を主体とする合金を含有するものである。上記合金の場合には、主体となる上記の各金属元素以外の元素については特に限定されない。ここで、「主体」とは、合金全体に対して80質量%以上、より好ましくは90質量%以上含有されていることを意味している。上記例示の金属や合金の1種のみを水素発生物質として使用してもよく、2種以上を併用しても構わない。これらの水素発生物質は、常温では水と反応しにくいが、加熱することにより水との発熱反応が容易となる物質である。なお、本明細書において常温とは、20〜30℃の範囲の温度である。
【0017】
また、水素発生物質は、上記の金属または合金を、水素発生物質の総量中、60質量%以上含有している。水素発生物質は通常粒子の形態で使用されるが、上記の通り、水素発生物質を構成する上記の金属または合金は、その表面部分では酸化物などとして表面皮膜を形成していることが多く、このような酸化物などは、水素発生反応に寄与しない。水素発生物質が含有する上記の金属または合金が、酸化物などではなく金属状態で水素発生物質の総量中60質量%以上含まれていれば、水素発生物質中の水素発生反応に寄与し得る成分量が多くなるため、水素発生効率を高めることができる。水素発生物質の総量中における上記の金属または合金の含有量は、80質量%以上であることが好ましく、100質量%であることが最も好ましいが、100質量%とすることは困難であるため、通常は、98質量%程度が上限となる。
【0018】
水素発生物質における上記の金属や合金の含有量を上記のように調節するには、水素発生源として使用されるアルミニウム、ケイ素、亜鉛、マグネシウムおよびこれらの1種以上の金属元素を主体とする合金の粉砕条件を適宜調整すればよい。特に、湿式粉砕法であるボールミル法、振動ミル法などで粉砕する場合、少なくとも使用する溶媒の水含有量が、粉砕する上記金属または合金1質量部に対して、1質量部以下、より好ましくは0.4質量部以下であることが望ましい。粉砕時に使用する溶媒中の水の量が多すぎると、粉砕中に上記金属または合金の酸化が進行して、水素発生物質中の上記金属や合金の含有量が減少し、水素発生量の低下を引き起こすことがある。
【0019】
本明細書でいう水素発生物質総量中の上記金属または合金の含有量(金属状態のものの含有量)は、以下のようにして測定される。水素発生物質をX線回折装置(XRD)により分析すると、上記金属および上記金属の酸化物または水酸化物が観測される。そこで、蛍光X線分析(XRF)によって水素発生物質中の金属および酸素の含有量を測定し、酸素含有量から、金属の酸化物または水酸化物の含有量を求め、残りの金属含有量を、金属状態のものの含有量とする。
【0020】
また、本発明法で使用する水素発生物質は、全水素発生物質中に、100μm以下の粒径の粒子を80質量%含有するものである。上記の通り、上記の金属または合金で構成される水素発生物質は、一般に、表面に安定な表面皮膜(酸化皮膜)が形成されている。そのため、板状、ブロック状および粒径が1mm以上のバルク状などの形態の場合、加熱しても水との反応が進行せず、実質的に水素を発生させない場合もある。しかし、水素発生物質が上述のような粒度分布を有する形態の場合は、表面皮膜による水との反応抑制作用が減少し、常温では水と反応しにくいものの、加熱すれば水との反応性が高まり、水素発生反応が持続するようになる。また、上記の形態を有する水素発生物質であれば、水素発生反応の開始段階において、後記の特定のイオン伝導度を有する水を供給することで、水素発生が開始するまでの時間を短縮化し、かつ最大水素発生速度を高めることができる。水素発生物質中に含まれる100μm以下の粒径の粒子の割合は、90質量%以上であることが好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0021】
水素発生物質中に含まれる100μm以下の粒径の粒子の割合を上記のように調節するには、水素発生源として使用されるアルミニウム、ケイ素、亜鉛、マグネシウムおよびこれらの1種以上の金属元素を主体とする合金の粉砕条件を適宜調整すればよい。例えば、ボールミル法、サンドミル法、振動ミル法またはジェットミル法などを用いた機械的粉砕方法では、粉砕時間、粉砕回転数などを、ガスアトマイズ法、遠心噴霧法などの溶湯直接粉化法では、ガス圧力、ノズル径、溶湯温度を適宜調整すればよい。
【0022】
なお、水との反応性を高めて、より効率よく水素を生じさせるためには、水素発生物質の平均粒径は、70μm以下であることが好ましく、特に平均粒径を30μm以下とした場合には、反応効率をより一層向上させることができる。
【0023】
また、水素発生物質の平均粒径が70μmを超える場合であっても、水素発生物質が鱗片状であり、かつその厚みが5μm以下である場合には、水との反応性を高めて、より効率よく水素を生じさせることができ、特に水素発生物質の厚みが3μm以下の場合には、反応効率をより一層向上させることができる。
【0024】
一方、水素発生物質の平均粒径を0.1μm未満としたり、鱗片状の水素発生物質の厚みを0.1μm未満であると、発火性が高くなって取り扱いが困難となったり、水素発生物質の充填密度が低下してエネルギー密度が低下しやすくなったりする。そのため、水素発生物質の平均粒径は、0.1μm以上とすることが好ましく、また、水素発生物質が鱗片状の場合には、その厚みは0.1μm以上であることが好ましい。
【0025】
なお、本明細書でいう水素発生物質の平均粒径は、体積基準の積算分率50%における粒子直径の値を意味する。平均粒径の測定方法としては、例えば、レーザー回折・散乱法などを用いることができる。具体的には、水などの液相に分散させた測定対象物質にレーザー光を照射することによって検出される散乱強度分布を利用した粒子径分布の測定方法である。レーザー回折・散乱法による粒子径分布測定装置としては、例えば、日機装株式会社製の「マイクロトラックHRA」などを用いることができる。本明細書中でいう粒度分布も上述の測定方法および測定装置で測定を行っている。
【0026】
また、本明細書でいう鱗片状の水素発生物質の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより、確認している。
【0027】
水素発生物質の形状も特に限定されないが、例えば、略球状(真球状を含む)やラグビーボール状の他、上記の通り、鱗片状のものなどが挙げられる。略球状やラグビーボール状などの場合には上記の平均粒径を満足するものが好ましく、鱗片状の場合には上記の厚みを満足するものが好ましい。また、鱗片状の水素発生物質の場合には、上記の平均粒径も満足していることがより好ましい。
【0028】
本発明法では、少なくとも水素発生反応の開始段階において、水素発生物質に供給する水は、25℃におけるイオン伝導度が10μS/cm未満、好ましくは1μS/cm未満のものとする。なお、本明細書でいう水のイオン伝導度σ(μS/cm)は、25℃における値であり、具体的には、測定対象の水に浸した電極面積S(cm)および電極間L(cm)が既知の二電極間に、1kHzの周波数を印加した際の抵抗値R(Ω)を測定し、以下の式から算出した値である。
σ = 10×L/(S×R)
【0029】
上記のようなイオン伝導度を有する水を水素発生反応に用いると、酸化物などからなる表面皮膜が形成されている水素発生物質であっても、水素の発生開始までの時間を短縮させ、かつ最大水素発生速度を高めることができる。その理由は明らかになっていないが、イオン伝導度の高い水では、そこに溶存するイオンが水素発生物質の表面皮膜に吸着して、粒子内部への水の浸透が妨げられていることや、水中にイオンなどの不純物が存在すると、水素発生物質の表面皮膜の水への溶解度が減少し、その結果、粒子内部へ水が浸透し難くなっていることなどが考えられるのに対し、上記のイオン伝導度を有する水では、このような現象の発生が抑えられているためではないか、と推測される。
【0030】
なお、本発明法では、少なくとも水素発生反応の開始段階において、10μS/cm未満のイオン伝導度を有する水を用いればよく、例えば、その後の反応では、イオン伝導度が10μS/cm以上の水を使用してもよく、イオン伝導度が10μS/cm未満の水を継続して使用しても構わない。また、少なくとも水素発生反応の開始段階において使用する水のイオン伝導度は、0.06μS/cm以上であることが好ましい。
【0031】
なお、本明細書でいう「水素発生反応の開始段階」とは、水素発生物質1g当たり、水を0.2g供給するまでの段階を意味している。
【0032】
少なくとも水素発生反応の開始段階において使用する水は、その硬度が1mg/L満であることが好ましく、0.5mg/L未満であることがより好ましい。ここで、水の硬度とは、水中に溶存するカルシウムイオン量A(mg/L)とマグネシウムイオン量B(mg/L)とを、これらに対応する炭酸カルシウム(CaCO)の量に換算して、水1L(リットル)についてのmg数、すなわちmg/Lで表したものをいい、以下の式で表記される。
硬度 = A×2.5+B×4.1
【0033】
少なくとも水素発生反応の開始段階において使用する水の硬度が上記の値であれば、水のイオン伝導度を10μS/cm未満にして、水素発生開始までの時間を短縮させ、かつ、最大水素発生速度を向上させることができる。上記水の硬度の好ましい下限は、0である。
【0034】
少なくとも水素発生反応の開始段階において使用する水は、純水であることが特に好ましい。
【0035】
次に、本発明の水素製造方法の具体的な態様を、本発明の水素製造方法によって水素を製造する際に用い得る水素製造装置の図面を用いつつ説明する。図1は、本発明の水素製造方法を適用し得る水素製造装置の構成例を模式的に示す部分断面図である。図1の水素製造装置は、蓋1aと容器本体部1bとで構成され、水素発生物質2を収容し、かつ該水素発生物質2と水とを反応させるための水素発生物質収容器1と、水素発生物質収容容器に供給する水4を収容するための水収容容器3と、水収容容器3から水素発生物質収容容器1へ水を供給するための水供給管5とを有している。そして、図1の装置では、水供給管5にポンプ10(マイクロポンプなど)が備えられており、このポンプ10により、水供給口6(水供給管5の管口部)から水素発生物質収容容器1内へ水4を連続的に供給できるようになっている。水素発生物質収容容器1内に供給された水は、水素発生物質2と反応して水素を発生させる。この反応により生成した水素は、水素発生物質収容容器1に設けられた水素導出口7を通じて、水素導出管8により、水素製造装置外部に取り出される。また、図1の装置における9は、水素発生物質収容容器1の外部に配置された保温材である。
【0036】
水素発生物質収容容器1の材質や、水収容容器3の材質は、水および水素を透過しにくく、かつ100℃程度に加熱しても破損しない材質であれば特に限定されるものではなく、アルミニウム、チタン、ニッケルなどの金属や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネートなどの樹脂、あるいはアルミナ、シリカ、チタニアなどのセラミックス、ガラス(特に耐熱ガラス)などの材料を用いることができる。また、水供給管5および水素導出管8についても、水素発生物質収容容器1などと同様の材質で構成することができる。なお、水素以外の内容物が装置の外に漏れ出すのを防ぐため、水素導出口7には、必要に応じて気液分離膜などのフィルターを設置してもよい。
【0037】
なお、図1に示すように、水素発生物質収容容器1の外周には、保温材9が配置されていることが好ましい。これにより水素発生物質と水との発熱反応を維持できる温度を保持し易くなり、また、外気温の影響も受け難くなる。保温材9の材質は、耐熱性が高いものであれば特に限定されず、例えば、発泡スチロール、ポリウレタンフォームなどの多孔性断熱材、または真空断熱構造を有する断熱材などが挙げられる。
【0038】
水と水素発生物質との反応を容易に開始させるためには、水素発生物質と水の少なくとも一方を加熱することが好ましい。その加熱温度は、40℃以上、より好ましくは60℃以上であって、100℃以下であることが望ましい。上記の水素発生物質と水との発熱反応を維持できる温度は、通常は40℃以上であり、一旦発熱反応が開始して水素が発生すると、水素発生物質収容容器の内圧が上昇して水の沸点が上昇することもあり、容器内温度が120℃に達することもあるが、水素発生速度の制御の点から100℃以下とすることが好ましい。
【0039】
上記の加熱は、上記発熱反応の開始時にのみ行えばよい。一旦、水と水素発生物質との発熱反応が開始されると、その発熱反応の熱によりその後の反応を継続できるからである。なお、上記の加熱と、水素発生物質収容容器1の内部への水の供給とを同時に行ってもよい。
【0040】
上記加熱の方法は特に限定されないが、抵抗体に通電することによる発熱を利用して加熱することができる。図1では図示していないが、例えば、この抵抗体を水素発生物質収容容器1の外部に取り付けて発熱させ、これらの容器を外部から加熱することにより、水素発生物質と水の少なくとも一方を加熱することができる。また、水収容容器3の外部に抵抗体を取り付けて、水収容容器を外部から加熱するようにしてもよい。上記抵抗体の種類については特に限定されず、例えば、ニクロム線、白金線などの金属発熱体、炭化ケイ素、PTCサーミスタなどが使用できる。
【0041】
また、上記加熱は、発熱材料の化学反応による発熱により行うこともできる。この発熱材料には、水と発熱反応して水酸化物や水和物となる物質、水と発熱反応して水素を生成する物質などを用いることができる。上記の、水と発熱反応して水酸化物や水和物となる物質としては、例えば、アルカリ金属の酸化物(酸化リチウムなど)、アルカリ土類金属の酸化物(酸化カルシウム、酸化マグネシウムなど)、アルカリ土類金属の塩化物(塩化カルシウム、塩化マグネシウムなど)、アルカリ土類金属の硫酸化合物(硫酸カルシウムなど)などを用いることができる。上記の、水と発熱反応して水素を生成する物質としては、例えば、アルカリ金属(リチウム、ナトリウムなど)、アルカリ金属水素化物(水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化リチウムなど)などを用いることができる。これらの物質は、1種単独で用いることもでき、2種以上を併用することもできる。
【0042】
図1に示す水素製造装置を用いて水素の製造を行う際には、水素発生物質収容容器1内に、水素発生物質と共に上記発熱材料を配置し、これらに水を加えることにより水と発熱材料とを発熱反応させて、水素発生物質収容容器1の内部で水素発生物質と水を直接加熱することができる。また、水素発生物質収容容器1の外部や水収容容器3の外部に、上記の発熱材料を配置して発熱させ、これらの容器を外部から加熱することにより、水素発生物質と水の少なくとも一方を加熱することが可能である。
【0043】
なお、発熱材料としては、水以外の物質と発熱反応する物質、例えば、鉄粉のように酸素と発熱反応する物質も知られている。このような物質は、発熱反応のために酸素を導入する必要があることから、水素発生物質収容容器1に入れるのではなく、水素発生物質収容容器1や水収容容器の外部に配置して使用することが好ましい。
【0044】
上記発熱材料を水素発生物質と共に水素発生物質収容容器に収容し、これに水を供給して加熱する場合には、発熱材料は水素発生物質と均一または不均一に分散・混合させた混合物として用いてもよいが、水素発生物質収容容器内で、発熱材料を偏在させて配置することがより好ましく、水素発生物質収容容器内部の水供給管(図1中、5)の管口部(図1中、6)の近傍に発熱材料を偏在させることが特に好ましい。水素発生物質収容容器内部において、発熱材料をこのように偏在させることにより、水を供給し始めてから水素発生物質が加温されるまでの時間をより短くして、より迅速な水素製造を可能とすることができる。
【0045】
水素発生物質収容容器内部の水供給管の管口部近傍に発熱材料を偏在させるには、上記管口部近傍に発熱材料だけを配置する他、予め混合比を変えた2種以上の水素発生物質と発熱材料との混合物を調製しておき、管口部近傍には発熱材料の比率の高い混合物を配置し、その他の部分には発熱材料の比率の低い混合物を配置することもできる(このうち後者については、後記の実施例において詳述する)。
【0046】
また、水素発生物質を構成する金属と水との反応(水素発生反応)も発熱反応であるため、その反応熱の放熱を防ぎ、水素発生物質や水の温度上昇に利用すれば、上記発熱源を有さずとも連続的に水素を発生させることが可能である。すなわち、反応初期に加熱を行うのみで、水素発生が始まった後は加熱を止めても、水素発生反応の発熱により加温状態を維持することができる。なお、このような加熱を行う場合には、図1の装置のように、水素発生物質収容容器1の外周に保温材9を配置して、水素発生物質収容容器1内の熱の外部への放出を抑制することが好ましい。
【0047】
また、本発明法では、水素発生物質と反応させる水の供給を制御することによって、水素発生量を制御することができる。
【0048】
本発明の水素製造方法により製造される水素を、小型燃料電池や携帯電子機器に適用するような場合には、例えば、図2に示すような水素製造装置、すなわち携帯型の燃料カートリッジを用いることができる。図2は、燃料カートリッジの構成例を示す断面図であるが、各構成要素の理解を容易にするために、断面であることを示す斜線は付していない。また、図2中、図1の各要素と共通の作用を有する要素には同じ符号を付している(後記の図3および図5についても同じ)。
【0049】
図2の燃料カートリッジは、水素発生物質収容容器1の内部に水素発生物質2を封入したものであり、図1に示す水素製造装置と同様に、水素発生物質2に水を供給するための水供給管5と、容器1内で生成した水素をカートリッジの外部に取り出すための水素導出管8を備えている。燃料カートリッジは、燃料電池や携帯電子機器に装着された後に、ポンプ(マイクロポンプなど、図示しない)を用いて、水供給管5の水供給口6を通じて容器1内に水が供給されるか、または、水を充填した水収容容器(図示しない)を燃料カートリッジの一部に予め有しており、燃料電池や携帯電子機器に燃料カートリッジが装着された後、水収容容器内の水が容器1内に供給されるような構造を有していればよい。
【0050】
なお、図2の燃料カートリッジでは、内部に供給された水の一部は、吸水材11、11により保持され、残部は水素発生物質を濡らし、水素発生反応が開始される。発生した水素は、水素導出口7から水素導出管8を通じて燃料電池の負極に供給される。吸水材11、11は必ずしも必要ではないが、水素発生反応による水の消費に応じて、吸水材11、11により保持された水も水素発生物質に供給されるため、水素発生速度の時間変動をある程度抑制することが可能となる。吸水材は、水を吸って保持することのできる材質のものであれば特に限定されるものではなく、一般には脱脂綿や不織布などを用いることができる。
【0051】
本発明の水素製造方法により水素を製造する場合、水素発生反応温度が水の沸点に近い温度になることがある。そのとき供給された水の一部が水素発生物質と反応して、残りの未反応の水は水蒸気として生成した水素と共に反応系外(水素発生物質収容容器1外)へ排出される現象が起こる場合がある。例えば、PEFCへ水素と共に水蒸気が供給された場合、この水蒸気中にイオンが存在すると、PEFC内に含まれるプロトン交換樹脂およびプロトン交換膜内のプロトンの置換や、触媒上への吸着、電極内での析出などが起こることがあり、これらによって、イオン伝導性の低下、触媒能の低下、およびガスの拡散性能の低下などが引き起こされ、その結果、燃料電池の劣化を招く可能性がある。
【0052】
上記のような問題の発生が懸念される場合には、問題の発生が懸念される場合には、水素発生物質収容容器より排出された水(水蒸気)と水素との混合物を、水と水素に分離するための気液分離部を備えた水素製造装置を用いて、本発明法を実施することが好ましい。
【0053】
図3に、気液分離部を有する水素製造装置の構成例を表す部分断面図を示す。図3の装置は、水収容容器3と気液分離部12とを有しており、水素発生物質との反応に用いられる水4は、水収容容器3から、水供給管5を通じて水素発生物質収容容器1へ供給される。そして、水素発生物質収容容器1から排出された水と水素の混合物は、水素導出管8を通じて気液分離部12に導入されるように構成されている。
【0054】
気液分離部12では、水素導出管8より流入した水素と水の混合物のうち、水は重力により気液分離部12の下方に落下して水素から分離される。分離された水素は、水素導出管12aから装置外部に取り出される。
【0055】
また、図3の装置では、気液分離部12によって分離した水を、水回収管12bを通じて水収容容器3に戻すことができる。そのため、実質的な水の使用量を低減できることから、水収容容器3内に収容しておく水の量を減らすことが可能となり、水素製造装置の体積および重量を低減してコンパクトにすることができる。
【0056】
気液分離部12の構成は図3に示されるものに限定される訳ではなく、例えば従来公知のポリテトラフルオロエチレン製微多孔膜、または、撥水処理を施したポリビニリデンフロリド、ポリエチレン、ポリプロピレンもしくはポリエーテルスルホンの微多孔膜などの気液分離膜を用いて気液分離部を構成することもできる。
【0057】
なお、上述のように、気液分離部12によって分離された水を水収容容器3に戻す場合、例えば発熱材料として酸化カルシウムを用いると、気液分離部12で回収された水を水収容容器3に戻すほど、水収容容器3から水素発生物質収容容器1へ供給される水のカルシウムイオン含有量が増加し、その結果、水のイオン伝導度は上記上限値以上となる場合がある。しかし、本発明法では、少なくとも反応開始段階において、上記上限値未満のイオン伝導度を有する水を用いさえすれば、迅速かつ効率よく水素発生することができる。
【0058】
また、気液分離部12での水の回収効率を向上させるために、水素発生物質収容容器1と気液分離部12との間に冷却部(図示しない)を設けることも好ましい。水素発生物質収容容器1から排出される水と水素の混合物を、気液分離部12に入る前に冷却部で冷却すれば、そこに含まれる水蒸気を液体の水に変えることができるため、気液分離部12での水の回収効率を高めることができる。冷却部としては、例えば、金属製冷却フィンが管に接するように配置された構造の冷却手段を用いることができる。さらには空冷ファンを用いることもできる。
【0059】
更に、水素製造装置には、圧力逃がし弁を設けることが好ましい。例えば水素発生速度が増大して、装置の内圧が上昇した場合でも、圧力逃がし弁から水素を装置外に排出することにより、破裂などによる装置の破損を防止することができる。圧力逃がし弁の設置箇所は、水素発生物質収容容器内で発生した水素が排出できる箇所であればよい。例えば図3に示す装置であれば、水素導出管8から、気液分離部12までの間のいずれの箇所に圧力逃がし弁を設けても構わない。
【0060】
なお、図1、図3に示す水素製造装置や、図2に示す燃料カートリッジは、本発明の水素製造方法の実施に用い得る装置の一例であり、本発明法の実施に用い得る装置は、これらに限定される訳ではない。
【0061】
例えば、水素の製造方法としては、炭化水素系燃料の改質による方法も知られているが、このような方法により得られる水素ではCOおよびCOといったガスが含まれており、かかる水素を100℃以下で作動するPEFCに供給すると、これらのガスによる被毒の問題が生じる。一方、本発明法により製造される水素は、上記ガスを含まないため、そのような問題が発生せず、また、反応に水が関与するため、ガス中に適度な水分を含んでおり、水素を燃料とする燃料電池において好ましく用いることができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは、全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0063】
(実施例1〜3)
アトマイズ法により作製された表1または表2に示すアルミニウム粉末である水素発生物質のみからなる水素発生材料1gと、表1または表2に示すイオン伝導度および硬度を有する純水10gとを、それぞれ内容積50cmでガラス製のサンプル瓶に入れ、サンプル瓶の外側に抵抗体を設置した。抵抗体に通電することにより容器を加熱し、水素発生物質を50℃に加熱して水と反応させ、水素を発生させた。生成した水素は水上置換法により捕集し、1分ごとに捕集した水素の捕集量の時間変化を測定し、水素の発生開始までの時間、水素の最大生成速度、および反応開始から24時間後の水素発生量を求めた。
【0064】
なお、加熱を止めて水素発生物質および水を放冷すると、数分後に水素発生が止まることを確認した。
【0065】
また、図4に、実施例1で用いた水素発生物質の粒度分布を表すグラフを示している。図4のグラフは、横軸に水素発生物質の粒径(μm)を、縦軸に頻度(体積%)をとっているが、このグラフから明らかなように、実施例1で用いた水素発生物質は、全てが100μm以下の粒径の粒子(すなわち、100μm以下の粒径の粒子が100質量%)である。
【0066】
(実施例4)
アトマイズ法により作製された平均粒径が55μmのアルミニウム粉末5g、トルエン15g、水1gおよびジルコニア製のビーズ(粒径2mm)85gを、遊星ボールミルの粉砕用ポットに入れ、200rpmの回転速度でアルミニウム粉末を粉砕した。粉砕中に水素が発生したため、10分間回転させた後一旦回転を停止させて、ポット内に発生した水素を放出させた後、再びポットを回転させた。この手順を繰り返して合計1時間ポットを回転させた。その後、トルエンおよび水を減圧乾燥で除去して、表1に示す本実施例の水素発生物質を得た。
【0067】
上記粉砕後のアルミニウム粉末からなる水素発生物質を、そのまま水素発生材料としてとして用い、この水素発生材料1gを用いた以外は、実施例1と同様の方法で水素製造を行った。
【0068】
(実施例5)
アトマイズ法により作製された平均粒径が55μmのアルミニウム粉末6gおよびメタノール:18gを、ジルコニア製のビーズと共に遊星ボールミルの粉砕用ポットに入れ、200rpmの回転速度でポットを回転させることによりアルミニウム粉末を粉砕した。その後、減圧乾燥により溶媒を除去して、表2に示す水素発生物質を得た。粉砕後のアルミニウム粉末(水素発生物質)の平均粒径を、日機装株式会社製「マイクロトラックHRA」を用いてレーザー回折・散乱法により測定したところ、体積基準の積算分率における50%径の値として、いずれも数十μmと求まった。また、走査型電子顕微鏡による観察では、長径が約10〜200μmで、厚みが約0.5〜5μmの金属光沢を有する鱗片状の粒子に変化していることが確認された。従って、上記レーザー回折・散乱法により測定された平均粒径は、アルミニウム粉末の長径の平均を表すものと考えられる。なお、用いたメタノールの含水率は1質量%未満であった。
【0069】
上記粉砕後のアルミニウム粉末からなる水素発生物質を、そのまま水素発生材料としてとして用い、この水素発生材料1gを用いた以外は、実施例1と同様の方法で水素製造を行った。
【0070】
(比較例1)
アルミニウム粉末の粉砕に用いる液体を水16gのみとした以外は、実施例4と同様にして、水素発生物質を得た。
【0071】
上記粉砕後のアルミニウム粉末からなる水素発生物質を、そのまま水素発生材料としてとして用い、この水素発生材料1gを用いた以外は、実施例1と同様の方法で水素製造を行った。
【0072】
(比較例2)
水素発生物質を、アトマイズ法により作製された表2に示すアルミニウム粉末に変更した以外は、実施例1と同様の方法で水素製造を行った。
【0073】
(比較例3)
水素発生反応に使用する水を、表2に示すイオン伝導度および硬度を有するもの[Contrex(登録商標)]に変更した以外は、実施例1と同様の方法で水素製造を行った。
【0074】
実施例1、4および比較例1の水素発生試験で求められた反応開始から24時間後の水素発生量を表1に、実施例1〜3、5および比較例2、3の水素発生試験で求められた水素の発生開始までの時間および水素の最大生成速度を表2に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
表1に示すように、本発明の水素製造方法で水素を発生させた実施例1および実施例4では、効率よく水素が発生した。一方、比較例1では、実施例1および実施例4に比べて、水素の発生量が少なかった。これは、比較例1で用いた水素発生物質では、金属状態で含有するアルミニウムの含有量が少ないため、水素発生量が低下したと考えられる。また、実施例1に比べて実施例4の方が、水素発生物質中に金属状態で存在するアルミニウムの含有量が低いにも関わらず、水素発生量が増加しているのは、水素発生物質の平均粒径の減少に起因していると考えられる。
【0078】
更に、表2に示すように、本発明の水素製造方法で水素を発生させた実施例1〜3および実施例5では、迅速に水素が発生し、生成速度の速い水素発生挙動が確認された。一方、比較例2、3では、実施例1〜3に比べて、水素の発生開始時間が遅く、最大生成速度も遅い水素発生挙動が確認された。これは、比較例2では水素発生物質中の100μm以下の粒子の割合が少なく、比較例3では水のイオン伝導度が大きく、これらの理由によって水素の発生開始までの時間および最大生成速度が遅くなったためと考えられる。なお、実施例1〜3のうち、実施例3の水素の発生開始までの時間および最大生成速度が最も速かった。これは、実施例1〜3のうち、実施例3で用いた水素発生物質が、最も平均粒径が小さく、これにより水素発生物質の表面積が大きかったことに起因していると考えられる。
【0079】
また、実施例5では、厚みが2μmの鱗片状の形状を有する水素発生物質を使用することにより、実施例1よりも、迅速に水素が発生し、生成速度の速い水素発生挙動が確認された。
【0080】
(実施例6)
図5に示す装置(燃料カートリッジ。なお、図5は断面図であるが、各構成要素の理解を容易にするため、断面であることを示す斜線は付していない。)を用い、以下の手順により水素を生成させた。実施例3で用いたアルミニウム粉末1.0gと、酸化カルシウム粉末(アルドリッチ社製、平均粒径40μm)1.0gとを乳鉢で混合して、水素発生材料Aを作製した。また、上記アルミニウム粉末19.7gと、上記酸化カルシウム粉末2.5gとを乳鉢で混合して、水素発生材料Bを作製した。
【0081】
次に、角形ポリエチレン容器(水素発生物質収容容器1;縦34mm、横34mm、高さ82mm)の内部に、吸水材11として脱脂綿を0.1g入れてから、上記水素発生材料A(図5中、2a)2gと、上記水素発生材料B(図5中、2b)22.2gとを、図4に示したように傾斜させて充填した。上記水素発生材料Aと上記水素発生材料Bとの間には、仕切り材としてアルミニウム箔2cを配置した。さらに、上記水素発生材料Bの上に、吸水材11として脱脂綿を0.1g入れた。
【0082】
次に、水を供給するためのアルミニウム製の水供給管5を、その管口部(水供給口6)が上記水素発生材料Aの近傍になるように入れ、水素を導出させるアルミニウム製の水素導出管8を備えたアルミニウム板で蓋をし、水素発生材料A、Bを内部に充填したポリエチレン容器1を得た。そして、ポリエチレン容器1の外周を含むように厚み5mmの発泡スチロール保温材を設置した。
【0083】
次に、水供給管5の先端(ポリエチレン容器1側とは反対側の先端)に、上記水素発生材料AおよびBに水を供給するためのポンプを設置した。すなわち、上記ポンプを用いて水収容容器(図示しない)から水を供給することによって、まず、水と上記水素発生材料Aに含まれる発熱材料(酸化カルシウム粉末)とが発熱反応し、続いて、水と上記水素発生材料AおよびBに含まれる水素発生物質(アルミニウム粉末)とが水素発生反応を開始することとなる。
【0084】
上記ポンプから実施例1で用いたものと同じ水を0.8ml/分の速度で送り出し、上記ポリエチレン容器1の内部に水を供給することによって、水素発生材料に含まれる水素発生物質(アルミニウム粉末)と水とを反応させて水素を発生させた。25℃において、水素が発生しなくなるまで水を供給し、上記水素導出管8から水素を捕集した。その結果、効率よく水素が発生し、最終的に、水素発生物質の全量が反応したときの水素発生量の理論値(室温で約1360ml)の80%の水素を取り出すことができた。
【0085】
このときのポリエチレン容器1の外表面(缶表面温度)の最高温度、すなわち水素発生材料の反応温度は、最高で95℃だった。なお、水素はほぼ一定の発生速度で連続的に発生し、水の供給を停止すると、水素の発生は数分後に止まることも確認された。
【0086】
(実施例7)
図6に示すように、PEFC200と燃料カートリッジ300とを接続して燃料電池発電システムを構成し、燃料カートリッジ300において実施例2と同様にして製造した水素を、PEFC200の負極に供給して発電試験を行った。燃料カートリッジ300は、図5に示すもの(実施例6で使用したもの)と同じものである。なお、図6は、燃料電池発電システムの構成を示す断面図であるが、各構成要素の理解を容易にするために、一部の構成要素については、断面であることを示す斜線は付していない。
【0087】
図6に示す燃料電池発電システムに用いたPEFC200は、MEA(電極・電解質一体化物)100を、ガス漏れ抑制のためのシール材15(シリコンゴム)と、正極集電板13(縦7mm、横7mm、高さ2mm)および負極集電板14(縦7mm、横7mm、高さ2mm)で挟み込んで構成されたものである。そして、MEA100の正極および負極には、カーボンクロス上にPt担持カーボンを塗布した電極(E−TEK社製「LT140E−W」、Pt量:0.5mg/cm)を用いた。また、固体電解質膜には、デュポン社製「ナフィオン112(商品名)」を用いた。電極面積は10cmとした。正極集電板13には、大気から正極へ酸素を取り込むために空気孔13aが設けられている。また、負極集電板14には、燃料カートリッジで発生した水素を負極へ取り込むための水素導入孔14aが設けられている。正極集電板13、負極集電板14、正極リード線16および負極リード線17には、SUS304に金メッキを施したものを用いた。
【0088】
そして、PEFC200と燃料カートリッジ300とは、水素導出管18を介して連結し、この水素導出管18を通じて、燃料カートリッジ300で製造された水素が、PEFC200に供給されるようにした。
【0089】
上記の発電試験の結果、室温で200W/cmという高い出力が得られ、小型、可搬型燃料電池の水素供給方法として有効であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の水素製造方法の実施に用い得る水素製造装置の構成例を模式的に示す部分断面図である。
【図2】本発明の水素製造方法の実施に用い得る水素製造装置(燃料カートリッジ)の構成例を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の水素製造方法の実施に用い得る水素製造装置の他の構成例を模式的に示す部分断面図である。
【図4】実施例で用いた水素発生物質の粒度分布を示すグラフである。
【図5】実施例6で用いた燃料カートリッジの構成を模式的に示す断面図である。
【図6】実施例7で用いた燃料電池発電システムの構成を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0091】
1 水素発生物質収容容器
3 水収容容器
5 水供給管
8 水素導出管
12 気液分離部
200 固体高分子型燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素発生物質と水とを反応させて水素を発生させる水素製造方法であって、
アルミニウム、ケイ素、亜鉛、マグネシウムおよびこれらの1種以上の金属元素を主体とする合金よりなる群から選択される1種以上の金属を60質量%以上含有し、かつ100μm以下の粒径の粒子を80質量%以上含有する水素発生物質を使用し、
少なくとも水素発生反応の開始段階において、25℃におけるイオン伝導度が10μS/cm未満の水を上記水素発生物質に供給することを特徴とする水素製造方法。
【請求項2】
水素発生反応の開始段階において水素発生物質に供給する水の硬度が、1mg/L未満である請求項1に記載の水素製造方法。
【請求項3】
水素発生反応の開始段階において水素発生物質に供給する水が、純水である請求項1または2に記載の水素製造方法。
【請求項4】
水素発生物質の平均粒径が、0.1〜30μmである請求項1〜3のいずれかに記載の水素製造方法。
【請求項5】
水素発生物質が、0.1〜5μmの厚みを有する鱗片状である請求項1〜4のいずれかに記載の水素製造方法。
【請求項6】
常温で水と反応して発熱する発熱材料を、水素発生物質と共に使用する請求項1〜5のいずれかに記載の水素製造方法。
【請求項7】
水素発生物質を収容し、かつ水素発生物質と水とを反応させるための水素発生物質収容容器と、上記水素発生収容容器へ供給する水を収容するための水収容容器と、上記水収容容器から上記水素発生物質収容容器へ水を供給するための水供給管とを有する水素製造装置を使用し、
上記水素発生物質収容容器内で、発熱材料を偏在させて配置する請求項6に記載の水素製造方法。
【請求項8】
発熱材料の偏在部を、水供給管の管口部近傍とする請求項7に記載の水素製造方法。
【請求項9】
水素発生物質を収容し、かつ水素発生物質と水とを反応させるための水素発生物質収容容器と、上記水素発生物質収容容器に供給する水を収容するための水収容容器と、上記水収容容器から上記水素発生物質収容容器へ水を供給するための水供給管と、上記水素発生物質収容容器から排出された水と水素の混合物を分離するための気液分離部と、該気液分離部で分離された水を上記水収容容器に戻す機構とを有する水素製造装置を使用する請求項1〜8のいずれかに記載の水素製造方法。
【請求項10】
水素発生物質収容容器の外周に保温材が配されている請求項7〜9のいずれかに記載の水素製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−326731(P2007−326731A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−158314(P2006−158314)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】