説明

水素製造装置

【課題】 ヒドラジンの分解反応を利用して、COxを排出することなく、高純度の水素を高い生成率で発生させ、安全かつ簡易な構成で、工業的利用価値の高い水素の製造装置を提供する。
【解決手段】 水素製造装置は、水素源としてヒドラジン含有量40重量%以下のヒドラジン水溶液を貯留する貯留部1と、触媒金属としてロジウムを含有するヒドラジン分解触媒を設置した反応部2と、貯留部1のヒドラジン水溶液を反応部2へ供給するポンプ3と、反応部2においてヒドラジン分解触媒とヒドラジン水溶液との接触により生成するガスを分離する気液分離部4を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムや燃料電池自動車等において燃料として使用される水素を製造する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の枯渇化や、二酸化炭素等による地球温暖化が深刻になる中で、化石燃料に代わって次世代を担うエネルギー源として、水素が注目されている。水素は化石燃料と同様に燃焼させて熱源や動力源とする他、燃料電池用の燃料として利用することができる。特に、水素と酸素が結合して水になる際に電気と熱をエネルギーとして発生する燃料電池は、家庭用発電機や家電製品用電源、自動車のエンジンに代わる動力源として開発が進んでいる。
【0003】
水素の製造方法は種々知られているが、現状では、その大半が化石燃料、主として天然ガスから化学的方法によって作られている。その他、再生可能エネルギー、例えば、水力や太陽光、風力等による発電電力で水を電解する方法もあるが、大規模な設備を必要とし、製造した水素の輸送等、採算面から実用には課題が多い。
【0004】
一方、水素は凝縮し難い気体で、また分子量が小さいため、これを大量に貯蔵することが難しい。中でも自動車分野においては、水素を安全かつ大量に貯蔵・供給する技術の確立が、燃料電池自動車の実用化へ向けて不可欠となっている。
【0005】
燃料電池自動車への水素供給システムは、従来、上記のようにして製造した水素を、水素供給ステーション等に貯蔵し、自動車の水素タンクに供給する直接水素供給法と、メタノールやガソリン等の炭化水素化合物を原料とし、水蒸気改質反応で水素を製造して燃料電池に供給する水蒸気改質法とに、大きく分けられる。
【0006】
このうち、水蒸気改質法は、炭化水素化合物と水蒸気(H2 O)を高温高圧下で改質触媒上を通過させ、炭素分を水蒸気中の酸素と結合させるとともに両者の水素を分離する。この方法は、メタノールやガソリンといった原料が比較的安価で取り扱いが容易という利点はあるが、改質反応が吸熱反応であるため高温条件(350〜1000℃)が必要で、さらに副生成物である一酸化炭素(CO)の処理や燃料に含まれる硫黄等の触媒被毒成分の除去プロセスが必要となることから、全体に反応装置が複雑で高コストとなりやすい。
【0007】
また、燃料電池に使用される触媒が、改質ガス中に含まれる微量の一酸化炭素によって被毒されるため、改質ガスをそのまま燃料電池に供給できない、一酸化炭素の処理により炭素は最終的に二酸化炭素(CO2 )となるので、温暖化ガスの排出につながる、といった問題がある。
【0008】
そこで、化石燃料を使用しない新たな水素源の開発が進められている。その1つに、ヒドラジン(N2 4 )があり、触媒反応により窒素と水素に分解できることが報告されている。ヒドラジンは炭素を含まず、分解反応は発熱反応であるため、改質反応のような高温を必要としない。ヒドラジンに関する従来技術としては、例えば、特許文献1があり、ヒドラジンおよびその誘導体を、ニッケル、コバルト、鉄、銅、パラジウム、白金等の水素発生触媒能を有する金属と接触させて水素を発生させる方法が開示されている。また、特許文献2には、アンモニアまたはヒドラジンを水素源とし、これを窒素と水素に分解して燃料電池に供給する分解器を備える水素製造装置が開示されている。
【特許文献1】特開2004−244251号公報
【特許文献2】特開2003−40602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の金属についてヒドラジンの分解反応における水素発生触媒能を検討したところ、必ずしも十分な水素生成量が得られなかった。また、特許文献2の装置は、分解器構成や水素源、特にヒドラジンの分解方法を具体的に示しておらず、実用的とはいえない。
【0010】
ヒドラジン(無水物または一水和物)は、消防法における危険物であることから、従来は、取り扱いや貯蔵の安全性に問題があるとされ、また効率において水蒸気改質法に劣ると考えられてきた。このため、水素源として実用化へ向けた具体的な検討は、ほとんどなされておらず、特に、ヒドラジンの触媒による分解反応のメカニズムについては、知られていない。一般に、ヒドラジンの分解により下記式(1)〜(4)のいずれの反応が進行すると考えられるため、式(1)の反応を促進させることができれば、より多くの水素を生成することが可能となる。
2 4 →N2 +2H2 ・・・ (1)
2N2 4 →2NH3 +H2 ・・・ (2)
3N2 4 →N2 +4NH3 ・・・(3)
3N2 4 →2N2 +3H2+2NH3 ・・・(4)
【0011】
また、ヒドラジンは、生成する水素の純度の面で見直されており、炭素を含まないため、分解してもCOxを排出しない。しかも分解反応は発熱反応であるため、改質反応のような高温を必要としない利点がある。このため、より効率よく水素を生成する方法を確立することが望まれている。
【0012】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、ヒドラジンの分解反応を利用して、COxを排出することなく、高純度の水素を高い生成率で発生させることができ、しかも安全かつ簡易な構成で、工業的利用価値の高い水素の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1記載の発明において、水素製造装置は、水素源としてヒドラジン含有量40重量%以下のヒドラジン水溶液を貯留する貯留部と、触媒金属としてロジウムを含有するヒドラジン分解触媒を設置した反応部と、上記貯留部のヒドラジン水溶液を上記反応部へ供給する供給手段と、上記反応部において上記ヒドラジン分解触媒とヒドラジン水溶液との接触により生成するガスを分離する分離手段とを備えている。
【0014】
ヒドラジン(無水物または一水和物)は、消防法における危険物であるが、水溶液としてその濃度を調整することで、非危険物となり消防法の適用外とすることができる。本発明は、これに着目したもので、含有量40重量%以下のヒドラジン水溶液を水素源とし、ロジウム触媒を用いた反応部に供給することで、アンモニアの生成を抑制しながら高い生成率で高純度の水素を製造できることを見出したものである。この反応では、一酸化炭素が生成しないので、環境への影響が小さく、また、常温に近い温度で反応が進行するので、装置構成も簡易にできる。
【0015】
請求項2記載の発明において、上記反応部は、内部に流体流路を設けた反応容器を備えており、上記流路途中に上記ヒドラジン分解触媒を充填した触媒層を設けるとともに、上記反応容器の底部側にヒドラジン水溶液を導入するための導入口を、頂部側に上記触媒層を通過した溶液および生成ガスを回収するための導出口を設けている。
【0016】
具体的には、反応容器内に設けた触媒層に、底部側からヒドラジン水溶液を導入すると、反応後の溶液とととも生成ガスが反応容器内を上昇するので、頂部側から容易に回収することができる。
【0017】
請求項3記載の発明では、上記反応部に、上記流路を流通するヒドラジン水溶液の温度を所定温度に保持する温度調整手段を設ける。
【0018】
好適には、温度調整手段を用いると、反応容器内のヒドラジン水溶液の温度を一定に保つことができ、反応速度の制御が容易にできる。
【0019】
請求項4記載の発明では、上記反応部において生成するガスから水素を分離する水素分離手段を設ける。
【0020】
好適には、生成ガスから水素分離膜等を用いて水素を分離することで、高純度の水素を得ることができる。
【0021】
請求項5記載の発明では、上記反応部において生成するガス中のアンモニアを分離するアンモニア分離手段を設ける。
【0022】
好適には、生成ガスを蒸留水に通過させる等により、被毒物質であるアンモニアを容易に分離して、高純度の水素を得ることができる。
【0023】
請求項6記載の発明では、上記ヒドラジン分解触媒を、ロジウムをアルミナまたはシリカを含む担体に担持させたものとする。
【0024】
好適には、担体としてアルミナやシリカ、またはこれらを含む複合酸化物等を用いると、高い生成率で水素を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の第1の実施形態について図面に基づいて説明する。図1(a)は、本発明を適用した水素製造装置の全体構成図で、ヒドラジン水溶液を貯留する貯留部1と、ヒドラジン分解触媒を設置した反応部2とを備え、供給手段を構成するポンプ3を用いて、貯留部1から反応部2へヒドラジン水溶液を供給するようになっている。反応後の溶液は、分離手段としての気液分離部4にて回収され、生成ガスはアンモニア分離手段としてのアンモニア吸収部5へ送出される。
【0026】
本実施形態において、反応部2は、縦長の二重直管内よりなる反応管21を反応容器として備え、その内管内部をヒドラジン水溶液が流通する流体流路22としている。反応管21の内管は両端開口で、下端開口部がヒドラジン水溶液の導入口23となり、ポンプ3を介して貯留部1に接続されている。反応管21の上端開口部は、導出口24となり、気液分離部4に接続される。
【0027】
反応管21の内管には、ガラスフィルター21aが設置される。ガラスフィルター21aは、内管の下端側において、流体流路22を横切るように配置され、その上にヒドラジン分解触媒を充填して触媒層25を形成している。触媒層25の上には、ガラスビーズが触媒層25とほぼ同じ高さに充填されて保持層21bを構成し、ヒドラジン分解触媒がヒドラジン水溶液と共に流出しないようにしている。反応管21の内管と外管の間の環状空間は、流体流路22を取り囲む冷却水通路26となる。冷却水通路26の下端側には導水口27が、上端側には導出口28が接続され、恒温水を循環させて反応管21内を所定温度に保持する温度調整手段を構成する。
【0028】
貯留部1に貯留され、水素源となるヒドラジン水溶液は、ヒドラジン含有量が40重量%以下のものを用いる。ヒドラジン水溶液は、ヒドラジン無水物またはヒドラジン水和物を水に溶解して、ヒドラジン含有量が40重量%以下の所定量となるように調製することにより得られる。ヒドラジン無水物またはヒドラジン水和物は、発煙性の液体で引火点を超えると発火のおそれがあり、高濃度の水溶液も危険物として取り扱われることから、安全性を確保するために装置構成が複雑になりやすい。また、高濃度になると副生成物であるアンモニアの生成量が増加する傾向がある。所定濃度以下の水溶液とすると消防法の適用外となり、好適には、40重量%以下のヒドラジン水溶液を使用することで、貯蔵や取り扱いが比較的容易となるとともに、アンモニアの生成を抑制することができる。
【0029】
また、好適には、ヒドラジン水溶液を調製するための原料として、例えば60重量%以下のヒドラジン一水和物・水溶液(ヒドラジン含有量38.4重量%以下)を用いるとよく、安全性がより向上する。60重量%以下のヒドラジン一水和物・水溶液は、消防法上の非危険物として一般に市販されているため、入手が容易であり、非危険物であるため、貯蔵等が容易である。
【0030】
ヒドラジン水溶液の濃度は、原料となる60重量%以下のヒドラジン一水和物・水溶液を、希釈ないし濃縮することで、所定濃度の溶液となるように適宜調製することができる。安全性を確保し、かつアンモニア生成を抑制するため、通常は、ヒドラジン一水和物として60重量%(ヒドラジン含有量38.4重量%)以下の水溶液、好ましくは、15重量%(ヒドラジン含有量9.6重量%)〜45重量%(ヒドラジン含有量28.8重量%)の範囲となるようにヒドラジン一水和物・水溶液を調製するとよい。ヒドラジン一水和物濃度が15重量%を下回ると、水素の発生速度が小さくなり、45重量%を上回るとアンモニア発生量が増加するので好ましくない。上記範囲では、濃度の増加に応じて水素の生成量も増加するので、必要な水素発生速度が得られるように、適宜濃度を設定するとよい。
【0031】
ヒドラジン分解触媒は、ヒドラジン分解能の高いロジウムを触媒金属として含有するものを用いる。好適には、アルミナまたはシリカを成分として含む担体を使用し、これにロジウムを担持させたものを用いる。触媒金属としてのロジウムを用いることで、他の貴金属または卑金属、例えば白金やパラジウム、銅や鉄等に比べて、水素の生成率を大幅に増加させることができる。このロジウムを、アルミナやシリカあるいはこれらを含む複合酸化物等からなる担体、例えば成分との親和性が強いとされるγ−アルミナや、非常に硬く耐久性に優れるシリカアルミナの表面に分散担持させることで、ヒドラジンの分解による水素の生成を促進することができる。
【0032】
触媒の調製法としては、例えば、含浸法が採用され、ロジウムの金属塩(例えば硝酸塩)の水溶液にアルミナまたはシリカを含む担体を浸漬し、溶液を含浸させた後、乾燥、焼成して触媒とする。担体形状は、粒状、あるいは成形体等、種々の形状としたものが用いられる。
【0033】
なお、本実施形態では、担体形状を粒状とし、これを保持するとともに、ヒドラジン溶液がスムーズに流通するように、ガラスフィルター21aとガラスビーズよりなる保持層21bを設置している。粒子径は、10mm以下、好ましくは、2〜5mmの範囲とするのかよい。粒子径が2mmを下回ると、反応管21内で浮き上がりが生じやすくなり、5mmを上回ると粒子間の隙間が大きくなって触媒とヒドラジン水溶液との接触が不十分となるおそれがある。担体が、例えばプレート状、ハニカム状等のの成形体からなり、反応管21内に固定される場合には、これら保持部材は必ずしも必要としない。
【0034】
担体へのロジウムの担持量は、通常、アルミナまたはシリカを含む担体に対し0.5〜3.0重量%の範囲とする。0.5重量%を下回ると、水素の発生速度が小さくなり、3.0重量%を上回るとアンモニア発生量が増加するので好ましくない。上記範囲では、担持量の増加に伴い水素発生速度が向上する効果が得られるが、上記範囲を超えても効果は大きく変わらず、ロジウム使用量が増加するので経済的ではない。
【0035】
触媒層25は、流体流路22を流通するヒドラジン水溶液とヒドラジン分解触媒との接触が良好になされ、分解反応が十分進むように、触媒層25を構成するヒドラジン分解触媒の量、担体形状や大きさ、ヒドラジン水溶液の流通速度等を設定することが望ましい。通常は、反応管21内に充填された触媒層25内をヒドラジン水溶液が流通する際に、その滞留時間が触媒とヒドラジン水溶液が接触するのに十分な長さとなるように、例えば空間速度(SV)が0.5〜2.0s-1程度の範囲で適宜設定するとよい。
【0036】
反応の開始は、ポンプ32を作動させて、ヒドラジン水溶液を導入口23から反応容器21内に供給し、流体流路22中の触媒層25を通過させることによってなされる。この時、下記式(1)に示されるヒドラジン分解反応が進行し、水素と窒素が生成する。この反応は、発熱反応であり、安定して水素を生成させるには、冷却水通路26に一定温度とした冷却水を循環させて、反応管21内を所定温度に維持し、水素の生成速度を制御するのがよい。冷却水温度は、常温から常温よりやや高い温度、例えば20〜50℃の範囲となるように調製するとよい。
2 4 →N2 +2H2 ・・・(1)
3N2 4 →4NH3 + N2 ・・・(2)
【0037】
触媒層25を通過した溶液は、導出口24から気液分離部4へ送られる。気液分離部4は、底部に溶液回収通路42を接続した溶液回収管41を備え、反応後にヒドラジン溶液を回収する。ヒドラジン溶液とともに気液分離部4へ導入される生成ガスは、溶液回収管41の上部空間に開口するガス取出口から流路43を経て、アンモニア吸収部5へ送られる。アンモニア吸収部5は、蒸留水を充填したガス洗浄管51を備え、流路43の延出端を蒸留水中に開口させて、アンモニアを吸収させる。アンモニアは水に容易に溶解してアンモニア水となる。アンモニア分離後の生成ガスは、ガス洗浄管51の上部空間に開口するガス取出口から流路52へ取り出される。なお、図中6は、生成ガスの分析用のガスクロマトグラフ(GC)である。
【0038】
このようにして、反応部2における生成ガスから副生成物であるアンモニアを分離することで、水素と窒素のみからなる生成ガスが得られる。式(2)に示す副反応によって生成するアンモニアは、触媒被毒物質であるため、反応部2における生成ガスを、そのまま燃料電池等に供給することはできないが、アンモニア吸収部5を通過させることで、容易にアンモニアを分離することができる。
【0039】
上記構成の装置によれば、炭素を含まないヒドラジン水溶液を水素源とし、ロジウムを含むヒドラジン分解触媒を用いることにより、水素を高効率で製造することができる。この反応は、一酸化炭素を生成せず、吸熱反応でもないので、二酸化炭素の排出および反応温度の上昇を抑制できる。また、ヒドラジンの低濃度水溶液を用いることで、貯蔵等が容易になり、装置構成も簡易にできる。
【0040】
好適には、さらに生成ガスから水素を分離することで、より高純度の水素ガスを製造することができる。
【0041】
図2に、そのための水素分離手段を備えた本発明の第2の実施形態を示す。図2は、水素製造装置の概略構成を示す図で、図1の第1の実施形態と同様、ヒドラジン水溶液を貯留する貯留部1と、触媒層25を設置した反応部2、気液分離部4、アンモニア吸収部5を備えている。これら各部は簡略化して示しているが、同符号のものについては上記実施形態と同様の機能を有するものとする。以下、上記実施形態との相違点を中心に説明する。
【0042】
反応部2における生成ガスは、気液分離部4にて反応後のヒドラジン水溶液と分離された後、水素分離手段としての水素分離部7へ送られる。水素分離部7は、例えば、公知のパラジウム合金箔よりなる水素分離膜72を備えたパラジウム水素分離器71を有し、生成ガス中の水素を選択的に透過させることができる。水素以外の窒素、アンモニアはアンモニア吸収部5へ送出され、ガス洗浄管51にアンモニアを吸収させて、窒素のみを排出する。なお、水素分離膜72は、必ずしもパラジウム合金箔に限らず、他の水素分離膜を用いてもよい。あるいは、他の公知手段によって水素を分離する構成としてもよい。
【0043】
本実施形態では、貯留部1と、反応部2との間に、液濃度調製用タンク11を配置し、それぞれポンプ3を介して接続している。液濃度調製用タンク11は、また、気液分離部4と接続され、反応後のヒドラジン水溶液が還流されるようになっている。液濃度調製用タンク11は、攪拌機能を有し、貯留部1から送出されるヒドラジン水溶液と還流されるヒドラジン水溶液とを、十分攪拌混合して所定濃度に調製した後、反応部2へ供給する。この時、還流される反応後のヒドラジン水溶液の一部を回収して濃度分析し、その結果に応じて還流量や貯留部1からの送出量を調整すれば、反応部2へ供給される水溶液濃度を一定に保ち、安定して水素を生成できる。
【0044】
上記構成の装置によれば、より高純度の水素を製造することができる。そして、ヒドラジン水溶液の濃度や流速、ヒドラジン分解触媒を適切に設定することで、例えば、家庭用燃料電池システムへ純水素を0.5m3 /hから2.0m3 /h程度の生成速度で供給する装置としての応用が十分可能となる。
【実施例】
【0045】
次に、図1の水素製造装置を用いて行った実施例について説明する。
【0046】
(実施例1〜4)
まず、反応部2に充填するヒドラジン分解触媒の調製を行った。担体として、10〜20メッシュのシリカアルミナ(SiO2 −Al2 3 )を用い、触媒金属であるロジウムを担持させた触媒を調製した。調製法としては、含浸法を使用し、ロジウムの金属塩として硝酸ロジウム (III)Rh(NO3 3 を使用した。担体として用いたシリカアルミナの性状を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
触媒の調製に際しては、金属担持量が0.5重量%(実施例1)、1.0重量%(実施例2)、2.0重量%(実施例3)、3.0重量%(実施例3)となるように所定量の硝酸ロジウムを秤量し、担体重量の約4倍の蒸留水の蒸留水に溶かした。この水溶液に担体を浸漬し、常温で一晩放置して水溶液を含浸させた。次に、ロータリーエバポレーターを用いて十分に水分を除去し、75℃で21時間乾燥させた。その後、電気炉を使用して500℃で5時間焼成し、さらに水素気流中で2時間、水素還元を行って触媒を得た。
【0049】
得られた実施例1〜4のヒドラジン分解触媒を用い、図1の製造装置による水素の製造を行った。触媒0.3gを反応部2に充填して触媒層25とし、貯留部1から水素源として供給されるヒドラジン水溶液と接触させた。ヒドラジン水溶液は、60重量%ヒドラジン水和物の水溶液(ヒドラジン含有量38.4重量%)を、約15重量%に希釈したもの(ヒドラジン含有量9.6重量%)を用いた。なお、反応に先立って、2時間アルゴン(Ar)を流し、反応容器となる反応管21と溶液回収管41内の空気を脱気した。ガスクロマトグラフ6でサンプリングを行って脱気が終了したことを確認した後、ヒドラジン水溶液を一定流量となるようにポンプ3を制御しながら、反応管21に供給した。
【0050】
反応中は、冷却通路26に冷却水を循環させて反応溶液の温度を一定に保った(約40℃)。反応後の溶液は、30分おきに溶液回収管41底部のコックを開いて溶液回収路42から回収し、濃度分析を行った。生成ガスは、80mlの蒸留水を充填したガス洗浄管51を通してアンモニアを吸収させた後、30分おきにサンプリングを行ってガスクロマトグラフ6で分析した。本実施例における反応条件を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
ガスクロマトグラフ6の分析結果に基づいて、水素(H2 )の生成量(mol)を算出した。反応率および水素生成量の時間経過を調べた結果を、それぞれ図3、4に示す。また、水素生成量より水素生成率を算出して図5に示した。図3、4より、ロジウムを含有する触媒が、ヒドラジンの分解反応に活性を有することが分かる。特に、ロジウム含有量が2.0重量%と3.0重量%の触媒(実施例1、2)については、反応開始から120分経過するまで、ほぼ安定した活性が見られ、単位触媒重量あたり0.15molの水素生成量が得られた。また、ロジウム含有量が0.5重量%の触媒(実施例4)については、反応率が低くなっているが、図4より水素の生成が確認された。これは、ロジウム含有量が少ないこと、流通式の装置であるためヒドラジン溶液との接触時間が短く、十分反応することができないためと見られる。
【0053】
図4、5より、水素生成量および水素選択率は、ロジウム含有量が2.0重量%の触媒と3.0重量%の触媒(実施例4)では、大きな差がなく、ロジウム含有量が2.0重量%以上あれば、反応率に大きな影響を及ぼさないことが分かる。また、これら触媒は、反応開始から時間が経過するとわずかに水素生成量および水素選択率が低下しているが、ロジウム含有量が小さい0.5重量%、1.0重量%の触媒(実施例3、4)では、若干の向上が見られた。
【0054】
(比較例1〜4)
比較のため、触媒金属として白金(Pt)、パラジウム(Pd)を用い、同様の方法で触媒を調製した。この時、白金の金属塩としては、テトラクロロ白金(II)酸カリウムから合成したテトラアンミン白金塩[Pt(NH3 4 ]Cl2 を使用し、金属担持量が0.5重量%(比較例1)、2.0重量%(比較例2)2.0重量%となるように、所定量を秤量した。これを水に溶かして、上述した含浸法によりアルミナ担体に担持させた。また、パラジウムの金属塩としては、塩化パラジウムを使用し、金属担持量が0.5重量%(比較例3)、2.0重量%(比較例4)となるように、所定量を秤量した。塩化パラジウムは水溶性でないため溶媒に0.1N硝酸を用い、含浸法によりアルミナ担体に担持させた触媒を得た。担体として用いた球形粒子状のγ−アルミナ(γ−Al2 3 )と称する)の性状を表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
得られた触媒の比較例1〜4のそれぞれにつき、以下の方法で、ヒドラジン水溶液と接触させてヒドラジン分解能を調べた。ヒドラジン水溶液として、60重量%ヒドラジン水和物の水溶液(ヒドラジン含有量38.4重量%)150mlを反応容器に充填し、触媒0.5gを添加した。反応容器は40℃に維持し、スターラーで溶液を攪拌しながら反応させた。生成ガスを反応容器上部に設けた導出口から取り出し、ガス吸水管を通過させた後、ガスクロマトグラフでサンプリングして単位触媒量あたりの水素の生成量、窒素の生成量の時間変化を調べた。また、ガス吸水管で吸収したアンモニアを測定し、同様に単位触媒量あたりのアンモニアの生成量を調べた。
【0057】
その結果、白金およびパラジウムを含有する触媒では、水素および窒素はほとんど生成せず、白金やパラジウムはロジウムに比べると、水素の生成における活性が非常に小さいことが分かった。一方、白金やパラジウムでは、アンモニアの生成量が多かった。このことから、ロジウムを使用した場合には、主に式(1)の反応が起こっており、白金やパラジウムを使用した場合には、主に式(2)の反応が起こっていると推測される。
2 4 →N2 +2H2 ・・・(1)
3N2 4 →4NH3 + N2 ・・・(2)
【0058】
(比較例5〜7)
比較のため、水素源としてカルボヒドラジド(比較例5)、メチルカルバゼート(比較例6)、カルバジン酸エチル(比較例7)を用い、同様の方法で水素製造を試みた。触媒としては、ロジウムを担持量が2.0重量%となるようにアルミナ(1)に担持させたものを使用し、上記比較例1と同様の方法で、水素源の水溶液と触媒を接触させたが、比較例5〜7のいずれも反応は全く進行しなかった。溶液温度を40度上昇させ、80℃として同様の操作を行った場合、ロジウムの代わりに白金またはパラジウムを担持した触媒を用いた場合も、何の反応も示さなかった。
【0059】
(実施例5〜6、比較例8)
次に、ヒドラジン分解触媒の担体について検討した。担体としてγ−アルミナ(実施例5)またはシリカアルミナ(SiO2 −Al2 3 ;実施例6)を用い、実施例1と同様の方法でロジウムを2.0重量%となるように担持させた触媒を調製した。それぞれにつき、図1の製造装置を用いて、ヒドラジン水溶液と接触させ、水素発生量を調べた。ヒドラジン水溶液は、60重量%ヒドラジン水和物の水溶液を15重量%に希釈したものを用いた。また、比較のため、触媒金属を担持しないγ−アルミナ(比較例8)についても、同様の実験を行った。結果を図6、7に示す。
【0060】
図6は、生成ガスの発生速度、図7は、ヒドラジン分解率の時間変化を示すものである。図に示されるように、γ−アルミナ単独の比較例8に対し、ロジウムを担持したヒドラジン分解触媒を用いることで(実施例5、6)、ヒドラジンの分解による水素の生成が促進される。特に、シリカアルミナを担体とした場合(実施例6)に、γ−アルミナを担体とした場合(実施例5)よりも、さらに水素の生成量が多くなることが分かった。
【0061】
(実施例7〜8)
また、ロジウムをシリカアルミナに担持させたヒドラジン分解触媒を用い、ヒドラジン水溶液の濃度を変更して、水素を製造させた。ヒドラジン水溶液は、60重量%ヒドラジン水和物の水溶液を希釈して、15重量%としたもの(実施例7:ヒドラジン含有量9.6重量%)、30%重量%としたもの(実施例8:ヒドラジン含有量19.2重量%)を用いた。図1の製造装置を用いて、同様の実験を行った結果を図8に示す。
【0062】
その結果、ヒドラジン水溶液の濃度が上昇するのに伴って水素生成量が増加する効果が得られ、比較的広い濃度範囲においてヒドラジン水溶液の濃度に応じた生成速度で水素を生成可能であることが分かった。
【0063】
(実施例9)
ヒドラジン分解触媒の担体として球形粒子状のシリカ(SiO2 )を用い、実施例1と同様の方法でロジウムを2.0重量%となるように担持させた触媒を調製した。図1の製造装置を用いて、ヒドラジン水溶液と接触させ、水素発生量を調べた結果を図9に示す。なお、図9には、参考のため実施例5、6の結果をあわせて示した。
【0064】
図9は、ヒドラジン分解率の時間変化を示すものである。図に示されるように、シリカを担体とした場合のヒドラジン分解率は、シリカアルミナを担体とした実施例6と同等であった。時間経過によりヒドラジン分解率は低下するものの、γ−アルミナを担体とした実施例5と同等であり、アルミナまたはシリカアルミナを担体とすることで、ロジウムのヒドラジン分解能を効果的に発揮できることが分かった。
【0065】
以上より、本発明によれば、ヒドラジン水溶液を水素源として効率よく水素を生成することができる。また、比較的低い温度で分解反応が進行し、装置構成も簡易にできるので、燃料電池システムや燃料自動車等への適用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1の実施形態における水素製造装置の全体概略構成図である。
【図2】本発明の第2の実施形態における水素製造装置の全体概略構成図である。
【図3】本発明の実施例における水素の反応率の時間変化を示す図である。
【図4】本発明の実施例における水素の生成量の時間変化を示す図である。
【図5】本発明の実施例における水素の選択率の時間変化を示す図である。
【図6】本発明の実施例における生成ガスの発生速度の時間変化を示す図である。
【図7】本発明の実施例におけるヒドラジン分解率の時間変化を示す図である。
【図8】本発明の実施例における生成ガスの発生速度の時間変化を示す図である。
【図9】本発明の実施例におけるヒドラジン分解率の時間変化を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 貯留部
2 反応部
21 反応管(反応容器)
22 流体流路
23 ガス導入口
24 ガス導出口
25 触媒層
26 冷却水流路(温度調整手段)
3 ポンプ(供給手段)
4 気液分離部(分離手段)
5 アンモニア吸収部
6 ガスクロマトグラフ
7 水素分離部(水素分離手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素源としてヒドラジン含有量40重量%以下のヒドラジン水溶液を貯留する貯留部と、触媒金属としてロジウムを含有するヒドラジン分解触媒を設置した反応部と、上記貯留部のヒドラジン水溶液を上記反応部へ供給する供給手段と、上記反応部において上記ヒドラジン分解触媒とヒドラジン水溶液との接触により生成するガスを分離する分離手段とを備えることを特徴とする水素製造装置。
【請求項2】
上記反応部は、内部に流体流路を設けた反応容器を備え、上記流路途中に上記ヒドラジン分解触媒を充填した触媒層を設けるとともに、上記反応容器の底部側にヒドラジン水溶液を導入するための導入口を、頂部側に上記触媒層を通過した溶液および生成ガスを回収するための導出口を設けた請求項1記載の水素製造装置。
【請求項3】
上記反応部に、上記流路を流通するヒドラジン水溶液の温度を所定温度に保持する温度調整手段を設けた請求項1または2記載の水素製造装置。
【請求項4】
上記反応部において生成するガスから水素を分離する水素分離手段とを備える請求項1ないし3のいずれか1項に記載の水素製造装置。
【請求項5】
上記反応部において生成するガス中のアンモニアを分離するアンモニア分離手段を設けた請求項1ないし4のいずれか1項に記載の水素製造装置。
【請求項6】
上記ヒドラジン分解触媒が、ロジウムをアルミナまたはシリカを含む担体に担持させてなる請求項1ないし5のいずれか1項に記載の水素製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−269529(P2007−269529A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95628(P2006−95628)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000241485)豊田通商株式会社 (73)
【Fターム(参考)】