説明

水素製造触媒、その製造方法およびそれを用いた水素製造方法

【課題】本発明は、アンモニアと酸素を含むガス中のアンモニアの一部を酸素により燃焼させ、当該発生熱量をアンモニア分解反応に直接利用することで効率的に水素を得る方法に関し、長時間反応させた後でも良好な水素生成効率を示す耐久性に優れた触媒とその製造方法、ならびに当該触媒を用いた水素製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明は、アルミニウムを10〜50質量%(Al換算)と、コバルトを50〜90質量%(Co換算)とを含む酸化物であることを特徴とするアンモニアと酸素を含むガス中のアンモニアを窒素と水素に分解するアンモニア分解水素製造用触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐久性の高い水素製造触媒およびその触媒を用いた水素製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素製造技術については、他の工業プロセス、例えば、鉄鋼製造プロセスからの副生水素や、石炭・石油の改質により製造される水素等がある。かかるプロセスから生じる水素は設備依存性が強く、適宜、簡便に水素を利用するという面では利便性が少ないものである。
【0003】
一方、簡便に水素を得る手段として、アンモニアの分解反応を利用する方法がある。反応式はNH→0.5N+1.5Hである。この反応は10.9kcal/molの大きな吸熱反応であることから、系外からの反応熱供給が必要となる。
【0004】
この反応熱の供給方法として、原料であるアンモニアやアンモニア分解反応で生成した水素の一部を燃焼し、その燃焼熱をアンモニア分解の反応熱として用いるオートサーマルリフォーマー(ATR)がある(特許文献1,非特許文献1)。
【0005】
燃焼反応は、NH+0.75O→0.5N+1.5HO、H+0.5O→HO である。ATRに用いる触媒としては、Ruをアルミナに担持した触媒(特許文献1)、Pt、Rhをアルミナに担持した触媒(非特許文献1)がある。
【0006】
しかし、これらの触媒を用いる場合、触媒組成によっては反応制御が難しく定常的に一定濃度の水素を得ることは容易ではないことがある。また、外部から熱を供給することで、触媒層温度が変化しアンモニア改質器が損傷、触媒の劣化を招くことがある。
【0007】
これら要因からアンモニア改質反応が不安定となり、改質率が充分でないと、反応後のガスに多量のアンモニアが残存することとなり、水素燃料として質の良くない燃料を提供することになる。また、先に提案されている触媒は、いずれも希少金属で資源的制約のあるRu、Rh、Pt等の貴金属元素を触媒活性成分としたものであるため、触媒が高価なものとなりコスト面で実用上、問題が大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開特許 WO 01/87770 A1
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】室井高城著「工業貴金属触媒」幸書房、2003年5月26日、p297
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、アンモニアと酸素を含むガス中のアンモニアの一部を酸素により燃焼させ、当該発生熱量をアンモニア分解反応に利用することで効率的に水素を製造することができる安価で、かつ、耐久性に優れた実用性の高い触媒および当該触媒の製造方法を提案するものである。また、当該触媒を用いて効率的にアンモニアから水素を製造する技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意努力検討の結果、下記に示す技術を見出し、発明を完成するに至ったのである。
【0012】
本発明は、アルミニウムとコバルトの酸化物を含む触媒であって、当該酸化物がコバルトをCo換算で50質量%以上含むことを特徴とするアンモニア分解水素製造用触媒である。また当該酸化物はアルミナ、水和型アルミナ、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム及び塩化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも一種と、溶媒に可溶なコバルト塩とを、溶媒中で混合し400℃以上1200℃以下で焼成することにより製造することができる。更に当該酸化物を触媒として用いることで、アンモニアと酸素をアンモニアに対する酸素の容積比率を0.05以上から0.75未満で含むガス中のアンモニアを分解することで水素を製造することもできる。
【0013】
本発明において耐久性向上効果が現れた原因については、発熱反応であるアンモニアの燃焼反応と吸熱反応であるアンモニアの分解反応の両方に活性のあるコバルトを用いることで反応熱が吸熱反応に利用され熱劣化が抑えられることと、アルミナによる酸化コバルトの凝集抑制効果との相乗効果であることが考えられるが、詳細は不明である。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる触媒は、高温還元雰囲気下に曝された後であっても高い水素収率を示すものであり、当該触媒を用いてアンモニアと酸素を含むガス中のアンモニアを分解することで効率的に水素を得ることができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、アルミニウムを10〜50質量%(Al換算)と、コバルトを50〜90質量%(Co換算)からなる酸化物を含むことを特徴とするアンモニアと酸素を含むガス中のアンモニアを窒素と水素に分解するアンモニア分解水素製造用触媒である。
【0016】
(触媒原料)
アルミニウム源は、アルミナ、水和型アルミナ、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム及び塩化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも一種であり、好ましくは水和型アルミナ、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウムであり、更に好ましくは水和型アルミナである。使用に際して、水和型アルミナを焼成しγ−アルミナ、κ−アルミナ等のアルミナとして使用することもできる。
【0017】
酸化物に含有されるアルミニウムの酸化物の結晶相は特に限定されるものではないが、好ましくはγ−アルミナである。
【0018】
コバルト源は、溶媒に可溶なものを用いることができ、好ましくは硝酸コバルト、酢酸コバルト、炭酸コバルト、塩化コバルトであり、更に好ましくは硝酸コバルトである。ここで、溶媒はアルミニウム源を分散し、コバルト源を溶解できるものであれば特に限定されないが、好ましくは水である。
【0019】
当該酸化物に含まれるアルミニウムとコバルトを各々Al換算、Co換算した合計の質量を100質量%としたとき、アルミニウムが10〜50質量%(Al換算)、好ましくは15〜45質量%、更に好ましくは25〜45質量%であり、コバルトが50〜90質量%(Co換算)、好ましくは55〜85質量%、更に好ましくは55〜75質量%である。上記割合よりもコバルトが少なくなると活性金属減量により水素収率が低下し、コバルトが多くなると熱還元雰囲気によるシンタリングが進行し水素収率が低下する。コバルトとアルミニウムの形態は特に問わず、当該酸化物の一部がコバルトとアルミニウムの複合酸化物の形態を取っていてもよく、コバルトの一部が金属として存在していてもよい。
【0020】
触媒として使用するにあたり、当該酸化物に更に、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素及び遷移金属元素、ケイ素から選ばれる少なくとも一種の元素(以後添加成分と呼ぶ)を添加させることができ、この場合触媒中に含まれる当該酸化物のアルミニウムとコバルトをそれぞれAl換算、Co換算したときの合計重量を100質量部とし、これに対して添加成分を酸化物換算で0.1〜30質量部、好ましくは0.5〜10質量部添加することができる。添加成分としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジウム、サマリウム、ガドリニウム、イッテルビウム、銀、ジルコニウム、マンガン、鉄、ケイ素が挙げられ、原料としては酸化物、溶媒に可溶な各元素の塩およびゾルを用いることができ、好ましくは硝酸塩、ゾルである。
【0021】
(触媒調製法)
当該酸化物の調製方法としては、アルミナ、水和型アルミナ、硝酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム及び塩化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも一種と、溶媒に可溶なコバルトの塩と、必要に応じて添加成分の塩とを溶媒中で混合、乾燥し、焼成して得ることができる。当該溶媒はアルミニウム源を分散し、コバルト源を溶解できるものであれば特に限定されないが、好ましくは水を用いる。溶媒の添加量はコバルト源および添加成分の塩を全量溶解できる量であれば特に限定されない。当該各原料を添加した後、十分に攪拌し、そのままで乾燥できる他、アンモニア、アルカリ金属化合物などのpH調整剤を添加し原料各元素を水酸化物として沈殿させた後デカンテーション、ろ過等により溶媒を除き乾燥することもできる。焼成条件として、400〜1200℃、好ましくは600〜800℃で1〜12時間、好ましくは1〜3時間焼成することで当該酸化物を得ることができる。焼成温度が400℃未満であると金属塩を完全に酸化分解することができず、十分な触媒活性が得られない場合があり、一方、焼成温度が1200℃を越えるとシンタリング等の熱劣化により触媒活性が低下するので好ましくない。焼成時間が、1時間未満であると金属塩の酸化分解が不十分となり、十分な触媒活性が得られない場合があり、焼成時間が12時間を越える場合、シンタリング等による熱劣化が起こる恐れがあるので好ましくない。
【0022】
添加成分の添加方法は上記方法に限定されず、アルミニウムとコバルトとを混合し焼成した後、添加成分を溶解させたものを混合、乾燥し、焼成することで添加することもできる。焼成条件として、400〜1200℃、好ましくは600〜800℃で1〜12時間、好ましくは1〜3時間焼成することで当該酸化物を得ることができる。
【0023】
(触媒の形態)
当該酸化物を触媒として使用する際、その形状は、粉体のまま使用することもできるが、球状、ペレット、ハニカム状に成形する他、セラミックまたは金属製のハニカム等のモノリス、リング状、球状、馬蹄状等の形状に成型された構造体表面に上記触媒を被覆して使用することもできる。必要により成形助剤として澱粉等の有機バインダー、シリカゾルやアルミナゾル等の無機バインダーやガラス繊維等のセラミック繊維を添加することができる。成形助剤は触媒組成物の15質量%以下、好ましくは10質量%以下で添加することができる。また、必要に応じて前処理を行うことができる。前処理とは、例えば5%H雰囲気下もしくはN雰囲気下、500℃で1時間焼成するといったものである。
【0024】
本発明にかかるアンモニアと酸素を含むガスは、当該触媒効果を有する状態であれば何れの条件であっても良いが、好ましくはアンモニアと酸素をアンモニアに対する酸素の容積比率を0.05以上から0.75未満、更に好ましくは0.1以上から0.5未満で含むものである。なお、反応に支障ない範囲であれば他に水素、窒素、希ガス、水蒸気、亜酸化窒素、窒素酸化物、炭酸ガスを当該ガスに含ませ使用することができ、その量はアンモニア1モルに対して0.1〜10モル、好ましくは0.5〜5モルである。
【0025】
反応温度は80〜1000℃、好ましくは530〜640℃、更に好ましくは540〜630℃である。ここでいう反応温度は反応中の触媒層における平均温度である。空間速度は100〜1,000,000h−1、好ましくは1,000〜750,000h−1である。ここで、空間速度とは単位時間当たりの全ガス流量/当該触媒の体積である。
【実施例】
【0026】
以下に実施例により更に詳細に説明するが、本発明の効果を奏するものであれば以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
硝酸コバルト・6水和物101.53gと純水100gを混合し、硝酸コバルトを完全に溶解させた。ここにベーマイト粉(日本軽金属製、BE033)18.35gを加え、さらに攪拌した。得られたスラリーをホットプレートスターラーで攪拌しながら加熱し、水分を蒸発させた。得られた混合物を120℃で12時間乾燥させた後、700℃で2時間、Air流通下で焼成して触媒1を得た。
【0028】
(実施例2)
硝酸コバルト・6水和物130.53gと純水130gを混合し、硝酸コバルトを完全に溶解させた。ここにベーマイト粉(日本軽金属製、BE033)36.71gを加え、さらに攪拌した。得られたスラリーをホットプレートスターラーで攪拌しながら加熱し、水分を蒸発させた。得られた混合物を120℃で12時間乾燥させた後、700℃で2時間、Air流通下で焼成して触媒2を得た。
【0029】
(実例例3)
硝酸コバルト・6水和物54.45gと純水50gを混合し、硝酸コバルトを完全に溶解させた。ここにベーマイト粉(日本軽金属製、BE033)22.94gを加え、さらに攪拌した。得られたスラリーをホットプレートスターラーで攪拌しながら加熱し、水分を蒸発させた。得られた混合物を120℃で12時間乾燥させた後、700℃で2時間、Air流通下で焼成して触媒3を得た。
【0030】
(実例例4)
硝酸コバルト・6水和物87.04gと純水80gを混合し、硝酸コバルトを完全に溶解させた。ここにベーマイト粉(日本軽金属製、BE033)9.20gを加え、さらに攪拌した。得られたスラリーをホットプレートスターラーで攪拌しながら加熱し、水分を蒸発させた。得られた混合物を120℃で12時間乾燥させた後、700℃で2時間、Air流通下で焼成して触媒4を得た。
【0031】
(実施例5)
硝酸コバルト・6水和物101.53gと純水100gを混合し、硝酸コバルトを完全に溶解させた。ここにγ−アルミナ粉12gを加え、さらに攪拌した。γ−アルミナ粉はベーマイト(日本軽金属製、BE033)を700℃で2時間、Air流通下で焼成して得たものを使用した。得られたスラリーをホットプレートスターラーで攪拌しながら加熱し、水分を蒸発させた。得られた混合物を700℃で2時間、Air流通下で焼成して触媒5を得た。
【0032】
(実施例6)
硝酸コバルト・6水和物101.53gと純水100gを混合し、硝酸コバルトを完全に溶解させた。ここにγ−アルミナ(住友化学株式会社製、NKH324)12gを加え、さらに攪拌した。得られたスラリーをホットプレートスターラーで攪拌しながら加熱し、水分を蒸発させた。得られた混合物を500℃で1時間、Air流通下で焼成して触媒6を得た。
【0033】
(比較例1)
γ−アルミナ(住友化学株式会社製、NKH950)を950℃で10時間焼成処理した後、粉砕し、120℃で一晩乾燥させた。上記熱処理によりアルミナの結晶相は、γ相からκ相に転移していた。当該熱処理したアルミナ35gに、硝酸コバルト・6水和物17.28gを蒸留水28.0gに溶解させた水溶液を滴下し、混合した。これを湯浴上で乾燥後、700℃で空気雰囲気中、2時間焼成し、触媒7を得た。
【0034】
(組成の確認)
調製した触媒1〜7を蛍光X線分析法を用いて組成の確認を行った。各触媒に含有されるCoおよびAlの割合(触媒全量に対する質量%)を表1に示す。測定には株式会社リガク製RIX2000を用いて、X線出力50kV、50mAで測定を行い、結果はファンダメンタル・パラメータ法で求めた。
【0035】
(水素製造例)
上記実施例及び比較例で得られた触媒を、前処理として、石英管内で900ml/minの窒素と100ml/minの水素を流通させ、800℃まで5℃/minで昇温し、800℃で3h保持後、室温まで降下させた。その後、触媒を石英管から取り出し、10mmφの反応管に0.8cc充填し、アンモニアと空気(各々99.9容量%以上)を用いて、酸素/アンモニアのモル比0.15でアンモニア分解による水素製造反応を行った(常圧下、SV=18,000h-1)。触媒層入口温度を550℃、600℃に設定して水素収率を測定した。触媒組成は表1に示し、水素製造例の結果は表2に示した。
【0036】
なお、水素収率を下記計算式により求める。反応温度は反応中の触媒層における、最高温度と最低温度の中間温度とした。
【0037】
【数1】

【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、アンモニアを酸素存在下で触媒により燃焼し、当該発生熱量をアンモニア分解反応に直接利用することで効率的に水素を製造することが可能な耐久性の高い触媒および水素製造方法を提供するものである。得られた水素は燃料電池、水素を燃焼してエネルギーを得る装置の燃料として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムを10〜50質量%(Al換算)と、コバルトを50〜90質量%(Co換算)とからなる酸化物を含む触媒であり、アンモニアと酸素を含むガス中のアンモニアを窒素と水素に分解するアンモニア分解水素製造用触媒。
【請求項2】
アルミナ、水和型アルミナ、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム及び塩化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも一種と、溶媒に可溶なコバルト塩とを、溶媒中で混合し、400〜1200℃で焼成して得られることを特徴とする請求項1記載のアンモニア分解水素製造用触媒。
【請求項3】
当該酸化物が更に、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、遷移金属元素及びケイ素から選ばれる少なくとも一種の酸化物を含有することを特徴とする請求項1〜2記載のアンモニア分解水素製造用触媒。
【請求項4】
アルミナ、水和型アルミナ、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム及び塩化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも一種と、溶媒に可溶なコバルト塩とを、溶媒中で混合し、400℃〜1200℃で焼成し得られるものであることを特徴とする請求項1〜3記載のアンモニア分解水素製造用触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3記載の触媒を用いて、アンモニアと酸素をアンモニアに対する酸素の容積比率を0.05以上から0.75未満で含むガス中のアンモニアを分解することで水素を製造することを特徴とする水素製造方法。

【公開番号】特開2012−71291(P2012−71291A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220304(P2010−220304)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】