説明

水素透過膜構造体

【課題】貴金属やレアメタルを主材料としなくても水素透過性に優れ、安価で耐久性の高い水素透過膜構造体を提供する。
【解決手段】水素透過膜構造体1を、水素透過性を有する薄膜3と、少なくともこの薄膜3が形成される側の表面部2aを薄膜3と同一主材料からなるものとした多孔質支持体2とから構成することによって、良好な水素透過性を確保しつつ、熱膨張や水素の吸着によっても歪みや損傷が生じにくいという特性を持ち、鉄等の安価な主材料からでも製造することができる水素透過膜構造体1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を透過させて精製し、高純度化された水素を得るための水素透過膜構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造や実験に供される高純度水素の生成に用いられる金属製水素透過膜としては、現状ではパラジウム合金のみが唯一実用化されている(例えば、特許文献1参照)。同文献に記載の金属製水素透過膜(水素透過膜セル)では、例えば厚さ80μm、直径1.6mmのチューブ状のものが使用されているが、パラジウムはそれ自体が高価な貴金属であるため、パラジウムを用いた金属製水素透過膜も非常に高価であって、大量生産には不向きであり、広く普及し難いものである。
【0003】
そこで、金属製水素透過膜の厚さを薄くしてパラジウム使用量を減らすことが試みられており、ステンレスやセラミックスの多孔質支持体にパラジウム合金薄膜をメッキやイオンプレーティング等の方法により形成する技術が種々開発されている(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。
【0004】
その他、パラジウム等の高価な貴金属を含まない金属製水素透過膜も開発されている。そのような金属製水素透過膜としては、ジルコニウム−ニッケル(Zr−Ni)系合金、バナジウム−ニッケル(V−Ni)系合金、ニオブ−チタン−ニッケル(Nb−Ti−Ni)系合金を用いたものを例示することができる(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
さらにその他の技術として、金属膜表面への電子照射により、鉄等の安価で入手し易い金属膜でも良好な水素透過特性を示すことが知られている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−017001号公報
【特許文献2】特開平05−078810号公報
【特許文献3】特開平11−267477号公報
【特許文献4】特開2005−232491号公報
【特許文献5】特開平11−285613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述の特許文献2,3に記載の技術のように、多孔質支持体にパラジウム合金薄膜を形成すれば、パラジウム使用量を大幅に減らすことは可能であるが、多孔質支持体に欠陥のないパラジウム合金薄膜を安価に形成する技術そのものが難しく、歩留まりも良好ではないという問題がある。また、水素透過膜と多孔質支持体が異なる種類の材料であるため、熱膨張や水素による膨張に差が生じ、水素透過膜に歪みがかかるため、耐久性に問題が生じやすいといえる。さらに、多孔質支持体の構成元素が水素透過膜へ熱拡散すると水素透過速度が低下してしまうため、熱拡散を防ぐためのバリア層を形成する必要もある。
【0008】
また、特許文献4に記載のような貴金属を用いない金属製水素透過膜に用いられる金属の主成分は何れもレアメタルであり、貴金属よりは安価であるとはいえ比較的高価であり資源の偏在していることから、十分に供給されるか不安視されるところである。
【0009】
さらにまた、特許文献5に記載の技術では、貴金属やレアメタルを用いなくても、鉄等にも良好な水素透過速度を付与することができるが、透過膜の全面に電子を均等に照射するための仕組みが必須となり、コストアップが強いられる。
【0010】
本発明は、このような問題に着目してなされたものであって、主たる目的は、安価で高品質な水素透過膜構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明の水素透過膜構造体は、水素透過性を有する薄膜と、この薄膜を表面に形成して支持する多孔質支持体とを備え、前述の薄膜と、多孔質支持体において少なくとも薄膜を形成する側の表面部とを同一の主材料からなるものとしていることを特徴とするものである。
【0012】
ここで、多孔質支持体の表面部とは、薄膜を形成する側の表面を含む所定厚さの領域を意味する。多孔質支持体には、熱膨張による挙動が薄膜と似ており、且つ水素による膨張挙動が薄膜と似ている材料を適用することが好ましい。多孔質支持体の材料として薄膜の主材料と同一の材料を用いる場合にはこれらの条件を満たすことができるが、多孔質支持体の表面部以外の部分(例えば薄膜を形成する側とは反対側の領域等)には、薄膜の主材料とは異なる材料を多孔質支持体に適用することを妨げるものではない。具体的に多孔質支持体として用いることができる材料を例示すれば、単一の金属、合金、セラミックス等の素材により製造したものを採用することができる。セラミックスは一般に水素に固溶せず、また水素によって膨張しないので、薄膜にも水素による膨張が少ない主材料として純鉄等を適用する場合には、セラミックスを多孔質支持体の材料の一つとして用いることができる。但し、本発明において多孔質支持体は、少なくとも薄膜を形成する表面からその反対面まで連続して微少な孔が形成されていることが必要である。このような微少孔を有する多孔質支持体としては、内部に連続気泡を有するものや、網状体又は網状体を積層したものを利用することができる。多孔質支持体の形状は、精製前の水素と精製後の高純度水素とを隔てられる構造であれば特に限定されることはなく、例えば板状やチューブ状とすることができる。そして本発明においては、多孔質支持体の少なくとも薄膜を形成する側の表面は、薄膜と同一主材料からなるものとする。薄膜は、このような多孔質支持体の表面に一体に形成してもよいし、多孔質支持体の表面に一体的に固定してもよい。
【0013】
このような本発明の水素透過膜構造体であれば、水素透過性の薄膜の主材料と薄膜を形成する側の多孔質支持体の表面部の主材料とが少なくとも同一材質となるため、特許文献2,3に記載の技術において問題であった薄膜と多孔質支持体との間で構成元素の熱拡散や、熱膨張や水素による膨張挙動の差による薄膜への不要な応力が生じないので、熱拡散防止策を講じるために形成していたバリア層が不要となり、薄膜の歪みもほとんど生じなくなる。その結果、より安価に耐久性の高い水素透過膜構造体を製造することができるようになる。
【0014】
特に本発明では、安価に入手可能な金属を用いて水素透過膜構造体を得ることを主目的の一つとしていることから、薄膜と、多孔質支持体のうち少なくとも薄膜を形成する側の表面部とを、共に鉄を主成分とする主材料から構成したものとすることが好適である。鉄は、資源量が極めて豊富で安価な金属であるが、水素透過速度係数がパラジウム合金の約200分の1という非常に小さい値であることから、水素透過膜としての利用にはほとんど注目されてこなかった。しかしながら、水素透過速度は膜厚に反比例することから、薄膜の厚みを十分薄くすれば、鉄であっても実用的な水素透過速度を得ることができる。
したがって、薄膜と多孔質支持体のうち少なくとも薄膜を形成する側の表面部とを鉄を主成分とした水素透過膜構造体とすることで、高価で入手が容易ではない貴金属やレアメタルを使用しないため、水素透過膜構造体の製造コストを従来よりも格段に低減し、高性能な水素透過膜構造体を得ることができる。さらに、パラジウムは、300℃以下では水素を多量に固溶して約10%もの体積膨張が生じ破壊されてしまう可能性があるため、パラジウムを含む金属製水素透過膜の使用前後には、膜に吸着された水素を窒素等の不活性ガスで置換する必要があるが、鉄には水素を多量に固溶する性質がないため、不活性ガスによる置換装置や操作が不要であることも、本発明の利点である。
【0015】
ここで、多孔質支持体は、薄膜を形成する側の表面部のみを鉄を主成分とするものとしてもよいが、全体を鉄を主成分として形成しても構わない。また、薄膜及び多孔質支持体は、純度99.9%以上の高純度鉄や、電磁軟鉄などの一般的な純鉄を適用することができ、必要に応じて水素に対する表面活性、耐食性、水素透過特性等の改善のためにニッケルやチタン等の他の元素を添加することもできる。これらの元素の添加に際しては、鉄と合金化した粉末を用いてもよいし、鉄粉と添加元素の粉末とを混合して焼結してもよい。ただし、鉄製薄膜として高純度鉄を用いると、一般的な純鉄よりも水素に対する表面活性が高いため、後述するような各種触媒の使用量を低減することができる。
【0016】
また、本発明の水素透過膜構造体において、薄膜と、多孔質支持体のうち少なくとも薄膜を形成する側の表面とを、凹凸を有する形状とした場合には、水素透過膜構造体の表面部分(薄膜側)における見かけの面積よりも真の表面積を大きくすることができるため、見かけの面積あたりの水素透過速度も大きくすることが可能となる。
【0017】
さらに、本発明では、少なくとも薄膜の表面に、パラジウム、プラチナ、ニッケルから選択される少なくとも1種の触媒を付加することができる。もちろん、多孔質支持体にこれらの金属触媒や他の触媒を付加してもよい。このような触媒の付加により、薄膜表面、さらには多孔質支持体における水素に対する表面活性を向上させることができる。触媒の付加は、薄膜表面に触媒粉末を塗布して焼結させてもよいし、スパッタやイオンプレーティング等で付加してもよい。また、多孔質支持体に触媒を付加する場合には、触媒が薄膜の近傍に位置付けられるようにすることが望ましい。これにより、水素分子が薄膜表面で原子に解離する反応や、薄膜を透過してきた水素原子が結合して水素分子となる反応が遅いことに起因する水素透過速度の低下を防止することができる。
【0018】
また本発明においては、多孔質支持体を厚み方向に複数の層を有するものとして形成し、その表面部を構成する層を除く層のうち、少なくとも薄膜を形成する側の表面とは反対側の表面を含む層を、薄膜及び表面部を構成する主材料とは異なる材料からなるものとすることができる。このように多孔質支持体は、主材料を単一種類とするだけでなく、表面部の主材料を薄膜の主材料と共通とするという条件を満たせば、厚み方向へ層状に形成して複数種類の主材料から構成することも可能である。すなわち、水素透過膜構造体としては水素透過率の観点からは厚みが薄い方が有利であるため、このように多孔質支持体を複数層から構成し、表面部を含む層を除く層に比較的強度の強い材料を適用することで、水素透過膜構造体全体として厚みを薄くしてもその強度を向上することができる。例えば、多孔質支持体の薄膜を形成した形とは反対側の表面を含む層やその層に隣接する1以上の層を、前述のような多孔質セラミックスで形成するとともに、表面部を含む1以上の層を薄膜と共通の鉄等を主材料とする金属から形成したり、各層を全て異なる主材料から形成するなど、多様な構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、水素透過性の薄膜と多孔質支持体の薄膜側の表面部とを、鉄等の同一主材料から構成したことにより、薄膜と多孔質支持体との間における構成元素の熱拡散、熱膨張や水素による膨張挙動の差による薄膜へ応力発生、熱拡散防止策のためのバリア層形成の必要性、といった従来の問題点を解消することが可能な、安価で高耐久性のある優れた水素透過膜構造体を得ることができる。特に、薄膜と多孔質支持体における薄膜側の表面とを共通の鉄素材とすることで、主材料としては高価な貴金属を用いなくとも高品質の水素透過膜構造体を低価格で安定して供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る水素透過膜構造体を示す模式的断面図。
【図2】同水素透過膜構造体の要部を拡大して示す模式的断面図。
【図3】同水素透過膜構造体を用いた水素精製工程の一例を示す模式図。
【図4】同水素透過膜構造体の一変形例を用いた水素精製工程の一例を示す模式的断面図。
【図5】同水素透過膜構造体の他の変形例を示す模式的断面図。
【図6】同水素透過膜構造体のさらに他の変形例を示す模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に示すこの実施形態は、本発明の好適な一例として、多孔質支持体2の一表面側に水素透過性を有する薄膜3を一体に形成して得られる水素透過膜構造体1である。同図には、平板状の水素透過膜構造体1を模式的な断面図として示している。この水素透過膜構造体1は、鉄製の枠4の内側に鉄粉を充填して焼結させることで多孔質支持体2を形成し、さらのその多孔質支持体2の一表面に薄膜3を形成したものである。枠4に充填される鉄粉には、高純度鉄を用いることが望ましい。高純度鉄は、電磁軟鉄等の一般的な純鉄よりも水素に対する表面活性が高いためである。
【0022】
多孔質支持体2は、本実施形態では上述のように、鉄製枠4内に充填した高純度鉄の粉末を焼結することによって形成された多孔質体であるが、焼結温度等の形成条件は、形成後の多孔質支持体2の気孔率の設定等により適宜に決定すればよい。多孔質支持体2に形成工程では、薄膜3を形成する側の表面2aからその反対側の表面(以下、「裏面」という)2bまでほぼ一定の割合で均一に細孔(気孔)2xが形成されるようにしてもよいし、図2に示すように表面2a側から裏面2b側に向けて漸次細孔2xの径が大きくなるようにしてもよい。すなわち、多孔質支持体2は、細孔径や気孔率、純度、添加元素等の異なる複数の層から形成されることも許容されるが、この場合は、表面2aに薄膜3を形成する観点から、表面2a側には粒径の小さい鉄粉を用いることが望ましい。また、鉄粉の粒度や形状は、ガス(水素)透過度や薄膜3の形成容易性等を考慮して適宜に選択すればよい。なお、図2は多孔質支持体2の表面2aから裏面2bに亘って形成される細孔2xを模式的に示したものであり、同図には各細孔2xが独立して存在するように描かれているが実際には表面2aから裏面2bに亘り細孔2xが連通して存在するように形成されている。
【0023】
薄膜3は、多孔質支持体2の表面2をレーザーやフラッシュランプにより加熱することで溶融し封孔する方法、又は多孔質支持体2の表面2aをショットピーニングにより封孔してから熱処理により薄膜を形成する方法等の既知の方法によって形成される。本実施形態では、薄膜3の表面3aを平滑に形成した例を示している。本実施形態のように、鉄(高純度鉄)を材料として薄膜2を形成する場合、実用的な水素透過速度を得る観点からは、膜厚を2μm以下とすることが望ましい。このように、多孔質支持体2の表面2aを加工して薄膜3を形成することにより、本実施形態では薄膜3の主材料と多孔質支持体の少なくとも表面2aを含む所定厚さの領域(すなわち本発明における表面部)の主材料とを、共通の高純度鉄からなるものとしている。
【0024】
また、薄膜3又は薄膜3の表面、若しくはさらに多孔質支持体2の表面2a近傍には、水素に対する表面活性の向上や耐食性の向上、水素透過特性の改善を目的として、必要に応じて触媒(図示せず、以下同様)となる金属を付加することができる。触媒となる金属としては、パラジウム、プラチナ、ニッケルから選択される1種又は複数種を適用することができるが、これら以外の触媒を付加することを妨げるものではない。触媒は、薄膜3の表面に触媒金属粉末を塗布して焼結させてもよいし、スパッタやイオンプレーティング等で形成してもよい。また、鉄粉を焼結させて多孔質支持体2を形成する際に、その後で薄膜3を形成することとなる部位の鉄粉に触媒を混在させておき、鉄粉と共に触媒を焼結させたり、焼結による多孔質支持体2の形成後に薄膜3を形成する側の面に触媒を塗布し、その面を上述のような熱処理を施すによって触媒が付加された薄膜3を形成するという方法も採用することができる。特に、多孔質支持体2にも触媒を付加する場合には、その触媒が薄膜3の近傍に存在するように、表面2a近傍に触媒を付加することが望ましい。これにより、水素分子が薄膜3の表面で原子に解離する反応または薄膜3を透過してきた水素原子が再結合して水素分子となる反応が遅い場合における水素透過速度の低下を回避することができる。特に、薄膜3の材料として(本実施形態では多孔質支持体2の材料も同一である)、高純度鉄を用いる場合は、上述の通り一般的な純鉄よりも水素に対する表面活性が高いため、触媒の使用量を低減するか、或いは触媒を不使用とすることもできる。
【0025】
このような構成の水素透過膜構造体1を使用して水素の精製を行う場合、例えば図3に示すように、平板状の水素透過膜構造体1を筒状容器5内にその内部空間を2つに仕切るように配置して、約400℃まで加熱した筒状容器にその一方の端部からダクト5aを通じて水素ガスAを導入し、他方の端部からダクト5bを通じて精製された水素ガスA’を回収する。このとき、水素透過膜構造体1は、多孔質支持体2の裏面2b側を水素ガスAの導入側に向けておく。水素ガスAの導入側では、精製されなかった水素ガスAと水素ガスAに含まれおり薄膜3を透過しなかった不純物ガスBの混合物がダクト5cを通じて別途回収されるようにする。すなわち、不純物を含む水素ガスAのうち水素ガスAのみが、多孔質支持体2及び薄膜3を透過して精製される(精製された水素ガスA’がのみ得られる)こととなる。本実施形態の水素透過膜構造体1を利用すれば、市販の水素ガスAを精製することで、より高純度の水素ガスA’を得ることができる。
なお、この例では、水素透過膜構造体1を筒状容器5に対して、水素ガスAの導入側に多孔質支持体2の裏面2b側が向くように配置した態様を示しているが、水素ガスAの導入側に薄膜3が向くように配置しても構わない。
【0026】
以上のように、本実施形態の水素透過膜構造体1では、水素透過性の薄膜3とそれを支持する多孔質支持体2とを、共通の鉄(高純度鉄)を主材料として構成したものであるため、薄膜3と多孔質支持体2との間での構成元素の熱拡散が生じず、また熱膨張や水素による膨張挙動の差による薄膜3への不要な応力発生がないため、熱拡散防止用として従来の水素透過膜構造体において形成されていたバリア層を作る必要がなくなり、水素透過二起因する薄膜3の歪みもほとんど生じない。さらに、基本的には触媒金属を用いなくても比較的安価な鉄を主材料として薄膜3及び多孔質支持体2を構成することができ、触媒としてパラジウム等のレアメタルや貴金属を用いる場合でもその使用量は最小限で済むため、従来よりも極めて低コストで耐久性の高い水素透過膜構造体1を得ることができる
【0027】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。
上述のような平板状の水素透過膜構造体1を筒状容器5内に配置する例の他にも、例えば図4に示すように、筒状に形成した水素透過膜構造体1’を用いても水素の精製に用いることができる。同図に模式的に示した水素透過膜構造体1’は、内側に多孔質支持体2’を形成して外側に薄膜3’を形成した中空円筒状(チューブ状)をなすものであり、その直径を1〜数mm程度としている。多孔質支持体2’と薄膜3’は、形状が異なるだけで上述した水素透過膜構造体1の多孔質支持体2と薄膜3と実質的に同質のものである。このような水素透過膜構造体1’によって水素の精製を行う場合、約400℃に加熱しておいたチューブ状の水素透過膜構造体1’の一方の開口端部側からその内部空間に水素ガスAを導入すると、水素のみが多孔質支持体2’及び薄膜3’を透過して水素透過膜構造体1’の外面から精製後の水素ガスA’が得られることとなる。精製されなかった水素ガスAと不純物ガスBの混合物は、チューブ状の水素透過膜構造体1’の反対側の端部若しくは水素ガスAの導入側に設けた取り出し口から別途回収される。また、上述した水素透過膜構造体1の場合と同様に、水素透過膜構造体1’の外面側である薄膜3’側から水素ガスAを導入して多孔質支持体2’側から精製後の水素ガスA’を回収するように構成しても構わないし、チューブ状の水素透過膜構造体として、その外面側に多孔質支持体を形成し内面側に薄膜を形成したものを適用しても構わない。
【0028】
また上記実施形態では、薄膜3の表面3aを平滑に形成した水素透過膜構造体1の例を示したが、図5に示すように薄膜30の表面30aを凹凸に形成した水素透過膜構造体10とすることも可能である。この薄膜30は、表面30aの形状以外は上述した実施形態の薄膜3と同等である。また、鉄製の枠40、及び多孔質支持体20は上述した実施形態の多孔質支持体2と同等のものである。但し、多孔質支持体20の薄膜30側における表面部20aも、薄膜30の表面30aに対応する凹凸形状として、薄膜30の厚さが一定となるようにしている。このように、薄膜30の表面30aを凹凸形状とした場合には、薄膜30の真の表面積が見かけ上の表面積(表面30aを正対視した場合の面積)よりも大きくなり、見かけ上の面積当たりの水素透過速度を大きくすることができる。
【0029】
さらに上記実施形態では、鉄製枠4に充填した鉄粉を焼結して多孔質支持体2を形成した例を示したが、その他にも、図6に示すように、鉄製の金網400の積層体の一方の表面側にのみ鉄粉を付着させて焼結することで薄膜300を形成し、金網400のうち薄膜300を形成しなかった鉄製網目部分400aを多孔質支持体200として機能させるようにした水素透過膜構造体100とすることも可能である。図示例では、3枚の金網400を積層した例を示しているが、金網400は1枚以上であれば適宜の枚数を用いればよい。
【0030】
さらにまた、多孔質支持体の表面に薄膜を形成する方法としては、メッキやイオンプレーティングといった手法を適用することができる。メッキの場合は、多孔質支持体の表面に欠陥のない薄膜を形成する技術が難しいが、事前に多孔質支持体の表面を平滑にする処理を施すことで実現可能である。イオンプレーティングは高価なプロセスではあるが、コスト面をクリアできれば実現可能である。
【0031】
また、多孔質支持体においては、薄膜を形成する側の表面部分が薄膜と同一の主材料で構成されていれば、その他の部位は異なる材料で構成されていても構わない。この場合、多孔質支持体を、複数層を有する構成とすることが可能である。例えば薄膜を形成する側の表面部及びその近傍の層を薄膜と同一の高純度鉄で構成する一方、裏面側の1以上の層をセラミックス等の鉄以外の材料を主材料と構成することができる。このように多孔質支持体を複数の層から構成する場合、多孔質支持体の表面部以外の層を表面部よりも高強度の材料を主材料とすることで、水素透過膜構造体全体の厚みを薄くしつつも強度を向上できるというメリットが得られる。
【0032】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0033】
1,1’,10,100…水素透過膜構造体
2,2’,20,200…多孔質支持体
3,3’,30,300…薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素透過性を有する薄膜と、当該薄膜を表面に形成して支持する多孔質支持体とを具備し、
前記薄膜と、前記多孔質支持体において少なくとも前記薄膜を形成する側の表面部とを同一の主材料からなるものとしていることを特徴とする水素透過膜構造体。
【請求項2】
前記薄膜と、前記多孔質支持体もうち少なくとも前記薄膜を形成する側の表面部とが、共に鉄を主成分とするものである請求項1に記載の水素透過膜構造体。
【請求項3】
少なくとも前記薄膜の表面に、パラジウム、プラチナ、ニッケルから選択される少なくとも1種の触媒を付加している請求項1又は2の何れかに記載の水素透過膜構造体。
【請求項4】
前記多孔質支持体を厚み方向に複数の層を有するものとして形成し、前記表面部を構成する層を除く層のうち、少なくとも前記薄膜を形成する側の表面とは反対側の表面を含む層を、前記薄膜及び前記表面部を構成する主材料とは異なる材料からなるものとしている請求項1乃至3の何れかに記載の水素透過膜構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−101871(P2011−101871A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258671(P2009−258671)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】