説明

水素除去装置及び方法

【課題】雰囲気に存在する水素に対し、化学量論的に過不足なく酸素を供給し、水に化学変化させる水素除去技術を提供する。
【解決手段】水素除去装置10において、水素含有ガスに外側が晒されるとともに内側に供給される酸化性ガスにより前記水素含有ガス中の水素を酸化する反応媒体20と、前記酸化性ガスを反応媒体20の内側に供給するガス供給体30と、を備える構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雰囲気に存在する水素を除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所における原子炉格納容器は、原子炉の万が一の事故に備えて、その内部に可燃性ガスの濃度制御システムを有している。仮に、主蒸気管等の一次冷却系配管が破断したとすると、高温・高圧の一次冷却材が放出され、原子炉格納容器内部の圧力・温度が急激に上昇することになる。
このような事象の下において、原子炉内で冷却材として使用される水は、放射線により水素ガスと酸素ガスに分解される。さらに、原子炉内の燃料被覆管の温度が上昇する場合には、水蒸気と燃料被覆管材料のジルコニウムとの間で反応が起こり(以下、Metal−Water反応という)、短時間で水素ガスが大量に発生する。
【0003】
このようにして発生した水素ガスは、破断した配管の破断口等から冷却材と共に原子炉格納容器内に放出され、水素ガス濃度を上昇させるとともに内部圧力も上昇させる。このような状態を放置して、水素ガス濃度が4vol%かつ酸素濃度が5vol%以上に到達すると、可燃限界濃度を越えて、原子炉格納容器の内部は可燃状態となる。さらに、水素ガス濃度が上昇すると過剰反応の発生する可能性が高まる。
【0004】
このような水素ガス濃度の上昇に対して原子力発電設備では、原子炉格納容器内の雰囲気を窒素ガスで置換して酸素濃度を低く維持する対策をとっている。これによれば、原子炉格納容器の内部雰囲気が可燃性になることを防止して安全性が確保される。
このように、原子炉格納容器内は窒素により不活性化されているため、Metal-Water反応によって水素が大量に発生した場合であっても、その内部雰囲気が直ちに可燃限界に達することはない。
【0005】
しかし、大量の水素が発生したときには、原子炉格納容器の過圧要因になり得る。さらに、復旧作業によって事故が収束に向かった場合であっても、原子炉格納容器内に大量の水素が依然として残留することになり、内部雰囲気を外部環境に放出する以外、この大量水素を処理する手立てがない。
従って、苛酷事故が発生した場合、原子炉格納容器の内部雰囲気が可燃限界に到達することを防止することに加え、さらに過圧防護又は事故後の内部雰囲気を制御するために発生水素を除去する必要がある。
【0006】
ところで、水素ガス濃度の上昇の抑制又は濃度を低下させる従来技術として、内部雰囲気に存在する水素ガスと酸素ガスを昇温操作や触媒作用により反応させて水に戻す技術がある。しかし、この技術ではMetal-Water反応によって酸素よりも化学量論的に過剰に発生した水素を除去することができない。
【0007】
そこで、Metal-Water反応で発生した過剰の水素を効率的に除去するシステムとして、アンモニア合成手段によって窒素と水素を反応させて水素を除去する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、原子炉格納容器内の雰囲気を吸引し、化学量論的に不足している酸素を酸素ボンベ等によって補充して水素ガスを水に化学変化させ、残余ガスを原子炉格納容器内に戻す方法も提案されている(例えば、特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−166996号公報
【特許文献2】特開平10−293196号公報
【特許文献3】特開2007−33285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1の発明において、水素と窒素の反応触媒として典型的なRu系触媒は、水蒸気によって活性が低下することが知られている。このため苛酷事故時に、原子炉格納容器の内部に存在する大量の水蒸気が、Ru系触媒層に直接導かれ、触媒活性が著しく損なわれるといった課題があった。
【0010】
また、特許文献2,3の発明のように、化学量論的に不足する酸素を外部から酸素ボンベを用いて供給する場合は、水素濃度に見合う酸素量を水生成に過不足無く供給する必要があった。つまり、酸素の供給量が不足すると充分な水素濃度の低減効果が得られず、過剰であると未反応酸素が内部雰囲気に滞留し可燃性限界に到達する恐れがある。
このために、事故条件によって相違する水素濃度に応じて、雰囲気に供給する酸素量を調整しなければならない課題があった。
【0011】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、雰囲気に存在する水素に対し、化学量論的に過不足なく酸素を供給し、水に化学変化させる水素除去技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
水素除去装置において、水素含有ガスに外側が晒されるとともに内側に供給される酸化性ガスにより前記水素含有ガス中の水素を酸化させる反応媒体と、前記酸化性ガスを前記反応媒体の内側に供給するガス供給体と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、雰囲気に存在する水素に対し、化学量論的に過不足なく酸素を供給し、水に化学変化させる水素除去技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明が適用される沸騰水型原子炉の断面図。
【図2】本発明の第1実施形態に係る水素除去装置の(A)は斜視図、(B)は図2(A)のB−B断面図、(C)は図2(A)のC−C断面図。
【図3】第1実施形態に係る水素除去装置に適用される反応媒体の断面図。
【図4】第1実施形態で適用される反応媒体の他の実施例を示す側面図。
【図5】第2実施形態に係る水素除去装置の(A)斜視図、(B)は図5(A)のB−B断面図。
【図6】第3実施形態に係る水素除去装置の(A)斜視図、(B)は図6(A)のB(B´)−B(B´)概略断面図。
【図7】第4実施形態に係る水素除去装置の(A)一部切欠斜視図、(B)は図7(A)のB−B断面図。
【図8】第5実施形態に係る水素除去装置の(A)一部切欠斜視図、(B)は図8(A)のB−B断面図。
【図9】各実施形態に適用される酸化性ガス制御部のブロック図。
【図10】酸化性ガス制御部と反応媒体との配線図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
図1を参照して、本発明に係る水素除去装置10が適用される沸騰水型原子炉1を説明する。
原子炉格納容器2は、炉心3を内蔵する原子炉圧力容器4を格納する。この原子炉格納容器2は、原子炉圧力容器4を包囲する上部ドライウェルU、下部ドライウェルL及びウェットウェルWより構成される。
【0016】
このウェットウェルWは、ベント管5を介して上部ドライウェルUに連絡し、貯蔵水を蓄えるサプレッションプールPが形成されている。また、原子炉圧力容器4の外側面は、生体遮蔽壁6により包囲されている。
さらに、上部ドライウェルUとウェットウェルWにそれぞれ1台ずつ水素除去装置10が配置され、各水素除去装置10は制御弁8を介して酸化性ガス導入手段(ボンベ、又はブロア;図示略)と配管で接続されている。
【0017】
この原子炉圧力容器4に接続する主蒸気管7等の一次冷却系配管が万が一破断した場合、上部ドライウェルUに高温・高圧の冷却材(水、水蒸気)が放出され、上部ドライウェルUの圧力・温度が急激に上昇する。そして、この圧力・温度の上昇を抑制するために格納容器スプレイ9が動作する。
この上部ドライウェルUに放出された高温・高圧の冷却材は、上部ドライウェルUの気体と混合して、ベント管5を経由してサプレッションプールPに蓄えられる貯蔵水で冷却される。このように、苛酷事故が発生して、原子炉圧力容器4から放出された熱エネルギーの多くは、このサプレッションプールP内の貯蔵水に吸収される。
【0018】
そして、サプレッションプールPに蓄積される貯蔵水が、非常用炉心冷却系(図示略)により原子炉圧力容器4に注入され、炉心3を冷却する。この注入された貯蔵水は、長期的には炉心3から崩壊熱を吸収し、破断した配管の破断口から上部ドライウェルUに流出する。
このように、一次冷却系配管が破断するといった苛酷事故が万が一発生した場合は、上部ドライウェルUの圧力・温度は常にウェットウェルWよりも高い状態となり、ベント管5を経由して水蒸気とガスがウェットウェルWに移動する。
【0019】
そして、一次冷却材として使用される水は、放射線により水素ガスと酸素ガスに分解される。さらに、炉心3の燃料被覆管の温度が上昇する場合には、水蒸気と燃料被覆管材料のジルコニウムとの間でMetal−Water反応が起こり、短時間で水素ガスが大量に発生する。
このようにして発生した水素ガスは、破断した配管の破断口等から冷却材と共に原子炉格納容器2の内部に放出され、上部ドライウェルU及びウェットウェルWにおける水素ガス濃度を上昇させるとともに内部圧力も上昇させる。すると、制御弁8が開放状態となり、酸化性ガスを水素除去装置10に供給し、上昇した水素ガス濃度及び内部圧力を低下させる。
【0020】
水素除去装置10は、図2(A)に示すように、水素含有ガスに外側が晒されるとともに内側に供給される酸化性ガスにより前記水素含有ガス中の水素を酸化する反応媒体20と、前記酸化性ガスを反応媒体20の内側に供給するガス供給体30と、を備える。
これにより、水素含有ガスと酸化性ガスとは、反応媒体20により隔離され、両者が直接接触することはない。そして、原子炉格納容器2の内部雰囲気に存在する水素を酸化するのに必要な酸素が、化学量論的に過不足なく供給される。なお、この場合、酸化性ガスは、純酸素を用いるのが好ましい。
【0021】
さらに、水素除去装置10には、酸化される前の水素含有ガスを下側から導いて、酸化した後の反応ガスを側方の排気口12に導くカバー11を備えている。
このカバー11は、格納容器スプレイ9(図1)が動作したときに、反応媒体20がスプレイ水を浴びて、その反応効率が低下することを防止する。さらに、反応媒体20の反応熱により、上昇気流をカバー11の内部に生じさせ、下側から新たな水素含有ガスを誘導する作用を発揮する。
【0022】
図2(A)のB−B断面である図2(B)に示すように、反応媒体20Aは、筒状に構成される一端がガス供給体30の一方の面に開口接続し、他端が封止されている。そして、ガス供給体30の給入口31から導入された酸化性ガスは、静圧状態で、反応媒体20Aの内側に供給される。
図2(A)のC−C断面である図2(C)に示すように、ガス供給体30は、反応媒体20が配置される一方の面とその反対面とを貫通させた貫通孔32が設けられている。この貫通孔32は、水素含有ガスをガス供給体30の下面側から反応媒体20の外側に導くものである。
【0023】
図3に示すように反応媒体20は、酸素イオンを内側から外側に向かって伝導させる固体電解質21から構成され、金属材質からなるガス供給体30に対し、熱膨張緩衝部材24を介して接続されている。
固体電解質21の内側表面には酸素極22が設けられ、外側表面には水素極23が設けられている。反応媒体20の内側に導入された酸化性ガスは、酸素ガスが選択的に酸素極22を透過し、酸素イオンとなって固体電解質21を外側に向かって伝導する。そして、この酸素イオンが水素極23に到達すると雰囲気の水素含有ガスに含まれる水素と化学反応し、反応媒体20の外側に水を生成する。
そして、この化学反応に伴い酸素極22及び水素極23のそれぞれに集積した異極の電荷は、導電性を有する熱膨張緩衝部材24を経由して中和される。
【0024】
ここで、固体電解質21としては、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)等、ジルコニア(ZrO2)に種々の金属元素を添加して安定化させた材料が好適に用いられる。その他、ランタンガレート系、セリア添加サマリウム酸化物(SDC)等も適用することができる。
また、酸素極22としては、ランタン・ストロンチウム・マンガン酸化物(LSM)、ランタン・ストロンチウム・コバルト酸化物(LSC)といった金属酸化物、もしくは白金単体を適用することができる。
また、水素極23としては、Ni+YSZ、Ni+ScSZ、Ni+SDCといったニッケル+電解質材料の混合物、もしくはニッケルに代えて白金+電解質材料の混合物を適用することができる。
【0025】
他の実施例として図4に示される反応媒体20は、その外側に、水素含有ガスに含まれる水素に反応して発熱する発熱媒体25が設けられている。
この発熱媒体25は、水素によって還元される酸化物に、この化学反応を促進させる触媒を担持させたもので構成される。
【0026】
これによれば、雰囲気における水素含有ガスの水素濃度が上昇すると、触媒の働きによって発熱媒体25に含まれる酸化物が水素含有ガス中の水素と反応し、そのときの反応熱によって固体電解質21が昇温する。
【0027】
例えば発熱媒体25を構成する酸化物にMnO2を用いた場合、触媒としてAg2O、Ag−Mn、PdO等を用いることができ、水素との化学反応は次式(1)のような発熱反応となる。
MnO2+H2→ MnO+H2O+106.7kJ/mol (1)
【0028】
このように、固体電解質21が昇温することによって、酸素イオンの伝導性が向上し、反応媒体20の外側における水素酸化反応が活性化する。なお、発熱媒体25に含まれる酸化物が全て消費されても、水素含有ガスの水素濃度が高いうちは、水素酸化反応が維持されて発熱反応が継続するために、反応媒体20の活性が失われることがない。
【0029】
つまり、図1に示される原子炉1が通常運転しているときは、原子炉格納容器2の内部雰囲気が低温であるために反応媒体20は不活性状態にある。しかし、一旦、苛酷事故が発生して内部雰囲気の水素濃度が上昇すると、内部雰囲気に全く酸素が含まれていない場合であっても発熱媒体25に含まれる酸化物が水素と反応して発熱する。この発熱をきっかけにして、反応媒体20が活性化して、内部雰囲気の水素ガス濃度を低下させる水素酸化反応が開始される。
そして、内部雰囲気の水素ガス濃度が充分に低下すれば、水素酸化反応も停止して、反応媒体20の内側に供給される酸素の消費も停止する。
【0030】
(第2実施形態)
図5(A)に示すように第2実施形態の水素除去装置10は、ガス供給体30において、櫛刃状に酸化性ガスの流路33が形成され、この流路33上に反応媒体20Aが配置されている。
なお、これ以降に説明する図面において既に説明した図面と同一又は相当する部分は、同一符号で示し、詳細な説明を省略する。
図5(A)のB−B断面である図5(B)に示すように、互いに隣接する流路33の隙間34が、反応媒体20が配置される一方の面とその反対面とを貫通し、水素含有ガスが反応媒体20の方向に導かれるようになっている。
【0031】
(第3実施形態)
図6(A)に示すように第3実施形態の水素除去装置10は、反応媒体20の内側に酸化性ガスの誘導管26が配置されている。そして、図6(A)の給入口31及び排出口37を通る概略縦断面である図6(B)に示すように、ガス供給体30は、酸化性ガスを給入口31から反応媒体20の内側に導く往路35と、反応媒体20の内側から酸化性ガスを排出口37に導く復路36とを有する。
【0032】
第3実施形態における酸化性ガスは、エア等のように酸素ガスを含む混合ガスを適用することができる。この酸化性ガスは、往路35から誘導管26を上昇してその先端に到達した後、折り返して反応媒体20Aの内側に沿って下降して復路36を流れる。
【0033】
このように、第3実施形態では、酸化性ガスは、反応媒体20Aの内側を流動しながら消費され、水素の酸化反応に関与しなかった残余ガスは、排出口37から排出されることになる。これにより、酸化性ガスが、反応媒体20Aの内部に滞留することが無くなるために、経年使用に伴う水素処理能力の低下が防止される。
【0034】
(第4実施形態)
図7(A)に示すように第4実施形態の水素除去装置10は、筒状の反応媒体20Bの両端が、別体に構成されるガス供給体30A,30Bのそれぞれに開口接続されている。そして、図7(A)のB−B断面である図7(B)に示すように、反応媒体20Bの一端が連通する往路35と、その他端が連通する復路36とが、それぞれ別体で構成されるガス供給体30A,30Bに形成されている。
【0035】
第4実施形態における酸化性ガスも、エア等のように酸素ガスを含む混合ガスを適用することができる。この酸化性ガスは、往路35から反応媒体20Bの一端に進入し、他端から復路36に流れる。このように、酸化性ガスは、反応媒体20Bを流動しながら消費され、水素の酸化反応に関与しなかった残余ガスは、排出口37から排出されることになる。これにより、酸化性ガスが、反応媒体20Aの内部に滞留することが無くなるために、経年使用に伴う水素処理速度の低下が防止される。
【0036】
(第5実施形態)
図8(A)に示すように第5実施形態の水素除去装置10は、反応媒体20Cが、天地方向に延びた扁平断面を有している。つまり、中空薄板状の反応媒体20Cの両端が、別体に構成されるガス供給体30A,30Bのそれぞれに開口接続されている。そして、図8(A)のB−B断面を示す図8(B)は、図7(B)と同じ態様となる。
【0037】
第5実施形態のように薄板状の反応媒体20Cが平行配置されることにより、天地方向におけるガス流動に対する圧力損失が低く設定される。このため反応媒体20Cの表面において水素の酸化反応による発熱が生じると、熱浮力を駆動力とする自然対流が促進されることになる。
【0038】
図9及び図10を参照して、各実施形態に適用される酸化性ガス制御部40の説明を行う。酸化性ガス制御部40は、反応媒体20の温度を計測する温度計測部44と、反応媒体20の計測温度が閾値に対し高くなったところで制御弁8を開放して酸化性ガスを供給し、閾値に対し低くなったところで制御弁8を閉止して前記供給を停止する弁制御部46と、を備えている。
【0039】
これにより、原子炉において苛酷事故が発生し、原子炉格納容器2の内部に水素が放出されると、格納容器2の内部に僅かながら初期に存在していた酸素や、水の放射線分解で生じた酸素が、固体電解質21に担持されている水素酸化触媒の作用によって、水素と反応する。すると、反応熱によって反応媒体20の温度が上昇したことを温度計測部44で検知して、制御弁8が開放される。
【0040】
そして、制御弁8が開放されると、酸化性ガスが水素除去装置10に供給され、酸素極22において選択的に酸素がイオン化され、固体電解質21の内部を移動し、水素極23に到達すると水素と反応し、水蒸気となって表面から脱離する。
水素との反応の際に、酸素イオンから電子が放出されるが、この電子は導電性の熱膨張緩衝部材24を通って酸素極22に戻され、酸素のイオン化に使用される。水素と酸素の反応により、反応熱が生じ、反応媒体20及びガス供給体30がそれぞれ熱膨張するが、熱膨張緩衝部材24が熱膨張による変形を吸収する。
【0041】
反応熱によって、カバー11(図2)内に上昇流が形成され、反応後のガスは上部の排気口12から自然に排出され、新たな水素含有ガスが下部の貫通孔32から自然に供給される。そして、内部雰囲気の水素濃度が低下すると、反応媒体20において反応熱が生じなくなるために、反応媒体20の温度が低下して制御弁8が閉止されて、酸化性ガスの供給が停止する。
【0042】
さらに酸化性ガス制御部40は、水素含有ガスの水素濃度を検出する水素濃度検出部43と、検出された水素濃度が閾値を超えたところで反応媒体20の外側とその内側との間に電圧を付与する電圧付与部41と、を備えている。
【0043】
これにより、水素濃度検出部43において雰囲気中の水素濃度の上昇を直接検出することによって、原子炉における苛酷事故の発生をいち早く検知する。そして、電圧付与部41により反応媒体20の外側とその内側との間に電圧を付与すると、ジュール熱により反応媒体20の温度が上昇し触媒機能が活性化する。これにより、内部雰囲気中の水素の除去処理が即座に開始されるとともに水素の酸化反応が促進される。
【0044】
さらに酸化性ガス制御部40は、反応媒体20の外側とその内側との電位差を検出する電圧検出部45を備えている。そして、検出された電位差が閾値に対し低くなったところで弁制御部46は、酸化性ガスの供給を停止する。
【0045】
これにより、原子炉格納容器2の内部雰囲気の水素の除去処理が進行し、その水素濃度が低下すると水素酸化反応が低下し、反応媒体20の外側と内側の電位差が小さくなる。この電位差の低下をトリガにして酸化性ガスの供給を停止することができる。なお、酸化性ガスの供給を停止しない場合であっても、水素濃度が低下すると反応媒体20の活性が低下して酸素の透過は遮断されるので、内部雰囲気に供給酸素が混入することはない。
【0046】
さらに酸化性ガス制御部40は、反応媒体20の外側とその内側との間に流れる電流値を一定に保持する定電流保持部42を備えている。そして、反応媒体20の外側とその内側との電位差が閾値に対し高くなったところで弁制御部46は、酸化性ガスの供給を停止する。
【0047】
つまり、格納容器2の内部雰囲気中の水素濃度が低下すると水素の酸化反応が低下し、反応媒体20の温度が下がりイオン伝導性が低下して抵抗が増加する。このため、その外側と内側との間に一定電流を流すのに必要な電圧値が上昇し、検出された電位差の増加をトリガにして酸化性ガスの供給を停止することができる。
【0048】
以上の説明のように、実施形態における水素除去装置10においては、雰囲気中の水素濃度上昇を検知してから水素の除去処理を開始することができる。そして、雰囲気中の水素を酸化処理するのに必要な、酸化性ガスは、化学量論的に過不足なく供給されることになるので、内部雰囲気の酸素濃度を上昇させることがない。また、内部雰囲気における水素含有ガスは、反応熱を利用した自然対流で水素除去装置10に送られるため、送気ファンなどの動的機器を必要としない。
【0049】
本発明は前記した実施形態に限定されるものでなく、共通する技術思想の範囲内において、適宜変形して実施することができる。
例えば、実施形態において適用された酸化性ガスは、純酸素又はエアであるとしたが、イオン化して反応媒体20を移動し、内部雰囲気中の水素に結合してこれを安定化させるガスであれば適宜使用できる。また、ガス供給体30における貫通孔32もしくは隙間34又はカバー11は必須の構成要素でなく、これらが無い構成であっても、水素含有ガスの反応媒体20への誘導は可能である。
【符号の説明】
【0050】
1…原子炉、2…原子炉格納容器、3…炉心、4…原子炉圧力容器、5…ベント管、6…生体遮蔽壁、7…主蒸気管、8…制御弁、9…格納容器スプレイ、10…水素除去装置、11…カバー、12…排気口、20(20A,20B,20C)…反応媒体、21…固体電解質、22…酸素極、23…水素極、24…熱膨張緩衝部材、25…発熱媒体、26…誘導管、30(30A,30B)…ガス供給体、31…給入口、32…貫通孔、33…酸化性ガスの流路、34…隙間、35…往路、36…復路、37…排出口、40…酸化性ガス制御部、41…電圧付与部、42…定電流保持部、43…水素濃度検出部、44…温度計測部、45…電圧検出部、46…弁制御部、P…サプレッションプール、U…上部ドライウェル、W…ウェットウェル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素含有ガスに外側が晒されるとともに内側に供給される酸化性ガスにより前記水素含有ガス中の水素を酸化させる反応媒体と、
前記酸化性ガスを前記反応媒体の内側に供給するガス供給体と、を備えることを特徴とする水素除去装置。
【請求項2】
請求項1に記載の水素除去装置において、
原子炉格納容器に内部配置されるとともに、前記酸化される前の前記水素含有ガスを下側から導いて、前記酸化した後の反応ガスを側方に導くカバーを備えることを特徴とする水素除去装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の水素除去装置において、
前記反応媒体は、筒状に構成される一端が前記ガス供給体の一方の面に開口接続することを特徴とする水素除去装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の水素除去装置において、
前記反応媒体は、酸素イオンを内側から外側に向かって伝導させる固体電解質から構成され、金属材質からなる前記ガス供給体に対し、熱膨張緩衝部材を介して接続されることを特徴とする水素除去装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の水素除去装置において、
前記ガス供給体は、前記反応媒体が配置される一方の面とその反対面とが貫通し、前記水素含有ガスが前記反対面から前記反応媒体の外側に導かれることを特徴とする水素除去装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の水素除去装置において、
前記反応媒体の外側には、前記水素含有ガスに含まれる水素に反応して発熱する発熱媒体が設けられていることを特徴とする水素除去装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の水素除去装置において、
前記ガス供給体は、櫛刃状に前記酸化性ガスの流路が形成され、この流路上に前記反応媒体が配置されることを特徴とする水素除去装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の水素除去装置において、
前記ガス供給体は、前記酸化性ガスを給入口から前記反応媒体の内側に導く往路と、前記反応媒体の内側から前記酸化性ガスを排出口に導く復路とを有することを特徴とする水素除去装置。
【請求項9】
請求項8に記載の水素除去装置において、
前記ガス供給体は、筒状の前記反応媒体の一端が連通する前記往路と、その他端が連通する前記復路とが、それぞれ別体で構成されることを特徴とする水素除去装置。
【請求項10】
請求項9に記載の水素除去装置において、
前記筒状の前記反応媒体は、天地方向に延びた扁平断面を有することを特徴とする水素除去装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の水素除去装置において、
前記反応媒体の温度を計測する温度計測部と、
前記反応媒体の計測温度が閾値に対し高くなったところで前記酸化性ガスを供給し、閾値に対し低くなったところで前記供給を停止する制御弁と、を備えることを特徴とする水素除去装置。
【請求項12】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の水素除去装置において、
水素含有ガスの水素濃度を検出する水素濃度検出部と、
前記検出された水素濃度が閾値を超えたところで前記反応媒体の外側とその内側との間に電圧を付与する電圧付与部と、を備えることを特徴とする水素除去装置。
【請求項13】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の水素除去装置において、
前記反応媒体の外側とその内側との電位差を検出する電圧検出部と、
前記電位差が閾値に対し低くなったところで前記酸化性ガスの供給を停止する制御弁と、を備えることを特徴とする水素除去装置。
【請求項14】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の水素除去装置において、
前記反応媒体の外側とその内側との間に流れる電流値を一定に保持する定電流保持部と、
前記反応媒体の外側とその内側との電位差が閾値に対し高くなったところで前記酸化性ガスの供給を停止する制御弁と、を備えることを特徴とする水素除去装置。
【請求項15】
水素含有ガスに反応媒体の外側が晒されるステップと、
前記反応媒体の内側に前記酸化性ガスが供給されるステップと、
前記酸化性ガスにより前記水素含有ガス中の水素が酸化されるステップと、を含むことを特徴とする水素除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−83226(P2012−83226A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229944(P2010−229944)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】