説明

水耕栽培システムの循環水の浄化装置及びその方法

【課題】水耕栽培システムの循環水を簡単な設備で効率よく浄化する。
【解決手段】循環水を循環させる循環経路(11)を、循環水中でストリーマ放電を行って過酸化水素を発生させる放電部(62)及び放電部(62)に直流電圧を印加する直流電源(70)を有する除菌経路(12)と、この除菌経路(12)を経由させない通常経路(13)とのいずれかに切換可能に構成し、循環水が汚染されたときに、除菌経路(12)に循環水を通過させ、循環水中で直流電圧を印加してストリーマ放電を行って過酸化水素を発生させて循環水を浄化し、通常時には、除菌経路(12)を経由させないで循環水を循環させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水耕栽培システムの循環水の浄化装置及びその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、固形培地や水中に根系を形成させ、生育に必要な栄養成分を液肥と希釈水とを所定比率で混合した養液(培養液)を介して与えて、土壌を用いることなく作物などの植物を栽培する水耕栽培が注目を集めている。水耕栽培では、植物の生育環境を制御しているため、生産物の品質を一定に保つことができる。また、土壌を用いないため連作障害を生じさせることなく連作することが可能となる。しかし、水耕栽培において一旦病害が発生すると、均一な環境であるため短時間のうちに急速に拡大し栽培植物が全滅するおそれがある。このため、病害の発生防止が非常に重要である。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1の殺菌装置は、栽培チャンネルに循環供給する培養液を貯留する培養液タンクと、培養液タンクの培養液を栽培チャンネルに循環供給する手段と、オゾン発生器と、オゾン発生器で発生したオゾンを培養液タンクに供給する手段と、栽培チャンネルに供給するオゾン水を製造するオゾン水製造タンクと、オゾン水製造タンクに貯蔵されているオゾン水を栽培チャンネルに供給する手段とを備え、栽培チャンネルへ循環供給している培養液を培養液タンクに回収した後、オゾン発生器からのオゾンで殺菌すると共に、この殺菌期間中オゾン水製造タンクのオゾン水を栽培チャンネルに供給するようにして、栽培チャンネルに殺菌された培養液とオゾン水とを交互に供給している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−191244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の水耕栽培システムの循環水の浄化装置では、濃度の希薄な病原菌や有害な化学物質に対して接触によって作用させようとすると、効率が悪く、大量の過酸化水素などの活性種を溶け込ませる必要がある。そのためには大規模な設備を用意する必要があり、大変非効率である。
【0006】
また、オゾンや過酸化水素の自然消失のため、循環経路のうち十分な効果を得られる区間が少ないという問題があった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、水耕栽培システムの循環水を簡単な設備で効率よく浄化できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明では、循環経路を直流電圧によるストリーマ放電により発生させた過酸化水素による除菌通路と、除菌通路を介しない通常通路とを切換可能にした。
【0009】
具体的には、第1の発明では、
水耕栽培システム(10)の循環水を浄化する浄化装置(20)を対象とし、
上記浄化装置(20)では、
上記循環水を循環させる循環経路(11)は、上記循環水中でストリーマ放電を行って過酸化水素を発生させる放電部(62)及び該放電部(62)に直流電圧を印加する直流電源(70)を有する除菌経路(12)と、上記除菌経路(12)を経由させない通常経路(13)とを備え、上記通常経路(13)又は上記除菌経路(12)に切換可能に構成されている。
【0010】
上記の構成によると、循環水が汚れてきたときには、除菌経路(12)に循環水を通し、直流電源(70)により放電部(62)に直流電圧をかけて過酸化水素を発生させて循環水を除菌して浄化する。循環水が汚れていないときには、除菌経路(12)を通過させない。このように切換可能とすることで、例えば、除菌が必要なときだけ除菌経路(12)を通過させ、そのときの循環水の単位時間あたりの流量を小さくすることで、確実に循環水が浄化される。除菌が必要ないときには、通常の循環量を保つようにすれば、効率的に浄化が行える。
【0011】
第2の発明では、第1の発明において、
上記放電部(62)は、上記循環水を貯留する水貯留部(61)内に設けられ、
上記水貯留部(61)内の上記放電部(62)の下流側には、上記循環水中の塵埃を捕捉する集塵部(14)が設けられている。
【0012】
上記の構成によると、水貯留部(61)内の限られた領域の中で集塵部(14)に集められた塵埃に対して過酸化水素で除菌を行うので、循環水全体に除菌を行う場合に比べて効率よく除菌が行われる。また、集塵部(14)が放電部(62)と至近距離に配置されるので、放電部(62)で生成された寿命の短い様々なラジカル類も集塵部(14)での浄化に利用される。
【0013】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、
上記放電部(62)の下流側には、上記循環水中の化学物質を吸着する吸着フィルタ(15)が設けられている。
【0014】
上記の構成によると、水貯留部(61)内の限られた領域の中で吸着フィルタ(15)に集められた化学物質が過酸化水素の酸化作用により、循環水全体に除菌を行う場合に比べて効率的に無害化される。また、吸着フィルタ(15)が放電部(62)と至近距離に配置されるので、放電部(62)で生成された寿命の短い様々なラジカル類も吸着フィルタ(15)での浄化に利用される。
【0015】
第4の発明では、第1乃至第3のいずれか1つの発明において、
上記除菌経路(12)を構成する流入管(51)は、該流入管(51)内に銅イオン又は鉄イオンを供給するイオン供給部を構成している。
【0016】
上記の構成によると、イオン供給部が生成した銅イオン又は鉄イオンが、触媒として作用し、過酸化水素から水酸ラジカルが生成される(いわゆるフェントン反応)。
【0017】
第5の発明では、水耕栽培システム(10)の循環水を浄化する浄化方法を対象とし、
上記浄化方法は、
上記循環水が汚染されたときに、除菌経路(12)に該循環水を通過させ、直流電圧(70)により該循環水中で直流電圧を印加してストリーマ放電を行って過酸化水素を発生させて循環水を浄化し、
通常時には、上記除菌経路(12)を経由させないで上記循環水を循環させる構成とする。
【0018】
上記の構成によると、循環水が汚れてきたときのみ除菌経路(12)に循環水を通し、直流電源(70)により放電部(62)に直流電圧を印加して過酸化水素を発生させて循環水を除菌する。一方、循環水が汚れていないときには、除菌経路(12)を通過させ、必要なときだけ除菌を行う。
【0019】
第6の発明では、第5の発明において、
上記除菌経路(12)を経由させるときの上記循環水の単位時間あたりの水量は、上記除菌経路(12)を経由させないときの上記循環水の単位時間あたりの水量よりも小さい構成とする。
【0020】
上記の構成によると、除菌経路(12)内をゆっくり通過させることで、確実に除菌を行い、除菌が不要なときには、通常の循環量で水耕栽培を行う。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、上記第1の発明によれば、循環水を循環させる循環経路(11)を除菌経路(12)と、この除菌経路(12)を経由させない通常経路(13)とで切換可能にし、除菌経路(12)内で循環水中で直流電圧によるストリーマ放電を行って過酸化水素を発生させるようにしたことにより、除菌が必要なときだけ除菌を行うことができ、水耕栽培システム(10)の循環水を簡単な設備で効率よく浄化できる。
【0022】
また、本発明では、直流電源(70)を用いてストリーマ放電を行っているので、例えばパルス電源と比較して、電源部の簡素化、低コスト化、小型化を図ることができる。また、パルス電源を用いると、放電に伴って水中で発生する衝撃波や騒音が大きくなってしまう。これに対し、直流電源(70)を用いると、このような衝撃波や騒音も低減できる。
【0023】
上記第2の発明によれば、水貯留部(61)内の放電部(62)の下流側に設けた集塵部(14)で捕捉された塵埃を過酸化水素で除菌するようにしたことにより、効率よく循環水の浄化が行える。
【0024】
上記第3の発明によれば、水貯留部(61)内の放電部(62)の下流側の吸着フィルタ(15)に吸着した化学物質を過酸化水素の酸化作用により無害化させるようにしたので、有害な化学物質による植物に対する悪影響を防止することができる。
【0025】
上記第4の発明によれば、過酸化水素から水酸ラジカルが生成されるので、水貯留部(61)内で、除菌をより強力に行うことができる。
【0026】
上記第5の発明によれば、循環水を循環させる循環経路(11)を除菌経路(12)と、この除菌経路(12)を経由させない通常経路(13)とで切換可能にし循環水が汚染されたときのみ除菌経路(12)内で循環水中で直流電圧によるストリーマ放電を行って過酸化水素を発生させるようにしたことにより、水耕栽培システム(10)の循環水を簡単な設備で効率よく浄化できる。
【0027】
また、本発明では、直流電圧(70)を用いてストリーマ放電を行っているので、例えばパルス電源と比較して、電源部の簡素化、低コスト化、小型化を図ることができる。また、パルス電源を用いると、放電に伴って水中で発生する衝撃波や騒音が大きくなってしまう。これに対し、直流電源(70)を用いると、このような衝撃波や騒音も低減できる。
【0028】
上記第6の発明によれば、除菌経路(12)を経由させるときの循環水の水量を通常時よりも小さくしたことにより、除菌時には確実に除菌を行う一方、除菌が不要なときは効率的に循環水を流すことができるので、病原菌を防ぎながら効率よく水耕栽培を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、実施形態1にかかる浄化装置を設けた水耕栽培システムの概略を示す説明図である。
【図2】図2は、実施形態1にかかる除菌ユニットの全体構成図であり、動作を開始する前の状態を示すものである。
【図3】図3は、実施形態1にかかる絶縁ケーシングの斜視図である。
【図4】図4は、実施形態1にかかる除菌ユニットの全体構成図であり、動作中に気泡が安定した状態を示すものである。
【図5】図5は、実施形態1の変形例にかかる除菌ユニットの全体構成図である。
【図6】図6は、実施形態1の変形例にかかる絶縁ケーシングの斜視図である。
【図7】図7は、実施形態2にかかる除菌ユニットの全体構成図であり、動作を開始する前の状態を示すものである。
【図8】図8は、実施形態2にかかる除菌ユニットの全体構成図であり、動作中に気泡が安定した状態を示すものである。
【図9】図9は、実施形態2の変形例にかかる絶縁ケーシングの蓋部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0031】
(実施形態1)
−水耕栽培システムの循環水の浄化装置の構成−
図1は、本発明の実施形態にかかる水耕栽培システム(10)を示し、この水耕栽培システム(10)は、いわゆる施設園芸(例えばビニルハウス)や、閉鎖環境で人工光を用いて植物を栽培する植物工場等で使用される。水耕栽培システム(10)は、循環水を浄化する浄化装置(20)を備えている。
【0032】
水耕栽培システム(10)は、栽培床(101)、循環経路(11)、ポンプ(102)、及び制御装置(103)を備えている。この水耕栽培システム(10)では、栽培床(101)、ポンプ(102)は、循環経路(11)で互いに接続され、植物の栽培に必要な養分を含んだ養液(L)が循環する。図1において、養液の循環方向を矢印で示す。
【0033】
栽培床(101)は、養液(L)を、所定の量だけ溜めるようになっている。栽培床(101)には、植物(200)が植えつけられる。植えつけられた植物(200)は、栽培床(101)に溜められた養液(L)を吸収し、吸収した養液(L)中の養分を利用するように構成されている。
【0034】
循環経路(11)は、通常経路(13)と除菌経路(12)とを切換可能に構成されている。通常経路(13)は、通常流出配管(48)及び通常流入配管(49)を備え、これら通常流出配管(48)の流入側及び通常流入配管(49)の流出側が栽培床(101)に接続されている。養液(L)を循環させるためのポンプ(102)は、通常流出配管(48)と通常流入配管(49)との間に接続されている。このポンプ(102)の吸入孔は通常流出配管(48)の流出側に接続され、吐出孔が通常流入配管(49)の流入側に接続されている。このポンプ(102)の運転状態は、制御装置(103)が制御するようになっている。
【0035】
そして、通常流出配管(48)は、除菌経路(12)と一対の切換バルブ(16)を介して切換可能に接続されている。切換バルブ(16)は、三方切替弁よりなり、電動式でも手動式でもよい。電動式の場合には、制御装置(103)から送られる電気信号によって切り換えればよい。一方の切換バルブ(16)は、除菌経路(12)の流入管(51)に接続され、他方の切換バルブ(16)は、除菌経路(12)の流出管(52)に接続されている。流入管(51)と流出管(52)との間に水浄化ユニット(60)が接続されている。水浄化ユニット(60)は、水中でのストリーマ放電によって水中に過酸化水素等の除菌成分を生成し、この除菌成分によって植物の病原菌などの雑菌の除菌(殺菌、滅菌)を行うものである。
【0036】
この水浄化ユニット(60)は、循環水を一時的に貯留する密閉型の直方体状の水貯留部(61)を有する。水中(具体的には養液(L))でのストリーマ放電によって水中に過酸化水素等の浄化成分を生成し、この浄化成分によって水の浄化を行う。水貯留部(61)の流入側が流入管(51)に接続され、流出側が流出管(52)に接続されている。例えば、流入管(51)は銅管で構成され、その内壁から銅イオンを生成することで、水貯留部(61)に銅イオンが供給されている。流出管(52)は、ビニルホースで構成されている。
【0037】
図2にも示すように、この水貯留部(61)内には、水貯留部(61)の水中でストリーマ放電を行って過酸化水素を発生させる放電部(62)が内蔵されている。
【0038】
制御装置(103)は、ポンプ(102)及び水浄化ユニット(60)に所定の制御信号を出力し、ポンプ(102)の運転状態(オンオフ)の制御と、水浄化ユニット(60)の運転状態(ストリーマ放電のオンオフ)の制御を行うように構成されている。
【0039】
放電部(62)は、放電電極(64)及び対向電極(65)からなる電極対(64,65)と、この電極対(64,65)に電圧を印加する直流電源(70)と、放電電極(64)を内部に収容する絶縁ケーシング(71)とを備えている。
【0040】
電極対(64,65)は、水中でストリーマ放電を生起するためのものである。放電電極(64)は、絶縁ケーシング(71)の内部に配置されている。放電電極(64)は、上下に扁平な板状に形成されている。放電電極(64)は、直流電源(70)の正極側に接続されている。放電電極(64)は、例えばステンレス、銅等の導電性の金属材料で構成されている。
【0041】
対向電極(65)は、絶縁ケーシング(71)の外部に配置されている。対向電極(65)は、放電電極(64)の上方に設けられている。対向電極(65)は、上下に扁平な板状であって、且つ上下に複数の貫通孔(66)を有するメッシュ形状乃至パンチングメタル形状に構成されている。対向電極(65)は、放電電極(64)と略平行に配設されている。対向電極(65)は、直流電源(70)の負極側に接続されている。対向電極(65)は、例えばステンレス、真鍮等の導電性の金属材料で構成されている。
【0042】
直流電源(70)は、電極対(64,65)に所定の直流電圧を印加する直流電源で構成されている。すなわち、直流電源(70)は、電極対(64,65)に対して瞬時的に高電圧を繰り返し印加するようなパルス電源ではなく、電極対(64,65)に対して常に数キロボルトの直流電圧を印加する。直流電源(70)のうち、対向電極(65)が接続される負極側は、アースと接続されている。また、直流電源(70)には、電極対(64,65)の放電電力を一定に制御する定電力制御部が設けられている(図示省略)。
【0043】
絶縁ケーシング(71)は、水貯留部(61)の底部に設置されている。絶縁ケーシング(71)は、例えばセラミックス等の絶縁材料で構成されている。絶縁ケーシング(71)は、一面(上面)が開放された容器状のケース本体(72)と、該ケース本体(72)の上方の開放部を閉塞する板状の蓋部(73)とを有している。
【0044】
ケース本体(72)は、角型筒状の側壁部(72a)と、該側壁部(72a)の底面を閉塞する底部(72b)とを有している。放電電極(64)は、底部(72b)の上側に敷設されている。絶縁ケーシング(71)では、蓋部(73)と底部(72b)との間の上下方向の距離が、放電電極(64)の厚さよりも長くなっている。つまり、放電電極(64)と蓋部(73)との間には、所定の間隔が確保されている。これにより、絶縁ケーシング(71)の内部では、放電電極(64)とケース本体(72)と蓋部(73)との間に空間(S)が形成される。
【0045】
図2及び図3に示すように、絶縁ケーシング(71)の蓋部(73)には、該蓋部(73)を厚さ方向に貫通する1つの開口(74)が形成されている。この開口(74)により、放電電極(64)と対向電極(65)との間の電界の形成が許容されている。蓋部(73)の開口(74)の内径は、0.02mm以上0.5mm以下であることが好ましい。以上のような開口(74)は、電極対(64,65)の間の電流経路の電流密度を上昇させる電流密度集中部を構成する。
【0046】
以上のように、絶縁ケーシング(71)は、電極対(64,65)のうちの一方の電極(放電電極(64))のみを内部に収容し、且つ電流密度集中部としての開口(74)を有する絶縁部材を構成している。
【0047】
加えて、絶縁ケーシング(71)の開口(74)内では、電流経路の電流密度が上昇することで、水がジュール熱によって気化して気泡(B)が形成される。つまり、絶縁ケーシング(71)の開口(74)は、該開口(74)に気相部としての気泡(B)を形成する気相形成部として機能する。
【0048】
水貯留部(61)内の放電部(62)の下流側には、循環水中の塵埃を捕捉する集塵部としての集塵フィルタ(14)が設けられている。この集塵フィルタ(14)は、循環水中の固形物を捕捉可能に水貯留部(61)内に配置され、適宜取り出して清掃又は交換可能となっている。
【0049】
さらに水貯留部(61)内の集塵フィルタ(14)の下流側には、循環水中の化学物質を吸着する吸着フィルタ(15)が設けられている。例えば、この吸着フィルタ(15)は、循環水中の有害な化学物質を吸着する、ろ材で構成されている。この吸着フィルタ(15)も適宜清掃又は交換可能に構成されている。
【0050】
このように、集塵フィルタ(14)及び吸着フィルタ(15)は、水貯留部(61)内において、放電部(62)と至近距離に配置されている。
【0051】
−水耕栽培システムの循環水の浄化方法−
次に、本実施形態にかかる水耕栽培システムの循環水の浄化方法について説明する。
【0052】
予め通常経路(13)を除菌経路(12)に切り換える時間を制御装置(103)に設定しておく。例えば、除菌経路(12)に切り換えたときには、集塵フィルタ(14)及び吸着フィルタ(15)のろ過効果を考慮してポンプ(102)からの単位時間あたりの吐出量を通常経路(13)のときよりも小さくする。
【0053】
通常は、通常経路(13)を通ってポンプ(102)によって循環水が循環される。
【0054】
切換時間になると、切換バルブ(16)が切り換えられ、ポンプ(102)から吐出され、栽培床(101)を通った循環水が切換バルブ(16)を通って水浄化ユニット(60)に供給される。同様に水浄化ユニット(60)の運転も開始される。すると、図2に示すように、絶縁ケーシング(71)の内の空間(S)が浸水した状態となる。直流電源(70)から電極対(64,65)に所定の直流電圧(例えば1kV)が印加されると、電極対(64,65)の間に電界が形成される。この際、放電電極(64)の周囲は、絶縁ケーシング(71)で覆われている。このため、電極対(64,65)の間での漏れ電流が抑制されとともに、開口(74)内の電流経路の電流密度が上昇した状態となる。
【0055】
開口(74)内の電流密度が上昇すると、開口(74)内のジュール熱が大きくなる。その結果、絶縁ケーシング(71)では、開口(74)の近傍において、水の気化が促進されて気泡(B)が形成される。この気泡(B)は、図4に示すように、開口(74)のほぼ全域を覆う状態となり、対向電極(65)に導通する負極側の水と、正極側の放電電極(64)との間に気泡(B)が介在する。従って、この状態では、気泡(B)が、放電電極(64)と対向電極(65)との間での水を介した導電を阻止する抵抗として機能する。これにより、放電電極(64)と対向電極(65)との間の漏れ電流が抑制され、電極対(64,65)間では、所望とする電位差が保たれることになる。すると、気泡(B)内では、絶縁破壊に伴いストリーマ放電が発生する。
【0056】
以上のようにして、気泡(B)でストリーマ放電が行われると、水貯留部(61)内の水中では、水酸ラジカル等の活性種や過酸化水素等が生成される。水酸ラジカル等の活性種や過酸化水素は、ストリーマ放電に伴う熱によって水貯留部(61)内を対流する。これにより、水中での活性種や過酸化水素の拡散が促される。また、気泡(B)でストリーマ放電が行われると、このストリーマ放電に伴ってこの気泡(B)でイオン風を生成し易くなる。よって、水浄化タンク(61)内では、このイオン風を利用して、活性種や過酸化水素の拡散効果を更に向上できる。
【0057】
また、流入管(51)である銅配管(イオン供給部)からは、銅イオンが養液(L)中に溶出する。過酸化水素と銅イオンの存在下では、フェントン反応により、銅イオンが触媒的に作用して水酸ラジカルの生成が促進される。水酸ラジカルは、強力な酸化力を有するが、すぐに変化して別の物質に変わってしまう。しかし、放電部(62)のすぐ下流に集塵フィルタ(14)及び吸着フィルタ(15)が配置されているので、集塵フィルタ(14)の雑菌が除菌され、吸着フィルタ(15)に吸着した有害な化学物質が無害化される。また、水貯留部(61)内に満たされた過酸化水素が集塵フィルタ(14)及び吸着フィルタ(15)を除菌する。流出管(52)から流出する循環水には、大量の過酸化水素が含有されているので、循環経路(11)内もくまなく除菌され、水耕栽培システム(10)内で病原菌が広まらない。
【0058】
所定時間経過すると、再び切換バルブ(16)が切り換えられ、通常経路(13)に戻って、通常の循環量で循環水が循環される。
【0059】
−実施形態1の効果−
従って、本実施形態にかかる浄化装置(20)によると、循環水を循環させる循環経路(11)を除菌経路(12)と、この除菌経路(12)を経由させない通常経路(13)とで切換可能にし、除菌経路(12)内で循環水中で直流電圧によるストリーマ放電を行って過酸化水素を発生させるようにしたことにより、除菌が必要なときだけ除菌を行うことができ、水耕栽培システム(10)の循環水を簡単な設備で効率よく浄化できる。
【0060】
また、直流電圧(70)を用いてストリーマ放電を行っているので、例えばパルス電源と比較して、電源部の簡素化、低コスト化、小型化を図ることができる。また、パルス電源を用いると、放電に伴って水中で発生する衝撃波や騒音が大きくなってしまう。これに対し、直流電源(70)を用いると、このような衝撃波や騒音も低減できる。
【0061】
また、病原菌などの雑菌や有害な化学物質を捕捉した集塵フィルタ(14)及び吸着フィルタ(15)を放電部(62)と至近距離に配置して放電部(62)で生成された寿命の短い様々なラジカル類も集塵部(14)での浄化に利用することができるので、極めて浄化効率がよい。
【0062】
〈実施形態1の変形例〉
上記実施形態1では、絶縁ケーシング(71)の蓋部(73)に1つの開口(74)が形成されている。しかしながら、例えば図5及び図6に示すように、絶縁ケーシング(71)の蓋部(73)に複数の開口(74)を形成してもよい。この変形例では、絶縁ケーシング(71)の蓋部(73)が、略正方形板状に形成され、この蓋部(73)に複数の開口(74)が等間隔を置きながら碁盤目状に配列されている。一方、放電電極(64)及び対向電極(65)は、全ての開口(74)に跨るような正方形板状に形成されている。
【0063】
この変形例においても、各開口(74)が、電流密度集中部、及び気相形成部として機能する。これにより、電源部(70)から電極対(64,65)に直流電圧が印加されると、各開口(74)の電流密度が上昇し、各開口(74)で気泡(B)が形成される。その結果、各気泡(B)でそれぞれストリーマ放電が生起され、水酸ラジカル等の活性種や、過酸化水素が生成される。
【0064】
(実施形態2)
図7及び図8は本発明の実施形態2を示し、放電部(62)の構成が異なる点で上記実施形態1と異なる。なお、以下の各実施形態及び変形例では、図1〜図6と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0065】
図7に示すように、実施形態2の放電部(62)は、水貯留部(61)の外側から内部に向かって挿入されて固定される、いわゆるフランジユニット式に構成されている。また、実施形態2の放電部(62)は、放電電極(64)と対向電極(65)と絶縁ケーシング(71)とが一体的に組立てられている。
【0066】
実施形態2の絶縁ケーシング(71)は、大略の外形が円筒状に形成されている。絶縁ケーシング(71)は、ケース本体(72)と蓋部(73)とを有している。
【0067】
実施形態2のケース本体(72)は、ガラス質又は樹脂製の絶縁材料で構成されている。ケース本体(72)は、円筒状の基部(76)と、該基部(76)から水貯留部(61)側に向かって突出する筒状壁部(77)と、該筒状壁部(77)の外縁部から更に水貯留部(61)側に向かって突出する環状凸部(78)とを有している。また、ケース本体(72)には、環状凸部(78)の先端側に先端筒部(79)が一体に形成されている。基部(76)の軸心部には、円柱状の挿入口(76a)が軸方向に延びて貫通形成されている。筒状壁部(77)の内側には、挿入口(76a)と同軸となり、且つ挿入口(76a)よりも大径となる円柱状の空間(S)が形成されている。
【0068】
実施形態2の蓋部(73)は、略円板状に形成されて環状凸部(78)の内側に嵌合している。蓋部(73)は、セラミックス材料で構成されている。蓋部(73)の軸心には、実施形態1と同様、蓋部(73)を上下に貫通する円形状の1つの開口(74)が形成されている。
【0069】
放電電極(64)は、軸直角断面が円形状となる縦長の棒状の電極で構成されている。放電電極(64)は、基部(76)の挿入口(76a)に嵌合している。これにより、放電電極(64)は、絶縁ケーシング(71)の内部に収容されている。実施形態2では、放電電極(64)のうち水貯留部(61)とは反対側の端部が、水貯留部(61)の外部に露出される状態となる。このため、水貯留部(61)の外部に配置される直流電源(70)と、放電電極(64)とを電気配線によって容易に接続することができる。
【0070】
放電電極(64)のうち水貯留部(61)側の端部(64a)は、絶縁ケーシング(71)の内部の空間(S)に臨んでいる。なお、図7に示す例では、放電電極(64)の端部(64a)が、挿入口(76a)の開口面よりも上側(水貯留部(61)側)に突出しているが、この端部(64a)の先端面を挿入口(76a)の開口面と略面一としてもよいし、端部(64a)を挿入口(76a)の開口面よりも下側に陥没させてもよい。また、放電電極(64)は、実施形態1と同様、開口(74)を有する蓋部(73)との間に所定の間隔が確保されている。
【0071】
対向電極(65)は、円筒状の電極本体(65a)と、該電極本体(65a)から径方向外方へ突出する鍔部(65b)とを有している。電極本体(65a)は、絶縁ケーシング(71)のケース本体(72)に外嵌している。鍔部(65b)は、水貯留部(61)の壁部に固定されて放電部(62)を保持する固定部を構成している。放電部(62)が水貯留部(61)に固定された状態では、対向電極(65)の電極本体(65a)の一部が浸水された状態となる。
【0072】
対向電極(65)は、電極本体(65a)よりも小径の内側筒部(65c)と、該内側筒部(65c)と電極本体(65a)との間に亘って形成される連接部(65d)とを有している。内側筒部(65c)及び連接部(65d)は、水貯留部(61)内の水中に浸漬している。内側筒部(65c)は、その内部に円柱空間(67)を形成している。内側筒部(65c)の軸方向の一端は、蓋部(73)と当接して該蓋部(73)を保持する保持部を構成している。また、電極本体(65a)と内側筒部(65c)と連接部(65d)の間には、ケース本体(72)の先端筒部(79)が内嵌している。内側筒部(65c)の軸方向の他端側には、円柱空間(67)を覆うようにメッシュ状の漏電防止材(68)が設けられている。この漏電防止材(68)は、対向電極(65)と接触することで、実質的にアースされている。これにより、漏電防止材(68)は、水貯留部(61)の内部の空間(水中)のうち、円柱空間(67)の内側から外側への漏電を防止している。
【0073】
対向電極(65)は、電極本体(65a)の一部が水貯留部(61)の外部に露出される状態となる。このため、直流電源(70)と対向電極(65)とを電気配線によって容易に接続することができる。
【0074】
−浄化装置の運転動作−
実施形態2の水耕栽培システム(10)においても、浄化装置(20)が運転されることで、集塵フィルタ(14)、吸着フィルタ(15)及び循環経路(11)が除菌される。
【0075】
浄化装置(20)の運転の開始時には、図7に示すように、絶縁ケーシング(71)の内の空間(S)が浸水した状態となっている。電源部(70)から電極対(64,65)に所定の直流電圧(例えば1kV)が印加されると、開口(74)の内部の電流密度が上昇してく。
【0076】
図7に示す状態から、電極対(64,65)へ更に直流電圧が継続して印加されると、開口(74)内の水が気化されて気泡(B)が形成される(図8を参照)。この状態では、気泡(B)が開口(74)のほぼ全域を覆う状態となり、円柱空間(67)内の負極側の水と、放電電極(64)との間に気泡(B)の抵抗が付与される。これにより、放電電極(64)と対向電極(65)との間の電位差が保たれ、気泡(B)でストリーマ放電が発生する。その結果、水中では、過酸化水素等が生成され、循環水が浄化される。
【0077】
〈実施形態2の変形例〉
上記実施形態2では、円板状の蓋部(73)の軸心に1つの開口(74)を形成しているが、この蓋部(73)に複数の開口(74)を形成してもよい。図9に示す例では、蓋部(73)の軸心を中心とする仮想ピッチ円上に、5つの開口(74)が等間隔置きに配列されている。このように蓋部(73)に複数の開口(74)を形成することで、各開口(74)の近傍でそれぞれストリーマ放電を生起させることができる。
【0078】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0079】
すなわち、上述した各実施形態の直流電源(70)には、ストリーマ放電の放電電力を一定に制御する定電力制御部を用いている。しかしながら、定電力制御部に代えて、ストリーマ放電時の放電電流を一定に制御する定電流制御部を設けることもできる。この定電流制御を行うと、水の導電率によらず放電が安定するため、スパークの発生も未然に回避できる。
【0080】
また、上述した各実施形態では、直流電源(70)の正極に放電電極(64)を接続し、直流電源(70)の負極に対向電極(65)を接続している。しかしながら、直流電源(70)の負極に放電電極(64)を接続し、直流電源(70)の正極に対向電極(65)を接続することで、電極対(64,65)の間で、いわゆるマイナス放電を行うようにしてもよい。
【0081】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上説明したように、本発明は、水耕栽培システムの循環水を浄化する浄化装置について有用である。
【符号の説明】
【0083】
11 循環経路
13 通常経路
12 除菌経路
14 集塵フィルタ(集塵部)
15 吸着フィルタ
51 流入管
61 水貯留部
62 放電部
70 直流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水耕栽培システムの循環水を浄化する浄化装置であって、
上記循環水を循環させる循環経路(11)は、
上記循環水中でストリーマ放電を行って過酸化水素を発生させる放電部(62)及び該放電部(62)に直流電圧を印加する直流電源(70)を有する除菌経路(12)と、上記除菌経路(12)を経由させない通常経路(13)とを備え、
上記通常経路(13)又は上記除菌経路(12)に切換可能に構成されている
ことを特徴とする水耕栽培システムの循環水の浄化装置。
【請求項2】
請求項1に記載の水耕栽培システムの循環水の浄化装置において、
上記放電部(62)は、上記循環水を貯留する水貯留部(61)内に設けられ、
上記水貯留部(61)内の上記放電部(62)の下流側には、上記循環水中の塵埃を捕捉する集塵部(14)が設けられている
ことを特徴とする水耕栽培システムの循環水の浄化装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水耕栽培システムの循環水の浄化装置において、
上記放電部(62)は、上記循環水を貯留する水貯留部(61)内に設けられ、
上記水貯留部(61)内の上記放電部(62)の下流側には、上記循環水中の化学物質を吸着する吸着フィルタ(15)が設けられている
ことを特徴とする水耕栽培システムの循環水の浄化装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の水耕栽培システムの循環水の浄化装置において、
上記除菌経路(12)を構成する流入管(51)は、該流入管(51)内に銅イオン又は鉄イオンを供給するイオン供給部を構成している
ことを特徴とする水耕栽培システムの循環水の浄化装置。
【請求項5】
水耕栽培システムの循環水を浄化する浄化方法において、
上記循環水が汚染されたときに、除菌経路(12)に該循環水を通過させ、直流電圧(70)により該循環水中で直流電圧を印加してストリーマ放電を行って過酸化水素を発生させて循環水を浄化し、
通常時には、上記除菌経路(12)を経由させないで上記循環水を循環させる
ことを特徴とする水耕栽培システムの循環水の浄化方法。
【請求項6】
請求項5に記載の水耕栽培システムの循環水を浄化する浄化方法において、
上記除菌経路(12)を経由させるときの上記循環水の単位時間あたりの水量は、上記除菌経路(12)を経由させないときの上記循環水の単位時間あたりの水量よりも小さい
ことを特徴とする水耕栽培システムの循環水の浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−75336(P2012−75336A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220677(P2010−220677)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】