説明

水耕栽培システム

【課題】植物工場における作業場所を減少させて作付面積を増加させると共に、作業者の作業効率を高める。
【解決手段】本発明の水耕栽培システム100は、栽培パネル20を浮遊移動させる回帰水路11であって、一つの作業場所40で栽培パネル20を投入及び回収できる回帰水路11を有する栽培水槽10と、栽培水槽10に付設され、回帰水路11を浮遊移動する栽培パネル20を照明する照明装置30と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物を水耕栽培する水耕栽培システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、天候に影響されることなく作物を市場に安定供給することを目的に、植物を建物内で栽培する植物工場が造られている。植物工場では、土壌病害虫の防除、連作障害の回避、除草作業等の省略を目的に水耕により植物を栽培することが多い。
【0003】
水耕栽培による植物工場では、通常、細長い栽培水槽(以下、単に槽と記載する場合がある)を複数、互いに平行に配列して、それぞれの栽培水槽に複数の栽培パネルを浮遊させることで植物を栽培している。
【0004】
図6は従来の植物工場601を示す平面図であり、図6(a)は栽培パネル620の位置を固定して栽培する場合の平面図、図6(b)は、栽培パネル620を一定方向にピッチ送りして栽培する場合の平面図である。
【0005】
植物工場では季節や天候に影響されること無く栽培することができる。そのため、図6(a)に示す植物工場601の場合、栽培水槽610毎に栽培パネル620を投入する時期をずらすことで、出荷時期を調整し栽培物を安定供給している。また、図6(b)に示す植物工場の場合は、栽培水槽610の投入口611において、一定の時間間隔を空けて、例えば一日おきに栽培パネル620を投入して、玉突き状に栽培パネル620を回収口612に向けて押し出し、出荷可能状態まで育成された栽培パネル620を回収口612から順次取り出すことで栽培物を安定供給している。
【0006】
特許文献1は、このような水耕栽培による植物工場で使用される水耕栽培用パネル(栽培パネル)の浮遊移動方法及び浮遊移動制御可能な水耕栽培用パネルを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−215485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
植物工場では、栽培水槽以外に水槽に栽培パネルを投入する又は水槽から回収するための作業場所が必要である。また、作業場所には栽培パネルを運搬するコンベアの設置スペースや台車などが通過する通路が含まれるので、その幅が比較的広く設けられている。しかしながら、植物工場はその建物面積が限定されることから、作業場所の面積を広くすると、それだけ植物の作付面積が減少するという課題があった。また、作業場所から倉庫や調整作業室までの距離が長い場合、それだけ作業者が移動する距離(動線)も長くなることから作業効率が低下する。
【0009】
図6(a)に示す植物工場601のように、栽培パネル620を栽培水槽610に固定した場合、栽培パネル620が移動しないため、作業者が自ら移動して各栽培水槽610の側方から栽培パネル620の投入や回収作業を行う必要がある。そのため、各栽培水槽610に平行して作業場所640を設ける必要があり、それだけ作付面積が減少しロスが大きい。
【0010】
また、作業者は、投入作業時においては、苗を植えた栽培パネル620を調整作業室642(作業者が栽培パネルに苗を取付けたり、栽培パネルより栽培物を取り出す部屋)から台車を用いて運搬し、収穫作業時においては、回収した栽培パネル620を調整作業室642まで運搬する必要がある。各栽培水槽610の間を通過して栽培パネル620を運搬するため、図6(a)に示す植物工場601では、栽培パネル620を運搬する移動距離(動線644)が比較的長くなり、作業効率が低下するという課題があった。
【0011】
一方、図6(b)に示す栽培パネル620を定期的にピッチ送りする場合は、栽培水槽610の一方の端部に栽培パネル620を投入する投入口611が、他方の端部に栽培パネル620を回収する回収口612が配置される。そのため、栽培水槽610の両端において、比較的広い作業場所640が設けられていた。また、栽培パネル620を調整作業室642から出し入れするための動線644が、栽培水槽610の長さに応じて大きくなるという課題があった。
【0012】
また、栽培パネル620を定期的にピッチ送りする場合、投入口611から回収口612に到達するまでに植物を苗から出荷段階まで成長させるため、直線状に長い栽培水槽610を必要とした。しかしながら、土地の形状によっては充分な長さを有する栽培水槽610の設置場所を確保することができず、植物工場の建設を断念せざるを得ない場合があった。
【0013】
特許文献1に記載された植物工場も、図6(b)の栽培水槽610と同様に水耕栽培用パネルを投入口から回収口まで押し出すことにより浮遊移動させている。そのため、植物工場内の作業場所については同様の課題を有している。また、特許文献1では作業場所を減少させることについて特に言及されていない。
【0014】
このように、植物工場における作業場所を減少させてより多くの作付面積を確保すると共に、作業者の作業効率を高めることがことが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、栽培パネルを浮遊移動させる回帰水路であって、一つの作業場所で栽培パネルを投入及び回収できる回帰水路を有する槽と、前記槽に付設され、前記回帰水路を浮遊移動する栽培パネルを照明する照明装置と、を具備する水耕栽培システムを提供する。
【0016】
また、本発明は、前記回帰水路は、栽培パネルを前記作業場所から離れる第一方向へ浮遊移動させる往路と、該往路に後続し、栽培パネルを前記作業場所に接近する第二方向へ浮遊移動させる復路とを備え、該往路の始端と該復路の終端とが互いに隣接して配置される、水耕栽培システムを提供する。
【0017】
また、本発明は、前記槽の前記往路と前記復路との接続箇所に設けられ、栽培パネルを前記第一方向から前記第二方向へ転回させる転回装置をさらに具備する、水耕栽培システムを提供する。
【0018】
また、本発明は、前記回帰水路の前記第一方向又は前記第二方向に沿って延びるレールと、前記レールに沿って移動可能なランナと、を具備し、前記照明装置は前記ランナに取り外し可能に吊り下げて保持される、水耕栽培システムを提供する。
【0019】
また、本発明は、前記照明装置は、前記回帰水路への投入直後の栽培パネルを第一光量で照明すると共に、前記回帰水路からの回収直前の栽培パネルを、該第一光量よりも多い第二光量で照明する、水耕栽培システムを提供する。
【0020】
また、本発明は、前記回帰水路を浮遊移動する栽培パネルをさらに具備し、該栽培パネルは、植物を支持する支持部材と、該支持部材に取付けられ、該支持部材を前記回帰水路に浮遊させる浮き部材とを備える、水耕栽培システムを提供する。
【0021】
また、本発明は、前記往路及び前記復路は前記槽内において互いに平行に配置されており、前記槽に付設され、前記往路と前記復路とを仕切るセパレータをさらに具備する、水耕栽培システムを提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の水耕栽培システムを用いれば、栽培パネルを浮遊移動させる回帰水路により一つの作業場所で栽培パネルを投入及び回収することができるので、少なくとも作業場所が二箇所必要であった従来の槽と比較して作業場所やその面積を減少させることができる。また、作業場所を一箇所にまとめられるので、従来のように槽が長くなるにつれて作業者の動線が長くなることがなく、作業効率が向上する。また、回帰水路とすることで槽内における栽培パネルの移動距離を増やすことができるので、槽の長さを短くしても従来の槽と同等の移動距離を確保することができる。そのため、従来は建設を断念していたような狭い土地においても、植物工場を建設することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】植物工場における水耕栽培システムの一部を示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】図1の水耕栽培システムの栽培水槽を示す平面図である。
【図4】図1の水耕栽培システムの栽培水槽を配置した植物工場の平面図であり、図4(a)は作業場所を植物工場の中央に配置し、その両側に栽培水槽を平行に配列させた場合を示す図であり、図4(b)は植物工場の一方の端部に作業場所が並ぶよう配置した場合を示す図である。
【図5】図4(a)の植物工場に配置された水耕栽培システムを示す側面図である。
【図6】従来の植物工場における栽培水槽の配置を示す平面図であり、図6(a)は、栽培パネルの位置を栽培水槽に固定した場合を示す平面図、図6(b)は栽培パネルをピッチ送りして栽培する場合の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。また、以下の実施形態において同一又は類似の構成要素には共通の参照符号を付して示している。
【0025】
図1は本実施形態の水耕栽培システム100の一部を示す斜視図であり、図2は図1のII−II線に沿った断面図である。また、図3は水耕栽培システム100の栽培水槽10を示す平面図である。
【0026】
本実施形態の水耕栽培システム100は、植物工場において水耕により植物を栽培するためのシステムであり、栽培水槽10と、栽培水槽10に付設された照明装置30とから構成されている。また、栽培水槽10内には、栽培パネル20(以下、特定の栽培パネル20を示す場合はアルファベットを付して区別する場合がある)が浮遊移動している。本実施形態の栽培水槽10は、栽培パネルを浮遊移動させる回帰水路11を有し、作業場所40より作業者によって投入された栽培パネル20は、回帰水路11を往復して回帰し、栽培物が成長した後、作業場所40において再度回収されるようになっている。また、照明装置30は、回帰水路11を浮遊移動する栽培パネル20を照明するように付設されている。
【0027】
栽培水槽10は長手方向に軸線Aを有する細長い水槽で、栽培水槽10内には水耕養液12が満たされている。複数の栽培パネル20は水耕養液12上に連続して浮遊しており、栽培パネル20の一つを一方向に押圧することで、各栽培パネル20が隣接する栽培パネル20に接触し、連続する栽培パネル20が玉突き状に移動するようになっている。
【0028】
回帰水路11は、栽培水槽10の一方の端部10aにおいて、苗木25aを支持する栽培パネル20dを投入する投入口13と、成長して出荷可能な栽培物25bを支持する栽培パネル20cを回収する回収口14とを備えている。また、回帰水路11は、栽培パネル20を栽培水槽10の一方の端部10aから他方の端部10bに向かって、作業場所40から離れる方向(図1の第一方向B)へ浮遊移動させる往路15と、栽培パネル20を他方の端部10bから一方の端部10aに向かって、作業場所40に接近する方向(図1の第二方向C)へ浮遊移動させる復路16とを備えている。そして、図に示すように、往路15の始端である投入口13と、復路16の終端である回収口14とが互いに隣接して配置されている。一方、図3に示すように、栽培水槽10の他方の端部10bにおいて、往路15と復路16とが接続しており、その接続箇所には、栽培パネル20の移動方向を第一方向Bから第二方向Cへ転回させる転回装置26が設けられている。
【0029】
また、本実施形態の栽培水槽10は、図から分かるように、往路15及び復路16は栽培水槽10内において互いに平行に配置されており、その横断面の中央には、軸線Aに沿って伸びるようセパレータ18が設けられている。セパレータ18により、栽培水槽10内における往路15と復路16との境界が明確になると共に、往路15に浮遊移動する栽培パネル20と、復路16を浮遊移動する栽培パネル20とが接触せず、作業者や装置による栽培パネル20の浮遊移動を容易にしている。
【0030】
なお、本実施形態では往路15及び復路16は、上述のように直線状の栽培水槽に互いに平行に配置れ、栽培パネル20が直線状に浮遊移動するよう形成されている。しかしながら、これは往路15及び復路16の配置の一例であって、往路15及び復路16を同じ水槽内に設けなくてもよい。すなわち、往路15及び復路16は別々の水槽で栽培パネル20を移動させてよく、例えば、それぞれ独立した水槽により栽培パネル20を弓状に浮遊移動させたり、蛇行するよう往路15及び復路16を形成してよい。また、往路15及び復路16は環状の水槽により形成されてもよく、その場合、水槽を分けるセパレータ18や栽培パネル20の移動方向を転回する転回装置26を付設しなくてもよい。
【0031】
回帰水路11を浮遊移動する栽培パネル20の構成について説明する。栽培パネル20は、複数の苗が一定の間隔(株間ピッチ)で植えられると共に、成長した栽培物を支持する部材であり、植物工場では、栽培物の種類や成長に合わせて様々な株間ピッチで形成された栽培パネル20が準備されている。従来の栽培パネルは、水耕養液12に浮遊するように単に発泡性の材料を用いて作製されることが多く、管理する栽培パネルの数が増加するにつれてより広い保管場所が必要であった。特に大型の植物工場では、数千枚の栽培パネルを使用する場合があり、栽培パネルの管理保管が大きな負担になっていた。本実施形態では、栽培パネルの機能を、栽培物を一定の間隔で安定的に支持する支持機能と、栽培パネルを水耕養液に浮遊させて移動を容易にするフロート機能とに分割している。そして、夫々の部材が互いに交換できるよう、栽培パネルの大きさや接合手段を標準化している。具体的には、図2に示すように、栽培パネル20を、植物を支持する支持部材22と、支持部材22を浮遊させる浮き部材24とから構成し、それぞれが互いに別部材となるよう形成している。支持部材22を交換できるので、浮き部材24に対して栽培物に合わせて株間ピッチが変更された支持部材22を組み合わせることで、栽培物に適した栽培パネル20を提供することができる。
【0032】
栽培パネル20の支持部材22は、従来の栽培パネルのようにフロート機能を必要としないため、栽培物の支持機能と適切な株間ピッチを備える機能だけを備えていればよい。そのため、支持部材22の厚みは、栽培物25の重量に耐えられることができるだけの強度だけで充分であり、薄板にすることができる。支持部材22の厚みを薄くすることができるので、その収納性が向上する。また、従来の栽培パネルは浮遊させるために発泡性の材料から形成されており耐久性が低かったが、支持部材22に耐久性の高い板材を用いることでより長期間使用することが可能になる。なお、本実施形態の支持部材22は幅Dが約60cm、長さLが約90cm、厚みSが約1cmで形成されている。
【0033】
また、浮き部材24は、中空樹脂、木材、発泡素材などから形成された板状の構成部材により矩形の筒状体が組合わせて形成されている。浮き部材24を板状の構成部材で形成することで分解した時の収納性が改善され、倉庫等のスペース効率を向上させることができる。
【0034】
本実施形態の栽培水槽10のように細長い水槽の場合、栽培パネル20を回帰水路11上で回帰させるためには、栽培水槽10の他方の端部10bにおいて、栽培パネル20の移動方向を転回させる必要がある。本実施形態では、栽培水槽10の他方の端部10bにおいて往路15と復路16とが接続しており、その接続箇所において、栽培パネル20は第一方向Bから第二方向Cに、その移動方向を転回する。
【0035】
本実施形態における、栽培パネル20の移動方向の転回手順は以下の通りである。まず、往路15の先頭に位置する栽培パネル20aを図3のE方向に、図3の点線で示す位置まで平行移動させて、栽培パネル20aを復路16の最後尾に位置付ける。そして、復路16の最後尾に移動した栽培パネル20aを、一方の端部10aに向けて押し出す。栽培パネル20aは、隣接する栽培パネル20bと接触し、玉突き状に復路16にある栽培パネル20全体が第二方向Cに移動し、先頭にある栽培パネル20cが回収口14まで移動する。作業者は出荷段階となった復路16の先頭にある栽培パネル20cを回収口14から取り出すことができるようになる。
【0036】
一方、往路15の先頭が空くため、往路15の最後尾に位置する栽培パネル20dを押し出して、玉突き状に往路15にある栽培パネル20全体を第一方向Bに移動させる。移動後は投入口13が空くため、苗木が植えられた新規の栽培パネル20を投入口13に投入することができる。
【0037】
上述の栽培パネル20の折返し手順は、1〜3日あたり1回程度の作業であることから、手作業によって行われてもよい。しかしながら、植物工場では多数の栽培水槽10が使用されるので、たとえ回数が少なくとも栽培パネル20の転回手順が自動化されていた方が効率がよい。本実施形態では、上述のように栽培パネル20を第一方向Bから第二方向Cへ転回させる転回装置26が、水槽本体10の他方の端部10b、すなわち往路15と復路16との接続箇所に設けられている。
【0038】
また、転回装置26は、栽培パネル20を自動的に往路15から復路16に移動させる第一押出装置27と、栽培パネル20の移動方向を変更して、他方の端部10bから一方の端部10aに向けて、栽培パネル20を第二方向Cに押し出す第二押出装置28とから構成されている。
【0039】
転回装置26の第一押出装置27は、栽培パネル20の側面に当接する押圧部27aと、押圧部27aの一方の端部に接続されるウォームギア27bと、ウォームギア27bをその軸線を中心にして回転させるモータ27cとを備えている。モータ27cが回転することによって、ウォームギア27bが回転して押圧部27aがE方向又はF方向に平行移動するようになっている。この機構により、往路15の先頭に位置する栽培パネル20aを往路15から復路16まで移動させることができる。なお、押圧部27aの他方の端部には、栽培パネル20eが浮遊移動するのを防止するストッパ27dが設けられている。ストッパ27dは押圧部27aの端部から直交する方向に延びた係止片である。往路15にある栽培パネル20は、投入口13から作業者が押し出すことができるため、押圧部27aが元の場所(栽培水槽10の側面)に戻る前に、栽培パネル20eが浸入する可能性がある。このようなストッパ27dを設けることで、栽培パネル20aを押し出した後、押圧部27aがF方向に戻るときに、栽培パネル20eが他方の端部10bに浸入することを防止できる。
【0040】
転回装置26の第二押出装置28は、栽培パネル20の端面に当接する押圧部28aと、押圧部28aに接続されるウォームギア28bと、ウォームギア28bをその軸線を中心にして回転させるモータ28cとを備えている。モータ28cが回転することによってウォームギア28bに接続された押圧部28aが、栽培水槽10の他方の端部10bから一方の端部10aに向かう方向(第二方向C)に移動する。このような第二押出装置28により、第一押出装置27が往路15から復路16に押し出した栽培パネル20aを第二方向Cに押し出し、玉突き状に復路16にある栽培パネル20全体を浮遊移動させる。
【0041】
転回装置26の第一押出装置27及び第二押出装置28のそれぞれの制御は、作業場所40に設置されたスイッチを用いて遠隔操作されてよい。第一押出装置27及び第二押出装置28を遠隔操作することにより、作業者は栽培パネル20cを回収口14から収穫した後、すぐに、往路15の先頭にある栽培パネル20aを復路16に移動させることができる。
【0042】
なお、本実施形態では、転回装置26としてウォームギア等を用いた第一押出装置27及び第二押出装置28を説明したが、転回装置26を実現する機構は、ウォームギア27b、28bとモータ27c、28cとの組合せに限定されず、例えばエアシリンダや油圧シリンダを用いてもよい。また、転回装置26の栽培パネル20の押し出しは、栽培水槽10の壁から栽培パネル20に向けて水や空気を噴射する噴射装置を用いて実現されてもよい。
【0043】
次に照明装置30について説明する。植物工場においては、天候不順による植物の育成のばらつきを抑制するために、蛍光管等を有する照明装置30を用いて植物が栽培されている。本実施形態の水耕栽培システム100では、照明装置30が栽培水槽10の上方に配置されており、回帰水路11上の栽培パネル20を照明している。また、照明装置30は、複数の照明ユニット31から構成されており、各照明ユニット31が栽培水槽10の長手方向に沿って複数、配置されている。各照明ユニット31は直管の蛍光管32(線状発光体)を複数本有しており、蛍光管32のそれぞれは支持枠34によって保持されている。また、各照明ユニット31は各蛍光管32を覆う笠33を備えており、笠33も蛍光管32と同様に支持枠34によって保持されている。
【0044】
図に示す照明ユニット31は、互いに平行になるよう配列された四本の蛍光管32を有している。図2に示すように、栽培水槽10の一方の端部10aの上方に位置する照明ユニット31では、四本の蛍光管32は等しい間隔で配列されておらず、復路16の上方により多くの蛍光管32が配列されている。本実施形態では、往路15に照射する光量より復路16に照射する光量が多くなるよう、復路16の上方に配置される蛍光管32間の間隔W2、W3が、往路15の上方に配置される蛍光管32間の間隔W1より狭く配列されている。すなわち、回帰水路11への投入直後の栽培パネル20dを照明する光量(第一光量)より、回帰水路11からの回収直前の栽培パネル20cを、その光量よりも多い光量(第二光量)で照明するよう、蛍光管32を配置している。往路15にある苗の段階の栽培物25aより、復路16にある成長した段階の栽培物25bの方がより多くの光量が成長に必要だからである。そのため復路16の上方に三本の蛍光管32が配列されるよう照明ユニット31が構成されている。
【0045】
一方、図示しないが栽培水槽10の他方の端部10bの付近に取付けられる照明ユニット31では、その下方にある往路15と復路16の栽培物の成長段階がほぼ同じであるため、四本の蛍光管32は往路15及び復路16に二本づつ等間隔で配列されている。
【0046】
なお、それぞれの照明ユニット31が有する蛍光管32の数は、栽培物の育成に必要な光量に合わせて三本又は五本であってもよい。また、本実施形態では線状発光体として直管の蛍光管を用いているが、発光ダイオード等の各種発光体を用いてもよい。
【0047】
照明ユニット31の笠33は、その横断面の形状において、各蛍光管32を覆う二次曲線を包含するよう曲面状の反射面33aを有している。蛍光管32は、笠33に含まれるそれぞれの二次曲線の焦点に位置されており、蛍光管32から照射される光を栽培物に向けて効率よく反射することができる。
【0048】
また、笠33の反射面33aは、蛍光物質を素材として形成されるか、蛍光物質が混入されることにより、蛍光機能を有しており、蛍光管32から発した光を特定の波長に変換して反射してもよい。この蛍光機能は、笠33の内面に蛍光塗料を塗布することにより実現してもよい。この蛍光機能により、蛍光管32の光のうち植物が利用しない500nmから600nmの波長の光(緑色や黄色)を、植物が有効に利用する600nm以上の波長の光(赤色)に反射することが可能になる。また、笠33は栽培物から反射された緑色の光や照明ユニット31の下方に設置された栽培パネル20からの光も、植物の生育に有効な波長の光に変換して反射することが可能である。そのため、照明ユニット31は、単に光を反射する従来の笠と比較して、極めて高効率に栽培物を生育することができる。反射面33aに混入される蛍光物質として、無機蛍光体、有機蛍光体、蛍光染料、蛍光顔料等の種々のものが挙げられる。また、蛍光物質は、種々の波長に変換するため2種類以上の蛍光物質を利用してもよい。
【0049】
また、栽培水槽10に付設されたセパレータ18の上方には、反射板19が軸線Aに沿って設けられている。反射板19は、セパレータ18の上方端部から垂直方向に、照明ユニット31の下方まで延びるよう立設されており、照明ユニット31から照射された光を反射する。そのため、復路16上に設けられた蛍光管32からの光が、より多く復路16にある栽培物25に照射されるようになる。また、反射板19の高さは、照明ユニット31の笠33の谷部33bより若干下になるよう形成されており、反射板19が復路16上にある蛍光管32からの光を完全に遮ることはない。このように、反射板19の高さを調整することで、栽培物25a、25bに照射される光量を調整することができる。なお、反射板19も、笠33の反射面33aと同様、蛍光物質を素材として形成されるか蛍光物質が混入されたものを使うか、蛍光塗料を塗布することにより、蛍光機能を有してよい。
【0050】
また、本実施形態の水耕栽培システム100は、照明ユニット31の上方に、栽培水槽10の長手方向に沿ってレール35が設けられている。レール35は植物工場の天井から吊り下げられるか、栽培水槽10の周辺に組み立てられた構造物(図示しない)によって支持される。レール35は、レール35に沿って移動可能なランナ36を備えており、各照明ユニット31はランナ36に取り外し可能に吊り下げて保持されている。具体的には、照明ユニットの支持枠34の上部中央にフック37が設けられており、ランナ36に形成された穴に引っ掛けることで、各照明ユニット31が取り外し可能に吊り下げて保持される。
【0051】
照明ユニット31は、レール35に沿って移動可能なランナ36に保持されているため、作業者は照明ユニット31を栽培水槽10の上方において軸線Aに沿って容易に移動すさせることができる。従来、このような照明ユニット31を設置するには、設置する場所まで照明ユニット31を運搬して栽培水槽10の側方から取付けており、そのため少なくとも栽培水槽10の側部に照明ユニット31が入るスペースを確保する必要があった。本実施形態の水耕栽培システム100のように、レール35に沿って照明ユニット31を移動させることができれば、栽培パネルを投入及び回収する作業場所40において照明ユニット31を取付けて、ランナ36に吊り下げた状態で所望の場所まで照明ユニット31を移動させることができる。そのため、栽培水槽10の側部に照明ユニット31が入るスペースを確保する必要がなくなり、植物工場においてより狭い間隔でもって栽培水槽10を配列することができ、作付面積を増加させることができる。
【0052】
また、照明ユニット31は、支持枠34にウェイト38が取付けられている。上述のように、より多くの光量を復路16上の栽培パネル20cに照射するよう、より多くの蛍光管32が復路16上に配列されているが、そのため吊り下げたときに照明ユニット31が復路16側に傾く場合がある。ウェイト38を用いて照明ユニット31のバランスをとることで、照明ユニット31の蛍光管32の並びが栽培水槽10の水面に対して平行になるよう調整することができる。
【0053】
次に、本実施形態の水耕栽培システム100を植物工場に配置した例について説明する。図4(a)は図6に示す植物工場601、602と同様の建物を有する植物工場1に水耕栽培システム100の栽培水槽10を配置した例を示している。本実施形態の水耕栽培システム100を用いれば、栽培パネル20を往復移動すなわち回帰させることにより、一つの作業場所40において栽培パネル20の投入と回収することができる。そのため、図4(a)に示すように作業者が作業すると共に台車が通る作業場所40を植物工場1の中央に配置して、その両側に栽培水槽10を互いに平行になるよう配列させることができる。作業場所40を中央に集中させることができるために、従来のように、栽培水槽10の両端に作業場所を設ける必要が無く、延いてはより多くの作付面積を確保することができる。また、作業場所40が中央に集中することから調整作業室42までの動線44が単純で短くなり、従来のように栽培水槽10が長くなるにつれて動線44が長くならないので、作業者の負担を減らすことができる。
【0054】
図4(b)は、栽培水槽10を配置した植物工場の別例である。図の植物工場2でも複数の栽培水槽10が互いに平行に配列されているが、栽培パネル20を投入又は回収する作業場所40は植物工場2の一方の端部のみに並ぶよう配置されている。本実施形態の栽培水槽10では栽培パネル20が往復するため、栽培パネル20の移動距離を確保しつつ栽培水槽10の長さを従来の栽培水槽の長さのほぼ半分にすることができる。そのため、建物の長さMが短くても植物の栽培が可能な栽培水槽10を設置することができ、比較的狭い土地でも植物工場を造ることができるようになる。
【0055】
次に、植物工場1で用いられる、レール35に沿って移動可能な照明ユニット31の利用方法の一例について説明する。図5は、図4(a)の植物工場1のように作業場所40を中心に設けその両側に第一水耕栽培システム101、第二水耕栽培システム102を配置した場合の側面図である。植物工場では照明を用いて栽培物を育成しているが、通常、常時照明を点灯していることはなく、自然栽培と同様に夜間の時間帯を設定し、その時間帯では照明を消灯している。一般的には夜間電力が安価であることから、夜間に照明を点灯し、昼間は消灯していることが多い。しかしながら、消灯している間は当然のことながら照明装置30を利用していないのでその稼働率は低くなる。
【0056】
そこで、図に示すように、第一水耕栽培システム101と第二水耕栽培システム102との間を渡るようレール35を延ばし、照明ユニット31が互いに交替で移動できるように構成する。そして、第一水耕栽培システム101、第二水耕栽培システム102のどちらか一方で夜間電力を利用して栽培し、他方では昼間電力を利用して栽培するよう運用する。それぞれの水耕栽培システムが照明を必要とする時間帯に照明ユニット31をレール35に沿って移動させることで、照明装置30の稼働率を高めることができる。例えば、第一水耕栽培システム101で夜間電力を使用する場合、図の実線で示すように、夜間の所定の時間内において照明ユニット31を第一水耕栽培システム101の栽培水槽10上に配置させる。そして所定の時刻となった時に、照明ユニット31を第一水耕栽培システム101から第二水耕栽培システム102に向けて(図5のG方向)移動させ、第二水耕栽培システム102側の点線で示された位置に配置する。第二水耕栽培システム102では、移動した照明ユニット31を用いて昼間電力により植物を栽培する。そして、夜間の所定時刻となった時に、照明ユニット31を第二水耕栽培システム102から第一水耕栽培システム101に向けて(図5のF方向)へ移動させて、再び夜間電力により植物を栽培する。このように、照明ユニット31をレールに沿って往復移動させることで、照明装置30を常時利用することができ照明装置30の稼働率を向上させることができる。
【0057】
なお、上述した図5に示す植物工場1では、照明ユニット31の被照射物は本実施形態の栽培水槽10であるが、被照射物はそれに限定されず、従来の栽培水槽であってもよい。また、土耕栽培による植物工場において、植物が栽培される畝に沿ってレールを設置し、照明ユニット31が畝上を移動するようにしてもよい。
【0058】
また、植物工場で栽培する植物を、夜間電力を使用するグループと昼夜電力を使用するグループとの二つに分けて、昼夜で交替するよう照明ユニット31を移動させていたが、植物を三つ以上のグループに分けてグループ毎に所定時間、照射するよう移動させてもよい。各グループを照射する時間や時間帯は、植物の成長状況によって変更してよく、例えば第一グループには5:00〜15:00までの10時間、第二グループには15:00〜21:00までの6時間、第三グループには21:00から翌日の5:00までの8時間、照明装置30が照射するようにしてもよい。このように、植物工場内の植物を複数のグループに分割して複数の時間帯毎に照明ユニットを移動させることで、消灯させることなく照明装置を使用することができるので照明装置の稼働率を高めることができる。また、図5の植物工場1では、照明ユニット31の移動を手動で行っているが、照明ユニット31の移動を電動モータや油圧式シリンダ等を用いて自動的に行ってもよい。
【0059】
以上、本発明の実施形態について図を用いて説明した。従来の栽培水槽では側部全体又は両端に作業場所が必要であったが、本発明の水耕栽培システムを用いれば、栽培水槽内において栽培パネルを往復移動により回帰させるので、一つの作業場所において栽培パネルの投入及び回収をすることができる。作業場所を一箇所にまとめることで作業場所の面積を削減することができ、より多くの作付面積を確保、すなわちより多くの水槽を設置することができる。また、栽培パネルを往復させることで栽培パネルの移動距離を確保しつつ、栽培水槽の長さを短くできるため、栽培水槽を設置するのに長さが不足していた狭い土地であっても植物工場を造ることが可能になった。
【符号の説明】
【0060】
1、2 植物工場
10 栽培水槽
11 回帰水路
12 セパレータ
13 投入口
14 回収口
15 往路
16 復路
18 セパレータ
19 反射板
20 栽培パネル
22 支持部材
24 浮き部材
25 栽培物
26 転回装置
27 第一押出装置
28 第二押出装置
30 照明装置
31 照明ユニット
32 蛍光管
34 支持枠
35 レール
36 ランナ
37 フック
40 作業場所
42 調整作業室
44 動線
100 水耕栽培システム
101 第一水耕栽培システム
102 第二水耕栽培システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培パネルを浮遊移動させる回帰水路であって、一つの作業場所で栽培パネルを投入及び回収できる回帰水路を有する槽と、
前記槽に付設され、前記回帰水路を浮遊移動する栽培パネルを照明する照明装置と、
を具備する水耕栽培システム。
【請求項2】
前記回帰水路は、栽培パネルを前記作業場所から離れる第一方向へ浮遊移動させる往路と、該往路に後続し、栽培パネルを前記作業場所に接近する第二方向へ浮遊移動させる復路とを備え、該往路の始端と該復路の終端とが互いに隣接して配置される、請求項1に記載の水耕栽培システム。
【請求項3】
前記槽の前記往路と前記復路との接続箇所に設けられ、栽培パネルを前記第一方向から前記第二方向へ転回させる転回装置をさらに具備する、請求項2に記載の水耕栽培システム。
【請求項4】
前記回帰水路の前記第一方向又は前記第二方向に沿って延びるレールと、
前記レールに沿って移動可能なランナと、を具備し、
前記照明装置は前記ランナに取り外し可能に吊り下げて保持される、請求項2又は3の何れか一項に記載の水耕栽培システム。
【請求項5】
前記照明装置は、前記回帰水路への投入直後の栽培パネルを第一光量で照明すると共に、前記回帰水路からの回収直前の栽培パネルを、該第一光量よりも多い第二光量で照明する、請求項1から4の何れか一項に記載の水耕栽培システム。
【請求項6】
前記回帰水路を浮遊移動する栽培パネルをさらに具備し、該栽培パネルは、植物を支持する支持部材と、該支持部材に取付けられ、該支持部材を前記回帰水路に浮遊させる浮き部材とを備える、請求項1から5の何れか一項に記載の水耕栽培システム。
【請求項7】
前記往路及び前記復路は前記槽内において互いに平行に配置されており、
前記槽に付設され、前記往路と前記復路とを仕切るセパレータをさらに具備する、請求項1から5の何れか一項に記載の水耕栽培システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−182998(P2012−182998A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46630(P2011−46630)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(501486741)株式会社森久エンジニアリング (4)
【Fターム(参考)】