説明

水耕栽培法

【課題】定植用浮遊体の回収作業と供給作業を効率的に行うこと。
【解決手段】前記定植・育成工程は、厚さ方向に貫通する定植用孔を多数有する定植用浮遊体に、各定植用孔を介して育苗工程で生育した育苗株を移植する第1工程と、定植・育成用移動路内に収容した養液の液面に、育苗株が移植された定植用浮遊体を浮遊させる第2工程と、定植・育成用移動路の始端から定植用浮遊体を順次後続状態に供給して、定植・育成用移動路の終端に向かって玉突き移動する第3工程と、定植・育成用移動路の始端から終端まで玉突き移動する定植用浮遊体の移動時間を、育苗株の成育時間とする第4工程と、定植・育成用移動路の始端において新規の定植用浮遊体を供給することにより、順列した既存の定植用浮遊体が定植・育成用移動路の終端に移動する間に成育した成育作物を有する定植用浮遊体を終端において順次回収する第5工程と、より構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜、主としてサラダ菜等の葉菜の育苗株を、定植用浮遊体を介して定植・育成用移動路内に定植して、定植用浮遊体を移動させながら育苗株を育成する水耕栽培法(液耕栽培法)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作物の生育に必要とされる肥料分や溶存酸素を含む養液で植物の栽培を行う水耕栽培法(液耕栽培法)がある。そして、その一形態としては特許文献1に開示されたものがある。すなわち、かかる水耕栽培法は、定植水槽内に収容した養液の液面に浮かべる板状の定植用浮遊体に、その厚さ方向に貫通する定植用孔を多数形成して、各定植用孔にある程度育成した育苗株を収容・配置するようにしている。そして、定植用浮遊体は、養液の液面を覆い尽くす位に多数敷設して、同状態にて収穫時期まで作物を定植水槽内で成育する。収穫時期には定植水槽内から全ての定植用浮遊体を回収して、定植用浮遊体から作物を収穫するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−248416
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記した水耕栽培法では、収穫時期において一度に定植水槽内から全ての定植用浮遊体を回収しなければならないと共に、定植水槽内で露出している養液の液面には再度多数の定植用浮遊体を敷設しなければならないために、かかる定植用浮遊体の回収作業と敷設作業に手間(人手)を要している。特に、収穫効率を高めるために多数の定植用浮遊体を敷設している場合や定植水槽を多数設けている場合には、定植用浮遊体の回収作業と敷設作業が非効率な作業となっている。
また、上記した水耕栽培法では、収穫時期(例えば、曜日)に応じて収穫量を多目ないしは少な目に調整して、作物の需要に供給を適応させることが煩雑である。
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、定植用浮遊体の回収作業と敷設作業を効率的に行うことができると共に、需給バランスに適応した多品種で高品質の野菜を計画的に栽培・収穫して、安定的に供給することができる水耕栽培法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段として、本発明に係る水耕栽培法は、次のように構成したことを特徴とする。
【0006】
請求項1記載の発明に係る水耕栽培法は、定植された育苗株を水耕栽培により育成する定植・育成工程における水耕栽培法であって、前記定植・育成工程は、厚さ方向に貫通する定植用孔を多数有する定植用浮遊体に、各定植用孔を介して育苗工程で生育した育苗株を移植する第1工程と、定植・育成用移動路内に収容した養液の液面に、育苗株が移植された定植用浮遊体を浮遊させる第2工程と、定植・育成用移動路の始端から定植用浮遊体を順次後続状態に供給して、定植・育成用移動路の終端に向かって玉突き移動する第3工程と、定植・育成用移動路の始端から終端まで玉突き移動する定植用浮遊体の移動時間を、育苗株の成育時間とする第4工程と、定植・育成用移動路の始端において新規の定植用浮遊体を供給することにより、順列した既存の定植用浮遊体が定植・育成用移動路の終端に移動する間に成育した成育作物を有する定植用浮遊体を終端において順次回収する第5工程と、より構成することにより、定植・育成用移動路の始端における新規の定植用浮遊体の供給時期を、始端から終端に至る間に成育した成育作物のある定植用浮遊体の終端における回収時期に合わせたことを特徴とする。ここで、定植とは第1工程から第2工程に至る行為であり、育成とは定植した育苗株が育成作物に至るまで生育することであり、育成作物とは収穫可能な状態にまで生長した作物をいう。玉突き移動とは玉突き状態に後方から間欠的に押し出される移動をいう。
【0007】
かかる水耕栽培法では、定植・育成用移動路の始端における新規の定植用浮遊体の供給時期を、始端から終端に至る間に成育した成育作物のある定植用浮遊体の終端における回収時期に合わせているため、従来技術が有していた不具合を解消することができる。すなわち、収穫時期において一度に定植水槽内から全ての定植用浮遊体を回収する必要性と、定植水槽内で露出している養液の液面に再度多数の定植用浮遊体を敷設する必要性を不要とすることができる。しかも、定植用浮遊体の回収時期に新規の定植用浮遊体の供給時期を合わせることで、定植・育成用移動路内において育苗株を経時的にかつ段階的に成育作物まで成育させて、定植用浮遊体の回収作業と供給作業を連続的にかつ効率的に行うことができる。また、定植・育成用移動路を複数配設して、成育期間の異なる野菜の育苗株をその種類毎に各定植・育成用移動路に定植することで育成することもできる。すなわち、定植・育成用移動路の始端から定植用浮遊体を順次供給(補給)する時期であるペースとタイミングを、野菜の成育期間に合わせて調整することで、成育期間の異なる野菜を種類に応じて並列的に水耕栽培することができる。その結果、種類の異なる野菜を需要に合わせて計画的に収穫することができる。
【0008】
請求項2記載の発明に係る水耕栽培法は、前記請求項1記載の発明に係る水耕栽培法であって、前記定植・育成用移動路内に最大限配置可能な前記定植用浮遊体の個数内において、定植・育成用移動路の始端から新規に定植する定植用浮遊体の所要個数は、定植・育成用移動路の終端から回収する定植用浮遊体の所要個数と同一にすることを特徴とする。
【0009】
かかる水耕栽培法では、定植・育成用移動路の終端から回収する定植用浮遊体の所要個数と、定植・育成用移動路の始端から新規に定植する定植用浮遊体の所要個数を同一にすることができる。そのため、作物の需要に供給を適応させるべく、収穫時期(例えば、曜日)に応じて収穫量を多目ないしは少な目に調整することができる。その結果、栽培管理をきめ細かに行うことができる。
【0010】
請求項3記載の発明に係る水耕栽培法は、前記請求項1記載の発明に係る水耕栽培法であって、前記定植・育成用移動路内に最大限配置可能な前記定植用浮遊体の個数内において、定植・育成用移動路の始端から新規に定植する定植用浮遊体の所要個数は、栽培する作物の種類に応じて異なる育苗株の成育時間に応じて調整することを特徴とする。
【0011】
かかる水耕栽培法では、栽培する作物の種類によって異なる育苗株の成育時間に応じて、定植・育成用移動路の始端から新規に定植する定植用浮遊体の所要個数を調整することができる。その結果、栽培する作物の種類に応じて育苗株の成育時間(成育期間)が異なるにも拘わらず、同じ定植・育成用移動路において定植用浮遊体を介して複数種類の育苗株を定植・育成することができる。そして、定植用浮遊体を介して異なる種類の育成作物を計画的に回収することができる。その結果、収穫を毎日の日課として、きめ細かい栽培管理を簡易にかつ堅実に行うことができて、野菜市場の需要に適合させた野菜の計画的出荷量を確保することができる。
【0012】
請求項4記載の発明に係る水耕栽培法は、前記請求項1記載の発明に係る水耕栽培法であって、養液を収容した定植・育成用移動路は、上面開口の長手状の水槽で構成したことを特徴とする。
【0013】
かかる水耕栽培法では、定植・育成用移動路を構造簡易に構成して、所要個数の定植用浮遊体を堅実に移動させながら作物を育成して、計画的に収穫することができる。
【0014】
請求項5記載の発明に係る水耕栽培法は、前記請求項4記載の発明に係る水耕栽培法であって、養液を収容した定植・育成用移動路は、複数個を横方向に並列すると共に、縦方向に一定間隔を保持して重合状態に配設したことを特徴とする。
【0015】
かかる水耕栽培法では、定植・育成用移動路を横方向と縦方向に平面的にかつ立体的に多数配設して空間を有効利用しているため、多種類の作物である野菜を水耕栽培することができると共に、野菜の種類毎に計画的に大量の収穫量を確保することができる。
【0016】
請求項6記載の発明に係る水耕栽培法は、前記請求項5記載の発明に係る水耕栽培法であって、複数個を横方向に並列した各定植・育成用移動路の始端側と後端側には、各始端に共通して面する供給通路と、各終端に共通して面する回収通路を形成したことを特徴とする。
【0017】
かかる水耕栽培法では、横方向に並列した複数個の定植・育成用移動路の各始端に、共通して面する供給通路を通して定植用浮遊体を供給することができると共に、各基端から共通して面する回収通路を通して定植用浮遊体を回収することができる。そのため、各定植・育成用移動路と供給通路と回収通路の集約化を図ることができて、各路を通して定植用浮遊体を効率良く移動させることができる。その結果、作業能率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、次のような効果を奏する。すなわち、定植用浮遊体の回収作業と供給作業を効率的に行うことができる。そのため、定植・育成工程における重労働作業を軽労働作業化することができて、肉体労働に婦女子や高齢者の労働力を活用することができる。しかも、年間を通じて連続的にかつ計画的に高品質野菜を効率良く収穫することができる。そのため、需給バランスに適応した多品種で高品質の野菜を計画的に栽培・収穫して、安定的に供給することができる。また、定植水槽内に経時的に生育段階の異なる育苗株の様子を観察することができる。そのため、異常事態が発生した際の対応措置を迅速に採ることができて、栽培管理をきめ細かに行うことができる。そして、定植・育成工程に先行する工程と後続する工程における作業も計画的に効率良く行うことができる。そのため、栽培作業全体の作業効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る水耕栽培法により水耕栽培を行うビニールハウスの側面説明図。
【図2】本発明に係る水耕栽培法により水耕栽培を行うビニールハウスの断面平面説明図。
【図3】定植・育成用移動路の説明図であり、(a)は平面説明図、(b)は側面説明図。
【図4】栽培工程説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1及び図2に示す1は、野菜(主としてサラダ菜等の葉菜)を水耕栽培する水耕栽培施設としてのビニールハウス(フィルムハウス)である。ビニールハウス1内には地上施設部2と地下施設部3を設けている。
【0022】
[ビニールハウス1内の説明]
地上施設部2には、図2に示すように、養液室10と発芽室11と育苗室12と定植・育成室13と空調機室(機械室)14と収穫室15と梱包室16と保冷室17と倉庫18と搬出室19を設けている。
【0023】
養液室10は、作物の生育に必要とされる肥料分や溶存酸素を含む養液Y(図1参照)を、導電率値の高・低で肥料分の過剰による濃度障害や不足を判断することができるEC(導電率)測定器や、pH測定器などを使用して養液Yを適切に管理する部屋である。養液室10の直下方に位置する地下に後述する地下施設部3を配設している。発芽室11は後述する栽培工程Kの内の播種工程K1と発芽工程K2における各作業を行う部屋である。育苗室12は、後述する栽培工程Kの内の育苗工程K3における作業を行う部屋である。定植・育成室13は、後述する栽培工程Kの内の定植・育成工程K4における作業を行う部屋である。空調機室(機械室)14は、ビニールハウス1内の空調を自動制御するための空調機(不図示)を配設した部屋である。収穫室15は、後述する栽培工程Kの内の収穫工程K5における作業を行う部屋である。梱包室16は、後述する栽培工程Kの内の梱包工程K6における作業を行う部屋である。保冷室17は、梱包室16で梱包された収穫作物を所定温度で保冷して一時的に保存する部屋である。倉庫18は保冷室17に保存されていた梱包作物を保管する部屋である。搬出室19は搬出用車両20に積載して搬出する梱包作物を収容する部屋である。
【0024】
ここで、上記した各部屋のレイアウトは、図2に示すように、大部屋となる定植・育成室13を中心にして、その定植・育成室13の左・右側壁21,22と手前側側壁23とに沿わせて他の各部屋を配置している。
【0025】
すなわち、定植・育成室13の左側壁21に沿わせて、手前から奥に向かって、養液室10と発芽室11と育苗室12を直列接続状態に配置している。これら三室10,11,12の右側壁と定植・育成室13の左側壁21との間には、手前から奥に直状に伸延する左側連通路24を形成している。そして、定植・育成室13の右側壁22に沿わせて空調機室(機械室)14を配置している。空調機室(機械室)14の左側壁と定植・育成室13の右側壁22との間には、手前から奥に直状に伸延する右側連通路25を形成している。また、定植・育成室13の手前側側壁23に沿わせて、右側から左側に向けて、収穫室15と梱包室16と保冷室17と倉庫18と搬出室19を直列接続状態に配置している。
【0026】
このようにして、図2に示す平面説明図において、時計廻りに、発芽室11→育苗室12→左側連通路24→定植・育成室13→右側連通路25→収穫室15→梱包室16→保冷室17→倉庫18→搬出室19→搬出用車両20に、栽培工程に沿って種子から搬出作物まで各工程段階の作物を効率良く移動させることができるようにしている。
【0027】
次に、地下施設部3について説明する。図2に示すように、地下施設部3には第1〜第4養液処理タンク31〜34を左右方向に一定の間隔を開けて配設している。
【0028】
第1養液処理タンク31は、養液Yの濃度を自動的に調整するための処理タンクである。
【0029】
第2養液処理タンク32は、フィルター35で濾過処理した養液Yを収容するための処理タンクである。第1養液処理タンク31と第2養液処理タンク32との間には濾過処理流路36を介設している。そして、濾過処理流路36の中途部にフィルター35を設けて、フィルター35を通して養液Yを濾過処理するようにしている。
【0030】
第3養液処理タンク33は、オゾン殺菌装置37で殺菌処理した養液Yを収容するための処理タンクである。第2養液処理タンク32と第3養液処理タンク33との間には殺菌処理流路38を介設している。そして、殺菌処理流路38の中途部にオゾン殺菌装置37を設けて、オゾン殺菌装置37を通して養液Yを殺菌処理するようにしている。
【0031】
第4養液処理タンク34は、オゾン除去装置39で殺菌処理後のオゾンを除去処理して無菌状態となした養液Yを収容するための処理タンクである。第3養液処理タンク33と第4養液処理タンク34との間にはオゾン除去処理流路40を介設している。そして、オゾン除去処理流路40の中途部に活生炭によりオゾンを除去するオゾン除去装置39を設けて、オゾン除去装置39を通して養液Yからオゾンを除去処理するようにしている。
【0032】
第4養液処理タンク34と、地上施設部2の定植・育成室13に配設した定植・育成用移動路52の一端との間には、養液送り流路42を介設している。一方、定植・育成用移動路52の他端と第1養液処理タンク31との間には養液戻り流路43を介設している。図2中、Pはポンプ、45は養液搬送方向である。
【0033】
このようにして、養液Yは、第1養液処理タンク31→濾過処理流路36→第2養液処理タンク32→殺菌処理流路38→第3養液処理タンク33→オゾン除去処理流路40→第4養液処理タンク34→養液送り流路42→定植・育成用移動路52→養液戻り流路43→第1養液処理タンク31に強制循環させる強制循環流路44を形成している。そして、強制循環流路44を通して濃度調整やオゾン殺菌等の再処理を施した無菌の養液Yを定植・育成用移動路52に供給することができるようにしている。ここで、強制循環流路44における再処理動作や養液供給動作は、前記した養液室10でコンピュータ制御して管理するようにしている。
【0034】
[栽培工程Kの説明]
次に、栽培工程Kについて説明する。栽培工程Kは、図4に示すように、培地に播種する播種工程K1と、播種工程K1で播種された種子を発芽させる発芽工程K2と、発芽工程K2で発芽した苗株を育苗する育苗工程K3と、育苗工程K3にて生育した育苗株を定植して育成する定植・育成工程K4と、定植・育成工程K4で成育した作物を収穫する収穫工程K5と、収穫工程K5で収穫した成育作物を梱包する梱包工程K6とからなる。
【0035】
播種工程K1は、培地50(図3参照)に葉菜等の野菜の種子を播種する工程である。培地50としては、立方体(例えば、一辺が22〜23mm)に形成したロックウールを使用することができる。かかる培地50を育苗箱(不図示)に多数個(例えば、300個)を整然と配置して、各培地50に一個の種子を播種器により播種する。この際、種子としては、タルク等を被覆して粒径を均一化することで、播種器で播種し易く成形したコーティング種子(例えば、直径3〜5mm)を使用する。
【0036】
発芽工程K2は、温度や湿度や照度等の環境が管理された発芽室11において、播種工程K1で培地50に播種された種子を発芽させる工程である。1〜2日で発芽して、それから約2週間で双葉に生長するのを確認することができる。
【0037】
育苗工程K3は、育苗室12において、発芽した苗株を生育に合わせて、例えば、104〜300株の育苗パット(不図示)に移植して、育苗パットを育苗水槽内に配置して約2週間育苗する工程である。
【0038】
定植・育成工程K4は、定植・育成室13において、図3に示すように、生育した育苗株N(例えば、15〜30株)を定植用浮遊体51に移植して、その定植用浮遊体51を定植・育成用移動路52内に収容した養液Yの液面に浮遊させて(定植して)、定植用浮遊体51を介して定植した育苗株Nを定植・育成用移動路52内において約2週間で育成させて収穫可能な作物(育成作物)Mとなす工程である。
【0039】
定植用浮遊体51は、図3に示すように、四角形板状(本実施形態では正方形板状)に形成した浮遊体本片53に、厚さ方向に貫通する定植用孔54を整然と多数個(例えば、15〜30個)形成している。定植用孔54は逆円錐台状に形成して、内周面をテーパー面となしている。定植用孔54に育苗株Nを移植する際には、育苗株Nの培地50の周囲に断面四角形で棒状に形成したスポンジ片55を培地保持用のスペーサとして巻回して、同状態にて定植用孔54に上方から嵌入させる。かかる嵌入状態では、育苗株Nの培地50が、内周面をテーパー面となした定植用孔54の中途部に保持されて、育苗株Nの根元側が空気中に保持されると共に、根先側が養液Yに浸かるようにしている。浮遊体本片53の裏面側には、浮遊体本片53を補強するためのリブ片56を格子状に形成している。なお、定植用浮遊体51は養液Yの液面に浮遊する素材、例えば、発泡スチロールで一体成形することができる。
【0040】
定植・育成用移動路52は、図3に示すように、上面が開口して左右方向に伸延(長手状)する箱型の水槽57に養液Yを収容して、養液Yが一定深さとなるように構成している。このように、定植・育成用移動路52を構造簡易に構成して、所要個数の定植用浮遊体51を堅実に移動させながら作物を育成して、計画的に収穫することができる。
【0041】
本実施形態では水槽57の左側端58を定植用浮遊体51の供給側である定植・育成用移動路52の始端となす一方、水槽57の右側端59を定植用浮遊体51の回収側である定植・育成用移動路52の終端となしている。つまり、定植・育成用移動路52では、図3において、所要個数の定植用浮遊体51を供給側である水槽57の左側端58から回収側である水槽57の右側端59に至るまで移動させながら、定植用浮遊体51を介して水槽57内の養液Yの液面に定植された育苗株Nを一定期間(例えば、2週間)内に育成させるようにしている。また、図1に示すように、水槽57の左側端58に前記養液戻り流路43の基端を接続する一方、水槽57の右側端59に前記養液送り流路42の始端を接続して、水槽57内に水槽57の右側端59から左側端58に向けて養液Yが流動する定植・育成用移動路52を形成している。
【0042】
収穫工程K5は、定植・育成室13において育成された作物を、定植用浮遊体51ごと定植・育成用移動路52から回収して、昇降作業台を装備した無人搬送車60(図1及び図2参照)に定植用浮遊体51を積み込んで、無人搬送車60により収穫室15まで搬送し、収穫室15において、定植用浮遊体51上で成育した作物Mは、その根を生え際から切断することで、定植用浮遊体51から作物Mを分離させて収穫する。切断された根は培地50を付けたまま廃棄処分する。
【0043】
梱包工程K6は、収穫工程K5において収穫された作物Mを、1株ずつ梱包フィルムで包装し、包装した作物Mを所定の箱に所要個数だけ梱包する工程である。
【0044】
上記のように構成した栽培工程Kにおいて、本発明の要旨は定植・育成工程K4にある。以下に、定植・育成工程K4を図3及び図4を参照しながら詳細に説明する。
【0045】
(定植・育成工程K4)
定植・育成工程K4は、図4に示すように、第1工程61〜第5工程65で構成している。
【0046】
第1工程61は、定植用浮遊体51に各定植用孔54を介して育苗工程K3で生育した育苗株Nを移植する工程である。
【0047】
第2工程62は、定植・育成用移動路52内に収容した養液Yの液面に、育苗株Nが移植された所要個数の定植用浮遊体51を一つのグループ(以下、「定植用浮遊体51の一グループ」とも言う)として、人力又は機械力により浮遊させる工程である。ここで、一つのグループとされる定植用浮遊体51の所要個数は、図3に示す水槽57の幅W1の倍数とする。そして、水槽57の幅W1は定植用浮遊体51の幅W2の倍数幅と略同一とする。本実施形態では水槽57の幅W1は、定植用浮遊体51の幅W2の2個分と略略同一に形成して、2個(2列)の定植用浮遊体51で水槽57の幅方向が満たされるようにしている。この場合、定植用浮遊体51の所要個数は2の倍数に設定することができる。
【0048】
第3工程63は、定植・育成用移動路52の始端から定植用浮遊体51の一グループを所定の時間おきに順次後続(連続)状態に供給して、定植・育成用移動路52の終端に向かって玉突き移動する工程である。ここで、定植用浮遊体51の一グループは、定植・育成用移動路52の始端から所定の時間おきに供給する。図1〜図3に示す41は玉突き移動方向である。
【0049】
第4工程64は、定植・育成用移動路52の始端から終端まで玉突き移動する定植用浮遊体51の先頭グループの移動時間を、育苗株Nの成育時間とする工程である。すなわち、定植用浮遊体51の先頭グループが後続のグループに玉突き移動されながら定植・育成用移動路52の始端から終端まで玉突き移動される時間は、育苗株Nの成育時間(例えば、14日間)に設定している。そして、先頭のグループが定植・育成用移動路52の終端に到達した状態では、末尾のグループが定植・育成用移動路52の始端側に配置された状態で、定植・育成用移動路52内は定植用浮遊体51で満たされた状態となるように、定植用浮遊体51の左右幅W3と定植用浮遊体51の1列分の個数との積と、水槽57の左右伸延幅(定植・育成用移動路52の路長)Lとを適合させている。
【0050】
第5工程65は、定植・育成用移動路52の始端において新規の定植用浮遊体51の一グループを供給することにより、順列した既存の定植用浮遊体51が定植・育成用移動路52の終端に移動する間に成育した成育作物Mを有する定植用浮遊体51の一グループを終端において順次回収する工程である。
【0051】
すなわち、定植・育成用移動路52の始端において新規の定植用浮遊体51の一グループが供給されることで、定植用浮遊体51の先頭グループが定植・育成用移動路52の終端に至る。そして、定植・育成用移動路52の始端において所要の時間経過後に新規の定植用浮遊体51の一グループが供給されるまでの時間を、先頭グループの移動時間、つまり育苗株Nの成育時間としている。
【0052】
従って、成育時間経過後は先頭グループを人力又は機械力により定植・育成用移動路52の終端から回収すると共に、定植・育成用移動路52の始端から新規グループを人力又は機械力により供給することで、2番手のグループを玉突き移動させて先頭グループとなすことができる。以下、先頭グループの回収と新規グループの供給を繰り返す。この際、先頭グループの回収量と新規グループの供給量は整合させて、玉突き移動の堅実性を確保する。
【0053】
このように、第1工程61〜第5工程65により、定植・育成用移動路52の始端における新規の定植用浮遊体51の一グループの供給時期を、始端から終端に至る間に成育した成育作物Mのある定植用浮遊体51の一グループの終端における回収時期に合わせている。
【0054】
そして、定植・育成用移動路52内に最大限配置可能な定植用浮遊体51の個数内において、定植・育成用移動路52の始端から新規に定植する定植用浮遊体51の所要個数は、定植・育成用移動路52の終端から回収する定植用浮遊体51の所要個数と同一にしている。
【0055】
また、定植・育成用移動路52内に最大限配置可能な定植用浮遊体51の個数内において、定植・育成用移動路52の始端から新規に定植する定植用浮遊体51の所要個数は、栽培する作物の種類に応じて異なる育苗株Nの成育時間に応じて調整する。
【0056】
より具体的に説明すると、本実施形態では、図3に示すように、水槽57は、左右伸延幅Lを1列で定植用浮遊体51を56個分浮遊可能な幅に設定し、幅W1を定植用浮遊体51の2個分浮遊可能な幅に設定している。そして、成育時間が14日の育苗株Nを定植用浮遊体51に移植して、その4個の定植用浮遊体51を一つのグループとして、定植・育成用移動路52の始端から毎日一グループずつ供給する。その結果、先頭グループは玉突き移動されて14日目に定植・育成用移動路52の終端に至る。続いて、15日目に成育時間が経過した先頭グループを回収すると共に、新規グループを定植・育成用移動路52の始端から供給することで、2番手グループを先頭グループに突き上げる。そして、1日経過する毎に先頭グループを回収すると共に、新規グループを供給する作業を繰り返す。
【0057】
また、新規の定植用浮遊体51の一グループの供給時期と成育作物Mのある定植用浮遊体51の一グループの終端における回収時期を合わせるという条件を満たせば、定植・育成用移動路52内に最大限配置可能な定植用浮遊体51の個数内において、定植・育成用移動路52の始端から新規に定植する定植用浮遊体51の所要個数は、定植・育成用移動路52の終端から回収する定植用浮遊体51の所要個数と同一にすることができる。そのため、作物の需要に供給を適応させるべく、収穫時期(例えば、曜日)に応じて収穫量を多目ないしは少な目に調整することができる。
【0058】
すなわち、需要の多い曜日は一つのグループの定植用浮遊体51の数を多目に回収し、需要の少ない曜日は一つのグループの定植用浮遊体51の数を少な目に回収して、定植用浮遊体51の一週間単位ないしは一ヶ月単位の合計回収数が同一となるように調整することができる。その結果、需要に適応した栽培管理をきめ細かに行うことができる。
【0059】
また、前記したように定植・育成用移動路52の始端での供給時期と終端での回収時期を合わせるという条件を満たせば、定植・育成用移動路52内に最大限配置可能な定植用浮遊体51の個数内において、定植・育成用移動路52の始端から新規に定植する定植用浮遊体51の所要個数は、栽培する作物の種類に応じて異なる育苗株Nの成育時間に応じて調整することができる。
【0060】
そのため、栽培する作物の種類に応じて育苗株Nの成育時間(成育期間)が異なるにも拘わらず、同じ1個の定植・育成用移動路52において定植用浮遊体51を介して複数種類の育苗株Nを定植・育成することができる。そして、定植用浮遊体51を介して異なる種類の育成作物を計画的に回収することができる。その結果、収穫を毎日の日課として、きめ細かい栽培管理を簡易にかつ堅実に行うことができて、野菜市場の需要に適合させた野菜の計画的出荷量を確保することができる。
【0061】
本実施形態は上記のように構成しているものであり、定植・育成工程K4では、定植・育成用移動路52の始端における新規の定植用浮遊体51の供給時期を、始端から終端に至る間に成育した成育作物Mのある定植用浮遊体51の終端における回収時期に合わせているため、従来技術が要していた不具合、すなわち、収穫時期において一度に定植水槽内から全ての定植用浮遊体51を回収する必要性と、定植水槽内で露出している養液Yの液面に再度多数の定植用浮遊体を敷設する必要性を不要とすることができる。しかも、定植用浮遊体51の回収時期に新規の定植用浮遊体51の供給時期を合わせることで、定植・育成用移動路52内において育苗株Nを経時的かつ段階的に成育作物Mまで成育させて、連続的に定植用浮遊体51の回収作業と供給作業を効率的に行うことができる。
【0062】
そして、定植・育成用移動路52の終端から回収する定植用浮遊体51の所要個数と、定植・育成用移動路52の始端から新規に定植する定植用浮遊体51の所要個数を同一にすることができる。そのため、作物の需要に供給を適応させるべく、収穫時期(例えば、曜日)に応じて収穫量を多目ないしは少な目に調整することができる。その結果、栽培管理をきめ細かに行うことができる。
【0063】
また、栽培する作物の種類によって異なる育苗株Nの成育時間に応じて、定植・育成用移動路52の始端から新規に定植する定植用浮遊体51の所要個数を調整することができる。その結果、栽培する作物の種類に応じて育苗株Nの成育時間(成育期間)が異なるにも拘わらず、同じ定植・育成用移動路52において定植用浮遊体51の回収作業と供給作業を効率的に行うことができる。しかも、収穫を毎日の日課として、きめ細かい栽培管理を簡易にかつ堅実に行うことができて、野菜市場の需要に適合させた野菜の計画的出荷量を確保することができる。
【0064】
また、本実施形態では、図2に示すように、定植・育成室13を手前から奥に並列する3つ部屋に区画して、各部屋に定植・育成用移動路52を左右方向に伸延させて配設している。定植・育成用移動路52は、複数個である4個を手前から奥に横方向に並列させて配設すると共に、縦方向に4段重ねに一定間隔を保持して重合状態に配設している。
【0065】
具体的には水槽支持枠70に水槽57を縦方向に4段に配設し、かかる4段の水槽57を支持する水槽支持枠70を各部屋に手前から奥に4個ずつ間隔を開けて配設している。その結果、定植・育成用移動路52は定植・育成室13に合計48個配設されている。
【0066】
このように、定植・育成用移動路52を横方向と縦方向に平面的にかつ立体的に多数配設して空間を有効利用しているため、多種類の作物である野菜を水耕栽培することができると共に、野菜の種類毎に計画的に大量の収穫量を確保することができる。
【0067】
しかも、4個を横方向に並列した各定植・育成用移動路52の始端側には、手前側から奥の方向に直状に伸延して各始端に共通して面する供給通路71を直交状態に形成している。また、4個を横方向に並列した各定植・育成用移動路52の後端側には、手前側から奥の方向に直状に伸延して各終端に共通して面する回収通路72を直交状態に形成している。
【0068】
このように、横方向に並列した複数個の定植・育成用移動路52の各始端に、共通して面する供給通路71を通して定植用浮遊体51を供給することができると共に、各基端から共通して面する回収通路72を通して定植用浮遊体51を回収することができる。その結果、各定植・育成用移動路52と供給通路71と回収通路72の集約化を図ることができて、各路71,52,72を通して定植用浮遊体51を効率良く移動させることができる。その結果、作業能率を向上させることができる。
【0069】
ビニールハウス1内は23〜25℃の恒温となるように温度制御している。そして、ビニールハウス1の内気圧は外気圧よりも少し高めに設定している。また、ビニールハウス1の出入り口にはエアシャワーを噴出させている。このようにして、ビニールハウス1内の空気は常時内部から外部に流出されるようにして、外部から虫等が侵入するのを防止している。
【0070】
4段に配設した各定植・育成用移動路52の上方には電照(蛍光灯)を配設している。育成する野菜の種類に応じて必要照度に照明するようにしている。
【符号の説明】
【0071】
1 ビニールハウス
2 地上施設部
3 地下施設部
51 定植用浮遊体
52 定植・育成用移動路
N 育苗株
M 作物(育成作物)
K 栽培工程
K1 播種工程
K2 発芽工程
K3 育苗工程
K4 定植・育成工程
K5 収穫工程
K6 梱包工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定植された育苗株を水耕栽培により育成する定植・育成工程における水耕栽培法であって、
前記定植・育成工程は、
厚さ方向に貫通する定植用孔を多数有する定植用浮遊体に、各定植用孔を介して育苗工程で生育した育苗株を移植する第1工程と、
定植・育成用移動路内に収容した養液の液面に、育苗株が移植された定植用浮遊体を浮遊させる第2工程と、
定植・育成用移動路の始端から定植用浮遊体を順次後続状態に供給して、定植・育成用移動路の終端に向かって玉突き移動する第3工程と、
定植・育成用移動路の始端から終端まで玉突き移動する定植用浮遊体の移動時間を、育苗株の成育時間とする第4工程と、
定植・育成用移動路の始端において新規の定植用浮遊体を供給することにより、順列した既存の定植用浮遊体が定植・育成用移動路の終端に移動する間に成育した成育作物を有する定植用浮遊体を終端において順次回収する第5工程と、
より構成することにより、
定植・育成用移動路の始端における新規の定植用浮遊体の供給時期を、始端から終端に至る間に成育した成育作物のある定植用浮遊体の終端における回収時期に合わせたことを特徴とする水耕栽培法。
【請求項2】
前記定植・育成用移動路内に最大限配置可能な前記定植用浮遊体の個数内において、
定植・育成用移動路の始端から新規に定植する定植用浮遊体の所要個数は、定植・育成用移動路の終端から回収する定植用浮遊体の所要個数と同一にすることを特徴とする請求項1記載の水耕栽培法。
【請求項3】
前記定植・育成用移動路内に最大限配置可能な前記定植用浮遊体の個数内において、
定植・育成用移動路の始端から新規に定植する定植用浮遊体の所要個数は、栽培する作物の種類によって異なる育苗株の成育時間に応じて調整することを特徴とする請求項1記載の水耕栽培法。
【請求項4】
養液を収容した定植・育成用移動路は、上面開口の長手状の水槽で構成したことを特徴とする請求項1記載の水耕栽培法。
【請求項5】
養液を収容した定植・育成用移動路は、複数個を横方向に並列すると共に、縦方向に一定間隔を保持して重合状態に配設したことを特徴とする請求項4記載の水耕栽培法。
【請求項6】
複数個を横方向に並列した各定植・育成用移動路の始端側と後端側には、各始端に共通して面する供給通路と、各終端に共通して面する回収通路を形成したことを特徴とする請求項5記載の水耕栽培法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−142902(P2011−142902A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139165(P2010−139165)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(501001119)株式会社ニシケン (1)
【Fターム(参考)】