説明

水耕栽培装置

【課題】植物の育成において、イニシャルコスト及びランニングコストを低く抑えるとともに、高い生産性と高品質の植物育成を実現する水耕栽培装置の提供。
【解決手段】栽培室1内に、養液Lが貯留される栽培容器3の底壁の下面に複数の照明器4を取付けてなる栽培器ユニット2を上下方向に所定間隔をもって多段に配置する一方、該養液Lを、養液タンク25と各栽培器ユニット2の各養液容器3の間で循環させ、循環経路中に冷却ユニット27を介設し、各養液容器3からの還流養液Lを放熱冷却して各養液容器3へ供給する。照明器4、4側からの熱の一部は栽培容器3の底壁を介して養液Lに吸収され、下段側の栽培器ユニット2の植物11に伝達される熱量が減少し、植物11への熱影響が軽減され、上段側の栽培器ユニット2と下段側の栽培器ユニット2の配置間隔を狭めて、その配置段数を増加させて空間の有効利用度を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、植物の水耕栽培を行なう水耕栽培装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、図5に示すように、植物の水耕栽培による育成に際して、多段の棚101を備えた育成棚102の各棚101上にそれぞれ栽培容器103を載置するとともに、各棚101に設けた照明装置104によって上記各栽培容器103に植えられた植物を照明する(直接照明方式)ことでその生育を促進させるようにした水耕栽培装置100が使用されることが多い。そして、この場合、上記育成棚102を、空調された栽培室107内に設置して、最適な育成環境で植物の育成を行なうのが通例であり、また、上記照明装置104として、各棚101の上方位置に、直状の蛍光灯105を複数本配置して構成するのが一般的である(特許文献1 参照)。
【0003】
さらに、このような、直状の蛍光灯105を用いた直接照明方式の照明装置104において、照度の均等化を図るために、反射笠106を用いるのが通例である(特許文献2 参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2001−346450号公報
【特許文献2】特開昭60−225302号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、図5あるいは特許文献1に示される従来の水耕栽培装置のように、直状の蛍光灯105を複数本配置して構成された照明装置104によって栽培容器103に植栽された植物108を照明するようにした水耕栽培装置100においては、以下のような問題があった。
【0006】
即ち、照明装置104が直接照明方式であるため、植物108に近接させた近接照明とすると、蛍光灯105からの発熱や放射熱によって植物108に葉焼けが生じることが懸念される。このようなことから、蛍光灯105と植物108との間隔を広くとった離間照明とせざるを得ず、その結果、各棚101間の間隔が広くなり、所定高さ範囲内に配置可能な棚101の段数が少なくなることから、空間の有効利用度が低下し、水耕栽培装置100のイニシャルコスト及びランニングコストの上昇を招来するとともに、水耕栽培装置100としての生産性が低くなる。
【0007】
また、離間照明であることから、照明効率が悪く、そのため、植物108の育成に最適な照度を確保すべく、蛍光灯105の本数を多くすることが必要であり、その結果、蛍光灯105の使用本数が多い分だけ、照明用の電力消費が嵩み水耕栽培装置100のランニングコストのさらなる上昇を招来するとともに、蛍光灯104からの発熱によって周辺雰囲気の温度が高くなり植物108の生育環境に悪影響を及ぼすとか、蛍光灯104からの発熱によって、水耕栽培装置100内において上下方向の温度差が大きくなり、温度の高い上段側の栽培容器103に植えられた植物108と、温度の低い下段側の栽培容器103に植えられた植物108の間で生育度合いが異なり生育の均一性が低下する、等のことが懸念され、このような状況を回避するために行なわれる栽培室107内の空調に伴う費用が高くつき、延いては水耕栽培装置100のランニングコストの上昇を招来することになる。
【0008】
そこで本願発明では、植物の育成において、イニシャルコスト及びランニングコストを低く抑えるとともに、高い生産性と高品質の植物育成を実現し得るようにした水耕栽培装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明ではかかる課題を解決するための具体的手段として次のような構成を採用している。
【0010】
本願の第1の発明に係る水耕栽培装置では、室温が調整された栽培室1内に、上面が開口し且つ養液Lが貯留される栽培容器3の底壁3aの下面に複数の照明器4、4・・を取付けてなる栽培器ユニット2を上下方向に所定間隔をもって多段に配置する一方、上記養液タンク25内の養液Lを、該養液タンク25と上記各栽培器ユニット2、2、・・の各養液容器3、3、・・の間で循環させるとともに、上記養液Lの循環経路中に冷却ユニット27を介設し、上記各養液容器3、3、・・からの還流養液Lを放熱冷却して上記各養液容器3、3、・・へ供給するように構成したことを特徴としている。
【0011】
本願の第2の発明では、上記第1の発明に係る水耕栽培装置において、上記栽培器ユニット2に、上記各照明器4、4、・・の外側を覆うように透明又は半透明の素材からなるカバー材5を設けたことを特徴としている。
【0012】
本願の第3の発明では、上記第2の発明に係る水耕栽培装置において、上記カバー材5に、該カバー材5の内部空間8を上記栽培室1内に連通させる通気口6,7を設けたことを特徴としている。
【0013】
本願の第4の発明では、上記第1の発明に係る水耕栽培装置において、上記栽培容器3内の養液Lに浮置される水耕ベッド10を、薄板状の底壁10aと該底壁10aの周縁から立ち上がる周壁10bを備えた樹脂材又は金属材で形成された浅皿状形体とし、且つ上記底壁10aには該底壁10a上に開口して上方へ立ち上がる筒状の植栽用開口13、13、・・を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本願発明では次のような効果が得られる。
【0015】
(a)本願の第1の発明に係る水耕栽培装置では、室温が調整された栽培室1内に、上面が開口し且つ養液Lが貯留される栽培容器3の底壁3aの下面に複数の照明器4、4・・を取付けてなる栽培器ユニット2を上下方向に所定間隔をもって多段に配置する一方、上記養液タンク25内の養液Lを、該養液タンク25と上記各栽培器ユニット2、2、・・の各養液容器3、3、・・の間で循環させるとともに、上記養液Lの循環経路中に冷却ユニット27を介設し、上記各養液容器3、3、・・からの還流養液Lを放熱冷却して上記各養液容器3、3、・・へ供給するように構成している。
【0016】
(a−1) 従って、上段側の栽培器ユニット2の上記照明器4、4・・と、下段側の栽培器ユニット2の栽培容器3とは上下方向において対向しており、該栽培容器3内の養液Lに浮置された水耕ベッド10に植栽された植物11は、上段側の栽培器ユニット2の上記照明器4、4・・に直接臨むことから、該照明器4、4・・の発生熱によって昇温した高温空気、及び該照明器4、4・・からの放射熱に晒されることから植物11に葉焼けが生じることも懸念される。
【0017】
しかし、この発明では、上記照明器4、4・・が上記栽培容器3の底壁5aの下面に取付けられているため、該照明器4、4・・の発生熱とか照明器4、4・・からの放射熱の一部は上記栽培容器3の底壁3aを熱伝導により移動し、該栽培容器3内の養液Lに吸収され、この養液L側への吸収熱量だけ下段側の栽培器ユニット2の植物11に伝達される熱量が減少する(換言すれば、植物11への熱影響が低減される)ことになる。また、養液Lに吸収された熱は、該養液Lが上記栽培容器3と養液タンク25の間で循環する際、上記冷却ユニット27において放熱されるため、該栽培容器3内の養液Lは上記熱の吸収にも拘らず常時適正温度に維持され、上記栽培容器3での養液Lへの吸熱作用は継続的に行なわれる。
【0018】
従って、上記栽培容器3の養液L側への熱吸収によって上記植物11への熱影響が軽減されることから、例えば、上段側の栽培器ユニット2と下段側の栽培器ユニット2の配置間隔を狭めること、即ち、上記栽培器ユニット2の多段配置の段数を増加させて空間の有効利用度を高めることができ、これによって、水耕栽培装置のイニシャルコスト及びランニングコストの低減が可能になるとともに、水耕栽培装置全体としての植物生産性が向上することになる。
【0019】
(a−2) また、上段側の栽培器ユニット2と下段側の栽培器ユニット2の配置間隔が狭められることで、上記照明器4の照明効率が高められる。この結果、例えば、照明効率の向上分だけ照明器4の配置個数を減らせて照明用の電力消費を抑えることで、水耕栽培装置のランニングコストのさらなる低減が期待できる。
【0020】
(b)本願の第2の発明では、上記第1の発明に係る水耕栽培装置において、上記栽培器ユニット2に、上記各照明器4、4、・・の外側を覆うように透明又は半透明の素材からなるカバー材5を設けているので、該カバー材5によって、熱の発生源である各照明器4、4、・・の近傍の内部空間8と、その外側の空間とが区画され、上記内部空間8から外側の空間への対流による熱伝熱が阻止される。この結果、上記栽培容器3の養液L側への熱吸収作用が促進されるとともに、下段側の栽培器ユニット2における植物11に対する熱影響が軽減され、これらの相乗作用によって、上記(a)に記載の効果がより一層促進される。
【0021】
(c)本願の第3の発明では、上記カバー材5に、該カバー材5の内部空間8を上記栽培室1内に連通させる通気口6,7を設けているので、上記栽培室1の空調に伴って該栽培室1内を循環する空気流の一部は、上記通気口6,7から上記内部空間8内に流出入するが、その際、上記内部空間8内に存在する熱のうち、上記栽培容器3の養液L側に吸収されなかった熱は、該内部空間8に流出入する室内空気側に吸収され、その結果、下段側の栽培器ユニット2における植物11に対する熱影響がさらに軽減され、上記(b)に記載の効果がより一層確実ならしめられる。
【0022】
(d)本願の第4の発明では、上記栽培容器3内の養液Lに浮置される水耕ベッド10を、薄板状の底壁10aと該底壁10aの周縁から立ち上がる周壁10bを備えた樹脂材又は金属材で形成された浅皿状形体とし、且つ上記底壁10aには該底壁10a上に開口し且つ上方へ立ち上がる筒状の植栽用開口13、13、・・を設けているので、上記水耕ベッド10は、例えば、これを発泡樹脂材で構成する場合に比して、その伝熱性が高く、そのため、上記養液Lの表面側がここに浮置された水耕ベッド10によって覆われていたとしても、上段側の栽培器ユニット2の各照明器4、4、・・において発生した熱の下段側の栽培器ユニット2における栽培容器3内の養液Lへの吸収作用が確保される。即ち、上下方向に対向する一対の栽培器ユニット2,2間における熱移動が促進される。
【0023】
この結果、同一の栽培器ユニット2内での熱移動、即ち、栽培容器3の底壁5aを通して該栽培容器3内の養液Lへの熱移動との相乗作用によって、上記(a)に記載の効果がより一層促進される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本願発明を好適な実施形態に基づいて具体的に説明する。
A:第1の実施形態
図1には、本願発明の第1の実施形態に係る水耕栽培装置を示している。この水耕栽培装置は、空気調和機28によって室温が調整された所定大きさの栽培室1内に、次述の栽培器ユニット2を上下方向に多段(例えば、6段とか8段)に配置して構成される。
【0025】
栽培器ユニット2は、図1及び図2に示すように、次述する栽培容器3と各照明器4を備えて構成される。
【0026】
上記栽培容器3は、所定大きさの矩形浅皿状の外観形体をもつように形成され、その内部には養液Lが貯留されるとともに、該養液Lの液面上には植物11が植栽される複数の水耕ベッド10が浮置される。この栽培容器3は、後述のように上記養液Lを放熱用の熱媒体として利用する関係から、伝熱性の良好な素材、例えば、銅板、鉄板、良伝熱性の樹脂板等によって形成される。尚、上記水耕ベッド10は、例えば、発泡スチロール等の高浮力材で構成されており、ここには植物11を植生するための植栽用開口12が適数個形成されている。
【0027】
また、この栽培容器3は、後述する養液循環系の一部を構成するもので、該栽培容器3の長辺方向の一端側から養液供給管21を介して養液Lが供給されるとともに、該栽培容器3の他端側から養液還流管22を介して該栽培容器3内の養液Lが排出されるようになっている。
【0028】
上記栽培容器3の底壁3aの下面には、取付具9によって直管状の蛍光灯でなる照明器4が、該栽培容器3の長辺方向に所定間隔で、且つその照射光が下方へ指向するようにして、複数個(この実施形態では9個)取付けられている。
【0029】
このように構成された栽培器ユニット2は、図1及び図2に示すように、次述の栽培棚40にそれぞれ載置される。
【0030】
上記栽培棚40は、図1及び図2にそれぞれ鎖線図示するように、矩形の平面形体をもつ多段枠状体であって、複数本の支柱41、41、・・と、前面側の各支柱41、41、・・間及び背面側の各支柱41、41、・・間を多段位置で水平方向に連結する横桁材42、42、・・と、前面側も横桁材42と背面側の横桁材42同士を連結する支持桟43、43、・・を備えている。
【0031】
上記栽培器ユニット2は、上記栽培棚40の各段の支持桟43、43、・・上にそれぞれ載置される。この栽培器ユニット2の載置状態を図2に示している。この載置状態では、上記栽培棚40の支持桟43上に上記栽培容器3の底壁3aが直接載置され、該底壁3aに取付けられた上記各照明器4、4、・・は、上記各支持桟43、43、・・間に位置している。
【0032】
尚、最上段に載置された栽培器ユニット2においては、その栽培容器3の上面が蓋9によって覆われており、該栽培容器3には、他の栽培器ユニット2と同様に、養液Lが貯留されるものの、ここには上記水耕ベッド10は設けられていない。
【0033】
このように上記栽培器ユニット2を載置した状態において、該栽培器ユニット2の下方側に次述のカバー材5が取付けられる。このカバー材5は、該各照明器4、4、・・の外側をその下側及び側方から覆うように配置された透明又は半透明のアクリル板とかフィルムで構成されるもので(この実施形態では透明のアクリル板で構成している)、上記各照明器4、4、・・をその下側から覆う底面部5aと、該各照明器4、4、・・その側方から覆う側面部5bを備えており、取付ブラケット44、44、・・を介して上記支柱41側に取付けられている。
【0034】
そして、このカバー材5の取付状態においては、該カバー材5の底面部5aの周縁部分には通気口6が、該カバー材5の側面部5bの上端部分には通気口7が、それぞれ設けられている。従って、上記通気口6及び通気口7を介して、上記カバー材5の内側の内部空間8は上記栽培室1の室内空間に連通している。
【0035】
上記栽培器ユニット2を上記栽培棚40の格段にそれぞれ載置した状態を図1に示している。この状態では、上記各栽培器ユニット2、2、・・は、上下方向に所定間隔をもって多段に配置されている。このように多段に配置された上記各栽培器ユニット2、2、・・の各栽培容器3、3、・・と上記栽培室1内に配置された養液タンク25の間で養液Lを循環させるために、次述の養液循環系20が備えられている。
【0036】
上記養液循環系20は、養液Lを養液ポンプ26の圧送作用によって上記各栽培容器3、3、・・に供給するための養液供給管21と、該各栽培容器3、3、・・内の養液Lを上記養液タンク25へ還流させるための養液還流管22を備えるとともに、該養液供給管21と養液還流管22の間には、上記栽培室1の室外側に設置された冷却ユニット27が介設されている。
【0037】
上記冷却ユニット27は、養液還流管22から導入される養液Lを冷却し、これを再度上記養液供給管21側へ吐出するものであって、例えば、水冷又は空冷のチラーで構成される。
【0038】
ここで、上記栽培器ユニット2を備えて構成される水耕栽培装置の使用状態等について説明する。
【0039】
上記水耕栽培装置を使用して植物を栽培する場合には、図1に示すように、上記栽培棚40に多段載置された各栽培器ユニット2、2、・・の各栽培容器3、3、・・に養液Lを満たし、ここに植物11を植栽した水耕ベッド10を適数枚だけ浮置する。また、上記各栽培器ユニット2、2、・・の下面該に取付けられた上記各照明器4、4、・・を点灯させ、その下側に位置する下段側の栽培器ユニット2における栽培容器3の植物11、11、・・に対して照明を行ない、その光合成を促進させてその生育を促す。
【0040】
一方、上記栽培室1の室内温度は、上記空気調和機28によって植物11の栽培に最適な温度に調整される。また、上記各栽培容器3には、上記養液タンク25からの養液Lが、上記冷却ユニット27において水耕栽培に適した温度(19℃程度)に冷却(放熱)されたのち、養液供給管21を通して供給されるとともに、該栽培容器3内にある養液Lは上記養液還流管22を通して上記養液タンク25側へ還流され、これによって養液L(熱吸収により昇温した養液L)は上記各栽培容器3、3、・・と上記養液タンク25の間で循環することになる。
【0041】
このように水耕栽培装置を用いて植物11の栽培が行なわれるが、この場合、上段側の栽培器ユニット2の上記照明器4、4・・と、下段側の栽培器ユニット2の栽培容器3とは上下方向において対向しており、該栽培容器3内の養液Lに浮置された水耕ベッド10に植栽された植物11は、上段側の栽培器ユニット2の上記照明器4、4・・に直接臨むことから、該照明器4、4・・の発生熱によって昇温した高温空気、及び該照明器4、4・・からの放射熱に晒されることになる。
【0042】
しかし、この実施形態では、
(イ) 上記照明器4、4・・が上記栽培容器3の底壁3aの下面に直接取付けられているため、該照明器4、4・・の発生熱とか照明器4、4・・からの放射熱の一部は上記栽培容器3の底壁3aを熱伝導によって移動し(図2の白抜き矢印H1参照)、該栽培容器3内の養液Lに吸収され、この養液L側への吸収熱量だけ下段側の栽培器ユニット2の植物11に伝達される熱量が減少することになる。また、吸熱により温度が高くなった養液Lは、上記栽培容器3と養液タンク25の間で循環する際、上記冷却ユニット27において放熱されるため、該栽培容器3内の養液Lは上記熱の吸収にも拘らず常時適正温度に維持され、上記栽培容器3での養液Lへの吸熱作用は継続的に行なわれる。
(ロ) さらに、上記栽培器ユニット2に、上記各照明器4、4、・・の外側を覆うように透明又は半透明の素材からなるカバー材5が設けられているので、該カバー材5の内側の内部空間8内の空気は、上記各照明器4、4、・・からの発熱によって昇温しても、これが対流によって下段側の栽培器ユニット2の植物11近傍へ移動するのが抑制され、該植物11への熱影響が抑えられる。また、この場合、上記内部空間8内の高温空気は上記内部空間8内に封入された状態となることから、上記栽培容器3の養液L側への熱吸収作用が促進される。
(ハ) 上記カバー材5に、上記内部空間8を上記栽培室1内に連通させる通気口6,7が設けられているので、上記空気調和機28による上記栽培室1の空調に伴って該栽培室1内を循環する空気流Aの一部は、図2にAで示すように、下側の通気口6から上記内部空間8内に流入し、上側の通気口7から栽培室1内へ流出するように流れる。この際、上記内部空間8内に存在する熱のうち、上記栽培容器3の養液L側に吸収されなかった熱は、該内部空間8に流出入する空気流Aに吸収され、該空気調和機28での熱交換によって外部へ放熱される。
【0043】
これら(イ)〜(ハ)の相乗効果として、上記各照明器4、4、・・側の発生熱及び該各照明器4、4、・・からの放射熱が下段側の栽培器ユニット2の植物11に与える熱影響が可及的に小ならしめられ、それだけ上段側の栽培器ユニット2と下段側の栽培器ユニット2の配置間隔を狭めることが可能となる。
【0044】
この結果、照明器4による近接照明が実現され、照明器4の配置個数の減少によるイニシャルコストの低下、あるいは照明器4の消費電力の低減によるランニングコストの低下を図ることができる。
【0045】
また、上記栽培器ユニット2の多段配置の段数を増加させて空間の有効利用度を高めることができるとともに、上記栽培室1の高さを低くすることができることから、水耕栽培装置のイニシャルコスト及びランニングコストの更なる低減が可能となる。
B:第2の実施形態
図3には、本願発明の第2の実施形態に係る水耕栽培装置における栽培器ユニット2部分を示している。この実施形態の栽培器ユニット2は、その基本構成を上記第1の実施形態の栽培器ユニット2と同様とし、これと異なる点は、上記栽培容器3に浮置される上記水耕ベッド10の構成である。
【0046】
従って、ここでは、上記水耕ベッド10の構成及びその作用効果のみ説明し、それ以外の部分については上記第1の実施形態の該当説明を援用する。
【0047】
上記水耕ベッド10は、図3及び図4に示すように、薄板状の底壁10aと該底壁10aの周縁から立ち上がる周壁10bを備えた浅皿状形体を有し、樹脂材又は金属材によって一体形成されている。そして、この底壁10aには、該底壁10a上に開口して上方へ立ち上がる筒状の植栽用開口13、13、・・が設けられている。
【0048】
このように、上記水耕ベッド10を樹脂材又は金属材によって浅皿状に形成した場合には、例えば、該水耕ベッド10を発泡樹脂材で構成する場合に比して、その伝熱性が高く、そのため、上記養液Lの表面側がここに浮置された水耕ベッド10によって覆われていたとしても、上段側の栽培器ユニット2の各照明器4、4、・・において発生した熱の下段側の栽培容器3内の養液Lへの吸収作用が確保される。即ち、上段側の栽培器ユニット2と下段側の栽培器ユニット2との間における熱移動が促進される(図3の白抜き矢印H2参照)。
【0049】
この結果、同一の栽培器ユニット2内での熱移動、即ち、上記栽培容器3の底壁3aを通して行なわれる上記各照明器4、4、・・側から上記栽培容器3内の養液L側への熱移動(図3の白抜き矢印H1参照)との相乗作用によって、下段側の栽培器ユニット2における上記植物11に対する上記各照明器4、4、・・側からの熱影響がより一層低減され、延いてはより一層の近接照明が可能となり、水耕栽培装置のイニシャルコスト及びランニングコストの更なる低減が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本願発明の第1の実施形態に係る栽培器ユニットを備えた水耕栽培装置の全体構成を示す斜視図である。
【図2】図1のII−II拡大断面図である。
【図3】本願発明の第2の実施形態に係る栽培器ユニットの断面図であって、図2に対応するものである。
【図4】図3に示した水耕ベッドの斜視図である。
【図5】従来の水耕栽培装置の側面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 ・・栽培室
2 ・・栽培器ユニット
3 ・・栽培容器
4 ・・照明器
5 ・・カバー材
6 ・・通気口
7 ・・通気口
8 ・・内部空間
10 ・・水耕ベッド
11 ・・植物
12 ・・植栽用開口
13 ・・植栽用開口
20 ・・養液循環系
21 ・・養液供給管
22 ・・養液還流管
25 ・・養液タンク
26 ・・養液ポンプ
27 ・・冷却ユニット
28 ・・空気調和機
40 ・・栽培棚
41 ・・支柱
42 ・・横桁材
43 ・・支持桟
44 ・・取付ブラケット
L ・・養液
A ・・空気流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室温が調整された栽培室(1)内に、上面が開口し且つ養液(L)が貯留される栽培容器(3)の底壁(3a)の下面に複数の照明器(4)、(4)・・を取付けてなる栽培器ユニット(2)を上下方向に所定間隔をもって多段に配置する一方、
上記養液タンク(25)内の養液(L)を、該養液タンク(25)と上記各栽培器ユニット(2)、(2)、・・の各養液容器(3)、(3)、・・の間で循環させるとともに、
上記養液(L)の循環経路中に冷却ユニット(27)を介設し、上記各養液容器(3)、(3)、・・からの還流養液(L)を放熱冷却して上記各養液容器(3)、(3)、・・へ供給するように構成されたことを特徴とする水耕栽培装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記栽培器ユニット(2)には、上記各照明器(4)、(4)、・・の外側を覆うように透明又は半透明の素材からなるカバー材(5)が設けられていることを特徴とする水耕栽培装置。
【請求項3】
請求項2において、
上記カバー材(5)には、該カバー材(5)の内部空間(8)を上記栽培室(1)内に連通させる通気口(6),(7)が設けられていることを特徴とする水耕栽培装置。
【請求項4】
請求項1において、
上記栽培容器(3)内の養液(L)に浮置される水耕ベッド(10)が、薄板状の底壁(10a)と該底壁(10a)の周縁から立ち上がる周壁(10b)を備えた樹脂材又は金属材でなる浅皿状形体を有し、且つ上記底壁(10a)には該底壁(10a)上に開口して上方へ立ち上がる筒状の植栽用開口(13)、(13)、・・が設けられていることを特徴とする水耕栽培装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−34064(P2009−34064A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202978(P2007−202978)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(391040973)徳寿工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】