説明

水蒸気バリア性能の評価方法

【課題】電気容量型の水分センサを用いてバリアフィルムあるいは電子デバイスの水蒸気バリア性能を評価する方法を提供する。
【解決手段】基材上に、感湿膜を厚さ方向に挟む配置に第1の電極層と第2の電極層とが設けられた電気容量型の水分センサを形成する工程と、前記基材の前記水分センサが形成された側の、前記水分センサの外面を、バリアフィルムにより被覆する工程と、前記バリアフィルムを乾燥させた状態を初期状態とし、前記バリアフィルムの外面を外気に曝した時点からの前記水分センサの電気容量値の時間変化を測定する工程とを備え、前記電気容量値の時間変化から得られる、前記バリアフィルムの前記水分センサとの界面近傍における相対水分濃度βの時間変化に基いてバリアフィルムのバリア特性を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、バリアフィルム自体あるいはバリアフィルムによって封止された電子デバイスの水蒸気バリア性能を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス分野においては電子デバイスを封止して被覆するフィルムとして種々のバリアフィルムが使用されている。これらのバリアフィルムには、一般的な商品の包装に用いられるフィルムにくらべて、はるかに高度の水蒸気透過率あるいは酸素透過率といったガスバリア性能が求められる。特に、電子デバイスの長寿命化には、電極や半導体の劣化に水が影響することから、バリアフィルムの水蒸気バリア性能が問題とされる。液晶ディスプレイや薄膜太陽電池に用いられるバリアフィルムには水蒸気透過率10-3g/m2/day以下、有機EL素子においては水蒸気透過率10-5g/m2/day未満といったバリア性能が求められる。
【0003】
フィルムのガスバリア性能を測定する従来方法には、感湿センサを用いる方法や、モコン法がある。しかしながら、これらの測定方法では10-3g/m2/day以下といったきわめて微量な水分の透過を測定することができない。また、このような領域における測定においては、被測定物を確実にシールして保持するといった測定操作上の問題や、水分センサの感度といった測定装置上の構成が問題となる。
本出願人はバリアフィルムの水蒸気バリア性能(水蒸気透過率)を高精度に測定することを可能にする測定装置として、下部電極膜と上部電極膜により高分子膜を厚さ方向に挟む構成とした水分センサを用いる方法を提案した(特許文献1)。この検査装置では、高分子膜が吸着した水分量により下部電極膜と上部電極膜間の電気容量が変化することを測定してバリアフィルムの水蒸気透過率を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−139447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように、液晶ディスプレイや薄膜太陽電池、有機EL素子等に用いられるバリアフィルムは、きわめて微量の水蒸気の透過を問題とするから、水分センサを用いる水蒸気バリア性能を評価する際には、微量なガス(水分)を高感度に検知できることに加えて、測定レンジが広いこと、応答動作が速く安定動作することが求められる。また、電子デバイスの長寿命化、信頼性の評価には、封止した実デバイスについてバリア性能が評価できることが求められる。
【0006】
近年は、水蒸気透過率が低いとされる各種のバリアフィルムが提供されている。これらのバリアフィルムはきわめて微量な領域での水分の透過を問題とするため、個々の性能を正確に評価するためには、測定精度を向上させることに加えて、バリアフィルムのバリア性能をより的確に判断することができる評価方法が求められる。
【0007】
なお、バリア性能を評価する他の方法として、Ca腐食法がある。この方法は、内面にカルシウム膜を成膜したフィルムを試験片とし、カルシウム膜の成膜面を密封し反対面を恒温恒湿環境下に曝した状態で、フィルムを透過した水蒸気と反応して腐食したカルシウムの量をフィルム外から透視し、画像処理等を利用してフィルムの水蒸気透過量を測定する方法である。この方法はフィルムの末端(フィルムを透過した位置)における水の量を計測するものであるが、試験に使用するフィルムは透明でなければならないという制限がある。
【0008】
本出願は、きわめて微量の水蒸気の透過を問題とするバリアフィルムについて、バリアフィルムの光透過性等に関わらず、その水蒸気バリア性能を高精度に測定することを可能とし、また、バリアフィルムによって封止された電子デバイスについての水蒸気バリア性能を評価することを可能にする水蒸気バリア性能の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願に係る水蒸気バリア性能の測定方法は、基材上に、感湿膜を厚さ方向に挟む配置に第1の電極層と第2の電極層とが設けられた電気容量型の水分センサを形成する工程と、前記基材の前記水分センサが形成された側の、前記水分センサの外面を、バリアフィルムにより被覆する工程と、前記バリアフィルムを乾燥させた状態を初期状態とし、前記バリアフィルムの外面を外気に曝した時点からの前記水分センサの電気容量値の時間変化を測定する工程とを備え、前記電気容量値の時間変化から得られる、前記バリアフィルムの前記水分センサとの界面近傍における相対水分濃度βの時間変化に基いてバリアフィルムのバリア特性を評価することを特徴とする。
【0010】
また、本出願に係る水蒸気バリア性能の測定方法は、電子デバイスの製造工程に、基材上に、感湿膜を厚さ方向に挟む配置に第1の電極層と第2の電極層とが設けられた電気容量型の水分センサを形成する工程と、前記基材の前記水分センサが形成された側の、前記水分センサの外面を、バリアフィルムにより被覆する工程とを組み込み、前記バリアフィルムを乾燥させた状態を初期状態とし、前記バリアフィルムの外面を外気に曝した時点からの前記水分センサの電気容量値の時間変化を測定し、前記電気容量値の時間変化から得られる、前記バリアフィルムの前記水分センサとの界面近傍における相対水分濃度βの時間変化に基いて電子デバイスのバリア特性を評価することを特徴とする。
前記水分センサの外面を、バリアフィルムにより被覆する工程においては、水分を遮断する接着剤を使用して、前記水分センサの感湿膜の側面を前記接着剤により遮蔽して前記バリアフィルムを貼着する方法が有効に利用できる。
【0011】
また、本出願に係る水蒸気バリア性能の測定方法は、電子デバイスの製造工程に、基材上に、感湿膜を厚さ方向に挟む配置に第1の電極層と第2の電極層とが設けられた電気容量型の水分センサを形成する工程と、前記基材の前記水分センサが形成された側の、前記水分センサの外面を樹脂により封止する工程とを組み込み、前記樹脂を乾燥させた状態を初期状態とし、前記樹脂の外面を外気に曝した時点からの前記水分センサの電気容量値の時間変化を測定し、前記電気容量値の時間変化から得られる、前記樹脂の前記水分センサとの界面近傍における相対水分濃度βの時間変化に基いて電子デバイスのバリア特性を評価することを特徴とする。
また、バリア特性を評価する際には、前記相対水分濃度βの時間変化率が略一定となる領域から外挿して得られる水分到達時間tRを指標として評価する方法、また、前記相対水分濃度βの時間変化率についての測定値にカーブフィッティングさせる方法によって得られる水の拡散係数を指標として評価する方法が好適に利用できる。
また、前記電子デバイスの製造工程においては、電子デバイスの導体パターンを形成する工程を利用して、前記第1の電極層及び前記第2の電極層と、前記水分センサと検知部とを電気的に接続する配線を形成することが有効である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る水蒸気バリア性能の評価方法によれば、バリアフィルムあるいは封止用の樹脂等によって封止された電子デバイスについて、的確にバリア性能を評価することができ、バリアフィルムあるいは電子デバイスの開発に有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】基板上に水分センサを形成した状態の断面図である。
【図2】水蒸気バリア性能を測定する際のサンプルの断面図である。
【図3】水蒸気バリア性能を測定する測定装置の全体構成を示す説明図である。
【図4】PETフィルムとPENフィルムについて相対水分濃度の時間変化の測定結果を示すグラフである。
【図5】バリアフィルムに水分が浸透する様子を示す説明図である。
【図6】PENフィルムについて、貼り合わせ枚数を変えた場合の相対水分濃度の時間変化の測定結果を示すグラフである。
【図7】フィルムに欠陥がある場合の相対水分濃度の時間変化についてのプロフィールを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(水分センサの構成)
本発明に係る水蒸気バリア性能の評価方法においては、水分センサとして電気容量型の高分子薄膜センサを使用する。まず、この水分センサの構成について説明する。
図1は、基板5上に水分センサ10を形成した状態を示す。水分センサ10は、感湿膜11と第1の電極層12aと第2の電極層12bからなる。感湿膜11は基板5の表面に形成された第1の電極層12aを被覆するように設けられ、第2の電極層12bは第1の電極層12aに対向して感湿膜11を厚さ方向に挟む位置に設けられる。
【0015】
水分センサ10は、感湿膜11に水分が吸着される度合いによって感湿膜11の誘電率が変化することから、感湿膜11に吸着された水分量を第1の電極層12aと第2の電極層12bとの間の電気容量の変化として検知するものである。第1の電極層12aと第2の電極層12bは電気容量の検知部13に電気的に接続され、検知部13によって電気容量が測定される。
【0016】
感湿膜11にはポリイミド膜に代表される高分子膜が使用される。なお、水分センサには、イオン性の材料を組み込んだセンサや酸化膜なども使用されている。イオン性の材料を組み込んだセンサは潮解性を示すという難点があり、酸化膜は吸着水分量に対して非線形応答しやすいという難点がある。これに対して、高分子膜を使用する水分センサは、電気容量が吸着水分量あるいは水分濃度に対して直線的に変化するものが多く、透過水分量の評価に有効に利用できるという利点がある。
【0017】
本実施形態においては、感湿膜11としてポリイミド膜、具体的には水の吸脱湿性に優れるように改良を加えた含フッ素ポリイミド膜を使用している。ポリイミド膜は、耐熱性、耐薬品性に優れ、線形応答性にも優れるという利点があり、デバイスの作製工程との相性にも優れ、実デバイスに組み込んで使用する水分センサとして好適に用いられる。
【0018】
ポリイミド膜等の高分子膜は、1μm以下、工夫によっては100nm程度の厚さに形成することが可能であり、薄膜トランジスタや薄膜太陽電池、有機EL素子と同程度、もしくはそれ以下の厚さに形成することができる。したがって、水分センサをこれらのデバイス内に組み込むことが可能であり、バリアフィルムによって外面を被覆して封止されている実デバイスの封止性(水蒸気バリア性能)を直接的にモニターすることが可能となる。電気容量値は、面積に比例し膜厚に反比例して大きくなるから、水分センサを薄膜化することによって単位面積あたりの電気容量が大きくなり、薄型化と併せて高感度化を図ることができる。
【0019】
(水分センサの形成方法)
図1に示す水分センサ10は、基板5上に第1の電極層12a、感湿膜11、第2の電極層12bを形成して構成されている。
基板5は水分センサ10支持体であり、ガラス板やシリコン基板等の水分を通さない材料が用いられる。第1の電極層12aは、基板5上に導体層を形成し、第1の電極層12aの平面パターンに合わせて導体層をエッチングすることによって形成する。導体層は、銅箔等の金属膜や透明電極等の導体薄膜を基板5の表面にラミネートし、あるいは基板5の表面にめっきあるいはスパッタリング、真空蒸着等を施すことによって形成することができる。
【0020】
第1の電極層を形成した後、第1の電極層12aを覆うように感湿膜11を形成する。ポリイミド膜によって感湿膜11を形成する場合は、ポリイミド膜の前駆体であるポリアミド酸を溶剤に溶かしたポリアミド酸溶液を基板5の上に塗布し、300〜350℃で数時間加熱して感湿膜11とする。後述するポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン(PET)からなるフィルムの水蒸気バリア性能の測定に使用した水分センサ10は、感湿膜11として厚さ1μmのポリイミド膜を使用している。
【0021】
第2の電極層12bは、感湿膜11の側面と表面を含む基板5の表面に導体層を形成し、導体層を所定パターンにエッチングする方法、あるいはマスクを用いて蒸着する方法等によって形成する。第2の電極層12bは被測定対象であるバリアフィルムに吸着された水分が水分センサ内に浸透することを阻害しないように設ける。このため、第2の電極層12bは水分が浸透しやすいように十分に薄く(数十nm程度)形成する、あるいは感湿膜11の表面に、微細パターン化した電極を形成し電極開口部を通して水分の出入りを容易にする。
なお、第1の電極層12aと第2の電極層12bを形成する方法は上述した方法に限るものではなく、電子デバイスに配線を形成する方法として一般に利用されているフォトリソグラフィー法等を利用することができる。電極層の腐食防止のために、電極層の表面を金によって被覆するといったことももちろん可能である。
【0022】
図1において、第2の電極層12bの一端を感湿膜11の一方の側面を介して基板5上に延出させているのは、基板5の表面に第2の電極層12bに接続する配線を引き出し、検知部13と第2の電極層12bとを電気的に接続するためである。第1の電極層12aについても検知部13と電気的に接続する配線を形成する。配線を配置するパターンは任意に設定可能である。
【0023】
図2は、上述した水分センサ10を用いてバリアフィルムの水蒸気バリア性能を測定する際に用いるサンプル40の構成を示す。被測定対象であるバリアフィルム20の水蒸気バリア性能を測定する場合は、基板5上に、水分センサ10を覆うようにバリアフィルム20を貼着し、水分センサ10と検知部13とを電気的に接続すればよい。バリアフィルム20の水蒸気バリア性能を測定する際に、水分センサ10の側面(厚さ部分)から侵入する水分によって測定精度が阻害される場合は、水分の侵入を遮断する樹脂材を使用し、水分センサ10の側面を樹脂材よって覆うようにしてバリアフィルム20を貼着すればよい。この樹脂材は十分に緻密で、かつ水分透過率が低く、断面積が十分に小さくなるように工夫して使用する。
【0024】
上述したように、水分センサ10は感湿膜11を第1の電極層12aと第2の電極層12bとにより厚さ方向に挟む配置として形成されるから、感湿膜11の厚さを薄くすることによって、薄膜太陽電池あるいは有機EL等の電子デバイスの内部に水分センサ10を容易に組み込むことができる。これによって、バリアフィルムによって封止された薄膜太陽電池あるいは有機EL素子等の実際のデバイスについて、その水蒸気バリア性能を直接的に測定することが可能である。
【0025】
実デバイスに水分センサ10を組み込む方法としては、前述した基板5上に水分センサ10を形成して形成した水分センサユニットを製品の支障にならない位置に組み込む方法、あるいはデバイスの製造工程を利用してデバイス中に水分センサを作り込む方法が可能である。電子デバイスの製造工程においては、所定のパターンにしたがって配線を形成する工程や、層間に絶縁層を形成する工程がある。したがって、これらの工程を利用することによってデバイス内に第1の電極層12aや第2の電極層12bを形成することが可能であり、感湿膜を層間に作り込むことも可能である。
実デバイスでは、素子を被覆するようにバリアフィルムを被覆して封止する場合と、樹脂封止型の半導体装置のように、基板に搭載された素子を樹脂によって直接的に封止する場合がある。封止樹脂を用いて直接的に封止する場合は、素子とともに水分センサ10を樹脂封止すればよい。
【0026】
(測定装置、測定方法)
図3は、バリアフィルムの水蒸気バリア性能の測定に使用した測定装置の全体構成を示す。この測定装置は、40℃、90%RH(相対湿度)に保持された恒温槽30内にチェンバー32を設置し、チェンバー32を真空ポンプ33と乾燥空気供給部34に接続して構成されている。チェンバー32には開閉蓋32aが設けられ、開閉蓋32aは操作部35によって恒温槽30の外部から開閉操作される。なお、恒温槽30を40℃、90%RHとしたのは一例であり、外気の温度及び相対湿度は測定条件として適宜設定可能である。
【0027】
サンプル40は図2に示した構成のものであり、チェンバー32内に設けられたホルダ36にセットすることにより、恒温槽30の外部に設置されている容量計37に電気的に接続される。容量計37は電圧変換機38を介してコンピュータ39に接続され、コンピュータ39によりサンプル40の水分センサ10の電気容量の変化が検知され、解析される。本装置においては、容量計37、電圧変換機38、コンピュータ39がバリアフィルムの水蒸気バリア性能を検知する検知部に相当する。検知部は適宜構成とすることができる。
【0028】
バリアフィルムの水蒸気バリア性能を測定する方法は以下のようにして行う。
まず、水分センサ10を覆うように被測定対象であるバリアフィルム20を貼着してサンプル40を形成し、開閉蓋32aを開けて、サンプル40をチェンバー32のホルダ36にセットする。次いで、開閉蓋32aを閉め、チェンバー32を密封した状態で真空ポンプ33を作動させチェンバー32内を減圧して乾燥させるとともに、乾燥空気供給部34からチェンバー32内に乾燥空気を供給し、チェンバー32内を乾燥空気によって置換して、サンプル40のバリアフィルム20が乾燥した状態とする。
次いで、操作部35を介して開閉蓋32aを開き、チェンバー32内、すなわちバリアフィルム20を40℃、90%RHの外気の環境に曝し、水分センサ10の電気容量が時間とともにどのように変化するかを測定する。
【0029】
(測定例)
図4は、厚さ100μmのPENフィルムと、厚さ125μmのPETフィルムについて、相対水分濃度βの時間変化を測定した結果を示すグラフである。横軸に経過時間、縦軸に相対水分濃度βを示す。
なお、相対水分濃度βは、被測定対象であるバリアフィルムの吸水率をγfilmとするとき、γfilmに対するバリアフィルムの末端(水分センサに接触する側の位置)におけるフィルムの含水率の割合と定義する。図4は、時間経過とともに変動する水分センサ10の電気容量値を相対水分濃度βに換算して示したものである。
【0030】
十分に薄膜化された水分センサであれば、被検査対象であるバリアフィルムの水分センサとの界面近傍における相対水分濃度βは、水分センサの相対水分濃度に一致すると考えられる。したがって、バリアフィルムの末端(水分センサとの界面)における相対水分濃度βは、水分センサの電気容量の増分から評価することができる。
すなわち、水分センサ内の水分濃度をcwsensor、センサの吸水率をγsensor、水分センサの乾燥時の電気容量をC、時刻tにおける水分センサの電気容量の増加分をΔC、100%RH(相対湿度)に対する水分センサの電気容量の最大増加分をΔCmaxとすると、次の、(1)、(2)式が得られる。
β=cwsensor/(γsensor×ρsensor)=(ΔC/C)/(ΔCmax/C)・・・(1)
wsensor=(ΔC/ΔCmax)×(γsensor×ρsensor)・・・(2)
wsensorは水分センサの水分濃度の増加分、ρsensorはセンサの感湿層の単位体積(1立方メートル)当たりの質量をg換算した値である。
【0031】
上記(2)式は、水分センサの電気容量をモニターすることにより、水分センサとの界面におけるバリアフィルムの相対水分濃度βを検知することができることを意味する。
水分センサは感湿膜の厚さが薄いほど電気容量の変化が大きくあらわれ、信号強度が高くなると同時に、センサが受け取る水分量の絶対量が小さくなり、より信頼性の高い計測が可能となる。市販の電気容量型の湿度センサの電気容量は高々100pF程度であるのに対して、本実施形態において使用している水分センサの電気容量は1nF以上となる。これにより、本実施形態の水分センサによれば、βに換算して0.1%以下の変化まで確実に測定することが可能となる。
電子デバイスにおいて性能の劣化を生じさせるβの値はその用途や構成材料によって異なると考えられるが、β値が0%に近い領域での性能を正確に検知できることは、電子デバイスに用いる材料の開発等に有効な知見を与えることになる。
【0032】
図4に示すグラフは、測定装置の開閉蓋32aをあけた直後においては、水分センサの電気容量の変化、すなわち被測定対象であるバリアフィルムの相対水分濃度βはほぼゼロであり、時間経過とともに徐々にβが増加していき、やがて一定の傾きとなることを示す。グラフの一定の傾きで変化しているとみなせる領域について接線を引き、接線と横軸とが交わる時刻を水分到達時間tRと定義する。時刻tR以前においてβがほぼゼロとなるのは、この時刻までは水分子がまだフィルムの途中までしか浸透していないために水分センサにまで到達せず、時刻tR後にバリアフィルムを通過した水分センサに水分子が到達したと考えられる。
【0033】
前述したように、水分センサは被測定対象であるバリアフィルムとの界面近傍におけるバリアフィルムの相対水分濃度βを検知する。図5(a)は、水分到達時間tR以前のフィルムの状態、図5(b)は、tR以後のフィルムの状態を説明的に示す。図のように、水分到達時間tR以前においては、水分子はバリアフィルムの中途で止まっており、tR以後に水分子が水分センサ内にまで侵入すると考えられる。
この水分到達時間tRは、バリアフィルムの封止性能を評価する上で、きわめて重要なパラメータである。電子デバイスの特性劣化は、デバイス内に水分が侵入し、デバイス内部の電極あるいは素子が劣化することに起因することが多い。このような特性の劣化を評価する指標としては、デバイスの内部にまで水分が到達するまでの時間が重要な目安となる。
【0034】
図4のグラフの範囲からは外れるが、βがさらに大きくなると外気との濃度差が小さくなるためにβの傾きは徐々に緩やかになり、十分に時間が経過した時点においてはβは一定値に落ち着く。これは、バリアフィルムの全体に水分が浸透し、バリアフィルムの相対水分濃度が外気(恒温槽)と同じ値となるためである。バリアフィルムについての吸水率や樹脂封止型の半導体装置の耐湿性の評価においては、従来は、このような十分な時間が経過した飽和領域での重量を計測して、水蒸気バリア性能を評価している。
【0035】
これに対して、本実施形態における水蒸気バリア性能の評価方法は、従来のような飽和領域における評価ではなく、バリアフィルムの外気から最も離れた位置、すなわちデバイス内部における相対水分濃度の立ち上がりの変化を検知するものであり、このような検知方法によって、電子デバイスの特性劣化、バリアフィルムの水蒸気バリア性能を的確に評価することが可能となる。また、この方法によれば、バリアフィルムが飽和するまでの時間にわたって測定する必要がなく、より短時間でバリアフィルムの特性を評価することができる。
【0036】
バリアフィルムの性能を評価する場合に、水蒸気透過率WVTRが用いられることが多い。上述した測定結果から水蒸気透過率WVTRを求めることも可能である。
水分センサが受ける単位面積あたりの透過水蒸気量Qwsensorは、相対水分濃度βに水分センサの厚さと吸水率、及びセンサの感湿層の単位体積当たりの質量をg換算した値を乗じた値となる。この透過水蒸気量Qwsensorの時間変化(ただし、時間の単位は[day]とする)が、水分センサが感じるみかけの水蒸気透過率となる。フィルムに浸透していく単位面積あたりの水分量は、この値にフィルムと水分センサの膜厚及び吸水率の比の積から得られる変換係数を乗じることで求められる。
【0037】
すなわち、バリアフィルムの水蒸気透過率WVTRは、次の(3)、(4)式によって与えられる。
WVTR=(Δβ/Δt)(dsensorγsensorρsensor)
×(dfilmγfilmρfilm/dsensorγsensorρsensor)[g/m2/day]・・・(3)
=(Δβ/Δt)×ρfilm×dfilm×γfilm [g/m2/day]・・・(4)
γfilmはフィルムの吸水率、dfilmはフィルムの膜厚、γsensorはセンサの吸水率、dsensorはセンサの膜厚、ρfilmは封止に用いるフィルムの単位体積当たりの質量をg換算した値である。
(3)式において、×の前の項は時間の単位をdayとしたときに、単位時間あたりに1mあたりのセンサに含まれる水分量であり、×の後の項は水蒸気透過率への変換係数で同じΔβの変化に対してフィルム側ではどれだけの水を吸水したことに相当するか換算したものである。
【0038】
図4で得られた測定結果から(3)式を用いてPETとPENフィルムについて水蒸気透過率WVTRを求めると、PET:水蒸気透過率7.5 [g/m2/day]、PEN:水蒸気透過率1.2
[g/m2/day]が得られる。
モコン法やLyssy法によって測定されたPETフィルムと、PENフィルムの水蒸気透過率の公称値は、それぞれ6.9[g/m2/day]、1.2[g/m2/day]である。(3)式に用いたフィルムの吸水率のデータが有効数字1桁であったことから、10%程度の相違は誤差範囲と考えてよく、(3)式を利用してバリアフィルムの水蒸気透過率を求める方法が有効であることを示している。すなわち、上述した相対水分濃度βの時間変化を測定する方法は、バリアフィルムの水蒸気透過率を評価する方法としても有効である。
【0039】
図6は、比較的良好な水蒸気バリア性能を示したPENフィルム(厚さ125μm)について、フィルムを1枚、2枚、3枚、4枚と貼り合わせたサンプルを作製し、各々のサンプルの相対水分能濃度βの時間変化を測定した結果を示す。この測定結果から、水分到達時間は、おおよそ膜厚の2乗に比例して長くなることがわかる。これは、水が拡散によりフィルムを浸透していくことによる。一方、相対水分濃度の時間変化率は膜厚の2乗に反比例し、水蒸気透過率は膜厚に反比例して小さくなっていく。これらの現象は拡散モデルによって解析することができる。図6中の破線は、樹脂封止性能評価にも用いられてきた従来の拡散モデルについて、フィルム末端の位置あるいはセンサの位置より先には水分が浸透できない場合におけるフィルム末端の位置の水分濃度を(1)式により相対水分濃度に変換し、センサ性能を加味した補正を加えたものである。このモデルによって実験結果がほぼ再現できている。
【0040】
このモデルによれば、実験条件である40℃、90%RHにおけるフィルムの拡散係数と、膜厚、及びセンサの感度係数から相対水分濃度βを数値解析できるので、拡散係数のみが未知のパラメータとなり、数値を変えて測定値にカーブフィッティングすることによって、当該バリアフィルムの水の拡散係数を得ることができる。図6の測定値から、PENフィルムの水の拡散係数を求めると、約3×10−13[m2/sec]となる。
なお、水分到達時間は拡散係数に反比例し、同じ厚さのフィルムに対しては相対水分濃度の時間変化率と水蒸気透過率は共に、拡散係数に比例する。
【0041】
図6によれば、500μm厚のPENフィルムであっても約半日で水分はセンサの位置まで到達し、125μm厚のフィルムでは、わずか1時間でセンサの位置に水分が到達することがわかる。
ここで、40℃、90%RHの条件下において、仮に、センサまでの水分到達時間が1年半、すなわち上記PENフィルムを1枚使用する場合の10000倍の封止性能を得ようとすると、上述した解析から以下の2つの方法が考えられる。
【0042】
一つは、厚さをPENフィルムと同一とし、実効的な水の拡散係数を10000分の1にする方法である。樹脂フィルム単独でこのような低い拡散係数を得ることは現状では困難であるので、酸化膜等の水の拡散係数の小さな膜をフィルム表面に被覆し、実効的な拡散係数を小さくする方法が有効である。
【0043】
他の一つは、PENフィルムの厚さを100倍とし、水の浸透に要する時間を10000(100の2乗)倍に長期化する方法である。実際のところ、125μmの100倍の、厚さ12.5mmのPENフィルムを使用することは、フレキシブル性を念頭に置く場合は無理であるが、拡散係数がPENフィルムの100分の1程度となる樹脂材料を使用すれば、バリアフィルムの厚さを1mm前後にすることが可能である。
このように、バリアフィルムについての相対水分濃度β、拡散係数についての知見は、実際の電子デバイスの信頼性を確保する上で、重要な要素となる。
【0044】
上述したように、バリア性能が高いフィルム(樹脂材料)であるほど水分到達時間が長くなり、水分到達時間tR未満であれば、相対水分濃度の時間変化率は実質的にゼロかゼロに十分に近い。125μm厚のPENフィルムの水蒸気透過率は約1[g/m2/day]であり、その際の水分到達時間tRは約1時間である。
実際に電子デバイスを40℃、90%RHよりも過酷な状態に長時間曝す可能性があるかはともかく、仮に、その条件下において水分到達時間を15年に設定するとすると、フィルムのバリア性能は、125μm厚のPENフィルム単体の10万倍とする必要があり、その時の水蒸気透過率は10−5[g/m2/day]相当となる。上記PENフィルムと同等の吸水率と厚さとを持つ均一なフィルムによってこの数値を得るには、そのフィルムの拡散係数を10−18[m2/sec]台にまで下げる必要がある。
このような拡散係数は、プラスチックフィルムのみでは困難であるが、ピンホールのないシリカやSiNx等の無機膜であれば、水の拡散係数が10−20[m2/sec]以下となり得ることから、これらの無機材料の膜を100nmから1μmの厚さに薄くコートすることにより相当する性能を実現することが可能である。
【0045】
近年、無機−有機のハイブリッドフィルムを用いて、水蒸気透過率が10−6[g/m2/day]を超えるバリアフィルムが報告されている。これらのフィルムについて水分到達時間を測定したとすると、水分到達時間の半分以下の計測時間では、いかなる測定装置を用いても水分を検出することはできず、測定結果は実質的に0[g/m2/day]となる筈である。計測時間を短縮する方法としては、環境温度を40℃以上に設定して高速試験を行うことが考えられる。しかしながら、有機デバイスやフィルムについて測定する場合には、これらの材料の耐熱性を考慮する必要がある。これら以外の方法によって10−5[g/m2/day]以下の数値が得られたとすると、それは横漏れやピンホールを介して侵入してきた水分、あるいはあらかじめフィルムに含まれていた水分による可能性が高い。
【0046】
図7は、フィルムにピンホール等の欠陥や横漏れがあった場合にどのような測定結果になるかを示している。意図せぬピンホール等の欠陥や横漏れがあった場合は、ピンホール等の欠陥がない場合における水分到達時間に達する以前から水分の透過が観測され、計測の初期段階から水分の透過が観測されることになる。また、相対水分濃度の変化の傾きは欠陥の占める面積が小さなフィルムほど小さくなるので、相対水分濃度の変化の傾きからバリアフィルムの欠陥の比率を見積もることもできる。これによって、より被覆率の高いバリアフィルムの開発に利用することができる。
バリアフィルムの水蒸気バリア性能を評価する際には、フィルムに生じている意図しない漏れによる影響と、フィルム本来の水蒸気バリア性能を明確に分けて判断する必要がある。とくに、バリア性能が大きく進展してきているバリアフィルムの特性を評価する上ではこのような判断が重要となる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、バリアフィルム自体、あるいはバリアフィルムを用いて封止して形成される電子デバイス、樹脂封止型の電子デバイスにおける封止樹脂の水蒸気バリア性能の評価に利用することができ、バリアフィルムの開発及び、薄膜太陽電池、有機EL素子等の電子デバイスの開発に利用できる。
【符号の説明】
【0048】
5 基板
10 水分センサ
11 感湿膜
12a 第1の電極層
12b 第2の電極層
13 検知部
20 バリアフィルム
30 恒温槽
32 チェンバー
32a 開閉蓋
33 真空ポンプ
34 乾燥空気供給部
35 操作部
36 ホルダ
37 容量計
38 電圧変換機
39 コンピュータ
40 サンプル



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、感湿膜を厚さ方向に挟む配置に第1の電極層と第2の電極層とが設けられた電気容量型の水分センサを形成する工程と、
前記基材の前記水分センサが形成された側の、前記水分センサの外面を、バリアフィルムにより被覆する工程と、
前記バリアフィルムを乾燥させた状態を初期状態とし、前記バリアフィルムの外面を外気に曝した時点からの前記水分センサの電気容量値の時間変化を測定する工程とを備え、
前記電気容量値の時間変化から得られる、前記バリアフィルムの前記水分センサとの界面近傍における相対水分濃度βの時間変化に基いてバリアフィルムのバリア特性を評価することを特徴とする水蒸気バリア性能の評価方法。
【請求項2】
電子デバイスの製造工程に、
基材上に、感湿膜を厚さ方向に挟む配置に第1の電極層と第2の電極層とが設けられた電気容量型の水分センサを形成する工程と、
前記基材の前記水分センサが形成された側の、前記水分センサの外面を、バリアフィルムにより被覆する工程とを組み込み、
前記バリアフィルムを乾燥させた状態を初期状態とし、前記バリアフィルムの外面を外気に曝した時点からの前記水分センサの電気容量値の時間変化を測定し、
前記電気容量値の時間変化から得られる、前記バリアフィルムの前記水分センサとの界面近傍における相対水分濃度βの時間変化に基いて電子デバイスのバリア特性を評価することを特徴とする水蒸気バリア性能の評価方法。
【請求項3】
電子デバイスの製造工程に、
基材上に、感湿膜を厚さ方向に挟む配置に第1の電極層と第2の電極層とが設けられた電気容量型の水分センサを形成する工程と、
前記基材の前記水分センサが形成された側の、前記水分センサの外面を樹脂により封止する工程とを組み込み、
前記樹脂を乾燥させた状態を初期状態とし、前記樹脂の外面を外気に曝した時点からの前記水分センサの電気容量値の時間変化を測定し、
前記電気容量値の時間変化から得られる、前記樹脂の前記水分センサとの界面近傍における相対水分濃度βの時間変化に基いて電子デバイスのバリア特性を評価することを特徴とする水蒸気バリア性能の評価方法。
【請求項4】
前記相対水分濃度βの時間変化が略一定となる領域から外挿して得られる水分到達時間tRを指標として、バリア特性を評価することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の水蒸気バリア性能の評価方法。
【請求項5】
前記相対水分濃度βの時間変化についての測定値にカーブフィッティングさせる方法によって得られる水の拡散係数を指標として、バリア特性を評価することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の水蒸気バリア性能の評価方法。
【請求項6】
前記水分センサの外面を、バリアフィルムにより被覆する工程においては、水分を遮断する接着剤を使用して、前記水分センサの感湿膜の側面を前記接着剤により遮蔽して前記バリアフィルムを貼着することを特徴とする請求項1または2記載の水蒸気バリア性能の評価方法。
【請求項7】
前記電子デバイスの製造工程において、電子デバイスの導体パターンを形成する工程を利用して、前記第1の電極層及び前記第2の電極層と、前記水分センサと検知部とを電気的に接続する配線を形成することを特徴とする請求項2または3記載の水蒸気バリア性能の評価方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−242354(P2011−242354A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116925(P2010−116925)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】