説明

水蒸気処理液による菌類生育抑制方法及び水蒸気処理液の製造装置

【課題】植物の病害抑制への利用を図った水蒸気処理液による菌類生育抑制方法を提供する。
【解決手段】刈り込んだ芝草などの廃棄植物pを蒸煮缶2に入れ、高温・高圧で水蒸気処理した後、蒸煮缶2の下部に滴下した水蒸気処理液cを蒸煮缶2から取り出し、これを芝草などの植物に散布する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刈り込んだ芝草などの廃棄植物を水蒸気処理して得られる水蒸気処理液による菌類生育抑制方法及び水蒸気処理液の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゴルフ場や公園などの管理緑地において、刈り込んだ芝草などの廃棄植物(植物廃棄物)を、費用や環境対策などの面から適切に処理することが要求されている。
【0003】
例えば、廃棄植物を水蒸気処理し、処理後の固形物をさらに微粉末化することにより、これを自然分解なしに土壌改良材として管理緑地に散布して直ちに還元することや、市販有機堆肥の代替品として利用することが提案されている。
【0004】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【0005】
【特許文献1】特開平6−16514号公報
【特許文献2】特開平11−92320号公報
【特許文献3】特開平6−16514号公報
【特許文献4】特開2003−113013号公報
【特許文献5】特開2001−316214号公報
【特許文献6】特開2000−154109号公報
【特許文献7】特開2004−359628号公報
【特許文献8】特開平3−83907号公報
【特許文献9】特開2001−81007号公報
【特許文献10】国際公開第WO98/11184号パンフレット
【特許文献11】特開2001−48798号公報
【特許文献12】特開2005−145847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術では、処理後の固形物(処理固形物)を肥料として散布するに留まり、廃棄植物を水蒸気処理して得られる水蒸気処理液は廃棄されることが多く、水蒸気処理液が利用されることはほとんどなかった。
【0007】
また、アルコールなどの有機溶媒を用いて、植物から抗菌成分を含む抽出液を得ることが行われているが、手順や工程が複雑で多く、簡単に抽出液を得られないという問題がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、植物の病害抑制への利用を図った水蒸気処理液による菌類生育抑制方法及び水蒸気処理液の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、刈り込んだ芝草などの廃棄植物を蒸煮缶に入れ、高温・高圧で水蒸気処理した後、上記蒸煮缶の下部に滴下した水蒸気処理液を上記蒸煮缶から取り出し、これを芝草などの植物に散布する水蒸気処理液による菌類生育抑制方法である。
【0010】
請求項2の発明は、上記水蒸気処理は、処理温度を150〜270℃、処理圧力を0.5〜2MPa、処理時間を30分〜3時間にして行う請求項1記載の水蒸気処理液による菌類生育抑制方法である。
【0011】
請求項3の発明は、上記水蒸気処理液をそのまま散布、あるいは上記水蒸気処理液を、散布濃度が上記水蒸気処理液の1倍を超え100倍以下となるように薄めて散布する請求項1または2記載の水蒸気処理液による菌類生育抑制方法である。
【0012】
請求項4の発明は、刈り込んだ芝草などの廃棄植物を高温・高圧で水蒸気処理するための蒸煮缶と、その蒸煮缶に高温の水蒸気を供給するボイラと、上記廃棄植物を収納する収納カゴと、その収納カゴを搬送して上記蒸煮缶内に搬入する台車と、上記蒸煮缶内の下部に設けられ、上記収納カゴから滴下した水蒸気処理液を受けるドレンパンとを備えた水蒸気処理液の製造装置である。
【0013】
請求項5の発明は、上記蒸煮缶を軸方向が細長い略円筒状に形成すると共に、軸方向が水平となるように設置し、上記蒸煮缶の内壁に、上記収納カゴを上記蒸煮缶内へ案内する2本並列のガイドレールを設けた請求項4記載の水蒸気処理液の製造装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、芝草類などの廃棄植物を水蒸気処理して得られる水蒸気処理液を植物に散布することで、菌類の生育を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面にしたがって説明する。
【0016】
まず、本実施形態に係る水蒸気処理液による菌類生育抑制方法に用いる水蒸気処理液の製造装置を図1および図2で説明する。
【0017】
図1および図2(a)、図2(b)に示すように、本実施形態に係る水蒸気処理液の製造装置(水蒸気処理装置、以下、製造装置ともいう)1は、刈り込んだ芝草などの廃棄植物pを高温・高圧で水蒸気処理するための蒸煮缶(圧力釜、処理容器)2と、その蒸煮缶2に高温の水蒸気を供給するボイラ3とで主に構成される。
【0018】
製造装置1は、廃棄植物pを収納する複数個(図2(b)では3個の例)の収納カゴ4と、各収納カゴ4を上部に載せ、収納カゴ4を搬送して蒸煮缶2内に搬入する1台の台車5と、蒸煮缶2の下部に設けられ、収納カゴ4から滴下した水蒸気処理液cを受ける横断面視で円弧状のドレンパン6とを備える。収納カゴ4は、上方が開放形成され、その他の部分が金網で形成される。
【0019】
蒸煮缶2は、軸方向が長い略円筒状に形成され、軸方向が水平となるように設置される。蒸煮缶2は、前方側部に設けたヒンジ7(図2(a)参照)により、フタ8が右開けとなるように回動自在に設けられる。
【0020】
蒸煮缶2の内壁には、各収納カゴ4を蒸煮缶2内へ案内する2本並列のガイドレール9,9が設けられる。これらガイドレール9,9は、各収納カゴ4がドレンパン6のやや上方となる蒸煮缶2内を水平移動できるように設置される。各収納カゴ4の両側には、ガイドレール9,9の上面と係合する係合部材4s,4sが設けられる。
【0021】
蒸煮缶2の前方には、外向きに張り出したフランジ10が形成され、そのフランジ10の外周に締め具11が設けられる。これらフランジ10と締め具11により、フタ8を閉めた蒸煮缶2内が気密に保たれる。
【0022】
本実施形態では、蒸煮缶2として、温度150〜270℃、圧力0.5〜2MPaに耐え、かつ直径が約1.2m、長さ約3.4mのものを用いた。
【0023】
ボイラ3には、給水ライン12、燃料供給ライン13、ボイラ3と蒸煮缶2間を結ぶ蒸気ライン14がそれぞれ接続される。給水ライン12の途中には、軟水タンク15、給水用弁16、給水ポンプ17、給水用逆止弁18が接続される。燃料供給ライン13の途中には、燃料タンク19、燃料用弁20、燃料用ブロワー21が接続される。蒸気ライン14の途中には、ストレーナー22、蒸気用圧力調整弁(蒸気用モータバルブ)23、蒸気用逆止弁24が接続される。
【0024】
蒸煮缶2には、安全弁25、排気ライン26、凝縮液(水蒸気処理液)取り出しライン27、ドレンライン28が接続される。排気ライン26の途中には、排気用圧力調整弁29、排気用ブロワー30、脱臭器31が接続される。凝縮液取り出しライン27には、凝縮液用弁32が接続される。ドレンライン28には、ドレン用圧力調整弁33が接続される。
【0025】
製造装置1は、蒸煮缶2の温度、圧力などを制御する制御手段として、さらに制御盤34を備える。上述した蒸気用圧力調整弁23、排気用圧力調整弁29、ドレン用圧力調整弁33は、それぞれ制御盤34に接続される。
【0026】
また、蒸煮缶2内には、蒸煮缶2内の温度を測定する温度センサ35、圧力を測定する圧力センサ36が設けられる。これら温度センサ35と圧力センサ36もそれぞれ制御盤34に接続される。
【0027】
次に、本実施形態に係る水蒸気処理液による菌類生育抑制方法を説明する。
【0028】
本実施形態に係る方法に先立ち、製造装置1を用いて、刈り込んだ芝草(芝草類)などの廃棄植物pから水蒸気処理液cを製造する。
【0029】
まず、廃棄植物pを蒸煮缶2に入れ、高温・高圧下で水蒸気処理(燻蒸)した後、蒸煮缶2の下部に滴下した水蒸気処理液cを蒸煮缶2から取り出し、これを芝草などの植物に散布する。
【0030】
水蒸気処理は、処理温度を150〜270℃、処理圧力を0.5〜2、好ましくは0.5〜1MPa、処理時間を30分〜3時間にして行う。
【0031】
これは、処理温度が150℃未満、処理圧力が0.5MPa未満、処理時間が30分未満では純度が高い、あるいは効果のある水蒸気処理液が得られないからである。また、処理圧力が2MPaを超えると、蒸煮缶やボイラ自体のコスト、管理コストが高くなる。処理時間が3時間を超えても、水蒸気処理液の純度や効果に違いが見られない。
【0032】
水蒸気処理液cは、植物にそのまま散布するか、あるいは水蒸気処理液cを、散布濃度が水蒸気処理液cの1倍を超え100倍以下となるように薄めて散布するとよい。散布濃度が100倍を超えて薄くすると、効果が得られないからである。
【0033】
本実施形態では、容積:3.7m3、最高使用温度:210℃、最高使用圧力:2.0MPa、接液部材料:SUS304の蒸煮缶2を用い、ボイラ3として、発生蒸気量:300kg/h、最高供給圧力:1.96MPa(飽和)の蒸気ボイラを用いた。水蒸気処理条件は、205℃、1.6MPa、30分にて処理を行った。
【0034】
本実施形態の作用を製造装置10の動作と共に説明する。
【0035】
刈り込んだ芝草などの廃棄植物pを収納カゴ4に収納し、廃棄植物pを収納した収納カゴ4を台車5で搬送する。蒸煮缶2のフタ8を開き、台車5を蒸煮缶2の開口付近に移動する。台車5から収納カゴ4を降ろしつつ、ガイドレール9,9で蒸煮缶2内へ案内し、蒸煮缶2内へ複数個の収納カゴ4を順次搬入する。すべての収納カゴ4を搬入したら、フタ8を閉め、蒸煮缶2側面のハンドルを回すことで、フランジ10を締め具11で締めて蒸煮缶2内を気密保持する。
【0036】
この状態でボイラ3に軟水タンク15から給水し、さらに燃料タンク19から灯油などの燃料を供給してボイラ3を運転する。ボイラ3で発生した水蒸気は、蒸気ライン14を介して蒸煮缶2内に供給される。
【0037】
数分後、純度かつ濃度が高い水蒸気処理液cを得るため、凝集液用弁32を若干開にし、制御盤34でドレン用圧力調整弁33を全閉にしながら、上述した条件で廃棄植物pを水蒸気で燻蒸して水蒸気処理を行う。
【0038】
水蒸気処理中は、蒸煮缶2内の温度を温度センサ35で、圧力を圧力センサ36で検出しながら、制御盤34で蒸気用圧力調整弁23、排気用圧力調整弁29を調整し、蒸煮缶2内の温度、圧力を制御する。
【0039】
この水蒸気処理中に、各収納カゴ4内の廃棄植物pから水蒸気処理液cが蒸煮缶2内の下部に滴下し、ドレンパン6上に貯まる。ドレンパン6に貯まった水蒸気処理液cは、凝縮液取り出しライン27を介して取り出される。水蒸気処理液c中にゴミなどの不純物がある場合には、フィルタを設けたり、上澄み液を水蒸気処理液cとする。
【0040】
処理時間経過後、ボイラ3の運転を停止し、凝縮液用弁32を全閉にし、制御盤34で蒸気用圧力調整弁23を全閉、排気用圧力調整弁29を全開にする。蒸煮缶2内の圧力を大気圧にした後、温度が適度に下がったら、制御盤34でドレン用圧力調整弁33を全開にし、処理残渣液を回収する。その後、フタ8を開けて収納カゴ4やドレンパン6に残った処理固形物も回収する。
【0041】
以上のようにして得られた水蒸気処理液cを、管理緑地に生育しているノシバやベント芝を含む芝草類などの植物に散布すると、病害の原因となるリゾクトニア類などの菌類の生育を抑制できる(病害抑制効果がある)。さらに、水蒸気処理液cは、市販の土壌改良材や有機堆肥の代用品としても働くので、芝草類などの植物の生長増進効果もある。
【0042】
廃棄植物や、製造装置1で得られた水蒸気処理液cを散布して菌類の生育を抑制できる植物としては、ノシバやベント芝などの芝草に限らず、マツなどの針葉樹や、その他の園芸植物などがある。
【0043】
水蒸気処理液cの散布により、生育を抑制できる菌類としては、ダラースポット病、ラージパッチやブラウンパッチなどの葉腐病などを引き起こす菌類や、胞子が強固な一部のキノコ類を除く菌類がある。
【0044】
水蒸気処理液cに病害抑制効果があるのは、廃棄植物pを高温・高圧下で水蒸気処理することで、廃棄植物pが加水分解され、廃棄植物p中に含まれていたセルロース質のもの、ベンゼン芳香族、アルカロイドなどが流出し、水蒸気処理液cに流入したからだと考えられる。芝草類から得た水蒸気抽出液が芝草類のみの病害抑制効果を有するわけではなく、芝草類以外の植物に対しても病害抑制効果を発揮すると考えられる。
【0045】
また、回収した処理残渣液や処理固形物を、管理緑地に生育している芝草類などの植物に散布してもよい。これによっても、病害の原因となるリゾクトニア類などの菌類の生育を抑制できる。処理残渣液や処理固形物を土壌に散布したり、土壌に混ぜ合わせれば、芝草類などの植物の生長増進効果もある。
【0046】
本実施形態に係る方法は、処理圧力を1MPa以下にしても有効なので、この場合には、ボイラ運転資格がなくても製造装置1を運転・管理できる。
【0047】
従来、水蒸気処理液による菌類の生育抑制効果(病害抑制効果)は分かっていなかった。特に、今回例として挙げた芝草類に関しては、報告がなかった。このため、本発明は、管理緑地や園芸における廃棄植物を、費用や環境対策などの面から適切に処理できる有用な技術である。
【0048】
また、本発明は、従来、廃棄されることが多かった水蒸気処理液cを有効に利用しているため、従来の水蒸気処理装置に有用な付加価値を与える技術である。
【0049】
さらに、本実施形態に係る方法によれば、廃棄植物pに水蒸気処理を行うことで、廃棄植物pの減量化・減容化も行える。水蒸気処理後に得られる処理固形物は、廃棄植物pに比べ、重量ベースで4割の削減、ボリュームでは7割も削減ができる。
【0050】
本実施形態に係る製造装置1は、台車5により蒸煮缶2内に収納カゴ4を簡単に搬入でき、しかも蒸煮缶2内に複数個の収納カゴ4を収納できるため、大量の廃棄植物pを簡単に一括して水蒸気処理できる。
【0051】
また、製造装置1では、蒸煮缶2の下部にドレンパン6を設けているため、各収納カゴ4から滴下した純度の高い水蒸気処理液cを廃棄植物pから取り出すことができる。
【0052】
さらに、製造装置1では、蒸煮缶2の内壁にガイドレール9,9を設け、各収納カゴ4の両側にガイドレール9,9に係合する係合部材4s,4sを設けているため、蒸煮缶2内に複数個の収納カゴ4を簡単に収納できる。しかも、各収納カゴ4とドレンパン6とを蒸煮缶2内で上下に分離できるので、廃棄植物pから純度の高い水蒸気処理液cを確実に取り出すことができる。
【実施例】
【0053】
(実施例)
実験1)
処理芝製造の際に排出される廃液(水蒸気処理液c)が芝の病原菌に与える影響の検討 実験方法;
ノシバ水蒸気処理液c(pH3.45)を5mLに蒸留水45mL加え、そこに1gの寒天を加えた。これを粗寒天培地とし、さらにPDB(ポテトデキストロース液体)を0.24g加えたものをPDA培地(ポテトデキストロース寒天培地、バレイショ−ブドウ糖寒天培地)とした。
【0054】
ノシバ水蒸気処理液cの代わりに蒸留水を5mL加えた培地を対照区として設けた。
【0055】
これらの培地をオートクレーブで121℃、20分滅菌した。この滅菌培地を無菌環境下でそれぞれ9cmシャーレに約15mL注ぎ、培地を固めた。この培地は3枚ずつ作成した。あらかじめPDA培地で培養したリゾクトニア類(実施例では、Rhizoctonia solani、以下、リゾクトニアともいう)を無菌環境中において、コルクボーラーで約5mmの円形にくり抜き、先ほど作成した各培地の中心部に接種した。接種した培地を25℃暗条件で培養し、リゾクトニアの生育を3日目と5日目に観察した。実験は3反復で行った。
【0056】
ただし、マツ水蒸気処理液c(pH3.31)を加えた培地は寒天が固まらなかったため、今回は検討しなかった。寒天が固まらなかった理由としては、培地のpHが低かったことが考えられる。
【0057】
結果と考察;
3日目において、ノシバ処理区ではリゾクトニアの菌糸の伸長が観察されなかった。一方で、対照区は菌糸の伸長が観察された。このことからノシバ水蒸気処理液cは抗菌活性を持つことが示唆された。しかし5日目においては、ノシバ処理区においても菌糸の伸長が観察された。このことからノシバ水蒸気処理液cの抗菌活性は一時的なものと考えられる。
【0058】
検討事項;
ノシバおよびマツ水蒸気処理液cはpHが非常に低い。一般的に、強酸性の培地において糸状菌の生育は抑制されることが知られている。そこで、各水蒸気処理液cのpHをリゾクトニアを含む一般糸状菌の最適pHに矯正することで、リゾクトニアの生育を抑えているかどうかを検討し、一方でpH以外の要因がリゾクトニアの生育を抑制しているかどうかを実験2で検討する。
【0059】
実験2)
pHを調整した水蒸気処理液cが芝の病原菌に与える影響(ペーパーディスク法)の検討
実験方法;
水蒸気処理液cのpHが低く寒天が固まらないため、ペーパーディスク法で抗菌活性を調査した。各水蒸気処理液cの10倍希釈液と、10倍希釈液をNaOHでpH6.0に調整した液とをそれぞれ20mL用意し、オートクレーブで121℃、20分滅菌した。この滅菌水蒸気処理液cをそれぞれ直径1cmのろ紙8枚に染み込ませた。また、対照区として、121℃、20分滅菌した滅菌水を染み込ませたろ紙を用意した。これらのろ紙を無菌環境中で、実験1で用いた粗寒天培地およびPDA培地上に中心から等距離になるようにそれぞれ4枚置いた(図3参照)。最後にあらかじめPDA培地で培養したリゾクトニアを、コルクボーラーで約5mmの円形にくり抜き、各培地の中心部に接種した。接種した培地を25℃暗条件で培養し、リゾクトニアの生育を3日目と5日目に観察した。実験はリゾクトニアの各ろ紙に対する阻止円の形成および阻止円の大きさで行った。
【0060】
結果と考察;
2度、実験を行った結果、この方法による抗菌活性は見られなかった。pH調整していない水蒸気処理液cでも抗菌活性が見られなかったことから、実験1の結果を踏まえると、水蒸気処理液cの寒天への拡散など、実験系の問題があったのではないかと考えられる。
【0061】
実験3)
pHを調整した水蒸気処理液cが芝の病原菌に与える影響の検討
実験方法;
各水蒸気処理液cをNaOHでpH6に調整したもの5mLに蒸留水を45mL加え、そこに1gの寒天を加えた。これを粗寒天培地とし、さらにPDBを0.24g加えたものをPDA培地とした。また、各水蒸気処理液cをpH調整しない培地も作成した。また、水蒸気処理液cの代わりに蒸留水を5mL加えた培地を対照区として設けた。これらの培地をオートクレーブで121℃、20分滅菌した。この滅菌培地を無菌環境下でそれぞれ9cmシャーレに約15mL注ぎ、培地を固めた。この培地はそれぞれ3枚ずつ作成した。あらかじめPDA培地で培養したリゾクトニアを無菌環境中において、コルクボーラーで約5mmの円形にくり抜き、先ほど作成した各培地の中心部に接種した。接種した培地を25℃暗条件で培養し、リゾクトニアの生育を2日目に観察した。実験は3反復で行った。
【0062】
試験区
PDA(コントロール(pH調整))
粗寒天(コントロール)
ノシバ pH未調整 PDA
ノシバ pH未調整 粗寒天 → 寒天固まらず
ノシバ(pH6) PDA
ノシバ(pH6) 粗寒天
マツ pH未調整 PDA → 寒天固まらず
マツ pH未調整 粗寒天 → 寒天固まらず
マツ(pH6) PDA
マツ(pH6) 粗寒天
【0063】
【表1】

【0064】
実験結果・考察;
実験1の結果と同様にノシバ水蒸気処理液cの添加で著しい抗菌効果が見られた。また、pH調整したノシバ水蒸気処理液cでも、調整していないものよりは劣るものの抗菌効果が得られた。このことより、水蒸気処理液cの抗菌効果は、低pHによるものではないことがわかった。また、マツのpH調整した水蒸気処理液cでも、同様の抗菌効果が見られた。
【0065】
具体的な水蒸気処理液cの組成は不明だが、今回検討したノシバ、マツとも水蒸気処理液cを芝草に撒くことにより、病害および芝草の生育が向上することがわかった。また、実験3のシャーレ試験(菌種はリゾクトニア)においても、菌の育成制御ができることから、病害抑制効果が証明された。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の好適な実施形態を示す水蒸気処理液による菌類生育抑制方法に用いる水蒸気処理液の製造装置の概略図である。
【図2】図2(a)は図1に示した水蒸気処理液の製造装置主要部(蒸煮缶)の正面図、図2(b)はその側面図である。
【図3】実施例で用いたシャーレの平面図である。
【符号の説明】
【0067】
1 水蒸気処理液の製造装置
2 蒸煮缶
3 ボイラ
c 水蒸気処理液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刈り込んだ芝草などの廃棄植物を蒸煮缶に入れ、高温・高圧で水蒸気処理した後、上記蒸煮缶の下部に滴下した水蒸気処理液を上記蒸煮缶から取り出し、これを芝草などの植物に散布することを特徴とする水蒸気処理液による菌類生育抑制方法。
【請求項2】
上記水蒸気処理は、処理温度を150〜270℃、処理圧力を0.5〜2MPa、処理時間を30分〜3時間にして行う請求項1記載の水蒸気処理液による菌類生育抑制方法。
【請求項3】
上記水蒸気処理液をそのまま散布、あるいは上記水蒸気処理液を、散布濃度が上記水蒸気処理液の1倍を超え100倍以下となるように薄めて散布する請求項1または2記載の水蒸気処理液による菌類生育抑制方法。
【請求項4】
刈り込んだ芝草などの廃棄植物を高温・高圧で水蒸気処理するための蒸煮缶と、その蒸煮缶に高温の水蒸気を供給するボイラと、上記廃棄植物を収納する収納カゴと、その収納カゴを搬送して上記蒸煮缶内に搬入する台車と、上記蒸煮缶内の下部に設けられ、上記収納カゴから滴下した水蒸気処理液を受けるドレンパンとを備えたことを特徴とする水蒸気処理液の製造装置。
【請求項5】
上記蒸煮缶を軸方向が細長い略円筒状に形成すると共に、軸方向が水平となるように設置し、上記蒸煮缶の内壁に、上記収納カゴを上記蒸煮缶内へ案内する2本並列のガイドレールを設けた請求項4記載の水蒸気処理液の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−105986(P2010−105986A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281660(P2008−281660)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】