説明

水質監視方法および水質監視システム

【課題】工事水域の水質環境に関する的確な情報をリアルタイムかつ高精度に得て遠隔監視し、水質汚濁拡散などの環境への影響を即座に把握可能な水質監視方法および水質監視システムを提供する。
【解決手段】この水質監視方法は、工事水域について水中の水質の制限値を情報処理装置31が記憶し、水質計測センサを取り付けた水質監視装置1〜4を工事水域に設置し、水質計測センサにより水質をリアルタイムに計測し、計測されたデータを水質監視装置1〜4から情報処理装置31に伝送し、情報処理装置で計測データを制限値と比較し、計測データが制限値を超えたとき情報処理装置が異常発生情報を発する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工事水域における水質監視方法および水質監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
浚渫や覆砂、サンドコンパクションパイル打設、深層混合処理などの水中施工を行う海中工事・水中工事においては、工事水域における濁りなどの発生や水質変化を最小限にするために施工時の水質環境の監視が必要である。この監視のための方法・システムの従来例が特許文献1,2に記載されている。
【特許文献1】特開2002−348837号公報
【特許文献2】特開2005−30912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記特許文献の監視方法・システムは、主に水質汚染の予測精度の向上や予測に基づく土砂投入の管理に向けたものであり、実際の工事における工事水域の水質環境に関する情報を得て不具合が発生したときに即座に対応可能な方法・システムを提案するものではない。
【0004】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、工事水域の水質環境に関する的確な情報をリアルタイムかつ高精度に得て遠隔監視し、水質汚濁拡散などの環境への影響を即座に把握可能な水質監視方法および水質監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本実施形態による水質監視方法は、工事水域について水中の水質の制限値を情報処理装置が記憶し、水質計測センサを取り付けた水質監視装置を前記工事水域に設置し、前記水質計測センサにより水質をリアルタイムに計測し、前記計測されたデータを前記水質監視装置から前記情報処理装置に伝送し、前記情報処理装置で前記計測データを前記制限値と比較し、前記計測データが前記制限値を逸脱したときその逸脱発生情報を前記情報処理装置が発することを特徴とする。
【0006】
この水質監視方法によれば、工事水域に設置した水質監視装置の水質計測センサにより水質をリアルタイムに計測し情報処理装置に伝送し、情報処理装置で計測データを制限値と比較し、計測データが制限値を逸脱したとき逸脱発生情報を発するので、工事水域の水質環境に関する情報をリアルタイムに得て遠隔監視することができ、水質汚濁拡散などの環境への影響を即座に把握することが可能となる。すなわち、上述のデータの計測、伝送及び比較判断の各処理は、水質監視装置および情報処理装置で行われ、人間が介在しないことからヒューマンエラーを回避でき、かつ迅速な処理が可能である。また、工事関係者は逸脱発生情報を迅速かつ正確に入手することができるので、的確な現場管理が可能になる。
【0007】
上記水質監視方法において前記制限値は、前記工事水域での工事の影響を受けない水域の水質と、前記工事水域に設定された管理値とに基づいて設定されることで、工事水域の水質環境に関する情報が的確となり、水質環境汚染の高精度な判断が可能となる。
【0008】
また、前記管理値を前記情報処理装置が記憶し、前記水質監視装置とは別の水質監視装置が前記工事水域での工事の影響を受けない水域の水質を計測し、その計測値を前記情報処理装置に伝送し、前記情報処理装置が前記管理値および前記計測値から前記規制値を算出することが好ましい。
【0009】
この場合、前記工事水域での工事の影響を受けない水域の水質を所定時間に計測し、その計測値に基づいて前記規制値を更新することで、工事水域を含む現場水域が工事以外の他の影響により水質が変化する場合に対応可能となる。
【0010】
また、前記水質監視装置は、濁度、クロロフィル、溶存酸素(DO)、pH、塩分、COD、BOD、硫化水素の内の1つまたは複数を計測するものであることが好ましい。なお、複数を計測する場合は、計測対象毎に水質計測センサを設置することができる。
【0011】
本実施形態による水質監視システムは、水質計測センサおよび通信部を有し工事水域に設置される水質監視装置と、各種情報を入力し記憶し情報処理を行う情報処理装置と、を備え、前記情報処理装置が前記工事水域について水中の水質の制限値を記憶し、前記水質計測センサがリアルタイムに計測したデータを前記水質監視装置が前記通信部から前記情報処理装置に伝送し、前記情報処理装置で前記計測データを前記制限値と比較し、前記計測データが前記制限値を逸脱したときその逸脱発生情報を前記情報処理装置が発することを特徴とする。
【0012】
この水質監視システムによれば、工事水域に設置した水質監視装置の水質計測センサにより水質をリアルタイムに計測し情報処理装置に伝送し、情報処理装置で計測データを制限値と比較し、計測データが制限値を逸脱したとき逸脱発生情報を発するので、工事水域の水質環境に関する情報をリアルタイムに得て遠隔監視することができ、水質汚濁拡散などの環境への影響を即座に把握することが可能となる。上述の計測データの計測、伝送及び比較判断の各処理は、水質監視装置および情報処理装置で行われ、人間が介在しないことからヒューマンエラーを回避でき、かつ迅速な処理が可能である。また、工事関係者は逸脱発生情報を迅速かつ正確に入手することができるので、的確な現場管理が可能になる。
【0013】
上記水質監視システムにおいて前記情報処理装置が前記工事水域に設定された管理値を記憶し、前記水質監視装置とは別の水質監視装置が前記工事水域での工事の影響を受けない水域の水質を計測し、その計測データを前記情報処理装置に伝送し、前記情報処理装置が前記管理値および前記計測データから前記規制値を算出することが好ましい。
【0014】
この場合、前記工事水域での工事の影響を受けない水域の水質を所定時間に計測し、その計測値に基づいて前記規制値を更新することで、工事水域を含む現場水域が工事以外の他の影響により水質が変化する場合に対応可能となる。
【0015】
また、前記水質監視装置は、前記水質監視装置の位置を検知する位置検知部を備え、前記水質監視装置の位置情報を前記通信部から前記情報処理装置に伝送し、前記情報処理装置で前記位置情報を予め設定した設定値と比較し、前記設定値を逸脱したときその逸脱発生情報を前記情報処理装置が発するように構成することで、水質監視装置が流されたときに、かかる逸脱発生情報を工事関係者に迅速に伝達することができ、他船舶との衝突等の第3者への危険発生を低減できるとともに、捜索や回収を容易に行うことができる。
【0016】
また、前記水質監視装置は、前記水質監視装置の温度および湿度を計測する温湿度センサと、電源部と、を備え、前記温湿度センサで計測した温度情報、湿度情報および前記電源部の電圧情報を前記通信部から前記情報処理装置に伝送し、前記情報処理装置で前記温度情報、前記湿度情報および前記電圧情報の内の少なくともいずれか1つを予め設定した設定値と比較し、前記いずれか1つの情報に関し前記設定値を逸脱したときその逸脱発生情報を前記情報処理装置が発するように構成することで、システムの管理者は水質監視装置の逸脱発生情報を早期に入手することができ、的確な維持・修理対策を講じることが可能になり、システム・装置の信頼性向上を図ることができる。
【0017】
また、前記計測データが前記水質監視装置の通信部から無線パケット網を介して前記情報処理装置に伝送され、前記各逸脱発生情報がネットワークを介して前記工事水域から離れた位置に設置された情報端末装置に送信されるように構成することで、遠隔地でも逸脱発生情報を迅速かつ的確に把握することができ、的確な維持・修理対策を講じることができる。
【0018】
また、前記水質監視装置は、濁度、クロロフィル、溶存酸素(DO)、pH、塩分、COD、BOD、硫化水素の内の1つまたは複数を計測するものであることが好ましい。なお、複数を計測する場合は、計測対象毎に水質計測センサを設置することができる。また、水質計測センサは、水深の異なる複数の水中位置で計測することが好ましく、また、水温や流向流速をさらに計測することが好ましい。
【0019】
なお、上記水質監視方法・システムにおいて水質の制限値は、上限または下限で設定でき、また、上限および下限で定めた所定の範囲で設定してもよい。また、水質の制限値を複数段階で設定してもよく、例えば、上限で設定した場合、第1上限値a、第2上限値b(a<b)を設定し、計測データが第1上限値aを超えて逸脱したとき、工事関係者に注意を喚起するための注意喚起情報を発し、第2上限値bを超えて逸脱したとき、その水質に関して異常が発生したとして異常発生情報を発するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の水質監視方法および水質監視システムによれば、工事水域の水質環境に関する的確な情報をリアルタイムかつ高精度に得て遠隔監視し、水質汚濁拡散などの環境への影響を即座に把握可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。図1は本実施の形態による水質監視システムの配置例を概略的に示す図である。図2は図1の水質監視システムの全体構成を説明するための概念図である。
【0022】
図1,図2に示すように、水質監視システム10は、作業船WがクレーンCを用いて海Sの海底において浚渫等の水中施工を行う工事水域Kに浮かべて設置される複数の水質監視装置1,2,3,4からなる海上局(モニタリングブイ)と、工事水域Kの近くの陸地Lの管理事務所等に設置された地上局Tと、を備える。地上局Tには情報処理装置31が設置されている。情報処理装置31はパーソナルコンピュータ(以下、「パソコン」または「PC」という)から構成できる。
【0023】
水質監視システム10では、複数の水質監視装置1〜4からの計測データが無線パケット網Pを介して情報処理装置31に伝送され、計測データに基づいて情報処理装置31が判断して発した異常発生情報(逸脱発生情報)がインターネットI等のネットワークを介して電子メール等により工事水域K・地上局Tから離れた遠隔地に設置された工事関係事務所のパソコン(PC)41,42,43、電子メール機能を有する携帯電話44,45に送信されるようになっている。
【0024】
水質監視装置1〜4について図3〜図5を参照して説明する。図3は水質監視装置1〜4の概略的構成を示す図である。図4は図3の水質監視装置1〜4の具体的構成例を示す図である。図5は図4の水質監視装置1〜4が水面に浮いている様子を示す外観図である。
【0025】
図3に示すように、水質監視装置1〜4は、水中の濁度、クロロフィル、水温を計測する水質計測センサ11,12と、水中の流向流速を計測する流向流速計13と、アンテナ18に接続され無線通信のための通信ユニット15と、GPS情報を受信するGPS受信部19を有しデータ伝送を制御する制御ユニット16と、ソーラーパネル20により発電し蓄電するとともに各ユニット15,16に電力を供給する電源ユニット17と、各ユニット15〜17を収容した浮体構造の本体部10と、を備える。
【0026】
水質計測センサ11,12及び流向流速計13は、本体部10から水中に吊り下げられており、センサケーブルにより制御ユニット16と電気的に接続されている。水質計測センサ11は比較的水深の深い位置に、水質計測センサ12は比較的水深の浅い位置にそれぞれ設置される。水質計測センサ11,12及び流向流速計13により、例えば、水深−0.5m付近と水深−5m付近の2地点の濁度、クロロフィル、水温、および、水深−0.5m付近の流向流速を計測する。水質計測センサ11,12は、光学方式で濁度・クロロフィルを測定し、生物付着や汚れの影響を除去するため、ワイパーを装備している。水質計測センサ11,12及び流向流速計13を設置する水深位置は適宜変更可能であり、その設置個数も必要に応じて増減できる。
【0027】
なお、水質計測センサ11,12は、濁度・クロロフィル以外の、溶存酸素(DO)、pH、塩分、COD、BOD、硫化水素等を計測するものであってもよい。
【0028】
図4のように、水質監視装置1〜4の本体部10に固定された係留ロープR1の先端にアンカーAが連結されており、目標の観測地点でアンカーAが水中に投入され水底Gに達することで水質監視装置1〜4が観測地点に設置される。複数の浮標FがロープR2により係留ロープR1に連結されており、例えば、図5のように、水面S1で各水質監視装置1〜4の周囲に浮くようになっている。複数の浮標Fを赤色や黄色等の目立つ色とすることで遠方からの水質監視装置1〜4の視認が容易となる。
【0029】
水質監視装置1〜4について図6を参照してさらに説明する。図6は、図1〜図5の水質監視装置1〜4の計測系・制御系の構成例を示すブロック図である。
【0030】
図6のように、水質監視装置1〜4の制御ユニット16は、水質計測センサ11,12および流向流速計13からの計測データが入力するセンサ入力部21と、計測データに基づいて所定の演算を行う演算部22と、演算された計測データを通信ユニット15へ出力する出力部23と、GPS受信部19で受信したGPS信号に基づいて各水質監視装置1〜4の位置を検知する位置情報検知部24と、各部21〜24を制御するプログラムが搭載された中央演算処理装置(CPU)から構成される制御部25と、を有する。
【0031】
水質監視装置1〜4は、水質監視装置1〜4の内部の温度および湿度を検知する温度センサ26,湿度センサ27を備え、さらに、図3の電源ユニット17の電圧を測定する電圧測定部28を備える。温度センサ26,湿度センサ27からの温度情報、湿度情報および電圧測定部28からの電圧情報は入力部21に入力する。
【0032】
水質計測センサ11,12および流向流速計13による計測は、制御部25にあらかじめプログラミングされた計測頻度で行われ、設定時刻になると水質計測センサ11,12,流向流速計13および制御ユニット16の各部21〜23が起動し、例えば、1秒間・30個の計測データの平均値が設定時刻の計測値として収録され、収録された計測データは、伝送時間ごとに通信ユニット15から図2の無線パケット網Pを介して地上局Tに無線伝送される。
【0033】
また、温度情報、湿度情報および電圧情報も同様にして設定時刻に通信ユニット15から図2の無線パケット網Pを介して地上局Tに無線伝送される。また、制御ユニット16は時計機能を有し、GPS信号で補正するので、計測の設定時刻は正確である。
【0034】
図1,図2の地上局Tに設置される情報処理装置31について図7を参照して説明する。図7は、図2の情報処理装置31の概略的構成を示すブロック図である。
【0035】
図7のように、情報処理装置31は、図2の無線パケット網Pを介して送信された水質監視装置1〜4の計測データが入力する入力部32と、計測データに基づいて所定の演算を行う演算部33と、計測データや濁度等の規制値・管理値等を記録し保存するハードディスクやフラッシュメモリ等からなるメモリ34と、濁度等の計測データを濁度等の規制値と比較して計測値が規制値を超えているか否かを判断する判断部35と、判断部35の判断結果や計測データを出力する出力部36と、出力部36からの判断結果や計測データを表示するCRTや液晶パネル等からなるモニタ表示部37と、各部32〜36を制御するプログラムが搭載された中央演算処理装置(CPU)から構成される制御部38と、を備える。
【0036】
出力部36からの判断結果や計測データは、図2のように、インターネットIを介して電子メールにより地上局Tから離れた遠隔地の工事関係事務所のPC41〜43、工事関係者の携帯電話44,45に送信される。また、収録された計測データは必要に応じて表計算ソフトで集計ができるようにCSV形式で保存されるようになっている。
【0037】
また、図1の作業船Wは、アンテナW2を有する通信ユニットW1を搭載しており、情報処理装置31の出力部36からの判断結果や計測データは、作業船Wの通信ユニットW1に無線伝送されるようになっている。
【0038】
次に、図1〜図7の水質監視システム10による工事水域の水質監視ステップS01〜S10について図8〜図10を参照して説明する。
【0039】
図8は図1〜図7の水質監視システム10による工事水域の水質監視ステップを説明するためのフローチャートである。図9は図1〜図7の水質監視システム10で計測された濁度の計測値の時間変化例を概略的に示すグラフである。図10は濁度の制限値を設定するステップを説明するためのフローチャートである。
【0040】
図8を参照して説明する。まず、複数の水質監視装置1〜4を図1の工事水域K内およびその近傍に図4、図5のように観測地点にそれぞれ設置する(S01)。
【0041】
工事水域Kについて濁度の制限値を設定し地上局Tの情報処理装置31のメモリ34に保存する(S02)。濁度の制限値は後述の図10のようにして設定される。
【0042】
次に、水質監視装置1〜4により各測定地点において濁度等の計測を始め(S03)、水質計測センサ11,12,流向流速計13から設定時刻に得た計測データを通信ユニット15から無線パケット網Pを介して地上局Tの情報処理装置31に無線伝送する(S04)。
【0043】
上述の計測データを地上局Tの情報処理装置31が受信し(S05)、情報処理装置31の判断部35で濁度の計測値が制限値を超えるか否かを監視する(S06)。そして、例えば、図9のように濁度の計測値が時間tで制限値を超えて逸脱すると、判断部35の判断に基づいて濁度が異常であるとして濁度の異常発生情報を発する(S07)。
【0044】
なお、地上局Tの情報処理装置31のモニタ表示部37には、例えば、図9のような時間により変化する濁度の計測データをリアルタイムに表示し、地上局Tの管理者が濁度の時間変化の状況を確認し易くなっている。
【0045】
濁度の異常発生情報は、地上局Tの情報処理装置31のモニタ表示部37に表示され、インターネットIを介して遠隔地の工事関係事務所のPC41〜43,工事関係者の携帯電話44,45に送信されるとともに作業船Wの通信ユニットW1にも送信される(S08)。作業船Wや工事関係者は濁度の異常発生情報を受信すると(S09)、即座に対応し、対策をとる(S10)。例えば、作業船Wでは作業を中止したり、作業手順を変えたり作業位置を変えたりすること等の対策を即座にとることが可能となる。
【0046】
なお、図8の濁度の計測(S03)は、一定の時間間隔や一定の時刻に行うように設定可能であるが、時刻により時間間隔を変えるようにしてもよく、例えば、昼間(5〜19時)は10分ごと、夜間(19〜5時)は60分ごとに計測する等にしてもよい。
【0047】
次に、図8のステップS02における濁度の制限値の設定について図10を参照して説明する。まず、水質監視装置4を図1の工事の影響を受けない水域の基準点Mにバックグランド計測のために設置する(S21)。一方、濁度の管理値Xを設定し、図7の情報処理装置31のメモリ34に保存する(S22)。
【0048】
次に、水質監視装置4により工事の影響を受けない水域の基準点Mの濁度をバックグランドの濁度情報として計測し、その濁度の計測値Yを得る(S23)。工事の影響のない水域の濁度の計測値Yは図8と同様に地上局Tに無線伝送され、情報処理装置31の演算部33で濁度の管理値Xと濁度の計測値Yに基づいて濁度の制限値Zを次式(1)により演算して設定する(S24)。演算された濁度の制限値Zは情報処理装置31のメモリ34に保存される。
Z=X+Y ・・・(1)
【0049】
なお、管理値Xは、工事水域毎に設定されることが好ましく、例えば、2〜10ppm内の一定値である。濁度の制限値Zは、例えば、管理値Xが2ppm、工事の影響を受けない水域の基準点の濁度の計測値Yが6ppmの場合、6ppm+2ppm=8ppmとなる。
【0050】
次に、図8のステップS03からの通常の計測を行う(S25)。この場合、図10のステップS26のように水質監視装置4で計測した濁度の計測値Yを更新することで濁度の制限値Zを更新するようにしてもよい。
【0051】
すなわち、濁度の計測値Yを更新する場合(S26)、設定した時刻や時間間隔でステップS23に戻り、工事の影響のない水域の基準点Mで濁度の計測値Yを新たに得て、この新たに得た濁度の計測値Yに基づいて新たな濁度の制限値Zを同様に演算して設定することで、濁度の制限値Zを更新することができる。図1の工事水域Kを含む現場水域が潮の流れの影響や河口近くのための影響を受け易いこと等に起因して工事の影響のない水域の濁度が変化する場合に、濁度の計測値Yを所定時刻等で更新し、濁度の制限値Zを更新することが好ましい。これにより、工事の影響ではなく他の原因による濁度の変化に対応した工事水域の水質監視を行うことができる。
【0052】
次に、水質監視装置1〜4の正常な動作を定期的に確認するステップについて説明すると、図8とほぼ同様のステップにより温度情報、湿度情報および電圧情報を水質監視装置1〜4の通信ユニット15から図2の無線パケット網Pを介して地上局Tに無線伝送され、情報処理装置31が受信し、各設定値と比較し、各設定値から逸脱しているとき、または、逸脱しなくとも大きな変化があったとき、温度情報、湿度情報、電圧情報に関する異常発生情報(逸脱発生情報)を発する。例えば、水質監視装置1〜4の設計値を温度60度以下、湿度50%以下、電源電圧は11.5〜13.5Vとした場合、これらの設計値に基づいて各設定値が設定される。
【0053】
上述の各異常発生情報は、地上局Tの情報処理装置31のモニタ表示部37に表示され、インターネットIを介して遠隔地の工事関係事務所のPC41〜43、工事関係者の携帯電話44,45に送信されるとともに作業船Wの通信ユニットW1にも送信される。これにより、水質監視装置1〜4の管理者は的確な維持・修理対策を講じることが可能となる。
【0054】
さらに、地上局Tの情報処理装置31は、GPS信号に基づく各水質監視装置1〜4の位置情報を定期的に受信し、水質監視装置1〜4の各位置が設置した観測点、基準点に対し許容値内であることを監視し、許容値外となったとき、各位置が所定範囲から逸脱したと判断し、水質監視装置の位置に関する異常発生情報(逸脱発生情報)を発する。この異常発生情報は、地上局Tの情報処理装置31のモニタ表示部37に表示され、インターネットIを介して遠隔地の工事関係事務所のPC41〜43、工事関係者の携帯電話44,45に送信されるとともに作業船Wの通信ユニットW1にも送信される。これにより、水質監視装置1〜4の管理者は的確な維持・修理対策を講じることが可能となる。
【0055】
以上のように、本実施の形態の水質監視システムによれば、水質計測センサ11,12等を取り付けた水質監視装置1〜4を工事水域K内および工事水域Kの近傍に設置し、濁度を昼夜連続してリアルタイムに計測することができる。濁度の計測データが地上局T(管理事務所)に無線伝送され、情報処理装置31で制限値と比較され、制限値を超えた場合には、工事関係者に異常発生を自動的にかつ迅速に通知することができる。すなわち、水質監視装置1〜4からの濁度の計測データは、自動的に地上局Tの情報処理装置31に送られ、工事水域ごとに定められた制限値との比較がコンピュータ(情報処理装置31)で行われ、人間が介在しないことからヒューマンエラーを回避でき、かつ迅速な処理が可能となる。このように、水質監視のための各処理はコンピュータで自動的に行われるため、濁度の異常発生情報が発せられると、工事関係者は異常発生情報を早期に入手することができ、的確な汚濁拡散対策を講じることが可能になる。
【0056】
上述の濁度の計測データや濁度の異常発生情報は、携帯電話網等の無線パケット網、インターネット回線を介し複数の工事関係事務所にリアルタイム伝送することができ、携帯電話網、インターネット回線を利用することで一度に複数の工事関係事務所を対象に送ることができ、信頼性が高くかつ複数の関係者が容易に計測データを取得可能な計測データ伝送網を構築できる。
【0057】
水中工事では、濁りの発生や水質変化を最小限にするために施工時の水質環境の監視が重要となるが、本実施の形態の水質監視システムにより、工事水域の水質環境をリアルタイムかつ高精度に遠隔監視し、水質汚濁拡散など環境への影響を即座に把握することが可能であり、作業船Wに迅速にフィードバックすることで、汚濁拡散防止対策を迅速に実施できる。また、遠隔監視であることから水上での計測作業を軽減でき、荒天時にも安全に計測データを取得ができる。また、昼夜連続した計測データの収録が可能であり、万一の場合のアカウンタビリティ(説明責任)の向上に寄与できる。
【0058】
また、水質監視装置1〜4の信頼性向上対策として、水質監視装置の温度、湿度、電圧を昼夜連続してリアルタイムに監視し、温度、湿度、電圧が設定値を逸脱した場合、または、大きな変化があった場合は、工事関係者に異常発生情報を即座に連絡することができる。これらの処理はコンピュータで自動的に行われ、人間が介在しないことからヒューマンエラーを回避でき、かつ迅速な処理が可能であり、装置の管理者は水質監視装置の的確な維持・修理対策を講じることが可能になる。
【0059】
また、GPS信号を受信することで各水質監視装置1〜4の位置を昼夜連続してリアルタイムに監視し、水質監視装置1〜4の位置が許容値を超えて所定の範囲外に移動したと判断された場合、工事関係者に異常発生情報を即座に連絡することができる。これらの処理はコンピュータで自動的に行われ、人間が介在しないことからヒューマンエラーを回避でき、かつ迅速な処理が可能である。ここで、許容値とは、図4の装置の係留ロープR1の余裕長から求められる水質監視装置の移動範囲であり、例えば、5mに設定できる。水質監視装置1〜4の位置の計測値が許容値を超えた場合は波浪等の影響で係留ロープが切断され、水質監視装置が流されている状況が想定される。こういった異常発生情報を工事関係者に迅速に伝達することで、他船舶との衝突等、第3者への危険を低減することができる。
【0060】
上述のように、水質監視装置の温度・湿度・電源電圧・位置情報を、濁度の計測データと同様に携帯電話網、インターネット回線を介し複数の装置管理者に迅速かつ確実に伝送することができる。このように、水質監視装置の管理に関しても、携帯電話網、インターネット回線を利用することで信頼性の高いデータ伝送網を構築できる。
【0061】
以上のように本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。例えば、図1のように複数の水質監視装置1〜4を設置することで広範な水域観測網が容易に構築でき、水質監視装置の台数も水域観測の広狭に応じて増減できるが、広範な水域観測網が不要な場合等には、水質監視装置は観測点に1基、バックグランド計測として基準点に1基だけ設置するようにしてもよい。
【0062】
また、図2では、地上局Tから遠隔地に異常発生情報等を送る場合に、インターネットの一般回線を介したが、専用回線であってもよいことはもちろんである。
【0063】
また、図1,図2では、情報処理装置31を地上局Tに設置したが、本発明はこれに限定されず、例えば、作業船Wに設置し、その通信ユニットW1と併設するようにしてもよい。
【0064】
また、図2では、水質監視装置1〜4と情報処理装置31との情報伝送は、無線パケット網を介したが、これに限定されず、無線通信により直接行うようにしてもよいことはもちろんである。
【0065】
また、情報処理装置31から水質監視装置1〜4に対し情報を送信可能に構成でき、例えば、濁度の計測やバックグランド計測の時間間隔や時刻等の設定を必要に応じて変更するようにしてもよい。
【0066】
また、水質監視装置1〜4の外部に温度センサ、湿度センサ、風向風速計等を搭載し、工事水域の環境温度、環境湿度、風向風速等を計測し、情報処理装置31に同様に伝送するようにしてもよく、工事水域の環境温度、環境湿度、風向風速等を確認でき、工事水域の環境状態をより詳しく把握可能となる。
【0067】
また、水質監視システムで監視対象とする水質は、本実施の形態では、濁度・クロロフィルとして説明したが、本発明はこれに限定されず、溶存酸素(DO)、pH、塩分、COD、BOD、硫化水素等の他の水質であってもよく、該当する水質計測センサを用い、同様に管理値及び制限値を設定して監視可能である。
【0068】
また、本実施の形態では、濁度の計測値が制限値を超えて逸脱したとき、逸脱発生情報として異常発生情報を発するようにしたが、本発明は、これに限定されず、制限値を複数段階で設定してもよく、例えば、濁度の制限値を第1上限値a、第2上限値b(a<b)の二段階に設定し、濁度の計測値が第1上限値aを超えて逸脱したとき、工事関係者に注意を喚起するための注意喚起情報を発し、第2上限値bを超えて逸脱したとき、濁度に異常が発生したとして異常発生情報を発するようにしてもよい。この場合、注意喚起情報を発する第1上限値aに対応した管理値c、および、異常発生情報を発する第2上限値bに対応する管理値d(c<d)を情報処理装置31にそれぞれ設定し記憶させておく。他の水質で管理する場合も同様にして制限値を複数段階に設定してもよい。さらに、水質監視装置の温度・湿度・電源電圧・位置情報についても、設定値または許容値を二段階に設定し、注意喚起情報と異常発生情報を逸脱発生情報として発するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本実施の形態による水質監視システムの配置例を概略的に示す図である。
【図2】図1の水質監視システムの全体構成を説明するための概念図である。
【図3】図1の水質監視装置1〜4の概略的構成を示す図である。
【図4】図3の水質監視装置1〜4の具体的構成例を示す図である。
【図5】図4の水質監視装置1〜4が水面に浮いている様子を示す外観図である。
【図6】図1〜図5の水質監視装置1〜4の計測系・制御系の構成例を示すブロック図である。
【図7】図2の情報処理装置31の概略的構成を示すブロック図である。
【図8】図1〜図7の水質監視システム10による工事水域の水質監視ステップを説明するためのフローチャートである。
【図9】図1〜図7の水質監視システム10で計測された濁度の計測値の時間変化例を概略的に示すグラフである。
【図10】図8で濁度の制限値を設定するステップを説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0070】
1,2,3,4 水質監視装置
10 水質監視システム
11,12 水質計測センサ
13 流向流速計
15 通信ユニット
16 制御ユニット
17 電源ユニット
31 情報処理装置
I インターネット
K 工事水域
P 無線パケット網
T 地上局
X 管理値
Y 計測値
Z 制限値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工事水域における水中の水質の制限値を情報処理装置が記憶し、
水質計測センサを取り付けた水質監視装置を前記工事水域に設置し、
前記水質計測センサにより水質をリアルタイムに計測し、
前記計測されたデータを前記水質監視装置から前記情報処理装置に伝送し、
前記情報処理装置で前記計測データを前記制限値と比較し、前記計測データが前記制限値を逸脱したときその逸脱発生情報を前記情報処理装置が発することを特徴とする水質監視方法。
【請求項2】
前記制限値は、前記工事水域での工事の影響を受けない水域の水質と、前記工事水域に設定された管理値とに基づいて設定される請求項1に記載の水質監視方法。
【請求項3】
前記管理値を前記情報処理装置が記憶し、
前記水質監視装置とは別の水質監視装置が前記工事水域での工事の影響を受けない水域の水質を計測し、その計測値を前記情報処理装置に伝送し、前記情報処理装置が前記管理値および前記計測値から前記規制値を算出する請求項2に記載の水質監視方法。
【請求項4】
前記工事水域での工事の影響を受けない水域の水質を所定時間に計測し、その計測値に基づいて前記規制値を更新する請求項3に記載の水質監視方法。
【請求項5】
前記水質監視装置は、濁度、クロロフィル、溶存酸素(DO)、pH、塩分、COD、BOD、硫化水素の内の少なくとも1つを計測する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の水質監視方法。
【請求項6】
水質計測センサおよび通信部を有し工事水域に設置される水質監視装置と、
各種情報を入力し記憶し情報処理を行う情報処理装置と、を備え、
前記情報処理装置が前記工事水域について水中の水質の制限値を記憶し、
前記水質計測センサがリアルタイムに計測したデータを前記水質監視装置が前記通信部から前記情報処理装置に伝送し、
前記情報処理装置で前記計測データを前記制限値と比較し、前記計測データが前記制限値を逸脱したときその逸脱発生情報を前記情報処理装置が発することを特徴とする水質監視システム。
【請求項7】
前記情報処理装置が前記工事水域に設定された管理値を記憶し、
前記水質監視装置とは別の水質監視装置が前記工事水域での工事の影響を受けない水域の水質を計測し、その計測データを前記情報処理装置に伝送し、前記情報処理装置が前記管理値および前記計測データから前記規制値を算出する請求項6に記載の水質監視システム。
【請求項8】
前記工事水域での工事の影響を受けない水域の水質を所定時間に計測し、その計測値に基づいて前記規制値を更新する請求項7に記載の水質監視システム。
【請求項9】
前記水質監視装置は、前記水質監視装置の位置を検知する位置検知部を備え、
前記水質監視装置の位置情報を前記通信部から前記情報処理装置に伝送し、
前記情報処理装置で前記位置情報を予め設定した設定値と比較し、前記設定値を逸脱したときその逸脱発生情報を前記情報処理装置が発する請求項6乃至8のいずれか1項に記載の水質監視システム。
【請求項10】
前記水質監視装置は、前記水質監視装置の温度および湿度を計測する温湿度センサと、電源部と、を備え、
前記温湿度センサで計測した温度情報、湿度情報および前記電源部の電圧情報を前記通信部から前記情報処理装置に伝送し、
前記情報処理装置で前記温度情報、前記湿度情報および前記電圧情報の内の少なくともいずれか1つを予め設定した設定値と比較し、前記いずれか1つの情報に関し前記設定値を逸脱したときその逸脱発生情報を前記情報処理装置が発する請求項6乃至9のいずれか1項に記載の水質監視システム。
【請求項11】
前記計測データが前記水質監視装置の通信部から無線パケット網を介して前記情報処理装置に伝送され、
前記各逸脱発生情報がネットワークを介して前記工事水域から離れた位置に設置された情報端末装置に送信される請求項6乃至10のいずれか1項に記載の水質監視システム。
【請求項12】
前記水質監視装置は、濁度、クロロフィル、溶存酸素(DO)、pH、塩分、COD、BOD、硫化水素の内の少なくとも1つを計測する請求項6乃至11のいずれか1項に記載の水質監視システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−214042(P2009−214042A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61221(P2008−61221)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】