説明

水道用水へ添加する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存方法及びその装置。

【課題】 水道用水を消毒するために注入する次亜塩素酸ナトリウム溶液を保存する場合に、その品質を保持する手段として、地下水を利用する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存方法及びその装置をを提供する。
【解決手段】 次亜塩素酸ナトリウム溶液を水温14から17℃の地下水により間接冷却して保存する装置であって、該地下水を流出入させ、かつ、該地下水を満たしている外槽と、次亜塩素酸ナトリウム溶液を溜めて保存する複数で、該外槽内に夫々が相互に平面的に離間して配設した筒状の内槽とから構成し、前記複数の筒状内槽の各上部を連通する上部連通部及び各下部を連通する下部連通部を設け、該上部連通部には注液管を接続して設け、該下部連通部には送液ポンプに連なる吐出管を接続して構成し、前記筒状の内槽が、内面を耐食性の合成樹脂皮膜で被覆された金属製であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水道用水を消毒するために添加する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水道水の消毒は、水道法の規定により塩素によるものとなっており、その塩素消毒剤として、液化塩素に比べて安全性が高く、取り扱いが容易である次亜塩素酸ナトリウムが主として使用されている。しかし、次亜塩素酸ナトリウムは、反応性が高く、劣化しやすい化学薬品であることや、人が飲用する水に添加するものであることから、適切な取り扱いとその性状を保持するために適した維持管理が必要である。近年、次亜塩素酸ナトリウムの不適切な管理により、次亜塩素酸ナトリウム中の有効塩素の減少や、不純物として含まれる塩素酸の増加などの知見が明らかとなった。
【0003】
従来例として、地下水を汲み上げて水道用水として利用する場合を、図3のフロー図に示しているが、井戸10からポンプ10aで汲み上げられた地下水は受槽11に入り、さらにポンプ11aで送水受槽12へ送水する途中で、次亜塩素酸ナトリウム溶液槽2から次亜塩素酸ナトリウム溶液が送液ポンプ7により地下水である水道用水に注入されて消毒が行われる。そして、送水ポンプ12aにて水道用水を後処理装置又は需要先へ送水する。
【0004】
通常、市販の水道用次亜塩素酸ナトリウム溶液は主成分である有効塩素が12wt%以上、PH12以上の淡緑黄色の透明な液体である。製品は、次亜塩素酸ナトリウム(塩素分35.5wt%)の他に、その分解を抑制するための水酸化ナトリウム、食塩、次亜塩素酸ナトリウムの酸化物として亜塩素酸ナトリウムと塩素酸ナトリウム、及び製造時の不純物である臭素酸を含む水溶液である。また、次亜塩素酸ナトリウム溶液は不安定な物質であり、保存中に徐々に自己分解して塩化ナトリウムと酸素を生成する。その際の副反応として亜塩素酸ナトリウムを経て、塩素酸ナトリウムを生成する。
【0005】
上記のように、次亜塩素酸ナトリウム溶液の分解は、常温でも不安定な化合物で徐々に自然分解するし、日光、特に紫外線により分解が促進されるし、また、温度の上昇とともに分解率が上昇するという特徴がある。よって、次亜塩素酸ナトリウムは時間とともに分解し、有効塩素は減少し、かつ、塩素酸は増加する。その関係は、有効塩素が1%減少すると塩素酸が約3,500mg/kg増加すると言われる。また、次亜塩素酸ナトリウムは保管温度が高いと分解が速く、有効塩素濃度が急激に減少し、逆に塩素酸濃度が急激に増加する。この温度の影響は、例えば、有効塩素12%のものが10%に減少し、塩素酸が初期濃度よりも更に7,000mg/kg増加するまでの期間は、温度要件だけを考慮した場合、30℃で保管すると約20日、20℃で保管すると約80日と言われる。
【0006】
一方、次亜塩素酸ナトリウムなどの水道用水又はその処理過程で水に注入される薬品等の物質は、水道法で規定する薬品基準に適合することが必要で、次亜塩素酸ナトリウムの特に注意すべき薬品基準項目は、塩素酸と臭素酸である。塩素酸については、水道水などの浄水での検出状況を踏まえ、平成20年4月から、水質基準項目(基準値0.6mg/L以下)へ追加され、薬品基準についても現行基準値0.6mg/L以下から0.4mg/L以下と強化される。
【0007】
前述のことから、水道水は飲用目的に使用されるため、水道水中に注入される次亜塩素酸ナトリウムは、不純物含有量が少ない高品質のものが望ましい。次亜塩素酸ナトリウムは、製造段階においてグレードが異なることや、時間の経過とともに塩素酸が増加し品質が劣化するため、水道用の次亜塩素酸ナトリウムは品質のよい順に一級、二級、三級と設定されている。例えば、有効塩素濃度12%、塩素酸4,000mg/kgの一級品を、出荷時から20℃以下で保管すれば、塩素としての最大注入率が10ppmの場合でも、少なくとも7日後までは、塩素酸の薬品基準0.4mg/L以下を確保できるものとされている。また、二級品は塩素酸の含有率がより高く設定されているので、最大注入率は4ppmと低くなる。
【非特許文献1】「水道用薬品等基準に関する調査報告書」日本水道協会
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、水道用水の消毒用に注入する次亜塩素酸ナトリウム溶液の品質を維持して保存することは、貯蔵期間が経過しても、有効塩素量の低下を防ぎ、かつ、有害とされる塩素酸含有量の増加を防止できているので、消毒に際し次亜塩素酸ナトリウム溶液の注入量を徒に増加させる必要がなく、ひいては水道用水の塩素酸含有量の増加を防止し、水質基準を守ることができる。
【0009】
前述の先行文献には、次亜塩素酸ナトリウム溶液の品質を維持して保存する方法として、時間経過とともに分解することを抑制するのが重要で、低温保存が簡便で効果的とされ、具体的には、日差しを遮る屋根を設けたり、断熱材や水を用いた冷却に効果があり、効率的とされている。特に、室内保管の場合は、風通しを良くしたり、エアコンによる室内冷却もよいとされている。
【0010】
本発明は、かかる冷却保存の課題を解決するために為したものであって、地下水を水道用水とする施設において、水道用水を消毒するために注入する次亜塩素酸ナトリウム溶液を保存する場合に、その品質を保持する手段として、注入量に対し消毒処理する地下水が多量であって、かつ、水温が低いことに着目して、地下水を利用する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、請求項1に係わる水道用水へ添加する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存方法の発明は、汲み上げた地下水に次亜塩素酸ナトリウム溶液を注入して消毒する水道用水の処理において、水温14から17℃の該地下水を用いて注入用の次亜塩素酸ナトリウム溶液を間接的に冷却して20℃以下で冷却保存することにより、次亜塩素酸ナトリウム溶液中の有効塩素分の減少と塩素酸含有量の増加を抑制することを特徴とする。また、請求項2に係わる水道用水へ添加する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存方法の発明は、請求項1に記載の次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存方法において、前記次亜塩素酸ナトリウム溶液を分割して複数の容器に収納し、夫々の該容器を前記地下水にて間接冷却することを特徴とする。
【0012】
地下水を汲み上げ水道用水として利用する場合に、消毒用として注入される次亜塩素酸ナトリウム溶液(以後、薬液とも称する。)の注入量を例えば100ppmとすれば、これに相当する地下水の量は薬注量の10,000倍になるので地下水の量が圧倒的に多く、また地下水は季節を通じて水温の変化が少なく、かつ水温が14〜17℃と、次亜塩素酸ナトリウム溶液の品質が変化しにくい保存温度とされる20℃よりも低いので、この地下水の水温とその量を貯蔵する次亜塩素酸ナトリウム溶液の間接冷却に活用する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存方法である。間接冷却にすると、薬液と冷却水が直接接触しないことになり、薬液の希釈や冷却水による汚染の問題がない。上記のように、次亜塩素酸ナトリウム溶液を20℃以下に冷却保存することにより、次亜塩素酸ナトリウム溶液中の有効塩素分の減少と塩素酸含有量の増加を抑制することができるので、水道用水の消毒に際して、注入有効塩素量を一定とすれば、水道用水への次亜塩素酸ナトリウム溶液の注入量が少なくて済むので、塩素酸含有量も少なくすることが可能となる。
【0013】
次亜塩素酸ナトリウム溶液は分解し易い物質であるため、冷却のための地下水と薬液の熱交換は、薬液の強制撹拌は分解を促進する恐れがあるために採用できず、自然対流及び伝熱による熱交換となる。この熱交換の効率を上げるために、保存容量に対する保存容器の熱伝達面積をできるだけ増加させる必要がある。これを実現する方法として、保存容器をn個に分割し、かつ結合する手段を採用した。この結果、総熱伝達面積は、分割しない場合に比し、n個に分割すれば√n倍になり、熱伝達に貢献することができる。さらに、分割した保存容器を夫々個別に配設することにより、地下水の水流が夫々の分割容器により乱されて接触するから熱伝達を促進すると考えられる。
【0014】
また、請求項3に係わる水道用水へ添加する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存装置の発明は、次亜塩素酸ナトリウム溶液を水温14から17℃の地下水により間接冷却して保存する装置であって、該地下水を流出入させ、かつ、該地下水を満たしている外槽と、次亜塩素酸ナトリウム溶液を溜めて保存する複数で、かつ、該外槽内に夫々が相互に平面的に離間して配設した筒状の内槽と、から構成することを特徴とする。また、請求項4に係わる水道用水へ添加する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存装置の発明は、請求項3に記載の次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存装置において、前記複数の筒状内槽の各上部を連通する上部連通部及び各下部を連通する下部連通部を設け、該上部連通部には注液管を接続して設け、また、該下部連通部には送液ポンプに連なる吐出管を接続して設けて構成することを特徴とする。また、請求項5に係わる水道用水へ添加する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存装置の発明は、請求項3又は4に記載の次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存装置において、前記筒状の内槽が、内面を耐食性の合成樹脂皮膜で被覆された金属製であることを特徴とする。
【0015】
前述の請求項1又は2に係る水道用水へ添加する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存方法を具現化したものであって、水温14〜17℃の低温の地下水を利用して、次亜塩素酸ナトリウム溶液の貯蔵液を20℃以下に冷却することを目的としたもので、温度が上がると分解しやすい次亜塩素酸ナトリウム溶液を地下水で効率よく冷却することにより分解を抑制することを狙った設備である。その主たる点は、次亜塩素酸ナトリウム溶液は均熱のため、即ち温度勾配を無くして熱交換をよくするための強制攪拌が分解を進める恐れがあってできないので、容器表面から溶液へと通過する熱流を増加させるために、容器を分割して複数の容器とし、その総容器表面積を増加させたこと、容器自体を熱伝導の良い金属製としたこと(但し、次亜塩素酸ナトリウム溶液は腐食性が強いので、容器内面に耐食性の合成樹脂皮膜を設けたこと)、分割した各容器の溶液レベルを同一にするために、容器下部に連通部を設けたこと、また後入れ先出しを狙って、上部に連通部を設け、上部から溶液の補給注入は各容器に対して均一に供給され、かつ下部からはできるだけ均一に払い出しできるようにしたことである。また、分割した容器にすることで、容器内径が小さくなり、溶液温度の断面方向の均一化がやりやすい。また、地下水を流出入させる外槽は、基本的に下部から入れ、温くなった流出水は上部から出すこと、外槽に対して平面的に旋回流を起こすように入れること、流れが槽内でショートカットしないように整流板を設けたことにより、内槽と地下水流との接触を良好にして、地下水から溶液への熱交換を進めたことである。
【0016】
請求項2〜4までの本発明装置によれば、消毒用次亜塩素酸ナトリウム溶液を数日分から一ヶ月超分まで貯蔵し保存する装置であって、外槽内に複数の筒状の次亜塩素酸ナトリウム溶液容器である内槽を夫々が相互に平面的に離間して配設したものである。また、各内槽は上部及び下部に相互に内槽を連通する連通部を設けているので、内槽への薬液の注入又は払い出しにおいて、各内槽の薬液高さを同一にすることができるし、また各内槽の注入量又は払出量を同じようにすることができる。また、外槽は内槽以外の部分に冷却用の地下水が満たされ、かつ地下水を外部から旋回流で流入させ、また整流板を設けて、地下水を淀みなく入れ替えるようにしている。被冷却対象である内槽は冷却水中に浸漬していると同時に、流出入する冷却水に表面を洗われて、内槽の槽璧を通じて熱交換を行い、地下水により次亜塩素酸ナトリウム溶液が効率よく冷却されることになる。
【発明の効果】
【0017】
本発明による請求項1又は2の水道用水へ添加する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存方法によれば、地下水の低温を活用して熱交換を行うことにより、次亜塩素酸ナトリウム溶液を分解が進みにくい温度に貯蔵・保存することができるから、次亜塩素酸ナトリウム溶液の有効塩素量が低減することを防止するとともに、塩素酸量の増加を防止することが可能となる。これにより、水道用水の有効塩素による消毒に際し、添加する次亜塩素酸ナトリウム溶液を徒に増加させる必要がなくなるので、塩素酸含有量の増加を少なくすることができ、有害な塩素酸量を水道の水質基準内に抑えることが容易にできる。また、本発明方法は簡易な方法であるから、容易に実施化することができる。
【0018】
また、請求項3から5の水道用水へ添加する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存装置によれば、低温の地下水を活用して次亜塩素酸ナトリウム溶液の貯蔵・保存温度を20℃以下に維持できる簡易な設備であるから、装置の設置費用も安価であり、また、運転も簡易で、自動化をし易く、省力的な設備である。また、保全費用も過大にならないと見込まれる。また、本発明装置は、次亜塩素酸ナトリウム溶液の貯蔵量、取扱い量の大小にかかわらず適用ができるので、汎用性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の最良の実施形態を説明すると、図1は、本発明の最良の実施形態である水道用水へ添加する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存方法及びその装置の説明図であって、模式的フロー図である。また、図2は、本発明の最良の実施形態である水道用水へ添加する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存装置の説明図であって、(a)は、次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存装置の模式的断面図、(b)は、A−A矢視断面図、(c)は、B−B矢視断面図である。
【0020】
本発明に係る水道用水へ添加する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存方法及びその装置を用いる実施の形態を説明すると、図1に示すように、地下水を原水とする水道用水処理設備1であって、浅井戸又は深井戸10から汲み上げた水温14〜17℃の地下水を送水ポンプ10aにて地下水受槽11へ送る。地下水受槽11から送水ポンプ11aにて送水受槽12へ送水するが、その一部は分岐して次亜塩素酸ナトリウム溶液保存槽2の冷却用に経由した後、送水受槽12へ行く。送水受槽12から送水ポンプ12aにより水道水の需要先又は水道用水の最終処理設備へ送水するが、その途中の送水ポンプ12aの出口付近で、送水する水道用水に次亜塩素酸ナトリウム溶液保存槽2から所定注入量を送液ポンプ7により取り出して注入し消毒を行う。この注入システムは定法のものであり、送水量に対して所定比率で注入する注入比例制御を用いることができるので、特に図示しない。
【0021】
図2に基いて本発明に係る次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存装置を説明すると、次亜塩素酸ナトリウム溶液保存槽2は円筒形の外槽3と、外槽3内に相互に間隔を持たせ、平面的に環状に配設された6本の円筒形の内槽4と、から主として構成される。例えば、水道用水300m3/日で、有効塩素として10ppm注入可能であるとすれば、1日当たり次亜塩素酸ナトリウム溶液(有効塩素10%)の注入量は30Lに相当し、20日分保存するとすれば600Lの保存槽が必要となる。これに見合う6本構成の内槽4は、内径400mm、高さ900mm位となる。(因みに1本構成の内槽4では内径1000mm、高さ900mm位となる。)外槽3は、内径1600mm、高さ1500mm程度になる。これらの数値は、あくまで例示であり、これらの数字に拘束されることはない。
【0022】
前述した6本の内槽4の総表面積は、これらの内容量の合計に相当する1本の内槽の表面積に比し、約2.45倍(√6倍)になる。このように、同一の内容量であっても、1本の内槽の表面積に比し、N本分割した内槽の場合には、その総表面積は√N倍と大きくすることができる。内槽4の総表面積の拡大により内槽4の表面壁を挟んで、冷却用の地下水と槽内の溶液との熱交換量が増大することが可能となる。また、内槽4の内径を1本の内槽に比べ小さくすることができるので、内槽4の溶液2aの温度を断面方向において均一化しやすい。
【0023】
内槽4の材質は、熱交換の観点から熱伝導性の良い金属製であることが好ましい。内部の次亜塩素酸ナトリウム溶液2aは、酸化性、腐食性が高いので、金属はチタンが最適であるが、被加工性とコストの点からの問題がある。よって、鋼管製で、内面に耐食製の合成樹脂皮膜を施すのが好適である。合成樹脂としては、塩化ビニール、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、弗素樹脂等がよい。
【0024】
また、6本の内槽4は、夫々の下部が下部連通部5と接続して、相互に連通される。下部連通部5の中央下部に送液ポンプ7が接続され、送液ポンプ7により溶液2aを抜き出して消毒用の注入に用いることができる。また、6本の内槽4は、夫々の上部が上部連通部6と接続して、相互に連通される。上部連通部6の中央上部に注液管8が接続され、注液管8にて次亜塩素酸ナトリウム溶液を補給し、各内槽4にほぼ均等に供給される。この上下連通部6,5は大径の皿状円筒で形成し、この円筒に内槽4の上下端を接続して連通する。これらの連通部5,6の存在により、溶液2aの補給又は抜出しを行っても、各内槽4の溶液レベル2aをほぼ同一に維持することができ、地下水3aによる冷却を均等に、偏りなく行うことができるので、溶液2aの温度が場所に関係なく同じようになり、局部的に液温が高い所が出現しないようにしている。
【0025】
外槽3は内部に冷却用の水温14〜17℃の地下水3dが充満しているもので、下部の地下水入口3aである配管は槽3に対して接線方向に接続されているので、流入した地下水流は平面的に旋回するように流れる。また、外槽3からの冷却排水は上部に設けられた地下水出口3bから溢流して流出し、送水受槽12へ行く。また、外槽3内には、高さ方向に3段の勾配のある違い棚状の整流板3cを設けている。これらにより、流入した地下水3dがショートカットして溢流することなく、内槽4の外表面を洗うように流れて効率よく冷却することができる。また、整流板3cは6本の内槽4を所定位置に固定する支持具として兼用できる。また、外槽3の天井部は日光や外気を遮断する球面状の覆いを設ける。また、外槽3の本体は鋼板製でも、合成樹脂製でもよく、鋼板製の場合は熱伝導性が良いので、外表面に断熱を施すのがよい。
【0026】
次亜塩素酸ナトリウム溶液保存槽2の中に液温20℃以下で保存された次亜塩素酸ナトリウム溶液2aは、送液ポンプ7により抜き出されて、送水ポンプ12aからの水道用水に、送水ポンプ12a出口付近で所定量が注入されて、水道用水の消毒が行われる。図示していないが、送水ポンプ12aの送水量に対して所定比率が設定された溶液量に等しくなるように、送液ポンプ7からの液量を制御して注入する。これらの注入液量制御は、定法のもので、流量計と流量調節弁から構成する液量制御ループを用い、送水量の測定値に連動する設定比率を掛け合せた設定液量に等しくなるように注入量を制御するやり方で行うことができる。送液ポンプ7の一例として、モータ駆動のダイアフラム式でデジタル定量ポンプ(商品名、グルンドフォス社デジタル定量ポンプ)が吐出量のデジタル制御方式の適用で好適である。
【0027】
また、次亜塩素酸ナトリウム溶液保存槽2に保存されている溶液2aの温度を20℃以下の設定温度に保持する制御には、各内槽4の液温を測定して、設定液温になるように冷却の地下水3dの流量を入り切りするオンーオフ制御又は流量制御を用いることができる。
【0028】
本発明に係る水道用水へ添加する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存方法とその装置を用いて、水道用水を消毒する場合に、有効塩素量を多く必要とする際に、有効塩素濃度が12〜13%と高い溶液を注入するのが、注入量が少なくて済むので、水道用水中の塩素酸濃度を0.4mg/L以内の規制値に抑えやすい。この場合には、次亜塩素酸ナトリウム溶液に含有する塩素酸濃度を保存中に増加させないことが重要となる。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示すように、次亜塩素酸ナトリウム溶液を保存温度20℃で保存すると、保存温度30℃の場合と比較して、経過日数とともに、減少傾向にある有効塩素濃度の低下を少なくすることが、また、低下に伴う塩素酸濃度の増加も極めて少なくすることができる。例えば、保存温度30℃の次亜塩素酸ナトリウム溶液であれば、経過日数とともに有効塩素濃度が低下するから、有効塩素量を一定量必要とする水道用水の消毒のためには、溶液の注入量をさらに増加させる必要があるが、一方では、それに伴う塩素酸濃度が水道用水中に過剰に増加し規制値を超える恐れがあり、結局、溶液の注入量を減らさざるを得ず、所期の消毒の目的が達せられないことになる。
【0031】
これらの観点からも、本発明に係る水道用水へ添加する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存方法とその装置は、次亜塩素酸ナトリウム溶液を20℃以下に容易に確実に保存することができるので、水道用水の消毒作業により良い効果をもたらし、ひいては、有害な塩素酸濃度の増加を抑制できるので、好適である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
工業及び商業施設を問わず、住宅設備に於いても、水道用水の消毒用に注入する次亜塩素酸ナトリウム溶液に関する保存について広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の最良の実施形態である水道用水へ添加する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存方法及びその装置の説明図であって、模式的フロー図である。
【図2】本発明の最良の実施形態である水道用水へ添加する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存装置の説明図であって、(a)は、次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存装置の模式的断面図、(b)は、A−A矢視断面図、(c)は、B−B矢視断面図である。
【図3】従来の水道用水へ添加する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存方法及びその装置。の説明図であって、模式的フロー図である。
【符号の説明】
【0034】
1:水道用水処理設備 2:次亜塩素酸ナトリウム溶液保存槽 2a:溶液
3:外槽 3a:地下水入口 3b:地下水出口 3c:整流板
3d:地下水 4:内槽 5;下部連通部 6:上部連通部
7:送液ポンプ 8:注液管
10:井戸 10a:送水ポンプ 11:地下水受槽 11a:送水ポンプ
12:送水受槽 12a:送水ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汲み上げた地下水に次亜塩素酸ナトリウム溶液を注入して消毒する水道用水の処理において、水温14から17℃の該地下水を用いて注入用の次亜塩素酸ナトリウム溶液を間接的に冷却して20℃以下で冷却保存することにより、次亜塩素酸ナトリウム溶液中の有効塩素分の減少と塩素酸含有量の増加を抑制することを特徴とする水道用水へ添加する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存方法。
【請求項2】
前記次亜塩素酸ナトリウム溶液を分割して複数の容器に収納し、夫々の該容器を前記地下水にて間接冷却することを特徴とする請求項1に記載の水道用水へ添加する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存方法。
【請求項3】
次亜塩素酸ナトリウム溶液を水温14から17℃の地下水により間接冷却して保存する装置であって、該地下水を流出入させ、かつ、該地下水を満たしている外槽と、次亜塩素酸ナトリウム溶液を溜めて保存する複数で、かつ、該外槽内に夫々が相互に平面的に離間して配設した筒状の内槽と、から構成することを特徴とする水道用水へ添加する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存装置。
【請求項4】
前記複数の筒状内槽の各上部を連通する上部連通部及び各下部を連通する下部連通部を設け、該上部連通部には注液管を接続して設け、また、該下部連通部には送液ポンプに連なる吐出管を接続して設けて構成することを特徴とする請求項3に記載の水道用水へ添加する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存装置。
【請求項5】
前記筒状の内槽が、内面を耐食性の合成樹脂皮膜で被覆された金属製であることを特徴とする請求項3又は4に記載の水道用水へ添加する次亜塩素酸ナトリウム溶液の保存装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−263161(P2009−263161A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114036(P2008−114036)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(505167923)株式会社ワイドハーバー (3)
【Fターム(参考)】