水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法及び製造装置
【課題】品質のばらつきを抑えて、水酸アパタイトを主成分とする吸着材を安定に製造する方法を提供する。
【解決手段】アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比と、水酸アパタイトの合成反応条件から、水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となるリン抽出液の最適条件を求め、次いで、該最適条件とリン抽出液のリン濃度実測値からリン抽出液の最適アルカリ濃度を算出し、アルカリ濃度が該最適濃度よりも低いときに、リン抽出液にアルカリを添加して最適アルカリ濃度に調整する。
【解決手段】アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比と、水酸アパタイトの合成反応条件から、水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となるリン抽出液の最適条件を求め、次いで、該最適条件とリン抽出液のリン濃度実測値からリン抽出液の最適アルカリ濃度を算出し、アルカリ濃度が該最適濃度よりも低いときに、リン抽出液にアルカリを添加して最適アルカリ濃度に調整する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法及び製造装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、埋立処分されている廃棄物の中で処分量が極めて多く社会問題化している石膏ボード廃棄物と下水汚泥焼却灰などの下水汚泥原料とを活用して水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造する方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気事業から発生する脱硫石膏の量は2005年度では190万トンであったことが報告されている(非特許文献1)。この量は、発電に伴う副生成物の中では石炭灰に次いで多い。現在、そのほぼ全量が石膏ボード及びセメント原料として有効活用されている。
【0003】
その一方で、建築系廃棄物である石膏ボードの埋め立てに伴う環境問題がわが国において顕在化しつつある。2006年6月には、従来は安定型処分の許されていた「紙を除去した石膏ボード」についても、管理型処分の対象とすることが環境省より通達された。このため、石膏ボードの引取処分費が高騰している。したがって、石膏ボードのリサイクル量は今後急速に拡大することが予想される。
【0004】
ここで、石膏ボードは、石膏ボード原料及びセメント原料としてのリサイクル用途がある。これらのリサイクル用途は現状の脱硫石膏のリサイクル用途と重複している。したがって、石膏ボードのリサイクル量の増加に伴い、脱硫石膏の既存の需要が減ることが懸念されている。
【0005】
かかる状況から、石膏の新たな活用用途の開発が望まれている。そこで、本願発明者は、石膏の新規な活用用途として、水酸アパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)の合成原料としての用途を検討し、下水汚泥焼却灰中に含まれるリンと、石膏中のカルシウムとを反応させることにより、環境浄化資材として有用な、水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造する方法を開発した(特許文献1)。この方法は、下水汚泥焼却灰をアルカリ溶液中で攪拌した後、濾過分離して得られた溶液に、石膏を添加し、反応開始時のpHを13〜14.9とし、40〜100℃で攪拌し、かつ反応終了時のpHを12以上に保持して、アルカリ溶液中のリンと石膏を反応させることにより、水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造するものである。
【0006】
上記方法で得られる吸着材によれば、水と接するとアルカリ性を呈する水酸アパタイト結晶を主成分としているので、酸性雰囲気中でも容易に分解せず、吸着効果を持続できる。そして、この吸着材には水酸アパタイトと共にシリカが含まれているので、各種陽イオンを多量にイオン交換除去することができ、特に、Mn2+、Zn2+、Cd2+をより多く吸着する優れた吸着特性を有するなど優れた陽イオン交換特性を有している。したがって、この吸着材は環境浄化資材として有用である。また、土壌汚染対策法の施行に伴い、汚染土壌中に含まれる重金属を安定化する資材のニーズが高くなっていることから、この吸着材はこのような土壌汚染対策に対して活用できる。
【0007】
【特許文献1】特開2006−205254号公報
【非特許文献1】電気事業連合会(2006):電気事業における環境行動計画,32p
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法は、以下の点で問題があった。即ち、下水汚泥焼却灰などの下水汚泥原料は、排出される施設や事業所、季節によって化学組成が異なる。ところが、特許文献1に記載されている水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法は、どのような原料に対しても一様な方法で水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造していたため、下水汚泥原料の化学組成ばらつきに起因して、吸着材の水酸アパタイト含有量にばらつきが生じたり、不純物組成比にばらつきが生じたりして、吸着材としての品質が安定しない問題があった。
【0009】
そこで、下水汚泥原料の調達毎に、実験室レベルで下水汚泥原料の分析作業と製造試行試験とをおこなって最適な製造条件を検討することが考えられるが、このためには多大な時間と労力とが必要となり、現実的な方法とは言えない。
【0010】
また、製造の効率化や省力化を考えた場合、自動化された生産ラインを連続稼働させて製造することが望まれるが、上記のように、実験室レベルで下水汚泥原料の化学組成分析作業と製造試行試験とをおこなって最適な製造条件を検討すると多大な時間が必要となることから、生産ラインの連続稼働の妨げとなる。そこで、生産ラインの連続稼働を可能とするため、最適な製造条件を迅速に決定する方法の確立が望まれる。
【0011】
そこで、本発明は、水酸アパタイト含有量のばらつきと不純物組成比のばらつきを抑えながら、水酸アパタイト純度の高い吸着材を製造する方法および製造装置を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、最適な製造条件を迅速に決定して生産ラインの連続稼働を可能とすることのできる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題を解決するため、本願発明者は、種々の製造条件で水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造する中で、下水汚泥原料からアルカリ溶液中に抽出されるリンとアルミニウムが、ある一定のモル比となることを見出した。そして、このことから、アルカリ溶液中に抽出されるリンの量に基づいて、アルカリ溶液中に抽出されるアルミニウムの量が推定できることを知見した。
【0014】
また、本願発明者は、種々の製造条件により得られた水酸アパタイト結晶に含まれる不純物について詳細に解析を行ったところ、ギブサイト(Al(OH)3)やクゼライト(Ca4Al2(OH)12(SO4):6(H2O))といったアルミニウム由来の不純物が吸着材の水酸アパタイト純度を低下させたり、不純物組成比のばらつきを引き起こす主要な要因であることを突き止めた。つまり、アルカリ溶液中にリンと共に抽出されるアルミニウムが吸着材の品質にばらつきを生じさせる主要な要因となっていることを知見した。
【0015】
さらに、本願発明者は、水酸アパタイトの合成反応終了時において、リンとアルミニウムとが抽出されたアルカリ溶液(以下、リン抽出液と呼ぶ)のギブサイトの飽和指数を0とした場合に、ギブサイトとクゼライトの双方の析出が抑えられ、水酸アパタイトを主成分とする吸着材の品質ばらつきを抑えることができると共に、水酸アパタイト純度も高められることを知見した。
【0016】
そして、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比に関する上記知見に基づき、水酸アパタイトの合成反応終了時にリン抽出液のギブサイトの飽和指数を0とする条件を、熱力学平衡計算によりリン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した相関関数で表すことができることを見出し、本願発明に至った。
【0017】
かかる知見に基づく、請求項1に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法は、下水汚泥原料に含まれるリンをアルカリ溶液で抽出してリン抽出液を得、リン抽出液に石膏を添加して、リンと石膏とを反応させて水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造する方法において、下水汚泥原料を準備する工程と、アルカリ濃度が既知のアルカリ溶液を準備する工程と、石膏を準備する工程と、下水汚泥原料をアルカリ溶液中で撹拌した後に固液分離してリン抽出液を得る工程と、リン抽出液のリン濃度を測定してリン濃度実測値を得る工程と、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比と、水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となるリン抽出液の最適条件を求めて最適条件をリン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した相関関数を用いて、リン濃度実測値からリン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する工程と、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とを比較し、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも低いときに、リン抽出液にアルカリを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程と、リン濃度実測値から求められるリン抽出液のリンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて求められる量の石膏をリン抽出液に添加する工程とを含むようにしている。
【0018】
また、かかる知見に基づく、請求項9に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置は、下水汚泥原料をアルカリ濃度が既知のアルカリ溶液中で撹拌する撹拌槽と、下水汚泥原料をアルカリ溶液から固液分離してリン抽出液を得る固液分離手段と、リン抽出液のリン濃度を測定してリン濃度実測値を得るリン濃度分析装置と、リン抽出液と石膏とを接触させて水酸アパタイトを合成する反応槽と、リン抽出液を反応槽に送液する送液手段と、反応槽にアルカリを添加するアルカリ添加手段と、反応槽に石膏を添加する石膏添加手段と、記憶手段と、演算手段と、制御手段とを少なくとも備えるものである。
【0019】
そして、記憶手段には、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比と、水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となるリン抽出液の最適条件を求めて最適条件をリン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した相関関数が記憶され、演算手段では、記憶手段に記憶されている相関関数とリン濃度分析装置から入力されるリン濃度実測値とからリン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する処理と、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とを比較演算する処理と、リン濃度実測値からリン抽出液のリンのモル数を求め、このモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて石膏の最適添加量を算出する処理とが行われ、制御手段では、演算手段によりアルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも低いと判断されたときにアルカリ添加手段からアルカリを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する制御と、演算手段により算出された石膏の最適添加量を石膏添加手段から添加する制御とが行われる。
【0020】
したがって、この水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法及び製造装置によると、リン抽出液のリン濃度を測定して得られるリン濃度実測値のみから、リン抽出液の最適アルカリ濃度と石膏の最適添加量とが算出され、最適な製造条件が迅速に決定される。そして、算出された最適アルカリ濃度と石膏の最適添加量とに基づいてリン抽出液のアルカリ濃度とリン抽出液への石膏の添加量を調整するようにしているので、水酸アパタイト純度の高い吸着材を品質ばらつきを抑えて製造することができる。
【0021】
本明細書において、飽和指数とは鉱物が沈殿するかしないかを判定するためのパラメーターである。例えば、ギブサイトの飽和指数が0となる場合には、リン抽出液におけるアルミニウムイオンと水酸イオンの活動度積がギブサイトの溶解度積と一致する。そして、この状態よりアルミニウムイオンや水酸イオン濃度が上昇した場合にはギブサイトの析出が生じる。
【0022】
ここで、請求項2に記載のように、請求項1に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法において、下水汚泥原料として下水汚泥焼却灰を使用し、アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用する場合、相関関数は、
Y=ξ(X,T)×(0.002+6.5X−1.4X2)
で表される関数に水酸アパタイトを合成する際の反応温度T(℃)を代入して決定される。ここで、Xはリン濃度実測値(単位:mol/L)であり、Yは最適アルカリ濃度(単位:規定)であり、熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比は1.67である。また、ξ(X,T)は、
ξ(X,T)=(γ(T)+β(T)X)/(0.067+5.8X)
で表される温度補正関数であり、
γ(T)=−0.027+0.0028T−2.0×10−5T2であり、
β(T)=14−0.17T+7.6×10−4T2である。
【0023】
また、請求項3に記載のように、請求項1に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法において、下水汚泥原料として乾燥下水汚泥を使用し、リン抽出用アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用する場合、相関関数は、
Y=ξ(X,T)×(−0.005+5.5X−0.81X2)
で表される関数に水酸アパタイトを合成する際の反応温度T(℃)を代入して決定される。ここで、Xはリン濃度実測値(単位:mol/L)であり、Yは最適アルカリ濃度(単位:規定)であり、熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比は1.67である。また、ξ(X,T)は、
ξ(X,T)=(0.01+β(T)X)/(0.01+5.0X)
で表される温度補正関数であり、
β(T)=11−0.11T+4.9×10−4T2である。
【0024】
尚、本明細書において、「乾燥下水汚泥」とは、乾燥・固化されたケーキ状の下水汚泥を意味している。
【0025】
本願発明者は、さらに、下水汚泥原料のリン酸含有量から、アルカリ溶液に抽出されるリンの濃度を推定できることを知見し、以下の発明を完成するに至った。
【0026】
即ち、かかる知見に基づく、請求項4に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法は、下水汚泥原料に含まれるリンをアルカリ溶液で抽出してリン抽出液を得、リン抽出液に石膏を添加して、リンと石膏とを反応させて水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造する方法において、下水汚泥原料を準備する工程と、アルカリ濃度が既知のアルカリ溶液を準備する工程と、石膏を準備する工程と、下水汚泥原料のリン酸含有量を測定する工程と、下水汚泥原料をアルカリ溶液中で撹拌した後に固液分離してリン抽出液を得る工程と、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液に抽出されるリンの濃度をリン濃度最大値とし、リン濃度最大値と下水汚泥原料のリン酸含有量との相関関係を記述した第一の相関関数を用いて、測定されたリン酸含有量からリン濃度最大値を算出する工程と、アルカリ溶液へのリン抽出率とアルカリ溶液のアルカリ濃度との相関関係を記述した第二の相関関数を用いて、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度からリン抽出率を算出する工程と、リン濃度最大値にリン抽出率を乗じてリン抽出液のリン濃度推定値を得る工程と、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比と、水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となるリン抽出液の最適条件を求めて最適条件をリン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した相関関数を用いて、リン濃度推定値からリン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する工程と、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とを比較し、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも低いときに、リン抽出液にアルカリを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程と、リン濃度推定値から求められるリン抽出液のリンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて求められる量の石膏をリン抽出液に添加する工程とを含むようにしている。
【0027】
また、かかる知見に基づく、請求項10に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置は、下水汚泥原料をアルカリ濃度が既知のアルカリ溶液中で撹拌する撹拌槽と、下水汚泥原料のリン酸含有量を測定してリン酸含有量計測値を得るリン酸含有量分析装置と、下水汚泥原料をアルカリ溶液から固液分離してリン抽出液を得る固液分離手段と、リン抽出液と石膏とを接触させて水酸アパタイトを合成する反応槽と、リン抽出液を反応槽に送液する送液手段と、反応槽にアルカリを添加するアルカリ添加手段と、反応槽に石膏を添加する石膏添加手段と、記憶手段と、演算手段と、制御手段とを少なくとも備えるものである。
【0028】
そして、記憶手段には、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液に抽出され得るリンの濃度をリン濃度最大値とし、リン濃度最大値と下水汚泥原料のリン酸含有量との相関関係を記述した第一の相関関数と、アルカリ溶液へのリン抽出率とアルカリ溶液のアルカリ濃度との相関関係を記述した第二の相関関数と、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比と、水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となるリン抽出液の最適条件を求めて最適条件をリン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した第三の相関関数とが記憶され、演算手段では、記憶手段に記憶されている第一の相関関数とリン酸含有量分析装置から入力される測定されたリン酸含有量とからリン濃度最大値を算出する処理と、記憶手段に記憶されている第二の相関関数とアルカリ溶液の既知のアルカリ濃度からリン抽出率を算出する処理と、リン濃度最大値にリン抽出率を乗じてリン抽出液のリン濃度推定値を演算する処理と、記憶手段に記憶されている第三の相関関数とリン濃度推定値とからリン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する処理と、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とを比較演算する処理と、リン濃度推定値からリン抽出液のリンのモル数を求め、このモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて石膏の最適添加量を算出する処理とが行われ、制御手段では、演算手段によりアルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも低いと判断されたときにアルカリ添加手段からアルカリを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する制御と、演算手段により算出された石膏の最適添加量を石膏添加手段から添加する制御とが行われる。
【0029】
したがって、この水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法及び製造装置によると、下水汚泥原料のリン酸含有量の測定値のみから、リン抽出液のリン濃度が推定される。そして、このリン濃度の推定値から、リン抽出液の最適アルカリ濃度と石膏の最適添加量とが算出され、最適な製造条件が迅速に決定される。そして、算出された最適アルカリ濃度と石膏の最適添加量とに基づいてリン抽出液のアルカリ濃度とリン抽出液への石膏の添加量を調整するようにしているので、水酸アパタイト純度の高い吸着材を品質ばらつきを抑えて製造することができる。
【0030】
尚、請求項5に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法並びに請求項11に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置のように、下水汚泥原料のリン酸含有量が既知の場合には、下水汚泥原料のリン酸含有量を測定する工程や、下水汚泥原料のリン酸含有量を測定する装置を省略して、既知のリン酸含有量のみから、リン抽出液のリン濃度が推定される。
【0031】
ここで、請求項6に記載のように、請求項4または5に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法において、下水汚泥原料として下水汚泥焼却灰を使用し、リン抽出用アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用する場合には、第一の相関関数が
B=0.2+0.39A
となる。ここで、Aは下水汚泥焼却灰のリン酸含有量(単位:P2O5換算後の重量%)であり、Bはリン濃度最大値(単位:g/L)である。また、第二の相関関数は
α=1.0−1.2/(1+exp((C−0.40)/0.27))
となる。ここで、Cは水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度(単位:規定)であり、αはリン抽出率(単位:無次元)である。さらに、第三の相関関数は、
Y=ξ(X,T)×(0.002+6.5X−1.4X2)
で表される関数に水酸アパタイトを合成する際の反応温度T(℃)を代入して決定される。ここで、Xはリン濃度推定値(単位:mol/L)であり、Yは最適アルカリ濃度(単位:規定)であり、熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比は1.67である。また、ξ(X,T)は、
ξ(X,T)=(γ(T)+β(T)X)/(0.067+5.8X)
で表される温度補正関数であり、
γ(T)=−0.027+0.0028T−2.0×10−5T2であり、
β(T)=14−0.17T+7.6×10−4T2である。
【0032】
また、請求項7に記載のように、請求項4または5に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法において、下水汚泥原料として乾燥下水汚泥を使用し、リン抽出用アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用する場合には、第一の相関関数は
B=0.2+0.39A
となる。ここで、Aはリン酸含有量計測値(単位:P2O5換算後の重量%)であり、Bはリン濃度最大値(単位:g/L)である。また、第二の相関関数は
α=1.0−1.2/(1+exp((C−0.40)/0.27))
となる。ここで、Cは水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度(単位:規定)であり、αはリン抽出率(単位:無次元)である。さらに、第三の相関関数は、
Y=ξ(X,T)×(−0.005+5.5X−0.81X2)
で表される関数に水酸アパタイトを合成する際の反応温度T(℃)を代入して決定される。ここで、Xはリン濃度推定値(単位:mol/L)であり、Yは最適アルカリ濃度(単位:規定)であり、熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比は1.67である。また、ξ(X,T)は、
ξ(X,T)=(0.01+β(T)X)/(0.01+5.0X)
で表される温度補正関数であり、
β(T)=11−0.11T+4.9×10−4T2である。
【0033】
ここで、請求項8に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法のように、請求項1、4または5に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法において、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とを比較し、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも高いときに、リン抽出液に中和剤を添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程をさらに含むことが好ましい。
【0034】
また、請求項12に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置のように、請求項9〜11のいずれかに記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置において、反応槽に中和剤を添加する中和剤添加手段をさらに備え、制御手段では、演算手段によりアルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも高いと判断されたときに中和剤添加手段から中和剤を添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する制御がさらに行われることが好ましい。
【0035】
また、請求項13に記載のアルミニウムの定量分析方法は、下水汚泥原料からアルカリ溶液を用いて抽出されるリンの濃度を測定し、複数の下水汚泥原料からアルカリ溶液を用いて抽出されるリンとアルミニウムの濃度の相関関係から予め求められる検量線を用いて、アルカリ溶液中のアルミニウムの濃度を推定するようにしている。
【発明の効果】
【0036】
請求項1に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法及び請求項9に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置によれば、リン抽出液のリン濃度を測定して得られるリン濃度実測値のみから、水酸アパタイトを主成分とする吸着材の最適な製造条件を迅速に決定することができる。したがって、生産ラインの連続稼働を可能とすることができる。しかも、算出された最適アルカリ濃度と石膏の最適添加量とに基づいてリン抽出液のアルカリ濃度とリン抽出液への石膏の添加量を調整するようにしているので、水酸アパタイト純度の高い吸着材を品質ばらつきを抑えて製造することができる。したがって、既存の吸着材、例えば骨炭と同等あるいはそれ以上の吸着性能を有する吸着材を安定に供給することが可能となる。
【0037】
請求項2に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法によれば、下水汚泥原料として下水汚泥焼却灰を使用し、アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用して、水酸アパタイト純度の高い吸着材を品質ばらつきを抑えて製造することができる。
【0038】
請求項3に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法によれば、下水汚泥原料として乾燥下水汚泥を使用し、アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用して、水酸アパタイト純度の高い吸着材を品質ばらつきを抑えて製造することができる。
【0039】
請求項4に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法及び請求項10に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置によれば、下水汚泥原料のリン酸含有量を測定して得られるリン酸含有量の測定値のみから、水酸アパタイトを主成分とする吸着材の最適な製造条件を迅速に決定することができる。したがって、生産ラインの連続稼働を可能とすることができる。しかも、算出された最適アルカリ濃度と石膏の最適添加量とに基づいてリン抽出液のアルカリ濃度とリン抽出液への石膏の添加量を調整するようにしているので、水酸アパタイト純度の高い吸着材を品質ばらつきを抑えて製造することができる。したがって、既存の吸着材、例えば骨炭と同等あるいはそれ以上の吸着性能を有する吸着材を安定に供給することが可能となる。
【0040】
請求項5に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法及び請求項11に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置によれば、下水汚泥原料の既知のリン酸含有量のみから、水酸アパタイトを主成分とする吸着材の最適な製造条件を迅速に決定することができる。したがって、生産ラインの連続稼働を可能とすることができる。しかも、算出された最適アルカリ濃度と石膏の最適添加量とに基づいてリン抽出液のアルカリ濃度とリン抽出液への石膏の添加量を調整するようにしているので、水酸アパタイト純度の高い吸着材を品質ばらつきを抑えて製造することができる。したがって、既存の吸着材、例えば骨炭と同等あるいはそれ以上の吸着性能を有する吸着材を安定に供給することが可能となる。
【0041】
請求項6に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法によれば、下水汚泥原料として下水汚泥焼却灰を使用し、アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用して、水酸アパタイト純度の高い吸着材を品質ばらつきを抑えて製造することができる。
【0042】
請求項7に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法によれば、下水汚泥原料として下水汚泥焼却灰を使用し、アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用して、水酸アパタイト純度の高い吸着材を品質ばらつきを抑えて製造することができる。
【0043】
請求項8に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法及び請求項12に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置によれば、リン抽出液のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも高い場合にも、リン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整することができ、水酸アパタイト純度の高い吸着材を品質ばらつきを抑えて製造することができる。
【0044】
請求項13に記載のアルミニウムの定量分析方法によれば、下水汚泥原料からアルカリ溶液に抽出されるリンの濃度のみが明らかとなれば、アルカリ溶液に抽出されるアルミニウムの濃度を推定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0046】
水酸アパタイトは、下水汚泥原料をアルカリ溶液中で撹拌して下水汚泥原料に含まれるリンを抽出し、このリンと石膏とを反応させることにより合成することができる。水酸アパタイトの合成反応を示す化学反応式は化1で表される。
(化1)10CaSO4:2H2O + 6K3PO4
→ Ca10(PO4)6(OH)2 + 9K2SO4 +H2SO4
【0047】
下水汚泥原料と石膏とを利用して水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造することで、従来産業上の再利用が難しいとされる下水汚泥焼却灰などの下水汚泥原料をリン抽出源として活用し、このリンと石膏とを反応させて水酸アパタイトを製造することで、製造コストのローコスト化を図ることができる。また、石膏として石膏廃棄物を用いれば、石膏廃棄物処分と下水汚泥処分の両方の処分引き受け費用を製造コストへ転稼することにより、生産事業の採算性を大幅に向上させることができる。
【0048】
しかしながら、下水汚泥原料をリン抽出源として用いると以下の問題が生じる。即ち、下水汚泥原料にはアルミニウムが含まれており、このアルミニウムの存在によって、ギブサイトやクゼライトといったアルミニウム由来の不純物鉱物種が水酸アパタイトと同時に生成されてしまう。上記したように、下水汚泥焼却灰などの下水汚泥原料は、排出される施設や事業所、季節によって化学組成が異なる。したがって、アルミニウムの存在の多寡が、吸着材の水酸アパタイト含有量にばらつきを生じさせたり、不純物組成比にばらつきを生じさせたりする要因となっていることを本願発明者は突き止めた。
【0049】
本発明によれば、水酸アパタイト純度の高い吸着材を品質ばらつきを抑えて製造することができるので、品質価値の高い吸着材をコンスタントに得られるようになる。したがって、既存の吸着材、例えば骨炭と同等あるいはそれ以上の吸着性能を有する吸着材を安定に供給することが可能となり、水酸アパタイトを主成分とする吸着材の生産事業の採算性のさらなる向上が可能となる。しかも、最適な製造条件を迅速に決定することができることから、自動化された生産ラインを連続稼働させて製造することができ、製造効率の向上及び省力化による生産事業の採算性の向上も期待できる。
【0050】
本発明の実施形態としては、下水汚泥原料に含まれるリンをアルカリ溶液で抽出して得られたリン抽出液のリン濃度を測定して最適な製造条件を決定する第一の実施形態と、下水汚泥原料のリン酸含有量からリン抽出液のリン濃度を推定して最適な製造条件を決定する第二の実施形態とがある。以下、各実施形態について詳細に説明する。
【0051】
まず、本発明の第一の実施形態について説明する。
【0052】
第一の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法は、下水汚泥原料に含まれるリンをアルカリ溶液で抽出してリン抽出液を得、リン抽出液に石膏を添加して、リンと石膏とを反応させて水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造する方法において、下水汚泥原料を準備する工程と、アルカリ濃度が既知のアルカリ溶液を準備する工程と、石膏を準備する工程と、下水汚泥原料をアルカリ溶液中で撹拌した後に固液分離してリン抽出液を得る工程と、リン抽出液のリン濃度を測定してリン濃度実測値を得る工程と、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比と、水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となるリン抽出液の最適条件を求めて最適条件をリン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した相関関数を用いて、リン濃度実測値からリン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する工程と、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とを比較し、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも低いときに、リン抽出液にアルカリを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程と、リン濃度実測値から求められるリン抽出液のリンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて求められる量の石膏をリン抽出液に添加する工程とを含むようにしている。
【0053】
また、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とを比較し、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも高いときに、リン抽出液に中和剤を添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程をさらに含むようにしている。
【0054】
第一の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法について、図1に示す製造プロセスフローを用いてさらに詳細に説明する。第一の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法は、下水汚泥原料を準備する工程(S101)と、アルカリ濃度が既知(アルカリ濃度:C)のアルカリ溶液を準備する工程(S102)と、石膏を準備する工程(S103)と、下水汚泥原料をアルカリ溶液中で撹拌した後に固液分離してリン抽出液を得る工程(S104)と、リン抽出液のリン濃度を測定してリン濃度実測値を得る工程(S105)と、リン濃度実測値から相関関数を用いてリン抽出液の最適アルカリ濃度(Y)を算出する工程(S106)と、アルカリ溶液のアルカリ濃度(C)と最適アルカリ濃度(Y)とを比較する工程(S107)と、Y>Cのときに、リン抽出液にアルカリを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程(S108)と、Y<Cのときに、リン抽出液に中和剤を添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程(S109)と、リン濃度実測値から求められるリン抽出液のリンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて求められる量の石膏をリン抽出液に添加する工程(S110)とを含むようにしている。
【0055】
リン抽出液の最適アルカリ濃度(Y)を算出する工程(S106)で使用する相関関数は、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比と、水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となるリン抽出液の最適条件を求めて最適条件をリン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述されるものである。
【0056】
第一の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法を実施するための装置の一例を図2に示す。この製造装置1は、下水汚泥原料をアルカリ濃度が既知のアルカリ溶液中で撹拌する撹拌槽2と、下水汚泥原料をアルカリ溶液から固液分離してリン抽出液を得る固液分離手段3と、リン抽出液のリン濃度を測定してリン濃度実測値を得るリン濃度分析装置4と、リン抽出液と石膏とを接触させて水酸アパタイトを合成する反応槽5と、リン抽出液を反応槽5に送液する送液手段6と、反応槽5にアルカリを添加するアルカリ添加手段7と、反応槽5に石膏を添加する石膏添加手段8と、記憶手段9と、演算手段10と、制御手段11と、反応槽5に中和剤を添加する中和剤添加手段12とを備えている。
【0057】
記憶手段9には、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比と、水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となるリン抽出液の最適条件を求めて最適条件をリン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した相関関数が記憶されている。
【0058】
演算手段10では、記憶手段に記憶されている相関関数とリン濃度測定装置から入力されるリン濃度実測値とからリン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する処理と、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とを比較演算する処理と、リン濃度実測値からリン抽出液のリンのモル数を求め、このモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて石膏の最適添加量を算出する処理とが行われる。
【0059】
制御手段11では、演算手段10によりアルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも低いと判断されたときにアルカリ添加手段7からアルカリを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する制御と、演算手段10によりアルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも高いと判断されたときに中和剤添加手段8から中和剤を添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する制御と、演算手段10により算出された石膏の最適添加量を石膏添加手段8から添加する制御とが行われる。
【0060】
以下、図1に示す水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造プロセスフローを、図2に示す水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置1で実施する形態について詳細に説明する。
【0061】
まず、下水汚泥原料を準備する(S101)。下水汚泥原料としては、下水汚泥焼却灰、乾燥下水汚泥(乾燥・固化したケーキ状の下水汚泥)が挙げられるが、これに限定されるものではなく、下水汚泥由来の原料を各種用いることができる。例えば、炭化処理した炭化下水汚泥を用いることも可能である。
【0062】
次に、アルカリ濃度が既知のアルカリ溶液を準備する(S102)。アルカリ溶液としては、下水汚泥原料からリンを抽出し得るアルカリ溶液、例えば、水酸化カリウム溶液や水酸化ナトリウム溶液を用いることができるが、特に水酸化カリウム溶液を用いることが好ましい。水酸化カリウム溶液を使用した場合には、室温(25℃)においても下水汚泥原料から十分にリンを抽出できる。
【0063】
アルカリ溶液として水酸化ナトリウム溶液を用いた場合、アルカリ濃度が高濃度になるにつれて、液相中にリン酸ナトリウム塩(Na3PO4)が析出し、液相中にリンが十分に抽出されなくなる虞がある。特に、アルカリ濃度が1mol/Lを超えると、リン酸ナトリウム塩(Na3PO4)の析出が顕著に見られるようになる。したがって、水酸化ナトリウム溶液を使用する場合には、アルカリ濃度が1mol/L以下の場合には室温でリンを抽出してもよいが、アルカリ濃度を1mol/L超とした場合には、液相中にリン酸ナトリウム塩(Na3PO4)が析出されなくなる温度、例えば40℃程度に加温してリンを抽出することが好ましい。
【0064】
アルカリ溶液のアルカリ濃度については、例えば、アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を用いる場合には、0.5mol/L〜2mol/Lとすることが好ましく、0.5mol/L〜2mol/L未満とすることがより好ましく、0.5mol/L〜1.5mol/Lとすることがさらに好ましく、1mol/Lとすることが最も好ましい。アルカリ濃度を2mol/L超としても、下水汚泥原料から抽出されるリンの量はほとんど変わらない。また、アルカリ濃度を2mol/L超とすると、リン抽出液のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも高くなる場合が多くなり、アルカリ溶液の無駄な使用に繋がりやすいと共に、不純物生成を助長する虞もある。一方、アルカリ濃度を0.5mol/L未満とすると、下水汚泥原料から抽出されるリンの量が少なくなることから、吸着材の収量が減少してしまう。
【0065】
次に、石膏を準備する(S103)。石膏としては、石膏ボード廃棄物、脱硫石膏などの廃石膏を用いることができ、リサイクル、コストの観点から好ましいが、通常の市販石膏粉末などあらゆる石膏を用いることができる。
【0066】
次に、下水汚泥原料をアルカリ溶液中で撹拌した後に固液分離してリン抽出液を得る(S104)。この工程は、撹拌槽2と固液分離手段3とで行われる。
【0067】
撹拌槽2としては、アルカリ溶液により腐食されることのない材質の撹拌槽を適宜用いることができる。例えば、ステンレス製の撹拌槽を用いることができるがこれに限定されるものではない。
【0068】
固液分離手段3としては、リン抽出後の下水汚泥原料をアルカリ溶液から除去することのできる濾過膜や濾過装置など適宜用いることができるがこれに限定されるものではない。例えば、下水汚泥原料とアルカリ溶液とを撹拌した後、静置して下水汚泥原料を沈殿させ、上清を汲み上げることにより固液分離を行うようにしてもよい。
【0069】
下水汚泥原料とアルカリ溶液とを撹拌する時間は、通常少なくとも1時間程度、好ましくは3〜12時間であるが、リンを十分に抽出できるのであれば、この時間に限定されるものではない。
【0070】
また、下水汚泥原料に対するアルカリ溶液の比は、固液比(L/S)で2〜10(リットル/kg)とすることが好適である。この固液比の範囲で良好にリンを抽出することができる。しかしながら、この範囲を超えてもリンの抽出は可能であり、この範囲に限定されるものではない。
【0071】
また、下水汚泥原料とアルカリ溶液とを撹拌する際のアルカリ溶液温度は、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とする場合には、室温(25℃)でよい。また、1mol/L以下の水酸化ナトリウム溶液をアルカリ溶液として用いる場合にも、室温でよい。但し、1mol/L超の水酸化ナトリウム溶液をアルカリ溶液として用いる場合には、上記の通り、液相中にリン酸ナトリウム塩(Na3PO4)が析出する虞があるので、リン酸ナトリウム塩が析出しない温度、例えば水酸化ナトリウム溶液を40℃程度に加温することが好ましい。
【0072】
尚、撹拌槽2への下水汚泥原料の添加方法は、特に限定されないが、例えば下水汚泥原料を容器に収容して、この容器から粉体ポンプにより圧送すればよい。
【0073】
また、撹拌槽2へのアルカリ溶液の添加方法は、特に限定されないが、例えばアルカリ濃度が既知のアルカリ溶液を容器に収容して、この容器から送液ポンプにより送液すればよい。
【0074】
次に、リン抽出液のリン濃度を測定してリン濃度実測値を得る(S105)。この工程は、リン濃度分析装置4により行われる。
【0075】
リン濃度分析装置4としては、ペルオキソ二硫酸カリウム・紫外線酸化分解−モリブデン青吸光光度法を利用した直接全リン自動測定装置が挙げられるが、リン抽出液のリン濃度を測定できる装置であれば、この装置に限定されるものではない。
【0076】
リン抽出液のリン濃度の測定は、例えば、リン抽出液の一部をリン濃度分析装置4に自動的に送液して行えばよいが、この方法には限定されない。尚、リン濃度分析装置4として、ペルオキソ二硫酸カリウム・紫外線酸化分解−モリブデン青吸光光度法を利用した直接全リン自動測定装置を用いた場合、リン濃度の分析の範囲は全リン0〜0.5mg/L程度であるのに対し、分析に必要なリン抽出液の濃度は5000〜10000mg/L程度であり、高濃度であることから、例えば1mL以下の極僅かの原液を純水で希釈することでリン濃度の測定に供することが可能あり、サンプリングによるリン抽出量の減少量は無視してよい。
【0077】
リン抽出液は、送液手段6により反応槽5に送液される。送液手段6としては、例えば送液ポンプが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0078】
以上の工程により、反応槽5にリン抽出液が準備され、反応槽5に添加される石膏が準備される。以下S106〜S110の工程では、反応槽5のリン抽出液を水酸アパタイトの合成に最適な状態に調整すると共に、水酸アパタイトの合成に最適な量の石膏をリン抽出液に添加する。
【0079】
S106〜S110の工程は、アルカリ添加手段7と、石膏添加手段8と、中和剤添加手段12と、記憶手段9と、演算手段10と、制御手段11とにより行われる。
【0080】
記憶手段9は、例えばハードディスク、RAM等の記憶装置により構成される。
【0081】
演算手段10及び制御手段11は、CPU(中央演算装置)またはMPU(超小型演算装置)により構成される。
【0082】
演算手段10では、記憶装置9に記憶されている相関関数と、リン濃度分析装置4から入力されるリン濃度実測値に基づいて演算処理が行われ、演算結果に基づいて制御手段11によりアルカリ添加手段7、石膏添加手段8、中和剤添加手段12に命令信号が送られて動作が制御される。これにより、反応槽5内が水酸アパタイトの合成に最適な条件に調整される。
【0083】
アルカリ添加手段7は、アルカリを貯留するタンク7aと、開閉動作によってタンク7aから反応槽5へのアルカリの添加を制御するバルブ7bとを備えている。バルブ7bには、制御手段11からの命令信号に応答して駆動するソレノイドが組み込まれており、ソレノイドの駆動に伴ってバルブ7bが開閉動作するように構成されている。
【0084】
石膏添加手段8もまた、アルカリ添加手段7と同様に構成されている。即ち、石膏添加手段8は、石膏を貯留するタンク8aと、開閉動作によってタンク8aから反応槽5への石膏の添加を制御するバルブ8bとを備えている。バルブ8bには、制御手段11からの命令信号に応答して駆動するソレノイドが組み込まれており、ソレノイドの駆動に伴ってバルブ8bが開閉動作するように構成されている。
【0085】
中和剤添加手段12もまた、アルカリ添加手段7と同様に構成されている。即ち、中和剤添加手段12は、中和剤を貯留するタンク12aと、開閉動作によってタンク12aから反応槽5への中和剤の添加を制御するバルブ12bとを備えている。バルブ12bには、制御手段11からの命令信号に応答して駆動するソレノイドが組み込まれており、ソレノイドの駆動に伴ってバルブ12bが開閉動作するように構成されている。
【0086】
以下、S106〜S110の工程について詳細に説明する。
【0087】
まず、リン濃度実測値から相関関数を用いてリン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する(S106)。この工程は、演算手段10による演算処理により行われる。即ち、記憶装置9に記憶されている相関関数と、リン濃度分析装置4から入力されるリン濃度実測値とから、リン抽出液の最適アルカリ濃度が算出される。
【0088】
相関関数は、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比と、水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となるリン抽出液の最適条件を求めて最適条件をリン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述されるものである。
【0089】
熱力学平衡計算は、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、地球化学計算コードに各種鉱物の熱力学データを入力して行うことができる。
【0090】
地球化学計算コードとしては、PhreeqC.ver.2.12.1を用いることができるが、これに限定されるものではなく、例えば、PhreeqCの他のバージョンや、MINTEQ、EQ3/6、The Geochemist’s Workbench(登録商標)を用いることもできる。
【0091】
各種鉱物の熱力学データとしては、例えば、クゼライトとシゲナイトについては、非特許文献2に記載されたデータを用いることができる。その他ギブサイト等の鉱物種については、非特許文献3及び非特許文献4に記載されたデータを用いることができる。しかしながら、これらの熱力学データに限定されることなく、鉱物に関する公知の熱力学データを適宜使用することができる(非特許文献2:Bechtel SAIC Company(2004), Qualification of Thermodynamic Data for Geochemical Modeling of Mineral-Water Interactions in Dilute Systems, ANL-WIS-GS-000003, U.S. DOE, 212p.、非特許文献3:Johnson, J., Anderson, G. and Parkhurst D (2000), Database from ‘thermo.com.V8.R6.230’ prepared by at Lawrence Livermore National Laboratory (Revision: 1.11). 非特許文献4:Hummel (1992) Nagra/PSI Chemical Thermodynamic Data Base 01/01, Universal Publishers, 589p)。
【0092】
アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係は、下水汚泥原料とアルカリ溶液とを用いて実験的に求めることができる。即ち、リン酸含有量が異なる同種の下水汚泥原料を複数用意し、それぞれの下水汚泥原料からアルカリ溶液を用いてリンとアルミニウムを抽出してリンとアルミニウムの濃度を測定し、リン濃度とアルミニウム濃度の相関関係を求めることで、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係を求めることができる。
【0093】
例えば、下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合、下水汚泥焼却灰から水酸化カリウム溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比は、リン:アルミニウム=1:0.74となる。また、下水汚泥原料を乾燥下水汚泥とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合、乾燥下水汚泥から水酸化カリウム溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比は、リン:アルミニウム=1:0.5となる。つまり、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係は、下水汚泥原料の種類によって異なるので、吸着材の製造に供される下水汚泥原料の種類に応じて、リンとアルミニウムのモル比の関係を予め調べておけばよい。
【0094】
リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比は、1.0〜1.7倍とすることが好ましく、1.67倍とすることが最も好ましい。1.67倍とは、水酸アパタイトの化学量論比である。即ち、1.67倍とすることで、理論的にはリンと石膏の全てが合成反応に供される。1.0倍未満とすると、水酸アパタイトの合成反応終了時にリン抽出液に未反応のリンが残留し易くなる。また、1.7倍超とすると、水酸アパタイトの合成反応終了時に未反応の石膏が残留し易くなる。尚、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比とは、リン(P)に対して添加される石膏中のカルシウム(Ca)のモル比を意味している。即ち、(Caのモル数)/(Pのモル数)である。
【0095】
水酸アパタイトの合成反応条件は、リン抽出液に含まれる物質、反応温度で設定される。本実施形態では、リン抽出液に含まれる物質をアルカリ、リン、アルミニウムとして設定し、添加したアルカリは全て溶液中に溶解するものと仮定して計算する。また、溶解平衡を考慮すべき鉱物は、水酸アパタイト、ギブサイトである。また大気中酸素との平衡条件については液相中の硫酸の還元が起こらない範囲での分圧設定を行う。
【0096】
そして、熱力学平衡計算により、リン抽出液の最適条件を求める。熱力学平衡計算の際には、水酸アパタイトの合成反応終了時のリン抽出液のギブサイト飽和指数が−0.15〜0.15となるように設定すればよいが、ギブサイト飽和指数を0と設定することが望ましい。即ち、ギブサイト飽和指数を0と設定することで、ギブサイトの析出が抑えられる条件で熱力学平衡計算を実行することができる。ギブサイト飽和指数を−0.15未満とすると、不純物としてポートランダイトとクゼライトが生成し易くなる。また、ギブサイト飽和指数を0.15超とすると、不純物としてギブサイトが生成し易くなる。
【0097】
ここで、ギブサイトの飽和指数(SI)とは、以下に示す数式で表されるものである。
(数式1)SI = log(活動度積) − logK
Kは、化2式の平衡定数である。
(化2)Al(OH)3 + 3H+ = Al3+ + 3H2O
【0098】
尚、平衡定数Kは既存の熱力学データを適宜使用すればよい。例えば、ギブサイトの25℃における平衡定数の対数logKは、6.9〜8.1の範囲内で設定するのが好適であり、7.75〜7.7561の範囲内で設定するのがより好適である。また、平衡定数の温度補正を行うためのエンタルピー(ΔH)についても、既存の熱力学データを適宜使用すればよい。例えば、ΔHは−94.7〜−102.788(kJ/mol)の範囲内で設定するのが好適であり、−102.784〜−102.788とすることがより好適である。
【0099】
ここで、熱力学平衡計算により得られる相関関数を例示する。下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とすると、相関関数はY=0.002+6.5X−1.4X2となる。さらに詳細には、Y=0.00233+6.51047X−1.37986X2となる。また、下水汚泥原料を乾燥下水汚泥とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合、相関関数はY=−0.005+5.5X−0.81X2となる。さらに詳細には、Y=−0.00477+5.47863X−0.81496X2となる。尚、Xはリン濃度実測値(単位:mol/L)であり、Yは最適アルカリ濃度(単位:規定)である。尚、この相関関数は、水酸アパタイトの合成反応終了時のリン抽出液のギブサイト飽和指数を0に設定し、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度を80℃に設定し、且つ石膏の添加量をリン抽出液のリンのモル数の1.67倍に設定して計算されたものである。
【0100】
また、下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液として、水酸アパタイトの合成反応終了時のリン抽出液のギブサイト飽和指数を−0.15に設定し、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度を80℃に設定し、且つ石膏の添加量をリン抽出液のリンのモル数の1.67倍に設定して計算される相関関数は、Y=0.01+7.4X−1.8X2となる。さらに詳細には、Y=0.01445+7.41589X−1.83806X2となる。
【0101】
また、下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液として、水酸アパタイトの合成反応終了時のリン抽出液のギブサイト飽和指数を0.15に設定し、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度を80℃に設定し、且つ石膏の添加量をリン抽出液のリンのモル数の1.67倍に設定して計算される相関関数は、Y=−8×10−4+5.8X−1.0X2となる。さらに詳細には、Y=−8.34664×10−4+5.82897X−1.00538X2となる。
【0102】
つまり、下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度を80℃に設定し、且つ石膏の添加量をリン抽出液のリンのモル数の1.67倍に設定したときには、相関関数をY=0.002+6.5X−1.4X2とすることが好ましいが、0.01+7.4X−1.8X2≧Y≧−8×10−4+5.8X−1.0X2の範囲内であれば、品質ばらつきは十分に抑えられる。
【0103】
尚、アルカリ溶液として水酸化カリウムを用いた場合、アルカナイトの飽和指数が0となる相関関数もさらに考慮した上で、リン抽出液の最適条件を算出するようにしてもよい。アルカナイトの飽和指数が0となる相関関数は、ギブサイトの飽和指数が0となる相関関数と同様の手法で求めることができる。しかしながら、アルカナイトは、ギブサイトが生成しない範囲においては、アルカリ濃度が2.7mol/L以上とならない限り生成されない。したがって、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度として好ましい0.5mol/L〜2mol/Lの範囲においては、アルカナイトはほとんど生成されないので、アルカナイトの飽和指数が0となる相関関数を考慮することは必ずしも必要ではない。
【0104】
ここで、上記相関関数は、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度が80℃のときに成立するものであるが、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度を変数として相関関数に含めることも可能である。即ち、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度が80℃のときに成立する上記相関関数に温度補正関数を組み込むことによって、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度が80℃以外の場合にも最適アルカリ濃度を求めることができる相関関数を得ることができる。
【0105】
尚、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度は、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合には、60℃超〜95℃未満とすることが好ましく、70℃〜90℃とすることがより好ましく、80℃とすることがさらに好ましい。不純物であるK2Oの含有量を小さくする観点からは高温の方が良いが、反応温度を95℃とするとカルシウムとアルミニウムとを含有する不純物鉱物種であるクゼライトが生成量し易くなる。また、反応温度を40〜60℃とすると不純物鉱物種であるアルカナイトが生成しやすくなる。尚、水酸アパタイトの合成反応中の反応温度の制御は、例えばヒーター等の熱源と、この熱源を制御して反応温度(反応槽5内の温度)を一定温度に維持するサーモスタット等の恒温装置とを反応槽5に備えることにより行うことができる。
【0106】
下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合を例に挙げて具体的に説明すると、温度補正関数は以下のようにして求めることができる。まず、各種反応温度における相関関数を求める。この際、上記のように二次の回帰曲線として記述された相関関数を用いてもよいが、一次の回帰直線として記述された相関関数を用いた場合であっても、十分に精度の高い温度補正関数が得られる。以下に、反応温度が60℃〜95℃の場合について、一次の回帰直線として記述された相関関数を示す。
60℃ : Y=0.06745+7.03058X
70℃ : Y=0.06972+6.33315X
80℃ : Y=0.06796+5.82149X
87.5℃ : Y=0.06099+5.53381X
95℃ : Y=0.05673+5.30538X
【0107】
次に、上記式のY切片と、Xの係数とをそれぞれ反応温度T(℃)に対してプロットし、その関係式を求めると、以下のように表される。β(T)は、Xの係数の反応温度依存性を示す関数である。γ(T)は、Y切片の反応温度依存性を示す関数である。
β(T)= 14−0.17T+7.6×10−4T2
但し、より詳細には、β(T)= 14.28934−0.16663T+7.59255×10−4T2である。
γ(T)=−0.027+0.0028T−2.0×10−5T2
但し、より詳細には、γ(T)=−0.02722+0.00279T−2.01679×10−5T2である。
【0108】
つまり、反応温度を加味した相関関数(一次の回帰直線)は、以下のように表される。
Y(X,T)=γ(T)+β(T)X
【0109】
次に、反応温度を加味した相関関数を元に温度補正関数を作成する。Y=0.002+6.5X−1.4X2は、反応温度が80℃の時に成立する相関関数であることから、この場合には、温度補正を行う必要はない。したがって、温度補正関数を相関関数に組み込んだときに、反応温度が80℃の時には、温度補正関数による補正がなされないように温度補正関数を設定する。
【0110】
即ち、温度補正関数をξ(X,T)として、
ξ(X,T)=(γ(T)+β(T)X)/(γ(80)+β(80)X)と記述することで、反応温度が80℃の場合に、温度補正関数から求められる温度補正係数が1となり、反応温度が80℃の時には、温度補正関数による補正がなされないようになる。ここで、温度補正関数の分母は、反応温度が80℃の場合のγ(T)+β(T)Xの値を意味している。つまり、Tが80℃であれば、温度補正関数ξの値は1となる。
【0111】
そして、この温度補正関数を、Y=0.002+6.5X−1.4X2に乗じることによって、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度が80℃以外の場合にも最適アルカリ濃度を求めることができる相関関数が得られる。
【0112】
つまり、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度が80℃以外の場合にも最適アルカリ濃度を求めることができる相関関数はY=ξ(X,T)×(0.002+6.5X−1.4X2)となる。そして、ξ(X,T)は、ξ(X,T)=(γ(T)+β(T)X)/(0.067+5.8X)で表される温度補正関数であり、Tは水酸アパタイトの合成を行うときの反応温度(℃)であり、
γ(T)=−0.027+0.0028T−2.0×10−5T2であり、
β(T)=14−0.17T+7.6×10−4T2である。
【0113】
そして、上記の温度補正関数は、反応温度が60〜95℃の時に確実に成立するものであり、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度として好ましい60℃超〜95℃未満の範囲において、最適アルカリ濃度を精度よく求めることができる。そして、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度T(℃)をY=ξ(X,T)×(0.002+6.5X−1.4X2)に代入することによって、当該反応温度において最適アルカリ濃度を算出するための相関関数を得ることができる。
【0114】
尚、下水汚泥原料として乾燥下水汚泥を使用し、アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用した場合において、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度が80℃以外の場合にも最適アルカリ濃度を求めることができる相関関数についても、上記と同様の方法によって求めることができる。即ち、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度が80℃以外の場合にも最適アルカリ濃度を求めることができる相関関数はY=ξ(X,T)×(−0.005+5.5X−0.81X2)となる。そして、ξ(X,T)は、ξ(X,T)=(0.01+β(T)X)/(0.01+5.0X)で表される温度補正関数であり、Tは水酸アパタイトの合成を行うときの反応温度(℃)であり、β(T)=11−0.11T+4.9×10−4T2である。より詳細には、β(T)=10.62348−0.10934T+4.88048×10−4T2である。尚、下水汚泥原料として乾燥下水汚泥を使用し、アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用した場合においては、温度補正関数におけるγ(T)の値を0.01としても、十分な精度で最適アルカリ濃度を求めることができる。
【0115】
次に、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とを比較する(S107)。この工程は、演算手段10で行われ、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とが比較演算されて、その大小関係が判断される。
【0116】
Y>Cのとき、即ち、演算手段10における比較演算によってアルカリ溶液のアルカリ濃度(C)が最適アルカリ濃度(Y)よりも低いと判断されたときには、制御手段11からアルカリ添加手段7へ命令信号が送られてアルカリ添加手段7の動作が制御され、反応槽5にアルカリが添加されてリン抽出液のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度に調整される(S108)。
【0117】
Y<Cのとき、即ち、演算手段10における比較演算によってアルカリ溶液のアルカリ濃度(C)が最適アルカリ濃度(Y)よりも高いと判断されたときには、制御手段11から中和剤添加手段12へ命令信号が送られて中和剤添加手段12の動作が制御され、反応槽5に中和剤が添加されてリン抽出液のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度に調整される(S109)。尚、中和剤としては、例えば、硫酸,硝酸,塩酸等の無機酸を用いることができる。
【0118】
Y=Cのとき、即ち、演算手段10における比較演算によってアルカリ溶液のアルカリ濃度(C)が最適アルカリ濃度(Y)と等しいと判断されたときには、制御手段11からアルカリ添加手段7及び中和剤添加手段12に命令信号が送られず、反応槽5のリン抽出液がそのまま使用される。
【0119】
ここで、アルカリ溶液のアルカリ濃度とリン抽出液のアルカリ濃度は、水酸アパタイトの合成反応前であれば等しい。したがって、アルカリ溶液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整し得る量のアルカリまたは中和剤をリン抽出液に添加することで、リン抽出液を最適アルカリ濃度に調整することができる。但し、下水汚泥原料からリン抽出液を固液分離する際に、リン抽出液の損失が生じることから、分離されたリン抽出液の量を把握した上でアルカリまたは中和剤を添加することが好ましい。例えば、下水汚泥焼却灰からアルカリ溶液を固液分離する際のアルカリ溶液の損失分は体積換算で25%程度であることが実験的に確認されたことから、この損失分を考慮に入れた上で、リン抽出液にアルカリまたは中和剤を添加することが好ましい。
【0120】
このように、固液分離処理時にアルカリ溶液の損失が発生することから、固液分離処理後にアルカリを添加する場合の方が、固液分離処理前にアルカリを添加する場合よりも、アルカリの添加量を少なくできる。したがって、固液分離処理後にアルカリを添加することによって、アルカリの使用量を抑えて、製造にかかるコストを低減できる。
【0121】
また、アルカリや中和剤を添加する際には、リン抽出液を希釈しないようにすることが好ましい。即ち、リン抽出液が希釈されると、リン抽出液のリン濃度が低くなり、これにより最適アルカリ濃度が変化してしまう。従って、アルカリや中和剤を添加する際には水で希釈せずに添加することが好ましい。
【0122】
次に、リン濃度実測値から求められるリン抽出液のリンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて求められる量の石膏をリン抽出液に添加する(S110)。この工程は、石膏添加手段8と、演算手段10と、制御手段11とで行われる。
【0123】
即ち、演算手段10における演算によってリン濃度実測値からリン抽出液中のリンのモル数を求め、リンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて、石膏の最適添加量を算出する。そして、制御手段11から石膏添加手段8へ命令信号が送られて石膏添加手段8の動作が制御され、反応槽5に最適量の石膏が添加される。尚、リン濃度実測値からリン抽出液中のリンのモル数を求める際には、下水汚泥原料からリン抽出液を固液分離する際のリン抽出液の回収率を考慮することが好ましい。また、石膏の最適添加量は、リンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じたものとすることが望ましいが、若干の誤差は許容される。
【0124】
以上の工程が終了した後、水酸アパタイトの合成反応を開始する。即ち、リン抽出液中のリンと、石膏とを反応させて水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造する。
【0125】
反応時間については、1時間超〜12時間未満とすることが好ましく、3時間〜10時間とすることがより好ましく、3時間〜6時間とすることがさらに好ましく、6時間とすることが最も好ましい。反応時間を1時間以下、12時間以上とすると、吸着材の水酸アパタイト純度が低下すると共に、製造にかかる時間が長時間化するため好ましくない。反応時間を6時間に近づけるにつれて、吸着材の水酸アパタイト純度が高まる。
【0126】
ここで、下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合の第一の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法について、図3に示すプロセスフローに基づいて説明する。即ち、この水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法は、下水汚泥焼却灰を準備する工程(S101a)と、アルカリ濃度(C)の水酸化カリウム溶液を準備する工程(S102a)と、石膏を準備する工程(S103a)と、下水汚泥焼却灰を水酸化カリウム溶液中で撹拌した後に固液分離してリン抽出液を得る工程(S104a)と、リン抽出液のリン濃度を測定してリン濃度実測値(X)を得る工程(S105a)と、リン濃度実測値(X)をY=ξ(X,T)×(0.002+6.5X−1.4X2)に代入して、リン抽出液の最適アルカリ濃度(Y)を算出する工程(S106a)と、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度(C)と最適アルカリ濃度(Y)とを比較する工程(S107a)と、Y>Cのときに、リン抽出液に水酸化カリウムを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程(S108a)と、Y<Cのときに、リン抽出液に中和剤を添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程(S109a)と、リン濃度実測値から求められるリン抽出液のリンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比(1.67)を乗じて求められる量の石膏をリン抽出液に添加する工程(S110a)とを含むようにしている。反応温度T(℃)は、60℃超〜95℃未満とすることが好ましく、70℃〜90℃とすることがより好ましく、80℃とすることがさらに好ましい。
【0127】
また、下水汚泥原料を乾燥下水汚泥とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合の第一の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法について、図4に示すプロセスフローに基づいて説明する。即ち、この水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法は、乾燥下水汚泥を準備する工程(S101b)と、アルカリ濃度(C)の水酸化カリウム溶液を準備する工程(S102b)と、石膏を準備する工程(S103b)と、乾燥下水汚泥を水酸化カリウム溶液中で撹拌した後に固液分離してリン抽出液を得る工程(S104b)と、リン抽出液のリン濃度を測定してリン濃度実測値(X)を得る工程(S105b)と、リン濃度実測値(X)をY=ξ(X,T)×(−0.005+5.5X−0.81X2)に代入して、リン抽出液の最適アルカリ濃度(Y)を算出する工程(S106b)と、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度(C)と最適アルカリ濃度(Y)とを比較する工程(S107b)と、Y>Cのときに、リン抽出液に水酸化カリウムを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程(S108b)と、Y<Cのときに、リン抽出液に中和剤を添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程(S109b)と、リン濃度実測値から求められるリン抽出液のリンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比(1.67)を乗じて求められる量の石膏をリン抽出液に添加する工程(S110b)とを含むようにしている。反応温度T(℃)は、60℃超〜95℃未満とすることが好ましく、70℃〜90℃とすることがより好ましく、80℃とすることがさらに好ましい。
【0128】
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。
【0129】
第二の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法は、下水汚泥原料に含まれるリンをアルカリ溶液で抽出してリン抽出液を得、リン抽出液に石膏を添加して、リンと石膏とを反応させて水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造する方法において、下水汚泥原料を準備する工程と、アルカリ濃度が既知のアルカリ溶液を準備する工程と、石膏を準備する工程と、下水汚泥原料のリン酸含有量を測定する工程と、下水汚泥原料をアルカリ溶液中で撹拌した後に固液分離してリン抽出液を得る工程と、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液に抽出されるリンの濃度をリン濃度最大値とし、リン濃度最大値と下水汚泥原料のリン酸含有量との相関関係を記述した第一の相関関数を用いて、測定されたリン酸含有量からリン濃度最大値を算出する工程と、アルカリ溶液へのリン抽出率とアルカリ溶液のアルカリ濃度との相関関係を記述した第二の相関関数を用いて、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度からリン抽出率を算出する工程と、リン濃度最大値にリン抽出率を乗じてリン抽出液のリン濃度推定値を得る工程と、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比と、水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となるリン抽出液の最適条件を求めて最適条件をリン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した相関関数を用いて、リン濃度推定値からリン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する工程と、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とを比較し、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも低いときに、リン抽出液にアルカリを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程と、リン濃度推定値から求められるリン抽出液のリンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて求められる量の石膏をリン抽出液に添加する工程とを含むようにしている。
【0130】
また、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とを比較し、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも高いときに、リン抽出液に中和剤を添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程をさらに含むようにしている。
【0131】
第二の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法を、図5に示すプロセスフロー図を用いてより詳細に説明する。この水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法は、下水汚泥原料を準備する工程(S201)と、アルカリ濃度が既知のアルカリ溶液を準備する工程(S202)と、石膏を準備する工程(S203)と、下水汚泥原料のリン酸含有量を測定してリン酸含有量計測値(測定されたリン酸含有量)を得る工程(S204)と、下水汚泥原料をアルカリ溶液中で撹拌した後に固液分離してリン抽出液を得る工程(S205)と、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液に抽出され得るリンの濃度をリン濃度最大値とし、リン濃度最大値と下水汚泥原料のリン酸含有量との相関関係を記述した第一の相関関数を用いて、リン酸含有量計測値からリン濃度最大値を算出する工程(S206)と、アルカリ溶液へのリン抽出率とアルカリ溶液のアルカリ濃度との相関関係を記述した第二の相関関数を用いて、アルカリ溶液のアルカリ濃度からリン抽出率を算出する工程(S207)と、リン濃度最大値にリン抽出率を乗じてリン抽出液のリン濃度推定値を得る工程(S208)と、リン濃度推定値から第三の相関関数を用いてリン抽出液の最適アルカリ濃度(Y)を算出する工程(S209)と、アルカリ溶液のアルカリ濃度(C)と最適アルカリ濃度(Y)とを比較する工程(S210)と、Y>Cのときに、リン抽出液にアルカリを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程(S211)と、Y<Cのときに、リン抽出液に中和剤を添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程(S212)と、リン濃度推定値から求められるリン抽出液のリンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて求められる量の石膏をリン抽出液に添加する工程(S213)とを含むようにしている。
【0132】
リン抽出液の最適アルカリ濃度(Y)を算出する工程(S209)で使用する第三の相関関数は、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比と、水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となるリン抽出液の最適条件を求めて最適条件をリン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述されるものである。つまり、上記第一の実施形態における相関関数と第二の実施形態における第三の相関関数とは同じ関数である。
【0133】
第二の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法を実施するための装置の一例を図6に示す。この製造装置1’は、下水汚泥原料をアルカリ濃度が既知のアルカリ溶液中で撹拌する撹拌槽2と、下水汚泥原料のリン酸含有量を測定してリン酸含有量計測値を得るリン酸含有量分析装置13と、下水汚泥原料をアルカリ溶液から固液分離してリン抽出液を得る固液分離手段3と、リン抽出液と石膏とを接触させて水酸アパタイトを合成する反応槽5と、リン抽出液を反応槽に送液する送液手段6と、反応槽5にアルカリを添加するアルカリ添加手段7と、反応槽5に石膏を添加する石膏添加手段8と、記憶手段9と、演算手段10と、制御手段11と、反応槽に中和剤を添加する中和剤添加手段12とを備えている。
【0134】
記憶手段9には、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液に抽出され得るリンの濃度をリン濃度最大値とし、リン濃度最大値と下水汚泥原料のリン酸含有量との相関関係を記述した第一の相関関数と、アルカリ溶液へのリン抽出率とアルカリ溶液のアルカリ濃度との相関関係を記述した第二の相関関数と、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比と、水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となるリン抽出液の最適条件を求めて最適条件をリン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した第三の相関関数とが記憶されている。
【0135】
演算手段10では、記憶手段9に記憶されている第一の相関関数とリン酸含有量分析装置13から入力されるリン酸含有量計測値とからリン濃度最大値を算出する処理と、記憶手段9に記憶されている第二の相関関数とアルカリ溶液の既知のアルカリ濃度からリン抽出率を算出する処理と、リン濃度最大値にリン抽出率を乗じてリン抽出液のリン濃度推定値を演算する処理と、記憶手段9に記憶されている第三の相関関数とリン濃度推定値とからリン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する処理と、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とを比較演算する処理と、リン濃度推定値からリン抽出液のリンのモル数を求め、このモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて石膏の最適添加量を算出する処理とが行われる。
【0136】
制御手段11では、演算手段10によりアルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも低いと判断されたときにアルカリ添加手段7からアルカリを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する制御と、演算手段10によりアルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも高いと判断されたときに中和剤添加手段8から中和剤を添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する制御と、演算手段10により算出された石膏の最適添加量を石膏添加手段8から添加する制御とが行われる。
【0137】
第二の実施形態にかかる製造方法が第一の実施形態にかかる製造方法と相違する点は、リン抽出液のリン濃度を測定によって得るのではなく、下水汚泥原料のリン酸含有量から推定する点にある。つまり、第二の実施形態においては、下水汚泥原料のリン酸含有量のみからリン抽出液のリン濃度を推定して最適な水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造条件を決定することができる点に利点がある。
【0138】
また、第二の実施形態にかかる製造装置1’が第一の実施形態にかかる製造装置1と相違する点は、リン濃度分析装置4ではなく、リン酸含有量分析装置13を備えている点と、記憶手段9に記憶されている関数と、演算手段10における演算処理内容であり、その他の部分は共通している。
【0139】
但し、下水汚泥原料のリン酸含有量は予め明らかにされている場合がある。例えば、下水道事業者が下水汚泥原料中のリン酸含有量を測定しており、下水汚泥原料の引き受け時に下水汚泥原料のリン酸含有量が明らかになっている場合がある。このような場合には、下水汚泥原料のリン酸含有量を測定する工程(S204)並びにリン酸含有量分析装置13を省略して、既知のリン酸含有量をリン酸含有量計測値として本発明を実施できる。
【0140】
以下では、第一の実施形態と相違する点、即ち、下水汚泥原料のリン酸含有量からリン抽出液のリン濃度推定値を求める方法を中心に説明する。
【0141】
まず、下水汚泥原料のリン酸含有量を測定してリン酸含有量計測値を得る(S204)。この工程は、リン酸含有量分析装置13により行われる。
【0142】
リン酸含有量分析装置13は、例えば、XRF(蛍光X線)分析装置である。具体的には、リン灰石標準試料から作成された検量線に基づき、下水汚泥原料において検出されたリン酸のピーク強度値からリン酸含有量を推定することができる。尚、この方法は、非特許文献5に記載されている公知の方法であり、詳細な説明は省略する(非特許文献5:電力中央研究所報告,N05063,24p)。
【0143】
下水汚泥原料は、例えば、以下のようにしてリン酸含有量分析装置13で測定される。即ち、リン抽出に使用する下水汚泥原料の一部が粉体ポンプにより打錠機に送られて、5〜25トン程度で加圧成形されてペレット状とされる。ペレット状に成形することによって、下水汚泥原料の固相率を高めて、分析精度を向上させることができる。尚、下水汚泥原料の種類によっては、加圧成形のみではペレット形状の保持が難しい場合がある。このような場合には、四ホウ酸リチウムやパラノックスといったバインダーを混合して成形する。ペレット状に成形された下水汚泥原料は、リン酸含有量分析装置13に送られ、XRF測定により検出されるリン酸のピーク強度からリン酸含有量計測値が算出される。リン抽出に使用する下水汚泥原料の残りは、下水汚泥原料をアルカリ溶液中で撹拌した後に固液分離してリン抽出液を得る工程(S205)に供される。
【0144】
次に、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液に抽出されるリンの濃度をリン濃度最大値とし、リン濃度最大値と下水汚泥原料のリン酸含有量との相関関係を記述した第一の相関関数を用いて、リン酸含有量計測値からリン濃度最大値を算出する(S206)。この工程は、演算手段10による演算処理により行われる。即ち、記憶装置9に記憶されている第一の相関関数と、リン酸含有量分析装置13から入力されるリン酸含有量計測値とから、リン濃度最大値が算出される。
【0145】
第一の相関関数は以下のようにして求められる。まず、アルカリ濃度の異なるアルカリ溶液を複数準備する。尚、ここで使用するアルカリ溶液は実際にリン抽出に用いるアルカリ溶液と同一種のものとする。そして、リン酸含有量が同一の下水汚泥原料をそれぞれのアルカリ溶液で撹拌し、抽出されるリンの濃度を分析する。ここで、抽出されるリンの濃度はアルカリ溶液のアルカリ濃度がある値以上になると一定値となる。本明細書では、抽出されるリンの濃度が一定値となる最も低いアルカリ濃度を、「リン抽出量が飽和するアルカリ濃度」と呼ぶ。例えば、水酸化カリウム溶液の場合、アルカリ濃度が2mol/L以上になると、抽出されるリンの濃度は一定値となる。つまり、水酸化カリウム溶液を用いる場合には、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度は2mol/Lである。また、本明細書では、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液に抽出されるリンの濃度を「リン濃度最大値」とよぶ。
【0146】
リン抽出量が飽和するアルカリ濃度が明らかになった後、リン酸含有量の異なる下水汚泥原料を複数準備し、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液を用いて、リンを抽出する。そして、リン酸含有量と抽出されるリンの濃度との相関関係から、最小二乗法等により回帰直線を求め、これを第一の相関関数とする。
【0147】
例えば、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合、第一の相関関数は、B=0.2+0.39A、より詳細には、B=0.20258+0.39125Aとなる。尚、Aはリン酸含有量計測値(P2O5換算後の重量%)であり、Bはリン濃度最大値(g/L)である。
【0148】
つまり、第一の相関関数を用いることにより、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液を用いた場合にアルカリ溶液に抽出されるリン濃度、即ち、リン濃度最大値を、リン酸含有量計測値から算出することができる。
【0149】
次に、アルカリ溶液へのリン抽出率とアルカリ溶液のアルカリ濃度との相関関係を記述した第二の相関関数を用いて、アルカリ溶液のアルカリ濃度からリン抽出率を算出する(S207)。この工程は、演算手段10による演算処理により行われる。即ち、記憶装置9に記憶されている第二の相関関数と、アルカリ溶液のアルカリ濃度とからリン抽出率が算出される。
【0150】
第二の相関関数は以下の様にして求められる。まず、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液と、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度よりもアルカリ濃度が低く、且つアルカリ濃度の異なる複数のアルカリ溶液を準備する。尚、ここで使用するアルカリ溶液も実際にリン抽出に用いるアルカリ溶液と同一種のものとする。そして、リン酸含有量が同一の下水汚泥原料をそれぞれのアルカリ溶液で撹拌し、抽出されるリンの濃度を分析する。次に、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液を用いて抽出されたリンの濃度を1とする。即ち、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液を用いたときのリン抽出率を1とする。そして、他のアルカリ溶液を用いて抽出されたリンの濃度をそれぞれリン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液を用いて抽出されたリンの濃度で割って、各アルカリ濃度に対するリン抽出率を求める。そしてアルカリ濃度に対するリン抽出率の相関関係から最小二乗法等により回帰曲線を求め、これを第二の相関関数とする。
【0151】
例えば、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合、第二の相関関数は、α=1.0−1.2/(1+exp((C−0.40)/0.27))、より詳細には、α=1.00356−1.23432/(1+exp((C−0.40188)/0.2734))となる。尚、Cはアルカリ溶液のアルカリ濃度(単位:規定)であり、αはリン抽出率(単位:無次元)である。
【0152】
次に、リン濃度最大値(B)にリン抽出率(α)を乗じてリン抽出液のリン濃度推定値(X)を得る(S208)。この工程は、演算手段10による演算処理により行われる。即ち、リン濃度最大値(B)に、リン抽出率(α)を乗じることによってリン濃度推定値(X)が算出される。
【0153】
リン濃度推定値(X)は、第三の相関関数を用いてリン抽出液の最適アルカリ濃度(Y)を算出する工程(S209)で用いられる。尚、この工程は、第一の実施形態におけるS106と同じ工程であり、S106のリン濃度実測値の代わりにリン濃度推定値を用いることで実行される。
【0154】
また、リン濃度推定値は、リン濃度推定値から求められるリン抽出液のリンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて求められる量の石膏をリン抽出液に添加する工程(S213)で用いられる。尚、この工程は、第一の実施形態におけるS110と同じ工程であり、S110のリン濃度実測値の代わりにリン濃度推定値を用いることで実行される。
【0155】
第二の実施形態におけるS210〜S212は、第一の実施形態におけるS107〜109と同じ工程であり、説明は省略する。
【0156】
ここで、下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合の第二の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法について、図7に示すプロセスフローに基づいて説明する。即ち、この水酸アパタイトの製造方法は、下水汚泥焼却灰を準備する工程(S201a)と、アルカリ濃度(C)の水酸化カリウム溶液を準備する工程(S202a)と、石膏を準備する工程(S203a)と、下水汚泥焼却灰のリン酸含有量を測定してリン酸含有量計測値(A)を得る工程(S204a)と、下水汚泥焼却灰を水酸化カリウム溶液中で撹拌した後に固液分離してリン抽出液を得る工程(S205a)と、リン酸含有量計測値(A)をB=0.2+0.39Aに代入して水酸化カリウム溶液に抽出し得るリン濃度最大値(B)を求める工程(S206a)と、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度(C)をα=1.0−1.2/(1+exp((C−0.40)/0.27))に代入してリン抽出率(α)を求める工程(S207a)と、リン濃度最大値(B)とリン抽出率(α)とをX=αBに代入して、リン抽出液のリン濃度推定値(X)を求める工程(S208a)と、リン濃度推定値(X)をY=ξ(X,T)×(0.002+6.5X−1.4X2)に代入してリン抽出液の最適アルカリ濃度(Y)を算出する工程(S209a)と、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度(C)と最適アルカリ濃度(Y)とを比較する工程(S210a)と、Y>Cのときに、リン抽出液にアルカリを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程(S211a)と、Y<Cのときに、リン抽出液に中和剤を添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程(S212a)と、リン濃度推定値から求められるリン抽出液のリンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比(1.67)を乗じて求められる量の石膏をリン抽出液に添加する工程(S213a)とを含むようにしている。反応温度T(℃)は、60℃超〜95℃未満とすることが好ましく、70℃〜90℃とすることがより好ましく、80℃とすることがさらに好ましい。
【0157】
また、下水汚泥原料を乾燥下水汚泥とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合の第二の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法について、図8に示すプロセスフローに基づいて説明する。即ち、この水酸アパタイトの製造方法は、乾燥下水汚泥を準備する工程(S201b)と、アルカリ濃度(C)の水酸化カリウム溶液を準備する工程(S202b)と、石膏を準備する工程(S203b)と、乾燥下水汚泥のリン酸含有量を測定してリン酸含有量計測値(A)を得る工程(S204b)と、乾燥下水汚泥を水酸化カリウム溶液中で撹拌した後に固液分離してリン抽出液を得る工程(S205b)と、リン酸含有量計測値(A)をB=0.2+0.39Aに代入して水酸化カリウム溶液に抽出し得るリン濃度最大値(B)を求める工程(S206b)と、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度(C)をα=1.0−1.2/(1+exp((C−0.40)/0.27))に代入してリン抽出率(α)を求める工程(S207b)と、リン濃度最大値(B)とリン抽出率(α)とをX=αBに代入して、リン抽出液のリン濃度推定値(X)を求める工程(S208b)と、リン濃度推定値(X)をY=ξ(X,T)×(−0.005+5.5X−0.81X2)に代入してリン抽出液の最適アルカリ濃度(Y)を算出する工程(S209b)と、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度(C)と最適アルカリ濃度(Y)とを比較する工程(S210b)と、Y>Cのときに、リン抽出液にアルカリを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程(S211b)と、Y<Cのときに、リン抽出液に中和剤を添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程(S212b)と、リン濃度推定値から求められるリン抽出液のリンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比(1.67)を乗じて求められる量の石膏をリン抽出液に添加する工程(S213b)とを含むようにしている。反応温度T(℃)は、60℃超〜95℃未満とすることが好ましく、70℃〜90℃とすることがより好ましく、80℃とすることがさらに好ましい。
【0158】
以上、第一の実施形態及び第二の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法および製造装置によれば、吸着材の製造に最適な条件、即ち、吸着材の水酸アパタイト純度を高めつつも、不純物の生成を抑えて、品質ばらつきを抑えることができる。しかも、吸着材の製造に最適な条件を迅速に決定できるので、吸着材の製造を自動化を妨げることがない。
【0159】
例えば、第一の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法および製造装置の場合、リン抽出液のリン濃度をリン濃度分析装置4で迅速に測定して、吸着材の製造に最適な条件を迅速に決定できる。したがって、反応槽5にリン抽出液が送液されている間に、または反応槽5でリン抽出液が水酸アパタイトの合成に最適な温度に加温されている間に、吸着材の製造に最適な条件が決定されるので、吸着材の製造に最適な条件を決定する処理が製造ライン上における律速点となることがない。
【0160】
また、第二の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法および製造装置の場合、下水汚泥原料のリン酸含有量をリン酸含有量分析装置13で迅速に測定して、吸着材の製造に最適な条件を迅速に決定できる。したがって、例えば、撹拌槽2で下水汚泥原料からリンが抽出されている間に吸着材の製造に最適な条件が決定されるので、吸着材の製造に最適な条件を決定する処理が製造ライン上における律速点となることがない。また、撹拌槽2への初期添加分と終期添加分の下水汚泥原料のリン酸含有量を測定し、その平均値をリン酸含有量計測値とすることで、製造に最適な条件の算出精度も高まる。
【0161】
尚、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0162】
例えば、上述の実施形態では、中和剤添加手段12を備えるようにしているが、下水汚泥原料からリンを抽出する際に使用するアルカリの濃度が、最適アルカリ濃度よりも常に低い状況であれば、中和剤を添加する必要はないので、中和剤添加手段12は省略してもよい。
【0163】
さらに、上述の実施形態では、温度補正関数を第一の実施形態における相関関数(第二の実施形態における第三の相関関数)に組み込んで、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度が80℃以外の場合にも最適アルカリ濃度を求めることができる相関関数を得るようにしていたが、基準となる相関関数を反応温度が80℃に設定して求められた関数以外のものとしてもよい。また、温度補正関数を相関関数に組み込んで基準となる相関関数の温度補正を行う形態には限定されない。例えば、反応温度自体を変数として組み込んだ相関関数を求め、この相関関数に反応温度を代入して使用するようにしてもよい。
【0164】
また、上述の実施形態では、リン抽出液のリン濃度から最適製造条件を決定するようにしていたが、上記のように、リンとアルミニウムは比例関係にあることから、リン濃度の代わりにアルミニウム濃度から最適製造条件を決定することも可能である。したがって、リン抽出液のアルミニウム濃度を例えばICP−AESで測定して、最適製造条件を求めるようにしてもよい。
【0165】
さらに、上述の実施形態では、反応槽5に送液されたリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整するようにしているが、下水汚泥原料のリン酸含有量から最適条件を算出した後に、下水汚泥原料からリンを抽出するようにして、このときに使用するアルカリ溶液の濃度を最適アルカリ濃度に調整するようにしてもよい。
【0166】
例えば、反応槽5で水酸アパタイトの合成反応を進行させている間に、次に使用する下水汚泥原料のリン酸含有量を測定して最適条件を求め、下水汚泥原料からリンを抽出する際に使用するアルカリ溶液にアルカリを添加して最適アルカリ濃度に調整し、リンの抽出を行うようにしてもよい。この場合には、反応槽5に送液されたリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する必要がなくなる。
【0167】
この場合には、第一の相関関数〜第三の相関関数に基づいて、下水汚泥原料のリン酸含有量と最適アルカリ濃度との関係を示す第四の相関関数を計算し、第四の相関関数に基づいて、下水汚泥原料のリン酸含有量から最適アルカリ濃度を求めればよい。
【0168】
例えば、下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合、第四の相関関数は、以下の式で表される。
Y=−2.00746exp(−A/19.68494)−1.96386exp(−A/19.53816)−1117.21503exp(−A/1.43115)+3.03419
Aはリン酸含有量(単位:P2O5換算後の重量%)であり、Yは最適アルカリ濃度(単位:規定)である。
【0169】
また、第四の相関関数を用いた製造方法と第一の実施形態の製造方法とを組み合わせてもよい。即ち、下水汚泥原料のリン酸含有量を計測した後、第四の相関関数を用いて抽出に用いるアルカリ溶液の最適アルカリ濃度を推定し、リン抽出に用いるアルカリ溶液を最適アルカリ濃度に調整してからリン抽出を開始する。そして、リン抽出液のリン濃度を測定し、第三の相関関数に基づいてリン抽出液の最適アルカリ濃度を求め、リン抽出液のアルカリ濃度を再度調整する。これにより、リン抽出液の最適アルカリ濃度からのずれを解消して、水酸アパタイトの合成を行うようにしてもよい。
【0170】
このように、リン抽出にもちいるアルカリ溶液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整した場合には、以下のような利点がある。即ち、第一の実施形態及び第二の実施形態における製造方法よりも、リン抽出に用いるアルカリ溶液の濃度を高めて、下水汚泥原料からのリン抽出率を高めることができる場合があるので、吸着材の合成に必要な下水汚泥原料が少なくて済み、下水汚泥原料の輸送コストや引き取り量を削減出来る。
【0171】
ただし、アルカリの消費量という観点から考えた場合には、アルカリの添加量が抑えられる第一の実施形態や第二の実施形態を採用することが好ましい。即ち、固液分離処理後にアルカリの添加を行ってリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する第一の実施形態及び第二の実施形態の方が、アルカリ濃度の調整に必要なアルカリの量が少なくて済むので、アルカリの使用量を抑えて製造にかかるコストを低減できると共に、アルカリ投入量に対するリンの回収率(水酸アパタイト生産量)を向上させ易い。
【実施例】
【0172】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0173】
<分析方法>
本実施例において使用した分析方法を以下に説明する。
【0174】
試料のXRD(X線回折)分析には、フィリップス(株)製のPW3020を使用した。測定条件は以下の通りとした。
・管球:Cu
・出力:40kV、50mA
・波長:CuKα、1.54056Å
・回折角度:2θ=2゜〜60°
・スキャンスピード:1゜/分
【0175】
試料のXRF(蛍光X線)分析には、島津製作所(株)製のXRF1500を使用した。分析に供する試料は粉砕して(試料が粉末の場合はそのまま)、強熱減量を950℃、2時間の条件で計量した後、四ホウ酸リチウムと試料とを5:1の割合(重量比)で混合してガラスビードとした。だだし、一部試料の硫黄分については粉体プレス法で成形したものを定量した。含有成分の定量にはMBH社製標準岩石試料(192 A SA 32,リン灰石標準試料)と、産業技術総合研究所標準岩石試料7種から作成した検量線を用いた。詳細は非特許文献5に記載されているので、ここでは説明を省略する。
【0176】
溶液等の化学組成の分析は、以下の方法で実施した。即ち、pHの測定は、JIS K 0102 12.1の分析方法により、デジタルpH計(東亜DKK(株)、HM−14P)を使用して行った。アルミニウム濃度の測定は、JIS K 0102 58.4の分析方法により、ICP−AES(島津製作所(株)ICPS−8100)を使用して行った。リン濃度は、イオンクロマトグラフ (東ソー(株) IC−2001)を用いて分析した。
【0177】
[実施例1]
水酸アパタイトの合成品の純度を向上させ、品質ばらつきを抑えるための条件について検討した。
【0178】
<原料>
原料となる石膏は、国内の中間処理業者から発生した紙分離処理後の石膏ボード廃棄物(以下、B1と呼ぶ)と、国内の石炭火力発電所から発生した3種類の脱硫石膏試料(以下、それぞれD82、D83、D84と呼ぶ)と、関東化学製の試薬石膏(以下、PGと呼ぶ)を用いた。石膏B1、D82、D83、D84のXRD分析結果を図30に示す。尚、PGは化学試薬の二水石膏であるため分析は省略した。
【0179】
図30において、●は二水石膏(Gypsum)に帰属されるピークを示し、○は半水石膏(Bassanite)に帰属されるピークを示し、△は無水石膏(Anhydrite)に帰属されるピークを示し、▲は石英(Quartz)に帰属されるピークを示す。B1については、大部分が二水石膏であるが、微量に無水石膏、半水石膏が含まれていた。D82、D83、D84はほぼ二水石膏のピークだけであり、半水石膏、無水石膏のピークは検出されなかった。
【0180】
一方、下水汚泥原料としては、国内の下水処理場から発生した2種類の下水汚泥焼却灰(以下、それぞれA1、A2と呼ぶ)を用いた。各下水汚泥焼却灰のXRF分析結果を表1に示す。
【0181】
【表1】
【0182】
A1及びA2の双方とも、主要な含有成分は、SiO2、Al2O3、CaO、P2O5であった。また、SiO2についてはA1の方が含有量が少なかったが、Al2O3、CaO、P2O5については、A1の方が含有量が多く、特にP2O5に関しては、A2よりもA1の方が2倍弱程度多く含まれていることが確認された。
【0183】
下水汚泥焼却灰(A1,A2)と石膏(B1,D82,D83,D84,PG)とを原料として、水酸アパタイトを各種条件で合成し、下水汚泥焼却灰の化学組成、石膏の化学組成、リン抽出に使用したアルカリの種類、アルカリ溶液のアルカリ濃度、アルカリの追加添加の有無、反応時間および反応温度の影響を検討した。各合成試料の詳細な合成条件を表2に示す。尚、標準条件は、以下に示すA〜Dの合成条件とした。表2中の試料3と試料15が標準条件に該当する条件で合成されたものである。
(A)下水汚泥焼却灰を2mol/Lの濃度の水酸化カリウム溶液に投入し、固液比L/S=5L/kgの条件で6時間振とうして下水汚泥焼却灰に含まれているリンを室温で抽出した後、固液分離してリン抽出液を得る。
(B)リン抽出液にさらに1L当たり0.5mol量の水酸化カリウムを追加添加する。
(C)リン抽出液に石膏を添加し、密閉容器中で反応温度80℃、撹拌条件120rpmで24時間振とうして水酸アパタイトを合成する。石膏の添加量は液相中のリンのモル量の1.67倍のモル量に設定する。
(D)フィルターで固液分離を行い、分離された水酸アパタイト試料をフィルター上で純水100ccを用いて2回洗浄し、恒温乾燥器内において80℃で24時間乾燥させる。
【0184】
【表2】
【0185】
<下水汚泥焼却灰のリン酸含有量の相違によるリン抽出量の相違>
試料1〜3及び試料13〜15の水酸アパタイトの合成過程で得られたリン抽出液の濃度から、下水汚泥焼却灰の化学組成の相違によるリン抽出量の相違について検討した。結果を図9に示す。図9において、横軸は下水汚泥焼却灰からのリンの抽出に使用した水酸化カリウム溶液の濃度を示している。
【0186】
図9に示す結果から、下水汚泥焼却灰A1(■)を用いた場合の方が、下水汚泥焼却灰A2(○)を用いた場合よりもリンを多く抽出できていることがわかった。下水汚泥焼却灰A1にはA2よりもP2O5が多く含まれていたことから(表1参照)、下水汚泥原料のリン酸含有量に応じて、アルカリ溶液で抽出し得るリンの量も多くなることが明らかとなった。また、アルカリ濃度が1.0mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いた場合のリン抽出量は、アルカリ濃度が2.0mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いた場合のリン抽出量に対し、0.88倍であり、この結果は、下水汚泥焼却灰をA1とした場合もA2とした場合も変わらなかった。つまり、アルカリ溶液へのリンの抽出率は、アルカリ濃度のみに依存しており、下水汚泥原料のリン酸含有量には依存していないことが明らかとなった。
【0187】
<下水汚泥焼却灰のリン酸含有量とリン抽出量との関係>
アルカリ濃度が2.0mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いてA1及びA2からリンを抽出した場合のリン抽出量のデータと、これらとは別の実験データに基づき、リン酸含有量に対するリン抽出量の関係を示す回帰直線を最小二乗法により求めたところ、図10に示すように、比例関係が得られた。即ち、Aをリン酸含有量(単位:P2O5換算後の重量%)とし、Yをリン抽出液のリン濃度(単位:g/L)として、B=0.2+0.39A、より詳細には、B=0.20258+0.39125Aとなることが明らかとなった。
【0188】
ここで、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度が2.0mol/Lを超えると、抽出されるリンの量がほとんど変わらなくなることが別の実験から確かめられた。したがって、この関係を用いることで、下水汚泥原料のリン酸含有量から抽出され得るリンの濃度の最大値を予測することができる。
【0189】
<アルカリ溶液のアルカリ濃度に対する下水汚泥焼却灰からのリン抽出率>
上記のように、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度が2.0mol/Lを超えると、抽出されるリンの量がほとんど変わらなくなることが別の実験から確かめられたことから、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度が2.0mol/Lのときにリン濃度最大値が得られることが分かった。そこで、図9に示す実験結果に基づき、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度が2.0mol/Lのときのリン抽出率を1として、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度が1.0mol/L、0.5mol/Lの場合のリン抽出率を計算し、水酸化カリウムのアルカリ濃度に対するリン抽出率の相関を示す関数を求めた。関数はBolzmann関数形で表した場合のパラメータを、非線形最小二乗フィッティングにより計算して求めた。
【0190】
結果を図31に示す。図31において、関数は実線で示されている。関数は、α=1.0−1.2/(1+exp((C−0.40)/0.27))、より詳細には、α=1.00356−1.23432/(1+exp((C−0.40188)/0.2734))となる。尚、Cはアルカリ溶液のアルカリ濃度(単位:規定)であり、αはリン抽出率(単位:無次元)である。この関数を利用することで、アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を用いた場合に、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度から、リンの抽出率を推定することができる。
【0191】
<リン抽出液中のリンとアルミニウムの濃度の関係>
下水汚泥焼却灰からは、リンと同時にアルミニウムも抽出される。下水汚泥焼却灰のAl2O3含有量は、表1に示されるように、A1とA2の間でほとんど差が無いのに対し、リン抽出液に溶出されたアルミニウム量にはA1とA2の間で顕著な差があり、量的にはそれぞれリン抽出量に比例した量となっていた。そこで、アルカリ濃度が0.5mol/L、1.0mol/L、2.0mol/Lの溶液でA1及びA2からリンを抽出した場合のリン抽出液のリン濃度とアルミニウム濃度の関係をプロットすると共に、別の実験から得られたリン抽出液のリン濃度とアルミニウム濃度の関係をプロットし、その相関関係を調べた。結果を図11に示す。
【0192】
図11に示される結果から、リン濃度とアルミニウム濃度の関係は、原点を通る直線上に分布し、その勾配がモル比率でP:Al=1:0.74となることが確認された。
【0193】
尚、下水汚泥焼却灰中では、リンがAlPO4の形態で存在していることがXRD分析の結果から確認された。したがって、AlPO4がアルカリ溶液に抽出されるリンの主要なソースであると考えられた。
【0194】
ここで、さらに、下水汚泥焼却灰の代わりに、乾燥下水汚泥を用いて水酸化カリウム溶液によりリンを抽出し、リン抽出液のリン濃度とアルミニウム濃度の関係をプロットして、その相関関係を調べた。結果を図12に示す。
【0195】
図12に示される結果から、リン濃度とアルミニウム濃度の関係は、原点を通る直線上に分布し、その勾配がモル比率でP:Al=1:0.5となることが確認された。
【0196】
以上の結果から、リン抽出液のリン濃度とアルミニウム濃度の関係は、下水汚泥原料の種類、即ち、焼却や乾燥、炭化といった処理方法によって異なることが明らかとなった。
【0197】
<アルカリ溶液の相違によるリン抽出量の相違>
試料1〜3及び試料10〜12の水酸アパタイト試料の合成過程で得られたリン抽出液のリン濃度から、リンの抽出に使用したアルカリ溶液の種類によるリン抽出量の違いについて検討した。結果を図13に示す。図13において、横軸は下水汚泥焼却灰からのリンの抽出に使用したアルカリ溶液の濃度(水酸化カリウム濃度または水酸化ナトリウム濃度)を示している。水酸化カリウム溶液による抽出と比較すると、水酸化カリウム溶液によるリン抽出量は、0.5mol/Lで0.76倍、1mol/Lで0.77倍、2mol/Lで0.55倍であり、同一の下水汚泥焼却灰を対象とした試験では、アルカリ薬剤投入量(モル単位)あたりのリン抽出の効率は水酸化カリウムを用いた結果よりも劣ることがわかった。
【0198】
以上、図13に示す結果から、水酸化カリウム溶液(■)を用いた場合の方が、水酸化ナトリウム溶液(○)を用いた場合よりもリンを多く抽出できていることがわかった。
【0199】
ここで、水酸化ナトリウム溶液を用いた場合の方が水酸化カリウム溶液を用いた場合よりもリンの抽出量が少なく、しかも水酸化ナトリウム濃度が1.0mol/Lを超えるとむしろリンの抽出量が少なくなった理由については以下のように考えられる。即ち、水酸化ナトリウムとリンが反応するとリン酸ナトリウム(Na3PO4)が生成される。リン酸ナトリウムは、飽和平衡時の濃度が25℃で約0.89mol/L(理科年表データ)であることから、その平衡定数は約0.62である。一方、水酸化ナトリウム濃度が2mol/Lのリン抽出液中のナトリウムイオン濃度の測定値はナトリウムイオン濃度が1.46mol/L、リン酸イオン濃度が0.2mol/Lであることから、ここから溶解度積を計算すると0.62となる。したがって、水酸化ナトリウム濃度が2mol/Lのリン抽出液は、25℃でリン酸ナトリウムに対して飽和状態にあることがわかり、リン酸ナトリウムが析出しやすい状態となっていたことに起因しているものと考えられる。したがって、水酸化ナトリウム溶液をリン抽出液として使用する場合、特に1.0mol/Lを超えるアルカリ濃度の水酸化ナトリウム溶液を用いる場合には、水酸化ナトリウム溶液を加熱してリン酸ナトリウムに対して不飽和状態とすることが望ましいことがわかった。例えば、40℃におけるリン酸ナトリウムの平衡定数は4.08(理科年表データ)となり、リン抽出液がリン酸ナトリウムに対して飽和状態となることなく、十分にリンの抽出ができるものと推定される。
【0200】
<水酸化ナトリウム溶液を用いた場合のリン濃度とアルミニウム濃度の関係>
試料10〜12の水酸アパタイト試料の合成過程で得られたリン抽出液のリン濃度とアルミニウム濃度から、水酸化ナトリウム溶液を用いた場合のリン抽出液のリン濃度とアルミニウム濃度の相関関係について検討した。結果を図14に示す。アルミニウム濃度に関してはリンと異なり、アルカリの濃度が高いほど高濃度になっており、2.0mol/L条件下での抽出液の組成については、リンとアルミニウムの比例関係からは外れていることが確認された。
【0201】
この原因に関しても、上記のリン酸ナトリウム(Na3PO4)の生成によるものと推定される。つまり、本来抽出されるべき量のリンが、リン酸ナトリウムの生成によって抽出されなかったことに起因するものと推定される。したがって、この結果からも、水酸化ナトリウム溶液をリン抽出液として使用する場合には、水酸化ナトリウム溶液を加熱してリン酸ナトリウムに対して不飽和状態とすることが望ましいことがわかった。
【0202】
<合成された水酸アパタイト試料のXRF分析及びXRD分析>
次に、試料1〜38をXRF分析して得られた結果を図15に示す。尚、図15においては、比較のために、試薬アパタイト(和光純薬製、図15中では試薬HAPと呼ぶ)及び骨炭(和光純薬製)のデータも示した。
【0203】
試料1〜38のP2O5含有量の中央値は26.0%であり、CaO含有量の中央値は39.1%であった。これに対し、試薬アパタイトと骨炭のP2O5含有量はそれぞれ40.1%、29.8%であり、CaO含有量は54.5%、41.8%であった。したがって、試料1〜38の中央値と比較した場合、水酸アパタイトの構成元素であるリンとカルシウムの含有量は試薬アパタイト及び骨炭よりも低い結果となった。しかし、試料1〜38の中にはP2O5含有量の高い試料もあり、試料10、試料12、試料13、試料30、試料32、試料38については、P2O5含有量は28%を超えていた。したがって、合成条件を制御することにより、競合品である骨炭に匹敵する純度の水酸アパタイトの合成品を得ることが可能と考えられた。
【0204】
次に、試料1〜38をXRD分析し、各試料に含まれている鉱物をXRDスペクトルのピークから同定した。その結果、以下の鉱物が1試料以上に検出された。
・水酸アパタイト:hydroxyapatite Ca10(PO4)6(OH)2
・ギブサイト:gibbsite Al(OH)3
・クゼライト:kuzelite Ca4Al2(OH)12(SO4):6(H2O)
・バサナイト:bassanite 2CaSO4:(H2O)
・アルカナイト:arcanite K2SO4
・ポートランダイト:portlandite Ca(OH)2
・シゲナイト:sygenite K2Ca(SO4)2・H2O
【0205】
上記鉱物の中で、リンを含むのは水酸アパタイトのみである。したがって、P2O5含有量は水酸アパタイト含有量の指標になり得ることがわかった。尚、試料1〜3のXRD分析結果を参考のために図16に示しておく。図16において、▽は水酸アパタイトに帰属されるピークを示し、▼はアルカナイトに帰属されるピークを示し、▲は石英に帰属されるピークを示し、◆はギブサイトに帰属されるピークを示し、□はクゼライトに帰属されるピークを示す。
【0206】
尚、アルカリ溶液として水酸化ナトリウム溶液を用いて合成された試料の組成についてはNa2O含有量が試料10で2%、試料11で4%、試料12で5%である点がアルカリ溶液を水酸化カリウム溶液を用いて合成された試料と異なっていた。K2O含有量については、試料1及び2ではそれぞれ4.8%、1.7%であるので、アルカリ薬剤の使用に起因する不純物混入量の割合は、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液のどちらを使用してもほとんど変わらない結果となった。
【0207】
また、試料10、試料11、試料12のP2O5の含有量は27〜29%と高く、水酸アパタイトの純度も水酸化カリウム溶液による合成品よりも若干高いことが確認された。また、試料10、試料11、試料12の副生成鉱物についてはXRD波形からクゼライトとポートランダイトのピークが確認されており、一方、試料1及び試料2に存在したギブサイトのピークは確認されなかった。このため、試料10、試料11、試料12のAl2O3の含有量は試料1、試料2、試料3と比較して少なくなっている。不純物量の違いに関しては、リン抽出液への石膏の規定添加量が少なかったため、相対的に高いpH領域(合成反応終了時のpHが13.3〜13.8)で合成が行われたためと考えられる。
【0208】
<水酸アパタイトの合成反応終了時のpH測定値と水酸アパタイトの化学組成との関係の検討>
水酸アパタイト中の不純物の含有量は、反応に伴って生成する水酸アパタイト以外の鉱物の生成が関係していると考えられる。そして、これら鉱物の生成条件は、水酸アパタイト合成時の液相のpHが深く関与しているものと考えられる。そこで、水酸アパタイトの合成反応終了時のpH測定値と、水酸アパタイトの化学組成との関係について検討した。
【0209】
反応温度と反応時間が共通している試料1〜15について、水酸アパタイトの合成反応終了時のpH値と、XRF分析により得られたP2O5含有量(重量%)との関係を調べた結果を図17に示す。また、試料1〜15について、水酸アパタイトの合成反応終了時のpH値と、XRF分析により得られたAl2O3含有量(重量%)との関係を調べた結果を図18に示す。図17と図18には、各試料において存在が確認された副生成鉱物種データから、同じ副生成鉱物種の存在が確認された点を略円で囲んでグループ化した。バサナイトとシゲナイトについては略円を破線とした。但し、アルカナイトに関しては試料3でのみ存在が確認されたため、図には反映させなかった。尚、図17と図18において、○の中に記載された数字は試料番号を示している。
【0210】
まず、図17について検討すると、pH10.8〜13.5まではpHが高くなるにつれてP2O5含有量が多くなり、pH13.2〜13.5付近の試料(試料10と試料13)においてP2O5含有量が最も多くなった。そして、pH13.5を超えると、P2O5含有量はやや低下する傾向が見られた。
【0211】
次に、図18について検討すると、pH10.8〜11.8まではpHが高くなるにつれてAl2O3含有量が多くなる傾向が見られた。pH11.8〜pH13.5未満まではAl2O3含有量が低下する傾向が見られたが、試料7はこの傾向からは若干逸脱していた。
【0212】
ここで、各鉱物について検討する。バサナイトは試料8と試料9のみで存在が確認された。バサナイトは、未分解の石膏が80℃の反応温度下で結晶水を失って形成されたものである。したがって、pH12以下の領域では石膏の分解速度が遅延しているものと考えられる。また、バサナイトが検出された試料8と試料9については、図18に示されるように、Al2O3含有量が9〜11%と高いにも関わらず、XRD分析においてはアルミニウム鉱物のピークは検出されなかった。このことから、試料8と試料9には、水酸化アルミニウムが非晶質の状態で含まれているものと推察される。
【0213】
シゲナイトは試料9と試料6のみで存在が確認された。シゲナイトは、カリウム濃度が高い状況下で石膏が硫酸カリウムとの間で複塩を形成し、生成したものと考えられる。したがって、シゲナイトが検出される場合においても、石膏の分解速度が遅延しているものと考えられる。
【0214】
ギブサイトは試料1、試料4、試料5、試料6及び試料7において存在が確認された。ギブサイトの存在が確認された試料は、pH12.8〜13.2の領域にあり、図18に示されるように、Al2O3含有量についても5.8〜9.3%と比較的多い傾向があった。
【0215】
pHが13.2を超えると試料からギブサイトが検出されなくなり、クゼライトまたはポートランダイトが検出されるようになる。クゼライトとポートランダイトの存在領域は、図17及び図18に示されるように重複しており、pHによる分離はできなかった。
【0216】
アルカナイトは試料3のみで存在が確認された。ここで、図15に示されるように、試料3ではK2O含有量が多いため、P2O5含有量が相対的に少なかった。
【0217】
以上より、水酸アパタイトの純度の指標となるP2O5含有量は、ギブサイトの生成している領域よりもやや高いpH領域、即ち、pH13.2〜13.5で最も高くなることがわかった。
【0218】
この結果から、水酸アパタイトの合成反応終了時のpHを、ギブサイトが生成(析出)するpHよりもやや高いpH、即ちpH13.2〜13.5とすることで、水酸アパタイトの純度を高めることができ、不純物含有量も低減できることがわかった。
【0219】
<理論計算による副生成鉱物の生成過程の検討>
次に、地球化学計算コードを用いて副生成鉱物の生成量を計算し、副生成鉱物と水酸アパタイトの合成時のpHとの関係について理論的に検討した。
【0220】
地球化学計算のモデルケースとして、以下の水質を設定した。尚、単位は全て「mol/kgH2O」である。「kgH2O」とは、単位重量(kg)あたりの水を意味する。
・Al:0.2
・Na:0.001
・SO4:0.45
・Ca:初期段階 0.45 / 終期段階 0.045
・K:0〜3.0
【0221】
アルミニウム濃度は、実際のリン抽出液中の濃度を参考に0.2mol/kgH2Oに設定した。また、アルミニウム濃度とリン濃度とは、上記のように比例関係にあり、さらに、石膏はリン抽出液中のリンのモル数の1.67倍に相当する量を添加すると仮定し、硫酸イオン量は0.45mol/kgH2Oに設定した。カルシウム濃度については、水酸アパタイトが全く生成されていない段階(初期段階)と、添加したカルシウムの90%が水酸アパタイト生成により抽出液から除外された段階(終期段階)の2ケースに分けて、副生成鉱物の生成量を計算した。また、合成時のpHを制御するため、水酸化カリウムについては、投入量を少しづつ変化させて計算し、副生成鉱物の生成量とpHとの関係を求めた。
【0222】
反応中の温度は80℃に設定した。生成を考慮する鉱物種は、試料1〜38のうちの1試料以上に存在が確認された鉱物種であるクゼライト、ポートランダイト、ギブサイト、シゲナイト、アルカナイトとした。また、無水石膏であるアンハイドライトの生成の可能性も想定した。そして、これらの鉱物種については、飽和したときに析出するものとして計算した。
【0223】
地球化学計算コードは米国地質調査所のPhreeqC ver. 2.12.1を使用した。熱力学データについては、クゼライト、シゲナイトは非特許文献2に記載の値を使用した。その他の鉱物については非特許文献3及び非特許文献4のデータベースを使用した。尚、pH値については反応終了後に反応系を25℃に冷却した時の値を求めて、実試験データと直接比較できるようにした。
【0224】
計算の結果、液相から析出する鉱物種は、ポートランダイト、ギブサイト、クゼライトの3種であり、その他の鉱物種は、設定した条件下では不飽和(生成しない)という結果となった。
【0225】
初期段階におけるpHと副生成鉱物の生成量との関係を図19に示す。pH12以下の領域ではギブサイトが形成されているが、pH12を超える領域では、アルミニウムがギブサイトではなく、クゼライトの形態をとることがわかった。また、pH12.6を超えるとポートランダイトが生成され、クゼライトが消失するpH13.75までの領域では、クゼライトとポートランダイトが共存する結果となった。
【0226】
次に、終期段階におけるpHと副生成鉱物の生成量との関係を図20に示す。終期段階においては、液相中のカルシウム量が少ないことから、クゼライトの生成量はカルシウム量に拘束されて少なくなり、アルミニウムが一部クゼライトの生成に消費されているが、ギブサイトの生成にはほとんど影響を与えないことがわかった。また、このことに起因して、ギブサイトは初期段階よりも高いpH13.5の領域においても析出することがわかった。尚、カルシウム量が少ないため、ポートランダイトはpH13.8以上にならないと生成しない結果となった。
【0227】
<理論計算の結果と実験結果との比較検討>
上記計算結果を実際の実験結果と比較する。図18に示されるように、合成反応終了時のpHが12.8〜13.2の領域で生成された試料は、Al2O3含有量が多く、XRD分析においてもギブサイトのピークが確認されている。pH12.8〜13.2の領域は、計算結果においてもギブサイト生成領域であることが示されており、実験結果と計算結果が一致していた。
【0228】
一方、合成反応終了時のpHが13.2〜14.1の領域で生成された試料では、XRD分析により、クゼライトとポートランダイトが確認されている。ポートランダイトの生成可能領域が計算結果ではより高pHの領域にあるが(pH13.8以上)、カルシウム濃度が高い初期段階ではもっと低いpH領域でもポートランダイトの生成は起こることから、実験の際には、一度生成したポートランダイトが一部残存していたと考えられる。
【0229】
ここで、水酸アパタイトは、カルシウムに関し、ポートランダイトやクゼライトよりも低濃度で析出する。そのため、実際の反応系においては、上記化1でも示されるように、水酸アパタイトの生成に伴い、水酸アパタイト析出に伴う液相中のカルシウム濃度の低下と、プロトンの放出によるpHの低下が連続的に起きている。このことを考慮すると、pHと鉱物生成量との関係については、以下のように考えることができる。
【0230】
即ち、反応初期の段階では、pHが12以上であり、石膏中のカルシウムは最初にクゼライトあるいはポートランダイトの形態に変化する。反応が進行するに伴い、液相のpHの低下とカルシウム濃度の低下とが起こると、クゼライトが分解し、液相中のアルミニウム濃度が再び高まる。水酸アパタイトの生成に伴うpHの低下により、合成反応終期にpHが13.5以下になると液相の組成がギブサイトに対して過飽和となり、ギブサイトの析出が起こる。
【0231】
このことから、実験結果について考察すると、合成反応終了時のpHが13以下の領域にある試料中にはギブサイトが形成され、結果として固相中のアルミニウム濃度が上昇してしまったものと考えられる。一方、合成反応終了時のpHが13以上の領域にある試料については、水酸アパタイトの生成では消費されなかった僅かなカルシウム分がクゼライトあるいはポートランダイトの形態で残存し、これがXRD分析の際に検出されたものと考えられる。
【0232】
また、水酸アパタイトを合成する前に、反応初期のpHが12より低い場合には、水酸アパタイトの合成速度が著しく遅くなることが実験において確認された。上記計算結果からこの現象を考察すると、反応初期の段階においては、生成するアルミニウム鉱物種がpH12を境にギブサイトからクゼライトに切り替わることから、このことが後の石膏の分解速度を決定している可能性が示唆された。
【0233】
つまり、メカニズムとしては、ギブサイトや非晶質の水酸アルミニウムはpHの低い石膏表面付近に優先して析出してしまうのに対して、クゼライトは構成成分としてアルミニウムの他にカルシウムを含んでいることから、クゼライト生成時に石膏からのカルシウム溶脱が促進され、石膏の結晶構造の分解に関与することによって、石膏が分解されやすくなり、水酸アパタイトが速やかに合成されるようになると推定される。
【0234】
以上、上記計算結果及び上記実験結果から、固相中のアルミニウム濃度の上昇を防ぐためには、水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの生成を抑えることが必要であることがわかった。即ち、水酸アパタイトの合成反応終了時に、液相(リン抽出液)の組成がギブサイトに対して過飽和とならない(ギブサイトが析出しない)pHに維持されることが、水酸アパタイトの純度を高め、且つ不純物量を少なく保って品質ばらつきを抑える上で重要な要素であることが明らかとなった。
【0235】
<最適製造条件の予測方法の検討>
上記の各種検討結果から、水酸アパタイトの純度を高め、且つ不純物量を少なく保って品質ばらつきを抑えるためには、水酸アパタイトの合成反応終了時のpHをギブサイトが析出するpH領域まで低下しないようにアルカリ薬剤を添加する必要がある。上記の通り、水酸化カリウム溶液を用いて下水汚泥焼却灰からリンとアルミニウムを抽出したときのリンとアルミニウムのモル比は、一般にP:Al=1:0.74という関係にあることから、下水汚泥焼却灰から抽出されるリンの濃度がわかれば、リン抽出液のアルミニウム濃度も同時に推定可能である。そこで、上記と同様に地球化学計算コードを用いて単純化した反応モデルを設定し、水酸アパタイトの合成反応終了時のpHを計算した。
【0236】
反応モデルは以下のように設定した。
・液相中のカリウム濃度は、水酸化カリウムの総投入量に等しい。
・リン抽出液中のリンとアルミニウムのモル比は常に1:0.74である。
・石膏はリン抽出液のモル数の1.67倍添加すると仮定し、合成反応終了時には添加した石膏が全て水酸アパタイト化する(熱力学平衡に達する)ものとする。
【0237】
水温は80度に設定した。また、酸素(ガス)平衡分圧は1%に設定した。尚、酸素分圧の設定は計算過程における硫酸の還元を防ぐためのものであり、硫酸還元が起こらない条件であれば、計算結果に影響を及ぼさない。
【0238】
ギブサイトの平衡反応式は上記(化2)式を使用した。平衡定数Kの対数logKは、公知の熱力学データthermo.com.V8.R6.230データを使用し、7.756に設定した。また、温度補正を行うためのエンタルピー(ΔH)は−102.788(kJ/mol)を用いた。その他の熱力学データもthermo.com.V8.R6.230を用いた。
【0239】
計算においては、試料1、試料2、試料3、試料13、試料14、試料15の合成に用いたリン抽出液のリン濃度を入力データとして、上記反応モデルを適用し、水酸アパタイトの合成反応終了時のpHを予測した。
【0240】
試料1、試料2、試料3、試料13、試料14、試料15を合成した際の合成反応終了時のpHの実測値と、計算による合成反応終了時のpH予測結果とを図21に示す。図21においては、計算によるpH予測値に対してpHの実測値がプロットされており、Y=Xの直線上に試料の実測値が存在していれば、計算によるpH予測値とpH実測値が一致していることになる。図21に示されるように、試料1に関しては、計算によるpH予測値がpH実測値よりも高くなっているものの、その他の試料については概ねY=Xの直線近傍にあり、合成反応終了時のpH予測に関し、上記反応モデルを適用できることが確認できた。
【0241】
次に、上記反応モデルを用いて、合成反応終了時にギブサイトが析出しない限度のpH、即ち、ギブサイト飽和指数が0となるpHにするために必要な水酸化カリウムの総投入量(水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度)について、リン抽出液のリン濃度との関係を求めた。結果を図22に示す。
【0242】
図22に示されるように、ギブサイト飽和指数が0となるpHにするために必要な水酸化カリウムの総投入量Y(mol/L)は、リン抽出液のリン濃度X(mol/L)に対して以下の式で表現することができた(以下、この式をギブサイト飽和曲線と呼ぶ)。
Y=0.00233+6.5147X−1.37986X2 (但し、0.07<X<0.42)
【0243】
図22には、試料1、試料2、試料3、試料13、試料14、試料15の水酸アパタイト合成条件の位置と、XRD分析により確認された副生成鉱物種を示した。図22において、Kuはクゼライトであり、Gibはギブサイトであり、Poはポートランダイトであり、Arcはアルカナイトである。また、図22には、アルカナイト飽和曲線も示した。アルカナイト飽和曲線は、ギブサイト飽和曲線と同様、アルカナイトが析出しない限度のpH、即ち、アルカナイト飽和指数が0となるpHにするために必要な水酸化カリウムの総投入量について、リン抽出液のリン濃度との関係を求めたものである。
【0244】
アルカナイト飽和曲線とギブサイト飽和曲線の交点は、リン濃度0.46mol/L、水酸化カリウム濃度2.74mol/Lであり、アルカリ溶液として水酸化カリウムを用いる水酸アパタイトの合成では、アルカナイトを生成させないために、カリウム濃度を2.7mol/L以下にする必要があることがわかった。
【0245】
各試料との対応関係について検討すると、図22に示されるギブサイト飽和領域内に位置するのは試料1のみであった。試料1、試料2、試料3、試料13、試料14、試料15のうち、副生成鉱物種としてギブサイトが検出されているのは試料1のみであったことから、計算により得られたギブサイト飽和曲線と実験結果は一致していた。
【0246】
また、図22から、試料2は合成時の水酸化カリウム濃度が最適値に最も近く、試料13が次に近いことがわかる。図15に示されるように、試料1、試料2、試料3、試料13、試料14、試料15のうち、試料2と試料13はP2O5含有量が多く、且つ不純物含有量が少ないことから、この点からも計算により得られたギブサイト飽和曲線の確かさが示されていた。
【0247】
また、試料3からは副生成鉱物種としてアルカナイトが検出されており、この結果についても、試料3の水酸アパタイト合成条件がアルカナイトの飽和領域付近に位置していることに対応しており、計算結果が示した傾向と一致していた。
【0248】
次に、上記反応モデルのうち、「リン抽出液中のリンとアルミニウムのモル比は常に1:0.74である。」とする条件を、「リン抽出液中のリンとアルミニウムのモル比は常に1:0.5である。」に変更し、下水汚泥焼却灰の代わりに乾燥下水汚泥を用いた場合についてギブサイト飽和曲線を計算したところ、以下に示す式が得られた。
Y=−0.00477+5.47863X−0.81496X2
【0249】
さらに、水酸化カリウム溶液を水酸化ナトリウム溶液に代えてギブサイト飽和曲線を計算したところ、水酸化カリウム溶液を用いた場合のギブサイト飽和曲線とほぼ一致することが確かめられた。したがって、ギブサイト飽和曲線は、使用するアルカリ溶液が水酸化カリウムであっても水酸化ナトリウムであっても、変わらないことが明らかとなった。
【0250】
以上の結果から、ギブサイト飽和曲線を活用することで、リン抽出液のリン濃度から、水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造に最適なアルカリ濃度を簡易かつ迅速に推定することが可能なことが明らかとなった。
【0251】
<下水汚泥焼却灰のリン酸含有量から推定される水酸化カリウムの必要投入量の検討>
下水汚泥焼却灰のリン酸含有量に対し、水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイト飽和指数を0とするために必要な水酸化カリウムの総投入量を下水汚泥焼却灰のリン酸含有量に対して計算した。
【0252】
この計算においては、KOH−1.0mol/L抽出時のリン濃度は、KOH−2.0mol/L抽出時リン濃度の0.88倍とし、下水汚泥焼却灰から抽出されるリンの量を求めた。その結果と図11に示されるリンとアルミニウムのモル比の関係を用いて、ギブサイト飽和指数を0とする水酸化カリウムの最適投入量を導いた。また,実際のマテリアルバランスを再現するため、リン抽出時の固液分離の際に液量の24体積%が固相中に残留する(実際の計量結果より推定)ものとして、その損失分も考慮して計算を行った。
【0253】
計算の結果得られた下水汚泥焼却灰のP2O5含有量と水酸化カリウムの最適投入量との関係を図23に示す。図23において、実線はリン抽出液として1mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いた場合の計算結果であり、破線はリン抽出液として2mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いた場合の計算結果である。
【0254】
リン抽出液として1mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いた場合、P2O5含有量が13.8重量%を超える下水汚泥焼却灰を使用するときには、水酸化カリウムを最適投入量とするために、水酸アパタイト合成の前に水酸化カリウムの追加添加が必要となることがわかった。換言すれば、P2O5含有量が13.8重量%未満の下水汚泥焼却灰を使用するときには、水酸化カリウムの量が過剰であることがわかった。
【0255】
また、リン抽出液として2mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いた場合、P2O5含有量が25.6重量%を超える下水汚泥焼却灰を使用するときには、水酸化カリウムを最適投入量とするために、水酸アパタイト合成の前に水酸化カリウムの追加添加が必要となることがわかった。換言すれば、P2O5含有量が25.6重量%未満の下水汚泥焼却灰を使用するときには、水酸化カリウムの量が過剰であることがわかった。
【0256】
さらに、図23に示す計算結果に基づき、下水汚泥焼却灰のP2O5含有量と、水酸化カリウムの消費量に対するリン回収量との関係を計算した結果を図24に示す。図24において、実線はリン抽出液として1mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いた場合の計算結果であり、破線はリン抽出液として2mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いた場合の計算結果である。この計算結果から、リン抽出液として1mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いた場合の方が、2mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いた場合よりも水酸化カリウム1モル当たりのリンの回収量(水酸アパタイト生成量)が多くなり、リン抽出液として、2mol/Lの水酸化カリウム溶液よりも1mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いた方が好ましいことが明らかとなった。
【0257】
また、図24に示す計算結果に加えて、下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合に、上述した第一の相関関数〜第三の相関関数に基づいて求められる第四の相関関数Y=−2.00746exp(−A/19.68494)−1.96386exp(−A/19.53816)−1117.21503exp(−A/1.43115)+3.03419(Aはリン酸含有量(単位:P2O5換算後の重量%)であり、Yは最適アルカリ濃度(単位:規定)である。)を用いて、リン抽出に使用するアルカリ溶液のアルカリ濃度を下水汚泥原料のリン酸含有量に基づいて最適アルカリ濃度に調整する場合の下水汚泥焼却灰のP2O5含有量と、水酸化カリウムの消費量に対するリン回収量との関係を計算した結果を図32に示す
【0258】
図32に示す結果から、リン抽出液として1mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いた場合の水酸化カリウム1モル当たりのリンの回収量よりも、第四の相関関数を用いた場合の水酸化カリウム1モル当たりのリンの回収量の方が小さくなることが分かった。これは、下水汚泥原料を固液分離する際に液量が損失することに起因している。即ち、第四の相関関数を用いた場合には、リン抽出に用いるアルカリ溶液のアルカリ濃度を固液分離処理前に最適アルカリ濃度に調整しているため、アルカリ溶液のアルカリ濃度の調整に必要なアルカリの量が多くなり、また、固液分離時のアルカリの損失分が大きくなってしまうことに起因している。
【0259】
<合成反応時の温度と時間が水酸アパタイトの組成に与える影響についての検討>
水酸アパタイトの合成に必要な反応時間と反応温度について、試料16〜38のXRF分析結果とXRD分析結果に基づいて検討した。
【0260】
反応時間と試料のP2O5含有量との関係を図25に示す。また、反応時間と試料のAl2O3含有量との関係を図26に示す。さらに、反応時間と試料のK2O含有量との関係を図27に示す。また、反応時間と試料の全硫黄(T−S)の含有量との関係を図28に示す。
【0261】
また、図25〜図28において、○は反応温度40℃の結果を表しており、●は反応温度60℃の結果を表しており、△は反応温度80℃の結果を表しており、▲は反応温度95℃の結果を表している。
【0262】
水酸アパタイトの主成分であるP2O5含有量については、図25に示されるように、全ての反応温度条件で、6〜12時間にかけて低下する傾向が見られた。
【0263】
Al2O3含有量については、図26に示されるように、40〜80℃の反応温度帯においてはほぼ一貫して増加傾向にあった。
【0264】
K2O含有量については、図27に示されるように、1〜6時間にかけては全ての反応温度条件で低下する傾向が見られたが、6〜12時間にかけては40℃と60℃の反応温度条件で増加が見られた。
【0265】
全硫黄の含有量については、図28に示されるように、1〜6時間にかけては全ての反応温度条件において低下する傾向が見られたが、6〜12時間にかけては一時的に上昇した。
【0266】
これらの結果から、40℃と60℃の反応温度条件で6〜12時間にかけて見られるP2O5含有量の低下は、一方で、K2Oと硫黄の含有量の増加を伴っていることが明らかとなった。また、反応温度を40℃または60℃とし、反応時間を12時間または24時間とした試料(試料19、試料20、試料25及び試料26)をXRD分析した際に、僅かではあるがアルカナイトのピークが検出されたことから、石膏の分解により生じた硫酸イオン濃度の上昇に伴い、アルカナイトが生成したものと考えられる。
【0267】
また、反応温度を95℃とした場合、12時間の時点でAl2O3含有量が一時的に高くなる傾向が見られた。この試料(試料36)をXRD分析した際には、明瞭なクゼライトのピークが検出された。そして、反応時間の経過に伴いクゼライトのピークは減少し、反応時間が48時間の時点においてはクゼライトのピークはほぼ消失した。
【0268】
これらの実験結果を勘案して水酸アパタイトの最適な合成条件を検討すると、反応時間は、1時間超〜12時間未満とすることが好ましく、3時間〜10時間とすることがより好ましく、3時間〜6時間とすることがさらに好ましく、6時間とすることが最も好ましい。反応時間を1時間以下、12時間以上とすると、不純物生成量が増加する虞がある。反応時間を6時間に近づけるにつれて、不純物の少ない水酸アパタイトが得られやすくなる。
【0269】
最適な反応温度については、K2O含有量を小さくする観点からは高温の方が良い。しかしながら、反応温度を95℃とするとカルシウムとアルミニウムとを含有する鉱物であるクゼライトの生成量が増える。また、反応温度を40〜60℃とするとアルカナイトが生成しやすくなる。したがって、反応温度は60℃超〜95℃未満とすることが好ましく、70℃〜90℃とすることがより好ましく、80℃とすることがさらに好ましい。
【0270】
<水酸アパタイトの反応速度の推定>
本発明の水酸アパタイト合成方法における反応速度と、石膏をリン酸アンモニウム溶液中で反応させて水酸アパタイトを合成する従来の合成法(特許文献2、非特許文献6)の反応速度との比較を行い、本発明の水酸アパタイト合成方法の優位性について検討した(特許文献2:特開2004−284890号公報、非特許文献6:1998、J. Mater. Chem., 8, 2803-2806)。
【0271】
石膏から水酸アパタイトを生成する反応において、反応速度Vは次式(1)で与えられる。
V=dx/dt=k(a−5x)(b−3x) ・・・(1)
【0272】
ここで、aは石膏添加量 (mol/L)、bはリン酸の初期濃度(mol/L)、xは水酸アパタイト生成量(mol/L)、kは反応速度定数 (L/mol/min)、tは反応時間 (min)である。水酸アパタイトへの転化率は、試料のうち、副生成鉱物の影響の少ない1、3、6時間反応後の試料のP2O5含有量を用い、最もP2O5含有量の高い試料38のP2O5含有量を基準としてその比(相対値)を求めた。
【0273】
各反応速度定数から求めた水酸アパタイト生成量とP2O5含有量相対値との関係を図29に示す。図29には、k=0.02、k=0.03、k=0.05、k=0.1の場合についての水酸アパタイト生成量を示す曲線が示されている。P2O5含有量との関係から、今回の合成反応はいずれの反応温度帯も反応速度定数k=0.02〜0.1の間に入っていることが確認された。
【0274】
一方、リン酸アンモニウムを用いて石膏から水酸アパタイトを生成する際の反応速度定数kに関しては非特許文献7において計測事例が報告されている(非特許文献7:Journal of the Society of Inorganic Materials, Japan, 8, 221-227,2001年.)。
【0275】
この事例では0.5gの石膏を0.5mol/Lの(NH4)2HPO4水溶液40cc中に加えて水熱処理を行っており、開始時のpHは8.0である。そして、この事例では、反応温度50〜100℃における水酸アパタイト合成反応の速度定数は50℃で1.49×10−4L/mol/minであり、温度条件が高くなるにつれて値が大きくなり、100℃で2.27×10−3L/mol/minと報告されている。
【0276】
本発明の水酸アパタイト合成方法の反応速度定数は、非特許文献7で報告されている反応速度定数最大値(100℃)の場合の10〜44倍の大きさであり、本発明の合成条件での反応速度が、非特許文献7の報告値と比較して格段に速いことが明らかとなった。
【0277】
このような反応速度定数の違いについては、非特許文献7における合成反応では石膏が直接リン酸と反応して水酸アパタイト化していると考えられるのに対して、本発明の合成方法では、石膏の構造がクゼライトの生成により一度破壊され、続いてリン酸と反応して水酸アパタイト化するという複数の反応プロセスが関与していることに起因しているものと考えられる。
【0278】
以上より、本発明の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法は、従来産業上の再利用が難しいとされる下水汚泥焼却灰などの下水汚泥原料をリン抽出源として活用しながらも、水酸アパタイトを従来よりも迅速に合成でき、製造コストの面からも非常に有利な方法であることが示された。
【0279】
<まとめ>
以上、本発明によれば、水酸アパタイトを主成分とする吸着材の最適な製造条件を迅速に決定できると共に、リン抽出液のアルカリ濃度と石膏添加量を最適な条件に制御して、水酸アパタイト純度が高く、不純物組成比ばらつきの少ない吸着材を、安定して製造することが可能となる。したがって、競合品である骨炭の吸着性能に匹敵する、あるいはそれ以上の品質を有する吸着材を、安定して提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0280】
【図1】第一の実施形態にかかる水酸アパタイトの製造方法のプロセスフロー図である。
【図2】第一の実施形態にかかる水酸アパタイトの製造方法を実施する製造装置の一例を示す図である。
【図3】第一の実施形態にかかる水酸アパタイトの製造方法において、下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とし、リン抽出用アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合のプロセスフロー図である。
【図4】第一の実施形態にかかる水酸アパタイトの製造方法において、下水汚泥原料を乾燥下水汚泥とし、リン抽出用アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合のプロセスフロー図である。
【図5】第二の実施形態にかかる水酸アパタイトの製造方法のプロセスフロー図である。
【図6】第二の実施形態にかかる水酸アパタイトの製造方法を実施する製造装置の一例を示す図である。
【図7】第二の実施形態にかかる水酸アパタイトの製造方法において、下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とし、リン抽出用アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合のプロセスフロー図である。
【図8】第二の実施形態にかかる水酸アパタイトの製造方法において、下水汚泥原料を乾燥下水汚泥とし、リン抽出用アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合のプロセスフロー図である。
【図9】下水汚泥焼却灰からのリン抽出量を示す図である。
【図10】下水汚泥焼却灰のリン含有量とリン抽出量との関係を示す図である。
【図11】下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とした場合のリン抽出液中のリンとアルミニウムの濃度の関係を示す図である。
【図12】下水汚泥原料を乾燥下水汚泥とした場合のリン抽出液中のリンとアルミニウムの濃度の関係を示す図である。
【図13】水酸化カリウム溶液を用いてリンを抽出した結果と水酸化ナトリウム溶液を用いてリンを抽出した結果とを比較する図である。
【図14】水酸化ナトリウム溶液を用いた場合のリン抽出液の組成を示す図である。
【図15】合成した水酸アパタイト試料のXRF測定結果を示す図である。
【図16】合成した水酸アパタイト試料のXRD測定結果を示す図である。
【図17】合成反応終了時のpH値と水酸アパタイト中のP2O5含有量との関係を示す図である。
【図18】合成反応終了時のpH値と水酸アパタイト中のAl2O3含有量との関係を示す図である。
【図19】合成初期段階の副生成鉱物の生成量についてpH値に対して理論計算した結果を示す図である。
【図20】合成終期段階の副生成鉱物の生成量についてpH値に対して理論計算した結果を示す図である。
【図21】合成反応終了時のpH実測値とpH計算値との関係を示す図である。
【図22】ギブサイト飽和指数が0となるpHにするために必要な水酸化カリウムの総投入量(水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度)について、リン抽出液のリン濃度との関係を求めた結果を示す図である。
【図23】水酸アパタイトの合成に必要な水酸化カリウムの総量を下水汚泥焼却灰のリン酸含有量に対して計算した結果を示す図である。
【図24】水酸化カリウム単位消費量あたりのリン回収率を下水汚泥焼却灰のリン酸含有量に対して計算した結果を示す図である。
【図25】水酸アパタイト試料のP2O5含有量に対する反応時間及び反応温度の関係を示す図である。
【図26】水酸アパタイト試料のAl2O3含有量に対する反応時間及び反応温度の関係を示す図である。
【図27】水酸アパタイト試料のK2O含有量に対する反応時間及び反応温度の関係を示す図である。
【図28】水酸アパタイト試料の全硫黄(T−S)の含有量に対する反応時間及び反応温度の関係を示す図である。
【図29】反応速度定数による理論曲線と実測値との関係を示す図である。
【図30】石膏B1、D82、D83、D84のXRD分析結果を示す図である。
【図31】水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度に対するリン抽出率を示す図である。
【図32】図24に第四の相関関数を用いた場合の水酸化カリウム単位消費量あたりのリン回収率を下水汚泥焼却灰のリン酸含有量に対して計算した結果を加えた図である。
【符号の説明】
【0281】
1、1’ 水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置
2 撹拌層
3 固液分離手段
4 リン濃度分析装置
5 反応槽
6 送液手段
7 アルカリ添加手段
8 石膏添加手段
9 記憶手段
10 演算手段
11 制御手段
12 中和剤添加手段
13 リン酸含有量分析装置
【技術分野】
【0001】
本発明は水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法及び製造装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、埋立処分されている廃棄物の中で処分量が極めて多く社会問題化している石膏ボード廃棄物と下水汚泥焼却灰などの下水汚泥原料とを活用して水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造する方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気事業から発生する脱硫石膏の量は2005年度では190万トンであったことが報告されている(非特許文献1)。この量は、発電に伴う副生成物の中では石炭灰に次いで多い。現在、そのほぼ全量が石膏ボード及びセメント原料として有効活用されている。
【0003】
その一方で、建築系廃棄物である石膏ボードの埋め立てに伴う環境問題がわが国において顕在化しつつある。2006年6月には、従来は安定型処分の許されていた「紙を除去した石膏ボード」についても、管理型処分の対象とすることが環境省より通達された。このため、石膏ボードの引取処分費が高騰している。したがって、石膏ボードのリサイクル量は今後急速に拡大することが予想される。
【0004】
ここで、石膏ボードは、石膏ボード原料及びセメント原料としてのリサイクル用途がある。これらのリサイクル用途は現状の脱硫石膏のリサイクル用途と重複している。したがって、石膏ボードのリサイクル量の増加に伴い、脱硫石膏の既存の需要が減ることが懸念されている。
【0005】
かかる状況から、石膏の新たな活用用途の開発が望まれている。そこで、本願発明者は、石膏の新規な活用用途として、水酸アパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)の合成原料としての用途を検討し、下水汚泥焼却灰中に含まれるリンと、石膏中のカルシウムとを反応させることにより、環境浄化資材として有用な、水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造する方法を開発した(特許文献1)。この方法は、下水汚泥焼却灰をアルカリ溶液中で攪拌した後、濾過分離して得られた溶液に、石膏を添加し、反応開始時のpHを13〜14.9とし、40〜100℃で攪拌し、かつ反応終了時のpHを12以上に保持して、アルカリ溶液中のリンと石膏を反応させることにより、水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造するものである。
【0006】
上記方法で得られる吸着材によれば、水と接するとアルカリ性を呈する水酸アパタイト結晶を主成分としているので、酸性雰囲気中でも容易に分解せず、吸着効果を持続できる。そして、この吸着材には水酸アパタイトと共にシリカが含まれているので、各種陽イオンを多量にイオン交換除去することができ、特に、Mn2+、Zn2+、Cd2+をより多く吸着する優れた吸着特性を有するなど優れた陽イオン交換特性を有している。したがって、この吸着材は環境浄化資材として有用である。また、土壌汚染対策法の施行に伴い、汚染土壌中に含まれる重金属を安定化する資材のニーズが高くなっていることから、この吸着材はこのような土壌汚染対策に対して活用できる。
【0007】
【特許文献1】特開2006−205254号公報
【非特許文献1】電気事業連合会(2006):電気事業における環境行動計画,32p
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法は、以下の点で問題があった。即ち、下水汚泥焼却灰などの下水汚泥原料は、排出される施設や事業所、季節によって化学組成が異なる。ところが、特許文献1に記載されている水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法は、どのような原料に対しても一様な方法で水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造していたため、下水汚泥原料の化学組成ばらつきに起因して、吸着材の水酸アパタイト含有量にばらつきが生じたり、不純物組成比にばらつきが生じたりして、吸着材としての品質が安定しない問題があった。
【0009】
そこで、下水汚泥原料の調達毎に、実験室レベルで下水汚泥原料の分析作業と製造試行試験とをおこなって最適な製造条件を検討することが考えられるが、このためには多大な時間と労力とが必要となり、現実的な方法とは言えない。
【0010】
また、製造の効率化や省力化を考えた場合、自動化された生産ラインを連続稼働させて製造することが望まれるが、上記のように、実験室レベルで下水汚泥原料の化学組成分析作業と製造試行試験とをおこなって最適な製造条件を検討すると多大な時間が必要となることから、生産ラインの連続稼働の妨げとなる。そこで、生産ラインの連続稼働を可能とするため、最適な製造条件を迅速に決定する方法の確立が望まれる。
【0011】
そこで、本発明は、水酸アパタイト含有量のばらつきと不純物組成比のばらつきを抑えながら、水酸アパタイト純度の高い吸着材を製造する方法および製造装置を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、最適な製造条件を迅速に決定して生産ラインの連続稼働を可能とすることのできる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題を解決するため、本願発明者は、種々の製造条件で水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造する中で、下水汚泥原料からアルカリ溶液中に抽出されるリンとアルミニウムが、ある一定のモル比となることを見出した。そして、このことから、アルカリ溶液中に抽出されるリンの量に基づいて、アルカリ溶液中に抽出されるアルミニウムの量が推定できることを知見した。
【0014】
また、本願発明者は、種々の製造条件により得られた水酸アパタイト結晶に含まれる不純物について詳細に解析を行ったところ、ギブサイト(Al(OH)3)やクゼライト(Ca4Al2(OH)12(SO4):6(H2O))といったアルミニウム由来の不純物が吸着材の水酸アパタイト純度を低下させたり、不純物組成比のばらつきを引き起こす主要な要因であることを突き止めた。つまり、アルカリ溶液中にリンと共に抽出されるアルミニウムが吸着材の品質にばらつきを生じさせる主要な要因となっていることを知見した。
【0015】
さらに、本願発明者は、水酸アパタイトの合成反応終了時において、リンとアルミニウムとが抽出されたアルカリ溶液(以下、リン抽出液と呼ぶ)のギブサイトの飽和指数を0とした場合に、ギブサイトとクゼライトの双方の析出が抑えられ、水酸アパタイトを主成分とする吸着材の品質ばらつきを抑えることができると共に、水酸アパタイト純度も高められることを知見した。
【0016】
そして、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比に関する上記知見に基づき、水酸アパタイトの合成反応終了時にリン抽出液のギブサイトの飽和指数を0とする条件を、熱力学平衡計算によりリン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した相関関数で表すことができることを見出し、本願発明に至った。
【0017】
かかる知見に基づく、請求項1に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法は、下水汚泥原料に含まれるリンをアルカリ溶液で抽出してリン抽出液を得、リン抽出液に石膏を添加して、リンと石膏とを反応させて水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造する方法において、下水汚泥原料を準備する工程と、アルカリ濃度が既知のアルカリ溶液を準備する工程と、石膏を準備する工程と、下水汚泥原料をアルカリ溶液中で撹拌した後に固液分離してリン抽出液を得る工程と、リン抽出液のリン濃度を測定してリン濃度実測値を得る工程と、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比と、水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となるリン抽出液の最適条件を求めて最適条件をリン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した相関関数を用いて、リン濃度実測値からリン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する工程と、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とを比較し、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも低いときに、リン抽出液にアルカリを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程と、リン濃度実測値から求められるリン抽出液のリンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて求められる量の石膏をリン抽出液に添加する工程とを含むようにしている。
【0018】
また、かかる知見に基づく、請求項9に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置は、下水汚泥原料をアルカリ濃度が既知のアルカリ溶液中で撹拌する撹拌槽と、下水汚泥原料をアルカリ溶液から固液分離してリン抽出液を得る固液分離手段と、リン抽出液のリン濃度を測定してリン濃度実測値を得るリン濃度分析装置と、リン抽出液と石膏とを接触させて水酸アパタイトを合成する反応槽と、リン抽出液を反応槽に送液する送液手段と、反応槽にアルカリを添加するアルカリ添加手段と、反応槽に石膏を添加する石膏添加手段と、記憶手段と、演算手段と、制御手段とを少なくとも備えるものである。
【0019】
そして、記憶手段には、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比と、水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となるリン抽出液の最適条件を求めて最適条件をリン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した相関関数が記憶され、演算手段では、記憶手段に記憶されている相関関数とリン濃度分析装置から入力されるリン濃度実測値とからリン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する処理と、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とを比較演算する処理と、リン濃度実測値からリン抽出液のリンのモル数を求め、このモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて石膏の最適添加量を算出する処理とが行われ、制御手段では、演算手段によりアルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも低いと判断されたときにアルカリ添加手段からアルカリを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する制御と、演算手段により算出された石膏の最適添加量を石膏添加手段から添加する制御とが行われる。
【0020】
したがって、この水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法及び製造装置によると、リン抽出液のリン濃度を測定して得られるリン濃度実測値のみから、リン抽出液の最適アルカリ濃度と石膏の最適添加量とが算出され、最適な製造条件が迅速に決定される。そして、算出された最適アルカリ濃度と石膏の最適添加量とに基づいてリン抽出液のアルカリ濃度とリン抽出液への石膏の添加量を調整するようにしているので、水酸アパタイト純度の高い吸着材を品質ばらつきを抑えて製造することができる。
【0021】
本明細書において、飽和指数とは鉱物が沈殿するかしないかを判定するためのパラメーターである。例えば、ギブサイトの飽和指数が0となる場合には、リン抽出液におけるアルミニウムイオンと水酸イオンの活動度積がギブサイトの溶解度積と一致する。そして、この状態よりアルミニウムイオンや水酸イオン濃度が上昇した場合にはギブサイトの析出が生じる。
【0022】
ここで、請求項2に記載のように、請求項1に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法において、下水汚泥原料として下水汚泥焼却灰を使用し、アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用する場合、相関関数は、
Y=ξ(X,T)×(0.002+6.5X−1.4X2)
で表される関数に水酸アパタイトを合成する際の反応温度T(℃)を代入して決定される。ここで、Xはリン濃度実測値(単位:mol/L)であり、Yは最適アルカリ濃度(単位:規定)であり、熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比は1.67である。また、ξ(X,T)は、
ξ(X,T)=(γ(T)+β(T)X)/(0.067+5.8X)
で表される温度補正関数であり、
γ(T)=−0.027+0.0028T−2.0×10−5T2であり、
β(T)=14−0.17T+7.6×10−4T2である。
【0023】
また、請求項3に記載のように、請求項1に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法において、下水汚泥原料として乾燥下水汚泥を使用し、リン抽出用アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用する場合、相関関数は、
Y=ξ(X,T)×(−0.005+5.5X−0.81X2)
で表される関数に水酸アパタイトを合成する際の反応温度T(℃)を代入して決定される。ここで、Xはリン濃度実測値(単位:mol/L)であり、Yは最適アルカリ濃度(単位:規定)であり、熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比は1.67である。また、ξ(X,T)は、
ξ(X,T)=(0.01+β(T)X)/(0.01+5.0X)
で表される温度補正関数であり、
β(T)=11−0.11T+4.9×10−4T2である。
【0024】
尚、本明細書において、「乾燥下水汚泥」とは、乾燥・固化されたケーキ状の下水汚泥を意味している。
【0025】
本願発明者は、さらに、下水汚泥原料のリン酸含有量から、アルカリ溶液に抽出されるリンの濃度を推定できることを知見し、以下の発明を完成するに至った。
【0026】
即ち、かかる知見に基づく、請求項4に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法は、下水汚泥原料に含まれるリンをアルカリ溶液で抽出してリン抽出液を得、リン抽出液に石膏を添加して、リンと石膏とを反応させて水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造する方法において、下水汚泥原料を準備する工程と、アルカリ濃度が既知のアルカリ溶液を準備する工程と、石膏を準備する工程と、下水汚泥原料のリン酸含有量を測定する工程と、下水汚泥原料をアルカリ溶液中で撹拌した後に固液分離してリン抽出液を得る工程と、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液に抽出されるリンの濃度をリン濃度最大値とし、リン濃度最大値と下水汚泥原料のリン酸含有量との相関関係を記述した第一の相関関数を用いて、測定されたリン酸含有量からリン濃度最大値を算出する工程と、アルカリ溶液へのリン抽出率とアルカリ溶液のアルカリ濃度との相関関係を記述した第二の相関関数を用いて、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度からリン抽出率を算出する工程と、リン濃度最大値にリン抽出率を乗じてリン抽出液のリン濃度推定値を得る工程と、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比と、水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となるリン抽出液の最適条件を求めて最適条件をリン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した相関関数を用いて、リン濃度推定値からリン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する工程と、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とを比較し、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも低いときに、リン抽出液にアルカリを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程と、リン濃度推定値から求められるリン抽出液のリンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて求められる量の石膏をリン抽出液に添加する工程とを含むようにしている。
【0027】
また、かかる知見に基づく、請求項10に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置は、下水汚泥原料をアルカリ濃度が既知のアルカリ溶液中で撹拌する撹拌槽と、下水汚泥原料のリン酸含有量を測定してリン酸含有量計測値を得るリン酸含有量分析装置と、下水汚泥原料をアルカリ溶液から固液分離してリン抽出液を得る固液分離手段と、リン抽出液と石膏とを接触させて水酸アパタイトを合成する反応槽と、リン抽出液を反応槽に送液する送液手段と、反応槽にアルカリを添加するアルカリ添加手段と、反応槽に石膏を添加する石膏添加手段と、記憶手段と、演算手段と、制御手段とを少なくとも備えるものである。
【0028】
そして、記憶手段には、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液に抽出され得るリンの濃度をリン濃度最大値とし、リン濃度最大値と下水汚泥原料のリン酸含有量との相関関係を記述した第一の相関関数と、アルカリ溶液へのリン抽出率とアルカリ溶液のアルカリ濃度との相関関係を記述した第二の相関関数と、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比と、水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となるリン抽出液の最適条件を求めて最適条件をリン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した第三の相関関数とが記憶され、演算手段では、記憶手段に記憶されている第一の相関関数とリン酸含有量分析装置から入力される測定されたリン酸含有量とからリン濃度最大値を算出する処理と、記憶手段に記憶されている第二の相関関数とアルカリ溶液の既知のアルカリ濃度からリン抽出率を算出する処理と、リン濃度最大値にリン抽出率を乗じてリン抽出液のリン濃度推定値を演算する処理と、記憶手段に記憶されている第三の相関関数とリン濃度推定値とからリン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する処理と、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とを比較演算する処理と、リン濃度推定値からリン抽出液のリンのモル数を求め、このモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて石膏の最適添加量を算出する処理とが行われ、制御手段では、演算手段によりアルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも低いと判断されたときにアルカリ添加手段からアルカリを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する制御と、演算手段により算出された石膏の最適添加量を石膏添加手段から添加する制御とが行われる。
【0029】
したがって、この水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法及び製造装置によると、下水汚泥原料のリン酸含有量の測定値のみから、リン抽出液のリン濃度が推定される。そして、このリン濃度の推定値から、リン抽出液の最適アルカリ濃度と石膏の最適添加量とが算出され、最適な製造条件が迅速に決定される。そして、算出された最適アルカリ濃度と石膏の最適添加量とに基づいてリン抽出液のアルカリ濃度とリン抽出液への石膏の添加量を調整するようにしているので、水酸アパタイト純度の高い吸着材を品質ばらつきを抑えて製造することができる。
【0030】
尚、請求項5に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法並びに請求項11に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置のように、下水汚泥原料のリン酸含有量が既知の場合には、下水汚泥原料のリン酸含有量を測定する工程や、下水汚泥原料のリン酸含有量を測定する装置を省略して、既知のリン酸含有量のみから、リン抽出液のリン濃度が推定される。
【0031】
ここで、請求項6に記載のように、請求項4または5に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法において、下水汚泥原料として下水汚泥焼却灰を使用し、リン抽出用アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用する場合には、第一の相関関数が
B=0.2+0.39A
となる。ここで、Aは下水汚泥焼却灰のリン酸含有量(単位:P2O5換算後の重量%)であり、Bはリン濃度最大値(単位:g/L)である。また、第二の相関関数は
α=1.0−1.2/(1+exp((C−0.40)/0.27))
となる。ここで、Cは水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度(単位:規定)であり、αはリン抽出率(単位:無次元)である。さらに、第三の相関関数は、
Y=ξ(X,T)×(0.002+6.5X−1.4X2)
で表される関数に水酸アパタイトを合成する際の反応温度T(℃)を代入して決定される。ここで、Xはリン濃度推定値(単位:mol/L)であり、Yは最適アルカリ濃度(単位:規定)であり、熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比は1.67である。また、ξ(X,T)は、
ξ(X,T)=(γ(T)+β(T)X)/(0.067+5.8X)
で表される温度補正関数であり、
γ(T)=−0.027+0.0028T−2.0×10−5T2であり、
β(T)=14−0.17T+7.6×10−4T2である。
【0032】
また、請求項7に記載のように、請求項4または5に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法において、下水汚泥原料として乾燥下水汚泥を使用し、リン抽出用アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用する場合には、第一の相関関数は
B=0.2+0.39A
となる。ここで、Aはリン酸含有量計測値(単位:P2O5換算後の重量%)であり、Bはリン濃度最大値(単位:g/L)である。また、第二の相関関数は
α=1.0−1.2/(1+exp((C−0.40)/0.27))
となる。ここで、Cは水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度(単位:規定)であり、αはリン抽出率(単位:無次元)である。さらに、第三の相関関数は、
Y=ξ(X,T)×(−0.005+5.5X−0.81X2)
で表される関数に水酸アパタイトを合成する際の反応温度T(℃)を代入して決定される。ここで、Xはリン濃度推定値(単位:mol/L)であり、Yは最適アルカリ濃度(単位:規定)であり、熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比は1.67である。また、ξ(X,T)は、
ξ(X,T)=(0.01+β(T)X)/(0.01+5.0X)
で表される温度補正関数であり、
β(T)=11−0.11T+4.9×10−4T2である。
【0033】
ここで、請求項8に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法のように、請求項1、4または5に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法において、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とを比較し、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも高いときに、リン抽出液に中和剤を添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程をさらに含むことが好ましい。
【0034】
また、請求項12に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置のように、請求項9〜11のいずれかに記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置において、反応槽に中和剤を添加する中和剤添加手段をさらに備え、制御手段では、演算手段によりアルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも高いと判断されたときに中和剤添加手段から中和剤を添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する制御がさらに行われることが好ましい。
【0035】
また、請求項13に記載のアルミニウムの定量分析方法は、下水汚泥原料からアルカリ溶液を用いて抽出されるリンの濃度を測定し、複数の下水汚泥原料からアルカリ溶液を用いて抽出されるリンとアルミニウムの濃度の相関関係から予め求められる検量線を用いて、アルカリ溶液中のアルミニウムの濃度を推定するようにしている。
【発明の効果】
【0036】
請求項1に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法及び請求項9に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置によれば、リン抽出液のリン濃度を測定して得られるリン濃度実測値のみから、水酸アパタイトを主成分とする吸着材の最適な製造条件を迅速に決定することができる。したがって、生産ラインの連続稼働を可能とすることができる。しかも、算出された最適アルカリ濃度と石膏の最適添加量とに基づいてリン抽出液のアルカリ濃度とリン抽出液への石膏の添加量を調整するようにしているので、水酸アパタイト純度の高い吸着材を品質ばらつきを抑えて製造することができる。したがって、既存の吸着材、例えば骨炭と同等あるいはそれ以上の吸着性能を有する吸着材を安定に供給することが可能となる。
【0037】
請求項2に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法によれば、下水汚泥原料として下水汚泥焼却灰を使用し、アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用して、水酸アパタイト純度の高い吸着材を品質ばらつきを抑えて製造することができる。
【0038】
請求項3に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法によれば、下水汚泥原料として乾燥下水汚泥を使用し、アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用して、水酸アパタイト純度の高い吸着材を品質ばらつきを抑えて製造することができる。
【0039】
請求項4に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法及び請求項10に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置によれば、下水汚泥原料のリン酸含有量を測定して得られるリン酸含有量の測定値のみから、水酸アパタイトを主成分とする吸着材の最適な製造条件を迅速に決定することができる。したがって、生産ラインの連続稼働を可能とすることができる。しかも、算出された最適アルカリ濃度と石膏の最適添加量とに基づいてリン抽出液のアルカリ濃度とリン抽出液への石膏の添加量を調整するようにしているので、水酸アパタイト純度の高い吸着材を品質ばらつきを抑えて製造することができる。したがって、既存の吸着材、例えば骨炭と同等あるいはそれ以上の吸着性能を有する吸着材を安定に供給することが可能となる。
【0040】
請求項5に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法及び請求項11に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置によれば、下水汚泥原料の既知のリン酸含有量のみから、水酸アパタイトを主成分とする吸着材の最適な製造条件を迅速に決定することができる。したがって、生産ラインの連続稼働を可能とすることができる。しかも、算出された最適アルカリ濃度と石膏の最適添加量とに基づいてリン抽出液のアルカリ濃度とリン抽出液への石膏の添加量を調整するようにしているので、水酸アパタイト純度の高い吸着材を品質ばらつきを抑えて製造することができる。したがって、既存の吸着材、例えば骨炭と同等あるいはそれ以上の吸着性能を有する吸着材を安定に供給することが可能となる。
【0041】
請求項6に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法によれば、下水汚泥原料として下水汚泥焼却灰を使用し、アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用して、水酸アパタイト純度の高い吸着材を品質ばらつきを抑えて製造することができる。
【0042】
請求項7に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法によれば、下水汚泥原料として下水汚泥焼却灰を使用し、アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用して、水酸アパタイト純度の高い吸着材を品質ばらつきを抑えて製造することができる。
【0043】
請求項8に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法及び請求項12に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置によれば、リン抽出液のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも高い場合にも、リン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整することができ、水酸アパタイト純度の高い吸着材を品質ばらつきを抑えて製造することができる。
【0044】
請求項13に記載のアルミニウムの定量分析方法によれば、下水汚泥原料からアルカリ溶液に抽出されるリンの濃度のみが明らかとなれば、アルカリ溶液に抽出されるアルミニウムの濃度を推定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0046】
水酸アパタイトは、下水汚泥原料をアルカリ溶液中で撹拌して下水汚泥原料に含まれるリンを抽出し、このリンと石膏とを反応させることにより合成することができる。水酸アパタイトの合成反応を示す化学反応式は化1で表される。
(化1)10CaSO4:2H2O + 6K3PO4
→ Ca10(PO4)6(OH)2 + 9K2SO4 +H2SO4
【0047】
下水汚泥原料と石膏とを利用して水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造することで、従来産業上の再利用が難しいとされる下水汚泥焼却灰などの下水汚泥原料をリン抽出源として活用し、このリンと石膏とを反応させて水酸アパタイトを製造することで、製造コストのローコスト化を図ることができる。また、石膏として石膏廃棄物を用いれば、石膏廃棄物処分と下水汚泥処分の両方の処分引き受け費用を製造コストへ転稼することにより、生産事業の採算性を大幅に向上させることができる。
【0048】
しかしながら、下水汚泥原料をリン抽出源として用いると以下の問題が生じる。即ち、下水汚泥原料にはアルミニウムが含まれており、このアルミニウムの存在によって、ギブサイトやクゼライトといったアルミニウム由来の不純物鉱物種が水酸アパタイトと同時に生成されてしまう。上記したように、下水汚泥焼却灰などの下水汚泥原料は、排出される施設や事業所、季節によって化学組成が異なる。したがって、アルミニウムの存在の多寡が、吸着材の水酸アパタイト含有量にばらつきを生じさせたり、不純物組成比にばらつきを生じさせたりする要因となっていることを本願発明者は突き止めた。
【0049】
本発明によれば、水酸アパタイト純度の高い吸着材を品質ばらつきを抑えて製造することができるので、品質価値の高い吸着材をコンスタントに得られるようになる。したがって、既存の吸着材、例えば骨炭と同等あるいはそれ以上の吸着性能を有する吸着材を安定に供給することが可能となり、水酸アパタイトを主成分とする吸着材の生産事業の採算性のさらなる向上が可能となる。しかも、最適な製造条件を迅速に決定することができることから、自動化された生産ラインを連続稼働させて製造することができ、製造効率の向上及び省力化による生産事業の採算性の向上も期待できる。
【0050】
本発明の実施形態としては、下水汚泥原料に含まれるリンをアルカリ溶液で抽出して得られたリン抽出液のリン濃度を測定して最適な製造条件を決定する第一の実施形態と、下水汚泥原料のリン酸含有量からリン抽出液のリン濃度を推定して最適な製造条件を決定する第二の実施形態とがある。以下、各実施形態について詳細に説明する。
【0051】
まず、本発明の第一の実施形態について説明する。
【0052】
第一の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法は、下水汚泥原料に含まれるリンをアルカリ溶液で抽出してリン抽出液を得、リン抽出液に石膏を添加して、リンと石膏とを反応させて水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造する方法において、下水汚泥原料を準備する工程と、アルカリ濃度が既知のアルカリ溶液を準備する工程と、石膏を準備する工程と、下水汚泥原料をアルカリ溶液中で撹拌した後に固液分離してリン抽出液を得る工程と、リン抽出液のリン濃度を測定してリン濃度実測値を得る工程と、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比と、水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となるリン抽出液の最適条件を求めて最適条件をリン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した相関関数を用いて、リン濃度実測値からリン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する工程と、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とを比較し、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも低いときに、リン抽出液にアルカリを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程と、リン濃度実測値から求められるリン抽出液のリンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて求められる量の石膏をリン抽出液に添加する工程とを含むようにしている。
【0053】
また、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とを比較し、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも高いときに、リン抽出液に中和剤を添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程をさらに含むようにしている。
【0054】
第一の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法について、図1に示す製造プロセスフローを用いてさらに詳細に説明する。第一の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法は、下水汚泥原料を準備する工程(S101)と、アルカリ濃度が既知(アルカリ濃度:C)のアルカリ溶液を準備する工程(S102)と、石膏を準備する工程(S103)と、下水汚泥原料をアルカリ溶液中で撹拌した後に固液分離してリン抽出液を得る工程(S104)と、リン抽出液のリン濃度を測定してリン濃度実測値を得る工程(S105)と、リン濃度実測値から相関関数を用いてリン抽出液の最適アルカリ濃度(Y)を算出する工程(S106)と、アルカリ溶液のアルカリ濃度(C)と最適アルカリ濃度(Y)とを比較する工程(S107)と、Y>Cのときに、リン抽出液にアルカリを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程(S108)と、Y<Cのときに、リン抽出液に中和剤を添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程(S109)と、リン濃度実測値から求められるリン抽出液のリンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて求められる量の石膏をリン抽出液に添加する工程(S110)とを含むようにしている。
【0055】
リン抽出液の最適アルカリ濃度(Y)を算出する工程(S106)で使用する相関関数は、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比と、水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となるリン抽出液の最適条件を求めて最適条件をリン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述されるものである。
【0056】
第一の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法を実施するための装置の一例を図2に示す。この製造装置1は、下水汚泥原料をアルカリ濃度が既知のアルカリ溶液中で撹拌する撹拌槽2と、下水汚泥原料をアルカリ溶液から固液分離してリン抽出液を得る固液分離手段3と、リン抽出液のリン濃度を測定してリン濃度実測値を得るリン濃度分析装置4と、リン抽出液と石膏とを接触させて水酸アパタイトを合成する反応槽5と、リン抽出液を反応槽5に送液する送液手段6と、反応槽5にアルカリを添加するアルカリ添加手段7と、反応槽5に石膏を添加する石膏添加手段8と、記憶手段9と、演算手段10と、制御手段11と、反応槽5に中和剤を添加する中和剤添加手段12とを備えている。
【0057】
記憶手段9には、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比と、水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となるリン抽出液の最適条件を求めて最適条件をリン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した相関関数が記憶されている。
【0058】
演算手段10では、記憶手段に記憶されている相関関数とリン濃度測定装置から入力されるリン濃度実測値とからリン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する処理と、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とを比較演算する処理と、リン濃度実測値からリン抽出液のリンのモル数を求め、このモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて石膏の最適添加量を算出する処理とが行われる。
【0059】
制御手段11では、演算手段10によりアルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも低いと判断されたときにアルカリ添加手段7からアルカリを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する制御と、演算手段10によりアルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも高いと判断されたときに中和剤添加手段8から中和剤を添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する制御と、演算手段10により算出された石膏の最適添加量を石膏添加手段8から添加する制御とが行われる。
【0060】
以下、図1に示す水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造プロセスフローを、図2に示す水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置1で実施する形態について詳細に説明する。
【0061】
まず、下水汚泥原料を準備する(S101)。下水汚泥原料としては、下水汚泥焼却灰、乾燥下水汚泥(乾燥・固化したケーキ状の下水汚泥)が挙げられるが、これに限定されるものではなく、下水汚泥由来の原料を各種用いることができる。例えば、炭化処理した炭化下水汚泥を用いることも可能である。
【0062】
次に、アルカリ濃度が既知のアルカリ溶液を準備する(S102)。アルカリ溶液としては、下水汚泥原料からリンを抽出し得るアルカリ溶液、例えば、水酸化カリウム溶液や水酸化ナトリウム溶液を用いることができるが、特に水酸化カリウム溶液を用いることが好ましい。水酸化カリウム溶液を使用した場合には、室温(25℃)においても下水汚泥原料から十分にリンを抽出できる。
【0063】
アルカリ溶液として水酸化ナトリウム溶液を用いた場合、アルカリ濃度が高濃度になるにつれて、液相中にリン酸ナトリウム塩(Na3PO4)が析出し、液相中にリンが十分に抽出されなくなる虞がある。特に、アルカリ濃度が1mol/Lを超えると、リン酸ナトリウム塩(Na3PO4)の析出が顕著に見られるようになる。したがって、水酸化ナトリウム溶液を使用する場合には、アルカリ濃度が1mol/L以下の場合には室温でリンを抽出してもよいが、アルカリ濃度を1mol/L超とした場合には、液相中にリン酸ナトリウム塩(Na3PO4)が析出されなくなる温度、例えば40℃程度に加温してリンを抽出することが好ましい。
【0064】
アルカリ溶液のアルカリ濃度については、例えば、アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を用いる場合には、0.5mol/L〜2mol/Lとすることが好ましく、0.5mol/L〜2mol/L未満とすることがより好ましく、0.5mol/L〜1.5mol/Lとすることがさらに好ましく、1mol/Lとすることが最も好ましい。アルカリ濃度を2mol/L超としても、下水汚泥原料から抽出されるリンの量はほとんど変わらない。また、アルカリ濃度を2mol/L超とすると、リン抽出液のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも高くなる場合が多くなり、アルカリ溶液の無駄な使用に繋がりやすいと共に、不純物生成を助長する虞もある。一方、アルカリ濃度を0.5mol/L未満とすると、下水汚泥原料から抽出されるリンの量が少なくなることから、吸着材の収量が減少してしまう。
【0065】
次に、石膏を準備する(S103)。石膏としては、石膏ボード廃棄物、脱硫石膏などの廃石膏を用いることができ、リサイクル、コストの観点から好ましいが、通常の市販石膏粉末などあらゆる石膏を用いることができる。
【0066】
次に、下水汚泥原料をアルカリ溶液中で撹拌した後に固液分離してリン抽出液を得る(S104)。この工程は、撹拌槽2と固液分離手段3とで行われる。
【0067】
撹拌槽2としては、アルカリ溶液により腐食されることのない材質の撹拌槽を適宜用いることができる。例えば、ステンレス製の撹拌槽を用いることができるがこれに限定されるものではない。
【0068】
固液分離手段3としては、リン抽出後の下水汚泥原料をアルカリ溶液から除去することのできる濾過膜や濾過装置など適宜用いることができるがこれに限定されるものではない。例えば、下水汚泥原料とアルカリ溶液とを撹拌した後、静置して下水汚泥原料を沈殿させ、上清を汲み上げることにより固液分離を行うようにしてもよい。
【0069】
下水汚泥原料とアルカリ溶液とを撹拌する時間は、通常少なくとも1時間程度、好ましくは3〜12時間であるが、リンを十分に抽出できるのであれば、この時間に限定されるものではない。
【0070】
また、下水汚泥原料に対するアルカリ溶液の比は、固液比(L/S)で2〜10(リットル/kg)とすることが好適である。この固液比の範囲で良好にリンを抽出することができる。しかしながら、この範囲を超えてもリンの抽出は可能であり、この範囲に限定されるものではない。
【0071】
また、下水汚泥原料とアルカリ溶液とを撹拌する際のアルカリ溶液温度は、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とする場合には、室温(25℃)でよい。また、1mol/L以下の水酸化ナトリウム溶液をアルカリ溶液として用いる場合にも、室温でよい。但し、1mol/L超の水酸化ナトリウム溶液をアルカリ溶液として用いる場合には、上記の通り、液相中にリン酸ナトリウム塩(Na3PO4)が析出する虞があるので、リン酸ナトリウム塩が析出しない温度、例えば水酸化ナトリウム溶液を40℃程度に加温することが好ましい。
【0072】
尚、撹拌槽2への下水汚泥原料の添加方法は、特に限定されないが、例えば下水汚泥原料を容器に収容して、この容器から粉体ポンプにより圧送すればよい。
【0073】
また、撹拌槽2へのアルカリ溶液の添加方法は、特に限定されないが、例えばアルカリ濃度が既知のアルカリ溶液を容器に収容して、この容器から送液ポンプにより送液すればよい。
【0074】
次に、リン抽出液のリン濃度を測定してリン濃度実測値を得る(S105)。この工程は、リン濃度分析装置4により行われる。
【0075】
リン濃度分析装置4としては、ペルオキソ二硫酸カリウム・紫外線酸化分解−モリブデン青吸光光度法を利用した直接全リン自動測定装置が挙げられるが、リン抽出液のリン濃度を測定できる装置であれば、この装置に限定されるものではない。
【0076】
リン抽出液のリン濃度の測定は、例えば、リン抽出液の一部をリン濃度分析装置4に自動的に送液して行えばよいが、この方法には限定されない。尚、リン濃度分析装置4として、ペルオキソ二硫酸カリウム・紫外線酸化分解−モリブデン青吸光光度法を利用した直接全リン自動測定装置を用いた場合、リン濃度の分析の範囲は全リン0〜0.5mg/L程度であるのに対し、分析に必要なリン抽出液の濃度は5000〜10000mg/L程度であり、高濃度であることから、例えば1mL以下の極僅かの原液を純水で希釈することでリン濃度の測定に供することが可能あり、サンプリングによるリン抽出量の減少量は無視してよい。
【0077】
リン抽出液は、送液手段6により反応槽5に送液される。送液手段6としては、例えば送液ポンプが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0078】
以上の工程により、反応槽5にリン抽出液が準備され、反応槽5に添加される石膏が準備される。以下S106〜S110の工程では、反応槽5のリン抽出液を水酸アパタイトの合成に最適な状態に調整すると共に、水酸アパタイトの合成に最適な量の石膏をリン抽出液に添加する。
【0079】
S106〜S110の工程は、アルカリ添加手段7と、石膏添加手段8と、中和剤添加手段12と、記憶手段9と、演算手段10と、制御手段11とにより行われる。
【0080】
記憶手段9は、例えばハードディスク、RAM等の記憶装置により構成される。
【0081】
演算手段10及び制御手段11は、CPU(中央演算装置)またはMPU(超小型演算装置)により構成される。
【0082】
演算手段10では、記憶装置9に記憶されている相関関数と、リン濃度分析装置4から入力されるリン濃度実測値に基づいて演算処理が行われ、演算結果に基づいて制御手段11によりアルカリ添加手段7、石膏添加手段8、中和剤添加手段12に命令信号が送られて動作が制御される。これにより、反応槽5内が水酸アパタイトの合成に最適な条件に調整される。
【0083】
アルカリ添加手段7は、アルカリを貯留するタンク7aと、開閉動作によってタンク7aから反応槽5へのアルカリの添加を制御するバルブ7bとを備えている。バルブ7bには、制御手段11からの命令信号に応答して駆動するソレノイドが組み込まれており、ソレノイドの駆動に伴ってバルブ7bが開閉動作するように構成されている。
【0084】
石膏添加手段8もまた、アルカリ添加手段7と同様に構成されている。即ち、石膏添加手段8は、石膏を貯留するタンク8aと、開閉動作によってタンク8aから反応槽5への石膏の添加を制御するバルブ8bとを備えている。バルブ8bには、制御手段11からの命令信号に応答して駆動するソレノイドが組み込まれており、ソレノイドの駆動に伴ってバルブ8bが開閉動作するように構成されている。
【0085】
中和剤添加手段12もまた、アルカリ添加手段7と同様に構成されている。即ち、中和剤添加手段12は、中和剤を貯留するタンク12aと、開閉動作によってタンク12aから反応槽5への中和剤の添加を制御するバルブ12bとを備えている。バルブ12bには、制御手段11からの命令信号に応答して駆動するソレノイドが組み込まれており、ソレノイドの駆動に伴ってバルブ12bが開閉動作するように構成されている。
【0086】
以下、S106〜S110の工程について詳細に説明する。
【0087】
まず、リン濃度実測値から相関関数を用いてリン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する(S106)。この工程は、演算手段10による演算処理により行われる。即ち、記憶装置9に記憶されている相関関数と、リン濃度分析装置4から入力されるリン濃度実測値とから、リン抽出液の最適アルカリ濃度が算出される。
【0088】
相関関数は、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比と、水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となるリン抽出液の最適条件を求めて最適条件をリン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述されるものである。
【0089】
熱力学平衡計算は、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、地球化学計算コードに各種鉱物の熱力学データを入力して行うことができる。
【0090】
地球化学計算コードとしては、PhreeqC.ver.2.12.1を用いることができるが、これに限定されるものではなく、例えば、PhreeqCの他のバージョンや、MINTEQ、EQ3/6、The Geochemist’s Workbench(登録商標)を用いることもできる。
【0091】
各種鉱物の熱力学データとしては、例えば、クゼライトとシゲナイトについては、非特許文献2に記載されたデータを用いることができる。その他ギブサイト等の鉱物種については、非特許文献3及び非特許文献4に記載されたデータを用いることができる。しかしながら、これらの熱力学データに限定されることなく、鉱物に関する公知の熱力学データを適宜使用することができる(非特許文献2:Bechtel SAIC Company(2004), Qualification of Thermodynamic Data for Geochemical Modeling of Mineral-Water Interactions in Dilute Systems, ANL-WIS-GS-000003, U.S. DOE, 212p.、非特許文献3:Johnson, J., Anderson, G. and Parkhurst D (2000), Database from ‘thermo.com.V8.R6.230’ prepared by at Lawrence Livermore National Laboratory (Revision: 1.11). 非特許文献4:Hummel (1992) Nagra/PSI Chemical Thermodynamic Data Base 01/01, Universal Publishers, 589p)。
【0092】
アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係は、下水汚泥原料とアルカリ溶液とを用いて実験的に求めることができる。即ち、リン酸含有量が異なる同種の下水汚泥原料を複数用意し、それぞれの下水汚泥原料からアルカリ溶液を用いてリンとアルミニウムを抽出してリンとアルミニウムの濃度を測定し、リン濃度とアルミニウム濃度の相関関係を求めることで、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係を求めることができる。
【0093】
例えば、下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合、下水汚泥焼却灰から水酸化カリウム溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比は、リン:アルミニウム=1:0.74となる。また、下水汚泥原料を乾燥下水汚泥とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合、乾燥下水汚泥から水酸化カリウム溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比は、リン:アルミニウム=1:0.5となる。つまり、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係は、下水汚泥原料の種類によって異なるので、吸着材の製造に供される下水汚泥原料の種類に応じて、リンとアルミニウムのモル比の関係を予め調べておけばよい。
【0094】
リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比は、1.0〜1.7倍とすることが好ましく、1.67倍とすることが最も好ましい。1.67倍とは、水酸アパタイトの化学量論比である。即ち、1.67倍とすることで、理論的にはリンと石膏の全てが合成反応に供される。1.0倍未満とすると、水酸アパタイトの合成反応終了時にリン抽出液に未反応のリンが残留し易くなる。また、1.7倍超とすると、水酸アパタイトの合成反応終了時に未反応の石膏が残留し易くなる。尚、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比とは、リン(P)に対して添加される石膏中のカルシウム(Ca)のモル比を意味している。即ち、(Caのモル数)/(Pのモル数)である。
【0095】
水酸アパタイトの合成反応条件は、リン抽出液に含まれる物質、反応温度で設定される。本実施形態では、リン抽出液に含まれる物質をアルカリ、リン、アルミニウムとして設定し、添加したアルカリは全て溶液中に溶解するものと仮定して計算する。また、溶解平衡を考慮すべき鉱物は、水酸アパタイト、ギブサイトである。また大気中酸素との平衡条件については液相中の硫酸の還元が起こらない範囲での分圧設定を行う。
【0096】
そして、熱力学平衡計算により、リン抽出液の最適条件を求める。熱力学平衡計算の際には、水酸アパタイトの合成反応終了時のリン抽出液のギブサイト飽和指数が−0.15〜0.15となるように設定すればよいが、ギブサイト飽和指数を0と設定することが望ましい。即ち、ギブサイト飽和指数を0と設定することで、ギブサイトの析出が抑えられる条件で熱力学平衡計算を実行することができる。ギブサイト飽和指数を−0.15未満とすると、不純物としてポートランダイトとクゼライトが生成し易くなる。また、ギブサイト飽和指数を0.15超とすると、不純物としてギブサイトが生成し易くなる。
【0097】
ここで、ギブサイトの飽和指数(SI)とは、以下に示す数式で表されるものである。
(数式1)SI = log(活動度積) − logK
Kは、化2式の平衡定数である。
(化2)Al(OH)3 + 3H+ = Al3+ + 3H2O
【0098】
尚、平衡定数Kは既存の熱力学データを適宜使用すればよい。例えば、ギブサイトの25℃における平衡定数の対数logKは、6.9〜8.1の範囲内で設定するのが好適であり、7.75〜7.7561の範囲内で設定するのがより好適である。また、平衡定数の温度補正を行うためのエンタルピー(ΔH)についても、既存の熱力学データを適宜使用すればよい。例えば、ΔHは−94.7〜−102.788(kJ/mol)の範囲内で設定するのが好適であり、−102.784〜−102.788とすることがより好適である。
【0099】
ここで、熱力学平衡計算により得られる相関関数を例示する。下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とすると、相関関数はY=0.002+6.5X−1.4X2となる。さらに詳細には、Y=0.00233+6.51047X−1.37986X2となる。また、下水汚泥原料を乾燥下水汚泥とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合、相関関数はY=−0.005+5.5X−0.81X2となる。さらに詳細には、Y=−0.00477+5.47863X−0.81496X2となる。尚、Xはリン濃度実測値(単位:mol/L)であり、Yは最適アルカリ濃度(単位:規定)である。尚、この相関関数は、水酸アパタイトの合成反応終了時のリン抽出液のギブサイト飽和指数を0に設定し、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度を80℃に設定し、且つ石膏の添加量をリン抽出液のリンのモル数の1.67倍に設定して計算されたものである。
【0100】
また、下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液として、水酸アパタイトの合成反応終了時のリン抽出液のギブサイト飽和指数を−0.15に設定し、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度を80℃に設定し、且つ石膏の添加量をリン抽出液のリンのモル数の1.67倍に設定して計算される相関関数は、Y=0.01+7.4X−1.8X2となる。さらに詳細には、Y=0.01445+7.41589X−1.83806X2となる。
【0101】
また、下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液として、水酸アパタイトの合成反応終了時のリン抽出液のギブサイト飽和指数を0.15に設定し、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度を80℃に設定し、且つ石膏の添加量をリン抽出液のリンのモル数の1.67倍に設定して計算される相関関数は、Y=−8×10−4+5.8X−1.0X2となる。さらに詳細には、Y=−8.34664×10−4+5.82897X−1.00538X2となる。
【0102】
つまり、下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度を80℃に設定し、且つ石膏の添加量をリン抽出液のリンのモル数の1.67倍に設定したときには、相関関数をY=0.002+6.5X−1.4X2とすることが好ましいが、0.01+7.4X−1.8X2≧Y≧−8×10−4+5.8X−1.0X2の範囲内であれば、品質ばらつきは十分に抑えられる。
【0103】
尚、アルカリ溶液として水酸化カリウムを用いた場合、アルカナイトの飽和指数が0となる相関関数もさらに考慮した上で、リン抽出液の最適条件を算出するようにしてもよい。アルカナイトの飽和指数が0となる相関関数は、ギブサイトの飽和指数が0となる相関関数と同様の手法で求めることができる。しかしながら、アルカナイトは、ギブサイトが生成しない範囲においては、アルカリ濃度が2.7mol/L以上とならない限り生成されない。したがって、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度として好ましい0.5mol/L〜2mol/Lの範囲においては、アルカナイトはほとんど生成されないので、アルカナイトの飽和指数が0となる相関関数を考慮することは必ずしも必要ではない。
【0104】
ここで、上記相関関数は、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度が80℃のときに成立するものであるが、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度を変数として相関関数に含めることも可能である。即ち、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度が80℃のときに成立する上記相関関数に温度補正関数を組み込むことによって、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度が80℃以外の場合にも最適アルカリ濃度を求めることができる相関関数を得ることができる。
【0105】
尚、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度は、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合には、60℃超〜95℃未満とすることが好ましく、70℃〜90℃とすることがより好ましく、80℃とすることがさらに好ましい。不純物であるK2Oの含有量を小さくする観点からは高温の方が良いが、反応温度を95℃とするとカルシウムとアルミニウムとを含有する不純物鉱物種であるクゼライトが生成量し易くなる。また、反応温度を40〜60℃とすると不純物鉱物種であるアルカナイトが生成しやすくなる。尚、水酸アパタイトの合成反応中の反応温度の制御は、例えばヒーター等の熱源と、この熱源を制御して反応温度(反応槽5内の温度)を一定温度に維持するサーモスタット等の恒温装置とを反応槽5に備えることにより行うことができる。
【0106】
下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合を例に挙げて具体的に説明すると、温度補正関数は以下のようにして求めることができる。まず、各種反応温度における相関関数を求める。この際、上記のように二次の回帰曲線として記述された相関関数を用いてもよいが、一次の回帰直線として記述された相関関数を用いた場合であっても、十分に精度の高い温度補正関数が得られる。以下に、反応温度が60℃〜95℃の場合について、一次の回帰直線として記述された相関関数を示す。
60℃ : Y=0.06745+7.03058X
70℃ : Y=0.06972+6.33315X
80℃ : Y=0.06796+5.82149X
87.5℃ : Y=0.06099+5.53381X
95℃ : Y=0.05673+5.30538X
【0107】
次に、上記式のY切片と、Xの係数とをそれぞれ反応温度T(℃)に対してプロットし、その関係式を求めると、以下のように表される。β(T)は、Xの係数の反応温度依存性を示す関数である。γ(T)は、Y切片の反応温度依存性を示す関数である。
β(T)= 14−0.17T+7.6×10−4T2
但し、より詳細には、β(T)= 14.28934−0.16663T+7.59255×10−4T2である。
γ(T)=−0.027+0.0028T−2.0×10−5T2
但し、より詳細には、γ(T)=−0.02722+0.00279T−2.01679×10−5T2である。
【0108】
つまり、反応温度を加味した相関関数(一次の回帰直線)は、以下のように表される。
Y(X,T)=γ(T)+β(T)X
【0109】
次に、反応温度を加味した相関関数を元に温度補正関数を作成する。Y=0.002+6.5X−1.4X2は、反応温度が80℃の時に成立する相関関数であることから、この場合には、温度補正を行う必要はない。したがって、温度補正関数を相関関数に組み込んだときに、反応温度が80℃の時には、温度補正関数による補正がなされないように温度補正関数を設定する。
【0110】
即ち、温度補正関数をξ(X,T)として、
ξ(X,T)=(γ(T)+β(T)X)/(γ(80)+β(80)X)と記述することで、反応温度が80℃の場合に、温度補正関数から求められる温度補正係数が1となり、反応温度が80℃の時には、温度補正関数による補正がなされないようになる。ここで、温度補正関数の分母は、反応温度が80℃の場合のγ(T)+β(T)Xの値を意味している。つまり、Tが80℃であれば、温度補正関数ξの値は1となる。
【0111】
そして、この温度補正関数を、Y=0.002+6.5X−1.4X2に乗じることによって、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度が80℃以外の場合にも最適アルカリ濃度を求めることができる相関関数が得られる。
【0112】
つまり、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度が80℃以外の場合にも最適アルカリ濃度を求めることができる相関関数はY=ξ(X,T)×(0.002+6.5X−1.4X2)となる。そして、ξ(X,T)は、ξ(X,T)=(γ(T)+β(T)X)/(0.067+5.8X)で表される温度補正関数であり、Tは水酸アパタイトの合成を行うときの反応温度(℃)であり、
γ(T)=−0.027+0.0028T−2.0×10−5T2であり、
β(T)=14−0.17T+7.6×10−4T2である。
【0113】
そして、上記の温度補正関数は、反応温度が60〜95℃の時に確実に成立するものであり、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度として好ましい60℃超〜95℃未満の範囲において、最適アルカリ濃度を精度よく求めることができる。そして、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度T(℃)をY=ξ(X,T)×(0.002+6.5X−1.4X2)に代入することによって、当該反応温度において最適アルカリ濃度を算出するための相関関数を得ることができる。
【0114】
尚、下水汚泥原料として乾燥下水汚泥を使用し、アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用した場合において、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度が80℃以外の場合にも最適アルカリ濃度を求めることができる相関関数についても、上記と同様の方法によって求めることができる。即ち、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度が80℃以外の場合にも最適アルカリ濃度を求めることができる相関関数はY=ξ(X,T)×(−0.005+5.5X−0.81X2)となる。そして、ξ(X,T)は、ξ(X,T)=(0.01+β(T)X)/(0.01+5.0X)で表される温度補正関数であり、Tは水酸アパタイトの合成を行うときの反応温度(℃)であり、β(T)=11−0.11T+4.9×10−4T2である。より詳細には、β(T)=10.62348−0.10934T+4.88048×10−4T2である。尚、下水汚泥原料として乾燥下水汚泥を使用し、アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用した場合においては、温度補正関数におけるγ(T)の値を0.01としても、十分な精度で最適アルカリ濃度を求めることができる。
【0115】
次に、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とを比較する(S107)。この工程は、演算手段10で行われ、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とが比較演算されて、その大小関係が判断される。
【0116】
Y>Cのとき、即ち、演算手段10における比較演算によってアルカリ溶液のアルカリ濃度(C)が最適アルカリ濃度(Y)よりも低いと判断されたときには、制御手段11からアルカリ添加手段7へ命令信号が送られてアルカリ添加手段7の動作が制御され、反応槽5にアルカリが添加されてリン抽出液のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度に調整される(S108)。
【0117】
Y<Cのとき、即ち、演算手段10における比較演算によってアルカリ溶液のアルカリ濃度(C)が最適アルカリ濃度(Y)よりも高いと判断されたときには、制御手段11から中和剤添加手段12へ命令信号が送られて中和剤添加手段12の動作が制御され、反応槽5に中和剤が添加されてリン抽出液のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度に調整される(S109)。尚、中和剤としては、例えば、硫酸,硝酸,塩酸等の無機酸を用いることができる。
【0118】
Y=Cのとき、即ち、演算手段10における比較演算によってアルカリ溶液のアルカリ濃度(C)が最適アルカリ濃度(Y)と等しいと判断されたときには、制御手段11からアルカリ添加手段7及び中和剤添加手段12に命令信号が送られず、反応槽5のリン抽出液がそのまま使用される。
【0119】
ここで、アルカリ溶液のアルカリ濃度とリン抽出液のアルカリ濃度は、水酸アパタイトの合成反応前であれば等しい。したがって、アルカリ溶液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整し得る量のアルカリまたは中和剤をリン抽出液に添加することで、リン抽出液を最適アルカリ濃度に調整することができる。但し、下水汚泥原料からリン抽出液を固液分離する際に、リン抽出液の損失が生じることから、分離されたリン抽出液の量を把握した上でアルカリまたは中和剤を添加することが好ましい。例えば、下水汚泥焼却灰からアルカリ溶液を固液分離する際のアルカリ溶液の損失分は体積換算で25%程度であることが実験的に確認されたことから、この損失分を考慮に入れた上で、リン抽出液にアルカリまたは中和剤を添加することが好ましい。
【0120】
このように、固液分離処理時にアルカリ溶液の損失が発生することから、固液分離処理後にアルカリを添加する場合の方が、固液分離処理前にアルカリを添加する場合よりも、アルカリの添加量を少なくできる。したがって、固液分離処理後にアルカリを添加することによって、アルカリの使用量を抑えて、製造にかかるコストを低減できる。
【0121】
また、アルカリや中和剤を添加する際には、リン抽出液を希釈しないようにすることが好ましい。即ち、リン抽出液が希釈されると、リン抽出液のリン濃度が低くなり、これにより最適アルカリ濃度が変化してしまう。従って、アルカリや中和剤を添加する際には水で希釈せずに添加することが好ましい。
【0122】
次に、リン濃度実測値から求められるリン抽出液のリンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて求められる量の石膏をリン抽出液に添加する(S110)。この工程は、石膏添加手段8と、演算手段10と、制御手段11とで行われる。
【0123】
即ち、演算手段10における演算によってリン濃度実測値からリン抽出液中のリンのモル数を求め、リンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて、石膏の最適添加量を算出する。そして、制御手段11から石膏添加手段8へ命令信号が送られて石膏添加手段8の動作が制御され、反応槽5に最適量の石膏が添加される。尚、リン濃度実測値からリン抽出液中のリンのモル数を求める際には、下水汚泥原料からリン抽出液を固液分離する際のリン抽出液の回収率を考慮することが好ましい。また、石膏の最適添加量は、リンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じたものとすることが望ましいが、若干の誤差は許容される。
【0124】
以上の工程が終了した後、水酸アパタイトの合成反応を開始する。即ち、リン抽出液中のリンと、石膏とを反応させて水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造する。
【0125】
反応時間については、1時間超〜12時間未満とすることが好ましく、3時間〜10時間とすることがより好ましく、3時間〜6時間とすることがさらに好ましく、6時間とすることが最も好ましい。反応時間を1時間以下、12時間以上とすると、吸着材の水酸アパタイト純度が低下すると共に、製造にかかる時間が長時間化するため好ましくない。反応時間を6時間に近づけるにつれて、吸着材の水酸アパタイト純度が高まる。
【0126】
ここで、下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合の第一の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法について、図3に示すプロセスフローに基づいて説明する。即ち、この水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法は、下水汚泥焼却灰を準備する工程(S101a)と、アルカリ濃度(C)の水酸化カリウム溶液を準備する工程(S102a)と、石膏を準備する工程(S103a)と、下水汚泥焼却灰を水酸化カリウム溶液中で撹拌した後に固液分離してリン抽出液を得る工程(S104a)と、リン抽出液のリン濃度を測定してリン濃度実測値(X)を得る工程(S105a)と、リン濃度実測値(X)をY=ξ(X,T)×(0.002+6.5X−1.4X2)に代入して、リン抽出液の最適アルカリ濃度(Y)を算出する工程(S106a)と、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度(C)と最適アルカリ濃度(Y)とを比較する工程(S107a)と、Y>Cのときに、リン抽出液に水酸化カリウムを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程(S108a)と、Y<Cのときに、リン抽出液に中和剤を添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程(S109a)と、リン濃度実測値から求められるリン抽出液のリンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比(1.67)を乗じて求められる量の石膏をリン抽出液に添加する工程(S110a)とを含むようにしている。反応温度T(℃)は、60℃超〜95℃未満とすることが好ましく、70℃〜90℃とすることがより好ましく、80℃とすることがさらに好ましい。
【0127】
また、下水汚泥原料を乾燥下水汚泥とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合の第一の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法について、図4に示すプロセスフローに基づいて説明する。即ち、この水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法は、乾燥下水汚泥を準備する工程(S101b)と、アルカリ濃度(C)の水酸化カリウム溶液を準備する工程(S102b)と、石膏を準備する工程(S103b)と、乾燥下水汚泥を水酸化カリウム溶液中で撹拌した後に固液分離してリン抽出液を得る工程(S104b)と、リン抽出液のリン濃度を測定してリン濃度実測値(X)を得る工程(S105b)と、リン濃度実測値(X)をY=ξ(X,T)×(−0.005+5.5X−0.81X2)に代入して、リン抽出液の最適アルカリ濃度(Y)を算出する工程(S106b)と、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度(C)と最適アルカリ濃度(Y)とを比較する工程(S107b)と、Y>Cのときに、リン抽出液に水酸化カリウムを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程(S108b)と、Y<Cのときに、リン抽出液に中和剤を添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程(S109b)と、リン濃度実測値から求められるリン抽出液のリンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比(1.67)を乗じて求められる量の石膏をリン抽出液に添加する工程(S110b)とを含むようにしている。反応温度T(℃)は、60℃超〜95℃未満とすることが好ましく、70℃〜90℃とすることがより好ましく、80℃とすることがさらに好ましい。
【0128】
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。
【0129】
第二の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法は、下水汚泥原料に含まれるリンをアルカリ溶液で抽出してリン抽出液を得、リン抽出液に石膏を添加して、リンと石膏とを反応させて水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造する方法において、下水汚泥原料を準備する工程と、アルカリ濃度が既知のアルカリ溶液を準備する工程と、石膏を準備する工程と、下水汚泥原料のリン酸含有量を測定する工程と、下水汚泥原料をアルカリ溶液中で撹拌した後に固液分離してリン抽出液を得る工程と、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液に抽出されるリンの濃度をリン濃度最大値とし、リン濃度最大値と下水汚泥原料のリン酸含有量との相関関係を記述した第一の相関関数を用いて、測定されたリン酸含有量からリン濃度最大値を算出する工程と、アルカリ溶液へのリン抽出率とアルカリ溶液のアルカリ濃度との相関関係を記述した第二の相関関数を用いて、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度からリン抽出率を算出する工程と、リン濃度最大値にリン抽出率を乗じてリン抽出液のリン濃度推定値を得る工程と、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比と、水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となるリン抽出液の最適条件を求めて最適条件をリン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した相関関数を用いて、リン濃度推定値からリン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する工程と、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とを比較し、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも低いときに、リン抽出液にアルカリを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程と、リン濃度推定値から求められるリン抽出液のリンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて求められる量の石膏をリン抽出液に添加する工程とを含むようにしている。
【0130】
また、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とを比較し、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも高いときに、リン抽出液に中和剤を添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程をさらに含むようにしている。
【0131】
第二の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法を、図5に示すプロセスフロー図を用いてより詳細に説明する。この水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法は、下水汚泥原料を準備する工程(S201)と、アルカリ濃度が既知のアルカリ溶液を準備する工程(S202)と、石膏を準備する工程(S203)と、下水汚泥原料のリン酸含有量を測定してリン酸含有量計測値(測定されたリン酸含有量)を得る工程(S204)と、下水汚泥原料をアルカリ溶液中で撹拌した後に固液分離してリン抽出液を得る工程(S205)と、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液に抽出され得るリンの濃度をリン濃度最大値とし、リン濃度最大値と下水汚泥原料のリン酸含有量との相関関係を記述した第一の相関関数を用いて、リン酸含有量計測値からリン濃度最大値を算出する工程(S206)と、アルカリ溶液へのリン抽出率とアルカリ溶液のアルカリ濃度との相関関係を記述した第二の相関関数を用いて、アルカリ溶液のアルカリ濃度からリン抽出率を算出する工程(S207)と、リン濃度最大値にリン抽出率を乗じてリン抽出液のリン濃度推定値を得る工程(S208)と、リン濃度推定値から第三の相関関数を用いてリン抽出液の最適アルカリ濃度(Y)を算出する工程(S209)と、アルカリ溶液のアルカリ濃度(C)と最適アルカリ濃度(Y)とを比較する工程(S210)と、Y>Cのときに、リン抽出液にアルカリを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程(S211)と、Y<Cのときに、リン抽出液に中和剤を添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程(S212)と、リン濃度推定値から求められるリン抽出液のリンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて求められる量の石膏をリン抽出液に添加する工程(S213)とを含むようにしている。
【0132】
リン抽出液の最適アルカリ濃度(Y)を算出する工程(S209)で使用する第三の相関関数は、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比と、水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となるリン抽出液の最適条件を求めて最適条件をリン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述されるものである。つまり、上記第一の実施形態における相関関数と第二の実施形態における第三の相関関数とは同じ関数である。
【0133】
第二の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法を実施するための装置の一例を図6に示す。この製造装置1’は、下水汚泥原料をアルカリ濃度が既知のアルカリ溶液中で撹拌する撹拌槽2と、下水汚泥原料のリン酸含有量を測定してリン酸含有量計測値を得るリン酸含有量分析装置13と、下水汚泥原料をアルカリ溶液から固液分離してリン抽出液を得る固液分離手段3と、リン抽出液と石膏とを接触させて水酸アパタイトを合成する反応槽5と、リン抽出液を反応槽に送液する送液手段6と、反応槽5にアルカリを添加するアルカリ添加手段7と、反応槽5に石膏を添加する石膏添加手段8と、記憶手段9と、演算手段10と、制御手段11と、反応槽に中和剤を添加する中和剤添加手段12とを備えている。
【0134】
記憶手段9には、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液に抽出され得るリンの濃度をリン濃度最大値とし、リン濃度最大値と下水汚泥原料のリン酸含有量との相関関係を記述した第一の相関関数と、アルカリ溶液へのリン抽出率とアルカリ溶液のアルカリ濃度との相関関係を記述した第二の相関関数と、アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、リン抽出液に添加される石膏のリンに対するモル比と、水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となるリン抽出液の最適条件を求めて最適条件をリン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した第三の相関関数とが記憶されている。
【0135】
演算手段10では、記憶手段9に記憶されている第一の相関関数とリン酸含有量分析装置13から入力されるリン酸含有量計測値とからリン濃度最大値を算出する処理と、記憶手段9に記憶されている第二の相関関数とアルカリ溶液の既知のアルカリ濃度からリン抽出率を算出する処理と、リン濃度最大値にリン抽出率を乗じてリン抽出液のリン濃度推定値を演算する処理と、記憶手段9に記憶されている第三の相関関数とリン濃度推定値とからリン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する処理と、アルカリ溶液の既知のアルカリ濃度と最適アルカリ濃度とを比較演算する処理と、リン濃度推定値からリン抽出液のリンのモル数を求め、このモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて石膏の最適添加量を算出する処理とが行われる。
【0136】
制御手段11では、演算手段10によりアルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも低いと判断されたときにアルカリ添加手段7からアルカリを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する制御と、演算手段10によりアルカリ溶液の既知のアルカリ濃度が最適アルカリ濃度よりも高いと判断されたときに中和剤添加手段8から中和剤を添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する制御と、演算手段10により算出された石膏の最適添加量を石膏添加手段8から添加する制御とが行われる。
【0137】
第二の実施形態にかかる製造方法が第一の実施形態にかかる製造方法と相違する点は、リン抽出液のリン濃度を測定によって得るのではなく、下水汚泥原料のリン酸含有量から推定する点にある。つまり、第二の実施形態においては、下水汚泥原料のリン酸含有量のみからリン抽出液のリン濃度を推定して最適な水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造条件を決定することができる点に利点がある。
【0138】
また、第二の実施形態にかかる製造装置1’が第一の実施形態にかかる製造装置1と相違する点は、リン濃度分析装置4ではなく、リン酸含有量分析装置13を備えている点と、記憶手段9に記憶されている関数と、演算手段10における演算処理内容であり、その他の部分は共通している。
【0139】
但し、下水汚泥原料のリン酸含有量は予め明らかにされている場合がある。例えば、下水道事業者が下水汚泥原料中のリン酸含有量を測定しており、下水汚泥原料の引き受け時に下水汚泥原料のリン酸含有量が明らかになっている場合がある。このような場合には、下水汚泥原料のリン酸含有量を測定する工程(S204)並びにリン酸含有量分析装置13を省略して、既知のリン酸含有量をリン酸含有量計測値として本発明を実施できる。
【0140】
以下では、第一の実施形態と相違する点、即ち、下水汚泥原料のリン酸含有量からリン抽出液のリン濃度推定値を求める方法を中心に説明する。
【0141】
まず、下水汚泥原料のリン酸含有量を測定してリン酸含有量計測値を得る(S204)。この工程は、リン酸含有量分析装置13により行われる。
【0142】
リン酸含有量分析装置13は、例えば、XRF(蛍光X線)分析装置である。具体的には、リン灰石標準試料から作成された検量線に基づき、下水汚泥原料において検出されたリン酸のピーク強度値からリン酸含有量を推定することができる。尚、この方法は、非特許文献5に記載されている公知の方法であり、詳細な説明は省略する(非特許文献5:電力中央研究所報告,N05063,24p)。
【0143】
下水汚泥原料は、例えば、以下のようにしてリン酸含有量分析装置13で測定される。即ち、リン抽出に使用する下水汚泥原料の一部が粉体ポンプにより打錠機に送られて、5〜25トン程度で加圧成形されてペレット状とされる。ペレット状に成形することによって、下水汚泥原料の固相率を高めて、分析精度を向上させることができる。尚、下水汚泥原料の種類によっては、加圧成形のみではペレット形状の保持が難しい場合がある。このような場合には、四ホウ酸リチウムやパラノックスといったバインダーを混合して成形する。ペレット状に成形された下水汚泥原料は、リン酸含有量分析装置13に送られ、XRF測定により検出されるリン酸のピーク強度からリン酸含有量計測値が算出される。リン抽出に使用する下水汚泥原料の残りは、下水汚泥原料をアルカリ溶液中で撹拌した後に固液分離してリン抽出液を得る工程(S205)に供される。
【0144】
次に、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液に抽出されるリンの濃度をリン濃度最大値とし、リン濃度最大値と下水汚泥原料のリン酸含有量との相関関係を記述した第一の相関関数を用いて、リン酸含有量計測値からリン濃度最大値を算出する(S206)。この工程は、演算手段10による演算処理により行われる。即ち、記憶装置9に記憶されている第一の相関関数と、リン酸含有量分析装置13から入力されるリン酸含有量計測値とから、リン濃度最大値が算出される。
【0145】
第一の相関関数は以下のようにして求められる。まず、アルカリ濃度の異なるアルカリ溶液を複数準備する。尚、ここで使用するアルカリ溶液は実際にリン抽出に用いるアルカリ溶液と同一種のものとする。そして、リン酸含有量が同一の下水汚泥原料をそれぞれのアルカリ溶液で撹拌し、抽出されるリンの濃度を分析する。ここで、抽出されるリンの濃度はアルカリ溶液のアルカリ濃度がある値以上になると一定値となる。本明細書では、抽出されるリンの濃度が一定値となる最も低いアルカリ濃度を、「リン抽出量が飽和するアルカリ濃度」と呼ぶ。例えば、水酸化カリウム溶液の場合、アルカリ濃度が2mol/L以上になると、抽出されるリンの濃度は一定値となる。つまり、水酸化カリウム溶液を用いる場合には、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度は2mol/Lである。また、本明細書では、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液に抽出されるリンの濃度を「リン濃度最大値」とよぶ。
【0146】
リン抽出量が飽和するアルカリ濃度が明らかになった後、リン酸含有量の異なる下水汚泥原料を複数準備し、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液を用いて、リンを抽出する。そして、リン酸含有量と抽出されるリンの濃度との相関関係から、最小二乗法等により回帰直線を求め、これを第一の相関関数とする。
【0147】
例えば、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合、第一の相関関数は、B=0.2+0.39A、より詳細には、B=0.20258+0.39125Aとなる。尚、Aはリン酸含有量計測値(P2O5換算後の重量%)であり、Bはリン濃度最大値(g/L)である。
【0148】
つまり、第一の相関関数を用いることにより、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液を用いた場合にアルカリ溶液に抽出されるリン濃度、即ち、リン濃度最大値を、リン酸含有量計測値から算出することができる。
【0149】
次に、アルカリ溶液へのリン抽出率とアルカリ溶液のアルカリ濃度との相関関係を記述した第二の相関関数を用いて、アルカリ溶液のアルカリ濃度からリン抽出率を算出する(S207)。この工程は、演算手段10による演算処理により行われる。即ち、記憶装置9に記憶されている第二の相関関数と、アルカリ溶液のアルカリ濃度とからリン抽出率が算出される。
【0150】
第二の相関関数は以下の様にして求められる。まず、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液と、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度よりもアルカリ濃度が低く、且つアルカリ濃度の異なる複数のアルカリ溶液を準備する。尚、ここで使用するアルカリ溶液も実際にリン抽出に用いるアルカリ溶液と同一種のものとする。そして、リン酸含有量が同一の下水汚泥原料をそれぞれのアルカリ溶液で撹拌し、抽出されるリンの濃度を分析する。次に、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液を用いて抽出されたリンの濃度を1とする。即ち、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液を用いたときのリン抽出率を1とする。そして、他のアルカリ溶液を用いて抽出されたリンの濃度をそれぞれリン抽出量が飽和するアルカリ濃度のアルカリ溶液を用いて抽出されたリンの濃度で割って、各アルカリ濃度に対するリン抽出率を求める。そしてアルカリ濃度に対するリン抽出率の相関関係から最小二乗法等により回帰曲線を求め、これを第二の相関関数とする。
【0151】
例えば、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合、第二の相関関数は、α=1.0−1.2/(1+exp((C−0.40)/0.27))、より詳細には、α=1.00356−1.23432/(1+exp((C−0.40188)/0.2734))となる。尚、Cはアルカリ溶液のアルカリ濃度(単位:規定)であり、αはリン抽出率(単位:無次元)である。
【0152】
次に、リン濃度最大値(B)にリン抽出率(α)を乗じてリン抽出液のリン濃度推定値(X)を得る(S208)。この工程は、演算手段10による演算処理により行われる。即ち、リン濃度最大値(B)に、リン抽出率(α)を乗じることによってリン濃度推定値(X)が算出される。
【0153】
リン濃度推定値(X)は、第三の相関関数を用いてリン抽出液の最適アルカリ濃度(Y)を算出する工程(S209)で用いられる。尚、この工程は、第一の実施形態におけるS106と同じ工程であり、S106のリン濃度実測値の代わりにリン濃度推定値を用いることで実行される。
【0154】
また、リン濃度推定値は、リン濃度推定値から求められるリン抽出液のリンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比を乗じて求められる量の石膏をリン抽出液に添加する工程(S213)で用いられる。尚、この工程は、第一の実施形態におけるS110と同じ工程であり、S110のリン濃度実測値の代わりにリン濃度推定値を用いることで実行される。
【0155】
第二の実施形態におけるS210〜S212は、第一の実施形態におけるS107〜109と同じ工程であり、説明は省略する。
【0156】
ここで、下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合の第二の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法について、図7に示すプロセスフローに基づいて説明する。即ち、この水酸アパタイトの製造方法は、下水汚泥焼却灰を準備する工程(S201a)と、アルカリ濃度(C)の水酸化カリウム溶液を準備する工程(S202a)と、石膏を準備する工程(S203a)と、下水汚泥焼却灰のリン酸含有量を測定してリン酸含有量計測値(A)を得る工程(S204a)と、下水汚泥焼却灰を水酸化カリウム溶液中で撹拌した後に固液分離してリン抽出液を得る工程(S205a)と、リン酸含有量計測値(A)をB=0.2+0.39Aに代入して水酸化カリウム溶液に抽出し得るリン濃度最大値(B)を求める工程(S206a)と、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度(C)をα=1.0−1.2/(1+exp((C−0.40)/0.27))に代入してリン抽出率(α)を求める工程(S207a)と、リン濃度最大値(B)とリン抽出率(α)とをX=αBに代入して、リン抽出液のリン濃度推定値(X)を求める工程(S208a)と、リン濃度推定値(X)をY=ξ(X,T)×(0.002+6.5X−1.4X2)に代入してリン抽出液の最適アルカリ濃度(Y)を算出する工程(S209a)と、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度(C)と最適アルカリ濃度(Y)とを比較する工程(S210a)と、Y>Cのときに、リン抽出液にアルカリを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程(S211a)と、Y<Cのときに、リン抽出液に中和剤を添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程(S212a)と、リン濃度推定値から求められるリン抽出液のリンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比(1.67)を乗じて求められる量の石膏をリン抽出液に添加する工程(S213a)とを含むようにしている。反応温度T(℃)は、60℃超〜95℃未満とすることが好ましく、70℃〜90℃とすることがより好ましく、80℃とすることがさらに好ましい。
【0157】
また、下水汚泥原料を乾燥下水汚泥とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合の第二の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法について、図8に示すプロセスフローに基づいて説明する。即ち、この水酸アパタイトの製造方法は、乾燥下水汚泥を準備する工程(S201b)と、アルカリ濃度(C)の水酸化カリウム溶液を準備する工程(S202b)と、石膏を準備する工程(S203b)と、乾燥下水汚泥のリン酸含有量を測定してリン酸含有量計測値(A)を得る工程(S204b)と、乾燥下水汚泥を水酸化カリウム溶液中で撹拌した後に固液分離してリン抽出液を得る工程(S205b)と、リン酸含有量計測値(A)をB=0.2+0.39Aに代入して水酸化カリウム溶液に抽出し得るリン濃度最大値(B)を求める工程(S206b)と、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度(C)をα=1.0−1.2/(1+exp((C−0.40)/0.27))に代入してリン抽出率(α)を求める工程(S207b)と、リン濃度最大値(B)とリン抽出率(α)とをX=αBに代入して、リン抽出液のリン濃度推定値(X)を求める工程(S208b)と、リン濃度推定値(X)をY=ξ(X,T)×(−0.005+5.5X−0.81X2)に代入してリン抽出液の最適アルカリ濃度(Y)を算出する工程(S209b)と、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度(C)と最適アルカリ濃度(Y)とを比較する工程(S210b)と、Y>Cのときに、リン抽出液にアルカリを添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程(S211b)と、Y<Cのときに、リン抽出液に中和剤を添加してリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する工程(S212b)と、リン濃度推定値から求められるリン抽出液のリンのモル数に熱力学平衡計算の際に設定された石膏のリンに対するモル比(1.67)を乗じて求められる量の石膏をリン抽出液に添加する工程(S213b)とを含むようにしている。反応温度T(℃)は、60℃超〜95℃未満とすることが好ましく、70℃〜90℃とすることがより好ましく、80℃とすることがさらに好ましい。
【0158】
以上、第一の実施形態及び第二の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法および製造装置によれば、吸着材の製造に最適な条件、即ち、吸着材の水酸アパタイト純度を高めつつも、不純物の生成を抑えて、品質ばらつきを抑えることができる。しかも、吸着材の製造に最適な条件を迅速に決定できるので、吸着材の製造を自動化を妨げることがない。
【0159】
例えば、第一の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法および製造装置の場合、リン抽出液のリン濃度をリン濃度分析装置4で迅速に測定して、吸着材の製造に最適な条件を迅速に決定できる。したがって、反応槽5にリン抽出液が送液されている間に、または反応槽5でリン抽出液が水酸アパタイトの合成に最適な温度に加温されている間に、吸着材の製造に最適な条件が決定されるので、吸着材の製造に最適な条件を決定する処理が製造ライン上における律速点となることがない。
【0160】
また、第二の実施形態にかかる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法および製造装置の場合、下水汚泥原料のリン酸含有量をリン酸含有量分析装置13で迅速に測定して、吸着材の製造に最適な条件を迅速に決定できる。したがって、例えば、撹拌槽2で下水汚泥原料からリンが抽出されている間に吸着材の製造に最適な条件が決定されるので、吸着材の製造に最適な条件を決定する処理が製造ライン上における律速点となることがない。また、撹拌槽2への初期添加分と終期添加分の下水汚泥原料のリン酸含有量を測定し、その平均値をリン酸含有量計測値とすることで、製造に最適な条件の算出精度も高まる。
【0161】
尚、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0162】
例えば、上述の実施形態では、中和剤添加手段12を備えるようにしているが、下水汚泥原料からリンを抽出する際に使用するアルカリの濃度が、最適アルカリ濃度よりも常に低い状況であれば、中和剤を添加する必要はないので、中和剤添加手段12は省略してもよい。
【0163】
さらに、上述の実施形態では、温度補正関数を第一の実施形態における相関関数(第二の実施形態における第三の相関関数)に組み込んで、水酸アパタイトの合成反応時の反応温度が80℃以外の場合にも最適アルカリ濃度を求めることができる相関関数を得るようにしていたが、基準となる相関関数を反応温度が80℃に設定して求められた関数以外のものとしてもよい。また、温度補正関数を相関関数に組み込んで基準となる相関関数の温度補正を行う形態には限定されない。例えば、反応温度自体を変数として組み込んだ相関関数を求め、この相関関数に反応温度を代入して使用するようにしてもよい。
【0164】
また、上述の実施形態では、リン抽出液のリン濃度から最適製造条件を決定するようにしていたが、上記のように、リンとアルミニウムは比例関係にあることから、リン濃度の代わりにアルミニウム濃度から最適製造条件を決定することも可能である。したがって、リン抽出液のアルミニウム濃度を例えばICP−AESで測定して、最適製造条件を求めるようにしてもよい。
【0165】
さらに、上述の実施形態では、反応槽5に送液されたリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整するようにしているが、下水汚泥原料のリン酸含有量から最適条件を算出した後に、下水汚泥原料からリンを抽出するようにして、このときに使用するアルカリ溶液の濃度を最適アルカリ濃度に調整するようにしてもよい。
【0166】
例えば、反応槽5で水酸アパタイトの合成反応を進行させている間に、次に使用する下水汚泥原料のリン酸含有量を測定して最適条件を求め、下水汚泥原料からリンを抽出する際に使用するアルカリ溶液にアルカリを添加して最適アルカリ濃度に調整し、リンの抽出を行うようにしてもよい。この場合には、反応槽5に送液されたリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する必要がなくなる。
【0167】
この場合には、第一の相関関数〜第三の相関関数に基づいて、下水汚泥原料のリン酸含有量と最適アルカリ濃度との関係を示す第四の相関関数を計算し、第四の相関関数に基づいて、下水汚泥原料のリン酸含有量から最適アルカリ濃度を求めればよい。
【0168】
例えば、下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合、第四の相関関数は、以下の式で表される。
Y=−2.00746exp(−A/19.68494)−1.96386exp(−A/19.53816)−1117.21503exp(−A/1.43115)+3.03419
Aはリン酸含有量(単位:P2O5換算後の重量%)であり、Yは最適アルカリ濃度(単位:規定)である。
【0169】
また、第四の相関関数を用いた製造方法と第一の実施形態の製造方法とを組み合わせてもよい。即ち、下水汚泥原料のリン酸含有量を計測した後、第四の相関関数を用いて抽出に用いるアルカリ溶液の最適アルカリ濃度を推定し、リン抽出に用いるアルカリ溶液を最適アルカリ濃度に調整してからリン抽出を開始する。そして、リン抽出液のリン濃度を測定し、第三の相関関数に基づいてリン抽出液の最適アルカリ濃度を求め、リン抽出液のアルカリ濃度を再度調整する。これにより、リン抽出液の最適アルカリ濃度からのずれを解消して、水酸アパタイトの合成を行うようにしてもよい。
【0170】
このように、リン抽出にもちいるアルカリ溶液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整した場合には、以下のような利点がある。即ち、第一の実施形態及び第二の実施形態における製造方法よりも、リン抽出に用いるアルカリ溶液の濃度を高めて、下水汚泥原料からのリン抽出率を高めることができる場合があるので、吸着材の合成に必要な下水汚泥原料が少なくて済み、下水汚泥原料の輸送コストや引き取り量を削減出来る。
【0171】
ただし、アルカリの消費量という観点から考えた場合には、アルカリの添加量が抑えられる第一の実施形態や第二の実施形態を採用することが好ましい。即ち、固液分離処理後にアルカリの添加を行ってリン抽出液のアルカリ濃度を最適アルカリ濃度に調整する第一の実施形態及び第二の実施形態の方が、アルカリ濃度の調整に必要なアルカリの量が少なくて済むので、アルカリの使用量を抑えて製造にかかるコストを低減できると共に、アルカリ投入量に対するリンの回収率(水酸アパタイト生産量)を向上させ易い。
【実施例】
【0172】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0173】
<分析方法>
本実施例において使用した分析方法を以下に説明する。
【0174】
試料のXRD(X線回折)分析には、フィリップス(株)製のPW3020を使用した。測定条件は以下の通りとした。
・管球:Cu
・出力:40kV、50mA
・波長:CuKα、1.54056Å
・回折角度:2θ=2゜〜60°
・スキャンスピード:1゜/分
【0175】
試料のXRF(蛍光X線)分析には、島津製作所(株)製のXRF1500を使用した。分析に供する試料は粉砕して(試料が粉末の場合はそのまま)、強熱減量を950℃、2時間の条件で計量した後、四ホウ酸リチウムと試料とを5:1の割合(重量比)で混合してガラスビードとした。だだし、一部試料の硫黄分については粉体プレス法で成形したものを定量した。含有成分の定量にはMBH社製標準岩石試料(192 A SA 32,リン灰石標準試料)と、産業技術総合研究所標準岩石試料7種から作成した検量線を用いた。詳細は非特許文献5に記載されているので、ここでは説明を省略する。
【0176】
溶液等の化学組成の分析は、以下の方法で実施した。即ち、pHの測定は、JIS K 0102 12.1の分析方法により、デジタルpH計(東亜DKK(株)、HM−14P)を使用して行った。アルミニウム濃度の測定は、JIS K 0102 58.4の分析方法により、ICP−AES(島津製作所(株)ICPS−8100)を使用して行った。リン濃度は、イオンクロマトグラフ (東ソー(株) IC−2001)を用いて分析した。
【0177】
[実施例1]
水酸アパタイトの合成品の純度を向上させ、品質ばらつきを抑えるための条件について検討した。
【0178】
<原料>
原料となる石膏は、国内の中間処理業者から発生した紙分離処理後の石膏ボード廃棄物(以下、B1と呼ぶ)と、国内の石炭火力発電所から発生した3種類の脱硫石膏試料(以下、それぞれD82、D83、D84と呼ぶ)と、関東化学製の試薬石膏(以下、PGと呼ぶ)を用いた。石膏B1、D82、D83、D84のXRD分析結果を図30に示す。尚、PGは化学試薬の二水石膏であるため分析は省略した。
【0179】
図30において、●は二水石膏(Gypsum)に帰属されるピークを示し、○は半水石膏(Bassanite)に帰属されるピークを示し、△は無水石膏(Anhydrite)に帰属されるピークを示し、▲は石英(Quartz)に帰属されるピークを示す。B1については、大部分が二水石膏であるが、微量に無水石膏、半水石膏が含まれていた。D82、D83、D84はほぼ二水石膏のピークだけであり、半水石膏、無水石膏のピークは検出されなかった。
【0180】
一方、下水汚泥原料としては、国内の下水処理場から発生した2種類の下水汚泥焼却灰(以下、それぞれA1、A2と呼ぶ)を用いた。各下水汚泥焼却灰のXRF分析結果を表1に示す。
【0181】
【表1】
【0182】
A1及びA2の双方とも、主要な含有成分は、SiO2、Al2O3、CaO、P2O5であった。また、SiO2についてはA1の方が含有量が少なかったが、Al2O3、CaO、P2O5については、A1の方が含有量が多く、特にP2O5に関しては、A2よりもA1の方が2倍弱程度多く含まれていることが確認された。
【0183】
下水汚泥焼却灰(A1,A2)と石膏(B1,D82,D83,D84,PG)とを原料として、水酸アパタイトを各種条件で合成し、下水汚泥焼却灰の化学組成、石膏の化学組成、リン抽出に使用したアルカリの種類、アルカリ溶液のアルカリ濃度、アルカリの追加添加の有無、反応時間および反応温度の影響を検討した。各合成試料の詳細な合成条件を表2に示す。尚、標準条件は、以下に示すA〜Dの合成条件とした。表2中の試料3と試料15が標準条件に該当する条件で合成されたものである。
(A)下水汚泥焼却灰を2mol/Lの濃度の水酸化カリウム溶液に投入し、固液比L/S=5L/kgの条件で6時間振とうして下水汚泥焼却灰に含まれているリンを室温で抽出した後、固液分離してリン抽出液を得る。
(B)リン抽出液にさらに1L当たり0.5mol量の水酸化カリウムを追加添加する。
(C)リン抽出液に石膏を添加し、密閉容器中で反応温度80℃、撹拌条件120rpmで24時間振とうして水酸アパタイトを合成する。石膏の添加量は液相中のリンのモル量の1.67倍のモル量に設定する。
(D)フィルターで固液分離を行い、分離された水酸アパタイト試料をフィルター上で純水100ccを用いて2回洗浄し、恒温乾燥器内において80℃で24時間乾燥させる。
【0184】
【表2】
【0185】
<下水汚泥焼却灰のリン酸含有量の相違によるリン抽出量の相違>
試料1〜3及び試料13〜15の水酸アパタイトの合成過程で得られたリン抽出液の濃度から、下水汚泥焼却灰の化学組成の相違によるリン抽出量の相違について検討した。結果を図9に示す。図9において、横軸は下水汚泥焼却灰からのリンの抽出に使用した水酸化カリウム溶液の濃度を示している。
【0186】
図9に示す結果から、下水汚泥焼却灰A1(■)を用いた場合の方が、下水汚泥焼却灰A2(○)を用いた場合よりもリンを多く抽出できていることがわかった。下水汚泥焼却灰A1にはA2よりもP2O5が多く含まれていたことから(表1参照)、下水汚泥原料のリン酸含有量に応じて、アルカリ溶液で抽出し得るリンの量も多くなることが明らかとなった。また、アルカリ濃度が1.0mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いた場合のリン抽出量は、アルカリ濃度が2.0mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いた場合のリン抽出量に対し、0.88倍であり、この結果は、下水汚泥焼却灰をA1とした場合もA2とした場合も変わらなかった。つまり、アルカリ溶液へのリンの抽出率は、アルカリ濃度のみに依存しており、下水汚泥原料のリン酸含有量には依存していないことが明らかとなった。
【0187】
<下水汚泥焼却灰のリン酸含有量とリン抽出量との関係>
アルカリ濃度が2.0mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いてA1及びA2からリンを抽出した場合のリン抽出量のデータと、これらとは別の実験データに基づき、リン酸含有量に対するリン抽出量の関係を示す回帰直線を最小二乗法により求めたところ、図10に示すように、比例関係が得られた。即ち、Aをリン酸含有量(単位:P2O5換算後の重量%)とし、Yをリン抽出液のリン濃度(単位:g/L)として、B=0.2+0.39A、より詳細には、B=0.20258+0.39125Aとなることが明らかとなった。
【0188】
ここで、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度が2.0mol/Lを超えると、抽出されるリンの量がほとんど変わらなくなることが別の実験から確かめられた。したがって、この関係を用いることで、下水汚泥原料のリン酸含有量から抽出され得るリンの濃度の最大値を予測することができる。
【0189】
<アルカリ溶液のアルカリ濃度に対する下水汚泥焼却灰からのリン抽出率>
上記のように、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度が2.0mol/Lを超えると、抽出されるリンの量がほとんど変わらなくなることが別の実験から確かめられたことから、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度が2.0mol/Lのときにリン濃度最大値が得られることが分かった。そこで、図9に示す実験結果に基づき、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度が2.0mol/Lのときのリン抽出率を1として、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度が1.0mol/L、0.5mol/Lの場合のリン抽出率を計算し、水酸化カリウムのアルカリ濃度に対するリン抽出率の相関を示す関数を求めた。関数はBolzmann関数形で表した場合のパラメータを、非線形最小二乗フィッティングにより計算して求めた。
【0190】
結果を図31に示す。図31において、関数は実線で示されている。関数は、α=1.0−1.2/(1+exp((C−0.40)/0.27))、より詳細には、α=1.00356−1.23432/(1+exp((C−0.40188)/0.2734))となる。尚、Cはアルカリ溶液のアルカリ濃度(単位:規定)であり、αはリン抽出率(単位:無次元)である。この関数を利用することで、アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を用いた場合に、水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度から、リンの抽出率を推定することができる。
【0191】
<リン抽出液中のリンとアルミニウムの濃度の関係>
下水汚泥焼却灰からは、リンと同時にアルミニウムも抽出される。下水汚泥焼却灰のAl2O3含有量は、表1に示されるように、A1とA2の間でほとんど差が無いのに対し、リン抽出液に溶出されたアルミニウム量にはA1とA2の間で顕著な差があり、量的にはそれぞれリン抽出量に比例した量となっていた。そこで、アルカリ濃度が0.5mol/L、1.0mol/L、2.0mol/Lの溶液でA1及びA2からリンを抽出した場合のリン抽出液のリン濃度とアルミニウム濃度の関係をプロットすると共に、別の実験から得られたリン抽出液のリン濃度とアルミニウム濃度の関係をプロットし、その相関関係を調べた。結果を図11に示す。
【0192】
図11に示される結果から、リン濃度とアルミニウム濃度の関係は、原点を通る直線上に分布し、その勾配がモル比率でP:Al=1:0.74となることが確認された。
【0193】
尚、下水汚泥焼却灰中では、リンがAlPO4の形態で存在していることがXRD分析の結果から確認された。したがって、AlPO4がアルカリ溶液に抽出されるリンの主要なソースであると考えられた。
【0194】
ここで、さらに、下水汚泥焼却灰の代わりに、乾燥下水汚泥を用いて水酸化カリウム溶液によりリンを抽出し、リン抽出液のリン濃度とアルミニウム濃度の関係をプロットして、その相関関係を調べた。結果を図12に示す。
【0195】
図12に示される結果から、リン濃度とアルミニウム濃度の関係は、原点を通る直線上に分布し、その勾配がモル比率でP:Al=1:0.5となることが確認された。
【0196】
以上の結果から、リン抽出液のリン濃度とアルミニウム濃度の関係は、下水汚泥原料の種類、即ち、焼却や乾燥、炭化といった処理方法によって異なることが明らかとなった。
【0197】
<アルカリ溶液の相違によるリン抽出量の相違>
試料1〜3及び試料10〜12の水酸アパタイト試料の合成過程で得られたリン抽出液のリン濃度から、リンの抽出に使用したアルカリ溶液の種類によるリン抽出量の違いについて検討した。結果を図13に示す。図13において、横軸は下水汚泥焼却灰からのリンの抽出に使用したアルカリ溶液の濃度(水酸化カリウム濃度または水酸化ナトリウム濃度)を示している。水酸化カリウム溶液による抽出と比較すると、水酸化カリウム溶液によるリン抽出量は、0.5mol/Lで0.76倍、1mol/Lで0.77倍、2mol/Lで0.55倍であり、同一の下水汚泥焼却灰を対象とした試験では、アルカリ薬剤投入量(モル単位)あたりのリン抽出の効率は水酸化カリウムを用いた結果よりも劣ることがわかった。
【0198】
以上、図13に示す結果から、水酸化カリウム溶液(■)を用いた場合の方が、水酸化ナトリウム溶液(○)を用いた場合よりもリンを多く抽出できていることがわかった。
【0199】
ここで、水酸化ナトリウム溶液を用いた場合の方が水酸化カリウム溶液を用いた場合よりもリンの抽出量が少なく、しかも水酸化ナトリウム濃度が1.0mol/Lを超えるとむしろリンの抽出量が少なくなった理由については以下のように考えられる。即ち、水酸化ナトリウムとリンが反応するとリン酸ナトリウム(Na3PO4)が生成される。リン酸ナトリウムは、飽和平衡時の濃度が25℃で約0.89mol/L(理科年表データ)であることから、その平衡定数は約0.62である。一方、水酸化ナトリウム濃度が2mol/Lのリン抽出液中のナトリウムイオン濃度の測定値はナトリウムイオン濃度が1.46mol/L、リン酸イオン濃度が0.2mol/Lであることから、ここから溶解度積を計算すると0.62となる。したがって、水酸化ナトリウム濃度が2mol/Lのリン抽出液は、25℃でリン酸ナトリウムに対して飽和状態にあることがわかり、リン酸ナトリウムが析出しやすい状態となっていたことに起因しているものと考えられる。したがって、水酸化ナトリウム溶液をリン抽出液として使用する場合、特に1.0mol/Lを超えるアルカリ濃度の水酸化ナトリウム溶液を用いる場合には、水酸化ナトリウム溶液を加熱してリン酸ナトリウムに対して不飽和状態とすることが望ましいことがわかった。例えば、40℃におけるリン酸ナトリウムの平衡定数は4.08(理科年表データ)となり、リン抽出液がリン酸ナトリウムに対して飽和状態となることなく、十分にリンの抽出ができるものと推定される。
【0200】
<水酸化ナトリウム溶液を用いた場合のリン濃度とアルミニウム濃度の関係>
試料10〜12の水酸アパタイト試料の合成過程で得られたリン抽出液のリン濃度とアルミニウム濃度から、水酸化ナトリウム溶液を用いた場合のリン抽出液のリン濃度とアルミニウム濃度の相関関係について検討した。結果を図14に示す。アルミニウム濃度に関してはリンと異なり、アルカリの濃度が高いほど高濃度になっており、2.0mol/L条件下での抽出液の組成については、リンとアルミニウムの比例関係からは外れていることが確認された。
【0201】
この原因に関しても、上記のリン酸ナトリウム(Na3PO4)の生成によるものと推定される。つまり、本来抽出されるべき量のリンが、リン酸ナトリウムの生成によって抽出されなかったことに起因するものと推定される。したがって、この結果からも、水酸化ナトリウム溶液をリン抽出液として使用する場合には、水酸化ナトリウム溶液を加熱してリン酸ナトリウムに対して不飽和状態とすることが望ましいことがわかった。
【0202】
<合成された水酸アパタイト試料のXRF分析及びXRD分析>
次に、試料1〜38をXRF分析して得られた結果を図15に示す。尚、図15においては、比較のために、試薬アパタイト(和光純薬製、図15中では試薬HAPと呼ぶ)及び骨炭(和光純薬製)のデータも示した。
【0203】
試料1〜38のP2O5含有量の中央値は26.0%であり、CaO含有量の中央値は39.1%であった。これに対し、試薬アパタイトと骨炭のP2O5含有量はそれぞれ40.1%、29.8%であり、CaO含有量は54.5%、41.8%であった。したがって、試料1〜38の中央値と比較した場合、水酸アパタイトの構成元素であるリンとカルシウムの含有量は試薬アパタイト及び骨炭よりも低い結果となった。しかし、試料1〜38の中にはP2O5含有量の高い試料もあり、試料10、試料12、試料13、試料30、試料32、試料38については、P2O5含有量は28%を超えていた。したがって、合成条件を制御することにより、競合品である骨炭に匹敵する純度の水酸アパタイトの合成品を得ることが可能と考えられた。
【0204】
次に、試料1〜38をXRD分析し、各試料に含まれている鉱物をXRDスペクトルのピークから同定した。その結果、以下の鉱物が1試料以上に検出された。
・水酸アパタイト:hydroxyapatite Ca10(PO4)6(OH)2
・ギブサイト:gibbsite Al(OH)3
・クゼライト:kuzelite Ca4Al2(OH)12(SO4):6(H2O)
・バサナイト:bassanite 2CaSO4:(H2O)
・アルカナイト:arcanite K2SO4
・ポートランダイト:portlandite Ca(OH)2
・シゲナイト:sygenite K2Ca(SO4)2・H2O
【0205】
上記鉱物の中で、リンを含むのは水酸アパタイトのみである。したがって、P2O5含有量は水酸アパタイト含有量の指標になり得ることがわかった。尚、試料1〜3のXRD分析結果を参考のために図16に示しておく。図16において、▽は水酸アパタイトに帰属されるピークを示し、▼はアルカナイトに帰属されるピークを示し、▲は石英に帰属されるピークを示し、◆はギブサイトに帰属されるピークを示し、□はクゼライトに帰属されるピークを示す。
【0206】
尚、アルカリ溶液として水酸化ナトリウム溶液を用いて合成された試料の組成についてはNa2O含有量が試料10で2%、試料11で4%、試料12で5%である点がアルカリ溶液を水酸化カリウム溶液を用いて合成された試料と異なっていた。K2O含有量については、試料1及び2ではそれぞれ4.8%、1.7%であるので、アルカリ薬剤の使用に起因する不純物混入量の割合は、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液のどちらを使用してもほとんど変わらない結果となった。
【0207】
また、試料10、試料11、試料12のP2O5の含有量は27〜29%と高く、水酸アパタイトの純度も水酸化カリウム溶液による合成品よりも若干高いことが確認された。また、試料10、試料11、試料12の副生成鉱物についてはXRD波形からクゼライトとポートランダイトのピークが確認されており、一方、試料1及び試料2に存在したギブサイトのピークは確認されなかった。このため、試料10、試料11、試料12のAl2O3の含有量は試料1、試料2、試料3と比較して少なくなっている。不純物量の違いに関しては、リン抽出液への石膏の規定添加量が少なかったため、相対的に高いpH領域(合成反応終了時のpHが13.3〜13.8)で合成が行われたためと考えられる。
【0208】
<水酸アパタイトの合成反応終了時のpH測定値と水酸アパタイトの化学組成との関係の検討>
水酸アパタイト中の不純物の含有量は、反応に伴って生成する水酸アパタイト以外の鉱物の生成が関係していると考えられる。そして、これら鉱物の生成条件は、水酸アパタイト合成時の液相のpHが深く関与しているものと考えられる。そこで、水酸アパタイトの合成反応終了時のpH測定値と、水酸アパタイトの化学組成との関係について検討した。
【0209】
反応温度と反応時間が共通している試料1〜15について、水酸アパタイトの合成反応終了時のpH値と、XRF分析により得られたP2O5含有量(重量%)との関係を調べた結果を図17に示す。また、試料1〜15について、水酸アパタイトの合成反応終了時のpH値と、XRF分析により得られたAl2O3含有量(重量%)との関係を調べた結果を図18に示す。図17と図18には、各試料において存在が確認された副生成鉱物種データから、同じ副生成鉱物種の存在が確認された点を略円で囲んでグループ化した。バサナイトとシゲナイトについては略円を破線とした。但し、アルカナイトに関しては試料3でのみ存在が確認されたため、図には反映させなかった。尚、図17と図18において、○の中に記載された数字は試料番号を示している。
【0210】
まず、図17について検討すると、pH10.8〜13.5まではpHが高くなるにつれてP2O5含有量が多くなり、pH13.2〜13.5付近の試料(試料10と試料13)においてP2O5含有量が最も多くなった。そして、pH13.5を超えると、P2O5含有量はやや低下する傾向が見られた。
【0211】
次に、図18について検討すると、pH10.8〜11.8まではpHが高くなるにつれてAl2O3含有量が多くなる傾向が見られた。pH11.8〜pH13.5未満まではAl2O3含有量が低下する傾向が見られたが、試料7はこの傾向からは若干逸脱していた。
【0212】
ここで、各鉱物について検討する。バサナイトは試料8と試料9のみで存在が確認された。バサナイトは、未分解の石膏が80℃の反応温度下で結晶水を失って形成されたものである。したがって、pH12以下の領域では石膏の分解速度が遅延しているものと考えられる。また、バサナイトが検出された試料8と試料9については、図18に示されるように、Al2O3含有量が9〜11%と高いにも関わらず、XRD分析においてはアルミニウム鉱物のピークは検出されなかった。このことから、試料8と試料9には、水酸化アルミニウムが非晶質の状態で含まれているものと推察される。
【0213】
シゲナイトは試料9と試料6のみで存在が確認された。シゲナイトは、カリウム濃度が高い状況下で石膏が硫酸カリウムとの間で複塩を形成し、生成したものと考えられる。したがって、シゲナイトが検出される場合においても、石膏の分解速度が遅延しているものと考えられる。
【0214】
ギブサイトは試料1、試料4、試料5、試料6及び試料7において存在が確認された。ギブサイトの存在が確認された試料は、pH12.8〜13.2の領域にあり、図18に示されるように、Al2O3含有量についても5.8〜9.3%と比較的多い傾向があった。
【0215】
pHが13.2を超えると試料からギブサイトが検出されなくなり、クゼライトまたはポートランダイトが検出されるようになる。クゼライトとポートランダイトの存在領域は、図17及び図18に示されるように重複しており、pHによる分離はできなかった。
【0216】
アルカナイトは試料3のみで存在が確認された。ここで、図15に示されるように、試料3ではK2O含有量が多いため、P2O5含有量が相対的に少なかった。
【0217】
以上より、水酸アパタイトの純度の指標となるP2O5含有量は、ギブサイトの生成している領域よりもやや高いpH領域、即ち、pH13.2〜13.5で最も高くなることがわかった。
【0218】
この結果から、水酸アパタイトの合成反応終了時のpHを、ギブサイトが生成(析出)するpHよりもやや高いpH、即ちpH13.2〜13.5とすることで、水酸アパタイトの純度を高めることができ、不純物含有量も低減できることがわかった。
【0219】
<理論計算による副生成鉱物の生成過程の検討>
次に、地球化学計算コードを用いて副生成鉱物の生成量を計算し、副生成鉱物と水酸アパタイトの合成時のpHとの関係について理論的に検討した。
【0220】
地球化学計算のモデルケースとして、以下の水質を設定した。尚、単位は全て「mol/kgH2O」である。「kgH2O」とは、単位重量(kg)あたりの水を意味する。
・Al:0.2
・Na:0.001
・SO4:0.45
・Ca:初期段階 0.45 / 終期段階 0.045
・K:0〜3.0
【0221】
アルミニウム濃度は、実際のリン抽出液中の濃度を参考に0.2mol/kgH2Oに設定した。また、アルミニウム濃度とリン濃度とは、上記のように比例関係にあり、さらに、石膏はリン抽出液中のリンのモル数の1.67倍に相当する量を添加すると仮定し、硫酸イオン量は0.45mol/kgH2Oに設定した。カルシウム濃度については、水酸アパタイトが全く生成されていない段階(初期段階)と、添加したカルシウムの90%が水酸アパタイト生成により抽出液から除外された段階(終期段階)の2ケースに分けて、副生成鉱物の生成量を計算した。また、合成時のpHを制御するため、水酸化カリウムについては、投入量を少しづつ変化させて計算し、副生成鉱物の生成量とpHとの関係を求めた。
【0222】
反応中の温度は80℃に設定した。生成を考慮する鉱物種は、試料1〜38のうちの1試料以上に存在が確認された鉱物種であるクゼライト、ポートランダイト、ギブサイト、シゲナイト、アルカナイトとした。また、無水石膏であるアンハイドライトの生成の可能性も想定した。そして、これらの鉱物種については、飽和したときに析出するものとして計算した。
【0223】
地球化学計算コードは米国地質調査所のPhreeqC ver. 2.12.1を使用した。熱力学データについては、クゼライト、シゲナイトは非特許文献2に記載の値を使用した。その他の鉱物については非特許文献3及び非特許文献4のデータベースを使用した。尚、pH値については反応終了後に反応系を25℃に冷却した時の値を求めて、実試験データと直接比較できるようにした。
【0224】
計算の結果、液相から析出する鉱物種は、ポートランダイト、ギブサイト、クゼライトの3種であり、その他の鉱物種は、設定した条件下では不飽和(生成しない)という結果となった。
【0225】
初期段階におけるpHと副生成鉱物の生成量との関係を図19に示す。pH12以下の領域ではギブサイトが形成されているが、pH12を超える領域では、アルミニウムがギブサイトではなく、クゼライトの形態をとることがわかった。また、pH12.6を超えるとポートランダイトが生成され、クゼライトが消失するpH13.75までの領域では、クゼライトとポートランダイトが共存する結果となった。
【0226】
次に、終期段階におけるpHと副生成鉱物の生成量との関係を図20に示す。終期段階においては、液相中のカルシウム量が少ないことから、クゼライトの生成量はカルシウム量に拘束されて少なくなり、アルミニウムが一部クゼライトの生成に消費されているが、ギブサイトの生成にはほとんど影響を与えないことがわかった。また、このことに起因して、ギブサイトは初期段階よりも高いpH13.5の領域においても析出することがわかった。尚、カルシウム量が少ないため、ポートランダイトはpH13.8以上にならないと生成しない結果となった。
【0227】
<理論計算の結果と実験結果との比較検討>
上記計算結果を実際の実験結果と比較する。図18に示されるように、合成反応終了時のpHが12.8〜13.2の領域で生成された試料は、Al2O3含有量が多く、XRD分析においてもギブサイトのピークが確認されている。pH12.8〜13.2の領域は、計算結果においてもギブサイト生成領域であることが示されており、実験結果と計算結果が一致していた。
【0228】
一方、合成反応終了時のpHが13.2〜14.1の領域で生成された試料では、XRD分析により、クゼライトとポートランダイトが確認されている。ポートランダイトの生成可能領域が計算結果ではより高pHの領域にあるが(pH13.8以上)、カルシウム濃度が高い初期段階ではもっと低いpH領域でもポートランダイトの生成は起こることから、実験の際には、一度生成したポートランダイトが一部残存していたと考えられる。
【0229】
ここで、水酸アパタイトは、カルシウムに関し、ポートランダイトやクゼライトよりも低濃度で析出する。そのため、実際の反応系においては、上記化1でも示されるように、水酸アパタイトの生成に伴い、水酸アパタイト析出に伴う液相中のカルシウム濃度の低下と、プロトンの放出によるpHの低下が連続的に起きている。このことを考慮すると、pHと鉱物生成量との関係については、以下のように考えることができる。
【0230】
即ち、反応初期の段階では、pHが12以上であり、石膏中のカルシウムは最初にクゼライトあるいはポートランダイトの形態に変化する。反応が進行するに伴い、液相のpHの低下とカルシウム濃度の低下とが起こると、クゼライトが分解し、液相中のアルミニウム濃度が再び高まる。水酸アパタイトの生成に伴うpHの低下により、合成反応終期にpHが13.5以下になると液相の組成がギブサイトに対して過飽和となり、ギブサイトの析出が起こる。
【0231】
このことから、実験結果について考察すると、合成反応終了時のpHが13以下の領域にある試料中にはギブサイトが形成され、結果として固相中のアルミニウム濃度が上昇してしまったものと考えられる。一方、合成反応終了時のpHが13以上の領域にある試料については、水酸アパタイトの生成では消費されなかった僅かなカルシウム分がクゼライトあるいはポートランダイトの形態で残存し、これがXRD分析の際に検出されたものと考えられる。
【0232】
また、水酸アパタイトを合成する前に、反応初期のpHが12より低い場合には、水酸アパタイトの合成速度が著しく遅くなることが実験において確認された。上記計算結果からこの現象を考察すると、反応初期の段階においては、生成するアルミニウム鉱物種がpH12を境にギブサイトからクゼライトに切り替わることから、このことが後の石膏の分解速度を決定している可能性が示唆された。
【0233】
つまり、メカニズムとしては、ギブサイトや非晶質の水酸アルミニウムはpHの低い石膏表面付近に優先して析出してしまうのに対して、クゼライトは構成成分としてアルミニウムの他にカルシウムを含んでいることから、クゼライト生成時に石膏からのカルシウム溶脱が促進され、石膏の結晶構造の分解に関与することによって、石膏が分解されやすくなり、水酸アパタイトが速やかに合成されるようになると推定される。
【0234】
以上、上記計算結果及び上記実験結果から、固相中のアルミニウム濃度の上昇を防ぐためには、水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの生成を抑えることが必要であることがわかった。即ち、水酸アパタイトの合成反応終了時に、液相(リン抽出液)の組成がギブサイトに対して過飽和とならない(ギブサイトが析出しない)pHに維持されることが、水酸アパタイトの純度を高め、且つ不純物量を少なく保って品質ばらつきを抑える上で重要な要素であることが明らかとなった。
【0235】
<最適製造条件の予測方法の検討>
上記の各種検討結果から、水酸アパタイトの純度を高め、且つ不純物量を少なく保って品質ばらつきを抑えるためには、水酸アパタイトの合成反応終了時のpHをギブサイトが析出するpH領域まで低下しないようにアルカリ薬剤を添加する必要がある。上記の通り、水酸化カリウム溶液を用いて下水汚泥焼却灰からリンとアルミニウムを抽出したときのリンとアルミニウムのモル比は、一般にP:Al=1:0.74という関係にあることから、下水汚泥焼却灰から抽出されるリンの濃度がわかれば、リン抽出液のアルミニウム濃度も同時に推定可能である。そこで、上記と同様に地球化学計算コードを用いて単純化した反応モデルを設定し、水酸アパタイトの合成反応終了時のpHを計算した。
【0236】
反応モデルは以下のように設定した。
・液相中のカリウム濃度は、水酸化カリウムの総投入量に等しい。
・リン抽出液中のリンとアルミニウムのモル比は常に1:0.74である。
・石膏はリン抽出液のモル数の1.67倍添加すると仮定し、合成反応終了時には添加した石膏が全て水酸アパタイト化する(熱力学平衡に達する)ものとする。
【0237】
水温は80度に設定した。また、酸素(ガス)平衡分圧は1%に設定した。尚、酸素分圧の設定は計算過程における硫酸の還元を防ぐためのものであり、硫酸還元が起こらない条件であれば、計算結果に影響を及ぼさない。
【0238】
ギブサイトの平衡反応式は上記(化2)式を使用した。平衡定数Kの対数logKは、公知の熱力学データthermo.com.V8.R6.230データを使用し、7.756に設定した。また、温度補正を行うためのエンタルピー(ΔH)は−102.788(kJ/mol)を用いた。その他の熱力学データもthermo.com.V8.R6.230を用いた。
【0239】
計算においては、試料1、試料2、試料3、試料13、試料14、試料15の合成に用いたリン抽出液のリン濃度を入力データとして、上記反応モデルを適用し、水酸アパタイトの合成反応終了時のpHを予測した。
【0240】
試料1、試料2、試料3、試料13、試料14、試料15を合成した際の合成反応終了時のpHの実測値と、計算による合成反応終了時のpH予測結果とを図21に示す。図21においては、計算によるpH予測値に対してpHの実測値がプロットされており、Y=Xの直線上に試料の実測値が存在していれば、計算によるpH予測値とpH実測値が一致していることになる。図21に示されるように、試料1に関しては、計算によるpH予測値がpH実測値よりも高くなっているものの、その他の試料については概ねY=Xの直線近傍にあり、合成反応終了時のpH予測に関し、上記反応モデルを適用できることが確認できた。
【0241】
次に、上記反応モデルを用いて、合成反応終了時にギブサイトが析出しない限度のpH、即ち、ギブサイト飽和指数が0となるpHにするために必要な水酸化カリウムの総投入量(水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度)について、リン抽出液のリン濃度との関係を求めた。結果を図22に示す。
【0242】
図22に示されるように、ギブサイト飽和指数が0となるpHにするために必要な水酸化カリウムの総投入量Y(mol/L)は、リン抽出液のリン濃度X(mol/L)に対して以下の式で表現することができた(以下、この式をギブサイト飽和曲線と呼ぶ)。
Y=0.00233+6.5147X−1.37986X2 (但し、0.07<X<0.42)
【0243】
図22には、試料1、試料2、試料3、試料13、試料14、試料15の水酸アパタイト合成条件の位置と、XRD分析により確認された副生成鉱物種を示した。図22において、Kuはクゼライトであり、Gibはギブサイトであり、Poはポートランダイトであり、Arcはアルカナイトである。また、図22には、アルカナイト飽和曲線も示した。アルカナイト飽和曲線は、ギブサイト飽和曲線と同様、アルカナイトが析出しない限度のpH、即ち、アルカナイト飽和指数が0となるpHにするために必要な水酸化カリウムの総投入量について、リン抽出液のリン濃度との関係を求めたものである。
【0244】
アルカナイト飽和曲線とギブサイト飽和曲線の交点は、リン濃度0.46mol/L、水酸化カリウム濃度2.74mol/Lであり、アルカリ溶液として水酸化カリウムを用いる水酸アパタイトの合成では、アルカナイトを生成させないために、カリウム濃度を2.7mol/L以下にする必要があることがわかった。
【0245】
各試料との対応関係について検討すると、図22に示されるギブサイト飽和領域内に位置するのは試料1のみであった。試料1、試料2、試料3、試料13、試料14、試料15のうち、副生成鉱物種としてギブサイトが検出されているのは試料1のみであったことから、計算により得られたギブサイト飽和曲線と実験結果は一致していた。
【0246】
また、図22から、試料2は合成時の水酸化カリウム濃度が最適値に最も近く、試料13が次に近いことがわかる。図15に示されるように、試料1、試料2、試料3、試料13、試料14、試料15のうち、試料2と試料13はP2O5含有量が多く、且つ不純物含有量が少ないことから、この点からも計算により得られたギブサイト飽和曲線の確かさが示されていた。
【0247】
また、試料3からは副生成鉱物種としてアルカナイトが検出されており、この結果についても、試料3の水酸アパタイト合成条件がアルカナイトの飽和領域付近に位置していることに対応しており、計算結果が示した傾向と一致していた。
【0248】
次に、上記反応モデルのうち、「リン抽出液中のリンとアルミニウムのモル比は常に1:0.74である。」とする条件を、「リン抽出液中のリンとアルミニウムのモル比は常に1:0.5である。」に変更し、下水汚泥焼却灰の代わりに乾燥下水汚泥を用いた場合についてギブサイト飽和曲線を計算したところ、以下に示す式が得られた。
Y=−0.00477+5.47863X−0.81496X2
【0249】
さらに、水酸化カリウム溶液を水酸化ナトリウム溶液に代えてギブサイト飽和曲線を計算したところ、水酸化カリウム溶液を用いた場合のギブサイト飽和曲線とほぼ一致することが確かめられた。したがって、ギブサイト飽和曲線は、使用するアルカリ溶液が水酸化カリウムであっても水酸化ナトリウムであっても、変わらないことが明らかとなった。
【0250】
以上の結果から、ギブサイト飽和曲線を活用することで、リン抽出液のリン濃度から、水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造に最適なアルカリ濃度を簡易かつ迅速に推定することが可能なことが明らかとなった。
【0251】
<下水汚泥焼却灰のリン酸含有量から推定される水酸化カリウムの必要投入量の検討>
下水汚泥焼却灰のリン酸含有量に対し、水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイト飽和指数を0とするために必要な水酸化カリウムの総投入量を下水汚泥焼却灰のリン酸含有量に対して計算した。
【0252】
この計算においては、KOH−1.0mol/L抽出時のリン濃度は、KOH−2.0mol/L抽出時リン濃度の0.88倍とし、下水汚泥焼却灰から抽出されるリンの量を求めた。その結果と図11に示されるリンとアルミニウムのモル比の関係を用いて、ギブサイト飽和指数を0とする水酸化カリウムの最適投入量を導いた。また,実際のマテリアルバランスを再現するため、リン抽出時の固液分離の際に液量の24体積%が固相中に残留する(実際の計量結果より推定)ものとして、その損失分も考慮して計算を行った。
【0253】
計算の結果得られた下水汚泥焼却灰のP2O5含有量と水酸化カリウムの最適投入量との関係を図23に示す。図23において、実線はリン抽出液として1mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いた場合の計算結果であり、破線はリン抽出液として2mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いた場合の計算結果である。
【0254】
リン抽出液として1mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いた場合、P2O5含有量が13.8重量%を超える下水汚泥焼却灰を使用するときには、水酸化カリウムを最適投入量とするために、水酸アパタイト合成の前に水酸化カリウムの追加添加が必要となることがわかった。換言すれば、P2O5含有量が13.8重量%未満の下水汚泥焼却灰を使用するときには、水酸化カリウムの量が過剰であることがわかった。
【0255】
また、リン抽出液として2mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いた場合、P2O5含有量が25.6重量%を超える下水汚泥焼却灰を使用するときには、水酸化カリウムを最適投入量とするために、水酸アパタイト合成の前に水酸化カリウムの追加添加が必要となることがわかった。換言すれば、P2O5含有量が25.6重量%未満の下水汚泥焼却灰を使用するときには、水酸化カリウムの量が過剰であることがわかった。
【0256】
さらに、図23に示す計算結果に基づき、下水汚泥焼却灰のP2O5含有量と、水酸化カリウムの消費量に対するリン回収量との関係を計算した結果を図24に示す。図24において、実線はリン抽出液として1mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いた場合の計算結果であり、破線はリン抽出液として2mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いた場合の計算結果である。この計算結果から、リン抽出液として1mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いた場合の方が、2mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いた場合よりも水酸化カリウム1モル当たりのリンの回収量(水酸アパタイト生成量)が多くなり、リン抽出液として、2mol/Lの水酸化カリウム溶液よりも1mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いた方が好ましいことが明らかとなった。
【0257】
また、図24に示す計算結果に加えて、下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とし、アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合に、上述した第一の相関関数〜第三の相関関数に基づいて求められる第四の相関関数Y=−2.00746exp(−A/19.68494)−1.96386exp(−A/19.53816)−1117.21503exp(−A/1.43115)+3.03419(Aはリン酸含有量(単位:P2O5換算後の重量%)であり、Yは最適アルカリ濃度(単位:規定)である。)を用いて、リン抽出に使用するアルカリ溶液のアルカリ濃度を下水汚泥原料のリン酸含有量に基づいて最適アルカリ濃度に調整する場合の下水汚泥焼却灰のP2O5含有量と、水酸化カリウムの消費量に対するリン回収量との関係を計算した結果を図32に示す
【0258】
図32に示す結果から、リン抽出液として1mol/Lの水酸化カリウム溶液を用いた場合の水酸化カリウム1モル当たりのリンの回収量よりも、第四の相関関数を用いた場合の水酸化カリウム1モル当たりのリンの回収量の方が小さくなることが分かった。これは、下水汚泥原料を固液分離する際に液量が損失することに起因している。即ち、第四の相関関数を用いた場合には、リン抽出に用いるアルカリ溶液のアルカリ濃度を固液分離処理前に最適アルカリ濃度に調整しているため、アルカリ溶液のアルカリ濃度の調整に必要なアルカリの量が多くなり、また、固液分離時のアルカリの損失分が大きくなってしまうことに起因している。
【0259】
<合成反応時の温度と時間が水酸アパタイトの組成に与える影響についての検討>
水酸アパタイトの合成に必要な反応時間と反応温度について、試料16〜38のXRF分析結果とXRD分析結果に基づいて検討した。
【0260】
反応時間と試料のP2O5含有量との関係を図25に示す。また、反応時間と試料のAl2O3含有量との関係を図26に示す。さらに、反応時間と試料のK2O含有量との関係を図27に示す。また、反応時間と試料の全硫黄(T−S)の含有量との関係を図28に示す。
【0261】
また、図25〜図28において、○は反応温度40℃の結果を表しており、●は反応温度60℃の結果を表しており、△は反応温度80℃の結果を表しており、▲は反応温度95℃の結果を表している。
【0262】
水酸アパタイトの主成分であるP2O5含有量については、図25に示されるように、全ての反応温度条件で、6〜12時間にかけて低下する傾向が見られた。
【0263】
Al2O3含有量については、図26に示されるように、40〜80℃の反応温度帯においてはほぼ一貫して増加傾向にあった。
【0264】
K2O含有量については、図27に示されるように、1〜6時間にかけては全ての反応温度条件で低下する傾向が見られたが、6〜12時間にかけては40℃と60℃の反応温度条件で増加が見られた。
【0265】
全硫黄の含有量については、図28に示されるように、1〜6時間にかけては全ての反応温度条件において低下する傾向が見られたが、6〜12時間にかけては一時的に上昇した。
【0266】
これらの結果から、40℃と60℃の反応温度条件で6〜12時間にかけて見られるP2O5含有量の低下は、一方で、K2Oと硫黄の含有量の増加を伴っていることが明らかとなった。また、反応温度を40℃または60℃とし、反応時間を12時間または24時間とした試料(試料19、試料20、試料25及び試料26)をXRD分析した際に、僅かではあるがアルカナイトのピークが検出されたことから、石膏の分解により生じた硫酸イオン濃度の上昇に伴い、アルカナイトが生成したものと考えられる。
【0267】
また、反応温度を95℃とした場合、12時間の時点でAl2O3含有量が一時的に高くなる傾向が見られた。この試料(試料36)をXRD分析した際には、明瞭なクゼライトのピークが検出された。そして、反応時間の経過に伴いクゼライトのピークは減少し、反応時間が48時間の時点においてはクゼライトのピークはほぼ消失した。
【0268】
これらの実験結果を勘案して水酸アパタイトの最適な合成条件を検討すると、反応時間は、1時間超〜12時間未満とすることが好ましく、3時間〜10時間とすることがより好ましく、3時間〜6時間とすることがさらに好ましく、6時間とすることが最も好ましい。反応時間を1時間以下、12時間以上とすると、不純物生成量が増加する虞がある。反応時間を6時間に近づけるにつれて、不純物の少ない水酸アパタイトが得られやすくなる。
【0269】
最適な反応温度については、K2O含有量を小さくする観点からは高温の方が良い。しかしながら、反応温度を95℃とするとカルシウムとアルミニウムとを含有する鉱物であるクゼライトの生成量が増える。また、反応温度を40〜60℃とするとアルカナイトが生成しやすくなる。したがって、反応温度は60℃超〜95℃未満とすることが好ましく、70℃〜90℃とすることがより好ましく、80℃とすることがさらに好ましい。
【0270】
<水酸アパタイトの反応速度の推定>
本発明の水酸アパタイト合成方法における反応速度と、石膏をリン酸アンモニウム溶液中で反応させて水酸アパタイトを合成する従来の合成法(特許文献2、非特許文献6)の反応速度との比較を行い、本発明の水酸アパタイト合成方法の優位性について検討した(特許文献2:特開2004−284890号公報、非特許文献6:1998、J. Mater. Chem., 8, 2803-2806)。
【0271】
石膏から水酸アパタイトを生成する反応において、反応速度Vは次式(1)で与えられる。
V=dx/dt=k(a−5x)(b−3x) ・・・(1)
【0272】
ここで、aは石膏添加量 (mol/L)、bはリン酸の初期濃度(mol/L)、xは水酸アパタイト生成量(mol/L)、kは反応速度定数 (L/mol/min)、tは反応時間 (min)である。水酸アパタイトへの転化率は、試料のうち、副生成鉱物の影響の少ない1、3、6時間反応後の試料のP2O5含有量を用い、最もP2O5含有量の高い試料38のP2O5含有量を基準としてその比(相対値)を求めた。
【0273】
各反応速度定数から求めた水酸アパタイト生成量とP2O5含有量相対値との関係を図29に示す。図29には、k=0.02、k=0.03、k=0.05、k=0.1の場合についての水酸アパタイト生成量を示す曲線が示されている。P2O5含有量との関係から、今回の合成反応はいずれの反応温度帯も反応速度定数k=0.02〜0.1の間に入っていることが確認された。
【0274】
一方、リン酸アンモニウムを用いて石膏から水酸アパタイトを生成する際の反応速度定数kに関しては非特許文献7において計測事例が報告されている(非特許文献7:Journal of the Society of Inorganic Materials, Japan, 8, 221-227,2001年.)。
【0275】
この事例では0.5gの石膏を0.5mol/Lの(NH4)2HPO4水溶液40cc中に加えて水熱処理を行っており、開始時のpHは8.0である。そして、この事例では、反応温度50〜100℃における水酸アパタイト合成反応の速度定数は50℃で1.49×10−4L/mol/minであり、温度条件が高くなるにつれて値が大きくなり、100℃で2.27×10−3L/mol/minと報告されている。
【0276】
本発明の水酸アパタイト合成方法の反応速度定数は、非特許文献7で報告されている反応速度定数最大値(100℃)の場合の10〜44倍の大きさであり、本発明の合成条件での反応速度が、非特許文献7の報告値と比較して格段に速いことが明らかとなった。
【0277】
このような反応速度定数の違いについては、非特許文献7における合成反応では石膏が直接リン酸と反応して水酸アパタイト化していると考えられるのに対して、本発明の合成方法では、石膏の構造がクゼライトの生成により一度破壊され、続いてリン酸と反応して水酸アパタイト化するという複数の反応プロセスが関与していることに起因しているものと考えられる。
【0278】
以上より、本発明の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法は、従来産業上の再利用が難しいとされる下水汚泥焼却灰などの下水汚泥原料をリン抽出源として活用しながらも、水酸アパタイトを従来よりも迅速に合成でき、製造コストの面からも非常に有利な方法であることが示された。
【0279】
<まとめ>
以上、本発明によれば、水酸アパタイトを主成分とする吸着材の最適な製造条件を迅速に決定できると共に、リン抽出液のアルカリ濃度と石膏添加量を最適な条件に制御して、水酸アパタイト純度が高く、不純物組成比ばらつきの少ない吸着材を、安定して製造することが可能となる。したがって、競合品である骨炭の吸着性能に匹敵する、あるいはそれ以上の品質を有する吸着材を、安定して提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0280】
【図1】第一の実施形態にかかる水酸アパタイトの製造方法のプロセスフロー図である。
【図2】第一の実施形態にかかる水酸アパタイトの製造方法を実施する製造装置の一例を示す図である。
【図3】第一の実施形態にかかる水酸アパタイトの製造方法において、下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とし、リン抽出用アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合のプロセスフロー図である。
【図4】第一の実施形態にかかる水酸アパタイトの製造方法において、下水汚泥原料を乾燥下水汚泥とし、リン抽出用アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合のプロセスフロー図である。
【図5】第二の実施形態にかかる水酸アパタイトの製造方法のプロセスフロー図である。
【図6】第二の実施形態にかかる水酸アパタイトの製造方法を実施する製造装置の一例を示す図である。
【図7】第二の実施形態にかかる水酸アパタイトの製造方法において、下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とし、リン抽出用アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合のプロセスフロー図である。
【図8】第二の実施形態にかかる水酸アパタイトの製造方法において、下水汚泥原料を乾燥下水汚泥とし、リン抽出用アルカリ溶液を水酸化カリウム溶液とした場合のプロセスフロー図である。
【図9】下水汚泥焼却灰からのリン抽出量を示す図である。
【図10】下水汚泥焼却灰のリン含有量とリン抽出量との関係を示す図である。
【図11】下水汚泥原料を下水汚泥焼却灰とした場合のリン抽出液中のリンとアルミニウムの濃度の関係を示す図である。
【図12】下水汚泥原料を乾燥下水汚泥とした場合のリン抽出液中のリンとアルミニウムの濃度の関係を示す図である。
【図13】水酸化カリウム溶液を用いてリンを抽出した結果と水酸化ナトリウム溶液を用いてリンを抽出した結果とを比較する図である。
【図14】水酸化ナトリウム溶液を用いた場合のリン抽出液の組成を示す図である。
【図15】合成した水酸アパタイト試料のXRF測定結果を示す図である。
【図16】合成した水酸アパタイト試料のXRD測定結果を示す図である。
【図17】合成反応終了時のpH値と水酸アパタイト中のP2O5含有量との関係を示す図である。
【図18】合成反応終了時のpH値と水酸アパタイト中のAl2O3含有量との関係を示す図である。
【図19】合成初期段階の副生成鉱物の生成量についてpH値に対して理論計算した結果を示す図である。
【図20】合成終期段階の副生成鉱物の生成量についてpH値に対して理論計算した結果を示す図である。
【図21】合成反応終了時のpH実測値とpH計算値との関係を示す図である。
【図22】ギブサイト飽和指数が0となるpHにするために必要な水酸化カリウムの総投入量(水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度)について、リン抽出液のリン濃度との関係を求めた結果を示す図である。
【図23】水酸アパタイトの合成に必要な水酸化カリウムの総量を下水汚泥焼却灰のリン酸含有量に対して計算した結果を示す図である。
【図24】水酸化カリウム単位消費量あたりのリン回収率を下水汚泥焼却灰のリン酸含有量に対して計算した結果を示す図である。
【図25】水酸アパタイト試料のP2O5含有量に対する反応時間及び反応温度の関係を示す図である。
【図26】水酸アパタイト試料のAl2O3含有量に対する反応時間及び反応温度の関係を示す図である。
【図27】水酸アパタイト試料のK2O含有量に対する反応時間及び反応温度の関係を示す図である。
【図28】水酸アパタイト試料の全硫黄(T−S)の含有量に対する反応時間及び反応温度の関係を示す図である。
【図29】反応速度定数による理論曲線と実測値との関係を示す図である。
【図30】石膏B1、D82、D83、D84のXRD分析結果を示す図である。
【図31】水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度に対するリン抽出率を示す図である。
【図32】図24に第四の相関関数を用いた場合の水酸化カリウム単位消費量あたりのリン回収率を下水汚泥焼却灰のリン酸含有量に対して計算した結果を加えた図である。
【符号の説明】
【0281】
1、1’ 水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置
2 撹拌層
3 固液分離手段
4 リン濃度分析装置
5 反応槽
6 送液手段
7 アルカリ添加手段
8 石膏添加手段
9 記憶手段
10 演算手段
11 制御手段
12 中和剤添加手段
13 リン酸含有量分析装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水汚泥原料に含まれるリンをアルカリ溶液で抽出してリン抽出液を得、前記リン抽出液に石膏を添加して、前記リンと前記石膏とを反応させて水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造する方法において、
前記下水汚泥原料を準備する工程と、
アルカリ濃度が既知の前記アルカリ溶液を準備する工程と、
前記石膏を準備する工程と、
前記下水汚泥原料を前記アルカリ溶液中で撹拌した後に固液分離して前記リン抽出液を得る工程と、
前記リン抽出液のリン濃度を測定してリン濃度実測値を得る工程と、
前記アルカリ溶液に抽出される前記リンとアルミニウムのモル比の関係と、前記リン抽出液に添加される前記石膏の前記リンに対するモル比と、前記水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により前記水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となる前記リン抽出液の最適条件を求めて前記最適条件を前記リン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した相関関数を用いて、前記リン濃度実測値から前記リン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する工程と、
前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度と前記最適アルカリ濃度とを比較し、前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度が前記最適アルカリ濃度よりも低いときに、前記リン抽出液にアルカリを添加して前記リン抽出液のアルカリ濃度を前記最適アルカリ濃度に調整する工程と、
前記リン濃度実測値から求められる前記リン抽出液の前記リンのモル数に前記熱力学平衡計算の際に設定された前記石膏の前記リンに対するモル比を乗じて求められる量の前記石膏を前記リン抽出液に添加する工程と、
を含むことを特徴とする水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法。
【請求項2】
前記下水汚泥原料として下水汚泥焼却灰を使用し、
前記アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用し、
前記相関関数は、Y=ξ(X,T)×(0.002+6.5X−1.4X2)で表される関数に前記水酸アパタイトを合成する際の反応温度T(℃)を代入して決定されるものであり、
Xは前記リン濃度実測値(単位:mol/L)であり、Yは前記最適アルカリ濃度(単位:規定)であり、前記熱力学平衡計算の際に設定された前記石膏の前記リンに対するモル比は1.67であり、
ξ(X,T)はξ(X,T)=(γ(T)+β(T)X)/(0.067+5.8X)で表される温度補正関数であり、
γ(T)=−0.027+0.0028T−2.0×10−5T2であり、
β(T)=14−0.17T+7.6×10−4T2である請求項1に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法。
【請求項3】
前記下水汚泥原料として乾燥下水汚泥を使用し、
前記リン抽出用アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用し、
前記相関関数は、Y=ξ(X,T)×(−0.005+5.5X−0.81X2)で表される関数に前記水酸アパタイトを合成する際の反応温度T(℃)を代入して決定されるものであり、
Xは前記リン濃度実測値(単位:mol/L)であり、Yは前記最適アルカリ濃度(単位:規定)であり、前記熱力学平衡計算の際に設定された前記石膏の前記リンに対するモル比は1.67であり、
ξ(X,T)はξ(X,T)=(0.01+β(T)X)/(0.01+5.0X)で表される温度補正関数であり、
β(T)=11−0.11T+4.9×10−4T2である請求項1に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法。
【請求項4】
下水汚泥原料に含まれるリンをアルカリ溶液で抽出してリン抽出液を得、前記リン抽出液に石膏を添加して、前記リンと前記石膏とを反応させて水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造する方法において、
前記下水汚泥原料を準備する工程と、
アルカリ濃度が既知の前記アルカリ溶液を準備する工程と、
前記石膏を準備する工程と、
前記下水汚泥原料のリン酸含有量を測定する工程と、
前記下水汚泥原料を前記アルカリ溶液中で撹拌した後に固液分離して前記リン抽出液を得る工程と、
リン抽出量が飽和するアルカリ濃度の前記アルカリ溶液に抽出されるリンの濃度をリン濃度最大値とし、前記リン濃度最大値と前記下水汚泥原料のリン酸含有量との相関関係を記述した第一の相関関数を用いて、前記測定されたリン酸含有量から前記リン濃度最大値を算出する工程と、
前記アルカリ溶液へのリン抽出率と前記アルカリ溶液のアルカリ濃度との相関関係を記述した第二の相関関数を用いて、前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度から前記リン抽出率を算出する工程と、
前記リン濃度最大値に前記リン抽出率を乗じて前記リン抽出液のリン濃度推定値を得る工程と、
前記アルカリ溶液に抽出される前記リンとアルミニウムのモル比の関係と、前記リン抽出液に添加される前記石膏の前記リンに対するモル比と、前記水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により前記水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となる前記リン抽出液の最適条件を求めて前記最適条件を前記リン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した相関関数を用いて、前記リン濃度推定値から前記リン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する工程と、
前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度と前記最適アルカリ濃度とを比較し、前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度が前記最適アルカリ濃度よりも低いときに、前記リン抽出液にアルカリを添加して前記リン抽出液のアルカリ濃度を前記最適アルカリ濃度に調整する工程と、
前記リン濃度推定値から求められる前記リン抽出液の前記リンのモル数に前記熱力学平衡計算の際に設定された前記石膏の前記リンに対するモル比を乗じて求められる量の前記石膏を前記リン抽出液に添加する工程と、
を含むことを特徴とする水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法。
【請求項5】
下水汚泥原料に含まれるリンをアルカリ溶液で抽出してリン抽出液を得、前記リン抽出液に石膏を添加して、前記リンと前記石膏とを反応させて水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造する方法において、
リン酸含有量が既知の前記下水汚泥原料を準備する工程と、
アルカリ濃度が既知の前記アルカリ溶液を準備する工程と、
前記石膏を準備する工程と、
前記下水汚泥原料を前記アルカリ溶液中で撹拌した後に固液分離して前記リン抽出液を得る工程と、
リン抽出量が飽和するアルカリ濃度の前記アルカリ溶液に抽出されるリンの濃度をリン濃度最大値とし、前記リン濃度最大値と前記下水汚泥原料のリン酸含有量との相関関係を記述した第一の相関関数を用いて、前記既知のリン酸含有量から前記リン濃度最大値を算出する工程と、
前記アルカリ溶液へのリン抽出率と前記アルカリ溶液のアルカリ濃度との相関関係を記述した第二の相関関数を用いて、前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度から前記リン抽出率を算出する工程と、
前記リン濃度最大値に前記リン抽出率を乗じて前記リン抽出液のリン濃度推定値を得る工程と、
前記アルカリ溶液に抽出される前記リンとアルミニウムのモル比の関係と、前記リン抽出液に添加される前記石膏の前記リンに対するモル比と、前記水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により前記水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となる前記リン抽出液の最適条件を求めて前記最適条件を前記リン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した相関関数を用いて、前記リン濃度推定値から前記リン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する工程と、
前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度と前記最適アルカリ濃度とを比較し、前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度が前記最適アルカリ濃度よりも低いときに、前記リン抽出液にアルカリを添加して前記リン抽出液のアルカリ濃度を前記最適アルカリ濃度に調整する工程と、
前記リン濃度推定値から求められる前記リン抽出液の前記リンのモル数に前記熱力学平衡計算の際に設定された前記石膏の前記リンに対するモル比を乗じて求められる量の前記石膏を前記リン抽出液に添加する工程と、
を含むことを特徴とする水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法。
【請求項6】
前記下水汚泥原料として下水汚泥焼却灰を使用し、
前記リン抽出用アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用し、
前記第一の相関関数がB=0.2+0.39Aであり、Aは前記下水汚泥焼却灰のリン酸含有量(単位:P2O5換算後の重量%)であり、Bは前記リン濃度最大値(単位:g/L)であり、
前記第二の相関関数がα=1.0−1.2/(1+exp((C−0.40)/0.27))であり、Cは前記水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度(単位:規定)であり、αは前記リン抽出率(単位:無次元)であり、
前記第三の相関関数は、Y=ξ(X,T)×(0.002+6.5X−1.4X2)で表される関数に前記水酸アパタイトを合成する際の反応温度T(℃)を代入して決定されるものであり、
Xは前記リン濃度推定値(単位:mol/L)であり、Yは前記最適アルカリ濃度(単位:規定)であり、前記熱力学平衡計算の際に設定された前記石膏の前記リンに対するモル比は1.67であり、
ξ(X,T)はξ(X,T)=(γ(T)+β(T)X)/(0.067+5.8X)で表される温度補正関数であり、
γ(T)=−0.027+0.0028T−2.0×10−5T2であり、
β(T)=14−0.17T+7.6×10−4T2である請求項4または5に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法。
【請求項7】
前記下水汚泥原料として乾燥下水汚泥を使用し、
前記リン抽出用アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用し、
前記第一の相関関数がB=0.2+0.39Aであり、Aは前記乾燥下水汚泥のリン酸含有量(単位:P2O5換算後の重量%)であり、Bは前記リン濃度最大値(単位:g/L)であり、
前記第二の相関関数がα=1.0−1.2/(1+exp((C−0.40)/0.27))であり、
Cは前記水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度(単位:規定)であり、αはリン抽出率(単位:無次元)であり、
前記第三の相関関数は、Y=ξ(X,T)×(−0.005+5.5X−0.81X2)で表される関数に前記水酸アパタイトを合成する際の反応温度T(℃)を代入して決定されるものであり、
Xは前記リン濃度推定値(単位:mol/L)であり、Yは前記最適アルカリ濃度(単位:規定)であり、前記熱力学平衡計算の際に設定された前記石膏の前記リンに対するモル比は1.67であり、
ξ(X,T)はξ(X,T)=(0.01+β(T)X)/(0.01+5.0X)で表される温度補正関数であり、
β(T)=11−0.11T+4.9×10−4T2である請求項4または5に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法。
【請求項8】
前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度と前記最適アルカリ濃度とを比較し、前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度が前記最適アルカリ濃度よりも高いときに、前記リン抽出液に中和剤を添加して前記リン抽出液のアルカリ濃度を前記最適アルカリ濃度に調整する工程をさらに含む請求項1、4または5に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法。
【請求項9】
下水汚泥原料をアルカリ濃度が既知のアルカリ溶液中で撹拌する撹拌槽と、
前記下水汚泥原料を前記アルカリ溶液から固液分離してリン抽出液を得る固液分離手段と、
前記リン抽出液のリン濃度を測定してリン濃度実測値を得るリン濃度分析装置と、
前記リン抽出液と石膏とを接触させて水酸アパタイトを合成する反応槽と、
前記リン抽出液を前記反応槽に送液する送液手段と、
前記反応槽にアルカリを添加するアルカリ添加手段と、
前記反応槽に前記石膏を添加する石膏添加手段と、
記憶手段と、
演算手段と、
制御手段とを少なくとも備え、
前記記憶手段には、前記アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、前記リン抽出液に添加される前記石膏の前記リンに対するモル比と、前記水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により前記水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となる前記リン抽出液の最適条件を求めて前記最適条件を前記リン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した相関関数が記憶され、
前記演算手段では、前記記憶手段に記憶されている前記相関関数と前記リン濃度分析装置から入力される前記リン濃度実測値とから前記リン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する処理と、前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度と前記最適アルカリ濃度とを比較演算する処理と、前記リン濃度実測値から前記リン抽出液の前記リンのモル数を求め、このモル数に前記熱力学平衡計算の際に設定された前記石膏の前記リンに対するモル比を乗じて前記石膏の最適添加量を算出する処理とが行われ、
前記制御手段では、前記演算手段により前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度が前記最適アルカリ濃度よりも低いと判断されたときに前記アルカリ添加手段からアルカリを添加して前記リン抽出液のアルカリ濃度を前記最適アルカリ濃度に調整する制御と、前記演算手段により算出された前記石膏の最適添加量を前記石膏添加手段から添加する制御とが行われることを特徴とする水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置。
【請求項10】
下水汚泥原料をアルカリ濃度が既知のアルカリ溶液中で撹拌する撹拌槽と、
前記下水汚泥原料のリン酸含有量を測定するリン酸含有量分析装置と、
前記下水汚泥原料を前記アルカリ溶液から固液分離してリン抽出液を得る固液分離手段と、
前記リン抽出液と石膏とを接触させて水酸アパタイトを合成する反応槽と、
前記リン抽出液を前記反応槽に送液する送液手段と、
前記反応槽にアルカリを添加するアルカリ添加手段と、
前記反応槽に前記石膏を添加する石膏添加手段と、
記憶手段と、
演算手段と、
制御手段とを少なくとも備え、
前記記憶手段には、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度の前記アルカリ溶液に抽出され得るリンの濃度をリン濃度最大値とし、前記リン濃度最大値と前記下水汚泥原料のリン酸含有量との相関関係を記述した第一の相関関数と、前記アルカリ溶液へのリン抽出率と前記アルカリ溶液のアルカリ濃度との相関関係を記述した第二の相関関数と、前記アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、前記リン抽出液に添加される前記石膏の前記リンに対するモル比と、前記水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により前記水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となる前記リン抽出液の最適条件を求めて前記最適条件を前記リン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した第三の相関関数とが記憶され、
前記演算手段では、前記記憶手段に記憶されている前記第一の相関関数と前記リン酸含有量分析装置から入力される前記測定されたリン酸含有量とから前記リン濃度最大値を算出する処理と、前記記憶手段に記憶されている前記第二の相関関数と前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度から前記リン抽出率を算出する処理と、前記リン濃度最大値に前記リン抽出率を乗じて前記リン抽出液のリン濃度推定値を演算する処理と、前記記憶手段に記憶されている前記第三の相関関数と前記リン濃度推定値とから前記リン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する処理と、前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度と前記最適アルカリ濃度とを比較演算する処理と、前記リン濃度推定値から前記リン抽出液の前記リンのモル数を求め、このモル数に前記熱力学平衡計算の際に設定された前記石膏の前記リンに対するモル比を乗じて前記石膏の最適添加量を算出する処理とが行われ、
前記制御手段では、前記演算手段により前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度が前記最適アルカリ濃度よりも低いと判断されたときに前記アルカリ添加手段からアルカリを添加して前記リン抽出液のアルカリ濃度を前記最適アルカリ濃度に調整する制御と、前記演算手段により算出された前記石膏の最適添加量を前記石膏添加手段から添加する制御とが行われることを特徴とする水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置。
【請求項11】
リン酸含有量が既知の下水汚泥原料を用いて水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造する装置であり、
前記下水汚泥原料をアルカリ濃度が既知のアルカリ溶液中で撹拌する撹拌槽と、
前記下水汚泥原料を前記アルカリ溶液から固液分離してリン抽出液を得る固液分離手段と、
前記リン抽出液と石膏とを接触させて水酸アパタイトを合成する反応槽と、
前記リン抽出液を前記反応槽に送液する送液手段と、
前記反応槽にアルカリを添加するアルカリ添加手段と、
前記反応槽に前記石膏を添加する石膏添加手段と、
記憶手段と、
演算手段と、
制御手段とを少なくとも備え、
前記記憶手段には、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度の前記アルカリ溶液に抽出され得るリンの濃度をリン濃度最大値とし、前記リン濃度最大値と前記下水汚泥原料のリン酸含有量との相関関係を記述した第一の相関関数と、前記アルカリ溶液へのリン抽出率と前記アルカリ溶液のアルカリ濃度との相関関係を記述した第二の相関関数と、前記アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、前記リン抽出液に添加される前記石膏の前記リンに対するモル比と、前記水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により前記水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となる前記リン抽出液の最適条件を求めて前記最適条件を前記リン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した第三の相関関数とが記憶され、
前記演算手段では、前記記憶手段に記憶されている前記第一の相関関数と前記既知のリン酸含有量とから前記リン濃度最大値を算出する処理と、前記記憶手段に記憶されている前記第二の相関関数と前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度から前記リン抽出率を算出する処理と、前記リン濃度最大値に前記リン抽出率を乗じて前記リン抽出液のリン濃度推定値を演算する処理と、前記記憶手段に記憶されている前記第三の相関関数と前記リン濃度推定値とから前記リン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する処理と、前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度と前記最適アルカリ濃度とを比較演算する処理と、前記リン濃度推定値から前記リン抽出液の前記リンのモル数を求め、このモル数に前記熱力学平衡計算の際に設定された前記石膏の前記リンに対するモル比を乗じて前記石膏の最適添加量を算出する処理とが行われ、
前記制御手段では、前記演算手段により前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度が前記最適アルカリ濃度よりも低いと判断されたときに前記アルカリ添加手段からアルカリを添加して前記リン抽出液のアルカリ濃度を前記最適アルカリ濃度に調整する制御と、前記演算手段により算出された前記石膏の最適添加量を前記石膏添加手段から添加する制御とが行われることを特徴とする水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれかに記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置において、
前記反応槽に中和剤を添加する中和剤添加手段をさらに備え、
前記制御手段では、前記演算手段により前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度が前記最適アルカリ濃度よりも高いと判断されたときに前記中和剤添加手段から中和剤を添加して前記リン抽出液のアルカリ濃度を前記最適アルカリ濃度に調整する制御がさらに行われる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置。
【請求項13】
下水汚泥原料からアルカリ溶液を用いて抽出されるリンの濃度を測定し、複数の前記下水汚泥原料から前記アルカリ溶液を用いて抽出されるリンとアルミニウムの濃度の相関関係から予め求められる検量線を用いて、前記アルカリ溶液中のアルミニウムの濃度を推定することを特徴とするアルミニウムの定量分析方法。
【請求項1】
下水汚泥原料に含まれるリンをアルカリ溶液で抽出してリン抽出液を得、前記リン抽出液に石膏を添加して、前記リンと前記石膏とを反応させて水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造する方法において、
前記下水汚泥原料を準備する工程と、
アルカリ濃度が既知の前記アルカリ溶液を準備する工程と、
前記石膏を準備する工程と、
前記下水汚泥原料を前記アルカリ溶液中で撹拌した後に固液分離して前記リン抽出液を得る工程と、
前記リン抽出液のリン濃度を測定してリン濃度実測値を得る工程と、
前記アルカリ溶液に抽出される前記リンとアルミニウムのモル比の関係と、前記リン抽出液に添加される前記石膏の前記リンに対するモル比と、前記水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により前記水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となる前記リン抽出液の最適条件を求めて前記最適条件を前記リン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した相関関数を用いて、前記リン濃度実測値から前記リン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する工程と、
前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度と前記最適アルカリ濃度とを比較し、前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度が前記最適アルカリ濃度よりも低いときに、前記リン抽出液にアルカリを添加して前記リン抽出液のアルカリ濃度を前記最適アルカリ濃度に調整する工程と、
前記リン濃度実測値から求められる前記リン抽出液の前記リンのモル数に前記熱力学平衡計算の際に設定された前記石膏の前記リンに対するモル比を乗じて求められる量の前記石膏を前記リン抽出液に添加する工程と、
を含むことを特徴とする水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法。
【請求項2】
前記下水汚泥原料として下水汚泥焼却灰を使用し、
前記アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用し、
前記相関関数は、Y=ξ(X,T)×(0.002+6.5X−1.4X2)で表される関数に前記水酸アパタイトを合成する際の反応温度T(℃)を代入して決定されるものであり、
Xは前記リン濃度実測値(単位:mol/L)であり、Yは前記最適アルカリ濃度(単位:規定)であり、前記熱力学平衡計算の際に設定された前記石膏の前記リンに対するモル比は1.67であり、
ξ(X,T)はξ(X,T)=(γ(T)+β(T)X)/(0.067+5.8X)で表される温度補正関数であり、
γ(T)=−0.027+0.0028T−2.0×10−5T2であり、
β(T)=14−0.17T+7.6×10−4T2である請求項1に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法。
【請求項3】
前記下水汚泥原料として乾燥下水汚泥を使用し、
前記リン抽出用アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用し、
前記相関関数は、Y=ξ(X,T)×(−0.005+5.5X−0.81X2)で表される関数に前記水酸アパタイトを合成する際の反応温度T(℃)を代入して決定されるものであり、
Xは前記リン濃度実測値(単位:mol/L)であり、Yは前記最適アルカリ濃度(単位:規定)であり、前記熱力学平衡計算の際に設定された前記石膏の前記リンに対するモル比は1.67であり、
ξ(X,T)はξ(X,T)=(0.01+β(T)X)/(0.01+5.0X)で表される温度補正関数であり、
β(T)=11−0.11T+4.9×10−4T2である請求項1に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法。
【請求項4】
下水汚泥原料に含まれるリンをアルカリ溶液で抽出してリン抽出液を得、前記リン抽出液に石膏を添加して、前記リンと前記石膏とを反応させて水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造する方法において、
前記下水汚泥原料を準備する工程と、
アルカリ濃度が既知の前記アルカリ溶液を準備する工程と、
前記石膏を準備する工程と、
前記下水汚泥原料のリン酸含有量を測定する工程と、
前記下水汚泥原料を前記アルカリ溶液中で撹拌した後に固液分離して前記リン抽出液を得る工程と、
リン抽出量が飽和するアルカリ濃度の前記アルカリ溶液に抽出されるリンの濃度をリン濃度最大値とし、前記リン濃度最大値と前記下水汚泥原料のリン酸含有量との相関関係を記述した第一の相関関数を用いて、前記測定されたリン酸含有量から前記リン濃度最大値を算出する工程と、
前記アルカリ溶液へのリン抽出率と前記アルカリ溶液のアルカリ濃度との相関関係を記述した第二の相関関数を用いて、前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度から前記リン抽出率を算出する工程と、
前記リン濃度最大値に前記リン抽出率を乗じて前記リン抽出液のリン濃度推定値を得る工程と、
前記アルカリ溶液に抽出される前記リンとアルミニウムのモル比の関係と、前記リン抽出液に添加される前記石膏の前記リンに対するモル比と、前記水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により前記水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となる前記リン抽出液の最適条件を求めて前記最適条件を前記リン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した相関関数を用いて、前記リン濃度推定値から前記リン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する工程と、
前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度と前記最適アルカリ濃度とを比較し、前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度が前記最適アルカリ濃度よりも低いときに、前記リン抽出液にアルカリを添加して前記リン抽出液のアルカリ濃度を前記最適アルカリ濃度に調整する工程と、
前記リン濃度推定値から求められる前記リン抽出液の前記リンのモル数に前記熱力学平衡計算の際に設定された前記石膏の前記リンに対するモル比を乗じて求められる量の前記石膏を前記リン抽出液に添加する工程と、
を含むことを特徴とする水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法。
【請求項5】
下水汚泥原料に含まれるリンをアルカリ溶液で抽出してリン抽出液を得、前記リン抽出液に石膏を添加して、前記リンと前記石膏とを反応させて水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造する方法において、
リン酸含有量が既知の前記下水汚泥原料を準備する工程と、
アルカリ濃度が既知の前記アルカリ溶液を準備する工程と、
前記石膏を準備する工程と、
前記下水汚泥原料を前記アルカリ溶液中で撹拌した後に固液分離して前記リン抽出液を得る工程と、
リン抽出量が飽和するアルカリ濃度の前記アルカリ溶液に抽出されるリンの濃度をリン濃度最大値とし、前記リン濃度最大値と前記下水汚泥原料のリン酸含有量との相関関係を記述した第一の相関関数を用いて、前記既知のリン酸含有量から前記リン濃度最大値を算出する工程と、
前記アルカリ溶液へのリン抽出率と前記アルカリ溶液のアルカリ濃度との相関関係を記述した第二の相関関数を用いて、前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度から前記リン抽出率を算出する工程と、
前記リン濃度最大値に前記リン抽出率を乗じて前記リン抽出液のリン濃度推定値を得る工程と、
前記アルカリ溶液に抽出される前記リンとアルミニウムのモル比の関係と、前記リン抽出液に添加される前記石膏の前記リンに対するモル比と、前記水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により前記水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となる前記リン抽出液の最適条件を求めて前記最適条件を前記リン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した相関関数を用いて、前記リン濃度推定値から前記リン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する工程と、
前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度と前記最適アルカリ濃度とを比較し、前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度が前記最適アルカリ濃度よりも低いときに、前記リン抽出液にアルカリを添加して前記リン抽出液のアルカリ濃度を前記最適アルカリ濃度に調整する工程と、
前記リン濃度推定値から求められる前記リン抽出液の前記リンのモル数に前記熱力学平衡計算の際に設定された前記石膏の前記リンに対するモル比を乗じて求められる量の前記石膏を前記リン抽出液に添加する工程と、
を含むことを特徴とする水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法。
【請求項6】
前記下水汚泥原料として下水汚泥焼却灰を使用し、
前記リン抽出用アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用し、
前記第一の相関関数がB=0.2+0.39Aであり、Aは前記下水汚泥焼却灰のリン酸含有量(単位:P2O5換算後の重量%)であり、Bは前記リン濃度最大値(単位:g/L)であり、
前記第二の相関関数がα=1.0−1.2/(1+exp((C−0.40)/0.27))であり、Cは前記水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度(単位:規定)であり、αは前記リン抽出率(単位:無次元)であり、
前記第三の相関関数は、Y=ξ(X,T)×(0.002+6.5X−1.4X2)で表される関数に前記水酸アパタイトを合成する際の反応温度T(℃)を代入して決定されるものであり、
Xは前記リン濃度推定値(単位:mol/L)であり、Yは前記最適アルカリ濃度(単位:規定)であり、前記熱力学平衡計算の際に設定された前記石膏の前記リンに対するモル比は1.67であり、
ξ(X,T)はξ(X,T)=(γ(T)+β(T)X)/(0.067+5.8X)で表される温度補正関数であり、
γ(T)=−0.027+0.0028T−2.0×10−5T2であり、
β(T)=14−0.17T+7.6×10−4T2である請求項4または5に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法。
【請求項7】
前記下水汚泥原料として乾燥下水汚泥を使用し、
前記リン抽出用アルカリ溶液として水酸化カリウム溶液を使用し、
前記第一の相関関数がB=0.2+0.39Aであり、Aは前記乾燥下水汚泥のリン酸含有量(単位:P2O5換算後の重量%)であり、Bは前記リン濃度最大値(単位:g/L)であり、
前記第二の相関関数がα=1.0−1.2/(1+exp((C−0.40)/0.27))であり、
Cは前記水酸化カリウム溶液のアルカリ濃度(単位:規定)であり、αはリン抽出率(単位:無次元)であり、
前記第三の相関関数は、Y=ξ(X,T)×(−0.005+5.5X−0.81X2)で表される関数に前記水酸アパタイトを合成する際の反応温度T(℃)を代入して決定されるものであり、
Xは前記リン濃度推定値(単位:mol/L)であり、Yは前記最適アルカリ濃度(単位:規定)であり、前記熱力学平衡計算の際に設定された前記石膏の前記リンに対するモル比は1.67であり、
ξ(X,T)はξ(X,T)=(0.01+β(T)X)/(0.01+5.0X)で表される温度補正関数であり、
β(T)=11−0.11T+4.9×10−4T2である請求項4または5に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法。
【請求項8】
前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度と前記最適アルカリ濃度とを比較し、前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度が前記最適アルカリ濃度よりも高いときに、前記リン抽出液に中和剤を添加して前記リン抽出液のアルカリ濃度を前記最適アルカリ濃度に調整する工程をさらに含む請求項1、4または5に記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造方法。
【請求項9】
下水汚泥原料をアルカリ濃度が既知のアルカリ溶液中で撹拌する撹拌槽と、
前記下水汚泥原料を前記アルカリ溶液から固液分離してリン抽出液を得る固液分離手段と、
前記リン抽出液のリン濃度を測定してリン濃度実測値を得るリン濃度分析装置と、
前記リン抽出液と石膏とを接触させて水酸アパタイトを合成する反応槽と、
前記リン抽出液を前記反応槽に送液する送液手段と、
前記反応槽にアルカリを添加するアルカリ添加手段と、
前記反応槽に前記石膏を添加する石膏添加手段と、
記憶手段と、
演算手段と、
制御手段とを少なくとも備え、
前記記憶手段には、前記アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、前記リン抽出液に添加される前記石膏の前記リンに対するモル比と、前記水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により前記水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となる前記リン抽出液の最適条件を求めて前記最適条件を前記リン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した相関関数が記憶され、
前記演算手段では、前記記憶手段に記憶されている前記相関関数と前記リン濃度分析装置から入力される前記リン濃度実測値とから前記リン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する処理と、前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度と前記最適アルカリ濃度とを比較演算する処理と、前記リン濃度実測値から前記リン抽出液の前記リンのモル数を求め、このモル数に前記熱力学平衡計算の際に設定された前記石膏の前記リンに対するモル比を乗じて前記石膏の最適添加量を算出する処理とが行われ、
前記制御手段では、前記演算手段により前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度が前記最適アルカリ濃度よりも低いと判断されたときに前記アルカリ添加手段からアルカリを添加して前記リン抽出液のアルカリ濃度を前記最適アルカリ濃度に調整する制御と、前記演算手段により算出された前記石膏の最適添加量を前記石膏添加手段から添加する制御とが行われることを特徴とする水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置。
【請求項10】
下水汚泥原料をアルカリ濃度が既知のアルカリ溶液中で撹拌する撹拌槽と、
前記下水汚泥原料のリン酸含有量を測定するリン酸含有量分析装置と、
前記下水汚泥原料を前記アルカリ溶液から固液分離してリン抽出液を得る固液分離手段と、
前記リン抽出液と石膏とを接触させて水酸アパタイトを合成する反応槽と、
前記リン抽出液を前記反応槽に送液する送液手段と、
前記反応槽にアルカリを添加するアルカリ添加手段と、
前記反応槽に前記石膏を添加する石膏添加手段と、
記憶手段と、
演算手段と、
制御手段とを少なくとも備え、
前記記憶手段には、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度の前記アルカリ溶液に抽出され得るリンの濃度をリン濃度最大値とし、前記リン濃度最大値と前記下水汚泥原料のリン酸含有量との相関関係を記述した第一の相関関数と、前記アルカリ溶液へのリン抽出率と前記アルカリ溶液のアルカリ濃度との相関関係を記述した第二の相関関数と、前記アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、前記リン抽出液に添加される前記石膏の前記リンに対するモル比と、前記水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により前記水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となる前記リン抽出液の最適条件を求めて前記最適条件を前記リン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した第三の相関関数とが記憶され、
前記演算手段では、前記記憶手段に記憶されている前記第一の相関関数と前記リン酸含有量分析装置から入力される前記測定されたリン酸含有量とから前記リン濃度最大値を算出する処理と、前記記憶手段に記憶されている前記第二の相関関数と前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度から前記リン抽出率を算出する処理と、前記リン濃度最大値に前記リン抽出率を乗じて前記リン抽出液のリン濃度推定値を演算する処理と、前記記憶手段に記憶されている前記第三の相関関数と前記リン濃度推定値とから前記リン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する処理と、前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度と前記最適アルカリ濃度とを比較演算する処理と、前記リン濃度推定値から前記リン抽出液の前記リンのモル数を求め、このモル数に前記熱力学平衡計算の際に設定された前記石膏の前記リンに対するモル比を乗じて前記石膏の最適添加量を算出する処理とが行われ、
前記制御手段では、前記演算手段により前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度が前記最適アルカリ濃度よりも低いと判断されたときに前記アルカリ添加手段からアルカリを添加して前記リン抽出液のアルカリ濃度を前記最適アルカリ濃度に調整する制御と、前記演算手段により算出された前記石膏の最適添加量を前記石膏添加手段から添加する制御とが行われることを特徴とする水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置。
【請求項11】
リン酸含有量が既知の下水汚泥原料を用いて水酸アパタイトを主成分とする吸着材を製造する装置であり、
前記下水汚泥原料をアルカリ濃度が既知のアルカリ溶液中で撹拌する撹拌槽と、
前記下水汚泥原料を前記アルカリ溶液から固液分離してリン抽出液を得る固液分離手段と、
前記リン抽出液と石膏とを接触させて水酸アパタイトを合成する反応槽と、
前記リン抽出液を前記反応槽に送液する送液手段と、
前記反応槽にアルカリを添加するアルカリ添加手段と、
前記反応槽に前記石膏を添加する石膏添加手段と、
記憶手段と、
演算手段と、
制御手段とを少なくとも備え、
前記記憶手段には、リン抽出量が飽和するアルカリ濃度の前記アルカリ溶液に抽出され得るリンの濃度をリン濃度最大値とし、前記リン濃度最大値と前記下水汚泥原料のリン酸含有量との相関関係を記述した第一の相関関数と、前記アルカリ溶液へのリン抽出率と前記アルカリ溶液のアルカリ濃度との相関関係を記述した第二の相関関数と、前記アルカリ溶液に抽出されるリンとアルミニウムのモル比の関係と、前記リン抽出液に添加される前記石膏の前記リンに対するモル比と、前記水酸アパタイトの合成反応条件とをパラメータとし、熱力学平衡計算により前記水酸アパタイトの合成反応終了時にギブサイトの飽和指数が−0.15〜0.15となる前記リン抽出液の最適条件を求めて前記最適条件を前記リン抽出液のアルカリ濃度とリン濃度との相関関係で記述した第三の相関関数とが記憶され、
前記演算手段では、前記記憶手段に記憶されている前記第一の相関関数と前記既知のリン酸含有量とから前記リン濃度最大値を算出する処理と、前記記憶手段に記憶されている前記第二の相関関数と前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度から前記リン抽出率を算出する処理と、前記リン濃度最大値に前記リン抽出率を乗じて前記リン抽出液のリン濃度推定値を演算する処理と、前記記憶手段に記憶されている前記第三の相関関数と前記リン濃度推定値とから前記リン抽出液の最適アルカリ濃度を算出する処理と、前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度と前記最適アルカリ濃度とを比較演算する処理と、前記リン濃度推定値から前記リン抽出液の前記リンのモル数を求め、このモル数に前記熱力学平衡計算の際に設定された前記石膏の前記リンに対するモル比を乗じて前記石膏の最適添加量を算出する処理とが行われ、
前記制御手段では、前記演算手段により前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度が前記最適アルカリ濃度よりも低いと判断されたときに前記アルカリ添加手段からアルカリを添加して前記リン抽出液のアルカリ濃度を前記最適アルカリ濃度に調整する制御と、前記演算手段により算出された前記石膏の最適添加量を前記石膏添加手段から添加する制御とが行われることを特徴とする水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれかに記載の水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置において、
前記反応槽に中和剤を添加する中和剤添加手段をさらに備え、
前記制御手段では、前記演算手段により前記アルカリ溶液の前記既知のアルカリ濃度が前記最適アルカリ濃度よりも高いと判断されたときに前記中和剤添加手段から中和剤を添加して前記リン抽出液のアルカリ濃度を前記最適アルカリ濃度に調整する制御がさらに行われる水酸アパタイトを主成分とする吸着材の製造装置。
【請求項13】
下水汚泥原料からアルカリ溶液を用いて抽出されるリンの濃度を測定し、複数の前記下水汚泥原料から前記アルカリ溶液を用いて抽出されるリンとアルミニウムの濃度の相関関係から予め求められる検量線を用いて、前記アルカリ溶液中のアルミニウムの濃度を推定することを特徴とするアルミニウムの定量分析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【公開番号】特開2009−101307(P2009−101307A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276355(P2007−276355)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
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