説明

水銀含有廃棄物の処理装置及び処理方法

【課題】汚染土壌、焼却灰等の水銀含有廃棄物を低コストで、かつ簡単な操作で再資源化する。
【解決手段】汚染土壌S1を加熱して水銀を揮発させる外熱式キルン4と、該キルンから排出された浄化土壌S2をセメント製造設備に搬送する搬送装置9とを備える処理装置1等。キルンの排ガスG1に、アルミニウム、亜鉛、銅等の吸着粉末を吹き込んでアマルガムを形成し、排ガスG1中のダストに含まれる塩素とともに分離除去し、排ガスG1に含まれるVOC及び臭気成分を分解除去する触媒を担持させたフィルター6を備えることができる。外熱式キルンを用いるとともに、キルン排ガスを循環させることで、フィルターにおいて分離又は分解されなかった有害物質も、再度フィルターで処理することができるため、効率よく有害物質を除去することができ、通常運転時には、このような有害物質が外部に排出されないため、環境汚染の虞がない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水銀含有廃棄物の処理装置及び処理方法に関し、特に、汚染土壌、焼却灰等の水銀含有廃棄物を再資源化するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水銀等によって汚染された土壌は、封じ込めや浄化等の処置を行うことが義務付けられている。そのため、原位置で、汚染土壌をキレート剤等を用いて土壌中に固定化したり、封じ込めることで再溶出を抑えている。また、汚染された土壌を掘削除去し、管理型最終処分場に搬出した後、健全土で埋め戻すことも行われている。
【0003】
しかし、原位置での処理は、将来の再溶出の虞を完全に否定できるものではなく、管理型最終処分場での処理は、最終処分場の枯渇化の問題があるとともに、汚染土壌の搬出、健全土の搬入に多大なコストがかかる。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1には、塩素を含有する物質と、重金属を含有する土壌とを混合し、加熱装置の内部の水分量を、水分を除く固体の非加熱物の質量の0質量%以上、2.0質量%未満となるように管理しながら、700℃以上1600℃以下の温度で加熱処理を行って重金属を揮発分離する重金属含有土壌の再資源化方法が提案されている。
【0005】
また、再資源化に関する技術ではないが、特許文献2には、汚染土壌処理装置等から排出され、水銀を含有する高温高湿ガスから水銀を除去するため、炭素約1〜97%、水酸化カルシウム約1〜97%、塩化第二銅含浸炭素約1〜97%、及びKI3含浸炭素約1〜60%を含有する吸着粉末、及び該吸着粉末を用いた水銀除去方法が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特許第3910132号公報
【特許文献2】特表2003−523281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1に記載の重金属含有土壌の再資源化方法では、塩化揮発法を採用し、重金属含有土壌の加熱装置内を700℃以上1600℃以下の高温雰囲気とする必要があるため、土壌処理にあたって多大な熱エネルギーを必要とし、処理コストが高騰するという問題があった。また、加熱処理に先立って、塩素を含有する物質と、重金属を含有する土壌との混合物を成形又は造粒するなどして窯業製品を製造するが、製造にあたって多くの操作が必要になる。
【0008】
また、特許文献2に記載の吸着粉末を用いることによって、汚染土壌処理装置等から排出され、水銀を含有する高温高湿ガスから水銀を除去することは可能となるが、この文献には、水銀を除去した後の土壌の用途、及び水銀汚染土壌の再資源化については言及されていない。
【0009】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、汚染土壌、焼却灰等の水銀含有廃棄物を低コストで、かつ簡単な操作で再資源化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、水銀含有廃棄物の処理装置であって、水銀含有廃棄物を加熱して該水銀含有廃棄物から水銀を揮発させるキルンと、該キルンから排出された廃棄物をセメント製造設備にセメント原料として供給する供給装置とを備えることを特徴とする。
【0011】
そして、本発明によれば、キルンによって水銀含有廃棄物を加熱して該水銀含有廃棄物から水銀を揮発させ、キルンから排出された廃棄物をセメント製造設備にセメント原料として供給することにより、水銀含有廃棄物を低コストで、かつ簡単な操作で再資源化することができる。
【0012】
上記水銀含有廃棄物の処理装置において、前記キルンの排ガスに、アルミニウム、亜鉛及び銅からなる群から選択される一以上の吸着粉末を吹き込む吹込装置を備えることができ、吹込装置からアルミニウム等の吸着粉末を吹き込むことで、揮発した水銀を吸着することができる。
【0013】
上記水銀含有廃棄物の処理装置において、前記吹込装置の後段に、前記キルンの排ガスに含まれるVOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)又は/及び臭気成分を分解可能な触媒を担持させたフィルターを備えることができる。これにより、水銀を揮発させた際に発生したVOC又は/及び臭気成分を分解して無害化することができる。
【0014】
上記水銀含有廃棄物の処理装置において、前記キルンの排ガスに、苛性ソーダ又は/及び消石灰を吹き込む吹込装置を備えることができる。これにより、キルンの排ガスの脱硫を行うことができる。
【0015】
上記水銀含有廃棄物の処理装置において、前記キルンの排ガスに、アンモニアを添加するアンモニア添加装置を備えることができ、アンモニア添加装置によって添加したアンモニアによって、キルン排ガスの脱硝を行うことができる。この際、キルン排ガスのNOx濃度に応じて、キルン排ガスへのアンモニアの添加量を調節することができる。
【0016】
上記水銀含有廃棄物の処理装置において、前記キルンにおける加熱温度を250℃以上800℃以下とすることができ、比較的低い温度で水銀を処理することができるため、処理に要する熱エネルギーを低く抑え、処理コストを低減することができる。
【0017】
上記水銀含有廃棄物の処理装置において、前記キルンの排ガス温度を150℃以上500℃以下とすることができ、これにより、排ガスに含まれる水銀及び塩素の分離除去、及びVOC及び臭気成分の分解除去を効率よく行うことができる。
【0018】
上記水銀含有廃棄物の処理装置において、前記キルンを外熱式キルンとすることができ、外熱式キルンを用いることで、外熱式キルンの排ガスと、外熱式キルンの加熱に用いた燃焼ガスとを別々に処理することができ、各々のガスに適した方法で処理することができる。
【0019】
上記水銀含有廃棄物の処理装置において、前記外熱式キルンからの排ガスを、前記アルミニウム、亜鉛及び銅からなる群から選択される一以上の吸着粉末を吹き込む吹込装置及び前記フィルターを介して該外熱式キルンに戻すルートを設けることができる。これにより、フィルターにおいて分離又は分解されなかった有害物質についても、再度フィルターで処理することができ、効率よく有害物質を除去することができるとともに、通常運転時には、汚染土壌から揮発した水銀等の有害物質が外部に排出されることがなく、環境汚染の虞のない処理装置を提供することができる。
【0020】
また、本発明は、水銀含有廃棄物の処理方法であって、水銀含有廃棄物を加熱して該水銀含有廃棄物から水銀を揮発させ、水銀が揮発した廃棄物をセメント製造設備にセメント原料として供給することを特徴とする。本発明によれば、上記発明と同様に、水銀含有廃棄物を低コストで、かつ簡単な操作で再資源化することができる。
【0021】
上記水銀含有廃棄物の処理方法において、前記揮発した水銀を含むガスに、アルミニウム、亜鉛及び銅からなる群から選択される一以上の吸着粉末を吹き込むことにより該ガス中の水銀を除去することができる。
【0022】
また、上記水銀含有廃棄物の処理方法において、前記吸着粉末の吹き込み後のガス中の水銀濃度に応じて該吸着粉末の吹き込み量を調整することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、汚染土壌、焼却灰等の水銀含有廃棄物を低コストで、かつ簡単な操作で再資源化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1は、本発明にかかる水銀含有廃棄物の処理装置(以下、「処理装置」という)の一実施の形態を示し、この処理装置1は、大別して、ホッパ2に受け入れられた水銀含有汚染土壌(以下、「汚染土壌」という)S1を外熱式キルン4に供給する土壌供給装置3と、土壌供給装置3からの汚染土壌S1に含まれる水銀等を、バーナ5から吹き込まれた燃料の燃焼熱によって揮発させる外熱式キルン4と、外熱式キルン4の排ガスG1にアルミニウム等の吸着粉末を吹き込み、排ガスG1に含まれる水銀及び塩素を分離除去するとともに、VOC及び臭気成分を分解除去する触媒付濾過機6と、ファン11から供給される大気を外熱式キルン4の加熱に用いた燃焼ガスG2と熱交換させる熱交換器7と、外熱式キルン4から排出された浄化土壌S2を冷却するクーラ8と、クーラ8から排出された浄化土壌S2をセメント製造設備に搬送する搬送装置9等で構成される。
【0026】
外熱式キルン4は、回転型のキルンであって、内部に土壌供給装置3から汚染土壌S1が供給され、外部からバーナ5を介して熱を加えることで、汚染土壌S1に含まれる水銀、塩素、VOC及び臭気成分を揮発させる。外熱式キルン4の内部温度は、250℃以上800℃以下に、排ガスG1の温度は、150℃以上500℃以下に調節される。
【0027】
触媒付濾過機6は、アルミニウム、亜鉛、銅等の吸着粉末を外熱式キルン4の排ガスG1に吹き込む吹込装置と、チタン・バナジウム触媒を担持し、吸着粉末が吹き込まれることにより形成されるアマルガムと、排ガスG1中のダストに含まれる塩素を分離除去するとともに、排ガスG1に含まれるVOC及び臭気成分を分解除去するフィルターの両方の機能を有する。
【0028】
熱交換器7は、外熱式キルン4を加熱した後の燃焼ガスG2(約400℃)を抽気し、この燃焼ガスG2によってファン11から供給される大気を昇温して燃焼用空気(約180℃)とし、この燃焼用空気をバーナ5に供給する。
【0029】
クーラ8は、外熱式キルン4によって水銀等の有害物質が揮発除去された浄化土壌S2を冷却するために設けられ、浄化土壌S2が通過する内筒と、内筒の外側に設けられ、内部を冷却水が循環する外筒とで構成される。
【0030】
搬送装置9は、クーラ8から排出された浄化土壌S2をセメント製造設備(不図示)にセメント原料Rとして供給するために備えられ、例えば、セメント原料粉砕ミルに付設された原料ホッパ等にセメント原料Rを搬送する。
【0031】
ファン10は、触媒付濾過機6によって有害物質が除去された後の排ガスG1を外熱式キルン4に戻すために設けられる。
【0032】
次に、上記構成を有する処理装置1の動作について、図面を参照しながら説明する。
【0033】
工場跡地等から受け入れた汚染土壌S1をホッパ2に貯留する。バーナ5によって燃料を燃焼させて発生した燃焼熱によって外熱式キルン4を加熱し、外熱式キルン4の内部の温度を250℃以上800℃以下に維持し、ホッパ2より外熱式キルン4に汚染土壌S1を供給する。
【0034】
外熱式キルン4において、汚染土壌S1に含まれる水銀、塩素、VOC及び臭気成分が揮発し、揮発した水銀は、触媒付濾過機6から吹き込まれたアルミニウム等の吸着粉末によってアマルガムを形成し、触媒付濾過機6によってこのアマルガムが分離される。また、汚染土壌S1に含まれる塩素は、KCl等としてダストに含まれているが、触媒付濾過機6によってこのダストも除去される。さらに、排ガスG1に含まれるVOC及び臭気成分もチタン・バナジウム触媒によって分離除去される。分離されたアマルガム、KCl等を含むダストは、定期的に系外に排出される。一方、上記有害物質が除去された排ガスG1は、ファン10によって外熱式キルン4に戻され、以後、外熱式キルン4を含むガス流路を循環する。尚、外熱式キルン4を含むガス流路を循環するガス量が過剰となった場合には、ガスの一部を系外に排気する。
【0035】
水銀等が除去された浄化土壌S2は、外熱式キルン4からクーラ8に供給されて冷却された後、搬送装置9によってセメント製造設備のセメント原料粉砕ミルに付設された原料ホッパ等にセメント原料Rとして搬送され、セメント焼成用に利用される。
【0036】
尚、図示を省略したが、上記処理装置1において、外熱式キルン4の排ガスG1に苛性ソーダや消石灰を吹き込む吹込装置を設け、排ガスG1の脱硫を行うようにしてもよい。また、排ガスG1にアンモニアを添加するアンモニア添加装置を設け、添加したアンモニアによって、排ガスG1の脱硝を行うこともできる。
【0037】
以上のように、本発明によれば、外熱式キルン4によって汚染土壌S1を加熱して水銀等を揮発させ、外熱式キルン4から排出された浄化土壌S2をセメント製造設備においてセメント原料Rとして利用するため、低コストで、かつ簡単な操作で汚染土壌S1を再資源化することができる。
【0038】
また、外熱式キルン4によって汚染土壌S1を加熱し、その排ガスG1をファン10を介して外熱式キルン4に戻して循環させているため、触媒付濾過機6において分離又は分解されなかった有害物質についても、再度触媒付濾過機6において処理することができ、効率よく有害物質を除去することができるとともに、通常運転時には、このような有害物質が外部に排出されないため、環境汚染の虞がない。
【0039】
尚、上記実施の形態においては、本発明を用いて汚染土壌を処理する場合について説明したが、汚染土壌以外にも、焼却灰等の水銀を含む廃棄物を再資源化するにあたって本発明を適用することもできる。
【0040】
また、上記実施の形態においては、水銀等を揮発させるにあたって外熱式キルン4を使用する場合を例示したが、外熱式キルン4に代えて内熱式キルンを用い、触媒付濾過機6と組み合わせることにより、水銀等を除去した浄化土壌S2を得て、セメント原料Rとして利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明にかかる水銀含有廃棄物の処理装置の一実施の形態を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0042】
1 処理装置
2 ホッパ
3 土壌供給装置
4 外熱式キルン
5 バーナ
6 触媒付濾過機
7 熱交換器
8 クーラ
9 搬送装置
10〜12 ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水銀含有廃棄物を加熱して該水銀含有廃棄物から水銀を揮発させるキルンと、
該キルンから排出された廃棄物をセメント製造設備にセメント原料として供給する供給装置とを備えることを特徴とする水銀含有廃棄物の処理装置。
【請求項2】
前記キルンの排ガスに、アルミニウム、亜鉛及び銅からなる群から選択される一以上の吸着粉末を吹き込む吹込装置を備えることを特徴とする請求項1に記載の水銀含有廃棄物の処理装置。
【請求項3】
前記吹込装置の後段に、前記キルンの排ガスに含まれるVOC又は/及び臭気成分を分解可能な触媒を担持させたフィルターを備えることを特徴とする請求項2に記載の水銀含有廃棄物の処理装置。
【請求項4】
前記キルンの排ガスに、苛性ソーダ又は/及び消石灰を吹き込む吹込装置を備えることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の水銀含有廃棄物の処理装置。
【請求項5】
前記キルンの排ガスに、アンモニアを添加するアンモニア添加装置を備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の水銀含有廃棄物の処理装置。
【請求項6】
前記キルンにおける前記水銀含有廃棄物の加熱温度が250℃以上800℃以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の水銀含有廃棄物の処理装置。
【請求項7】
前記キルンの排ガス温度が150℃以上500℃以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の水銀含有廃棄物の処理装置。
【請求項8】
前記キルンは外熱式キルンであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の水銀含有廃棄物の処理装置。
【請求項9】
前記外熱式キルンからの排ガスを、前記アルミニウム、亜鉛及び銅からなる群から選択される一以上の吸着粉末を吹き込む吹込装置及び前記フィルターを介して該外熱式キルンに戻すルートを有することを特徴とする請求項8に記載の水銀含有廃棄物の処理装置。
【請求項10】
水銀含有廃棄物を加熱して該水銀含有廃棄物から水銀を揮発させ、
水銀が揮発した廃棄物をセメント製造設備にセメント原料として供給することを特徴とする水銀含有廃棄物の処理方法。
【請求項11】
前記揮発した水銀を含むガスに、アルミニウム、亜鉛及び銅からなる群から選択される一以上の吸着粉末を吹き込むことにより該ガス中の水銀を除去することを特徴とする請求項10に記載の水銀含有廃棄物の処理方法。
【請求項12】
前記吸着粉末の吹き込み後のガス中の水銀濃度に応じて、該吸着粉末の吹き込み量を調整することを特徴とする請求項11に記載の水銀含有廃棄物の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−213999(P2009−213999A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59467(P2008−59467)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】