説明

水銀除去装置及び方法

【課題】水銀酸化剤の使用量を抑えつつゼロ価水銀ガスを処理対象ガスから十分な除去率で分離・除去する。
【解決手段】ゼロ価水銀ガスを水溶性の2価水銀ガスに変換して処理対象ガスから分離・除去する装置であって、3価の鉄(Fe3+)を成分とする水銀酸化剤を含みpHが約3以下である水溶液を、前記処理対象ガスに接触させる反応分離手段4Aを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水銀除去装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、処理対象物である排ガス中のゼロ価水銀(Hg)を除去する排ガス処理装置がいくつか開示されている。このうち、特許文献1の図3に記載された排ガス処理装置は、冷却塔と吸収塔とから成る2塔式の湿式脱硫装置を備えた排ガス処理装置において、前段に配置された冷却塔の循環水に次亜塩素酸ソーダ、塩化銅、塩化マンガン、塩化鉄、キレート剤、石炭灰等の水銀除去剤を添加することにより、排ガス中のゼロ価水銀(Hg)を水溶性の2価水銀(Hg2+)に変換して除去するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−216476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1の排ガス処理装置には以下のような問題点がある。
(1)上記水銀除去剤を低pHの循環水に添加した場合に水銀除去剤がかなりの割合で分解してしまうために大量の水銀除去剤を添加する必要がある。
(2)処理対象物である排ガス中に二酸化硫黄(SO)が含まれていた場合に水銀除去剤が二酸化硫黄(SO)と反応して消費されてしまうため、やはり大量の水銀除去剤を添加する必要がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、水銀酸化剤の使用量を抑え、かつゼロ価水銀ガスを処理対象ガスから十分な除去率で分離・除去することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、水銀除去装置に係わる第1の解決手段として、ゼロ価水銀ガスを水溶性の2価水銀ガスに変換して処理対象ガスから分離・除去する装置であって、3価の鉄(Fe3+)を成分とする水銀酸化剤を含みpHが約3以下である水溶液を、前記処理対象ガスに接触させる反応分離手段を具備する、という解決手段を採用する。
【0007】
また、水銀除去装置に係わる第2の解決手段として、上記第1の手段において、前記水溶液は、pHが約2以上約3以下である、という解決手段を採用する。
【0008】
水銀除去装置に係わる第3の解決手段として、上記第1又は2の手段において、前記反応分離手段は、前記水銀酸化剤を約30ppm以上約1500ppm以下の濃度で含む前記水溶液を処理対象ガスに接触させる、という解決手段を採用する。
【0009】
水銀除去装置に係わる第4の解決手段として、上記第1から3の何れかの手段において、前記反応分離手段は、前記水溶液を処理対象ガスにスプレーするノズルと、該ノズルによって処理対象ガスと接触した後の前記水溶液を回収する回収容器と、該回収容器に回収された前記水溶液を前記ノズルに供給する循環ポンプと、前記水溶液に前記水銀酸化剤を添加する水銀酸化剤添加装置と、前記回収容器に回収された前記水溶液のpHを計測するpH計測器と、該pH計測器の計測 結果に基づいて前記ノズルからスプレーされる前記水溶液のpHが約3以下を維持するようにpH調整剤を水溶液に添加するpH調整剤添加装置と、からなる、という解決手段を採用する。
【0010】
水銀除去装置に係わる第5の解決手段として、上記第4の手段において、前記pH調整剤添加装置は、前記pH計測器の計測結果に基づいて前記ノズルからスプレーされる前記水溶液のpHが約2以上約3以下を維持するようにpH調整剤を水溶液に添加する、という解決手段を採用する。
【0011】
水銀除去装置に係わる第6の解決手段として、上記第4又は5の手段において、前記ノズルと前記回収容器と前記循環ポンプとは二塔式の湿式脱硫装置において前段に配置される除塵塔を構成しており、反応分離手段は、当該除塵塔に前記pH計測器、前記pH調整剤添加装置及び前記水銀酸化剤添加装置が付加されて構成される、という解決手段を採用する。
【0012】
水銀除去装置に係わる第7の解決手段として、上記第1から6の何れかの手段において、前記水銀酸化剤は、3価の鉄(Fe3+)を成分とする塩化鉄(FeCl)である、という解決手段を採用する。
【0013】
水銀除去装置に係わる第8の解決手段として、上記第4から7の何れかの手段において、前記pH調整剤は、水酸化ナトリウム(NaOH)である、という解決手段を採用する。
【0014】
水銀除去装置に係わる第9の解決手段として、上記第1から8の何れかの手段において、処理対象ガスは、燃焼炉の燃焼排ガスである、という解決手段を採用する。
【0015】
一方、本発明では、水銀除去方法に係わる第1の解決手段として、ゼロ価水銀ガスを水溶性の2価水銀ガスに変換して処理対象ガスから分離・除去する方法であって、3価の鉄(Fe3+)を成分とする水銀酸化剤を含み、pHが約3以下である水溶液を前記処理対象ガスと接触させることにより、前記ゼロ価水銀ガスを2価水銀ガスに変換すると共に水溶液中に溶解させて処理対象ガスから分離・除去する、という解決手段を採用する。
【0016】
水銀除去方法に係わる第2の解決手段として、上記第1の手段において、前記水溶液は、pHが約2以上約3以下である、という解決手段を採用する。
【0017】
水銀除去方法に係わる第3の解決手段として、上記第1又は2の手段において、前記水銀酸化剤を約30ppm以上約1500ppm以下の濃度で含む前記水溶液を処理対象ガスに接触させる、という解決手段を採用する。
【0018】
水銀除去方法に係わる第4の解決手段として、上記第1から3の何れかの手段において、二塔式の湿式脱硫装置において前段に配置される除塵塔の洗浄水あるいは循環水に、pH調整剤を添加することにより前記洗浄水あるいは前記循環水のpHを約3以下とし、前記水銀酸化剤を添加することによりゼロ価水銀ガスを 処理対象ガスから分離・除去する、という解決手段を採用する。
【0019】
水銀除去方法に係わる第5の解決手段として、上記第4の手段において、前記洗浄水あるいは前記循環水に、前記pH調整剤を添加することにより前記洗浄水あるいは前記循環水のpHを約2以上約3以下とする、という解決手段を採用する。
【0020】
水銀除去方法に係わる第6の解決手段として、上記第1から5の何れかの手段において、前記水銀酸化剤は、3価の鉄(Fe3+)を成分とする塩化鉄(FeCl)である、という解決手段を採用する。
【0021】
水銀除去方法に係わる第7の解決手段として、上記第4から6の何れかの手段において、前記pH調整剤は、水酸化ナトリウム(NaOH)である、という解決手段を採用する。
【0022】
水銀除去方法に係わる第8の解決手段として、上記第1から7の何れかの手段において、処理対象ガスは、燃焼炉の燃焼排ガスである、という解決手段を採用する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、3価の鉄(Fe3+)を成分とする水銀酸化剤の水溶液をpH約3以下として処理対象ガスと気液接触させることにより、ゼロ価水銀ガスは2価水銀ガスに変換されると共に水溶液中に溶解して処理対象ガスから分離されるので、水銀酸化剤の使用量を抑えつつゼロ価水銀ガスを十分な除去率で処理対象ガスから分離することができる。
更に、水溶液を約2以上約3以下に調整することにより、除去率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係わる水銀除去装置が適用された排ガス処理装置の系統図である。
【図2】本発明の一実施形態に係わる水銀除去装置の詳細構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態において水銀酸化剤として3価の鉄(Fe3+)を成分とするものを用いることの有効性を示す実験結果である。
【図4】本発明の一実施形態において、ゼロ価水銀(Hg)に対する酸化性能の優れた塩化鉄(FeCl)を用いる場合におけるHg除去率に与えるpH及び3価の鉄(Fe3+)の影響を示す実験結果である。
【図5】本発明の一実施形態において塩化鉄(FeCl)の水溶液の循環量に応じた模擬燃焼排ガスのHg除去率を示す実験結果である。
【図6】本発明の一実施形態において模擬燃焼排ガスに関する気液接触の影響を示す実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係わる水銀除去装置が適用された排ガス処理装置の系統図である。この図に示すように、この排ガス処理装置は、ボイラ1、脱硝装置2、電気集じん器3、二塔式脱硫装置4及び煙突5から構成されている。ボイラ1は、例えば火力発電所にて発電用水蒸気を発生させるためのものであり、石油、天然ガスあるいは石炭等を燃料として水蒸気を発生させる。このような燃料をボイラ1で燃焼させたことによって発生した排ガスは、ボイラ1から脱硝装置2に供給される。
【0026】
脱硝装置2は、上記排ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)を除去するものである。この脱硝装置2は、例えば触媒の存在下で排ガスにアンモニアを作用させることにより窒素酸化物(NOx)を窒素(N)と水(HO)に分解する。電気集じん器3は、対向電極間の電場によって排ガス中に含まれる粉塵を吸着して除去するものである。二塔式脱硫装置4は、排ガス中に含まれる硫黄酸化物SOxを湿式除去する二塔式の湿式脱硫装置であり、図示するように前段に配置された除塵塔4Aと後段に配置された吸収塔4Bとから構成されている。
【0027】
除塵塔4Aは、循環水を用いて排ガスを除塵及び冷却する機能と本実施形態に係わる水銀除去装置としての機能とを併せ持つものである。ここで、一般的な二塔式脱硫装置における除塵塔は、主に排ガスの除塵を、副次的に排ガスの冷却を目的としているので、循環水は一般水であるが、本実施形態における循環水Wは、排ガスを除塵及び冷却する機能に加えて、排ガス中に含まれるゼロ価水銀(Hg)ガスを水溶性の2価水銀(Hg2+)ガスに酸化する機能をも併せ持たせる必要から、3価の鉄(Fe3+)を成分とする水銀酸化剤を含む水溶液になっている。このような水溶液を循環水Wとして用いる点は、本実施形態の特徴の1つである。なお、上記水銀酸化剤は、好ましくは塩化鉄(FeCl)であるが、3価の鉄(Fe3+)を成分とするものであればこれに限定されるものではない。
【0028】
図2は、除塵塔4Aつまり本実施形態に係わる水銀除去装置の詳細構成を示すブロック図である。本水銀除去装置は、この図2に示すように、塔本体6(回収容器)、スプレーノズル7、循環ポンプ8、pH計測器9、pH調整剤添加装置10、水銀酸化剤添加装置11等から構成されている。塔本体6は、例えば中空円筒状の容器であり、循環水を下方に向けて噴射するスプレーノズル7が内部上方に配置され、また内部下方は上記循環水を受けて回収するように密閉構造になっている。本水銀除去装置は、除塵塔としての本来の構成要件つまり塔本体6、スプレーノズル7及び循環ポンプ8に、水銀除去装置としての機能を付加するための構成要件つまりpH計測器9、pH調整剤添加装置10及び水銀酸化剤添加装置11を付加したものである。ここで、本実施形態における反応分離手段は、スプレーノズル7、塔本体6、循環ポンプ8、水銀酸化剤添加装置11、pH計測器9、pH調整剤添加装置10により、実現されている。
【0029】
また、塔本体6の側部には、排ガスの入口6aが、また上部には処理済ガスの出口6bが各々設けられている。入口6aから塔本体6内に取り込まれた排ガスは、スプレーノズル7から噴射される循環水を気液接触しつつ上方に移動し、処理済ガスとして塔本体6の外部に排出される。スプレーノズル7は、循環水が排ガスと塔本体6内の広い領域で均等に気液接触するように、塔本体6内の上部に広がりを持って配置されている。
【0030】
循環ポンプ8は、塔本体6の内部下方に溜まった循環水を汲み出してスプレーノズル7に供給する。火力発電所が連続運転されることにより塔本体6内に連続供給される排ガスに対して、循環ポンプ8が連続運転されることにより、排ガスにはスプレーノズル7から順次連続して循環水が噴射されて、排ガスと循環水との気液接触が連続的に行われる。
【0031】
pH計測器9は、上記循環ポンプ8とスプレーノズル7との間に設けられている。このpH計測器9は、循環ポンプ8からスプレーノズル7に供給される循環水、つまり排ガスに噴射される循環水のpH値を計測しpH情報としてpH調整剤添加装置10に出力する。pH調整剤添加装置10は、pH計測器9で計測される循環水のpH値が約2以上約3以下を維持するようにpH調整剤を循環水に供給するものである。このpH調整剤は、例えば水酸化ナトリウム(NaOH)である。水銀酸化剤添加装置11は、例えば塩化鉄(FeCl)を水銀酸化剤として循環水に供給するものである。
【0032】
一方、吸収塔4Bは、上記除塵塔4A(つまり水銀除去装置)から排出された処理済ガスから硫黄酸化物(SOx)を除去するためのものである。この吸収塔4Bは、排ガスに例えば石灰石スラリーを含む吸収液と反応させることにより硫黄酸化物(SOx)を石膏(CaSO)として吸収液中に分離する。なお、煙突5は、吸収塔4Bつまり二塔式脱硫装置4から排出された排ガスを高所の外気に放出するものである。
【0033】
次に、このように構成された水銀除去装置の作用・効果について、図3〜図6に示す実験データを参照して説明する。
【0034】
図3は、水銀酸化剤として3価の鉄(Fe3+)を成分とするものを用いることの有効性を示す実験結果である。より具体的には、本実施形態で用いている3価の鉄(Fe3+)を成分とする塩化鉄(FeCl)、2価の鉄(Fe2+)を成分とする塩化鉄(FeCl)、4価のチタン(Ti4+)を成分とする塩化チタン(TiCl)、3価のチタン(Ti3+)を成分とする塩化チタン(TiCl)、3価のアルミニウム(Al3+)を成分とする塩化アルミニウム(AlCl)、また5価のリン(P5+)を成分とするリン酸二水素カリウム(KHPO)を含む水溶液を各々調製し、ゼロ価水銀(Hg)ガスと窒素(N)ガスの混合ガスを気液接触させた場合のゼロ価水銀(Hg)の除去率を示している。なお、この実験では、対象成分(Fe3+,Fe2+,Ti4+,Ti3+,Al3+,P5+)の濃度を100ppm、また塩酸(HCl)を加えることによって各水溶液のpHを約1に調整した。
【0035】
この実験結果から明らかなように、3価の鉄(Fe3+)を成分とする塩化鉄(FeCl)の水溶液は高いHg除去率を示すものの、2価の鉄(Fe2+)を成分とする塩化鉄(FeCl)をはじめとする他の水溶液は極めて低いHg除去率を示している。
3価の鉄(Fe3+)は、ゼロ価水銀(Hg)に対する酸化力、つまりゼロ価水銀(Hg)から電子を受容して2価水銀(Hg2+)とする能力が他の対象成分よりも極めて高いことが分かる。ここで、図3には、pH1にて行った実験結果のみ示しているが、出願人は、pHが約3以下の範囲において、3価の鉄(Fe3+)を成分とする水溶液が、他を成分とする水溶液と比較して、Hg除去に抜きんでて有効であることは確認した。
【0036】
続いて、図4は、上述のようにゼロ価水銀(Hg)に対する酸化性能の優れた塩化鉄(FeCl)を用いる場合におけるHg除去率に与えるpH及び3価の鉄(Fe3+)の濃度の影響を示す実験結果である。この実験では、塩化鉄(FeCl)の水溶液中の3価の鉄(Fe3+)の濃度を、30ppm、150ppm、1500ppmの3種類とした。なお、もともとの塩化鉄(FeCl)の水溶液のpHは、約2である。
出願人は、従来の除塵塔4Aにおいては、循環水に酸性ガスが溶解することによって、循環水のpHが0.8〜1.5程度となることを確認した。そこで、この実験では、上記pH0.8〜1.5程度を含むpH0.8から5.5の範囲で実験を行うために、塩化鉄(FeCl)の水溶液に、塩酸(HCl)あるいは水酸化ナトリウム(NaOH)を添加することにより、pHを0.8から5.5の範囲に調整した。またここで、塩酸(HCl)と水酸化ナトリウム(NaOH)がHg除去率に影響しないことは、実験により明らかとなっている。
【0037】
この実験結果は、塩化鉄(FeCl)の水溶液のpHを、除塵塔4Aの従来の運転領域である0.8〜1.5程度から2〜3前後まで上昇させるにしたがって、Hg除去率が増加することを示すと共に、各濃度におけるHg除去率が最高となるpH(最適pH)を超えて更にpHを上昇させるとHg除去率が低下することを示している。
詳細には、まず、水溶液中の3価の鉄(Fe3+)の濃度が30ppmの場合、水溶液のpHが除塵塔4Aの従来の運転領域である0.8〜1.5程度であると、Hg除去率は30〜50%程度であるのに対し、水溶液のpHが3の近傍になると、Hg除去率は70%程度まで上昇し、ここからpHを更に高くするとHg除去率が低下する。また、水溶液中の3価の鉄(Fe3+)の濃度が150ppmの場合、水溶液のpHが除塵塔4Aの従来の運転領域である0.8〜1.5程度であると、Hg除去率は40〜60%程度であるのに対し、水溶液のpHが2.5の近傍になると、Hg除去率は80%を上回る程度まで上昇し、ここからpHを更に高くするとHg除去率が低下する。更に、水溶液中の3価の鉄(Fe3+)の濃度が1500ppmの場合、水溶液のpHが除塵塔4Aの従来の運転領域である0.8〜1.5程度であると、Hg除去率は50〜70%程度であるのに対し、水溶液のpHが2の近傍になると、Hg除去率は80%近くまで上昇し、ここからpHを更に高くするとHg除去率が低下する。
【0038】
なお、pHが約3の場合を境にHg除去率が低下する理由は、塩化鉄(FeCl)の水溶液のpHが、3価の鉄(Fe3+)の各濃度における最適値(約2〜3)よりも高くなると、水酸化第二鉄(Fe(OH))の沈殿が生じ、ゼロ価水銀(Hg)の捕捉に有効な3価の鉄(Fe3+)が減少するためであることを、この実験において確認した。
したがって、高いHg除去率を得るためには、水銀酸化剤として塩化鉄(FeCl)を使用する際には、水溶液のpHを約3以下に設定することが効果的であることが分かる。
また、この実験結果によれば、塩化鉄(FeCl)の水溶液のpHが除塵塔4Aの従来の運転領域である0.8〜1.5程度の場合には、3価の鉄(Fe3+)の濃度が1500ppmであってもHg除去率は50〜70%程度と80%を上回らないのに対し、pHが約2以上約3以下の場合には、3価の鉄(Fe3+)の濃度が150ppmであってもHg除去率が70〜80%程度となり、更にpHが約2.5の近傍の場合にはHg除去率が80%を上回ることがわかる。
したがって、高いHg除去率を得つつ水銀酸化剤としての塩化鉄(FeCl)の使用量を極力抑えるためには、水溶液のpHを約2以上約3以下、更に好ましくは約2.5の近傍に設定することが効果的であることが分かる。
【0039】
上記図3に示す実験結果は、実際の火力発電所のボイラ1から排出される排ガスとは異なる成分組成、つまりゼロ価水銀(Hg)ガスと窒素(N)ガスの混合ガスについてのものである。これに対して、図5及び図6に示す実験結果は、窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)等を含んだボイラ1の排ガスと略同一の成分組成を有する模擬燃焼排ガスに関するHg除去率を示している。
【0040】
図5では、上述した除塵塔4Aと同様構成の向流スプレー型の湿式スクラバを用い、循環水である塩化鉄(FeCl)の水溶液の循環量を2l/min、4l/minあるいは5l/minに切り替えた場合における模擬燃焼排ガスのHg除去率を示している。この実験結果によれば、ボイラ1の排ガスと略同一の成分組成を有する模擬燃焼排ガスについて、何れの循環量においても80%近いHg除去率が得られることが確認された。
【0041】
図6は、上記模擬燃焼排ガスに関する気液接触の影響に関する実験例1,2を示している。この実験では、各々に100mlの吸収液(塩化鉄(FeCl)の水溶液)が充填されると共に模擬燃焼排ガスをバブリングする容器(インピンジャ)を複数用意し、1本のインピンジャで模擬燃焼排ガスをバブリングした場合の吸収液量を100ml、直列接続された3本のインピンジャで模擬燃焼排ガスをバブリングした場合の吸収液量を300ml、直列接続された5本のインピンジャで模擬燃焼排ガスをバブリングした場合の吸収液量を500mlとした場合におけるHg除去率を計測した。
なお、実験例1は、3価の鉄Fe3+の濃度が100ppmの場合、実験例2は3価の鉄Fe3+の濃度が400ppmの場合を示している。
【0042】
すなわち、この実験において、吸収液量100mlはバブリング回数が1回を、吸収液量300mlはバブリング回数が3回を、また吸収液量500mlはバブリング回数が5回をそれぞれ示している。この実験結果によれば、バブリング回数つまり模擬燃焼排ガスと吸収液(塩化鉄(FeCl)の水溶液)との気液接触の回数を増やす程、Hg除去率が上昇することが確かめられた。この実験では、5回のバブリングで80%を超えるHg除去率が得られていることが確認された。
【0043】
なお、上記図6の実験結果は、模擬燃焼排ガスと気液接触の回数がHg除去率に大きな影響を与えることを示しているが、この気液接触の状態をより良好にするためには、接触面積や接触時間をより大きくすることも極めて重要である。したがっ て、スプレーノズル7や塔本体6の形状、あるいは塔本体6における排ガスの通過方法等を工夫することによって接触面積や接触時間をより大きくして、ゼロ価水銀(Hg)ガスの除去率を向上させることが重要である。
【0044】
このような本実施形態によれば、3価の鉄(Fe3+)を成分とする塩化鉄(FeCl)を水銀酸化剤として 含み、かつ、水酸化ナトリウム(NaOH)等のpH調整剤を添加することによりpHが約2以上約3以下に設定された水溶液を、ボイラ1の排ガス(燃焼排ガス)等の処理対象ガスと気液接触させることにより、水銀酸化剤の添加量(使用量)を極力抑えた状態で処理対象ガスからゼロ価水銀(Hg)ガスを高い除去率で除去することができる。
【0045】
また、本水銀除去装置は、除塵塔としての本来の構成要件つまり塔本体6、スプレーノズル7及び循環ポンプ8に、水銀除去装置としての機能を付加するための構成要件つまりpH計測器9、pH調整剤添加装置10及び水銀酸化剤添加装置11を付加したものである。したがって、既存の火力発電所にpH計測器9、pH調整剤添加装置10及び水銀酸化剤添加装置11を付加することによってゼロ価水銀(Hg)ガスの除去機能を実現できるので、既存の火力発電所に容易に導入することができるというメリットがある。
【0046】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)水銀酸化剤は塩化鉄(FeCl)に限定されず、3価の鉄(Fe3+)を成分とする化合物であれば他のものでも良い。
(2)pH調整剤は水酸化ナトリウム(NaOH)に限定されず、他のものでも良い。
(3)処理対象ガスは、ボイラ1の燃焼炉の燃焼排ガスに限定されない。
(4)また、水銀除去装置の構成については、上記実施形態に限定されるものではない。処理対象ガスと水銀酸化剤の水溶液との良好な気液接触を実現できる構成であれば、他の構成であっても良い。
(5)上記実施形態では、排ガスの入口6aを塔本体6の側部に設け、排ガスの出口6bを塔本体6の上部に設けているが、実施にあたっては、除塵塔4Aの排ガスの入口6aを塔本体6の上部に設け、排ガスの出口6bを塔本体6の側部に設けてもよい。
(6)上記実施形態では、水銀酸化剤の水溶液を循環水Wとして用いているが、実施にあたっては、上記循環水Wに代えて、除塵塔4Aの洗浄水を水銀酸化剤を含む水溶液としても良い。洗浄水は、除塵塔4A内部に設置したミストエリミネータ等の機器を洗浄する水であって、この水としては、従来は一般的な工業用水 が用いられている。この洗浄水として、水銀酸化剤を含む水溶液を用いることにより、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0047】
1…ボイラ、2…脱硝装置、3…電気集じん器、4…二塔式脱硫装置、4A…除塵塔、4B…吸収塔、5…煙突、6…塔本体(回収容器)、7…スプレーノズル、8…循環ポンプ、9…pH計測器、10…pH調整剤添加装置、11…水銀酸化剤添加装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼロ価水銀ガスを水溶性の2価水銀ガスに変換して処理対象ガスから分離・除去する装置であって、
3価の鉄(Fe3+)を成分とする水銀酸化剤を含みpHが3以下である水溶液を、前記処理対象ガスに接触させる反応分離手段を具備することを特徴とする水銀除去装置。
【請求項2】
前記反応分離手段は、前記水銀酸化剤を30ppm以上1500ppm以下の濃度で含む前記水溶液を処理対象ガスに接触させることを特徴とする請求項1記載の水銀除去装置。
【請求項3】
前記反応分離手段は、
前記水溶液を処理対象ガスにスプレーするノズルと、
該ノズルによって処理対象ガスと接触した後の前記水溶液を回収する回収容器と、
該回収容器に回収された前記水溶液を前記ノズルに供給する循環ポンプと、
前記水溶液に前記水銀酸化剤を添加する水銀酸化剤添加装置と、
前記回収容器に回収された前記水溶液のpHを計測するpH計測器と、
該pH計測器の計測結果に基づいて前記ノズルからスプレーされる前記水溶液のpHが3以下を維持するようにpH調整剤を水溶液に添加するpH調整剤添加装置と、
からなることを特徴とする請求項1又は2記載の水銀除去装置。
【請求項4】
前記ノズルと前記回収容器と前記循環ポンプとは二塔式の湿式脱硫装置において前段に配置される除塵塔を構成しており、反応分離手段は、当該除塵塔に前記pH計測器、前記pH調整剤添加装置及び前記水銀酸化剤添加装置が付加されて構成されることを特徴とする請求項3記載の水銀除去装置。
【請求項5】
前記水銀酸化剤は、3価の鉄(Fe3+)を成分とする塩化鉄(FeCl)であることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の水銀除去装置。
【請求項6】
前記pH調整剤は、水酸化ナトリウム(NaOH)であることを特徴とする請求項3から5の何れかに記載の水銀除去装置。
【請求項7】
処理対象ガスは、燃焼炉の燃焼排ガスであることを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の水銀除去装置。
【請求項8】
ゼロ価水銀ガスを水溶性の2価水銀ガスに変換して処理対象ガスから分離・除去する方法であって、
3価の鉄(Fe3+)を成分とする水銀酸化剤を含み、pHが3以下である水溶液を前記処理対象ガスと接触させることにより、前記ゼロ価水銀ガスを2価水銀ガスに変換すると共に水溶液中に溶解させて処理対象ガスから分離・除去する
ことを特徴とする水銀除去方法。
【請求項9】
前記水銀酸化剤を30ppm以上1500ppm以下の濃度で含む前記水溶液を処理対象ガスに接触させることを特徴とする請求項8記載の水銀除去方法。
【請求項10】
二塔式の湿式脱硫装置において前段に配置される除塵塔の洗浄水あるいは循環水に、pH調整剤を添加することにより前記洗浄水あるいは前記循環水のpHを3以下とし、前記水銀酸化剤を添加することによりゼロ価水銀ガスを処理対象ガスから分離・除去することを特徴とする請求項8又は9記載の水銀除去方法。
【請求項11】
前記水銀酸化剤は、3価の鉄(Fe3+)を成分とする塩化鉄(FeCl)であることを特徴とする請求項8から10の何れかに記載の水銀除去方法。
【請求項12】
前記pH調整剤は、水酸化ナトリウム(NaOH)であることを特徴とする請求項10又は11記載の水銀除去方法。
【請求項13】
処理対象ガスは、燃焼炉の燃焼排ガスであることを特徴とする請求項8から12の何れかに記載の水銀除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−140025(P2011−140025A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83025(P2011−83025)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【分割の表示】特願2006−126380(P2006−126380)の分割
【原出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】