説明

水銀高圧放電灯

本発明は定格出力1.5kWを超える直流電流動作用の水銀高圧放電灯に関する。本発明によれば、水銀高圧放電灯は少なくとも一部の領域がタングステン成分を含む材料から成るアノードを有しており、該アノードの材料は200個/mmを超える粒子数および19.05g/cmより大きい密度を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一部の領域がタングステン成分を含む材料から成るアノードを備えた水銀高圧放電灯に関する。
【0002】
従来の技術
水銀高圧放電灯ではアノードの電極衝撃から加熱にいたる。これによりアノード材料が気化し、ランプの放電管の内側に堆積する。このようにして内側に生じた付着物は管の曇りまたは黒化として知覚され、発生するアークの減衰や利用可能な光束の低下を引き起こす。当該の効果は放電灯の耐用期間が経過していくうちに増悪する。放電灯の耐用期間が進行するにつれて、アノード材料からの気化により、光束は低下してしまう。
【0003】
アノード材料の気化のほか、高圧放電灯には、ユーザの利用する光の低下をもたらす現象も存在する。こうした現象として、カソードの焼きもどしやカソード平面の拡大が挙げられる。約1mg/cm〜8mg/cmの水銀の充填量を有する水銀高圧放電灯では、アノード材料の気化はデグラデーションの重大な原因であり、ランプの耐用特性に大きく影響する。
【0004】
水銀高圧放電灯が高い希ガス充填圧、特に3barより高い冷間圧を有すると、アノード材料の気化が強まる。充填される希ガス、典型的にはアルゴン、クリプトンまたはこれらとキセノンとの混合物はアークの幅を低減させる作用を有する。当該の放電灯を光学装置で使用する場合、希ガスの作用により利用可能な光が増大され、光学装置が高い光強度を有するようになる。こうした光学装置はいわゆる高輝度ランプと称される。高い希ガス圧によってアノードに強い負荷がかかり、所定の駆動条件のもとではアノード面の摩耗も発生する。そのことによりアノード材料の気化がいっそう強まる。
【0005】
通常は、水銀高圧放電灯は直流電流の一定の電力によって駆動される。ただし、電力を周期的に変調したほうが有利な適用分野も存在する。ただし、このようにすると、アノード材料の気化が強まり、光の低下の度合が大きくなってしまう。
【0006】
実際にアノード材料の気化を低下させるにはアノード温度を低下させる必要があり、これはアノードのエネルギ放射の増大によって達成される。これには2つの技術が利用される。第1の技術はアノード面積ないしアノード寸法を拡大することである。特にアノードの径を増大すると有利である。これに比べると、アノードの長さを延長することは効果が小さい。公知の放電灯では、一般に、ランプ出力が大きくなるにつれてアノードの径も大きくなる。第2の技術は、アノードをコーティングしたりパターニングしたりして、透過性を増大することである。コーティング材料として例えば粗いタングステンまたは樹状のレニウムが用いられる。
【0007】
高い希ガス充填圧を有する水銀高圧放電灯では、希ガスの種類とランプジオメトリとに基づく冷間圧の所定の値を超えると、前述した2つの技術を用いてもアノード材料の気化速度が実用上要求される許容値まで低下しないという問題が発生する。この場合、希ガス充填圧を低下させなければならない。しかし、希ガス充填圧を低下させるとアークの狭窄化の効果が低下し、光学装置においてランプを使用する場合に光強度の低下が知覚されてしまう。選択的に電力やランプ電流を低減することもできるが、これらの手段もランプの光強度の低下をまねく。
【0008】
従来技術から、融剤を備えたタングステンから成るアノードを備えた放電灯が公知である。融剤は例えばカリウムであり、その成分は15ppm〜300ppmである。こうした構成は独国特許第3036746号明細書から公知である。
【0009】
さらに独国公開第19852703号明細書から、カリウムのドープされたタングステンまたは合金から成るアノードを備えた放電灯が公知である。ドープ物質の濃度は100ppmよりも小さい。
【0010】
さらに、独国公開第19738574号明細書から、円筒状のベースボディを有するアノードを備えた放電灯が公知である。このアノードの円筒状のベースボディは円錐状の先端部を含み、この先端部は主として半径方向の変形によって成形されている。当該の先端部の粒子数および密度は、シャフト部の粒子数および密度に比べて典型的には係数2以上異なる。
【0011】
発明の開示
本発明の課題は、駆動中の電極材料の気化を低減できる水銀高圧放電灯を提供することである。
【0012】
この課題は請求項1に記載された特徴を有する水銀高圧放電灯によって解決される。
【0013】
本発明の水銀高圧放電灯では、アノードの少なくとも一部の領域がタングステン成分を含む材料から成り、当該のアノードの材料が200個/mmよりも大きい粒子数と19.05g/cmより大きい密度とを有する。これにより、電極材料の気化のいちじるしい低下が達成される。前述した利点は、直流電流動作に対して1.5kWより大きい定格出力を有し、放電管内のアノードの径が25mm〜70mmであり、放電管内の充填ガスが0.5mg/cm〜7mg/cmの充填量の水銀と0.8barより大きい冷間圧の少なくとも1つの希ガスとを含む水銀高圧放電灯において、アノード材料が200個/mmよりも大きい粒子数と19.05g/cmより大きい密度とを有することにより達成される。ただし、2つのパラメータのうち一方の範囲しか満たされない場合には、双方の範囲が満たされる場合に比べて、得られる効果が小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の水銀高圧放電灯の実施例を示す図である。
【図2】アノードの第1の実施例を示す図である。
【図3】アノードの第2の実施例を示す図である。
【図4】第1のランプパラメータを有する水銀高圧放電灯の相対光強度と駆動時間との関係を示すグラフである。
【図5】第2のランプパラメータを有する水銀高圧放電灯の相対光強度と駆動時間との関係を示すグラフである。
【0015】
アノードの径とはアノードの最大径である。通常のごとくアノードが円筒状部分とこれに続く円錐状部分とを有する場合、円筒状部分の径がアノードの径となる。
【0016】
現在知られているところによれば、アークにより熱ストレスが引き起こされ、直流電流動作を行うランプではアノード平面に反りが生じてしまう。この場合、アークは当該の反りの個所に滞留し、そのために局所的なオーバーヒートが発生する。これが進行すると、局所的にタングステンの融点3400℃を超える温度に達することさえある。その場合タングステンが過剰に気化して放電管が黒化し、光束のいちじるしい低下が発生する。
【0017】
有利には、アノード材料の密度は19.15g/cm以上となる。
【0018】
有利には、アノード材料の粒子数は350個/mm以上となる。こうした構成により、気化特性をさらに低下させることができる。
【0019】
ランプを駆動する前のアノードの粒子数はASTM E112による平均的粒子数として定義される。ランプが使用されていくうちに構造が粗雑化し、アノードが局所的に粗い粒子を有するようになることもある。
【0020】
粒子の粗雑化を低減するため、有利には、材料にカリウムがドープされる。カリウム成分は最大で100μg/gであり、ふつう50ppmより小さく、有利には8ppm〜45ppmである。特に有利には、カリウム成分は10ppm〜40ppmである。
【0021】
アノードは有利には少なくとも部分的に円筒状に形成される。アノードの先端側は有利には円錐状に形成される。ただしアノードがこれとは異なる幾何学的形状を有していてもよい。
【0022】
アノードの円筒状部分は28mmより大きい径を有し、有利には30mm以上の径を有する。特に有利には、円筒状部分の径は34mm以上である。これにより、当該の部分での電極材料の気化のいちじるしい低下が達成される。アノードの機能については材料の気化が問題となるが、これは本発明の構成によりいちじるしく低減される。
【0023】
本発明の水銀高圧放電灯は0.5mg/cm〜7mg/cmの水銀充填量を有する。特に、水銀の充填量が1mg/cm〜3mg/cmであると、気化がいちじるしく低減される。また、水銀高圧放電灯が一定の電力で駆動される場合、希ガス冷間圧は3.5barより大きく、有利には4bar以上である。水銀高圧放電灯が変調された電力で駆動される場合、希ガス冷間圧は0.8barより大きく、有利には1.5barより大きい。本発明の希ガス冷間圧およびアノードの構成は電極材料の気化防止に特に有利である。
【0024】
希ガスの種類として、有利には、キセノン、アルゴン、クリプトンまたはこれらの希ガスの混合物が用いられる。
【0025】
電極材料、特にアノード材料の気化防止のために、1.5kWより大きい定格出力が必要であり、有利には定格出力4kW、特に有利には約5kWより大きい定格出力を有するランプが用いられる。電極材料の気化の低減は、電極表面の性質に関係なく、つまりパターンやコーティングの状態に関係なく、達成される。
【0026】
電極の最終的な成形は打撃加工、切削加工、フライス加工、水洗浄および加熱洗浄により行われる。さらに、電極の平面は軸線方向で鍛造されることもある。
【0027】
本発明により、少なくとも部分的に前述した材料から成るアノードを備えた水銀高圧放電灯が形成され、従来のタングステン材料から成るアノードを備えた水銀高圧放電灯に比べて、光束の低下が著しく緩和される。これは特に高い希ガス充填圧での駆動または周期的な変調電力での駆動の際に有利である。
【0028】
有利には、本発明の電極の製造方法は公知のタングステン材料を有する電極に比べて特に変更する必要はない。
【0029】
以下に本発明を図示の実施例に則して詳細に説明する。
【0030】
本発明の有利な実施例
図中、同じ構成要素または同じ作用をする構成要素にはそれぞれ同じ参照符号を付してある。
【0031】
図1には水銀高圧放電灯として構成された放電灯1の概略図が示されている。この高圧放電灯は放電管2を有しており、その内室21にはカソード3およびアノード4が延在している。アノード4は、図2,図3に示されているように、ほぼ円筒状に構成されている。
【0032】
図2には、約35mmの径d1を有する第1のアノード4が示されている。軸線Aの方向の長さは約65mmである。相応に、図3には約35mmの径d2を有する第2のアノード4’が示されている。第1のアノード4と同様に、第2のアノード4’も軸線Bの方向に長さ約65mmにわたって延在している。
【0033】
図2に示されている第1の構成では、アノード4の前側、つまりカソード3に近い側が先細となるように円錐状に構成されている。円錐状部分は長さl1にわたって延在している。図3の第2のアノード4’の前側にも円錐状部分が構成されているが、こちらは長さl1よりも小さな長さl2を有している。
【0034】
図2,図3の構成では、第1のアノード4および第2のアノード4’は図1の放電灯1内に配置されている。
【0035】
当該の実施例では、放電灯1に配置されたアノード4がタングステン材料から成り、このタングステン材料の粒子数は350個/mmである。有利には、アノード材料の密度は19.15g/cm以上となる。さらに、第1のアノード4の材料にはカリウムがドープされており、そのカリウム成分は10ppm〜40ppmである。
【0036】
放電灯は直流電流によって駆動され、放電灯の定格出力は5kW以上である。水銀充填量は0.5mg/cm〜5mg/cmである。有利には水銀充填量は1mg/cm〜3mg/cmである。内室21の希ガス冷間圧は、水銀高圧放電灯が一定電力で駆動される場合、4barより大きい。水銀高圧放電灯が変調電力で駆動される場合には、希ガス冷間圧は1.5bar以上となる。電力の変調は15%までの振幅および0.5Hz〜5Hzの周波数で行われる。
【0037】
この実施例では、第1のアノード4はドープされたタングステン材料から均一に前述した密度および前述した粒子数で構成される。ただし、アノード4の唯一の部分領域をこうした材料から構成することができる。このように、アノード4は複数の部分から構成することもできる。特に有利には、アノード4のうち少なくともカソード3に近い円錐状領域ないしさらにその一部がタングステン材料から成り、前述した粒子数および相応の密度および/または相応のカリウムドープ濃度を有する。同様に、アノード4,4’のうち、軸線A,Bにセンタリングされたピン状の部分領域のみを前述した材料で構成することもできる。
【0038】
図4には、放電灯1の相対光強度と駆動時間との関係が示されている。ここで放電灯1のパラメータは希ガスであるクリプトンの冷間圧である。放電灯1は5.5kWの一定の電力で駆動される。このグラフでは、本発明のアノードを備えた放電灯の光束特性が実線の曲線Iで示されている。これに対して、従来のアノードを備えた放電灯の光束特性は破線の曲線IIで示されている。
【0039】
図5には、別のケースでの放電灯1の相対光強度と駆動時間との関係が示されている。ここでは、充填される希ガスとしてキセノンクリプトン混合物が用いられており、ランプパラメータである希ガス冷間圧は1.9barとなっている。この場合、放電灯は4.5kW〜5kWのあいだで周期的に変調される電力によって駆動される。図5には、本発明のアノードを備えた放電灯の光束特性が実線の曲線IIIで示されており、従来のアノードを備えた放電灯の光束特性が破線の曲線IVで示されている。
【0040】
図4,図5から、本発明のアノードにより、耐用期間が進行していくなかでもいちじるしく高い光強度が達成されることがわかる。公知の放電灯では特性曲線II,IVに示されているように駆動時間が増大するにつれて光強度が低下するが、本発明の放電灯ではほとんど低下しない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電流動作に対して1.5kWより大きい定格出力を有し、
充填ガスを封入した放電管内にアノードおよびカソードが配置されており、
前記アノードの径は25mm〜70mmであり、前記アノードの少なくとも一部の領域は少なくともタングステン成分を含む材料から成り、
前記充填ガスは0.5mg/cm〜7mg/cmの充填量の水銀と0.8barより大きい冷間圧の少なくとも1つの希ガスとを含む、
水銀高圧放電灯において、
前記アノードの材料は200個/mmよりも大きい粒子数と19.05g/cmより大きい密度とを有する
ことを特徴とする水銀高圧放電灯。
【請求項2】
前記アノードの材料は350個/mm以上の粒子数を有する、請求項1記載の水銀高圧放電灯。
【請求項3】
前記アノードの材料は19.15g/cm以上の密度を有する、請求項1または2記載の水銀高圧放電灯。
【請求項4】
前記アノードの材料には最大で100μg/gのカリウム成分がドープされている、請求項1から3までのいずれか1項記載の水銀高圧放電灯。
【請求項5】
前記カリウム成分の濃度は50ppmより小さく、有利には8ppm〜45ppmであり、特に有利には10ppm〜40ppmである、請求項4記載の水銀高圧放電灯。
【請求項6】
前記アノードの少なくとも一部の領域は円筒状に形成されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の水銀高圧放電灯。
【請求項7】
前記円筒状の領域の径は28mmより大きく、有利には30mm以上であり、特に有利には34mm以上である、請求項6記載の水銀高圧放電灯。
【請求項8】
前記水銀の充填量は1mg/cm〜3mg/cmである、請求項1から7までのいずれか1項記載の水銀高圧放電灯。
【請求項9】
一定の電力によってランプが駆動される場合、前記希ガスの冷間圧は3.5bar以上であり、有利には4bar以上である、請求項1から8までのいずれか1項記載の水銀高圧放電灯。
【請求項10】
変調電力によってランプが駆動される場合、前記希ガスの冷間圧は0.8bar以上であり、有利には1.5bar以上である、請求項1から8までのいずれか1項記載の水銀高圧放電灯。
【請求項11】
ランプの定格出力は4kWより大きく、有利には5kW以上である、請求項1から10までのいずれか1項記載の水銀高圧放電灯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−514118(P2010−514118A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542020(P2009−542020)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2007/064030
【国際公開番号】WO2008/077832
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(504458493)オスラム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (168)
【氏名又は名称原語表記】Osram Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Hellabrunner Strasse 1, D−81543 Muenchen, Germany
【出願人】(509175539)プランゼー メタル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【氏名又は名称原語表記】Plansee Metall GmbH
【住所又は居所原語表記】Metallwerk−Plansee−Strasse 71, A−6600 Reutte, Austria
【Fターム(参考)】