説明

水難溶性薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法

本発明による水難溶性薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法は、水難溶性薬物、カルボキシ末端にアルカリ金属イオンが結合されたポリ乳酸またはその誘導体の塩、及び両親媒性ブロック共重合体を有機溶媒に溶解させる段階;及び有機溶媒に溶解させて得た溶液に水溶液を添加してミセルを形成する段階を含み、ミセルを形成する段階の前に別途の有機溶媒の除去工程を施さないことを特徴とする。上記製造方法は、製造工程が単純であり、且つ製造時間を短縮させることができ、大量生産が容易であるという長所がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水難溶性薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物の静脈投与のために生分解性高分子を利用した超微粒子薬物送達システム(submicronic particulate drug delivery system)が研究されている。近年、生分解性高分子を利用した極小粒子システム(nanoparticle system)及び高分子ミセルシステム(polymeric micelle system)が静脈投与によって投与された薬物の体内分布を変更することで副作用を軽減させ、向上した効能を提供する技術であると報告されている。また、斯かるシステムは、標的化した薬物の送達を可能とするため、目標とする器官、組織または細胞への薬物の放出を調節するようになる。実際に斯かるシステムは、体液との適合性に優れ、水難溶性薬物の可溶化能及び薬物の生体内利用率を向上させるものと知られている。
【0003】
近年、親水性部分と疎水性部分とで構成されたブロック共重合体に薬物を化学的に結合してブロック共重合体ミセルを製造する方法が報告されたことがある。上記ブロック共重合体は、親水性部分(A)と疎水性部分(B)とが重合されてなるA−B型二重ブロック共重合体である。上記ブロック共重合体では、親水性部分(A)としてポリエチレンオキシドを使用し、疎水性部分(B)としてポリアミノ酸類またはポリアミノ酸類に疎水性基を結合させてなるものを使用した。上記ブロック共重合体によって形成された高分子ミセルのコアにアドリアマイシンまたはインドメタシンなどの薬物を物理的に封入させて薬物送達システムとして使用することができる。しかしながら、上記ブロック共重合体によって形成された高分子ミセルは、生体内で加水分解されず酵素によってのみ分解され、免疫反応を誘発するなどの生体適合性に劣るため、生体内への使用時には各種の問題を引き起こす。
【0004】
したがって、このような生分解性及び生体適合性を向上させたコアシェル型薬物送達システムを開発するための多大な努力がなされている。
【0005】
例えば、親水性高分子であるポリアルキレングリコールと疎水性高分子であるポリ乳酸とからなる二重または多重ブロック共重合体が当業界において知られている。より具体的には、上記二重または多重ブロック共重合体の末端基にアクリル酸誘導体を結合させて共重合体を形成する。該形成された共重合体を架橋結合させて高分子ミセルを安定化させるようになる。
【0006】
しかしながら、上記二重または多重ブロック共重合体を製造する方法では、上記高分子が架橋結合にて安定した構造をなすためには、A−BまたはA−B−A型の二重または三重ブロック共重合体の疎水性部分に架橋結合物質(crosslinker)を導入しなければならないという製造上の困難がある。また、上記架橋結合物質は、人体に適用した例がないことから人体安全性が確保されておらず、架橋結合された高分子が生体内で分解されないため、生体内への適用が不可能であるという問題点がある。
【0007】
上記以外にも、高分子ナノ粒子組成物の製造方法として、エマルジョン化法、透析法、溶媒蒸発法が知られている。エマルジョン化法では、水と混合されない溶媒(例えば、メチレンクロライドまたは他の塩化、脂肪族または芳香族溶媒)中にポリ乳酸のような生体適合性不水溶性重合体)を溶解させ、この重合体溶液に薬物を加えて完全に溶かした後、界面活性剤を添加して適合した手段(例えば、高圧乳化装置または超音波生成装置)によって水中油型エマルションを形成し、真空下でエマルジョンを徐々に蒸発させることを含む。上記エマルジョン化法では、エマルジョンを形成させるための設備が必要となるため、製造条件の設定が難しく且つ複雑である。さらには、エマルション化法では、有機溶媒を揮発させる過程を含むことから、時間が長くかかるという短所がある。また、透析法では、多量の水が必要となり、且つ製造時間が長くかかる。溶媒蒸発法では、回転式減圧蒸留装置のような溶媒を除去するための設備が必要となり、且つ溶媒を完全に除去するのに時間が長くかかる。その他にも、溶媒蒸発法では、長時間の間高温に露出する工程を含むことから、薬理成分の破壊または薬理効果の低下といった不具合を生じさせることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国公開特許第2004−0056372号公報
【特許文献2】米国公開特許第2005−0226932号公報
【特許文献3】ヨーロッパ公開特許第0877033号公報
【特許文献4】米国特許第6,210,717号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一実施例の目的は、薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による水難溶性薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法は、水難溶性薬物、カルボキシ末端にアルカリ金属イオンが結合されたポリ乳酸またはその誘導体の塩、及び両親媒性ブロック共重合体を有機溶媒に溶解させる段階;及び有機溶媒に溶解させて得た溶液に水溶液を添加してミセルを形成する段階を含み、ミセルを形成する段階の前に別途の有機溶媒の除去工程を施さないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明による水難溶性薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法では、製造工程が単純であり、且つ製造時間を短縮させることができ、大量生産が容易であるという長所がある。また、低温または室温での製造が可能であるため、薬物の安定性を向上させることができるという長所がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施例を示す図面を参照して該実施例について詳しく説明することとする。しかしながら、本発明は、種々の他の形態を含むことができ、本明細書に記載された実施例に限定されるものではない。実施例は当業者が請求の範囲を完成し且つ十分に伝わるようにするために提供されるものである。本明細書では、広く知られている特徴や技術の詳細事項は不要に本実施例を曖昧にさせないようにするために省略することとする。
【0013】
本明細書において用いる用語は特定の実施例を説明するためのものであり、本発明を限定するためのものではない。本明細書において用いているような単数形の「一つの」、「一つ」、及び「上記」は、文脈上明確に他のものを指示するものでない限り、複数形も含む。また、「一つの」、「一つ」などの用語の使用は量を限定するものではなく、言及したものが少なくとも一つ以上存在することを示す。また、本明細書において用いられた「含む。」及び/または「含む」、または「備える。」及び/または「備える」という用語は、特徴、領域、整数、段階、作動、要素、及び/または構成成分の存在を具体化するものであるが、一つ以上の他の特性、領域、整数、段階、作動、要素、構成成分及び/またはこれらのグループの存在または追加を不可能にするものではないという点が理解できるであろう。
【0014】
本明細書において用いられた全ての用語(技術的及び科学的用語を含む)は、特にこだわりがない限り、当業者に一般に知られている用語と同じ意味を持つ。一般的な辞書において定義されたものと同じ用語は、関連技術及び本発明の文脈において持つ意味に相応する意味を持つものと解釈されなければならない。また、本明細書において明示されていない以上、理想化または過度に形式的に解釈されてはならない。
【0015】
本発明の一実施例による薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法は、
水難溶性薬物、カルボキシ末端にアルカリ金属イオンが結合されたポリ乳酸またはその誘導体の塩、及び両親媒性ブロック共重合体を有機溶媒に溶解させる段階;及び
有機溶媒に溶解させて得た溶液に水溶液を添加してミセルを形成する段階を含み、
上記方法は、ミセルを形成する段階の前に別途の有機溶媒の除去工程を施さないことを特徴とする。
【0016】
より具体的に、本発明による薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法は、薬物及び高分子を水混和性有機溶媒に溶解させた後、水溶液を加えて有機溶媒/水混合溶媒中において高分子ミセルを形成するようになる。したがって、本発明の方法による高分子ミセルナノ粒子組成物は、薬物と、カルボキシ末端にアルカリ金属イオンが結合されたポリ乳酸塩またはポリ乳酸誘導体の塩、及び両親媒性ブロック共重合体を含む。また、上記方法は、製造過程において使用された有機溶媒を除去する別途の工程を施さないという長所がある。
【0017】
また、本発明の一実施例による薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法は、ミセルを形成する段階の後に、2価または3価金属イオンを加える段階をさらに含むことができる。
【0018】
本発明のミセルナノ粒子は、約10〜1,000ナノメートルの粒径を有し、このとき、大半の粒子は、100ナノメートル以下の粒径を有する。かかる小さな粒子サイズは、0.2ミクロンフィルターへの通過を可能にする。
【0019】
本発明の他の一実施例において、上記ミセルを形成する段階の後に、凍結乾燥補助剤を加えて凍結乾燥を施す段階をさらに含むことができる。
【0020】
ミセルを形成する過程中においてミセル溶液内に有機溶媒が存在すると、両親媒性高分子ミセルの疎水性部分と有機溶媒との親和度が高いため、ミセルの脱会合がより生じやすくなり、これにより疎水性薬物分子の析出を加速化させるようになる。上記のような理由から、従来から知られている高分子ミセルを製造する方法では、薬物と高分子を有機溶媒に溶解し、有機溶媒を除去した後、水溶液を加えてミセルを形成していた。しかしながら、上記方法では、有機溶媒を除去するのに時間が長くかかり、減圧蒸留装置のような別途の設備が必要となる。また、有機溶媒の除去工程を施しても完全に除去されずに反応系内に有機溶媒が残留することがある。そして、有機溶媒の除去過程の間、薬物が長時間高温に露出するため、該薬物が分解してしまうおそれもある。
【0021】
本発明の一実施例では、ミセルの形成過程中において高温で有機溶媒を除去する代わりに、低温でミセルを形成することもできる。一般に、高分子ミセルは、温度が高くなると高分子の単一体の運動エネルギーが増大し、高分子の会合体が脱会合しやすくなる。それにより、ミセルの疎水性核に存在する疎水性薬物分子が水相と接触しやすくなり、薬物結晶が生成されて析出するようになる。逆に、本発明は、有機溶媒の揮発を必要としないため、薬物の分解を防止する。また、本発明による方法は、低温で施されるため、高分子ミセルの安定性が保持される。
【0022】
一実施例において、0ないし60℃、具体的には、0ないし50℃、より具体的には、0ないし40℃の温度で有機溶媒内の薬物/両親媒性高分子混合物に水溶液を加えて高分子ミセルを形成することを特徴とする。
【0023】
本発明のように有機溶媒を除去せずに一定の濃度以上に存在させても、低温を保持してミセルを形成する場合は、薬物の析出を阻止することができる。これは、低い温度では両親媒性高分子及び有機溶媒分子の動的エネルギーが減少し、両親媒性高分子ミセルの疎水性部分に存在する薬物が水相に露出しにくくなるためである。
【0024】
一実施例において、水難溶性薬物は、水に対する溶解度が100mg/mL以下の薬物から選択すればよい。
【0025】
また他の一実施例において、上記水難溶性薬物は、抗癌剤から選択すればよく、具体的に、水難溶性薬物は、タキサン抗癌剤から選択すればよい。例えば、上記タキサン抗癌剤は、パクリタキセル(paclitaxel)、ドセタキセル(docetaxel)、7−エピパクリタキセル(7−epipaclitaxel)、t−アセチルパクリタキセル(t−acetyl paclitaxel)、10−デスアセチルパクリタキセル(10−desacetyl−paclitaxel)、10−デスアセチル−7−エピパクリタキセル(10−desacetyl−7−epipaclitaxel)、7−キシロシルパクリタキセル(7−xylosylpaclitaxel)、10−デスアセチル−7−グルタリルパクリタキセル(10−desacetyl−7−glutarylpaclitaxel)、7−N,N−ジメチルグリシルパクリタキセル(7−N,N−dimethylglycylpaclitaxel)及び7−L−アラニルパクリタキセル(7−L−alanyl paclitaxel)、またはそれらの混合物を含むことができる。より具体的に、タキサン抗癌剤は、パクリタキセルまたはドセタキセルであってよい。
【0026】
本方法の一実施例において、上記両親媒性ブロック共重合体は、親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)がA−B構造の形態で互いに連結され、非イオン性の二重ブロック共重合体を含む。また、上記両親媒性ブロック共重合体は、水溶液条件でコアシェル形態の高分子ミセルを形成し、当該疎水性ブロック(B)はコアを形成し、親水性ブロック(A)はシェルを形成する。
【0027】
本方法の他の一実施例において、上記両親媒性ブロック共重合体の親水性ブロック(A)は、水に溶ける高分子であって、具体的に、ポリアルキレングリコール(polyalkyleneglycol)、ポリビニルアルコール(polyvinylalcohol)、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone)、ポリアクリルアミド(polyacrylamide)、及びそれらの誘導体からなる群より選ばれた一つ以上を含む。具体的に、親水性ブロック(A)は、ポリアルキレングリコール、モノメトキシポリアルキレングリコール(monomethoxypolyalkyleneglycol)、モノアセトキシポリアルキレングリコール(monoacetoxy polyalkyleneglycol)、ポリエチレン−co−プロピレングリコール(polyethylene−co−propyleneglycol)及びポリビニルピロリドンからなる群より選ばれた一つ以上を含む。より具体的に、親水性ブロック(A)は、ポリエチレングリコール、モノメトキシポリエチレングリコール、モノアセトキシポリエチレングリコール、及びポリエチレン−co−プロピレングリコールからなる群より選ばれた一つ以上であってよい。より具体的に、親水性ブロック(A)は、ポリエチレングリコール、モノメトキシポリエチレングリコール、モノアセトキシポリエチレングリコール、及びポリエチレン−co−プロピレングリコールからなる群より選ばれた一つ以上であってよい。
【0028】
また、上記方法において使用された親水性ブロック(A)は、数平均分子量が500〜50,000ダルトンであり、具体的には、1,000〜20,000ダルトン、より具体的には、1,000〜10,000ダルトンである。
【0029】
上記両親媒性ブロック共重合体の疎水性ブロック(B)は、水に溶けず且つ生体適合性に優れた生分解性の高分子であってよい。例えば、疎水性ブロック(B)は、ポリエステル(polyester)、ポリ酸無水物(polyanhydride)、ポリアミノ酸(polyamino acid)、ポリオルトエステル(polyorthoester)、ポリホスファジン(polyphosphazine)などからなる群より選ばれた一つ以上であってよい。より具体的に、疎水性ブロック(B)は、ポリラクチド(polylactide)、ポリグリコリド(polyglycolide)、ポリカプロラクトン(polycaprolactone)、ポリジオキサン−2−オン(polydioxan−2−one)、ポリ乳酸−co−グリコリド(polylactic−co−glycolide)、ポリ乳酸−co−ジオキサン−2−オン(polylactic−co−dioxane−2−one)、ポリ乳酸−co−カプロラクトン(polylactic−co−caprolactone)、及びポリグリコール酸−co−カプロラクトン(polyglycolic−co−caprolactone)からなる群より選ばれたものであってよい。上記疎水性ブロック(B)のヒドロキシ末端は、脂肪酸基で置換されていてもよい。また、上記脂肪酸基は、ブチル酸基、プロピオン酸基、酢酸基、ステアリン酸基、パルミチン酸基、コレステロール基及びトコフェロール基からなる群より選ばれた一つ以上であってよい。
【0030】
上記両親媒性ブロック共重合体の疎水性ブロック(B)は、数平均分子量が500〜50,000ダルトンが好ましく、具体的には、1,000〜20,000ダルトン、より具体的には、1,000〜10,000ダルトンである。
【0031】
また他の一実施例において、水溶液状状で安定した高分子ミセルを形成するために、上記両親媒性ブロック共重合体の親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)との組成比(親水性ブロック(A):疎水性ブロック(B))は、重量比を基準に、3:7ないし8:2であり、より具体的には、4:6ないし7:3である。親水性ブロック(A)の比率が上記範囲未満である場合には、高分子が水溶液中において高分子ミセルを形成することができない。これに対し、親水性ブロック(A)の比率が上記範囲を超える場合には、親水性が高くなりすぎて安定性が低下する。
【0032】
また、上記カルボキシ酸末端にアルカリ金属イオンが結合されたポリ乳酸塩またはその誘導体の塩において、ポリ乳酸またはその誘導体は、例えば、ポリ乳酸、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリマンデル酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサン−2−オン、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリ酸無水物、及びそれらの共重合体からなる群より選ばれた一つ以上であればよい。具体的に、ポリ乳酸またはその誘導体は、ポリ乳酸、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、またはポリジオキサン−2−オンである。より具体的に、上記ポリ乳酸またはその誘導体は、ポリ乳酸、ポリラクチド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸−co−マンデル酸、ポリ乳酸−co−グリコリド、ポリ乳酸−co−カプロラクトン、及びポリ乳酸−co−1,4−ジオキサン−2−オンからなる群より選ばれる一つ以上であってよい。
【0033】
一実施例において、上記カルボキシ酸末端にアルカリ金属イオンが結合されたポリ乳酸塩またはその誘導体の塩は、一方の末端が一つ以上のカルボキシ酸塩を含み、他方の末端はヒドロキシ、アセトキシ、ベンゾイルオキシ、デカノイルオキシ、パルミトイルオキシ(palmitoyloxy)、及びアルコキシからなる群より選ばれる一つ以上を含む。また、上記カルボキシ酸塩は、pH4以上の水溶液において親水性基として作用し、水溶液において高分子ミセルを形成する。
【0034】
一実施例において、上記アルカリ金属イオンは、ナトリウム、カリウム、またはリチウムの1価金属イオンであればよい。また、上記ポリ乳酸またはその誘導体の塩は、室温下において固体状態で存在し、pHが中性であるため、空気中の水分に露出しても極めて安定している。
【0035】
上記カルボキシ酸末端にアルカリ金属イオンが結合されたポリ乳酸またはその誘導体の塩は、両親媒性ブロック共重合体からなるミセルに加えられてミセルの内部を硬くすることにより、ミセル内の薬物封入効率を向上させる。上記ポリ乳酸またはその誘導体の塩は、水溶液に溶解されることでポリ乳酸などの分子内に存在する親水性部分と疎水性部分とがバランスをとりながらミセルを形成する。これにより、疎水性を示すエステル部分の分子量が大きくなると、親水性を示す末端のカルボキシ酸陰イオンどうしの会合が難しくなることでミセルが形成されにくくなる。これに対し、疎水性エステル部分の分子量が過度に小さくなると、高分子の塩が水に完全に溶解されることでミセルが形成されにくくなる。例えば、pH4以上でミセルを形成することができるポリ乳酸またはその誘導体の数平均分子量は、500〜5,000、具体的に、500〜2,500ダルトンである。分子量が500ダルトン未満であると、ポリ乳酸またはその塩が水に完全に溶解されることでミセルが形成されにくくなる。分子量が5,000ダルトンを超えると、ポリ乳酸またはその誘導体の疎水性が高くなりすぎて水溶液への溶解さえ難しくなり、ミセルを形成することができなくなる。このようなポリ乳酸またはその誘導体の分子量は、製造の際に反応温度及び時間などを適切に調節してなし得る。
【0036】
具体的な一実施例において、上記カルボキシ酸末端にアルカリ金属イオンが結合されたポリ乳酸またはその誘導体の塩は、下記の一般式1で示すことができる。
【0037】
【化1】

【0038】
(上記式中、
Aは、
【0039】
【化2】

【0040】
であり、
Bは、
【0041】
【化3】

【0042】
であり、
Rは、水素、アセチル基、ベンゾイル基、デカノイル基、パルミトイル基、メチル基、またはエチル基であり、
Z及びYは、独立して、水素、メチル基、またはフェニル基であり、
Mは、ナトリウム、カリウム、またはリチウムであり、
nは、1〜30の整数であり、
mは、0〜20の整数である。)
【0043】
より具体的には、上記ポリ乳酸またはその誘導体の塩は、下記の一般式2で示すことができる。
【0044】
【化4】

【0045】
(上記式中、
Xは、メチル基であり、
Y'は、水素またはフェニル基であり、
pは、0〜25の整数であり、
qは、0〜25の整数であり、
ただし、p+qは、5〜25の整数である。)
【0046】
また他の一実施例において、末端基中の一つに一つ以上のカルボキシ酸塩を有するポリ乳酸またはその誘導体の塩は、下記の一般式3または4で示すことができる。
【0047】
【化5】

【0048】
上記式中、
W−Mは、
【0049】
【化6】

【0050】
であり、
PLAは、D,L−ポリ乳酸、D−ポリ乳酸、ポリマンデル酸、ポリ−D,L−乳酸−co−グリコリド、ポリ−D,L−乳酸−co−マンデル酸、ポリ−D,L−乳酸−co−カプロラクトン、またはポリ−D,L−乳酸−co−1,4−ジオキサン−2−オンである。
【0051】
【化7】

【0052】
上記式中、
Sは、
【0053】
【化8】

【0054】
であり、
Lは、−NR1−または−O−であり、
1は、水素またはC1〜C10のアルキルであり、
Qは、CH3、CH2CH3、CH2CH2CH3、CH2CH2CH2CH3、またはCH265であり、
Mは、ナトリウム、カリウム、またはリチウムであり、
aは、0〜4の整数であり、
bは、1〜10の整数であり、
PLAは、D,L−ポリ乳酸、D−ポリ乳酸、ポリマンデル酸、ポリ−D,L−乳酸−co−グリコリド、ポリ−D,L−乳酸−co−マンデル酸、ポリ−D,L−乳酸−co−カプロラクトン、またはポリ−D,L−乳酸−co−1,4−ジオキサン−2−オンである。
【0055】
例えば、上記方法に使用される有機溶媒は、水混和性有機溶媒であってよく、アルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、酢酸、アセトニトリル及びジオキサンからなる群より選ばれる一つ以上であってよい。本発明において高分子及び薬物を溶解するためには有機溶媒の使用が必要であるが、有機溶媒は、ミセルの安定性を落として薬物の析出を促進させるため、本発明では少量の有機溶媒だけを使用することを特徴とする。一実施例において、有機溶媒は、高分子ミセルナノ粒子組成物の全重量を基準に、0.5ないし30重量%、具体的には、0.5ないし15重量%、より具体的には、1ないし10重量%の含量で使用されていてよい。使用される有機溶媒の含量が0.5重量%未満の場合には、薬物を有機溶媒に溶かしにくい。使用される有機溶媒の含量が30重量%を超える場合には、再構成時に薬物が析出され得る。
【0056】
本発明の水難溶性薬物は、高分子と同時に、または順次に有機溶媒に溶解すればよい。
【0057】
本発明の方法による上記水難溶性薬物、ポリ乳酸またはその誘導体の塩、及び両親媒性ブロック共重合体を有機溶媒に溶解させる段階において、薬物と高分子とを有機溶媒に同時に添加して溶解させることができる。あるいは、高分子を先に有機溶媒に溶解させてから薬物を溶解させるか、または薬物を先に有機溶媒に溶解させてから高分子を添加して溶解させることができる。水難溶性薬物、ポリ乳酸またはその誘導体の塩、及び両親媒性ブロック共重合体は、薬物の分解を防止する任意の温度下において有機溶媒に溶解されていてよい。上記温度は、0ないし60℃、具体的には、0ないし50℃、より具体的には、0ないし40℃の範囲であればよいが、必ずしもこれに制限されるものではない。
【0058】
本発明の一実施例による薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法は、
カルボキシ末端にアルカリ金属イオンが結合されたポリ乳酸またはその誘導体の塩、及び両親媒性ブロック共重合体を有機溶媒に溶解させる段階;
有機溶媒に溶解させて得た高分子溶液に水難溶性薬物を溶解させる段階;及び
高分子溶液に水難溶性薬物を溶解させて得た溶液に水溶液を添加して高分子ミセルを形成する段階を含み、
上記薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法は、ミセルを形成する段階の前に別途の有機溶媒の除去工程を施さないことを特徴とする。
【0059】
本方法において使用される水溶液は、通常の水、蒸留水、注射用蒸留水、生理食塩水、5%ブドウ糖、緩衝液などを含むことができる。
【0060】
上記高分子ミセルは、0ないし60℃、具体的に、0ないし50℃、より具体的に、0ないし40℃の温度で水溶液を加えて形成すればよい。
【0061】
一実施例において、上記薬物含有ミセルナノ粒子組成物の製造方法は、ミセルを形成する段階の後に、2価または3価の金属イオンを付加する段階をさらに含むことができる。上記2価または3価の金属イオンは、カルシウム(Ca2+)、マグネシウム(Mg2+)、バリウム(Ba2+)、クロム(Cr3+)、鉄(Fe3+)、マンガン(Mn2+)、ニッケル(Ni2+)、銅(Cu2+)、亜鉛(Zn2+)、及びアルミニウム(Al3+)からなる群より選ばれていてよい。また他の一実施例において、上記2価または3価の金属イオンは、硫酸塩、塩酸塩、炭酸塩、リン酸塩、及び水酸化物の形態で上記両親媒性ブロック共重合体及びポリ乳酸またはその誘導体の塩の混合高分子組成物に添加され、具体的には、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化亜鉛(ZnCl2)、塩化アルミニウム(AlCl3)、塩化鉄(FeCl3)、炭酸カルシウム(CaCO3)、炭酸マグネシウム(MgCO3)、リン酸カルシウム(Ca3(PO42)、リン酸マグネシウム(Mg3(PO42)、リン酸アルミニウム(AlPO4)、硫酸マグネシウム(MgSO4)、水酸化カリウム(Ca(OH)2)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、または水酸化亜鉛(Zn(OH)2)の形態で添加されていてよい。
【0062】
また、上記2価または3価の金属イオンは、上記ポリ乳酸またはその誘導体の塩のカルボキシ末端基の当量に対し、0.001ないし10当量、具体的に、0.5ないし2.0当量で使用されていてよい。
【0063】
具体的な一実施例において、上記2価または3価金属イオンは、両親媒性ブロック共重合体及びポリ乳酸またはその誘導体の塩を混合して形成された高分子ミセルの安定性をより向上させるために添加されていてよい。上記2価または3価金属イオンは、ポリ乳酸またはその誘導体の塩の末端カルボキシ基と結合して、2価または3価金属イオンが結合された高分子ミセルナノ粒子を形成する。上記2価または3価金属イオンは、上記高分子ミセル内のポリ乳酸カルボキシ末端基の1価金属陽イオンと置換反応してイオン結合を形成する。金属イオンによって形成されたイオン結合は、強い結合力によって高分子ミセルの安定性をさらに向上させる役割をする。
【0064】
他の一実施例において、高分子ミセルを形成した後、ミセル組成物に凍結乾燥補助剤を添加して凍結乾燥させることができる。具体的に、上記凍結乾燥補助剤は、糖、糖アルコール、及びそれらの混合物からなる群より選ばれた一つ以上であればよい。上記糖は、ラクトース、マルトース、スクロース、トレハロース、及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる一つ以上であってよい。上記糖アルコールは、マンニトール、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、ラクチトール、及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる一つ以上であってよい。上記凍結乾燥補助剤は、凍結乾燥された組成物がケーキ形態を保持できるようにするために添加される。また、上記凍結乾燥補助剤は、凍結乾燥された高分子ミセルナノ粒子組成物を再構成する過程において早期に均一に溶けることを助ける作用をする。本文脈において、凍結乾燥補助剤は、凍結乾燥された組成物の全重量を基準に、1ないし90重量%、より具体的には、10ないし60重量%の含量で使用されていてよい。
【0065】
上記水難溶性薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物において、上記両親媒性ブロック共重合体及びポリ乳酸またはその誘導体の塩の総含量に対する水難溶性薬物の重量比は、0.1ないし50.0:50.0ないし99.9、具体的に、0.1ないし20.0:80.0ないし99.9である。水難溶性薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物は、両親媒性ブロック共重合体及びポリ乳酸またはその誘導体の塩を含む全重量に対し、0.1ないし99.9重量%の両親媒性ブロック共重合体及び0.1ないし99.9重量%のポリ乳酸またはその誘導体の塩を含むことができる。具体的に、高分子ミセルナノ粒子組成物は、20ないし95重量%の両親媒性ブロック共重合体及び5ないし80重量%のポリ乳酸またはその誘導体の塩を含むことができる。より具体的には、50ないし90重量%の両親媒性ブロック共重合体及び10ないし50重量%のポリ乳酸またはその誘導体の塩を含むことができる。
【0066】
本発明による水難溶性薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法は、製造工程が単純であり、且つ製造時間を短縮させることができ、大量生産が容易であるという長所がある。また、上記製造方法では、低温または室温での製造が可能であるため、薬物の安定性を向上させることができるという長所がある。
【0067】
また他の一実施例において、薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物は、防腐剤、安定化剤、水和剤または乳化促進剤、浸透圧調節のための塩及び/または緩衝剤等の薬剤学的補助剤、及びその他治療的に有用な物質をさらに含んでいてよい。上記組成物は、当業界において一般に知られている通常的な方法にて様々な経口または非経口投与形態で剤形化することができる。
【0068】
非経口投与用剤形では、直腸、局所、経皮、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下等に投与することができ、非経口剤形の代表的なものは、等張性水溶液または懸濁液の形態の注射用剤形である。本発明の一実施例において、上記組成物は凍結乾燥形態で製造すればよく、注射用蒸留水、5%ブドウ糖及び生理食塩水等で再構成して血管に注射する形態で投与すればよい。
【0069】
経口投与用剤形は、錠剤、丸剤、硬質及び軟質カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳化剤、シロップ剤、顆粒剤等を含む。これらの剤形は、有効成分の他、希釈剤(例:ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース及びグリシン)、滑剤(例:シリカ、タルク、ステアリン酸、及びそのマグネシウムまたはカルシウム塩及びポリエチレングリコール)を含有していてよい。錠剤もまた、マグネシウムアルミニウムシリケート、澱粉ペースト、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、及びポリビニルピロリジンのような結合剤を含有していてよい。必要に応じては、澱粉、寒天、アルギン酸、またはそのナトリウム塩のような崩解剤、吸収剤、着色剤、香味剤、及び甘味剤等の薬剤学的添加剤を含有していてよい。錠剤は、通常的な混合、顆粒化、またはコーティング方法にて製造することができる。また、非経口投与用剤形の典型的なものは、等張性水溶液または懸濁液のような注射用剤形を含む。
【0070】
以下、下記の実施例及び実験例を通じて本発明をより詳しく説明するが、これらは、本発明を説明するためのものに過ぎず、これらによって本発明の範囲が何ら制限されるものではない。
【0071】
本発明の一実施例において使用される両親媒性ブロック共重合体及びカルボキシ酸末端にアルカリ金属イオンが結合されたポリ乳酸塩またはその誘導体は、国際特許公開第03/033592号に開示された方法によって製造した。上記出願は、その全体が本明細書に参照として取り込まれる。
【実施例】
【0072】
[実施例1〜3]ドセタキセル含有高分子ミセルナノ粒子の製造
両親媒性ブロック共重合体として、数平均分子量が2,000〜1,766ダルトンのモノメトキシポリエチレングリコール−ポリラクチドを製造した。また、数平均分子量が1,800ダルトンのD,L−PLA−COONaを製造した。
【0073】
下の表1に表すような含量にて両親媒性ブロック共重合体及びポリ乳酸塩を60℃で完全に溶融させた後、エタノール2.5mLを加えて完全に混合した。混合物の温度を30℃に下げてからドセタキセルを加え、ドセタキセルが完全に溶けて透明な溶液になるまで撹拌した。溶液の温度を25℃に下げてから室温の精製水40.0mLを加え、青色の透明な溶液になるまで反応させて高分子ミセルナノ粒子を形成した。これに塩化カルシウムを加えてミセルナノ粒子を形成した。上記高分子ミセルナノ粒子溶液に凍結乾燥化剤としてD−マンニトールを加えて完全に溶かしてから、孔径200nmのフィルターにて濾過した後、凍結乾燥して粉末状のドセタキセル含有高分子ミセルナノ粒子組成物を製造した。
【0074】
【表1】

【0075】
[実施例4〜6]パクリタキセル高分子ミセルナノ粒子の製造
両親媒性ブロック共重合体として、数平均分子量が2,000〜1,766ダルトンのモノメトキシポリエチレングリコール−ポリラクチドを製造した。また、数平均分子量が1,800ダルトンのD,L−PLA−COONaを製造した。
【0076】
下の表2に表すような含量にて両親媒性ブロック共重合体及びポリ乳酸塩を80℃で撹拌して完全に溶融させた後、エタノールを加えて完全に混合した。上記高分子エタノール溶液にパクリタキセルを加え、パクリタキセルが完全に溶けて透明な溶液になるまで撹拌した。溶液の温度を50℃に下げてから室温の精製水40.0mLを加え、青色の透明な溶液になるまで反応させて、高分子ミセルナノ粒子を形成した。これに塩化カルシウム水溶液を加え、パクリタキセル含有高分子ミセルナノ粒子を形成させた。上記高分子ミセルナノ粒子溶液に凍結乾燥化剤としてD−マンニトールを加えて完全に溶かしてから、孔径200nmのフィルターにて濾過した後、凍結乾燥して粉末状のパクリタキセル含有高分子ミセルナノ粒子組成物を製造した。
【0077】
【表2】

【0078】
[比較例1]溶媒蒸発法を用いたドセタキセル含有高分子ミセルナノ粒子の製造
実施例3と同じ含量にてドセタキセル、両親媒性ブロック共重合体、及びポリ乳酸塩を用意した。ドセタキセルと高分子にエタノール5mlを加え、完全に溶けて透明な溶液になるまで60℃で撹拌した。次いで、丸底フラスコが装着された回転式減圧蒸留装置を利用して60℃で3時間減圧蒸留してエタノールを除去した。混合物の温度を25℃に下げてから室温の精製水4mlを加え、青色の透明な溶液になるまで反応させて、高分子ミセルナノ粒子を形成した。これに塩化カルシウム水溶液を加え、高分子ミセルナノ粒子を形成した。次いで、高分子ミセルナノ粒子溶液に凍結乾燥化剤としてD−マンニトール100mgを加えて完全に溶かした後、孔径200nmのフィルターにて濾過し、凍結乾燥して粉末状のドセタキセル含有高分子ミセルナノ粒子組成物を製造した。
【0079】
[比較例2]溶媒蒸発法を用いたパクリタキセル含有高分子ミセルナノ粒子の製造
実施例6と同じ含量にてパクリタキセル、両親媒性ブロック共重合体及びポリ乳酸塩を用意した。パクリタキセルと高分子にエタノール5mlを加え、完全に溶けて透明な溶液になるまで60℃で撹拌した。次いで、丸底フラスコが装着された回転式蒸留装置を利用して60℃で3時間減圧蒸留してエタノールを除去した。混合物の温度を50℃に下げてから室温の精製水5mlを加え、青色の透明な溶液になるまで反応させて、高分子ミセルナノ粒子を形成した。これに塩化カルシウム水溶液を加え、高分子ミセルナノ粒子を形成した。次いで、高分子ミセルナノ粒子溶液に凍結乾燥化剤として無水乳糖100mgを加えて完全に溶かした後、孔径200nmのフィルターにて濾過し、凍結乾燥して粉末状のパクリタキセル含有高分子ミセルナノ粒子組成物を製造した。
【0080】
[比較例3]溶媒蒸発法を用いたドセタキセル含有高分子ミセルナノ粒子の製造
上記実施例3の表1に表したような含量にて用意したポリ乳酸塩及び両親媒性ブロック共重合体を60℃で完全に溶融させた後、無水エタノール5.0mLを加えて完全に混合した。混合物の温度を30℃に下げてからドセタキセルを加え、ドセタキセルが完全に溶けて透明な溶液になるまで撹拌した。そして、丸底フラスコが装着された回転式減圧蒸留装置を利用して減圧蒸留してエタノールを除去した。混合物の温度を25℃に下げてから室温の精製水を加え、青色の透明な溶液になるまで反応させて、高分子ミセルナノ粒子を形成した。これに塩化カルシウム水溶液を加え、高分子ミセルナノ粒子を形成した。次いで、高分子ミセルナノ粒子溶液に凍結乾燥化剤としてD−マンニトールを加えて完全に溶かした後、孔径200nmのフィルターにて濾過し、凍結乾燥して粉末状のドセタキセル含有高分子ミセルナノ粒子組成物を製造した。
【0081】
[比較例4]溶媒蒸発法を用いたパクリタキセル含有高分子ミセルナノ粒子の製造
上記実施例6の表2に表したような含量にて用意したポリ乳酸塩及び両親媒性ブロック共重合体を60℃で完全に溶融させた後、エタノール5.0mLを加えて完全に混合した。上記混合物にパクリタキセルを加え、パクリタキセルが完全に溶けて透明な溶液になるまで撹拌した。そして、丸底フラスコが装着された回転式減圧蒸留装置を利用して減圧蒸留してエタノールを除去した。室温の精製水を加え、混合物を青色の透明な溶液になるまで反応させて、高分子ミセルナノ粒子を形成した。これに塩化カルシウム水溶液を加え、高分子ミセルナノ粒子を形成した。次いで、高分子ミセルナノ粒子溶液に凍結乾燥化剤としてD−マンニトールを加えて完全に溶かした後、孔径200nmのフィルターにて濾過し、凍結乾燥して粉末状のパクリタキセル含有高分子ミセルナノ粒子組成物を製造した。
【0082】
[比較例5]高温でのミセルナノ粒子の製造
実施例1の含量及び方法どおりにドセタキセル含有高分子ミセルナノ粒子組成物を製造するが、エタノール溶液を加えた後、温度を70℃に保ちながら高分子ミセルナノ粒子を形成した。次いで、実施例1と同法にて凍結乾燥して、凍結乾燥されたミセルナノ粒子組成物を得た。
【0083】
[比較例6]高温でのミセルナノ粒子の製造
実施例6の含量及び方法どおりにパクリタキセル含有高分子ミセルナノ粒子組成物を製造するが、エタノール溶液を加えた後、温度を70℃に保ちながら高分子ミセルナノ粒子を形成した。次いで、実施例6と同法にて凍結乾燥して、凍結乾燥されたミセルナノ粒子組成物を得た。
【0084】
[実施例7]ドセタキセル含有高分子ミセルナノ粒子の製造
実施例1に示したような含量にて用意した両親媒性ブロック共重合体及びポリ乳酸塩を60℃で完全に溶融させた後、エタノール2.5mLを加えて完全に混合した。混合物の温度を30℃に下げた。次いで、ドセタキセルを加え、ドセタキセルが完全に溶けて透明な溶液になるまで混合物を撹拌した。結果溶液の温度を25℃に下げてから室温の精製水40.0mLを加え、反応混合物を青色の透明な溶液になるまで反応させて、ミセルナノ粒子を形成した。本実施例では、塩化カルシウムを加えていない。凍結乾燥化剤としてD−マンニトール高分子ミセル溶液に加えて完全に溶かした後、孔径200nmのフィルターにて濾過し、凍結乾燥して粉末状のドセタキセル含有高分子ミセルナノ粒子組成物を製造した。
【0085】
[実施例8]パクリタキセル含有高分子ミセルナノ粒子の製造
実施例4に示したような含量にて用意した両親媒性ブロック共重合体及びポリ乳酸塩を80℃で撹拌して完全に溶融させた後、エタノールを加えて完全に混合した。上記高分子エタノール溶液にパクリタキセルを加え、パクリタキセルが完全に溶けて透明な溶液になるまで撹拌した。結果溶液の温度を50℃に下げてから室温の精製水40.0mLを加え、青色の透明な溶液になるまで反応させて、ミセルナノ粒子を形成した。本実施例では、塩化カルシウムを加えていない。凍結乾燥化剤としてD−マンニトールを加えて完全に溶かした後、孔径200nmのフィルターにて濾過し、凍結乾燥して粉末状のパクリタキセル含有高分子ミセルナノ粒子組成物を製造した。
【0086】
[実験例1]薬物封入量の測定
実施例1〜3及び比較例1及び3のドセタキセル含有高分子ミセルナノ粒子組成物を、表3に表したHPLC条件によって各組成物内のドセタキセルの濃度を測定した。次式1にて薬物の含量(封入量)を計算し、その結果を表4に表した。
封入量(%)=(ドセタキセル測定値/ドセタキセル使用量)×100
【0087】
【表3】

【0088】
【表4】

【0089】
上記表4から分かるように、有機溶媒を除去せずに凍結乾燥した実施例1ないし3に係る組成物のドセタキセルの含量は、ほぼ100%であった。これに対し、有機溶媒の除去後に凍結乾燥した比較例1に係る組成物のドセタキセルの含量は、78.5%であった。これは、比較例1の溶媒蒸発法による方法にて高分子ミセルナノ粒子を製造した場合、高温での有機溶媒の揮発過程でドセタキセルが分解されることが分かる。
【0090】
また、30℃で有機溶媒を除去してから凍結乾燥した比較例3に係る組成物は、ほぼ同じドセタキセルの含量を示した。このことから、本発明による方法では、有機溶媒を除去する別途の工程を省略することで工程を単純化しつつも、薬物封入量の面において従来の溶媒蒸発法とほぼ同じ結果が得られることが分かる。
【0091】
[実験例2]粒径の測定
実施例4〜6、及び比較例2及び4のパクリタキセル含有高分子ミセルナノ粒子組成物を生理食塩水にて再構成してから適当な濃度に希釈し、粒子測定器(particle size analyzer、DLS)にて各再構成された組成物内の粒子の粒径を測定した。その結果を下表5に表した。
【0092】
【表5】

【0093】
上記表5の結果から分かるように、実施例4ないし6の有機溶媒を除去せずに凍結乾燥した組成物と、比較例2及び4の有機溶媒を除去してから凍結乾燥した組成物との水溶液中の粒子の粒径にはほとんど差がなかった。
【0094】
[実験例3]安定性の実験
実施例6によるパクリタキセル含有高分子ナノ粒子組成物と比較例2によるパクリタキセル含有高分子ナノ粒子組成物に対し、37℃水溶液における安定性を比較した。
【0095】
実施例6及び比較例2による各組成物を生理食塩注射液中にパクリタキセル濃度が1mg/mlになるように希釈した。各希釈された溶液を37℃で放置しながら、ナノ粒子内に含まれているパクリタキセルの濃度を時間経過につれてHPLCにて測定した。HPLC分析条件は、表3に表した条件と同一にした。その結果を表6に表した。
【0096】
【表6】

【0097】
上記表6の結果から分かるように、実施例6の有機溶媒を除去せずに凍結乾燥した組成物と、比較例2の有機溶媒を除去してから凍結乾燥した組成物との水溶液の安定性には、24時間の間ほとんど差がなかった。
【0098】
[実験例4]
実施例1と比較例5によるドセタキセル含有高分子ミセルナノ粒子組成物に対し、ドセタキセルの含量及び関連化合物の含量を比較した。ドセタキセルの含量は表3に表したHPLC条件にて、関連化合物の含量は表7に表したHPLC条件にてそれぞれ測定した。その結果を表8に表した。
【0099】
【表7】

【0100】
【表8】

上記結果から分かるように、高温で製造した場合、実施例1に比べてドセタキセルの関連化合物が10倍以上増加し、ミセル内のドセタキセルの含量が減少した。これは、高温の工程条件によって薬物が分解されることを意味する。
【0101】
[実験例5]
実施例6によるパクリタキセル含有高分子ミセルナノ粒子組成物と比較例6によるパクリタキセル含有高分子ミセルナノ粒子組成物に対し、パクリタキセルの含量を比較した。パクリタキセルの含量は、表3に表したHPLC条件にて測定した。しかる後、次式2にて薬物の含量(封入量)を計算し、その結果を表9に表した。
封入量(%)=(パクリタキセル測定値/パクリタキセル使用量)×100
【0102】
【表9】

【0103】
上記結果から分かるように、比較例6に従い有機溶媒の存在下で水を加えて得た高分子ナノ粒子組成物では、70℃の高温を保つ間に薬物の析出を観察することができた。滅菌濾過及び凍結乾燥後の比較例6のパクリタキセルの含量は、実施例6のパクリタキセルの含量に比べて約20%減少した。
【0104】
以上、実施例を図示し説明したが、当業者ならば、請求項に開示された本質及び範囲を逸脱することなく、その形態及び詳細事項において様々な変化がなされ得ることが理解できるであろう。
【0105】
これに加え、本発明の必須範囲を逸脱することなく、本発明の開示に特定の状況または材料を適用して種々の変形がなされ得る。それゆえに、本発明は、本発明を遂行する最善の形態として開示された特定の実施例に限定されるものではなく、本発明は、請求の範囲内に該当するすべての実施を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法であって、
水難溶性薬物、カルボキシ末端にアルカリ金属イオンが結合されたポリ乳酸またはその誘導体の塩、及び両親媒性ブロック共重合体を有機溶媒に溶解させる段階;及び
有機溶媒に溶解させて得た溶液に水溶液を添加してミセルを形成する段階を含み、
前記方法は、ミセルを形成する段階の前に別途の有機溶媒の除去工程を施さないことを特徴とする薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法。
【請求項2】
水難溶性薬物、カルボキシ末端にアルカリ金属イオンが結合されたポリ乳酸またはその誘導体の塩、及び両親媒性ブロック共重合体を有機溶媒に溶解させる段階は、
カルボキシ末端にアルカリ金属イオンが結合されたポリ乳酸またはその誘導体の塩、及び両親媒性ブロック共重合体を有機溶媒に溶解させる段階;及び
有機溶媒に溶解させて得た高分子溶液に水難溶性薬物を溶解させる段階を含むことを特徴とする、請求項1に記載の薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法。
【請求項3】
ミセルを形成する段階の後に、2価または3価金属イオンを加える段階をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法。
【請求項4】
前記請求項1または2に記載のミセルを形成する段階の後に、または前記請求項3に記載の金属イオンを加える段階の後に、凍結乾燥補助剤を加えて凍結乾燥を施す段階をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに一項に記載の薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法。
【請求項5】
有機溶媒に溶解させて得た溶液に水溶液を添加してミセルを形成する段階は、0℃ないし60℃で行われることを特徴とする、請求項1に記載の薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法。
【請求項6】
前記水難溶性薬物は、水に対する溶解度が100mg/mL以下であることを特徴とする、請求項1に記載の薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法。
【請求項7】
前記水難溶性薬物は、タキサン抗癌剤であることを特徴とする、請求項6に記載の薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法。
【請求項8】
前記タキサンは、パクリタキセル(paclitaxel)、ドセタキセル(docetaxel)、7−エピパクリタキセル(7−epipaclitaxel)、t−アセチルパクリタキセル(t−acetyl paclitaxel)、10−デスアセチルパクリタキセル(10−desacetyl−paclitaxel)、10−デスアセチル−7−エピパクリタキセル(10−desacetyl−7−epipaclitaxel)、7−キシロシルパクリタキセル(7−xylosylpaclitaxel)、10−デスアセチル−7−グルタリルパクリタキセル(10−desacetyl−7−glutarylpaclitaxel)、7−N,N−ジメチルグリシルパクリタキセル(7−N,N−dimethylglycylpaclitaxel)、7−L−アラニルパクリタキセル(7−L−alanyl paclitaxel)、及びそれらの混合物からなる群より選ばれる一つ以上であることを特徴とする、請求項7に記載の薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法。
【請求項9】
前記両親媒性ブロック共重合体は、親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)とを含み、
前記親水性ブロック(A)は、ポリアルキレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、及びポリアクリルアミドからなる群より選ばれる一つ以上であり、
前記疎水性ブロック(B)は、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリジオキサン−2−オン、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸−co−グリコリド、ポリ乳酸−co−カプロラクトン、ポリ乳酸−co−ジオキサン−2−オン、及びヒドロキシ末端基が脂肪酸で置換されたそれらの誘導体からなる群より選ばれる一つ以上であることを特徴とする、請求項1に記載の薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法。
【請求項10】
前記親水性ブロック(A)の数平均分子量は、500ないし50,000ダルトンであり、前記疎水性ブロック(B)の数平均分子量は、500ないし50,000ダルトンであることを特徴とする、請求項9に記載の薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法。
【請求項11】
前記両親媒性ブロック共重合体は、親水性ブロック(A)と疎水性ブロック(B)との組成比が重量比で3:7ないし8:2であることを特徴とする、請求項9に記載の薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法。
【請求項12】
ポリ乳酸またはその誘導体の塩のうちポリ乳酸またはその誘導体は、ポリ乳酸、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリマンデル酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキサン−2−オン、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリ酸無水物、及びそれらの共重合体からなる群より選ばれる一つ以上であることを特徴とする、請求項1に記載の薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法。
【請求項13】
前記ポリ乳酸またはその誘導体の数平均分子量は、500〜5,000ダルトンであることを特徴とする、請求項12に記載の薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法。
【請求項14】
前記有機溶媒は、アルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、酢酸、アセトニトリル、及びジオキサンからなる群より選ばれる一つ以上の溶媒であることを特徴とする、請求項1に記載の薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法。
【請求項15】
前記アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、及びブタノールからなる群より選ばれる一つ以上であることを特徴とする、請求項14に記載の薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法。
【請求項16】
前記2価または3価金属イオンは、カルシウム(Ca2+)、マグネシウム(Mg2+)、バリウム(Ba2+)、マンガン(Mn2+)、ニッケル(Ni2+)、銅(Cu2+)、亜鉛(Zn2+)、クロム(Cr3+)、鉄(Fe3+)、及びアルミニウム(Al3+)からなる群より選ばれることを特徴とする、請求項3に記載の薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法。
【請求項17】
前記凍結乾燥補助剤は、糖、糖アルコール、またはそれらの混合物であることを特徴とする、請求項4に記載の薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法。
【請求項18】
前記水難溶性薬物高分子ミセルナノ粒子組成物は、
前記高分子の総重量に対する水難溶性薬物の重量比が0.1ないし50.0:50.0ないし99.9であり、
前記両親媒性ブロック共重合体及びポリ乳酸またはその誘導体の塩を含む全重量に対し、0.1ないし99.9wt%の両親媒性ブロック共重合体及び0.1ないし99.9wt%のポリ乳酸またはその誘導体の塩を含むことを特徴とする、請求項1に記載の薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法。
【請求項19】
前記2価または3価の金属イオンは、前記ポリ乳酸またはその誘導体の塩のカルボキシ末端基の総当量に対して0.5〜2.0当量で使用されることを特徴とする、請求項3に記載の薬物含有高分子ミセルナノ粒子組成物の製造方法。

【公表番号】特表2012−513985(P2012−513985A)
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543383(P2011−543383)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【国際出願番号】PCT/KR2009/003522
【国際公開番号】WO2010/074380
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(500578515)サムヤン コーポレイション (20)
【Fターム(参考)】