説明

水電解装置の運転停止方法

【課題】運転停止時に、電解質膜やシール部材の内部における水素の膨張を低減することができ、前記電解質膜や前記シール部材の破損を可及的に回避することを可能にする。
【解決手段】水電解装置10の運転停止方法は、前記水電解装置10による水電解処理を停止する工程と、第2流路58に発生する高圧水素の圧力を減圧する工程と、前記高圧水素の圧力が、大気圧を超える圧力で且つアノード側に漏洩する水素の酸素に対する濃度に基づいて設定される設定圧力以下になった際、前記水電解装置10の運転を停止する工程とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜の両側に給電体が設けられ、前記給電体間に電解電圧を印加することにより、水を電気分解してアノード側電解室に酸素を発生させるとともに、カソード側電解室に常圧よりも高圧な水素を発生させる水電解装置の運転停止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、アノード側電極に燃料ガス(主に水素を含有するガス、例えば、水素ガス)が供給される一方、カソード側電極に酸化剤ガス(主に酸素を含有するガス、例えば、空気)が供給されることにより、直流の電気エネルギを得ている。
【0003】
一般的に、燃料ガスである水素ガスを製造するために、水電解装置が採用されている。この水電解装置は、水を分解して水素(及び酸素)を発生させるため、固体高分子電解質膜(イオン交換膜)を用いている。固体高分子電解質膜の両面には、電極触媒層が設けられて電解質膜・電極構造体が構成されるとともに、前記電解質膜・電極構造体の両側には、給電体を配設してユニットが構成されている。すなわち、ユニットは、実質的には、上記の燃料電池と同様に構成されている。
【0004】
そこで、複数のユニットが積層された状態で、積層方向両端に電圧が付与されるとともに、アノード側に水が供給される。このため、電解質膜・電極構造体のアノード側では、水が分解されて水素イオン(プロトン)が生成され、この水素イオンが固体高分子電解質膜を透過してカソード側に移動し、電子と結合して水素が製造される。一方、アノード側では、水素イオンと共に生成された酸素が、余剰の水を伴ってユニットから排出される。
【0005】
この種の水電解装置では、一般的に発生する水素及び酸素の圧力が低いため、ガス圧縮機を用いて加圧する必要があり、設備が大型化するとともに、コストが高騰する等の問題がある。
【0006】
そこで、ガス圧縮機を用いることなく、所望の圧力の水素や酸素を得ることが望まれている。このため、例えば、特許文献1に開示されている水素・酸素ガス発生装置が知られている。
【0007】
この特許文献1は、固体高分子電解質等の隔膜により分離された陽極室と陰極室とを有する水電解セルにより、純水を直接電気分解して水素ガスと酸素ガスとを発生させるための水素・酸素ガス発生装置に関するものである。
【0008】
そして、水素・酸素ガス発生装置は、陽極室下部に外部と連通した連通口を設けるとともに、純水の電気分解で発生した酸素ガスを陽極室側からその上方へ導く酸素導出管を設けた水電解セルと、その水電解セルを収容し且つその水電解セルを純水中に浸漬させた状態で支持し、しかも上部に前記酸素導出管の上部開口端が開放される酸素ガス分離室を形成した純水容器と、純水の電気分解で発生した水素ガスを水電解セルの陰極室の上部から純水容器の外部へ導く水素導出管に接続された気液分離装置と、前記酸素ガス分離室の上部に溜まる酸素ガスの圧力を検出するための第1のガス圧力検出手段と、気液分離装置の上部に溜まる水素ガスの圧力を検出するための第2のガス圧力検出手段と、酸素ガス分離室の上部に溜まる酸素ガスを外部に取り出すための第1のガス配管系と、前記気液分離装置の上部に溜まる水素ガスを外部に取り出すための第2のガス配管系と、前記第1及び第2のガス圧力検出手段で検出した圧力検出値に基いて第1及び第2のガス配管系を制御して、酸素ガス分離室の上部に溜まる酸素ガスの圧力及び気液分離装置の上部に溜まる水素ガスの圧力をそれぞれ制御するためのガス圧力制御手段と、水電解セルに電力を供給する直流電源と、その直流電源を制御して、水素ガス圧力もしくは酸素ガス圧力が予め定められた圧力になるように水電解セルに供給する電力を制御する電力制御装置、とを有している。
【0009】
このような構成において、例えば、酸素ガス分離室の酸素ガス圧力と気液分離室の水素ガス圧力との差(差圧)が、予め定めた小さい範囲内となるように制御することができ、固体高分子電解質膜等の隔膜の破壊及びシール部からのガスの漏洩の発生も防止できる。従って、差圧による隔膜の破壊やシール部からのガスの漏洩を招くことなく、発生ガス圧力を所望の高い圧力とすることができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−193287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上記の水素・酸素ガス発生装置において、運転停止(生成水素の供給終了)時には、固体高分子電解質膜やシール部材を保護するために、前記固体高分子電解質膜の両側の圧力差を解除する必要がある。
【0012】
しかしながら、水素圧力を常圧まで減圧させた状態で、運転停止が行われると、高圧水素に曝されていた内部部品、例えば、固体高分子電解質膜及びシール部材に対して損傷を与えてしまうという問題がある。すなわち、減圧による水素の体積膨脹率が大きい程、固体高分子電解質膜及びシール部材の内部に存在する水素の膨張による前記固体高分子電解質膜及び前記シール部材の損傷の確率が高くなるからである。
【0013】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、運転停止時に、電解質膜やシール部材の内部における水素の膨張を低減することができ、前記電解質膜や前記シール部材の破損を可及的に回避することが可能な水電解装置の運転停止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、電解質膜の両側に給電体が設けられ、前記給電体間に電解電圧を印加することにより、水を電気分解してアノード側電解室に酸素を発生させるとともに、カソード側電解室に常圧よりも高圧な水素を発生させる水電解装置の運転停止方法に関するものである。
【0015】
この運転停止方法は、水電解装置による水電解処理を停止する工程と、カソード側電解室に発生する高圧水素の圧力を減圧する工程と、前記高圧水素の圧力が、大気圧を超える圧力で且つアノード側に漏洩する水素の酸素に対する濃度に基づいて設定される設定圧力以下になった際、前記水電解装置の運転を停止する工程とを有している。
【0016】
また、この運転停止方法は、停止時の高圧水素の設定圧力Pが、停止時の酸素の圧力P、平衡状態での酸素中の水素濃度N%、カソード側容積V及びアノード側容積Vとすると、P<P/(1−0.01×N)×{1+0.01×N(V/V)}の関係を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、水電解装置の運転が停止された状態で、カソード側電解室に発生する高圧水素は、大気圧を超える圧力に維持されている。このため、水素の膨張率を低く抑えることができ、電解質膜やシール部材の内部における前記水素の体積膨張を抑制することが可能になる。従って、電解質膜やシール部材の破損を可及的に回避することができる。
【0018】
しかも、水電解装置の運転が停止された状態で、カソード側電解室に発生する高圧水素は、アノード側に漏洩する水素の酸素に対する濃度に基づいて設定される設定圧力以下に維持されている。これにより、停止期間中、カソード側からアノード側に電解質膜を透過して水素が漏洩するものの、平衡状態での前記アノード側における酸素中の水素濃度は、所望の濃度未満に維持することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る運転停止方法が適用される水電解装置の概略構成説明図である。
【図2】前記水電解装置を構成する単位セルの分解斜視説明図である。
【図3】前記単位セルの断面説明図である。
【図4】前記運転停止方法の説明図である。
【図5】高圧水素の減圧工程の説明図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る水電解装置の運転停止方法が適用される水電解装置の概略構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る運転方法が適用される水電解装置10は、純水を電気分解することによって高圧水素(常圧よりも高圧、例えば、1MPa以上)を製造する水電解機構12と、純水供給機構14を介して市水から生成された純水が供給され、この純水を前記水電解機構12に供給するとともに、前記水電解機構12から排出される余剰の前記水を、前記水電解機構12に循環供給する水循環機構16と、コントローラ(制御部)18とを備える。
【0021】
水電解機構12は、高圧水素製造装置(カソード側圧力>アノード側圧力)を構成しており、複数の単位セル20が積層される。単位セル20の積層方向一端には、ターミナルプレート22a、絶縁プレート24a及びエンドプレート26aが外方に向かって、順次、配設される。単位セル20の積層方向他端には、同様にターミナルプレート22b、絶縁プレート24b及びエンドプレート26bが外方に向かって、順次、配設される。エンドプレート26a、26b間は、一体的に締め付け保持される。
【0022】
ターミナルプレート22a、22bの側部には、端子部28a、28bが外方に突出して設けられる。端子部28a、28bは、配線29a、29bを介して電解用電源(電解電源)30に電気的に接続される。陽極(アノード)側である端子部28aは、電解用電源30のプラス極に接続される一方、陰極(カソード)側である端子部28bは、前記電解用電源30のマイナス極に接続される。
【0023】
図2に示すように、単位セル20は、円盤状の電解質膜・電極構造体32と、この電解質膜・電極構造体32を挟持するアノード側セパレータ34及びカソード側セパレータ36とを備える。アノード側セパレータ34及びカソード側セパレータ36は、円盤状を有するとともに、例えば、カーボン部材等で構成され、又は、鋼板、ステンレス鋼板、チタン板、アルミニウム板、めっき処理鋼板、あるいはその金属表面に防食用の表面処理を施した金属板をプレス成形して、あるいは切削加工した後に防食用の表面処理を施して構成される。
【0024】
電解質膜・電極構造体32は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜38と、前記固体高分子電解質膜38の両面に設けられるアノード側給電体40及びカソード側給電体42とを備える。
【0025】
固体高分子電解質膜38の両面には、アノード電極触媒層40a及びカソード電極触媒層42aが形成される。アノード電極触媒層40aは、例えば、Ru(ルテニウム)系触媒を使用する一方、カソード電極触媒層42aは、例えば、白金触媒を使用する。
【0026】
アノード側給電体40及びカソード側給電体42は、例えば、球状アトマイズチタン粉末の焼結体(多孔質導電体)により構成される。アノード側給電体40及びカソード側給電体42は、研削加工後にエッチング処理される平滑表面部を設けるとともに、空隙率が10%〜50%、より好ましくは、20%〜40%の範囲内に設定される。
【0027】
単位セル20の外周縁部には、積層方向である矢印A方向に互いに連通して、水(純水)を供給するための水供給連通孔46と、反応により生成された酸素及び使用済みの水を排出するための排出連通孔48と、反応により生成された水素(高圧水素)を流すための水素連通孔50とが設けられる。
【0028】
図2及び図3に示すように、アノード側セパレータ34の外周縁部には、水供給連通孔46に連通する供給通路52aと、排出連通孔48に連通する排出通路52bとが設けられる。アノード側セパレータ34の電解質膜・電極構造体32に向かう面34aには、供給通路52a及び排出通路52bに連通する第1流路(アノード側電解室)54が設けられる。この第1流路54は、アノード側給電体40の表面積に対応する範囲内に設けられるとともに、複数の流路溝や複数のエンボス等で構成される(図1及び図3参照)。
【0029】
カソード側セパレータ36の外周縁部には、水素連通孔50に連通する排出通路56が設けられる。カソード側セパレータ36の電解質膜・電極構造体32に向かう面36aには、排出通路56に連通する第2流路(カソード側電解室)58が形成される。この第2流路58は、カソード側給電体42の表面積に対応する範囲内に設けられるとともに、複数の流路溝や複数のエンボス等で構成される(図1及び図3参照)。
【0030】
アノード側セパレータ34及びカソード側セパレータ36の外周端部を周回して、シール部材60a、60bが一体化される。このシール部材60a、60bには、例えば、EPDM、NBR、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、スチレンゴム、クロロプレーン又はアクリルゴム等のシール材、クッション材、あるいはパッキン材が用いられる。
【0031】
図3に示すように、アノード側セパレータ34の電解質膜・電極構造体32に向かう面34aには、第1流路54及びアノード側給電体40の外方を周回して第1シール部材62aを配設するための第1シール溝64aが形成される。面34aには、水供給連通孔46、排出連通孔48及び水素連通孔50の外側を周回して、第1シール部材62b、62c及び62dを配置するための第1シール溝64b、64c及び64dが形成される。第1シール部材62a〜62dは、例えば、Oリングである。
【0032】
カソード側セパレータ36の電解質膜・電極構造体32に向かう面36aには、第2流路58及びカソード側給電体42の外方を周回して、第2シール部材66aを配設するための第2シール溝68aが形成される。
【0033】
図2及び図3に示すように、面36aには、水供給連通孔46、排出連通孔48及び水素連通孔50の外側を周回して、第2シール部材66b、66c及び66dを配置するための第2シール溝68b、68c及び68dが形成される。第2シール部材66a〜66dは、例えば、Oリングである。
【0034】
図1に示すように、水循環機構16は、水電解機構12の水供給連通孔46に連通する循環配管72を備え、この循環配管72には、循環ポンプ74、イオン交換器76及び酸素側気液分離器78が配設される。
【0035】
酸素側気液分離器78の上部には、戻り配管80の一端部が連通するとともに、前記戻り配管80の他端は、水電解機構12の排出連通孔48に連通する。酸素側気液分離器78には、室78a内に貯留される水の水位を検出する水位計84と、前記室78aに空気を供給するブロア86と、前記ブロア86の下流に配置される逆止弁88とが設けられる。
【0036】
酸素側気液分離器78には、純水供給機構14に接続された純水供給配管90と、前記酸素側気液分離器78で純水から分離された酸素を排出するための酸素排気配管92とが連結される。酸素排気配管92には、逆止弁94と電磁弁96とが配設される。
【0037】
水電解機構12の水素連通孔50には、高圧水素配管98の一端が接続され、この高圧水素配管98には、水素側気液分離器100が接続される。水素側気液分離器100の下端には、ドレイン配管102が接続されるとともに、前記ドレイン配管102には、排水用電磁弁104が配設される。
【0038】
水素側気液分離器100には、室100a内に貯留される水の水位を検出する水位計106が設けられる。水素側気液分離器100の上部には、高圧水素供給配管108の一端が接続され、前記高圧水素供給配管108には、水素除湿機110及び背圧弁112が配設される。高圧水素供給配管108は、図示しないが、高圧水素供給部、例えば、高圧タンクや燃料電池自動車等に接続される。
【0039】
高圧水素配管98から脱圧配管98aが分岐するとともに、前記脱圧配管98aには、背圧弁114及び電磁弁116が配設される。
【0040】
このように構成される水電解装置10の動作について、以下に説明する。
【0041】
先ず、水電解装置10の始動時には、純水供給機構14を介して市水から生成された純水が、水循環機構16を構成する酸素側気液分離器78に供給される。
【0042】
水循環機構16では、循環ポンプ74の作用下に、循環配管72を介して純水が水電解機構12の水供給連通孔46に供給される。一方、ターミナルプレート22a、22bの端子部28a、28bには、電気的に接続されている電解用電源30を介して電解電圧が付与される。
【0043】
このため、図2に示すように、各単位セル20では、水供給連通孔46からアノード側セパレータ34の第1流路54に水が供給され、この水がアノード側給電体40内に沿って移動する。
【0044】
従って、水は、アノード電極触媒層40aで電気により分解され、水素イオン、電子及び酸素が生成される。この陽極反応により生成された水素イオンは、固体高分子電解質膜38を透過してカソード電極触媒層42a側に移動し、電子と結合して水素が得られる。
【0045】
このため、カソード側セパレータ36とカソード側給電体42との間に形成される第2流路58に沿って水素が流動する。この水素は、水素連通孔50を流れて水電解装置10の外部に取り出し可能となるとともに、高圧水素供給配管108に配設されている背圧弁112の設定圧力(例えば、35MPa)により、水供給連通孔46よりも高圧に維持されている。
【0046】
一方、第1流路54には、反応により生成した酸素と、使用済みの水とが流動しており、これらが排出連通孔48に沿って水循環機構16の戻り配管80に排出される(図1参照)。この使用済みの水及び酸素は、酸素側気液分離器78に導入されて分離された後、水は、循環ポンプ74を介して循環配管72からイオン交換器76を通って水供給連通孔46に導入される。水から分離された酸素は、酸素排気配管92から外部に排出される。
【0047】
次いで、本発明の第1の実施形態に係る水電解装置10の運転停止方法について、以下に説明する。
【0048】
先ず、水電解装置10の運転を停止する際の基準となる高圧水素の設定圧力Pが予め設定される。ここで、停止時の酸素の圧力P、平衡状態での酸素中の水素濃度N%、カソード側容積V及びアノード側容積Vとする。なお、具体的には、水素濃度N%は、例えば、4%が好適である。
【0049】
カソード側容積Vは、図4に示すように、水電解機構12内の第2流路58を含む水素流路系、高圧水素配管98、水素側気液分離器100の室100a及び水素除湿機110から背圧弁112に至る高圧水素供給配管108の合計容積である。アノード側容積Vは、酸素側気液分離器78の室78a及び前記室78aから電磁弁96に至る酸素排気配管92の合計容積である。なお、室78aの容積及び室100aの容積は、例えば、水位計84及び106の検出結果から演算することができる。
【0050】
そこで、平衡状態のカソード側(水素発生側)及びアノード側(酸素発生側)の圧力PEQは、PEQ=(V×P+V×P)/(V+V)から演算される。一方、アノード側において、水素体積/(水素+酸素)体積=(PEQ−P)/PEQ<0.01×Nが得られる。
【0051】
さらに、上記の2式から、P<P/(1−0.01×N)×{1+0.01×N(V/V)}が得られる。
【0052】
水電解機構12による水電解処理が停止された際、高圧水素の圧力は、大気圧を超える圧力で且つ設定圧力P以下に減圧される。具体的には、背圧弁114の圧力は、設定圧力Pに設定される。
【0053】
次いで、図4に示すように、水電解装置10により水電解処理が停止される際には、電解用電源30からの電圧印加が停止されるとともに、循環ポンプ74の駆動が停止される。さらに、脱圧配管98aに配置されている電磁弁116が開放されると、第2流路58を含む高圧水素経路では、図5に示すように、減圧処理が行われる。そして、高圧水素経路の圧力が、設定圧力Pに減圧されると、背圧弁114が閉塞して減圧処理が終了する。
【0054】
この場合、第1の実施形態では、水電解機構12の運転が停止された状態で、第2流路(カソード側電解室)58に発生する高圧水素は、大気圧を超える圧力に維持されている。このため、水素の膨張率を低く抑えることができ、固体高分子電解質膜38や第1シール部材62dの内部における前記水素の体積膨張を抑制することが可能になる。従って、固体高分子電解質膜38や第1シール部材62dの破損を可及的に回避することができるという効果が得られる。
【0055】
しかも、水電解機構12の運転が停止された状態で、第2流路58に発生する高圧水素は、アノード側に漏洩する水素の酸素に対する濃度に基づいて設定される設定圧力Pに維持されている。これにより、停止期間中、カソード側からアノード側に固体高分子電解質膜38を透過して水素が漏洩するものの、平衡状態での前記アノード側における酸素中の水素濃度は、所望の濃度N%未満に維持することが可能になる。
【0056】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る運転方法が適用される水電解装置120の概略構成説明図である。
【0057】
なお、第1の実施形態に係る水電解装置10と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0058】
水電解装置120では、脱圧配管98aの途上に、背圧弁114に代えて圧力検出センサ122が配設される。この圧力検出センサ122は、脱圧配管98aの水素圧力が設定圧力P以下になったことを検出すると、コントローラ18に検出信号を送る。
【0059】
そこで、コントローラ18は、電磁弁116を閉塞させることにより、第2流路58に発生する高圧水素は、大気圧を超える圧力で且つ設定圧力P以下に維持されている。
【0060】
これにより、第2の実施形態では、固体高分子電解質膜38や第1シール部材62dの破損を可及的に回避するとともに、平衡状態でのアノード側における酸素中の水素濃度は、所望の濃度N%未満に維持することが可能になる等、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0061】
なお、背圧弁114に代えて、流量調整弁やMFC(マスフローコントローラ)等を採用してよい。
【符号の説明】
【0062】
10、120…水電解装置 12…水電解機構
14…純水供給機構 16…水循環機構
18…コントローラ 20…単位セル
30…電解用電源 32…電解質膜・電極構造体
34…アノード側セパレータ 36…カソード側セパレータ
38…固体高分子電解質膜 40…アノード側給電体
42…カソード側給電体 46…水供給連通孔
48…排出連通孔 50…水素連通孔
54、58…流路 56…排出通路
62a〜62d、66a〜66d…シール部材
72…循環配管 74…循環ポンプ
78…酸素側気液分離器 78a、100a…室
80…戻り配管 84、106…水位計
90…純水供給配管 92…酸素排気配管
94…逆止弁 96、116…電磁弁
98…高圧水素配管 98a…脱圧配管
100…水素側気液分離器 102…ドレイン配管
108…高圧水素供給配管 112、114…背圧弁
122…圧力検出センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両側に給電体が設けられ、前記給電体間に電解電圧を印加することにより、水を電気分解してアノード側電解室に酸素を発生させるとともに、カソード側電解室に常圧よりも高圧な水素を発生させる水電解装置の運転停止方法であって、
前記水電解装置による水電解処理を停止する工程と、
前記カソード側電解室に発生する高圧水素の圧力を減圧する工程と、
前記高圧水素の圧力が、大気圧を超える圧力で且つアノード側に漏洩する前記水素の前記酸素に対する濃度に基づいて設定される設定圧力以下になった際、前記水電解装置の運転を停止する工程と、
を有することを特徴とする水電解装置の運転停止方法。
【請求項2】
請求項1記載の運転停止方法において、停止時の前記高圧水素の設定圧力Pは、停止時の前記酸素の圧力P、平衡状態での酸素中の水素濃度N%、カソード側容積V及びアノード側容積Vとすると、
<P/(1−0.01×N)×{1+0.01×N(V/V)}の関係を有することを特徴とする水電解装置の運転停止方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−256432(P2011−256432A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131936(P2010−131936)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】