説明

永久磁石式モータの磁石内渦電流損失解析方法

【課題】計算時間を短縮した渦電流損失の解析ができ、しかもステータの磁気抵抗も含めた高精度の解析ができる。
【解決手段】(S1)磁石内渦電流が作る反作用磁界は電機子電流および磁石が作る磁界に比べて小さく無視できることに着目し、モータ全体の解析は二次元静磁界解析とする。ステップ(S2−1)および(S2−2)では磁石中の渦電流損失を算出する三次元解析を、磁石のみを解析領域としステップ・バイ・ステップ法で解析を行い、ステップ(S2−1)では渦電流による反作用磁界を無視した三次元解析を行い、ステップ(S2−2)では渦電流による反作用磁界を考慮した三次元解析を行う。さらに、磁石の三次元渦電流損失解析において、磁石の渦電流に対するモータ全体の磁気抵抗を磁石の磁化量Mを変更したモータ全体の二次元解析により算出し、これを等価的なギャップに置き換えて解析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石式モータの磁石内渦電流損失の解析方法に係り、特に三次元有限要素法と二次元有限要素法を併用した解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PMモータの磁石の発熱や減磁を評価するため、磁石中の渦電流損失を数値解析で求める場合には、磁石の三次元的な渦電流分布を考慮した三次元非線形定常磁界解析が必要となる。しかしながら、インバータ駆動に起因するキャリア周波数成分の電流高調波を考慮した解析を行う場合などには、ステップ・バイ・ステップ法の時間刻み幅を小さくした計算を必要とし、計算時間が膨大となってしまうため、三次元解析のみを用いて渦電流損失を算定する方法は実用的でない。
【0003】
そのため、鉄芯中の磁束の軸方向成分が無視できると仮定し、モータ全体は二次元非線形定常渦電流解析を行い、得られた各高調波次数の内、主要な次数についてギャップ磁束密度と等しくなる磁気ベクトルポテンシャルを境界条件として与えるとともに、得られた透磁率分布を用いて、ロータのみを三次元複素数近似解析を行うことにより、計算時間を削減する方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
また、2次元解析と同等の計算時間でPMモータの磁石渦電流損失を求める方法として、PMモータの2次元モデルを用い、有限要素法による2次元磁場解析により、磁石内部の磁束密度の時間変化を求め、この磁石内部の磁束密度の時間変化を、磁石のみの3次元モデルに与え、磁石3次元モデルと磁束密度の時間変化から、有限要素法により、磁石の渦電流を考慮した3次元解析を行い、これで求める磁石の渦電流密度の時間変化から、磁石渦電流損失密度を算出する方法を、本願出願人は既に提案している(例えば、特許文献1参照)。
【非特許文献1】山崎克己、狩野裕二「三次元・二次元有限要素法を併用したIPMモータの損失解析」電気学会静止器・回転機合同研資,SA−07−79,RM−07−95(2007)
【特許文献1】特開2008−123076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の三次元有限要素法と二次元有限要素法を併用した解析方法では、ロータ全体については計算時間が増大するが解析精度を高めるために三次元渦電流解析をしているが、ステータの磁気抵抗を考慮した三次元渦電流解析をしていない。
【0006】
磁石内渦電流は、反作用磁界としてステータ側に影響を及ぼすため、上記の三次元渦電流解析による磁石内渦電流損失の算出では誤差が発生し、特に渦電流が大きいPMモータの解析では誤差が大きくなり、十分な解析精度が得られない。
【0007】
本発明の目的は、計算時間を短縮した渦電流損失の解析ができ、しかも、モータ全体の磁気抵抗も含めた高精度の解析ができる永久磁石式モータの磁石内渦電流損失解析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、磁石内渦電流が作る反作用磁界によるステータ側に通る磁束を考慮したモータ全体の磁束分布の影響に着目し、モータ全体の解析は二次元静磁界解析とし、また、磁石中の渦電流損失を算出する三次元渦電流損失解析では、磁石のみを解析領域としステップ・バイ・ステップ法で解析を行い、さらに、渦電流の反作用磁界を考慮した解析に、磁石の渦電流に対するモータ全体の磁気抵抗も考慮した解析を行い、この磁気抵抗の算定にモータ全体の二次元解析を磁石の磁化量を変更して行い、これを等価的なギャップとして解析を行うようにしたもので、以下の方法を特徴とする。
【0009】
(1)二次元解析と三次元解析の併用で永久磁石式モータの磁石中の渦電流損失をコンピュータによるデータ処理で解析する永久磁石式モータの磁石内渦電流損失解析方法であって、
前記コンピュータは、
次式を基礎方程式とする磁気ベクトルポテンシャルAを用いて、モータ全体の二次元静磁界解析を行い、
【0010】
【数A】

【0011】
ただし、Mは磁石の磁化量、J0はコイルに与える電流密度、νは磁気抵抗率
より、前記二次元静磁界解析によって得られた磁石中の磁束密度Bmの分布を用いて磁石のみの三次元渦電流解析により渦電流分布を求めることを特徴とする。
【0012】
(2)前記コンピュータは、
厚み方向に分割された一つの磁石の1/2領域のみを解析領域とし、前記磁束密度Bmの分布を磁石の厚み方向の各層に与え、
次式を基礎方程式とする電流ベクトルポテンシャルTを用いて、
【0013】
【数B】

【0014】
ただし、σは導電率
より、磁石のみの前記三次元渦電流解析を行うことを特徴とする。
【0015】
(3)前記コンピュータは、
厚み方向に分割された一つの磁石の1/2領域のみを解析領域とし、前記磁束密度Bmの分布を磁石の厚み方向の各層に与え、
磁石の渦電流による反作用磁界を考慮する場合は、次式を基礎方程式とする磁気ベクトルポテンシャルAと電気スカラポテンシャルφを用いて、
【0016】
【数C】

【0017】
【数D】

【0018】
ただし、σは導電率
より、磁石のみの前記三次元渦電流解析を行うことを特徴とする。
【0019】
(4)前記コンピュータは、
前記反作用磁界を考慮した三次元渦電流解析は、分割された磁石間のギャップGtと磁石と鉄芯間のギャップGaを設定し、磁石中の渦電流に対する磁石および前記ギャップGtとGaを除くモータ全体の磁気抵抗を等価的に置き換えたギャップGlを設定した解析モデルを使って解析することを特徴とする。
【0020】
(5)前記ギャップGlの長さは、磁石表面に流れる電流に対する磁石以外のモータ全体の非線形性を考慮した磁気抵抗Riから決定することを特徴とする。
【0021】
(6)前記磁気抵抗Riは、磁石の磁化量Mを微小量ΔMだけ増やしたときの磁石に鎖交する磁束の変化量Δφを求め、次式、
【0022】
【数E】

【0023】
ただし、Llは磁石の長さ、Lwは磁石の幅、Ltは磁石の厚み、μrは磁石のリコイル透磁率,Rmは磁石の磁気抵抗、Rtはモータ全体の磁気抵抗、
より求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
以上のとおり、本発明によれば、モータ全体の解析は二次元静磁界解析とし、また、磁石中の渦電流損失を算出する三次元渦電流損失解析では、磁石のみを解析領域としステップ・バイ・ステップ法で解析を行い、さらに、渦電流の反作用磁界を考慮した解析に、磁石の渦電流に対するモータ全体の磁気抵抗も考慮した解析を行い、この磁気抵抗の算定にモータ全体の二次元解析を磁石の磁化量を変更して行い、これを等価的なギャップとして解析を行うようにしたため、計算時間を短縮した渦電流損失の解析ができ、しかもステータの磁気抵抗も含めた高精度の解析ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(1)解析方法
図1は本発明の実施形態を示す解析手順であり、二次元・三次元解析方法を併用して磁石内渦電流損失を求める。図1において、ステップS1ではモータ全体の解析を二次元静磁界解析で行う。ステップ(S2−1)および(S2−2)では磁石中の渦電流損失を算出する三次元解析を、磁石のみを解析領域としステップ・バイ・ステップ法で解析を行い、ステップ(S2−1)では渦電流による反作用磁界を無視した三次元解析を行い、ステップ(S2−2)では渦電流による反作用磁界を考慮した三次元解析を行う。さらに、磁石の三次元渦電流損失解析において、磁石の渦電流に対するモータ全体の磁気抵抗を磁石の磁化量Mを変更したモータ全体の二次元解析により算出し、これを等価的なギャップに置き換えて解析する。
【0026】
これらステップS1およびステップ(S2−1)、(S2−2)の処理機能は、コンピュータ資源とこれを利用したソフトウェアで構成のコンピュータによるデータ処理で実現されるもので、詳細な処理を以下に説明する。
【0027】
(S1)モータ全体の二次元解析
モータ全体の解析は、非特許文献1と同様の手法で、次式を基礎方程式とする磁気ベクトルポテンシャルAを用いるA法により二次元静磁界解析を行う。
【0028】
【数1】

【0029】
ただし、Mは磁石の磁化量、J0はコイルに与える電流密度、νは磁気抵抗率である。
【0030】
(S2)磁石の三次元渦電流解析
モータ全体の二次元静磁界解析によって得られた磁石中の磁束密度Bmの分布を用いて磁石のみの三次元解析により渦電流分布を求める。この解析について、渦電流による反作用磁界を無視した場合と考慮した場合の二通りに分けて解析する。
【0031】
(S2−1)渦電流による反作用磁界を無視した解析
渦電流による反作用磁界を無視した場合の磁石の三次元渦電流解析は、図2の(a)に示すように、対称性を考慮して厚み方向に分割された一つの磁石の1/2領域のみを解析領域とし、二次元解析で得られた磁束密度Bmの分布を磁石の厚み方向の各層に与え、解析を行う。この際、次式に示すファラデーの法則と電流連続の式を用いて定式化を行なう。
【0032】
【数2】

【0033】
【数3】

【0034】
ここで、Eは電界の強さ、Jeは渦電流密度である。
【0035】
(3)式より、次式に示す電流ベクトルポテンシャルTが定義される。
【0036】
【数4】

【0037】
(4)式を(2)式に代入すると次式の基礎方程式が得られる。ただし、σは導電率である。
【0038】
【数5】

【0039】
なお、電流ベクトルポテンシャルTの境界条件としては、対称面に対しては渦電流密度Jeが垂直となる自然境界、その他の面では渦電流密度Jeが平行となるT=0の固定境界を与える。
【0040】
(S2−2)渦電流による反作用磁界を含めた解析
磁石の渦電流による反作用磁界を含めて解析する場合は、次式を基礎方程式とする磁気ベクトルポテンシャルAと電気スカラポテンシャルφを用いるA−φ法を用いる。
【0041】
【数6】

【0042】
【数7】

【0043】
なお、渦電流の反作用磁界を考慮する場合には、渦電流が作る磁束に対するモータ全体の磁気抵抗を考慮する必要がある。そのため、この場合の解析では、図2の(b)および(c)のように分割された磁石間のギャップGtと磁石と鉄芯間のギャップGaを設定し、また、磁石中の渦電流に対する磁石およびギャップGtとGaを除くモータ全体の磁気抵抗を等価的に置き換えたギャップGlを設定した解析モデルを使って解析する。
【0044】
このときの境界条件は、磁石対称面には磁束が平行で渦電流が垂直となるA=0、φ=0、Gt上面には磁束が平行となるA=0の固定境界条件を与え、他の面は、透磁率が無限大の鉄芯に接していると仮定し、自然境界条件とした。
【0045】
等価的に加えたギャップGlの長さは、磁石表面に流れる電流に対する磁石以外のモータ全体の非線形性を考慮した磁気抵抗Riから決定する。
【0046】
以下、図2の(d)を参照して、解析方法を説明する。まず、磁石表面に流れる電流Imのみが作る磁束量φを把握するため、磁石の磁化量Mを微小量ΔMだけ増やした解析を行い、磁石に鎖交する磁束の変化量Δφを求めた。このとき、ΔMが磁石内で一定の場合、Imの変化量ΔImとΔMには、次式の関係が成り立つ。
【0047】
【数8】

【0048】
ここで、Llは磁石の長さ、μrは磁石のリコイル透磁率である。これよりモータ全体の磁気抵抗Rtが次式により算出できる。
【0049】
【数9】

【0050】
また、磁石以外の磁気抵抗Riは、Rtから磁石の磁気抵抗Rmを除けばよいため、次式となる。ただし、Lwは磁石の幅、Ltは磁石の厚みである。
【0051】
【数10】

【0052】
一方、図3に示すモータの平面図、斜視図および磁石のギャップ関係図について、磁石以外の磁気抵抗Riは次式で表される。
【0053】
【数11】

【0054】
これら(10)、(11)式を等値と置くことにより、Glの長さは以下のように求めることができる。
【0055】
【数12】

【0056】
このギャップGlの長さは、電機子電流、ロータ位置によって変化する。
【0057】
(2)渦電流損失の解析方法の例
上記の解析方法の妥当性を検討するため、IPMモータ(埋込み磁石型同期モータ)のモデルを使った渦電流損失の解析方法の例を説明する。
【0058】
図3の(a)および表1に、検討用モデルとして用いたIPMモータのモデルおよび仕様を示す。この解析には、妥当性を検討することを目的としているためIPMモータの電機子電流は理想的な正弦波とした。また、磁石の軸方向の分割の影響も検討するため、磁石を軸方向に1、3、5分割した場合でそれぞれ解析を行った。
【0059】
【表1】

【0060】
この解析では、磁石の渦電流を考慮した三次元非線形渦電流解析によって得られた渦電流損失を真値と仮定して、本解析方法による解析結果との比較でその妥当性を検討した。その三次元分割図を図3の(b)に示す。この分割図は、二次元分割図を厚み方向に積み上げて作成し、解析領域は対称性を考慮して分割された磁石1個の半分の厚みとした。
【0061】
この解析法を用いる場合のモータ全体の二次元解析の分割図は、積み上げに用いた二次元分割図とした。また、この解析法で磁石の三次元解析に用いた分割図を図3の(c)に示す。これら分割図の磁石およびギャップGt、Ga部分は図3(b)の三次元分割図と同様とし、渦電流による反作用磁界を無視した解析法(ステップS2−1)では磁石部のみを、渦電流による反作用磁界を考慮した解析法(ステップS2−2)では磁石およびギャップGt、Ga、Glも含んだ分割図とした。なお、Gtは0.2mm、 Gaは0.1mmとし、Glは解析ステップ毎に算出し、分割図を修正している。
【0062】
この解析例では、回転子が45deg回転すれば一周期となるが、解析は一周期を96分割した0.469degずつ回転させて行った。真値と仮定する三次元非線形渦電流解析では、ステップ・バイ・ステップ法を用いてほぼ定常状態になる1.5周期分解析し、また、ステップS1のモータの二次元静磁界解析、およびステップS2−1の磁石の解析では1周期分、ステップS2−2の磁石の解析ではほぼ定常状態になる1.5周期分解析した。
【0063】
(3)解析方法の検証
<3・1>トルク波形
図1のステップS1(二次元静磁界解析)の妥当性を検討するため、二次元静磁界解析によって得られたトルク波形を三次元渦電流解析の結果と比較した。図4に全領域に換算したトルクの時間的変化を示す。ただし、磁石を分割しない場合の三次元解析で得られた平均トルクで正規化している。この図より、磁石を分割しない場合には、二次元解析と三次元解析で若干の差が生じるが、5分割した場合には、磁石の渦電流の影響が小さくなるため、ほぼ一致していることが確認された。
【0064】
<3・2>ギャップGlの算出
図5の(A)に磁石に通常の電機子電流と磁化量Mを与えて計算したロータ位置での磁束密度分布を、図5の(b)に渦電流の反作用磁界を考慮する場合のギャップGlを算出するため磁石の磁化量をM+ΔMに変更して計算し、Mで計算した磁束密度ベクトルを減じたΔMのみの磁束密度分布を示す。
【0065】
これらの図より、渦電流の反作用磁界が作る磁束はロータの磁気飽和のためステータを通っており、磁気抵抗を精度よく計算する場合にはステータまで考慮しなければならないことがわかる。
【0066】
図6に、ロータ位置による(12)式で求めたギャップ長Glの変化を示す。この図よりギャップ長Glはロータ位置と電機子電流により変化することがわかる。
【0067】
<3・3>渦電流損失
図7に、三次元渦電流解析と本発明による解析法によって得られた磁石1個当りの渦電流損失の時間的変化を示す。図7の(a)は磁石を分割しない場合を示し、(b)は磁石を3つに分割した場合を、(c)は磁石を5個に分割した場合を示す。また、図7の(a)〜(c)において、3Dは三次元渦電流解析法による渦電流損失、Method1はモータ全体の二次元解析による渦電流損失、Method2withoutGlは磁気抵抗を無視した場合の渦電流損失、Method2withGlは磁気抵抗を考慮した場合の渦電流損失を示す。ただし、図は、磁石を分割しない三次元解析で得られた平均渦電流損失の値で正規化してある。
【0068】
図7の特性から、磁石を分割しない(a)では、解析手法間の差が大きいが、これは、磁石の渦電流による反作用磁界の影響が大きいためである。すなわち、渦電流の反作用磁界を無視したMethod1では、反作用磁界による磁石内の磁束の減少が考慮されないため、渦電流が大きくなり渦電流損失は過大評価されてしまう。一方、Method2においてギャップGlを無視した場合には、逆に反作用磁界による磁束の減少が大きく、渦電流が小さくなり渦電流損失は過小評価されてしまう。また、ギャップGlを考慮したMethod2は、三次元渦電流解析の結果とほぼ一致しており、妥当な結果が得られていることがわかる。なお、磁石の分割数を増やすにつれて、渦電流が作る反作用磁界が小さくなるため、解析手法間の差も小さくなり、5分割した場合には、どの提案法を用いてもほぼ妥当な結果が得られることがわかる。
【0069】
図8に、磁石を分割しない場合の各解析手法で得られた平均渦電流損失密度分布を示す。ギャップGlを考慮したMethod2の結果は三次元渦電流解析(3D)で得られた分布とほぼ一致する。
【0070】
図9に、各解析手法で求めた磁石1個当りの平均渦電流損失の統計図を示す。ただし、図は磁石を分割しない場合の三次元解析で得られた値で正規化してある。この図からも明らかなように、ギャップGlを考慮したMethod2の誤差は、最も大きくなる磁石を分割しない場合でも5%程度であり、本発明の解析方法の妥当性が確認された。
【0071】
<3・4>解析諸元
表2に、モータ全体を三次元渦電流解析した場合とMethod2を用いた場合の解析諸元を示す。
【0072】
【表2】

【0073】
三次元渦電流解析(3D)とMethod2の磁石の解析は、ステップ・バイ・ステップ法を用いて定常状態に達する1.5周期分の計算時間を示した。また、Method2のモータ解析(2D)は静磁界解析であるため1周期のみの解析でよいが、ギャップGlを算出するために、磁石の磁化量Mとその修正量ΔMを使用して再度1周期分計算する必要があり、その合計を示した。
【0074】
本発明の解析方法を用いることにより計算時間は約1/30に削減でき、有用であることが確認された。
【0075】
(4)実施形態による特徴的事項
本実施形態では、PMモータの磁石での渦電流損失を高速に求めるため、モータの二次元静磁界解析と磁石の三次元渦電流解析を併用した方法とするとともに、正弦波駆動のIPMモータに適用し、本実施形態の解析方法の妥当性と有用性が確認された。この特徴事項を要約すると以下のようになる。
【0076】
(a)二次元静磁界解析で得られた磁石中の磁束分布を用いて磁石内の三次元渦電流解析する方法として、渦電流の反作用磁界を無視する場合と考慮する場合の二通りの方法を適用できる。また、反作用磁界を考慮する方法では、反作用磁界に対する磁気抵抗も考慮するため、磁石に等価的なギャップを設けて解析する方法を適用できる。
【0077】
(b)磁石を厚み方向に分割しないモデルに実施形態の解析方法を適用した場合、渦電流の反作用磁界を無視した場合および反作用磁界に対するモータの磁気抵抗を無視した場合に得られた渦電流損失は三次元解析の結果と大幅に異なるが、反作用磁界とそれに対する磁気抵抗を考慮すれば妥当な結果が得られることが確認された。また、磁石の分割を増やした場合には、反作用磁界の影響を無視した提案法でも妥当な結果が得られる。
【0078】
(c)本実施形態の解析方法を用いることにより計算時間を大幅に削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の実施形態を示す解析手順。
【図2】磁石の解析モデル。
【図3】IPMモータの平面図、斜視図および磁石のギャップ関係図。
【図4】三次元と二次元解析によるトルクの時間的変化例。
【図5】磁化量MとΔMが作る磁束密度分布の例。
【図6】ロータ位置によるギャップ長Glの変化例。
【図7】磁石1個当りの渦電流損失の時間的変化。
【図8】分割しない磁石の各解析手法で得られた平均渦電流損失密度分布。
【図9】各解析手法で求めた磁石1個当りの平均渦電流損失の統計図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次元解析と三次元解析の併用で永久磁石式モータの磁石中の渦電流損失をコンピュータによるデータ処理で解析する永久磁石式モータの磁石内渦電流損失解析方法であって、
前記コンピュータは、
次式を基礎方程式とする磁気ベクトルポテンシャルAを用いて、モータ全体の二次元静磁界解析を行い、
【数A】

ただし、Mは磁石の磁化量、J0はコイルに与える電流密度、νは磁気抵抗率
より、前記二次元静磁界解析によって得られた磁石中の磁束密度Bmの分布を用いて磁石のみの三次元渦電流解析により渦電流分布を求めることを特徴とする永久磁石式モータの磁石内渦電流損失解析方法。
【請求項2】
前記コンピュータは、
厚み方向に分割された一つの磁石の1/2領域のみを解析領域とし、前記磁束密度Bmの分布を磁石の厚み方向の各層に与え、
次式を基礎方程式とする電流ベクトルポテンシャルTを用いて、
【数B】

ただし、σは導電率
より、磁石のみの前記三次元渦電流解析を行うことを特徴とする請求項1に記載の永久磁石式モータの磁石内渦電流損失解析方法。
【請求項3】
前記コンピュータは、
厚み方向に分割された一つの磁石の1/2領域のみを解析領域とし、前記磁束密度Bmの分布を磁石の厚み方向の各層に与え、
磁石の渦電流による反作用磁界を考慮する場合は、次式を基礎方程式とする磁気ベクトルポテンシャルAと電気スカラポテンシャルφを用いて、
【数C】

【数D】

ただし、σは導電率
より、磁石のみの前記三次元渦電流解析を行うことを特徴とする請求項1に記載の永久磁石式モータの磁石内渦電流損失解析方法。
【請求項4】
前記コンピュータは、
前記反作用磁界を考慮した三次元渦電流解析は、分割された磁石間のギャップGtと磁石と鉄芯間のギャップGaを設定し、磁石中の渦電流に対する磁石および前記ギャップGtとGaを除くモータ全体の磁気抵抗を等価的に置き換えたギャップGlを設定した解析モデルを使って解析することを特徴とする請求項3に記載の永久磁石式モータの磁石内渦電流損失解析方法。
【請求項5】
前記ギャップGlの長さは、磁石表面に流れる電流に対する磁石以外のモータ全体の非線形性を考慮した磁気抵抗Riから決定することを特徴とする請求項4に記載の永久磁石式モータの磁石内渦電流損失解析方法。
【請求項6】
前記磁気抵抗Riは、磁石の磁化量Mを微小量ΔMだけ増やしたときの磁石に鎖交する磁束の変化量Δφを求め、次式、
【数E】

ただし、Llは磁石の長さ、Lwは磁石の幅、Ltは磁石の厚み、μrは磁石のリコイル透磁率,Rmは磁石の磁気抵抗、Rtはモータ全体の磁気抵抗、
より求めることを特徴とする請求項5に記載の永久磁石式モータの磁石内渦電流損失解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−72773(P2010−72773A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237262(P2008−237262)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】