説明

永久電流スイッチの製造方法及び永久電流スイッチ

【課題】外部熱じょう乱の発生源である巻線の動きやエポキシ樹脂割れを防止することで、安定性の低い永久電流スイッチのクエンチを防止する。
【解決手段】電気絶縁被覆を施したNbTi超電導線の外周に編組電気絶縁被覆を施して超電導素線を作製する工程と、前記電気絶縁被覆と同種の電気絶縁被覆を施したステンレス線の外周に前記編組電気絶縁被覆と同種の編組電気絶縁被覆を施してヒータ線を作製する工程と、前記超電導素線と前記ヒータ線とを巻枠に巻回して超電導巻線を形成する工程と、前記超電導巻線間に生じる隙間に前記編組電気絶縁被覆と同種のヤーンを巻いて前記隙間を埋める工程と、前記ヤーン及び前記編組電気絶縁被覆を樹脂で含浸する工程と、前記樹脂を硬化させて前記超電導巻線相互を結合する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は永久電流スイッチにかかり、特に医療用MRI、分析用NMR等に用いられる超電導マグネットを永久電流モードで運転するときに用いられるのに好適な永久電流スイッチの製造方法及び永久電流スイッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
永久電流スイッチ(PCS;Persistent Current Switch)は、絶縁被覆したNbTi超電導線とヒータ線を共巻きしながら巻枠に多層に巻線し、エポキシ樹脂等で巻枠に固定した構造を有する。このようなPCSは、わずかな外部熱じょう乱により容易にクエンチしてしまうという欠点があった。熱じょう乱の主な原因は、巻線が動いたときに発生する摩擦熱、エポキシ樹脂が割れたときに発生する熱エネルギーである。
【0003】
そこで、クエンチを防止するためにエポキシ樹脂を予め含浸させたプリプレグシートを巻線の各層に介在させて巻線を一体化することが提案されている(特許文献1参照)。これはエポキシガラスプリプレグシート(絶縁テープ30)を介して、超電導素線2及びヒータ線3を積み重ねて巻枠15に巻回する。巻回後、加熱してエポキシガラスプリプレグシートからエポキシ樹脂を流動化させ、超電導線表面を濡らした状態で硬化させる。エポキシ樹脂を硬化させることにより超電導線相互が強固に結合し一体化するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−161521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した特許文献1記載のものは、エポキシガラスプリプレグシートを介して超電導線を積み重ねるため、これらを加熱しても、超電導線相互が強固に結合する部分は超電導線の全表面ではなく、プリプレグシートと接触している上部または下部表面のみである。超電導線の左右表面は、超電導線間に生じる隙間が残されたままで、この隙間にはエポキシ樹脂の流動化はなく、超電導線表面を濡らした状態で硬化させることもない。このため超電導線相互の一体化においてまだ改善の余地があった。
【0006】
本発明の目的は、超電導線相互をより強固に結合して一体化することが可能な永久電流スイッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施の態様によれば、
永久電流スイッチの製造方法であって、
電気絶縁被覆を施したNbTi超電導線の外周に編組電気絶縁被覆を施して超電導素線を作製する工程と、
前記電気絶縁被覆と同種の電気絶縁被覆を施したステンレス線の外周に前記編組電気絶縁被覆と同種の編組電気絶縁被覆を施してヒータ線を作製する工程と、
前記超電導素線と前記ヒータ線とを巻枠に巻回して超電導巻線を形成する工程と、
前記超電導巻線間に生じる隙間に前記編組電気絶縁被覆と同種のヤーンを巻いて前記隙間を埋める工程と、
前記ヤーン及び前記編組電気絶縁被覆を樹脂で含浸する工程と、
前記樹脂を硬化させて前記超電導巻線相互を結合する工程と、
を含む永久電流スイッチの製造方法が提供される。
【0008】
本発明の他の実施の態様によれば、
電気絶縁被覆を設けたNbTi超電導線の外周に編組電気絶縁被覆を設けてなる超電導素線と、
前記電気絶縁被覆と同種の電気絶縁被覆を設けたステンレス線の外周に前記編組電気絶縁被覆と同種の編組電気絶縁被覆を設けてなるヒータ線と、
前記超電導素線と前記ヒータ線とを巻回して超電導巻線を形成する巻枠と、
前記超電導巻線間に生じる隙間を埋めるヤーンと、
前記ヤーン及び前記編組電気絶縁被覆に含浸されて硬化され前記超電導巻線相互を結合させる樹脂と、
を備えた永久電流スイッチが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、超電導線相互をより強固に結合して一体化することができるので、従来のものと比較してクエンチ電流が向上し、安定した性能を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態の永久電流スイッチの巻線部の断面構成図である。
【図2】比較例の永久電流スイッチの巻線部の断面構成である。
【図3】本発明の実施の形態の永久電流スイッチの等価回路図である。
【図4】本発明の実施の形態の永久電流スイッチの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の一実施の形態について述べる。
【0012】
超電導マグネットなどで使用される通常のNbTi超電導線は、超電導材料であるNbTiと、安定化材と呼ばれる極低温で電気抵抗が非常に低い高純度銅や高純度アルミニウムとを複合化した構造を有する。高純度銅等の電気抵抗が低い安定化材を使用する理由はクエンチして電気抵抗が発生した時に、安定化材に電流をバイパスさせて超電導線の焼損を防止するためである。ここで、クエンチとは超電導状態(電気抵抗ゼロ)から常電導状態に遷移することである。NbTiは臨界温度(約9.5K)以下では電気抵抗が完全にゼロだが、常電導状態ではステンレス並みの比抵抗を示し、約10K(−263℃)での比抵抗は高純度銅の約1000倍に達する。
【0013】
しかし、PCSで使用されるNbTi超電導線は、超電導材料であるNbTiと、電気抵抗が非常に高い金属材とを複合化した構造を有するようになっている。PCSの複合化構造において電気抵抗が高い金属材を使用する理由は、超電導マグネットを永久電流モードで運転するときはPCSで超電導マグネット端子間を短絡させるようにするが、常電導状態ではPCSに電流が流れないようにして、超電導マグネット端子間を開放させることが要求されるからである。
【0014】
図4に示すように、PCS5は、一般的に超電導素線3とヒータ線2とを共巻きしながら巻枠6に巻き付けて超電導巻線7を形成し、この超電導巻線7をエポキシ樹脂等で含浸して硬化させ、超電導巻線相互を結合した構造を有する。
【0015】
図3にPCS5の等価回路図を示す。PCS5は、超電導素線3とヒータ線2とから構成される。超電導素線3は引出線4を介して図示しない超電導マグネットの両端に接続され、PCS5として開閉操作の対象となる線路を構成する。ヒータ線2は、このヒータ線
2に電流を供給するスイッチ用直流電源1に接続される。
【0016】
PCS5がOFF状態のときは、スイッチ用直流電源1からヒータ線2に電流を流して超電導素線3を故意に発熱させ、超電導素線3を常電導状態とする。これにより上記開閉操作の対象となる線路が開放される。OFF状態でPCS5に高い電気抵抗が要求される理由は、超電導コイルに通電してこれを励磁運転する際に、PCS5を高抵抗状態にしておかないと、電流がPCS5側に流れてしまい、大きなインダクタンスを有する超電導マグネットに流れにくくなり、結果として超電導マグネットが所定の磁場を発生できなくなってしまうからである。
【0017】
PCS5がON状態のときは、ヒータ線2への通電を断って、超電導素線3を臨界温度以下に冷却して超電導状態とする。これにより電流が超電導コイル、引出線4、超電導素線3を含む回路を流れ続けて永久電流モードに移行する。PCS5の理想的な状態は、ON状態では電気抵抗ゼロ、OFF状態では高い電気抵抗を発生させることである。
【0018】
よって、PCS5に用いられるNbTi超電導線には安定化銅の代わりに、銅よりも100倍以上電気抵抗の高い銅合金が用いられる。その代表的な合金としてCu−Ni合金がある。例えばCu−10wt%Ni合金の10Kにおける比抵抗は約1.2×10−7Ω・mであり、同じ温度における高純度銅に比較して約500〜1000倍高い。
【0019】
前述のように超電導線は外部から熱じょう乱を受けると超電導線の温度が上昇してクエンチが発生する。熱じょう乱の原因としては、電磁力により巻線が動いたときに発生する摩擦熱や、エポキシ樹脂が割れたときに発生する熱エネルギーが代表的である。超電導マグネットが冷却されている液体ヘリウム温度(4.2K)レベルでの物質の比熱は室温の1/100〜1/1000に低下するため、わずかな発熱でも物質の温度は上昇しやすい。
【0020】
超電導線の安定性を評価する指標として、熱じょう乱により発生した常電導部が拡大する最小の常電導部の長さ「最小伝播領域;MPZ(Minimum Propagating Zone)」があり、以下の式で表わされる。
MPZ={2k(Tc−T0)/(Jρ)}1/2 …(1)
【0021】
ここで;k;熱伝導率(W/m・K)、Tc;臨界温度(K)、T0;冷却温度(K)
、J;線の電流密度(A/m)、ρ:マトリックスの電気抵抗率(Ω・m)
【0022】
式(1)に安定化銅の温度4.2Kにおける熱伝導率kと電気抵抗率ρ、NbTiのTc=9.5K、冷却温度T0=4.2K、J=500A/mmを入力して計算するとM
PZ=11.7mmとなる。一方、Cu−10%Niの熱伝導率と電気抵抗率を入力すると0.023mmとなる。Cu−10%Niを用いたPCS素子用超電導線のMPZが銅を用いた通常のNbTi線に比較して極めて小さいことが分かる。
【0023】
これは、Cu−10%Niを用いたPCS素子用超電導線では、非常に低いエネルギーで超電導線がクエンチしてしまうことを示している。言い換えれば、巻線の動きによる摩擦熱やエポキシ樹脂割れ等によるわずかな熱じょう乱により容易にクエンチしてしまうことになる。
【0024】
そのためPCSには、わずかな熱じょう乱でもそれが生じ難い構造が要求される。以下にそのよう一実施の形態のPCSについて具体的に説明する。
【0025】
(永久電流スイッチ素子)
図1に超電導巻線の詳細図を示す。
図1に示すように、本実施の形態の永久電流スイッチ素子は、電気絶縁被覆を設けたNbTi超電導線14の外周にポリエステル編組電気絶縁被覆13を設けてなる超電導素線3と、前記電気絶縁被覆12と同種の電気絶縁被覆12を設けたステンレス線11の外周に前記ポリエステル編組電気絶縁被覆13と同種のポリエステル編組電気絶縁被覆13を設けてなるヒータ線2とを備えている。
更に、前記超電導素線3と前記ヒータ線2とを巻回して超電導巻線7を形成する巻枠6と、前記超電導巻線7間に生じる隙間を埋めるヤーン17と、前記ヤーン17及び前記ポリエステル編組電気絶縁被覆13に含浸されて硬化され前記超電導巻線7相互を結合させるエポキシ樹脂16と、を備えている。
【0026】
図1の形態では、超電導巻線7は、ヒータ線2と同径の超電導素線3を密に配置したものである。NbTi超電導線14は、例えば、Cu−30%NiマトリックスのNb−Ti超電導線であり、安定化銅の代わりに銅合金を含んでいる。
【0027】
電気絶縁被覆としては、ポリビニルホルマール、ポリエステル、エポキシ、ポリイミド、ポリイミドエステル、ポリアミドイミド、ポリイミドヒダントイン、無機ポリマー等のエナメルや、これらエナメル上にガラスやポリエステル、ケブラー(ポリパラフェニレンテレフタラミドのデュポン社商品名)、アルミナ等の繊維を巻回しワニス処理したもの等を用いる。また、編組電気絶縁被覆としては、繊維状材料に樹脂を浸漬させた構成のものを用いる。具体的には、電気絶縁被覆と同種の材料で構成したもの、例えば、ポリエステルヤーンにエポキシ樹脂を含ませたポリエステル繊維、若しくは、ガラス繊維などを用いる。
【0028】
また、ヤーン17は、編組電気絶縁被覆と同種の材料、例えばポリエステル繊維またはガラス繊維で構成されているとよい。ヤーン17とポリエステル編組電気絶縁被覆13を同種の材料とすることで、樹脂により超電導素線3及びヒータ線2をより確実に結合することができ、PCSのクエンチを一層防止できる。
【0029】
また、樹脂としてはエポキシ樹脂の他に、フェノキシ、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ポリビニルプチラール等の接着材ないし融着材を用いることができる。
【0030】
(永久電流スイッチ素子の製造方法)
本実施の形態の永久電流スイッチ素子の製造方法は、NbTi超電導線14の表面にエナメル電気絶縁被覆12を施し、そのエナメル電気絶縁被覆12の表面にポリエステル編組電気絶縁被覆13を施して超電導素線3を作製する工程と、ステンレス線11の表面にエナメル電気絶縁被覆12を施し、そのエナメル電気絶縁被覆12の表面にポリエステル編組電気絶縁被覆13を施してヒータ線2を作製する工程と、前記超電導素線3と前記ヒータ線2とを前記巻枠6に巻回して超電導巻線7を形成する工程とを含む。さらに、前記超電導巻線間に生じる隙間に前記ポリエステル編組電気絶縁被覆13と同種のヤーンを巻いて前記隙間を埋める工程と、前記超電導素線3の前記編組電気絶縁被覆13、前記ヒータ線2の前記ポリエステル編組電気絶縁被覆13、及び前記ヤーン17を未硬化のエポキシ樹脂16で含浸する工程と、前記エポキシ樹脂16を硬化させて前記超電導巻線7同士を結合するとともに該超電導巻線7を前記巻枠6にする工程と、を含む。
【0031】
超電導巻線7間に生じる隙間は環状に形成されるので、その隙間を埋めるためのヤーンは隙間に環状に巻かれる。隙間にヤーン17を巻いて隙間を埋める工程は、次のように実行される。まず、巻枠6上に1層目の巻線を形成する前に、1層目の巻線を巻いたときに巻枠6上に生成される隙間予定領域にヤーン17を巻回して、この隙間予定領域をヤーン17で埋める。それから、巻線予定領域に1層目の巻線を巻く。次に、1層目の巻線の上
から1層目の巻線と、予定されている2層目の巻線との間に形成される隙間領域にヤーン17を巻回して、この隙間領域をヤーン17で埋める。このようにして巻線を層単位で巻いていく毎に、ヤーン17を巻回して、巻線間に生成されたる隙間を埋めていく。
【0032】
その後、ヤーン17を巻回した隙間及びポリエステル編組電気絶縁被覆13にエポキシ樹脂16を真空加圧含浸させる。その後、PCS全体を加熱炉に入れ樹脂を加熱して硬化させる。ポリエステル編組電気絶縁被覆13及びヤーン17は、エポキシ樹脂16が染み込んで、一種の繊維強化型プラステック(FRP)のように硬くなる。これによって超電導巻線7間及び超電導巻線7が巻枠6に強固に結合したPCS素子が得られる。
【0033】
(実施の形態の効果)
本発明の実施の形態によれば次の一つ又は二つ以上の効果を発揮する。
【0034】
(1)本実施の形態によれば、超電導素線及びヒータ線の外周は編組電気絶縁被覆で覆われ、編組電気絶縁被覆にエポキシ樹脂が流動化して、超電導巻線表面を濡らした状態で硬化させる。編組電気絶縁被覆の存在により超電導巻線相互が結合される部分は超電導巻線の全表面となるため、超電導巻線相互がより強固に結合して一体化する。したがって、外部熱じょう乱の発生源である超電導巻線の動きやエポキシ樹脂割れを防止できる。その結果、プリプレグシートを介在させる従来のものと比較してPCSのクエンチ電流が向上し、安定した性能を発揮できる。
【0035】
(2)本実施の形態によれば、超電導巻線間に生じる隙間はヤーンで埋められ、隙間にエポキシ樹脂が流動化して、超電導巻線表面を濡らした状態で硬化させる。超電導巻線間に生じる隙間はヤーンの存在により超電導巻線と強固に結合されるため、超電導巻線相互がより強固に結合して一体化する。したがって、外部熱じょう乱の発生源である超電導巻線の動きやエポキシ樹脂割れを防止できる。その結果、プリプレグシートを介在させる従来のものと比較してPCSのクエンチ電流が向上し、安定した性能を発揮できる。
【0036】
(3)本実施の形態によれば、編組電気絶縁被覆した超電導素線3及びヒータ線2を巻線し、かつ、超電導巻線7の隙間に編組電気絶縁被覆材料と同種のヤーン(ポリエステル繊維またはガラス繊維)17を巻線することで隙間を埋めたのち、エポキシ樹脂16を含浸して超電導巻線相互を固定している。したがって、編祖電気絶縁被覆と隙間を埋めたヤーンに樹脂がしみ込んで樹脂割れを防止するとともに、樹脂の強度が増して巻線の動きもより確実に防止でき、樹脂割れや巻線の動きに起因するPCSのクエンチを防止できる。
【0037】
(4)本実施の形態によれば、ポリエステル編組電気絶縁被覆13及びヤーン17にエポキシ樹脂16が染み込んで、一種の繊維強化型プラスチック(FRP)のように硬くなることで、超電導巻線相互をより強固に結合して一体化することができる。
【0038】
(5)本実施の形態によれば、超電導素線3及びヒータ線2は、電気絶縁被覆12で絶縁されている上に更にポリエステル編組電気絶縁被覆13で絶縁されているので、二重に電気絶縁されていることになり、PCSの電気絶縁特性が向上する。その結果、PCSのクエンチ電流が向上し、安定した性能を発揮できる。
【0039】
(6)本実施の形態によって作製したPCSは、従来例のものと比較してクエンチ電流が向上し、安定した性能を示すため、超電導マグネットの信頼性が大幅に向上する。
【0040】
(変形例)
本発明は以上説明した実施の形態の限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常に知識を有する者により可能である。
【0041】
例えば、上述した実施の形態では、エナメル電気絶縁被覆を施しているが、電気絶縁は樹脂を含浸した編組電気絶縁被覆で確保できるため、エナメル電気絶縁被覆を省略してもよい。
【0042】
また、超電導素線及びヒータ線は、エナメル電気絶縁被覆12で絶縁した上に更に編組電気絶縁被覆13を施して構成されているが、超電導素線及びヒータ線の電気絶縁は、エナメル電気絶縁被覆12で確保しているので、編組電気絶縁被覆は非電気絶縁の編組被覆としてもよい。
【0043】
また、ヤーンを用いて超電導巻線間に生じる隙間を埋めるようにしたが、ヤーンを用いず、隙間をエポキシ樹脂のみで埋めるようにしてもよい。
【0044】
また、上述した実施の形態では超電導素線やヒータ線は断面円形の丸線であることを前提としている、断面矩形の平角線を用いることも可能である。この場合、巻線間の隙間が小さくなるので、隙間にヤーンを埋め込む必要がなくなり、編組電気絶縁した平角線を巻線するだけで済む。
【0045】
また、上述した実施の形態では、編組電気絶縁被覆に、後にエポキシ樹脂を含浸させるようにしたが、編組電気絶縁被覆を、その編組電気絶縁被覆にエポキシ樹脂を予め含浸させておいて、プリプレグ被覆として用いるようにしてもよい。またヤーンに、後にエポキシ樹脂を含浸させるようにしたが、エポキシ樹脂を含浸させたヤーンを用いるようにしてもよい。
【実施例】
【0046】
(実施例)
図1に示す構造の永久電流スイッチを次のような条件下で作製した。これをPCS−2と呼ぶ。
【0047】
PCS用超電導線材として、絶縁前の線径が1mmのCu−10%NiマトリックスNbTi超電導線に50μm厚さのエナメル絶縁を施し、更に、その上に100μm厚さのポリエステル編組電気絶縁被覆を施し、線径1.31nmのものを用意した。
【0048】
ヒータ線として、上述したPCS用超電導線材と同じ線径の編組電気絶縁被覆した線径1.3mmのステンレス線を用意した。
【0049】
用意したPCS用超電導線材とステンレス線を約50mステンレス製の巻枠に共巻きして超電導巻線を形成した。巻線作業において超電導巻線の隙間には編線材料と同じポリエステルヤーンを巻いて隙間を埋めた。
【0050】
巻枠に巻回した超電導巻線を真空容器中に入れ、真空状態で脱気したエポキシ樹脂を注入したのち、大気圧に戻し、その後、エポキシ樹脂に浸したPCSを圧力容器に入れて10気圧に加圧しながらエポキシ樹脂を硬化させてPCSとした。
【0051】
(比較例)
比較例のPCSを次の条件で作製した。これをPCS−1と呼ぶ。
【0052】
比較例が実施例と異なる点は、ポリエステル編組電気絶縁被覆を施していない点、及び隙間にポリエステルヤーンを巻いていない点である。
すなわち、PCS用超電導線材として、絶縁前の線径が1mmのCu−10%Niマト
リックスNbTi超電導線に50μm厚さのエナメル絶縁を施し、線径1.1mmとしたものを用意した。ヒータ線として、PCS用超電導線材と同じ線径のエナメル絶縁した線径1.1mmのステンレス線を用意した。上記PCS用超電導線材とヒータ線を約50mステンレス製の巻枠に共巻きした。
【0053】
巻線を真空容器中に入れ、真空状態で脱気したエポキシ樹脂を注入したのち、大気圧に戻し、その後、エポキシ樹脂に浸した素子を圧力容器に入れて10気圧に加圧しながらエポキシ樹脂を硬化させてPCSとした。
【0054】
PCS−1、PCS−2を液体ヘリウムで冷却し、通電試験を10回ずつ行い、クエンチ電流を測定した。その結果を表1に示す。
【表1】

【0055】
比較例PCS−1の平均クエンチ電流は372.7Aだったのに対し、実施例のPCS−2の平均クエンチ電流は470.6Aであり、クエンチ電流が97.9A向上した。また、比較例PCS−1のクエンチ電流値のバラツキに比較して、実施例のPCS−2素子のバラツキが小さく、安定した性能を示すことが分かった。
【0056】
また、PCS−1、PCS−2に対して、通電電流を370Aに保持した状態で長時間の連続通電試験を行った。PCS−1は約3時間後にクエンチしたが、PCS−2は2日間(48時間)連続通電してもクエンチしなかった。
【0057】
編組電気絶縁や隙間に入れたポリエステルヤーンにエポキシ樹脂がしみ込んで、一種の繊維強化型プラスチック(FRP)のようになることで、樹脂割れが発生しにくくなり、その結果、クエンチ電流が向上したものと考えられる。
【0058】
(付記)
以下に本発明の望ましい態様について付記する。
【0059】
本発明の一態様は、
NbTi超電導線の外周に編組電気絶縁被覆を施して前記超電導素線を作製する工程と、
ステンレス線の外周に前記編組電気絶縁被覆と同種の編組電気絶縁被覆を施して前記ヒータ線を作製する工程と、
前記超電導素線と前記ヒータ線とを巻枠に巻回して超電導巻線を形成する工程と、
前記編組電気絶縁被覆を樹脂で含浸する工程と、
前記樹脂を硬化させて前記超電導巻線相互を結合する工程と、
を備えた永久電流スイッチの製造方法である。
【0060】
本発明の他の態様は、
電気絶縁被覆を施したNbTi超電導線の外周に編組被覆を施して前記超電導素線を作製する工程と、
前記電気絶縁被覆と同種の電気絶縁被覆を施したステンレス線の外周に前記編組被覆と同種の編組被覆を施して前記ヒータ線を作製する工程と、
前記超電導素線と前記ヒータ線とを巻枠に巻回して超電導巻線を形成する工程と、
前記超電導巻線の前記編組被覆を樹脂で含浸する工程と、
前記樹脂を硬化させて前記超電導巻線相互を結合する工程と、
を備えた永久電流スイッチの製造方法である。
【0061】
本発明の他の態様は、
電気絶縁被覆を施したNbTi超電導線の外周に編組被覆を施して前記超電導素線を作製する工程と、
前記電気絶縁被覆と同種の電気絶縁被覆を施したステンレス線の外周に前記編組被覆と同種の編組被覆を施して前記ヒータ線を作製する工程と、
前記超電導素線と前記ヒータ線とを巻枠に巻回して超電導巻線を形成する工程と、
前記超電導巻線間に生じる隙間に前記編組被覆と同種のヤーンを巻いて前記隙間を埋める工程と、
前記ヤーンと前記編組被覆とを樹脂で含浸する工程と、
前記樹脂を硬化させて前記超電導巻線相互を結合する工程と、
を備えた永久電流スイッチの製造方法である。
【0062】
本発明の別な態様は、
電気絶縁被覆を設けたNbTi超電導線の外周に編組電気絶縁被覆を設けてなる超電導素線と、
前記電気絶縁被覆と同種の電気絶縁被覆を設けたステンレス線の外周に前記編組電気絶縁被覆と同種の編組電気絶縁被覆を設けてなるヒータ線と、
前記超電導線と前記ヒータ線とを巻回して超電導巻線を形成する巻枠と、
を備えた永久電流スイッチである。
【0063】
好ましくは、前記超電導巻線間に生じる隙間に該隙間を埋めるヤーンが設けられて構成されている。
【0064】
また好ましくは、前記ヤーン及び前記編組電気絶縁被覆がエポキシ樹脂で含浸されており、該エポキシ樹脂の硬化により前記超電導巻線相互が結合されて構成されている。
【0065】
また好ましくは、前記ヤーンが前記編組電気絶縁被覆と同種の材料から構成されている。
【0066】
本発明のさらに他の態様は、
電気絶縁被覆を設けたNbTi超電導線の外周に編組電気絶縁被覆を設けてなる超電導素線と、
前記電気絶縁被覆と同種の電気絶縁被覆を設けたステンレス線の外周に前記編組電気絶縁被覆と同種の編組電気絶縁被覆を設けてなるヒータ線と、
前記超電導線と前記ヒータ線とを巻回して超電導巻線を形成する巻枠と、
前記超電導巻線間に生じる隙間を埋めるヤーンと、
前記ヤーン及び前記編組電気絶縁被覆に含浸されて硬化され前記超電導巻線相互を結合
させる樹脂と、
を備えた永久電流スイッチである。
【0067】
好ましくは、前記編組電気絶縁被覆がポリエスエル繊維またはガラス繊維で構成されている。
【0068】
また、好ましくは、前記ヤーンがポリエステル繊維またはガラス繊維である。
【符号の説明】
【0069】
2 ヒータ線
3 超電導素線
5 永久電流スイッチ(PCS)
6 巻枠
7 超電導巻線
11 ステンレス線
12 エナメル電気絶縁被覆
13 ポリエステル編組電気絶縁被覆
14 NbTi超電導線
16 エポキシ樹脂
17 ヤーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁被覆を施したNbTi超電導線の外周に編組電気絶縁被覆を施して超電導素線を作製する工程と、
前記電気絶縁被覆と同種の電気絶縁被覆を施したステンレス線の外周に前記編組電気絶縁被覆と同種の編組電気絶縁被覆を施してヒータ線を作製する工程と、
前記超電導素線と前記ヒータ線とを巻枠に巻回して超電導巻線を形成する工程と、
前記超電導巻線間に生じる隙間に前記編組電気絶縁被覆と同種のヤーンを巻いて前記隙間を埋める工程と、
前記ヤーン及び前記編組電気絶縁被覆を樹脂で含浸する工程と、
前記樹脂を硬化させて前記超電導巻線相互を結合する工程と、
を含む永久電流スイッチの製造方法。
【請求項2】
電気絶縁被覆を設けたNbTi超電導線の外周に編組電気絶縁被覆を設けてなる超電導素線と、
前記電気絶縁被覆と同種の電気絶縁被覆を設けたステンレス線の外周に前記編組電気絶縁被覆と同種の編組電気絶縁被覆を設けてなるヒータ線と、
前記超電導素線と前記ヒータ線とを巻回して超電導巻線を形成する巻枠と、
前記超電導巻線間に生じる隙間を埋めるヤーンと、
前記ヤーン及び前記編組電気絶縁被覆に含浸されて硬化され前記超電導巻線相互を結合させる樹脂と、
を備えた永久電流スイッチ。
【請求項3】
前記編組電気絶縁被覆がポリエスエル繊維またはガラス繊維で構成されている請求項2に記載の永久電流スイッチ。
【請求項4】
前記ヤーンがポリエステル繊維またはガラス繊維である請求項2または3に記載の永久電流スイッチ。
【請求項5】
前記樹脂がエポキシ樹脂で構成されている請求項2ないし4のいずれかに記載の永久電流スイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−26535(P2013−26535A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161648(P2011−161648)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】